タイトル:夏の渚のヌルヌルヌルマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/20 07:24

●オープニング本文


 夏の砂浜と言えば何を連想する?
 私ならキメラ退治ね。
 ‥‥前回とおなじ切り出し方で申し訳ないんだけど、今回も同じなんだから仕方ないじゃない。
 戦場となるのは砂浜‥‥。正しく言うと、昆布浜ね。
 昆布が異常繁殖して、海底を埋め尽くしている砂浜があるの。
 原因はそこに生息しているキメラみたいね。群生しているコンブを巣にしているのよ。
 共生関係っていうのかしら。キメラの分泌液が昆布の成長を促進させているみたい。
 この昆布が以外と上質なため、漁業関係者としてはぜひ収穫したいんだけど、問題となるのがキメラの存在ってわけ。
 形状はイカ。イカキメラの中には数が少ないけど、タコキメラも混じっているらしわ。
 この依頼には一つだけ条件があって、昆布を傷つけないで欲しいって要望が出ているの。
 そこで、昆布を傷つけないように裸足で戦う事。昆布の表面がヌルヌルして大変だと思うけど頑張ってね。
 同じ理由から、釣り竿を使うのも禁止よ。
 今回は海水浴を楽しむのが難しいと思うけど、イカとタコなんだしきっと美味しいわよ。
 頑張って退治してきてね。

 オペレーターからの情報は以上である。

●参加者一覧

雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
天城・アリス(gb6830
10歳・♀・DF
ソウィル・ティワーズ(gb7878
21歳・♀・AA
月島 瑠璃(gb8001
14歳・♀・FC

●リプレイ本文

●依頼者がいて

「それにしても、昆布優先だなんてめんどくさい依頼人よねー」
「まったくだわ。キメラは倒して欲しいけど昆布は傷付けるな!? どんな我侭だってのよ、儲かったら一割寄越せ!」
 月島 瑠璃(gb8001)とソウィル・ティワーズ(gb7878)が口を揃えて愚痴っていた。
 大なり小なり、今回の参加者達に共通する感情である。誰だって、仕事に余計な手間をかけたくはないだろう。
「でも、そのおかげでいろいろと融通してもらえましたよ」
 天城・アリス(gb6830)としては、こちらの要望に応えてもらえたのがありがたかった。
 漁師達が魚の調理に使っているコンロや調理器具を貸してくれたのだ。
 他にも、キメラ退治用の小道具もいくつか。
 8人の傭兵達は手分けして荷物を担ぎ、キメラの出没する昆布浜までやってきた。

「ずいぶん、派手なのね」
 百地・悠季(ga8270)が指摘したのは、赤一色のアリスの服装だ。
「キメラが餌だと勘違いして近づいてくるかなと思いまして」
「なるほどねぇ。それは考えなかったわ」
 悠季の水着はオレンジのワンショルダーセパレート。
「でも悠季さんの水着は凄く似合っていますよ」
 自慢の水着を誉められて、彼女は嬉しそうだ。
「空は青い! 海は‥‥何かちょっとどす黒いわね。昆布の所為かしら?」
 漏らしたソウィルと共に、MAKOTO(ga4693)が海を眺めた。
「ホント、凄いよね。キメラの分泌液で成長促進させたから上質なのか? それともこの浜で取れるから上質なのか? どっちなんだろうね〜〜?」
「この砂浜だけって話だから、キメラのおかげじゃないのか。だから昆布にこだわるんだろう」
 自信の推測を交えて雪ノ下正和(ga0219)が答える。
 夜十字・信人(ga8235)は不機嫌そうに海へはいる準備を進めていた。
「依頼者はキメラ戦の過酷さを知らぬのか」
 エアタンクを肩に担ぎ、
「それとも、昆布すら利用したいほど生活が苦しいのか」
 腰のベルトにアロンダイトを吊って、
「‥‥先方の事情は分かりかねるが、人間より、昆布優先とはね。まあ、それが任務というなれば、とやかくは言わんさ」
 その態度は、自らの仕事に誇りを持つプロフェッショナルそのもの。
 しかし、彼のカバンには水鉄砲やビーチボールが入っており、実は遊ぶ気マンマンなのだ。
「イカとタコ退治か、これでエビが出たら昔の怪獣映画だな」
 昔の有名な怪獣物の特撮映画を思い出して、ガスマスクがつぶやいた。いや、ガスマスクの玩具を被っている紅月・焔(gb1386)がつぶやいた。

