タイトル:【Woi】這い寄るモノマスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/25 05:53

●オープニング本文


 事が起こったのは、“シェイド討伐戦”War of independenceにおける後方支援部隊であった。



「‥‥なんだ?」

 その兵士は地面に黒い水たまりを発見した。

 照明を灯しているとはいえ、夜の闇に負けてこのあたりに届く光量は少ない。そのため、彼は機械油だと思い込んでしまった。

 何カ所か黒い染みがあり、それを引きずったような痕跡がある。

「一体なにをやってんだ?」

 首を捻った彼の耳に、がさごそという物音が届いた。

 誰かが補給物資を持ち出そうとしていると考え、彼はそちらへ足を向ける。

 彼の予想は、半分が当たっていて、半分が外れていた。

 確かに野戦食が荒らされていたものの、犯人が人間ではなかったのだ。

 黒いワニが段ボール箱に食いついて、缶詰だろうがなんだろうが、ばりぼりと噛み砕いている。

「な、なんでこんなところにワニが‥‥?」

 不意に後ろから突き飛ばされて、彼の体が転倒する。

 振り向いた彼の視界は、大きく開かれたワニの顎でふさがれた。

 メキッ。

 彼の頭蓋骨が致命的な音を立てた。



 1匹のワニが痙攣する死体の足に噛みついた。

 食べる意志があったからではなく、後ずさりしながら物陰へと運ぶ。

 そこに並べられている死体の数は7つ。

 彼は気づかなかったようだが、暗がりに身を潜めていたワニも含めれば、その総数は10匹を越えていた。

 ワニ達は作業分担しながら、人間達の集めた野戦食を食い荒らしていく。



 一人の兵士が、辛うじて反撃した事で事態は一変する。

 その銃弾はフォースフィールドで防がれて、傷一つ与えなかったものの、異変を知らせるには充分な効果があった。

 多くの兵士が駆けつけて、キメラの襲撃が発覚した。

 しかし、能力者のほとんどは前線へ投入されており、後方支援に回っている能力者の数はどうしても少なくなる。

 通常兵器しか持たない一般兵士の攻撃は通用せず、ワニ達の反撃にあって多くの犠牲者を出してしまう。

 幸運だったのは、機体の整備や食事のために、幾人かの傭兵が近くにいた事だった。

 傭兵達はわずかな人数で、13匹のキメラと対峙した。

●参加者一覧

ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
フラウ(gb4316
13歳・♀・FC
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

●黒いワニが来た

 騒ぎを聞きつけた傭兵達が、食事を中断し、整備を後回しにし、現場へと向かう。
「あの奥だな。行こう、アリカ」
 夫であるジェイ・ガーランド(ga9899)に促されて、紅 アリカ(ga8708)が無言のまま彼に続く。
「一年ぶりの実戦がこんな急に訪れるなんてついてないですね」
 同一方向へ走っているミンティア・タブレット(ga6672)のつぶやきがふたりの耳にも届いた。
 すでに到着している傭兵もいたが、少数で戦いを挑む危険性を考慮して、まだ威嚇している段階だ。
「このクソ忙しい時期に、よくもまぁワラワラと出てくるもんだ」
 鹿島 綾(gb4549)が腹立たしげに、真デヴァステイターを向けていた。
 彼女はここへ来るまでに兵士を捕まえて質問したものの、コンテナの配置などを詳しく把握している人間とは出会わなかった。臨時の集積地なので、諦めるしかないだろう。
「多数のワニキメラ相手に、照明もほとんど届かない。だけど、だからこそ遣り甲斐があるというものよ」
 困難な状況に対して、不敵に笑ってみせたのは加賀・忍(gb7519)だ。
「コンテナのせいで物陰が多いし、とにかく灯りが必要ですね」
 状況を確認した浅川 聖次(gb4658)はランタンを取り出した。攻めるにしろ守るにしろ、視界の確保はするべきだ。
「さすがに、臭いで判断するわけにもいかないわね」
 鍛えている忍の嗅覚であっても、キメラの群れの中から個別の動きまで臭いで特定するのは難しい。
「敵は10体というところか?」
 フラウ(gb4316)が視界に捉えたキメラの数を確認する。
「黒いワニか‥‥。あからさまにやばそうな感じだね。白いワニは戦ったことがあるけれど」
 そうつぶやいたアセット・アナスタシア(gb0694)の傍らに、駆けつけたジェイとアリカが並ぶ。
「こんなところにキメラが紛れていたとは‥‥。油断も隙もないな」
「‥‥まさか裏でこんな事態になってるとはね。これから先に支障を出さないためにも、さっさと片付けましょう」
「こうやって、ジェイ兄さんとアリカ姉さんと一緒に依頼は初めてだね。頼りにしてるよ」
 アセットの表情が思わずほころんでいた。
「皆さん、暗くて何匹いるか分からないので、気をつけてください。敵の数と姿を確認するために照明銃を使います」
 そう告げたミンティアに、綾が提案を試みた。
「その前に閃光手榴弾を使ってみよう。落差が大きいほど効果も出るはずだ」
 皆の同意を受けて、綾は閃光手榴弾を放り投げた。
「さて、効くかどうかはお楽しみ‥‥ってな!」
 宙に浮かんだ手榴弾の使用目的など知るはずもなく、視線を向けたキメラ達は閃光と音の直撃を受けてしまう。
 閃光が止むと、続けてミンティアが照明銃を空に向けて発砲した。
 射出された光の弾は、自分の現在位置を知らせるための代物なので、照明弾のようにあたりを照らし続ける効果は期待できない。
 しかし、それでも発射の数瞬だけは敵の姿を視認できるはずだった。
「敵の数は‥‥全部で13体!」
 後衛にあたるキメラの存在を確認して、フラウ自身が先ほどの認識を訂正する。
「敵が多いですし、囲まれても不味いので端から、集中攻撃で数を減らしましょう」
 悠長に相談できる余裕もないため、ミンティアの提案に皆も乗った。数で劣る以上、戦力を集中するのは基本だからだ。
 閃光手榴弾で動きの鈍っているキメラに対し、傭兵達がまずは機先を制した。

