タイトル:ULTまつり 秋マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/08 21:14

●オープニング本文


「夏のULTまつりで、季節ごとの特徴を出した方がいいってアイデアが出たんだ。やってる内容が毎回同じだと飽きられるだろうし、季節限定ってのは人の興味を引けるはずだろ?」
「そうねぇ‥‥。変化をつけるのも、期間限定っていうのも、いい注目点だと思うわ」
 次回のULTに関する方針に、しのぶも頷いてみせる。
「それで、ハロウィンでもやることにしたの?」
「ハロウィンは本人の仮装がメインだし、ULTまつりには向かない気もするんだよな。日本だと何かあるか?」
「芸術の秋、食欲の秋、スポーツの秋とか‥‥」
「まずくはないけど、それは秋限定って言えるのか?」
 首を捻るマルコに対して、しのぶは苦笑を浮かべて応じる。
「過ごしやすい気候っていうのも理由でしょうね。食欲については、収穫時期だから美味しい食材があるからだと思うわ」
「もっと、秋ならではっていうのは?」
「それなら‥‥」

 参加者を相手にマルコが概要を告げる。
「今回のULTまつりでは、『月見』をテーマにしようと思う。そこで、今回の参加者には兎の扮装をしてもらう。『バニーガール』がメインだけど、いろいろと問題のある人間は『兎のヘアバンド』で妥協する。今回の参加者には、兎関連のお土産を配るつもりだから、何がいいか検討しておいてくれ。
 今回分の資料も作成しているから、詳しい内容はこっちに目を通して欲しい」



『ULTまつり 秋』イベント概要
開催場所:市営運動公園。
開催時間:13時〜22時。
今回のテーマは『月見』。
巨大モニターでリアルタイムの月面画像を上映する。
○項目のうち2つは担当する事。

◎ウサギの扮装
◎俳句展示
○KV実機展示
○体験談、SES兵器紹介。
○裏方業務
○屋台
○餅つき
○甘味処『能力者』

当日AMに、会場設営。
当日PMに、イベント実施。
翌日、片づけ後に、昼食をかねて打ち上げ会。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
要(ga8365
15歳・♀・AA
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

「早速お手伝いに来ました。今回もよろしくお願いします」
「ああ。よろしくな」
 浅川 聖次(gb4658)との挨拶もそこそこに、マルコ・ヴィスコンティ(gz0279)は目立つふたりに近づいた。
 ピンクの鳥の着ぐるみに兎のヘアバンドをつけた火絵 楓(gb0095)と、ガスマスクを装着してウサみみをつけた紅月・焔(gb1386)である。
「楓は可愛いからいいとして、焔のガスマスクは何なんだ?」
「はずした方がいいのか?」
「ああ」
「だが断る」
「‥‥それが言いたいだけだろ」
「俺がバニー姿をするよりはマシだと思うが?」
「それは勘弁してくれ。ガスマスクは許可するから」
 そんな会話をしていると、バニーガールに着替えた女性陣が姿を現した。
 鯨井昼寝(ga0488)はまさにバニーガールといった出で立ちだ。
 フィルト=リンク(gb5706)はバニースーツを避けて、黒白ストライプシャツにロングベスト、黒プリーツスカートと黒白ストライプガーターソックス。フォーマル風に纏めていた。
 問題はその隣。
「公衆の面前で、10歳のお子様がバニーガールの衣装を着ているという、何か法律に引っかかりそうなパフォーマンスだねー」
 自覚があるのか、アーク・ウイング(gb4432)が笑顔で口にした。
 彼女の指摘はもっともで、マルコとしても想定外だった。アークのサイズは準備してなかったのだが、彼女は自前で準備して来たらしい。
「アークは無理にバニーガールをしなくてもいいぞ」
「無理はしてないよー」
「でも、法律に引っかかるかも‥‥」
「ひっかかってないよね?」
「く‥‥」
 マルコがちらりと要(ga8365)へ視線を向ける。
 要も14歳なので、バニーガール姿をさせるには微妙な年齢だった。マルコの意図を察したのか、子供扱いされたと感じて要が頬を膨らませる。
「アークもまた一人前の傭兵なんだ。本人が希望するなら、子供扱いすべきではないと思うがね」
 UNKNOWN(ga4276)がアークの肩を持った。ダンディズムを追求し、タキシードでびしっと決めているものの、黒いシルクハットの上で黒いウサみみが揺れていた。
「マルコさんはバニーじゃないんですか? 楽しみだったのに」
 要の無茶振りにマルコが驚く。
「ほ、本気か? 『容姿による制限アリ』に抵触するから無理だぞ。それに、公私混同で却下する」
「マルコさんならきっとお似合いですのにー」
「だが断る」