●キメラがいて

 参加者達は、大まかにわけると二つのグループに分類される。
 エアタンクを持参した人間と、そうでない人間。
 持参しなかったアリスと瑠璃は、基本的に水深の浅い箇所を担当する事となる。効率を考えればそうならざるを得ない。
 冒頭において不満を口にした瑠璃だったが、仕事に対する意欲は充分だ。仕事の後には、バーベキューが待っているのだから。
「足場が悪いのがちょっと不安だけど‥‥、ちょっ! わぷ‥‥」
 彼女が真っ先に洗礼を受ける。黒いフリルビキニ姿が海中に没していた。
 幅広で肉厚の昆布のせいで、海底の状況が把握しづらいのだ。水深が浅いために泳ぎづらいのも原因の一つである。
 その頃、アリスもまた潜っているが、こちらは計画通り。傷みの激しいタコ壺を海底に設置しているところだった。
 調理器具を借りる時に、廃棄処分にする品を譲ってもらったのだ。まともな物は漁に使用中なのだから、これは妥協するしかない。
 返却の必要がないため、壺が破損しても構わないが、処分するのも自分の責任となる。
 持ち込んだ3つを仕掛けると、あとは持久戦だ。

「キメラ退治とは言え、夏の海には変わりは無いしね」
 MAKOTOの豊満な身体を控えめに覆っているのは、紐の割合が多い大胆なビキニだ。
「やっぱり昆布が多いと泳ぎづらいわね〜」
 濡れた長い髪を描き上げる仕草が魅惑的だ。
 その姿をガン見するガスマスク。
 不愉快そうに彼を見る正和の存在も気にせず、彼はMAKOTOの姿を眺めていた。まるで動じず、自らの欲望に忠実な焔はある意味で尊敬に値するだろう。
 盟友の妹にそんな視線を向けられては、正和が不機嫌になるのも仕方のない事と言える。
 MAKOTO本人は水面上の戦いなど気にせず、一度は墨を吐いて逃げたイカキメラを再び追い詰めていた。
 狙い澄ました彼女の水陸両用槍『蛟』が獲物を串刺しにする。
 浮上した彼女は思わずガッツポーズ。
 そのまま海岸へ戻って、キメラにとどめを刺す。
 丁寧に捕まえたため、彼女が仕留めたキメラはまともな形状を保っていた。

 水の抵抗を考慮した信人は刺突をメインに戦ってキメラの息の根を止める。
「よっちー! 山田! 生きてるか!」
 背後から声をかけたのは焔だった。
 夜十字信人に対する『よっちー』も、彼の覚醒時に出現する少女の『山田』も、当人達の意志にかかわらず彼が勝手にそう呼んでいる。
「近くにいたんなら、お前も手を貸したらどうだ?」
「よっちーは頑丈だしな。馬鹿だから風邪も引かないし」
「否定するつもりはないが、お前に言われるのは腹が立つ」

 タコ壺にはタコを誘い出すという効果はない。あくまでも、タコキメラが気に入ったら入るという代物なので、キメラ次第となる。
 アリスは空いている時間を活用して、瑠璃と共にイカキメラを探していた。
 瑠璃の足元から飛び出したイカキメラは、吐いた墨がブラインドに逃走する。
 慌てて追ったりせずに、瑠璃はイカの逃げた方向へ足を進めた。
「軟体動物になめられるわけにはいかないわよ」
 彼女の水中剣『アロンダイト』が昆布の裏側を突いて、潜伏中のイカキメラを追い立てる。
 瑠璃の円閃を受けて動きの鈍った標的を、2本の『アロンダイト』が斬りつけた。

 昆布の根本を踏みつけながら、悠季は隠れていそうな箇所を荒らしていく。
 スルリと飛び出したイカが彼女の腹にしがみつき、わずかながら体力を削られてしまった。
 合金軍手でイカキメラを引き剥がし、『アロンダイト』の切っ先を刺す。
 繰り出した両断剣はあっけないほど簡単に、キメラを貫いていた。
(「この前イカやタコでマリネを作ったのが祟って、こんな依頼が来たのかしら? ‥‥そんなわけないわね」)
 冗談めいた推測を、悠季はセルフツッコミする。
 今の手応えからすると、一対一ならば簡単に対処できそうだ。
 イカの粘液のこびりついた腹を軽く撫でる。
(「ヌルヌルにまみれるくらいなら、どうって事ないものね」)
 しかし、数匹に襲われたらどうなるか? 彼女はこれから実体験するのである。
 グニ、と彼女の左足が柔らかな物を踏んづける。吸盤のついた腕が、彼女のふくらはぎを這い登った。
『アロンダイト』を握る両腕に、別なイカが絡みついてくる。
 さらに、3匹目が首筋に吸い付いてきた。