●黒いワニとの戯れ

 向かって右側から攻めたのは、アセット達だ。
 アセットはすかさずソニックブームを放ち、牽制攻撃を行った。攻め込む隙を与えないよう、手を休めずに剣を突き出していく。
 アリカは剣二刀をもって、キメラとの近接戦闘に臨んでいる。対峙するのはキメラ2体。
 キメラ側も前衛を二手に分け、傭兵達へ襲いかかっていた。
 前衛をかいくぐった2体を、ジェイのライフルが狙い撃つ。
 しかし、キメラの後方に控えていたはずの2体が、いつの間にか参戦しておりジェイへ襲いかかった。
 傭兵達が包囲される事を怖れるならば、キメラ側にとっては有利な戦術と言える。キメラは数を活かして積極的に攻め込んだ。
 2体の突進を受けてジェイが傷を負う。
「今、そちらへ行きます!」
 視界を確保しようと二つのランタンを設置していた聖次が慌てて駆けつける。
 竜の翼を使用して接近するなり、竜の咆哮を用いてキメラを弾き飛ばす。
 ジェイのライフルを至近距離で受けて、もう1体も後方へ下がった。
 こちらのメンバーは治療手段を持っていなかったため、聖次が手持ちの救急救急セットで手当を行った。

 左側の陣営では、前衛が忍だけであったため、フラウもまた並んでキメラに応戦している。
 近接戦闘で集中しているふたりにとって、視界を確保する照明は後衛便りだった。
 綾が懐中電灯で視界の確保を行いつつ、真デヴァステイターで援護射撃を行う。
 ミンティアは練成強化を使用して、前衛ふたりの攻撃力を底上げをして彼女等を支えていた。
 予想していなかった側面からの音を聞きつけ、綾が懐中電灯で右側を照らす。
 目に映った光景に、ミンティアがぎょっとなった。
 右陣営から退いたキメラが、回り込んで彼女等に迫っていたからだ。その数は4体。
 気がつけば、彼女自身も前衛に立たされていた。
 ミンティアのエネルギーガンをキメラに命中するも、残りのキメラが突進して彼女の身体に牙を突き立てる。
「こいつら、一体‥‥?」
 焦りの中でミンティアの思考に疑惑に浮かんだ。
 綾がミンティアをかばうようにしてキメラの前に身体をさらす。
 彼女も当初から奇襲を警戒していたのだが、キメラはその行動予測を超えていた。本来ならば、目先の戦闘に熱中するはずのキメラが、数の優位を効果的に活かすのは非常に珍しい。
「ワニのクセに案外まとまった動きをしていて手ごわい‥‥。集団をまとめている奴がいるのかも」
 ミンティアの指摘は綾にも納得できるものだったが、彼女等の急務は眼前のキメラを押し返す事だった。
 キメラ達の後方から灯りが接近する。
「大事はないか、援護する!」
 ランタンを手にしたジェイが、キメラに向けて小銃『S−01』を発砲した。
 前衛としてキメラを退けたフラウが、迅雷を使用して援軍として駆けつける。彼女の振るったゲイルナイフがワニの前肢に突き立てられた。
 忍は自身が孤立しないように、同じく迅雷を使って後退する。
 間合いを外したと思った忍の意表を突いて、キメラは突進して彼女を追いすがる。
 驚くほど間近なキメラに、彼女の身体が反射的に動いた。
 体重を乗せた月詠でカウンター気味にその背中を縦に切り裂く。
「まずは1体」
 忍が倒した1体目のキメラ。
 これは、この戦いを通じて始めて倒せたキメラでもあった。