●俳句展示

『ふたつきよ 赤き悪意に 白き希望を』 作:UNKNOWN
『バグアにも 奇人変態 かなりいる』 作:アーク・ウイング
『秋の夜も 愛車と共に キメラ討つ』 作:浅川 聖次 『注、聖次はドラグーンのため、愛車とはAU−KVを指している』
 等々。
 今回の参加者達の詠んだ俳句が、短冊に書かれて会場の一角で展示されている。
 来場者達はあーでもない、こーでもないと論評していた。
 俳句を趣味にしている人間や、才は無くとも積極的に参加したがる人間が、備え付けられた短冊にあらたに書き込んでいった。

●『秋祭り あなたのそばに 能力者』 作:マルコ・ヴィスコンティ

「こんばんは。お困りでしたら、遠慮なく仰って下さい」
 笑顔で話しかける聖次は本人の雰囲気もあって話しかけやすい。
 コーナーに関する質問を受けたら、調べておいた事前情報を元に説明する。
 もめ事にぶつかると、それぞれの言い分を聞いてなだめる。
 迷子らしい子供を見かけると、会場入り口近くまで案内する。
「いらっしゃ〜い♪ 楓ちゃんの小部屋にようこしょ〜」
 迷子を出迎えるのは、鳥の着ぐるみを着た楓である。
 泣いている子供相手には適任といえるだろう。
「あ‥‥。聖次さんもだったんですね」
 視線を向けると、迷子の手を引いたフィルトの姿があった。
「またまた、お仲間が来たじょ〜」
 楓が反応を示すと、子供達も楽しそうに迷子を受け入れる。
「さあ! みんな遠慮せずあたしと遊びまくろうじゃにゃいか!」
 一緒になって、厚紙に描いているのは蝶々の絵だ。
 楓だけは蝶々型アイマスクを作っていたが、誰もその点に触れようとしなかった。

●『大切な 人守る為 強くなる』 作:フィルト=リンク

「傭兵としての仕事はいろいろな種類があるよー。このULTまつりもそうだけど、KVを使った花火大会とかねー。持ってきた機体はその時にも使ったんだよ」
 バニーガール姿はおいておくとしても、愛らしいアークに子供達から素直な質問が飛ぶ。
「どっちのけーぶい?」
「スマートな方だよー」
「KVがなくても戦えるのー?」
「そうだよ。こんな武器を使ってるんだー」
 彼女が取り出したのは、持参した超機械α。
「あまり、武器っぽくなーい」
「そうだよねー。ここから敵に向かって電磁波が出るんだよ」
 超機械αを指さしていたアークが、あることを思いつく。
「そうだ。ちょうど良いし、今から覚醒して見せるね」
 アークの瞳が金色になり、頭頂部の髪の毛の一部がアンテナのように立った。
「なんとか太郎みたい」
「この髪はアンテナみたいだけど、アンテナじゃないよー」
 苦笑しながらアークがポーズを実演する。
「こうやって戦うんだよー。たー、って」

●『秋到来 いつにもまして 食欲が』 作:要

 フィルトと要の発案で、店名は月見をイメージさせる『月兎亭』に決定した。
 厨房に入るフィルトが考え、ウェイトレスの要が確認した、和風で餅を題材としたメニューは下記の通り。

・お汁粉
・白玉フルーツ餡蜜
・月見団子
・イチジク団子
・うさぎ苺大福
・うさぎアイス大福
・飲み物各種

 彼女たちが準備万端整えた『月兎亭』に、さっそく客が訪れた。それを出迎える店員の声。
「どうも〜。ホム奴どすえ〜。いらっしゃいどす」
 和服にガスマスク姿の焔を見て、客が一歩下がった。
「バグアじゃなから、怯えないでおくれやす」
 弁解しつつ間合いを詰める焔に、客はさらに後退する。
「いい加減にしてください!」
 さすがに要が割って入った。
「焔さんは皿洗いをお願いします。客が怖がりますから」
「‥‥むぅ」
 フィルトの指示に、焔は渋々ながら従った。
 入れ替わりに要が対応する。
「フィルトさんの作ってくださったおいしいデザートを、ぜひ楽しんでいってくださいね」
 バニーガールに、ポケットつき前掛けエプロンという愛らしい姿が、若干ヒキ気味だった客の心をつなぎ止める。
『月兎亭』は大盛況だったが、人手が足りずに大忙しだ。
(「今回はつまみ食いなんて絶対にしないのです。絶対にですよ!」)
 と要は自身の欲望と戦っていたものの、そんな暇すらなかった。
 要だけでは手が足りないため、餅つきコーナーからやってきた参加者達は、かわいそうだがガスマスクに対応してもらった。