「いやぁん。‥‥ダメよ」
 どこか艶っぽい声が耳に届くと、信人と焔が電撃に撃たれたかのように劇的な反応を示した。
 4つの瞳が捉えたのは、悶えている仲間の姿。
 視線を固定したまま、ふたりが状況と対応策について意見を交わす。
「まずは、様子を見て状況を正確に把握すべきだと思うが、お前の意見を聞こう」
「意外だな。よっちーに賛同する日がくるとは。ただ‥‥」
「ただ、なんだ?」
「もっと近くの方がよく見える」
「異論を挟む余地は無さそうだ」
 そういう事になったらしい。
 ふたりはどのような状態にあるか視認するため彼女に接近する。
 敢えて言おう、彼等にやましい気持ちなど無いと。ただ、自分に正直なだけなのだと。

 仕掛けた罠の成果を確認すべく、アリスがタコ壺を除いてみる。
 いきなりタコ壺の口が墨で隠された。
 飛び出したタコキメラへ、とっさに流し斬りなどを仕掛けたが、仕留め損なってしまう。
「瑠璃さんお願いします」
 アリスの求めに頷いて、彼女がタコの進路へ向かった。
「私がバラバラの刺身にしてあげるわよ」
 タコキメラに立ちはだかるようにして円閃をしかける。
 すぱっと両断されたタコキメラの頭部が、とっかかりがないために非常に持ちづらく、アリスは苦労しながらタコ壺の中に放り込んだ。
「他のタコ壺も確かめますから、瑠璃さんも手伝ってくれますか?」
「いいわよ。またバラバラにしてやるわ」
「‥‥バラバラにされるのは困ります」
 残りのタコ壺からも、タコキメラが入っており無事に収穫する事ができた。

 10代の若々しい肢体。
 すでに人妻として匂わしている色気。
 その悠季の身体にまとわりつく、ヌルヌルの軟体動物。
(「そこだ、いけ! もっと強引にいくんだ!」)
(「なかなかやるな。そのまま中まで潜り込めるか?」)
 拳を握って彼等が応援しているのはキメラの方だ。
 クールに見える信人も、『夏の砂浜』で連想するのは『男の浪漫』と力説する剛の者だ。ガスマスク常用者に勝らずとも劣らない。
(「素晴らしかった‥‥」)
(「なかなかいい物を見られたな」)
 気がつけばすでに戦いも終わっていた。
 アイコンタクトで行われる会話に、新たな人物が加わった。
(「‥‥仕事しなさいよ」)
 怒気を伴う彼女の主張は、正しくふたりに届いた。

 キメラが弱い事を知ったMAKOTOは、イカキメラとタコキメラに貼り付かれても、遊んでみせる余裕があった。
「そんな‥‥絡まって‥‥」
 彼女身体をなで回す8本足と10本足。
「んんん凄い、そんなに激しく、吸っちゃ、らめぇぇ」
 ギャラリーの目はあまり気にならないらしい。
「あんっあぁぁっっ! いいぃ! んんんんんっ!」
 唐突に、横合いから叩き込まれたソニックブームがキメラを脅えさせる。
 彼女を救うべく駆けつけた正和が、流し斬りでキメラを切り捨てていた。
「そんな急がなくても大丈夫だんたんじゃねぇか?」
「もう少し余裕を持ってもいいと思うが‥‥」
 様子を眺めていた傭兵2名が、正和の活躍に不平を漏らす。
 ギロリと正和から怒りの視線を向けられて、彼等は無言のままスイーっと泳ぎ去った。

