タイトル:KV花火大会2009マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/13 07:05

●オープニング本文


「ULT広報部として、能力者と一般人の交流を推進しているわけだけど、今回はさらにそれを推し進めてKVにも親しんでもらおうと考えてみた」
 そこで、マルコの立ち上げた企画が、KVを使用して花火大会をするというイベントだった。
「せっかくだし、KVだからこそできるやり方を予定してる。花火をKVにぶつけ合ったりとかな。人間なら危険だけど、KVならそんな心配はいらないだろ? もちろん、普通の打上げ花火もやるけどな」



『KV花火大会2009運営プログラム』
スポンサーとしてドローム社が出資している。
特製の試作型花火射出専用グレネードランチャーを貸与。
装弾数10発で、KVの腕に固定することにより片手運用が可能。
用意された弾数に限りがあるため、リロードは10回まで。
開発を行ったのは、ドローム社第九KV兵装開発室。
今回は、試作品の実用テストを兼ねている。

●事前準備
当日の昼にリハーサルを実施。
KVで仕掛け花火の製作も手伝う。
○テーマ曲選定。
参加者の中でオリジナル曲の持ち込みがあれば、テーマ曲として使用。複数ならば使用箇所を振り分ける。
持ち込みがなければ、アップテンポな交響曲を代用。

●花火大会
・小島で歩行形態のKVが花火を行い、見物客は海岸でそれを眺める。
・司会はオペレーターの榊しのぶ。
・運営責任者はマルコで、KVの通信機を通じて指示を行う。

○手筒花火舞踏
手筒花火を両手に持ち、テーマ曲にあわせて踊る。

○花火合戦
グレネードランチャーを使用。
膝下まで海中へ踏み込み、KV同士で花火をぶつけ合うバトルロイヤル。
導火線が短いため、外したとしても海岸まで到達しない。
派手に行う事を推奨するが、一度に使い切ったりしないようにタイミングは考慮する事。

○枠仕掛
任意の文字を描き出す仕掛け花火。

○ナイアガラ(全機)
歩行形態のKVを柱として、全機を横に整列させて発火する。

○スターマイン
グレネードランチャーを使用。撃ち分けするめ、1機につき10挺を配備。
2機で1組とし横並びに配置させ、ローテーションを組みながら、方向やタイミングを変えて打ち上げる。
色は赤、青、白、黄、緑、紫の組み合わせ。
形状は牡丹、群蜂、飛遊星、花雷、椰子等様々です。
最後はテーマ曲に合わせた『打上げショー』を実施。爆発のタイミングを曲のリズムに合わせられるようリハーサルで練習しておく。

○巨大線香花火(全機)
KVサイズの巨大線香花火で持続時間を競う。
優勝者には3万Cを進呈。
海岸でも賭けを行っており、正解者には景品を配る。

●慰労会。
参加者全員で慰労会を行う。
KVの撤収もあるため、アルコールはなし。

●お土産。
参加者全員に『花火セット』を配布。
ただし、KV用サイズではない。

●注意点
使用したKVは高確率で汚れているはずだが、機体整備は本人の責任において行う事。

●参加者一覧

千道 月歌(ga4924
19歳・♂・ST
要(ga8365
15歳・♀・AA
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

●準備

 軍事的にはなんの価値もない小島に、現在は5機のKVが持ち込まれていた。
「KVを使った花火大会かー。何か面白そうだね」
 アーク・ウイング(gb4432)のようにイベントそのものへ興味を示す人間もいれば、
「一般の方との交流をより深めるためがんばりますよ! みなさんに楽しんでもらえて、自分も楽しめるような花火大会にしたいです」
 と、イベントの開催目的に賛同した要(ga8365)のような人間もいる。
「まずは、各プログラムの担当者を決めたいところなんだけど‥‥」
 マルコが言いづらそうに言葉を濁らせた。
「参加人数も少ないみたいだし、通常の打上花火も用意できないかな?」
 アークの意見に同感らしく、要も言葉を添えた。
「そうですね。人数不足をカバーできるように手配した方がいいと思います」
 ふたりの要望は至極ごもっとも。
 しかし、彼は両手を合わせて拝むように頭を下げた。
「すまん。今回のイベントはドローム社が協賛してるから、KVの使用が大前提なんだ。そのための予算も残ってないし、俺達で頑張るしかない」
「うーん。そうかぁ」
「そうなんですか‥‥」
「そういう対策が取れないうえに、頭数が減った事でローテーションも組めなくなった。みんなには悪いけど、役割を決めるどころか、ほぼ全員が全部のプログラムに参加しなければ追いつかない」
 当初の予定と違って、休憩する余裕もなくイベント中ずっと働きづめとなるのだ。
「KVの操縦の技術を養うにもちょうどいいし、観客の人らを楽しませてあげないとね」
 千道 月歌(ga4924)が前向きに受け入れると、残りの3名もお互いの顔を見て頷く。
「乗りかかった船だし、みんなで花火大会を盛り上げようよ」
 火絵 楓(gb0095)の言葉に、アークと要も応じる。
「そうだよね。その分、アーク達で頑張ればいいんだし」
「はい。頑張りましょう」

