●リプレイ本文
●ニューカマーズ始動
「榊 那岐(
gb9138)です。よろしくお願いします」
能力者となってから初めての実戦となるため、やる気は十分だ。
「メンバーの中で新人は僕だけ‥‥かな?」
「いぇ〜い! ネージュ(
gb9408)も初依頼〜♪ ジックリ楽しんでこ〜♪」
と明るい口調が応じる。
依頼内容が示すとおり、実際の参加者は依頼経験が数回という新人が多かった。
「薫さんのことは妹から聞いているであります。今後は妹になり変って教鞭をとることになるのでよろしくなのであります」
美空(
gb1906)の口にした『教鞭』を聞き逃したのか、橘薫(gz0294)は気さくに応じていた。適度におだててくれる美空の妹には好意を抱いているためか、彼女にも同じような応対をしている。
カレン・ベル(
gb9446)は無能な味方を問題視する性格だったが、最初から敵意を招くのは無意味と考え、進んで薫と挨拶を交わしていた。
(「生意気で英雄気取りの奴って、あいつか〜」)
事前情報を耳にしているエイミ・シーン(
gb9420)はやや呆れ気味に薫を眺めていた。
「キャンディー食べる? みんなの分もあるんだよ〜」
ネージュが尋ねると、若いメンツはありがたく受け取っていく。
「私も持ってきてるから、お返しね」
自前のガムを取り出したエイミもお裾分けする。
キメラへの接触を前に、彼らは再度打ち合わせを行っている。
「分散するのは効率が良いでありますが、キメラの戦力が強力な場合は危険な場合もあるであります」
美空の言葉にルナフィリア・天剣(
ga8313)が頷いた。
「全員で纏まって周辺を捜索しつつ進攻するべきだな。突出せずに連携して、1体ずつ撃破していこう。撤退条件は重傷者2名、または全体平均生命が3割まで減少というところか」
これに異を唱えたのは薫だった。
「撤退なんて考えなくてもいいんじゃない? 負けたりしないしね」
雑な反論を受けたルナフィリアが思わず怖い目で睨みつける。
見かねて堺・清四郎(
gb3564)が口を挟んだ。
「全体の意志を統一するために、撤退条件を決めるのは当然だ。お前ひとりで仕事をするわけじゃないんだぞ」
不満そうに唇を尖らせたものの、薫は引き下がった。
「実戦経験の浅いお前らには強敵だろう。気を引き締めていけ。長期戦となることも考えられるから、調子に乗ってスキルを使いすぎるなよ」
清四郎に続いて、アーシェリー・シュテル(
gb2701)が話を締めくくるように、皆に注意を促した。
「皆様、一つだけ聞いて欲しいであります。チーム戦は連携が大切であります、連携を乱して単独行動し仲間を危険にさらして得た手柄など、なんの価値もないということを心に留めておいて欲しいであります」
皆が真剣な顔で頷いた。一応、薫も。
「あれ?」
薫の目の前で、那岐は手にした装備を全て確認していく。
「装備の点検は基本だから、それを疎かにはできません。あなたはしないんですか?」
「僕は少ないからね。銃だけは新しく買ってきたけど」
以前の依頼で銃を持つように忠告されたことを覚えていたようだ。それでも携行品が少ないのは確かだったが。
「僕は新人として、先輩達の足を引っ張らないようにしたいんです」
「ふーん」
興味なさそうに応じるも、薫はスコーピオンを取り出して弾倉をつけたりはずしたりと動作確認をしてみた。
「俺の今回の役割は引率だ、援護は期待するなよ?」
「大丈夫だって。僕だって傭兵として経験を積んでるんだし」
清四郎が念を押しても、薫は軽く受け流す。
「そろそろ『ニューカマーズ』出陣なのです」
美空がチーム名を口にして皆を促した。
