●リプレイ本文
●合流
「薫か‥‥。ULTまつりで話題にしたが、実際に会うのは久しぶりだ」
堺・清四郎(
gb3564)はつい先日、薫に関する体験談を語ったのだ。これも縁と言えるかもしれない。
「不安要素が彼だけなら、面子的にも仕事に影響はなさそうね」
百地・悠季(
ga8270)が軽く応じる。
「はにゃー、新人さんですかー。何か問題ある人みたいですけど、皆で仲良くお仕事をしたいのですよー」
シェリー・クロフィード(
gb3701)が頬をかきながら、付け足した。
「‥‥ボクも経験が豊富って訳じゃありませんけどねー」
彼等が合流した時、すでに別な人間が薫と挨拶を交わしていた。
「美海(
ga7630)であります。今回もよろしくお願いするのであります、薫先輩」
「ん〜? 能力者になったのは美海の方が先なんだし、先輩っておかしくない? それなら薫さんでいいよ」
寛容そうに応じるものの、彼の方から『美海先輩』と呼ぶ気はないらしい。
「チョリーッス!」
容貌も態度もチンピラ風な少年が近づいてきて一行に挨拶する。
「‥‥なに、こいつ?」
眉をひそめた薫の顔めがけて、少年は『夢Qキーック』と言いつつケンカキックをくらわせた。
赤くなった鼻を押さえて涙の目の薫に、美海が紹介する。
「植松・カルマ(
ga8288)さんであります」
「俺ナメられるの嫌いなんで」
というのが蹴っ飛ばした理由らしい。
全員が揃ったところで蛇穴・シュウ(
ga8426)が地図を広げると、美海が薫の意見を求めた。
「薫さんなら平地と峠道のどちらを選ぶですか?」
「やっぱり、平地ルートじゃない? 峠道だと死角が多いし危険だからね」
美海の心配を余所に、戦闘を望むような返答はこなかった。
「荷の安全確保が最優先なので、薫さんの判断は正しいと思うであります」
薫の意見を重用しているかのように、美海が熱心に持ち上げる。
それを横目に、シュウはルート上の注意点や、休憩地点について皆の意見を調整する。
「‥‥それで、大丈夫だと思う」
幡多野 克(
ga0444)に同調するように、薫が大きく頷いた。
「こんな小さな仕事で、ヘマなんてするはずないしね」
そこへ悠季が釘を刺す。
「そうね。だったら、皆の迷惑になったら罰ゲームね」
「の、望むところさ」
●1班
「まったくおしめも取れないガキの子守込みとはな。頭痛いぜ。せめて俺たちの脚だけは引っ張らないと良いんだがな」
きこえよがしにつぶくやくAnbar(
ga9009)に、薫がむっとなる。これは薫でなかったとしても当然の反応だろう。
「僕よりも年下なんだし、そっちの方がガキじゃないか」
かみついた薫を鼻で笑うと、Anbarが携帯品の予備の銃と双眼鏡を薫に押しつけた。
「任務を受ける前に、どういう仕事かきちんと判断して装備を揃えてから仕事に来いよ。その程度も出来なくて傭兵を名乗ろうなんて百年早いぜ」
「べ、別に思いつかなかったわけじゃないさ。どうせ誰か持ってくるんだし‥‥」
苦しい言い逃れをする薫に、Anbarが冷ややかな視線を向ける。
「‥‥双眼鏡は‥‥あった方がいいよ。仕事のために‥‥ね」
克の助言を受けて、薫は渋々それを受け取った。
彼等が乗り込むのは、先頭を走るジーザリオだ。
持ち主である克が運転を担当し、助手席にはカルマが腰を下ろす。
「ふみゅ‥‥狭いのです」
シェリーを挟んで、後部座席の両サイドにふたりの少年が乗り込んだ。
車を運転しながら、克が話題を振った。
「‥‥橘さんは‥‥傭兵の経験は‥‥どのぐらい、かな?」
「まだ数ヶ月だけど、キメラの退治だってしたし、この前のシェイド討伐にも参加してるよ」
