●リプレイ本文
●相談
「要が漫画で大暴れ! これは楽しそうです。参加するしかないでしょうー」
要(
ga8365)は非常に乗り気のようだ。
「お話を作る相談って、なんだか世界を創っている感じがして楽しいですよね」
傍らで頷くフィルト=リンク(
gb5706)。
「フィルトさんと見かけた時に面白そうだと感じたんだよね。これなら使えると」
表向きは軽く口にしながら、ノーン・エリオン(
gb6445)は内心で非常にやる気になっている。
「使えるって何にですか?」
「いや、いろいろだよ。いろいろ」
動機の一つであるフィルトに尋ねられ、彼は言葉を濁してしまった。
彼等の意欲を目の当たりにして、作者としても嬉しそうだ。
キャラ設定と同じく、いささか小太りの青年だった。
しがない同人作家が自分をモデルに世界的マンガ家という設定は、あえて追求しないのが優しさというものだろう。
「自分のキャラについて要望はある?」
質問を向けると、すかさずふたりの少女が答えた。
「じゃあ、魔法少女マジカルくりむ!」
「ぜひ、魔法少女まじかる☆カナで!」
愛栖 くりむ(
gb5282)と要の要望は丸被りである。
「‥‥それなら、要は遠慮しておきます」
「いいってば。同じ魔法少女仲間として一緒にやろうよ」
少女達の憧れ、魔法少女! 同好の士として、要はくりむの言葉に甘える事にした。
「キャラ分けは服装でもできるしね。希望があれば取り入れるから」
作者が話を向けると、傭兵達が口々に要望を述べていく。
「スキルを使用するために、私はAU−KV着用しておきたいですね」
「ええっ! そうなの?」
フィルトが口にした情報は、作者にとって初耳だったらしい。
「お話に合う格好をさせて頂いても構いませんよ。スキルを使用するには必要というだけですから」
「うーん。スキルも欲しいけど、顔が隠れるのもなぁ‥‥」
思案する作者に近づいたノーンが、部屋の隅まで連れていき、ぼそぼそと小声で密談を交わす。
「それじゃあ、AU−KV装備でいこう」
あっさり決断した作者。
あからさまに怪しい。
「一体、何の相談だったんですか?」
フィルトの質問にノーンは慌てて弁解する。
「ほ、ほら、眼鏡を取ったら美人というネタは定番だろ。AU−KVの中から美人のフィルトさんがっ!? という展開はむしろアリではないかと‥‥」
そう言いながら視線を逸らす。
「殺傷力のない武器という条件でしたけど、他にも楽しそうな武器はありますよ。全て除外するのはもったいないと思うのですが?」
フィルトの申し出に興味を引かれ、作者は詳しく尋ねてみた。
どうせ、マンガ内の事なのだし、条件で縛って皆が似たような武器となっては面白みに欠けるだろう。それならば条件を緩和するのもアリだと彼は判断した。
これに応じて、仲間達が楽しそうな提案を口にした。
●『マンガ家Aさんの旅立ち』(前編)
Aさんの顔を見て誰なのかわかる人間はまずいない。マンガ家、あるいは原作者と言えど、あくまでも裏方なのだ。
しかし、ここはコミック・レザレクション。
マンガ等のサブカルチャー好きの集まる聖地。これでバレないはずがない。
友人とお別れを済ませると、Aさんが移動を開始する。
Aさんの護衛を行うのは、傭兵4名プラス1。目立つ格好の女性陣に比べると、ノーンの服装はありきたりで地味めな印象だった。
「さあ、行くわよ。時間はなによりも貴重だわ」
朝霧 舞(
ga4958)は秘書然としたスーツ姿を着こなしている。足元のブーツに違和感も残るが、これについては後述しよう。
開場を抜け出すなり、ファンの監視の目に補足されてしまう。
応戦のために歩み出たのはふたりの魔法少女。
「魔法少女マジカルくりむ、ただいま参上♪」
『ウィッチセット』のコスチュームにより、まさに魔女っ娘というスタイルだ。電磁波を飛ばしている武器は、その名も超機械『マジシャンズロッド』。
「魔法少女まじかる☆カナ! スク水バージョンとして参戦するのです!」
コミレザ会場を飛び出した今、スクール水着姿の要は非常に目立っていた。
こちらの武器はある意味で服装に適している水鉄砲だ。
使用スキルは両断剣。飛び道具であっても両断『剣』で合っている。
場違いと言うなら、フィルトの格好も場違いだろう。
彼女の全身を、アーマー形態となった『リンドヴルム』が包んでいる。
竜の咆哮を使用して彼女がぬいぐるみを叩きつけると、ファンの身体が簡単に弾き飛ばされる。
「さあ、駅までもう少しよ!」
舞が促したように、彼女等が港へ向かうために採用したのは電車ルートだった。
「もっと早く歩けないの? このデブ!」
舞の発した暴言は、護衛対象のAさんに向けられていた。
「えっ、えぇぇぇっ!?」
大先生としていつもチヤホヤされているAさんは、このような態度に慣れていないらしい。ちょっとばかり情けない表情となっていた。
すでに息の荒いAさんを連れて、彼等が駅のホームに駆けつけた時、ちょうど発車のベルが鳴り響いていた。
階段を登り終えると、要が後方へ向けて節分豆をばらまいた。これは攻撃というよりも、彼等の足止めが目的だった。
節分豆を踏んで転んだファンが、仲間達を巻き込みながら悲鳴と共に転げ落ちる。
ドアが閉まった時、5人はギリギリで乗り込んでいた。
‥‥5人?