「うっし、みんなの役に立つようにガンバるか〜」
ノリ気なエイミと違って、薫が文句は不満そうだ。
「そのチーム名だと、ぺーぺーの新人みたいだ」
その場にいた全員が内心ではつっこんでいたと推測できるが、実際に口を開いたのは美空だけだ。
「近い将来に台頭する人材という意味を込めて、名づけたであります」
そう聞かされて、薫が満足そうに頷いた。相手が美空でなかったらもう少し愚痴っていたかもしれない。
●鹿キメラ遭遇編
「新人たちと一緒に依頼か‥‥。今までベテランばかりで殆どフォローしてもらって怪我をしてなかったな。今回あいつには痛みで覚えてもらうか」
「実戦経験があるのは確かですし、それを活かそうとするのは悪いことではないのです」
清四郎や美空が、先行する新人達を眺めて思考を巡らせる。
ベテラン勢の見守る中、彼らは最初の敵と遭遇しようとしていた。
「鹿ってことはさ。キメラだけど角を粉末にして使えるかな。‥‥肉は食べれるのかな?」
「しっ」
素朴な疑問を口にするエイミは、カレンの制止を耳にして、すぐに表情を改めた。
「見つけたよ」
彼女の双眼鏡が2体のキメラを捕らえていた。
「よし」
気の逸っていた薫は、皆が止める間もなくキメラへ向かって走り出す。
接近を気づかれた薫はナイフを受け止められ、逆に角による一撃を受けてしまった。
左側面にいたもう1体のキメラは、カレンのアンチシペイターライフルが接近を阻む。
薫が挟撃されないよう、那岐がもう一体に降魔杵を叩きつけた。重い斧の刃と鹿の大きな角が攻撃を応酬する。
両手に小銃『S−01』を装備したネージュが彼のカバーにまわる。
那岐とネージュについてはなんの危なげもなく戦闘を進めていた。
右側のキメラと対峙している薫は、カレンとエイミが補佐する。
しかし、薫が後方を気にしていないため、彼の体が幾度かカレンの射線をふさぐこととなった。
眉を顰めたものの、支援を放り出すわけにもいかず、カレンは移動を繰り返しながら銃撃を加えていく。
きんと甲高い金属音が鳴り、『あっ!?』と驚きの声が漏れた。
薫のアーミーナイフを、鹿キメラの角がひっかけてへし折ったのだ。
慌てた薫がとっさに後方に退くと、鹿が攻勢に出た。大きな角で小柄な薫の体をはじき飛ばす。
援護すべく、エイミの拳が飛んできた。超機械のロケットパンチが鹿キメラを殴り飛ばした。
カレンが援護射撃のスキルでサポートしたことで、薫はかろうじて鹿キメラの追撃を避けた。
回避に成功したことで気を良くしたのか、銃に持ち変えて引き金を引く。
彼がとどめを刺せたのは、多分に幸運が味方したためであった。
2体のキメラを葬ると、薫はどかっと蹴られていた。
「アンタさ、チームって何か分かってる?」
仲間を無視したような行動に記憶を刺激され、エイミは怒りをあらわにしている。
「アンタってホントガキね、何焦ってんのか知らないけど一人で出来るとか思って、それで周りに迷惑掛けて‥‥さ」
「うまく倒せたんだし、うるさく言うことないだろ。失敗なんてしてないんだから」
真実そう考えているのか、薫がふてくされているようだ。
睨んでいたルナフィリアがずかずかと歩み寄る。言葉ではなく行動で示そうと考えていた彼女だったが、彼の態度に苛立ちを覚えたらしい。
「慢心と過信は自滅の種だぞ?」
「キメラに勝ったのは事実じゃないか。慢心なんかじゃないよ」
同年代の助言に対して薫は反射的に応じてしまう。
ルナフィリアの目に剣呑な光が灯ると、それを察したアーシェリーが彼女をなだめる。
「落ち着くであります。まだキメラはいるはずですし、周囲への警戒を優先しましょう」
