●リプレイ本文
●分岐点へ
ディアブロ:翠の肥満(
ga2348)
ディアブロ:アリエイル(
ga8923)
ディアブロ:アセット・アナスタシア(
gb0694)
シュテルン:御山・アキラ(
ga0532)
ワイバーン:Loland=Urga(
ga4688)
アヌビス :フェリア(
ga9011)
ミカガミ :蒼河 拓人(
gb2873)
バイパー :イーリス・立花(
gb6709)
参加者と使用機体のデータをタクトが入力していく。
8人中3人がディアブロのため少し偏った編成となったが、これは諦めるしかないだろう。
所有アイテムの登録が終了するのを、傭兵達は各コクピットに腰を下ろして待っていた。
「今回はKVシュミレーターて訳だが、凝った作りの代物らしいな。まあ、受けたからには頑張ってみるぜ」
Lolandは内容に期待を膨らませている。
「おぉ、近接装備バリバリで戦えるのですか! あの人との戦い以来、陸戦してませんからなぁ‥‥。何はともあれ、研ぎ澄ます為に、いざ出陣なのです!」
フェリアは思う所があるのか、思考に合わせてさまざまな表情を浮かべていた。
「しかし、私はこういうRPGシチュエーションに縁でもあるのでしょうか。うむり」
「シュミレーションでKVに乗るのは訓練の時以来かな? 最近は生身依頼が多かったし、大規模前の肩慣らしに頑張ってみよっか」
そうつぶやいたのは拓人だ。依頼人と同じ名だが単なる偶然である。
「ミカガミくんの近接格闘能力、フルに発揮できるかな?」
「KVシミュレータ、あまり経験ないんですよねー」
イーリスは戸惑い顔だ。
「射撃武器が使えない分近接戦闘に持ち込むのが難しくなってくるね。限定された状態の戦闘か‥‥上等やってみせるよ」
アセットなどは課せられた制限が、モチベーションにつながっているようだ。
翠の肥満はビン牛乳をあおって気合いを入れる。
「フムン、では行くとしますかね」
●A班は左へ
先頭を進むのはLolandのワイバーンだ。
提灯を頭の上に載せているのはいささかシュールだったが、なにも4足歩行型だからという理由ではない。レーダーの代わりに視界を確保するため、シミュレーションの仕様でこうなっているのだ。格好悪くとも諦めてもらうしかない。
「KVでダンジョンRPGとはな。発想で負けたというべきか、しょうも無いことをと言うべきか」
アキラの搭乗するシュテルンは、右手に懐中電灯を持ち、左手には奇襲に備えた機盾『レグルス』を構えている。
安全を確認してから、アキラが呼笛を長く一度鳴らした。と言っても、笛をKVの口元に当てただけだ。
アリエイルとフェリアが追いつくと、再びアキラとLolandが先へ進む。
「シミュレータ‥‥。その割にはリアルですね」
そんなアリエイルのつぶやきは誰の耳にもとどかない。このシミュレーション上では通信機まで使用不可なのだ。
先行するアキラが、呼笛を短く一度だけ鳴らす。敵を発見したという合図だった。
後追いのふたりが仲間を追って駆けだした。
呼笛を鳴らしたし、照明を持ち歩いているため、敵を発見したのと同時に、こちらの存在も察知されてしまう。
アキラはG・オークの接近を待たずにKVボウガンを射出した。矢を受けながら接近したG・オークの槍先は、『レグルス』で横へ弾く。
Lolandは先手を取るべく、マイクロブーストで機動性を飛躍的に高めると、右肩のストライクレイピアをG・コボルトへ突き刺した。傷を与えたのを確認するとすぐさま離脱。
そこへ、傭兵仲間が駆けつける。
アリエイルは、機槍『グングニル』をG・オークへ向けた。柄後部に付けられたブースターでディアブロを加速させると、G・オークに強烈な一撃を喰らわせる。
ビームコーティングアクスに持ち替えたアキラは、G・オークの肩口に振り下ろしその体を断ち割った。
フェリアのアヌビスが装備しているのは『玄双羽』と『白双羽』。
「悪鬼‥‥斬滅!」
彼女は対となる機刀を手に、G・コボルトの刀と斬り結ぶ。
それをLolandが傍観しているはずもなく、挟撃できる位置へ回り込むと、無防備な背中へ再び槍を突き立てた。
こうして4機は2体のモンスターを倒してしまうのだった。
●B班は右へ
A班と同じく、罠などで一網打尽になるのを避けるため、拓人のミカガミが偵察を兼ねて先導を務める。
通路の曲がり角では一度警戒してから足を進めていく。彼の手招きに従って仲間達も歩みを進めていった。
「センサーのありがたさが分かるね。情報では知ってても見えない敵には変わりない‥‥」
アセットが実感した通り、KV本来の索敵能力を考えると、シミュレーションの制限は非常に厳しいものだ。これが実戦ならば大きな障害となっていただろう。
アセットと同じく、翠の肥満もディアブロを操縦しているが、2機を見分けるのは簡単だ。
翠の肥満が『GJr』と呼んでいる機体は、全身漆黒のボディに血管よろしくグリーンの線が各所に走るデザインなのだ。
彼等は敵との遭遇がないまま、奥の部屋まで到着してしまった。
腰ぐらいの高さの台座に近づいたイーリスは、金属製の品物を取り上げる。
「これは‥‥鍵でしょうか?」
大雑把に言えば『F』の形状で、下部は丸い輪となっていた。どう考えても、デフォルメ化された鍵だった。
それだけでなく、拓人は扉を思わせる大きな岩に鍵穴を発見してしまう。
KV達が、腕を組んだり、首を捻ったりして、戸惑いを表現している。
いかにも、鍵と扉なのだが、あまりに簡単すぎた。モンスターとも会わないまま、シミュレーションをクリアしてしまっていいのだろうか?