そう、5人である。
「港へ向かったぞ。先回りするんだ!」
その言葉にファン達も動き出す。
「いいな、5駅目だ! 間違えるなよ、5駅目だ」
わざわざ念押しする青年。
ラフな服装をしているため、だれにも気づかれなかったが、これはノーンなのだ。
彼が目立たないようにしていたのも、こうやってファンに紛れ込み、扇動や誘導するのが目的だった。
「先頭か最終車両に移りましょう。両側の車両から挟撃されると厄介ですから」
「後部車両だと窓から侵入される事もあるし、先頭の方が安全だと思うわ」
要の提案に舞が応じたため、4人は幾つものドアをくぐって電車の進行方向へ走っていく。
今回欠けているのはフィルト。
車両通路を強引に押し通ると、『リンドヴルム』が車両を破壊する可能性もあったため自粛したのだ。
1つ目の駅に停車すると、フィルトはホームを通って先頭車両へ向かった。
2駅目では、階段を駆け上るファンの姿を確認する。
だが、タッチの差で乗り込む事ができずに、ファン達はホームで置いてけぼりとなってしまった。
問題の3駅目だ。
停車中に100人近いファンが殺到してきた。
先頭車両では、4つのドアに4人がそれぞれ陣取って奮戦している。
スパーン!
と高らかに鳴っているのは、舞が振り回す巨大ハリセンの打撃音だ。
彼女の狙い通り、頭をはたかれたファンが後方に倒れて将棋倒しになる。
倒すことよりも行動不能にしようと、くりむは手近な敵の足元を狙っていた。
狭い扉の前で誰かが倒れると、後続の人間が足止めされてしまう。
ようやく発車したものの、後部車両に乗り込んだファンが殺到する。ざっと20名。
『リンドヴルム』を装着したフィルトがその大きさを活かして壁となって立ちはだかった。
彼女の手にした巨大注射器が敵の接近を鈍らせていた。おもちゃなのだが、視覚が引き出す恐怖心はバカにならない。
その頃、要は水鉄砲をリロード中である。準備のいいことに、彼女は水筒まで持参していた。
「次が降りる予定の4駅目だけど、この分だときっと待ちかまえているわね」
舞はつぶやいたものの、この際、彼女等に選択の余地はない。
「でも、5駅目だともっと人が多そうですよ」
「そうね。つっきるしかなさそうだわ」
要の意見に頷いて、舞も決断する。
ホームに滑り込むと、一行は一丸となってホームに飛び出した。
群がるファンをばったばったとなぎ倒しながら、彼女等は改札をくぐる。
ノーンは仲間達の行動予定を知っていたため、ちゃんと4駅目に駆けつけていた。
どうやらフィルトは練力を使い切ったらしく、AU−KVを装備しない生身で戦闘中だ。
「あー。フィルトさんにファンの一団が近づいているー」
やや棒読み口調で、ノーンはスパークマシンαを向けた。
電撃を受けたフィルトの服が黒こげになり、ボロボロと剥がれ落ちる。
「ああっ、不幸なミスでフィルトさんがー」
ブランド物の下着を身につけたフィルトの姿が――。
●幕間
「差入れに来ました」
たまたま近くを通りかかったフィルトが、ジュースを手に作者の家を訪れた。
作者の手にしたページを見て、フィルトはにこやかに笑う。両目は除く。
「これはどういう事でしょうか?」
ニッコリ。
笑顔で凄まれて、作者は真相を暴露する。
「打ち合わせの時に、ノーンから『お色気風味の読者へのサービスシーンが必要だ』って勧められたんだよ。言ってる事はもっともかなぁ‥‥って」
フィルトに頭の上がらないノーンが、なんとか一矢報いようとしたのだ。
「このまま採用するつもりですか?」
ニッコリ。
「ま、まさかぁ。やはり肖像権は尊重しないとね‥‥」
冷や汗がタラリ。
「それがいいと思いますよ」
ニッコリ。
●『マンガ家Aさんの旅立ち』(後編)
ノーンが行動を起こすよりも先に、フィルトは仲間へ対応を依頼した。
くりむの『マジシャンズロッド』が電磁波を放ち、一人のファンをうちのめす。
そこには、髪がアフロになって、消し炭のようにブスブスと煙を上げるノーンの姿が。
「ああっ、不幸なミスでノーンさんがー」
フィルトが棒読み口調で告げていた。
ファンの中に混じっていたノーンが、敵と間違われて攻撃されるのは十分にあり得る事態だ。決して、特定の誰かが作者に強要したから‥‥ではない。‥‥はずだ。
5駅目に向かった人員も、いくらかこちらへ戻ってきているらしく、意外と敵の頭数が増えていた。