 本来ならば裏方である彼等だったが、海岸のスタッフと打ち合わせをした際に、休憩がてら会場を見て回る時間を取れた。
 早めに来て場所を確保している来場者もいて、それらを目当てに開店している屋台も少なくない。
 屋台を覗いた一行のうち、一番はしゃいでいたのが楓である。
 彼等が島へ戻ったのは、開催の1時間前だった。

●手筒花火舞踏

 伝統的な手筒花火は、生身の人間が大きな竹筒を抱えて行う。
 ここでは手筒花火を持ったKVが、有名なクラシック曲に合わせて踊って見せるのだ。フィギュアスケートや新体操の演技を想像してもらうのが早いだろう。
 ふたりの志願者のうち、まずは楓からだ。
 お辞儀したディアブロが、ジャンプを間に挟みながら連続ターンを見事に決める。
 KVの兵器としての側面しか知らない観客達が、思いのほか器用な動きを目にして感嘆を漏らしていた。
 アークとの交代間際に彼女は大技を繰り出した。手筒花火を真上に大きく放り投げてバク転を行って再びキャッチ。
 この技を事前に聞かされていない仲間達が素直に驚く。
 問題なのは、当人すら驚いた事だ。
 屋台で買い込んだ食べ物がひっくり返り、ディアブロのコクピット内は阿鼻叫喚となっていた。
「ぎゃーっ! たこ焼きが‥‥フランクフルトがぁ‥‥ぐちゃぐちゃだぁ!」
 皿にへばりついて奇跡的に無事だった焼き鳥を、半泣きの表情で一口頬張る。
「‥‥うまいよぅ〜」
 リハーサルの重要性を、彼女も自覚してくれたに違いない。
 入れ替わりにアークのシュテルンが踊り出す。
 彼女のアイデアで、単体としての踊りだけでなく、要や月歌が花火の打上を行って演技を盛り上げる。
 彼女もまた締めの大技を用意していた。こちらの場合は、責任者の許可も取っており、リハーサルで実演済みである。
 彼女は四連バーニアをフル稼動して、登り竜を思わせる大ジャンプを行った。垂直離着陸能力を活かした、シュテルンならではの演技だった。

●花火合戦

 簡単に言えば、花火用グレネードランチャーを使用した雪合戦のようなものだ。KVならば直撃させたところで、汚れはしても壊れはしない。
 月歌・アーク組と、要・楓組に別れて、色とりどりの花火をぶつけ合う。
 勝敗を決めるわけではなく、変則的な水上花火と言える。
 自機のビーストソウルにちなんだのか、要が選んだのは青色の花火だ。それを月歌のS−01目がけて撃ち込んでいく。
 単調にならないよう、相互にタイミングを計って数発ずつ交互に撃ち合った。
 月歌はさまざまななポージングをして、花火の中にS−01のシルエットを浮かび上がらせた。事前練習で試した事がちゃんと役立っている。
 連続発射を行っているのはアーク機である。わざと外した花火が広範囲で炸裂するため派手さが際だつ。
 そのままのペースを続けてはすぐに花火が尽きるため、彼女はリロードすると、次のタイミングまではしばらく発射を控える事にした。
 もともと参加するつもりのなかった楓は、見せ場を仲間に譲り、空白が生じたら散発的に発射する程度だ。
 そして、終了が近づくと飛び交う花火が激しさを増した。
 要は装弾した分を撃ち尽くす勢いで連射する。
「見よこの弾幕!」
 一つ一つの形を追うどころではなく、海面がカラフルな光の帯で覆われた。