●黒いワニの頭

「なぜこっちへ来る?」
 フラウが疑問を抱くのも当然で、こちらへ戦力を振り分ける理由がよくわからなかった。どちらの傭兵も4人で同数なのだ。
「まさか‥‥、こちらの方が暗いから?」
 ミンティアは、キメラが物陰を選ぶようにして接近した先程の光景を頭に思い描く。
 体表が黒い事を利点としてキメラが自覚しているのなら、光を避けて行動するのはあり得る事だった。
「なら、試してみるか。俺達自身も灯りがあれば戦いやすいしな」
 遅ればせながら綾が手持ちの照明を取り出した。【雅】提灯とランタンによって彼女等の近くにあった死角が取り除かれる。
 光そのものが弱点ではないようだが、ワニはわずかに怯んでいた。
 隠れ場所を奪われると、さすがにためらいもでるのだろう。
 ミンティアもランタンを取り出して、近くに設置する。
 これで大部見通しが利くようになった。
 自分等の優位が崩されたと感じて、キメラ達が一時的に後退する。
 大きい傷を負ったワニが後方へ下がるあたり、総括的な判断を行っているのは間違いない。
「以外と知恵が回るんだな。後ろの方が安全ってか?」
 つぶやくと同時に、綾はその点に気づいた。
「確認してくれ! 一番安全な場所にいるキメラを!」
 空に向けて彼女が照明銃を発射する。
「リーダー断定! あいつだ!」
 ジェイが指摘した個体は、キメラ達の一番後方に位置していた。
 最初から最後まで動いていない、後方の真ん中にいたキメラだった。
 光弾が高くあがることで、すぐに闇が戻ってくる。
 こちらが気づいたことを察したのだろう。前衛のワニが一斉に飛びかかってきた。
「逃げられるかも知れんぞ!」
 知能が高ければ、勝敗よりも命を優先する可能性がある。
 フラウの発した言葉に、即座にアセットが反応して飛び出した。彼女を守るために、アリカとジェイがその後を追いかける。
 綾は記憶に残っているワニの居場所へ、両断剣を付与した銃弾を連続して叩きつける。スキルによる命中率の補正もあるため当たってはいるはずだ。
 アセットの進路をふさぐようにワニが立ちはだかった。
「何にせよ、ここは推し通る!」
 だが、彼女に代わり、ジェイの援護射撃がワニを排除する。
 さらにアセットへ追いすがろうとしたワニは、アリカが流し斬りで切りつける。
 ここまで来て、アセットの足が止まった。
 敵の到来を待つはずもなく、リーダーは低い体高と黒い身体を活用して、密かに身を隠していたからだ。
 手持ちの懐中電灯を向けるが、照射範囲が狭いために手間取ってしまう。
 3度目の照明銃が発射されてあたりを照らした。時間は短くとも広範囲の照明だった。
「さあ、姿を見せてもらいましょうか」
 聖次の生み出した光によって、コンテナ脇に身を潜めていたリーダーの姿が露わになった。
「貴方がリーダー? 悪いけど一撃必殺でいかせてもらうよ!」
 剣の間合いには遠すぎるが、アセットがコンユンクシオを振り下ろす。放たれたソニックブームの衝撃波がキメラに直撃した。
「一発必中一撃必殺‥‥撃ち抜く!」
 ジェイの援護を受けて、アセットがさらに距離を詰めた。
「はぁぁ! チェェェストッ!」
 渾身のスマッシュがリーダーの背中を切り裂き、息の根を止めた。

●黒いワニの群れ

 残るワニは11体。
 それまでの整然としていた動きを忘れたかのように、ワニ達は個別に暴れ出した。統一された意思から突如として放り出されたように。
 設置したランタン等がキメラを包囲しており、最初のように暗がりである不利もほとんど無くなっていた。