「舞さん、そちらの100人はお任せしました。私はこちらの100人のお相手をします!」
そう告げたフィルトは、アルティメットフライパンでぬいぐるみを打ち放ち、敵の接近を防ぐ。
その弾丸はたっぷりあった。
どこから出したのか、でぃあぶろの、ばいぱーの、ないちんげーるの、あしゅらの、雪だるまの、しゅてるんの、ろんぐぼうの、あぬびすのぬいぐるみが敵に命中する。KVの中に違う種類も混じっていたが、そんな事もあるだろう。
「私に触るなんて、‥‥良い度胸ね」
舞の振り回すハリセンがさらに高い音を立てた。
地面に転がっているファンを、彼女のブーツが踏んづける。
そう、まさにこのためにこそ、彼女はブーツを履いてきたのだ。なんというS気質。なんという秘書らしさ‥‥と、言ってしまうと、秘書に悪いので謝罪しておく。
要はAさんのすぐ近くで応戦していた。
ポイーンと間抜けな音がしたのは、要の投げたビーチボールによるものだ。
「前方の敵はボクの魔法でいちもーだじんだよ!」
電波増幅を使用した彼女の攻撃は、落雷のような視覚効果で敵を打ち倒す。
彼等5人は中央突破をはかり、ファンの間をすり抜けて港へ向かう。
その中にノーンの姿はなかったが、それでも彼女たちは先へ進む事を選択した。
ノーンが無事だと信じて!
さらば、ノーン。君の雄姿は忘れない!
港まで辿り着くと、Aさんの前に一人の男が進み出た。
おそらく、彼がバグアなのだろう。
いつもなら戦場で戦うだけの相手と、今回だけは傭兵達も同じ目的で動いていた。
バグアの第一声はこうだ。
「あなたのファンです! この色紙にサインをお願いします!」
間違いなく、彼はオタクだった。
どどどどどと、何処かの巨大イベントの開場時のように、地響きを思わせる足音を立ててファンが殺到する。
最寄り駅に集まっていた面子も含め、全てのファンがここへ駆けつけたのだ。
「急いでヘルメット・ワームに乗ってください!」
バグアの青年が指示すると、傭兵達はファンを遮る壁として立ちはだかった。
「あなた方の気持ちは分かります。でも、これはAさんが選んだ道なんです!」
Aさんの望みをフィルトが代弁すると、ひとりのファンがそれに応えた。
「わかってるさ‥‥」
「え?」
「わかっているんだ。俺達だってAさんのファンなんだから!」
彼等もAさんの活躍を望み、作品に憧れ、夢を抱いた者達だ。
ここに至るまでの行動も、すべては愛憎入り交じったが故のあがきなのだ。
だが、Aさんの揺らがぬ意志が、傭兵達の頑張りが、ファン達の心を動かした。
もはや引き止める言葉など無い事を、彼等も悟ったのだ。
「向こうへ行ってもがんばってくださーい!」
「Aさんなら絶対、バグアでも大人気間違いなしですっ!」
「10週で帰ってきたりしないでくださいよ!」
ファン達の声援を受けて、Aさんが涙ぐんでいる。
そんなファン達から、ひとつの歌声が聞こえてきた。世界的に有名な、Aさんの代表作の主題歌である。
元気と、夢と、そして冒険心を讃える歌。
この場にいる誰もが知っている曲。
その歌声は徐々に大きくなっていき、最後には全員の合唱となっていた。
傭兵達もまたそれに加わっている。
「みんな、ありがとうっ!」
歌声に送られて、Aさんの乗ったヘルメット・ワームが空へ飛び立っていく。
これが、彼の旅立ちの光景だった。
参考までに補足しておくと、歌を歌い出したのはノーンであった。ちゃんと仕事をしていたのである。
そして――。
空に浮かぶバグアの赤い月を見上げるたびに、傭兵達は思い出すのだ。
マンガ家Aさんの希望に満ちた笑顔を。
「いつか、この戦争が終わった後、Aさんが宇宙に名を馳せる漫画家になったのなら、そのお話をきっかけにバグアの方々と交流が出来るかも‥‥」
フィルトが口にしたのは希望的観測にすぎない。
しかし、それがかなうとしたら、とても素晴らしい事だと傭兵達は思うのだった。
●顛末
ノーンがフィルトによってどのような目にあわされたかは、彼の名誉のために伏せるとしよう。
だが、作者の書いた脱衣シーンのコピーはかろうじて残り、彼はそれを見せてもらうことに成功した。
他の人間にはつまらぬ結果だが、彼にとっては偉大な成果である。
彼の下克上はまだまだ始まったばかりだ。これからのノーンの活躍にご期待ください。