強い口調で告げるのは、経験不足を自覚しているからだろう。
「‥‥護衛の経験はある?」
「ないけど、楽なもんでしょ。周り見て、敵が来たら倒すだけだし」
薫の脳天気な発言に、Anbarが指摘する。
「倒すんじゃなくて、襲われないようにするんだよ!」
「心配性なんだよ。大群に挑むわけじゃなく、荷物を運ぶだけだろ」
難民上がりのAnbarとしては聞き逃せないセリフだった。
「幸せなおつむをしているガキだぜ、まったく! いいか! 人間は生きていく以上いろんなモノが必要となるんだ。食い物に着る物に燃料、どれが欠けても満足な生活が送れなくなるって事も判らないのか?」
「物資が必要な事ぐらいわかってるさ!」
自分の両脇で言い合うふたりに、シェリーが頭をかかえる。
後部座席の喧噪をよそに、カルマは通信機で後方の車と定時連絡をかわしていた。
「今回の荷物だって、届け先には必要なモノだぜ。それくらい理解しろよな」
「そんなに言うなら、お前は好きなだけ護衛してればいいだろ! 前線よりも大事な補給の護衛をさ!」
「まあまあ‥‥」
ヒートアップした薫をシェリーがなだめる。そのために緩衝材として間に座っているのだ。
「仲間同士で揉めるのは任務に悪影響ですよー。折角、一緒にお仕事をする仲間なんですし、みんなで仲良くしましょー♪」
そう言うと、水筒に持参したお茶を紙コップに注いでみんなに振る舞った。
「14歳なら‥‥華々しく活躍したいのは‥‥分かる気もする‥‥。だけど‥‥俺達は選ばれた存在なんかじゃない‥‥。決して‥‥」
克が忠告するのは、薫が戦う事の危険性を自覚しているように見えないからだった。
●2班
後学のために、薫だけチーム替えをする予定だったが、傭兵達が説得するまでもなかった。
休憩地点で、薫本人が2班を望んだからだ。
最後尾を走るジーザリオでも、持ち主の悠季がハンドルを握っている。
「あんなのでも能力者かよ。もっと自覚を持つべきじゃないか」
薫がぼやくのは、カルマの容貌や態度についてだ。当人と同乗していたため、これまでは言えなかったらしい。
「彼とは何度か仕事をご一緒しましたが、ナイスガイですよ」
個人的に親しいらしく、シュウがフォローする。
「あれじゃあ、品がないよ。能力者ってのはもっと優れた人間であるべきだしね」
能力者である事に誇りを感じる薫は、能力者の評判を落としそうなカルマの言動が不満らしい。最初に蹴られたのも理由の一つだろう。
「夢Qキーック♪」
「痛っ!?」
カルマの代理のつもりか、隣に座るシュウが薫の脛を軽く蹴っ飛ばした。
「能力者は咎だと私は思ってるけどね」
悠季がつぶやくものの、経験の浅い薫にその真意は伝わらなかったようだ。
「2班を望んだのは、1班ではなにかあったからか?」
清四郎が話題を変えると、薫はAnbarとの会話を愚痴りだした。
「‥‥とかって、いちいち口うるさいんだよ。あいつは」
「耳煩いだろうけど、強くなれる人は大抵聞き上手なのよねぇ」
悠季が独り言のようにつぶやいた。
「親という良い例があるみたいだし、その辺の話を聞いてみたら?」
「親なんて関係ないだろ」
反射的に親へ反発を見せるあたり、まだまだ子供と言うしかない。
清四郎が直接的にたしなめる。
「この荷を運ぶのも、その父親の仕事なのだろう? これを届けなれば何人も人が死ぬことになるかもしれないんだ。お前にとっても父親にとっても立派な仕事だ」
「一見地味な任務でありますが、戦時の補給線と考えるとその重要性は薫さんも解ると思うのですよ。どんなに薫さんが強くても御飯が食べられないと力出ないですよね?」
「‥‥ふん。わかってるさ。そのくらい」