 飛びついてきたワニをひらりとかわしたフラウに、別方向からワニが突進してきた。
 これを迅雷でかわす。
 彼女は離れたキメラにはスコーピオンを打ち込み、接近を許してしまったキメラにはゲイルナイフで応じる。
「これで終わりだ」
 フラウが円閃を繰り出すと、切っ先から滴るキメラの血が弧を描いて宙に飛び散った。

 電波増幅をかけたエネルギーガンで、ミンティアはキメラを狙い撃つ。
 彼女の口元には、薄ら笑いが浮かんでいた。
「フォースフィールドで無敵面して食にありつこうとした罰ですよ」

 活性化で傷を治療した綾が、あらためて真デヴァステイターを構え直す。
「早いとこ、愛機の整備に戻りたいんでね。さくっと片付けていくよっ」
 戦闘に参加するでもなく、大きな口を開けて威嚇しているワニへ銃撃を加える。
「いっそ、ワニらしく唐揚げにしてくれようか」 
 彼女は両断剣を使用してとどめを刺すと、仲間の援護に回った。
 物陰から襲われる確率は減少したが、背後から襲われる可能性はあるからだ。

「‥‥食料を食い荒らし、兵士の人たちを手にかけた罪、死を以て償いなさい!」
 容赦なく振るわれるガラティーンと名刀『羅刹』。
 接近戦を挑むアリカと、援護するジェイの絶妙なコンビネーション。
 ただ暴れているだけのキメラ相手に披露するのは、もったいないぐらいだった。

 懐中電灯の重要度が下がったため、聖次は愛用の槍を両手で握った。
 攻め込もうとするキメラの鼻先へ、槍を向けて牽制する。
 キメラが意識が穂先へ向いた瞬間に、聖次は動いた。
「その隙、もらいますよ」
 竜の爪を使用して攻撃力を跳ね上げると、振り上げたランス『ザドキエル』でクロワニを真上から貫いた。

 ワニの振り立てている尾を、忍が疾風でかわす。
 その拍子に接近してしまったキメラが、横合いから噛みつこうと襲いかかった。
 それを受け止めた盾の表面をキメラの牙が削る。
 彼女は退く事なく、強引に盾で押し返した。
 たたらを踏むキメラを前に、忍が舞う。
 彼女の右手に握られた月詠の軌跡が真円を描き出す。
 その切っ先が、キメラの横腹をざっくりと引き裂いた。
「これで2体目」

●黒いワニの最後

 ほどなくして、確認できた13体のキメラを葬り、傭兵達も安堵の吐息を漏らした。
「久しぶりにキメラの相手をしましたがやられました。この一年惰眠を貪ったツケですかね」
 そういいながらも、ミンティアは自分の手でキメラを倒しているし、被った傷も自らの練成治療で回復済みである。
「気を紛らわすには丁度良かったかもしれませんね」
 前の依頼で幼い兄妹を救う事が出来ず引きずっていた聖次にとって、この戦いは気持ちを入れ替えるいいきっかけとなった。
 どれほど深い後悔に捕らわれようと、自分等にできるのは目の前の戦に勝ち抜き、生き延びる事だけなのだ。
「‥‥他にもキメラがいるかもしれません。確認しておきましょう」
 アリカの言葉を受けて、照明器具を手に手分けして辺りを調べてみた。
 しかし、どうやら襲撃してきたのはあれが全てだったようだ。
 彼等が新しいキメラを見つけ出す事はなかった。
 その代わりに見つけたのは、7人の犠牲者である。
 おそらく、見回りをしていたUPCの兵士なのだろう。
「‥‥せめて、弔いだけでもしておきましょう」
 沈痛な面持ちで遺体を見下ろすアリカ。
 同じ光景を目にして、ミンティアが考えたのは別な事だった。
「人を殺したのに喰わず、レーションを潰しに来るとは‥‥。やっぱりこのワニも兵器以外のなにものでもないんですね」
 野生の動物は自らの命を守るために敵を殺す。
 だが、本能と無関係に行われる殺害は、理性ある生命体特有のものだった。
 キメラがこのような行動を取るのは、バグアにそう命じられているからだ。
 高度な知能を持つ人類とバグアの戦争は、これから先も激化して行き、効率よく敵を殺す兵器を造り出していくのだろう。
 果たして、バグアとの戦争に勝ったとして、人類に幸せな未来が訪れるのだろうか?