ルナフィリアが退かないようなら、小脇に抱え込んでも止めるつもりだった。アーシェリーがそう考えていることがわかって、ルナフィリアは渋々口をつぐんだ。
「怯まずに戦えたのは良かったと思うです。でも、敵は分散を狙っているかもしれないでありますよ? 集中した方が不測の事態に対処しやすいと美空は考えるでありますよ」
ほめて伸ばす方針の美空だったが、それでも修正をすべく助言を行っていた。
●鹿キメラ決戦編
北西側に位置する新たな2体と戦闘に突入する。
先ほどと同じく、左側のキメラは那岐が押さえていた。
多少の疲れが出たのか、回避が遅れた那岐はバックラーでキメラの角を受け流した。
彼が隙を突かれないように、ネージュが後方からガンガン射撃を行って敵の自由な攻撃を許さない。
「角に防がれそうだから、首の辺りや胸を狙うね〜」
ネージュの言葉に肯いて、那岐も狙いを集中させる。
チャンスと見た那岐は身体を回転させると、遠心力を活かして斧を振り回す。
大きな角を弾きながら首筋へ刃が潜り込んだ。
血しぶきを上げてキメラが倒れる。
薫の火星に回ろうとしたふたりだったが、森の奥から3体のキメラが姿を現したため断念するしかなかった。
戦況の不利を悟り、後方の4名も動き出した。
「ルナお嬢様、行くであります」
リンドヴルムが唸りを上げて走った。
「前に出過ぎると危ないのでお下がりをお願いするであります」
薫に忠告しつつ駆け抜けたアーシェリーが、両手のロエティシアをキメラの鼻先に命中させる。
「アーシェ」
主人の合図を耳にしてバックステップすると、ガトリング砲の銃弾がキメラに降り注いだ。
「私の戦いは邪道であり特殊なので真似するなよ?」
特注品の銃籠手『AXDIA』を構えるルナフィリアが忠告する。彼女が見せたかったのは、異形の獲物などではなく、従者と共に繰り出す連携攻撃なのだ。
突進してアーシェリーを退けた鹿キメラの攻撃を、ルナフィリアは銃剣で受け止める。
「連なり曲がる刃なら折れまい‥‥」
口にしたとおり武器は壊れたりしなかったが、体重の軽い彼女は武器ごと投げ飛ばされてしまた。
彼女を援護すべく、アーシェリーは竜の咆哮を用いてキメラを弾き飛ばし、主のための時間を稼ぐ。
美空や清四郎が参戦しているのを確かめ、ルナフィリアは仲間を気にかける必要がないと判断。眼前の敵に集中しようと決断する。
「‥‥では解体タイムだ」
宣言した彼女は両断剣を発動させ、重量級の銃籠手を叩きつけた。
目の前の敵を倒せば終わると考え、ネージュは温存していた練力を惜しみなく使うことに決めた。すでにリロードを終えていた彼女は、強弾撃の使用と同時に3発の銃撃を連続して叩き込む。
さらに別方向から、ミカエルに身を包んだ美空が大口径ガトリング砲による攻撃を加えていた。
二人の援護を受けて接近した那岐が斧による攻撃を繰り出す。斧での攻撃に慣れさせておいて、抜刀・瞬を使用する。
引き抜かれたソードブレイカーが円の軌道を描きながらキメラに斬りつけた。
「援護するよ〜」
ネージュの援護射撃が彼に力を与えた。
振り上げた降魔杵は、2本の角の間を抜けて、真上からキメラの頭をかち割っていた。
間合いに入られてしまった薫は幾度となくキメラの角をくらっていた。
果ては、彼の身体が角で持ち上げられ、エイミやカレンの銃撃を控える抑止力になってしまう。
遠距離攻撃を主体とするふたりは、薫の身体を避けてキメラを狙うしかなく、どうしても攻撃の手が鈍ってしまう。
「おい、歯ぁ食いしばれ」
告げると同時にキメラの懐へ飛び込んだ清四郎が、引き抜いた蛍火を脇腹へと突き立てた。
「うわぁぁぁっ!?」