 キメラを相手にするには、この水着では心許ないと不安に思いつつ、ソウィルは未だにキメラと遭遇していなかった。
 怠けているわけではないのに、運がいいのか悪いのか。
(「ぉ、居た居た‥‥さぁ来なさい、って‥‥多!? やっぱ来ないで!?」)
 巣でも近かったのか、いきなり5匹のキメラに絡みつかれたソウィル。
 そこへ静かに接近する、男2名。
 3度目の正直というわけではないが、今回ばかりは彼等も動いた。彼等とて、仕事に手を抜いているわけではなく、きちんと状況はわきまえているのだ。
 ふだんは仲が悪いわりに、ふたりは抜群のコンビネーションを発揮する事がある。例えば、今。
 信人は向かって右側へ回り込み、ソウィルの左腕にとりついたイカキメラに両断剣を発動する。
 左側を担当するのが焔だ。
(「折角だから! 俺はこの赤いタコを」)
 彼女を傷つけないように、慎重に狙いながら『蛟』の穂先を突き立てた。襲われていたのが信人だったなら、もっと無造作に攻撃していただろう。
 ようやく両腕が空いたため、ソウィルは足にしがみついているイカキメラへ両断剣で斬りつけた。
 残りの3匹は墨を吐いて即座に逃亡に移った。
 3人がそれぞれ3方向へ追いかける。
(「大っ人しく材料に成りなさーい!」)
 追いすがるソウィルは、流し斬りでイカキメラの体を切り裂いた。反撃をかわして、イカキメラの息の根を止める。
 男ふたりもうまく2匹のキメラを仕留めたようだ。

●傭兵がいる

 活性化で回復した数名を除き、他の怪我人は救急セットのお世話になった。
 こまめに獲物を運んだMAKOTOと、タコ壺で運搬が可能なアリス達はまだしも、他の面々は海中に沈んでいるキメラを拾い上げねばならない。
 キメラがいない事の確認も兼ねて、5人が昆布浜を一通り回ってみた。
 彼等の確保できたのは、タコ5匹と、イカ13匹となった。
 これにて、キメラ退治は終了となり、この後は打ち上げのバーベキューだ。

 MAKOTOは下準備としてタコやイカを捌いている。
 信人は持参したカレールウをぶち込んで、鍋の中のシーフードカレーをかき回していた。
 彼の持ち込んだ調味料や材料は他にもあって、ソウィルはありがたく小麦粉と卵とキャベツをもらった。こちらが作っているのはお好み焼きだ。
 昆布を一本だけもらってきて、出汁としてそれぞれの料理に混ぜてある。
「ふむふむ‥‥」
 アリスは参考になりそうな調理法を目にすると、こまめにメモしながら皿の準備を進めている。
 ちなみに、タコヤキという意見も出たのだが、さすがに調理器具が揃わないのでこれは断念するしかなかった。
 こうして完成したメニューが、傭兵達の前に並べられた。
「ぁー‥‥、酷い目にあったし、こうなったら喰って憂さ晴らしよ」
 調理したソウィル本人がそう口にする。
「これは美味いな」
 正和が賞賛したように、イカキメラやタコキメラの味は絶品であった。
「仕事した後じゃなくて遊んだ後のBBQならもっと最高だったんだけどねー」
 瑠璃の口にした不満も、バーベキューそのものではなく、この状況に対するものだ。
 もともと、健康体の傭兵達は食欲旺盛な人間が多い。一仕事終えて腹も空いているからなおさらだ。
 何人からか追加注文の要求が出てきたため、
「はいはい、次作るからちょっと待ってねー」
 要望に応える形で、ソウィルが腰を上げた。
「食べてばっかりだと、不健康だからな。皆でビーチバレーやビーチフラッグでもやらないか?」
 正和がそれを選んだ理由は『体脂肪が燃やせる遊び』ためらしく、実に健康的な提案であった。
「ヌルヌルなキメラも退治したし、後は健全に‥‥ね。今さら、色気云々とは言わないわよね、信人?」
 悠季が釘を刺すと、信人が真剣な表情で問い返す。
「それは‥‥フリか?」
「違うわよ」
「俺が動かなくても、ああいう人間もいるぞ」
 信人が指差した先では、ガスマスクを装着した怪しい人物が『コーホー』と呼吸音も荒く、ビーチバレーに参加した女性の胸が揺れる様を、食い入る様に眺めている。
「うむ‥‥どれもこれも絶品だ。俺は海に来て良かった!」
 背後に立つ悠季に気づいて、慌てて焔は言葉を付け足した。
「‥‥バ、バーベキューの話しだヨ?」
 誤魔化せるわけもなく、焔は悠季によって蹴り倒された。彼のことだから、きっと本望だったに違いない。