●『旻天を 貫き機影 彼方へ彼方へ』 作:鯨井昼寝

 会場内に立つ2機のKV。どこかの公園にある実物大模型とは違って本物だ。
「この機体はK−111改。愛称は『けーいちさん』あるいは『けーぞーさん』だ」
 UNKNOWNが見上げたのは自身と同じ名をつけている、漆黒に塗装された機体だ。
「嘘だー」
「こんな、けーぶい見たことないよ」
 子供達から不満そうな意見があがる。
「既に入手難しいロートル機でね。私は五大湖大規模から乗り続けている。ちょっと無茶な機体ではあるが浪漫がある」
 もう1機は、アークのシュテルンだ。
「無改造の機体でも能力値のバランスが良く、汎用性の高い強化システムのPRMシステムと垂直離着陸能力によって、空でも陸でも活躍できるポテンシャルを秘めています」
 UNKNOWNにしろアークにしろ、戦場を共にした愛機には格別の思い入れがあるため、語り口も自然と誇らしげだった。
「アーちゃん‥‥自分のシュテルンは特に攻撃と命中を強化しています」
 一人称を訂正しながら、アークが機体の説明を追加する。
 自機に乗り込んだ彼女は安全を確認しながら、変形を実演してみせた。
 同じく変形させていたUNKNOWNは、目を輝かせてこちらを見ている少年に声をかける。
「動かす事は駄目だが膝上に乗せ座ってみるかい?」

●『秋祭り ぼくもあなたも 地球人』 作:マルコ・ヴィスコンティ

 会場入り口にULTの受付が設置されており、来場者に熱心に声をかけている。
「では、こちらをお持ちください」
 要が渡しているのは、検査会場案内と『能力者ノススメ』である。
「適正検査だけでも受けてくださいね」
 地道な作業だが、長い目で見た場合ULTを支える仕事とも言えるだろう。
 子供達の笑い声が聞こえてくるのは、意外にも迷子センターからだった。
 昼寝の発案した『うさぎのお絵描きコーナー』で、レンタルペットで借りた2羽のウサギをモデルに、子供達がクレヨンでお絵描き中なのだ。
「お。なかなか上手く描けたじゃない! じゃあお姉さんが飾ってあげるからね」
 お姉さん役はもちろん昼寝である。
 大きなボードには、これまでの迷子達の作品が張り出されており、来場者の目も楽しませていた。
 一休みしようとした要が、フィルトの持たせてくれたうさぎ苺大福を取り出す。物欲しそうに見ていたのを気づいていたらしい。
「あー‥‥ん?」
 そんな彼女を見つめる、子供達の目。
「‥‥えーと、食べたい?」
「うん!」
 楽しみにしてたおやつを子供達に奪われて、要は涙目である。

●『金色で 秋を彩る 稲の道』 作:フィルト=リンク

 返し手を行うUNKNOWNが臼の傍らに立つと、聖次が杵を持ち上げる。
「日本人として、下手な餅つきは見せられませんね」
 ぺったん、ぺったん。
 ふたりで呼吸をあわせながら進める餅つきが、徐々にスピードを増していく。
 ぺたぺたぺたぺた!
 この時、安全を図るためにもUNKNOWNは覚醒していた。彼は覚醒による変化はないため、傍目ではまったく気づかれない。
 ふたりの高速餅つきが終了すると、来場者から拍手と賞賛が与えられた。
「紳士淑女の方々‥‥。この兎めと、餅をついてみないかね?」
 UNKNOWNがウィンクしながら、もうひとつの臼を指さして来場者を誘う。
 餅つきが始めてという人間には、UNKNOWNと聖次が丁寧に教えてやった。
「私も懐かしいですね。幼い頃に実家の方で餅つきの経験がありますので」
 親子連れと会話しながら、聖次本人も餅つきを楽しんでいる。
「手首を痛めないように、杵の持ち方には手をつけるんだ」
 忠告したUNKNOWNはジャズを口づさみながら水うち管理を行う。
「つきたての餅をすぐに楽しみたいなら、きなこ、砂糖醤油、納豆はここに準備してある」
「あちらの甘味処へ餅を持っていけば、お汁粉などで更に美味しく頂けますよ」
 UNKNOWNと聖次が説明に、分けられた餅を手に来場者が笑顔を浮かべる。
 ちなみに、餅を手にした人間の中には要も混じっていた。
 つきたての餅を食べたくて休憩時間にやってきたのだ。砂糖が多めの砂糖醤油で堪能して彼女は満足そうだ。