●枠仕掛

 ドローム社が関わっているため、職人のような技術を問われる作業は残されていない。
 格子状の型枠に花火つきの金具を取り付けるだけという、単純で機械的な仕組みのため、素人でも簡単に作業できる。
「うも‥‥、うももももも‥‥うもぉ!」
 例外は楓で、準備中に奇妙な雄叫びを上げていた。意外に凝り性なのか、微妙なバランスを追求して頭を悩ませたからだ。
 暗闇の中で花火が点火され、大きな文字が浮かび上がる。
『KV花火大会2009』
 浮かび上がったイベント名に、観客から拍手が起こる。
 新しく表示されたのは、次の文字列だ。
『博打』
 どういう意図で表示されたのかわからず、観客に困惑が広がった。
 続けて、『天衝』の文字。
 さすがに通じないだろうから、これは会場アナウンスが補足した。
「これはKV操縦者である千道月歌が所属する部隊名です」
 ようやく理解できて、観客達にも納得が広がった。
『ビーストソウル見参☆』
 水色の花火でこの文字が浮かび上がる。
「ビーストソウルというKVを愛する要の希望で採用されました」
 アナウンスを受けて来客が連想したのは、ヌイグルミを抱いた少女の姿だろう。実像とあまり誤差はないと思われる。
 微笑ましく感じたのか、会場からは悪意のない笑い声が響いた。
 以下はちょっとばかりお堅い言葉が続く。
『被災者も民間人も能力者も、共に歩もう』
『我等がアース。子供達に明日を』
『生き延びよう。そして、故郷を取り戻そう』
 最後を締めくくるのは、協賛しているドローム社のものだ。
『KVと花火と夢を創る、ドローム社』

●ナイアガラ

 ワイヤーに噴射花火を取り付け、一つなぎにする。その長さは60m。10機あれば海上にまで伸ばせたのだが、今回は諦めるしかない。
 右端から火花が噴き出し始め、左端まで順次点火されていく。
 暗闇に生み出される白いカーテン。
 支えている柱はマルコのR−01も含めた5機のKVであり、サイドからの光がKVの姿をかろうじて浮かび上がらせる。
 右端の花火が赤くなると、徐々にその変色が進んでいく。
「‥‥うぉ! すんげぇ! スンげぇよ!」
 楓が楽しそうに声を上げる。
 花火の色はKVを挟むたびに変わっていった。
 赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫。
 7色には足りないものの、それは花火によって描かれた虹であった。

●スターマイン

「もともとは、タイミングの調整や隊列を組むために5人で一組の予定だったんだ。10人が参加した場合は、ふたりでローテーションを組むという意味だったけど、説明の言葉が足りなかったな」
 と、参加者に誤解を与えた件についてマルコが反省する。最少人数を5人にしておけばと後悔するが、そうなったら依頼そのものが流れた可能性もあったので、結果オーライで受け入れるしかなさそうだ。
 花火大会のメインとなるスターマインの打ち上げは当然のごとく盛り上がる。
 花火玉が尾をひく種類を菊といい、尾がないまま点火するのを牡丹という。現在、大きく花開いている赤い牡丹は楓が打ち上げた物だった。
 要が希望したのは、青色の飛遊星。流れ星のような円を描いた後の花火が四方八方へ飛散する。
 銘々が打ち上げる種々様々で色とりどりなスターマインが、炸裂音と共に夜空を明るく染め上げる。
 終わったかと思いきや、赤い牡丹が打ち上げられたのはご愛敬だろう。誰がやったかは言わずもがなだ。
 そして、手筒花火舞踏で使用した曲が流れ始めると、そのリズムに合わせて花火が打ち上げられた。
 ドン‥‥、ドン‥‥、ドンドン、ドンドン! ドン‥‥、ドン‥‥、ドンドン、ドンドン!
 打上のタイミングではなく、炸裂のタイミングが重要なため、リハーサルには苦労した。ドローム社の作成したタイミング調整用プログラムがなければ難しかったろう。
 5機が並んだ状態で、左から右へ、右から左へと、波を描くような順番となるよう打ち上げタイミングにも趣向を凝らした。
 さらに、従来の打ち上げ花火のように固定式ではないため、右上空を狙うところから始めて、真上を通過し、左上空へと扇状に打ち上げ方向も工夫した。
 視覚と聴覚に訴えるこのショーは、観客達を大いに盛り上げた。
 最後には一際大きな花火があがる。
 楓お気に入りである特大の赤い牡丹と、激しく弾ける花雷という花火が4つ。
 KVに親しんでもらうというイベントの主旨もあって、この花火に関する説明は避けたが、これはバグア遊星の撃破を象徴した花火だった。地球人全体の悲願とも言えるだろう。

●巨大線香花火

 会場では、誰の巨大線香花火が一番長く保つかで投票が行われていた。正解者にはULTのグッズが配られる予定だ。
 火花を散らす五つの線香花火。柳のように花火が散っていき、玉が残る。そこからが本当のスタートだ。
 いきなりわずかな風が吹いて、線香花火を揺らす。KVの動きを固定していると、風を直接受けてしまう。
 いかに風のタイミングを読み、それに備えるか。勝敗を分けるのはそこだ。
 しばらく無風が続き、再び風がそよぐ。
 ポタリと月歌の玉が落ちる。風を考慮しなかったのが敗因だ。
「ん〜、落ちないで‥‥。がんばれ火種!」
 要の願いも虚しく、彼女も脱落した。
 続いてマルコが、そしてアークの玉が落ちる。
「あ、あれ?」
 残るは楓のみ。
 自分で花火をする事より、皆の様子を眺めていた彼女がなぜか勝ち残ってしまった。無欲の勝利と言えるだろう。
 決着がついた事で会場では悲喜こもごもの声があがっていた。
 楓は逆にみんなの注目を浴びながら、頑張り屋の線香花火につき合わされてしまった。