美海にまで言われて、ふてくされたように薫が応じる。
「どうやら‥‥、現れたようですね」
シュウの言葉に、後部座席の人間が後ろを振り向き、前方のふたりはフェンダーミラーを覗き込んだ。
「キメラの出鼻を挫けば、上手く追い返せるでしょう」
「姉から借りて来たこれを、鼻っ面に叩き込むであります」
シュウの言葉に応じて、左側に座る美海がM−121ガトリング砲を構えた。
「倒してしまえばいいじゃないか」
薫がそう主張する。
「戦って障害を排除するのも一つの手でありますが、場合によっては逃げるのも有効であります。荷物が無事ならば、無用の危険を冒すべきではないであります」
美海に続いて、シュウが告げた。
「私だってやれるものなら好きなだけ暴れたいですが、それだと死にます。この右目は伊達じゃないんですよ」
シュウは右側に座っていたため、普段は髪で隠されている右目の傷跡が薫にも見えた。
「慎重に越した事は無いんです。ね?」
「‥‥い、言われなくたってわかってるよ」
●先陣
「‥‥護衛を優先して、‥‥キメラは振り切る‥‥か?」
「銃撃で追い払って、逃げ切るッスよ!」
2班からの連絡に対して、克が提案し、カルマが賛同する。
「いや。そうもいかねぇようだ。前にもいやがる」
探査の眼で警戒していたAnbarは、めざとく進行方向のキメラを確認した。
「ちっ。挟み撃ちとは獣のくせにやるじゃないッスか」
「この車は突っ切れるだろうが、トラックが襲われて横転したら被害はでけぇぞ」
「それに走行中に狙い撃つのは難しいですよー」
シェリーの言葉に克が頷いた。
「‥‥走行する方が危険なら、‥‥停車して迎え撃とう」
検討する時間の猶予もないため、克が即座に前言を撤回する。
カルマがもう1台へ連絡し、一団はスピードを落として静かに停車する。トラックの運転手達は不安だろうが、ここは耐えてもらうしかない。
4人の傭兵が下車すると、待ち伏せしていた豹キメラ達が身を起こす。
敵の攻撃を待ったりせず、カルマのフォルトゥナ・マヨールーが、Anbarのドローム製SMGが、克とシェリーの小銃『S−01』が、キメラに向けて銃弾を吐き出していく。
その射線を縫うように、5匹のキメラが傭兵に接近を試みた。
「もぉーっ! チョコチョコ動き回ってないでやられちゃってくださいなのですよーっ!」
シェリーの叫び声に応えたはずもないが、1匹は辿り着くこともできずに倒れた。
右側の豹キメラに対して、AnbarはSMGの弾幕を張って接近を拒む。
シェリーは先手必勝と瞬天速を使用して、初撃を加える事に成功した。
両手にそれぞれ握る双斧『花狐貂』で牽制し、攻め込む隙を与えない。あわよくば、脚を狙って動きを封じるつもりだ。
左側に回り込もうとしたキメラは、カルマが追った。
正面から挑んできたキメラの牙を克は月詠で受け止め、切っ先を翻してキメラの背中に斬りつける。
少ない応酬の末に、克は流し斬りと豪破斬撃を併用した。豹キメラの牙をかわすと、月詠の白刃が豹の毛皮を切り裂き、キメラの筋肉を断ち斬った。
彼はすかさずAnbarとシェリーの援護に回る。
●決着
後方からの5匹も傭兵が応戦していた。
「俺たちの任務は物資の護衛だ、ここでキメラ何匹殺そうが物資を届けれなければ負けだ」
逸りがちな薫に、清四郎が念を押す。
「わかってるさ」
即座に返す辺り、余計に皆の不安を煽る。
「美海達がすべきは、キメラの接近を許さぬ事であります」
ガトリング砲を振り回す美海に促されて、薫もカルマから預かったスコーピオンを発砲する。
「バグア相手は興奮しちゃう性分でね」