キメラが暴れた拍子に、角から飛ばされた薫が地面を転がった。
「下がっていろ! ‥‥しゃおらぁ!」
薫への注意をそらすためにも、清四郎は足を止めて代わりに前衛を務める。
射線が確保できると、カレンがすかさず強弾撃を叩き込む。
蛍火で鹿の角を受け止めた清四郎だったが、刀身がきしむ音に気づき、すかさず剣の柄を手放していた。
飛び退いた彼をフォローするために、エイミのロケットパンチがキメラの頭部に炸裂する。
真デヴァステイターを引き抜いた清四郎が、紅蓮衝撃で強化した一撃でキメラの息の根を止めていた。
●その顛末
ダメージの大きい薫から治療しようとしたエイミだったが、一歩早かった清四郎に任せることにした。
「少しはわかったか? お前が今まで無事だったのは周りの大人がいたからだという事が。銃を使うなら不要に近づく必要もないだろう。大切なのは間合い、そして退かない心。‥‥前にも言ったはずだ。この言葉を胸に刻んでおけ」
ふてくされたような薫をおいて、清四郎はアーシェリーの治療へ向かう。
「ねえ、どうして無茶するの? きみのせいで皆が危険に晒されたんだよ」
カレンの指摘を受けて、薫が不機嫌そうに返す。
「前衛を務めてるのが僕と那岐しかいなかったからだよ」
薫は皆のために危険な役を引き受けたと言いたいらしい。
「覚悟は立派だけど、できることできないことはわきまえるべきだね」
客観的な判断を下すカレンに、思わず薫が反論する。
「それでも戦うのが能力者じゃないか」
その言葉を聞いて、清四郎は口を挟まずにいられなかった。
「能力者はな、ヒーローじゃねえんだ! お前一人の力で出来ることなんて限られてんだよ! 難しいならまず仲間を頼れ! それすら理解できないのなら家に帰って指でもしゃぶってろ!」
「チーム行動を取らなかったのはそっちだろ!」
自分の突出を棚に上げて仲間を非難する薫に、ルナフィリアとカレンが同時に思った。
(「駄目だこいつ。早くなんとかしないと」)
代表して清四郎が怒鳴りつける。
「いい加減にしろ! お前のミスでお前が死ぬのはまだいい。だが、お前のミスで仲間が死んだらお前は責任を取れるのか?」
「危険だったのは、他の誰かじゃない! 僕の方だ!」
「それはお前が無謀な行動を取るからだ!」
「違うっ!」
「‥‥なに?」
「僕が危険な目にあったのはみんなが動かないからだ! 戦えるのに戦おうとしなかった! 仲間を危険にさらしたのはあんたたちの方だ!」
薫の指摘は皆の盲点を突いていた。
そもそも、今回の依頼の要点は『安全に試練を与えること』だったのだが、その事情は当人に伏せてある。彼にとっては意地悪をされたという認識なのだろう。
また、同年代から幾度もたしなめられたことが、彼の反発を招いていたのだ。
「‥‥手を貸すのが遅れて悪かったのです。ボクもみんなも、薫さんを苦しめるつもりなんてないのです。薫さんなら大丈夫だって信頼していたのです」
一番好意的に対応していた美空が謝罪する。今の薫に反論しても、状況が悪化するだけだと感じたからだ。
年下の少年に対して那岐も言葉を添えた。
「叱ってくれるのは期待してるから。僕達はまだまだヒヨコだよ。叱られて怒鳴られて、その上で生き残って一人前になろう。一緒にね」
ふたりの言葉に頷きはしたものの、すねた様な態度は変わらない。
(「あれじゃあ、私達の言葉は聞いてくれないだろうね」)
エイミは『友人になろう』と声をかけるタイミングを逃してしまったようだ。
かくして、依頼人の条件に沿って仕事を達成できたものの、その結果は依頼人の思惑を大きくはずれてしまった。
迷走しそうな橘薫の明日はどっちだ?