●閉幕

「それでは、最後となりましたが、花火の打ち上げを担当した能力者を紹介させて頂きます」
 会場アナウンスの言葉に応じて、地面に設置した噴出花火が点火され、火柱が1機目の姿を映し出す。
 さながら、護摩壇の炎がご本尊を照らす様に。
「S−01に搭乗したのは、傭兵の千道月歌」
 名前が告げられると、次の花火が点火して新しいKVが姿を見せる。
「ビーストソウルに搭乗したのは、『小さな護り手』こと要」
 後は同じ手順の繰り返しだ。
「ディアブロに搭乗したのは、『鳥人☆楓』こと火絵楓」
「シュテルンに搭乗したのは、『守護機構の聖母』ことアーク・ウイング」
「R−01に搭乗したのは、ULT広報担当のマルコ・ヴィスコンティ」
 島の砂浜に5機のKVが並んでいる。
「今回の花火大会を盛り上げてくれた5名に、盛大な拍手をお送りください」
 パチパチパチパチパチパチパチ!
 参加者を讃える拍手は、海を隔てた島にまでちゃんと届いた。
 噴出花火は点火された順番で一つずつ消えていき、最後のR−01の姿が闇に消えると、再び大きな拍手が起こった。
「本日はKV花火大会2009にご来場いただきありがとうございました。忘れ物のないよう、気をつけてお帰りください」

●慰労会

「約束の花火セットを配るぞ。ちょっとデカイけどな」
 マルコの言う通り、多種多様な花火が詰まっており、大勢で楽しめるだけの量が入っている。
「ありがとうございます」
 いつの間にか浴衣に着替えた要が嬉しそうに受け取った。
「せっかくですから、みんなでこの花火を楽しみませんか?」
 月歌に誘われて皆もその気になる。
 すかさず封を開こうとした楓を止めて、マルコは箱の中に残っている別の花火セットを取り出した。参加者が減った事で余ってしまった品である。
 ハイテンションの楓は、さっきの舞踏を思い返したのか、みんなから離れた場所で実際に踊って見せる。さすがにバク転まではしなかった。
 噴出花火やロケット花火などに火をつけ、童心に返る傭兵達。
「ああいった大きな花火もいいですけど、こういった普通な物もやってて楽しいですよね」
 月歌の感想に皆も頷いていた。
 ひとしきり楽しんだところへ、アナウンスを行っていたしのぶが、屋台の売れ残りを持ち込んだ。
 メニューの偏りもあったが、元はタダなので文句も言えない。
「楽しかったねー。しかし、こういうのってKVの平和利用っていうのかな?」
「戦場に出るよりも、はるかに平和的だと思うよ」
 応じる月歌に、アークが笑顔で告げた。
「まあ、また機会があれば参加してみたいね」
 ある事を思いだして、要が口を開いた。
「あっ、マルコさんは月末がお誕生日なんですよね? おめでとうございます」
「では俺からも、おめでとうと言わせてもらうかな」
「うん。おめでとー!」
「おめでとぉ!」
 意外な場所で意外な相手から意外な言葉を聞かされて、マルコが戸惑いの表情を浮かべる。
「‥‥驚いた。たまたま一緒に仕事をした仲間に祝ってもらえるのは、凄くうれしいもんだな。始めて知ったよ」
 親しい人間に祝わってもらえるのも嬉しいが、予定調和の一面もある。少なくとも新鮮味や意外性は大きく異なるだろう。
 傭兵達と比べて仕事の認識の強かったマルコには、いいバースデープレゼントとなったようだ。
 以降は、皆で缶ジュースや食べ物を分け合って、慰労会を楽しむ事となる。
 疲れを感じている要は、チョコバナナやリンゴ飴などの甘い物に手を伸ばしていた。
「食事を終えたらKVのメンテナンスもしないとねー」
 アークとしてはこの仕事に関する事は全てこの場で終えたいようだ。
「ここだと清掃用の水がないし、洗剤も使えないぞ。LHに戻ってからでいいだろ? うちの整備資材も貸せるし」
「それなら、帰ってからにしようかな」
 マルコの申し出を受けて彼女が頷く。
 会話を耳にしていた要が、自慢のビーストソウルを見上げた。
「帰ったらピカピカに磨いてあげますからね」