シュウは覚醒によって戦意が過剰になるのだが、優先すべき事を理解しているため、強引に攻め込むのは避けた。
小銃『S−01』で弾丸をばらまいて、キメラの接近を阻む。
悠季は両断剣で強化したガトリングシールドで弾幕を張る。強引に攻め込むキメラには、持ち替えたアーミーナイフで流し斬りを叩き込んだ。
清四郎は低い体勢で迫るキメラの背に、紅蓮衝撃を発動して蛍火の切っ先を突き立てる。
4人がキメラに応戦する中、たてがみのあるキメラが回り込んだのを薫は見た。
「あいつは僕が‥‥」
進み出ようとした薫は、何かが倒れた音で振り向いた。
カルマの流し切りと両断剣を受けたキメラが倒れた音だ。
駆け寄った彼は、薫の襟首を捕まえて後ろに投げ捨てる。
「周りを見とけや。こいつがお前を狙ってたんだからよ」
それはカルマが前方から追ってきたキメラだった。
「もう倒したんだからいいだろ。それより、あいつを‥‥」
「お前、まさか自分が今死なないと思ってンのか?」
カルマは薫に銃口を突きつけると、押しとどめる為に足元へ向けて発砲した。
ふたりのやりとりを隙と見たのか、カルマに向かってキメラが迫る。
間合いに踏み込むなり、カルマは両断剣と流し斬りを乗せてソニックブームを放っていた。
手負いのキメラがカルマに跳びかかり、爪や牙で傷を負わせる。
薫が横腹に銃弾を撃ち込むが、キメラはものともしない。
一際高かく銃声が鳴ったのは、清四郎がアサルトライフルで銃撃を加えたからだ。
横殴りに弾け飛んだキメラを追って、カルマがスキルを同時使用してガラティーンを走らせると、首筋から大量に血を噴き出してキメラが絶命した。
ボスを失ったためか、生き残っていた1匹が脱兎のごとく走り出した。
防戦を主体にしていた悠季達であったが、それでも3匹を始末する事に成功していた。1班の方では全滅させたため、これが最後の生き残りである。
思わず追いかけようとした薫を制止する、悠季とシュウの声。
「深追いはしない方がいいわ」
「今回の最優先は『護衛』。殲滅ではありません」
不満そうな薫だったが、さすがにひとりで追いかけるとまでは言い出さなかった。
「怪我をした人は私が治療するわよ」
自身の傷は活性化で治療済みの悠季が、救急セットを掲げて見せる。
結果的に無傷の薫はどこか自慢気である。前回の仕事で無傷だったのも清四郎のおかげだが、のど元過ぎて忘れてしまったようだ。
薫の態度に肩をすくめながら、清四郎は治療中のカルマに一言だけ忠告する。
「例え脅しでも、仲間に銃口を向けるのはやめておけ。事故の元だ」
「‥‥うぃーッス」
●到着
無事に任務を果たした傭兵達は、橘運送の運転手と、届け先の市庁舎職員からお礼を告げられた。
「これを返しておくよ」
薫が小銃と双眼鏡をAnbarに返却する。
「お、お前のために使ってやったわけじゃないぞ。別に感謝なんてしないからな」
とつまらない意地を張りながら。
「これなら、キメラを倒さなくても、仕事は達成できたかもしれませんねー」
経緯を振り返ったシェリーがつぶやく。
「ちぇっ‥‥。俺だって‥‥」
薫が悔しそうなのは、自分の手でキメラを倒せなかったからだろう。
「派手な戦いだけが戦争じゃない。彼等に感謝されても理解できないのか?」
「‥‥‥‥」
清四郎に続き、克が諭す。
「手柄を立てないと‥‥自分を認めてもらえないと‥‥思ってる‥‥? よく‥‥周囲を見たほうがいい‥‥。皆‥‥橘さんの事‥‥こんなに思ってる‥‥。それに気付かなければ‥‥たぶん‥‥死ぬよ」
むくれつつも、薫はなにやら考え込んでいた。
橘薫の成長はまだまだこれからだ。第2話・完。
橘薫の次の成長にご期待ください。