●『バグアかと 間違えられた この一年』 作:紅月・焔

「んー、こっちから何やら良いにおいがする‥‥ッ!」
 匂いに誘われて昼寝が屋台までやってきた。
「らっしゃい! 何にしあすか? おすすめはこのサルミアッキですゼ!」
「サルミアッキ?」
 楓の客寄せに昼寝が首をかしげた。
「北欧でメジャーなお菓子だよ〜。ひとつどうかにゃ〜?」
 その割にマイナーな事実を警戒し、昼寝は話題を変えた。
「‥‥他には何を置いてるの?」
「おでん、メンマ、ミニ楓ちゃん焼き、トマト茶、メンマ汁、面、蝶々のマスク‥‥」
「なんか、奇妙なものが多いわね。ミニ楓ちゃん焼きの中身はなんなの?」
「中身はヒミチュ♪ 食べてからのお楽しみだよ〜」
 ちなみにぽに楓ちゃん形のお焼きの中身は、あんこ・クリーム・チーズ・メンマ・サルミアッキ・山葵のどれかである。まとめて作成しているため、作った本人にもどれが当たるかわからない。
「‥‥おでんにするわ」
 一番無難な選択をされ、楓は少し悔しそうだ。
「昼寝さんは休憩中かな?」
「じっとしているのもつまらないので、会場内の巡回よ。うさぎの格好をしていれば、スタッフであることは一目瞭然のハズだし、犯罪抑止の意味でもいろんなところに顔を出すのは有効だもの」
 おでんを平らげて、彼女は気持ちを切り替える。
「さーて、それじゃお仕事お仕事っと」
 立ち去った昼寝と入れ替わりに、別な見回りがやってきた。
「およへ? そこにおわすわマルちんでないか?」
「マルちんって俺の事か?」
「親しくなったらあだ名で呼ぶようにしてるんだよ〜。だから、マルちんにはミニ楓ちゃん焼きを差し入れよう」
「どれどれ」
 ほおばった口中に充満する得も言われぬ味。彼はサルミアッキに的中した。
「食べ物を粗末にしたら苦情がくるよ〜。スタッフが美味しく頂かないと」
 根性で飲み込んだマルコが宣言する。
「‥‥これは店売り禁止」
「好意を仇で返された!?」
 今度は楓が涙する番だった。
「さすが! 見事な腕前だね!」
 その声は射的屋から聞こえてきた。
「どうやら‥‥、今の一撃で俺も射止められたようだ。‥‥さあ、持って行くが良い!」
 焔が親しげな態度で女性客に迫っている。
 顔というか、ガスマスクが原因で忌避されているのに、彼は気づいていないらしい。あるいは意図的に無視している。
「あれを止めてくれ。実力行使でいいから」
「わかったのだ」
 駆け寄った巨大な鳥が勢いを殺さずにドロップキックをかますと、ガスマスク人間の身体が軽く吹っ飛んだ。
「悪人はこの楓ちゃんが許さないんだよ〜」
 着ぐるみ姿をアトラクションと見たのか、近くの来場者から拍手が起こった。
 楽しそうに笑顔で応える楓とは対照的に、地に伏している焔。
「‥‥無念」

●『見えずとも 永久に瞬く 星あることを』 作:UNKNOWN

「名残惜しいですがちゃきちゃき片付けましょう」
 繊細な作業はあんまり得意じゃないらしい要は、片づけの方が向いているかもしれない。アークと一緒に小さな身体で率先して重い荷物を担いでいた。

 フィルトが余り物で作ってくれた料理をつまみながら、責任者と参加者8名が互いを労う。
「子供の頃、月を見上げてはどこに兎がいるのかと妹と探し合ったものです」
「実はお月見って初めてなんです。最近は戦闘ばかりでしたから、たまには息抜きもいいですね」
 聖次の言葉に、フィルトが穏やかな表情でつぶやいた。
「お疲れ様でした。次回は雪合戦、でしょうか?」
 聖次に話題を振られてマルコが改めて考える。
「そうだな。ネタを考えておかないと」
「キャンプファイヤーやりたいです。でもまた夜になっちゃうからダメかなぁ‥‥」
「俺は夏のイメージがあるんだけど、冬でもやるもんかな?」
 冬に向けて、あれこれとアイデアを出し合う。
 それを眺めながらUNKNOWNは思う。
(「皆、笑顔でいるのが一番だ。冬に限らず、――未来のために、な」)