ここで、通信機を使えない弊害が生じてしまう。
お互いの意思疎通ができないため、彼等はジェスチャーで意図を伝えるしかないのだ。
罠を警戒する意見もあったが、シミュレーションという事を考え、彼等は行動に移す事にした。
イーリスの差し込んだ鍵は、彼女がひねるよりも先に、穴の中に引き込まれてしまう。
ぐおん、ぐおん、と壁や天井の内部から駆動音が響いてきた。
●A班はさらに左へ
先ほどとはローテーションを入れ替え、今度はフェリアとアリエイルが先行する。
足を止めた彼女等は、後続のメンバーへライトでの合図を行った。点灯から消灯して点灯というのは、敵を見つけた合図だ。
突き当たりの大きな部屋には、G・オーク3体とG・コボルトが3体存在していた。
どうすべきか相談したい所だが、やはり通信遮断が障害となる。
その上、彼等が決断を下すより先に、鳴り響いたベルが事態を進めてしまう。
彼等が知るはずもなかったが、右側の部屋で鍵を差し込んだタイミングだった。
モンスターと傭兵の双方に驚きが走り、戦いは混戦状態から始まった。幸運と考えていいのか、敵の2体が何処かへ走り去ったために、戦いは4対4だ。
G・コボルトを相手に、フェリアはヒットアンドアウェイを心がける。
「白き羽よ、我が身護りし風となれ! なのです」
避けられないと感じた攻撃は、『白双羽』での受け流した。
2刀の攻撃をかわしたG・コボルト相手に、足に装着した脚爪『シリウス』で追撃する。
「刀を避けられても、こっちには奥の手ならぬ奥の脚があるのですよッ!」
仲間への援護も兼ねて、彼女はラージフレア・鬼火を使用した。これにより、2体の命中力と回避力が減衰する。
フレキシブル・モーションによる噴進運動プログラムがアヌビスを高速で突進させた。
「疾風怒濤! 吹き荒れろ、ロウラァァァァァーンッ!」
狼嵐と名づけられている機体が彼女の信頼に応える。『玄双羽』はG・コボルトの腰を上下に両断していた。
G・オークの槍先を、ワイバーンの盾が受け流した。
右前足を軸として、身体全体を反時計方向に振り回したLolandは、右後足の脚甲『シュリガーラ』でG・オークを蹴り上げる。
ワイバーンを背後から狙ったG・オークだったが、それをフェリアが救う。鬼火の影響を受けた槍先が空を切った。
Lolandは手甲のルプス・ジガンティクスで槍先を捕まえると、マイクロブーストを使用したストライクレイピアでG・オークの胸を貫いた。
「‥‥一撃必中の蒼き電光を。グングニル・ブーストアップ!」
槍先を警戒して防御態勢に入ったG・コボルト。
しかし、アリエイルは構わずに最大ブーストで突撃した。
その一撃は、構えていた剣ごと肩口から先をえぐり取っていた。
「これで‥‥落とします!」
ナックル・フットコートβを装着した拳と蹴りを叩き込むと、ようやくG・コボルトが動きを止めた。
アキラの振り回したBCアクスがG・オークを弾き飛ばす。
「本当はボス用にとっておくつもりだったけどね」
彼女は切り札を使う事に決めた。
PRMシステムを使用して攻撃力を大幅に上昇させ、ブーストも併用して命中率まで底上げする。
盾を構えたシュテルンが側面からの突撃を行い、G・オークを突き飛ばした。さらに転倒している敵へそのままのしかかる。
振り上げた右腕を変形させたアキラは、うなりを上げて回転するツイストドリルをG・オークの腹へと突き立てた。
●B班はまだ右で
B班はなにも起きなかった部屋を後にしたが、事が起きるのは分岐点へ戻る途中だった。
ドドドドド。振動と騒音をともなって、灯りの中に1体のモンスターが出現した。
緑色の肌を持つ巨体はKVよりも大きい。それは、ジャイアント・トロルというモンスターで、この1階を守るボスであった。
G・トロルの振り下ろした無骨な棍棒を回避し損ねて、イーリスのバイパーがその場で殴り倒された。
「食らえ! ドリル足払い!」
ディアブロの脚部を変形させて、翠の肥満が敵の足を狙った。
あわよくば転倒させて動きを封じようとしたのだが、体の頑強さのためか、痛みに鈍感なためか、効果は薄かったようだ。
拓人が背後へ回りこみ、ソードウィングでG・トロルの背中へ斬りつけた。
「さあ踊ろうか。止まれば‥‥死、在るのみだ」
1体のディアブロが、ストライクシールドの先端を突き出して間合いを詰める。
「KVでの格闘戦闘がどこまでできるか‥‥!」
アセットはナックル・フットコートβを装着した拳で殴りつけた。
ディフェンダーを手にしたイーリスは、皆との呼吸を合わせて斬りかかる。
怪力任せで振り回す棍棒は強力で、4機は回避を主体に戦闘を進めていった。
笛が短く一回だけ鳴った。意味する所は『敵の発見』。
分岐点側から、事前情報にあったG・オークとG・コボルトが迫っていたのだ。
笛で知らせた翠の肥満が好かさず応戦に向かう。
「GJrキイイイイイイック!」
ただの跳び蹴りとでも思ったのか、受け止めようとしたG・オークは、レッグドリルに抉られて悲鳴を上げる。
もう1体を受け持ったのはイーリスだ。初撃にこそディフェンダーを使用したものの、乱戦では扱いづらいと考えて、KV小太刀に持ち替えていた。
「さあ、こっちだこっち! 捕まえてみろいッ!」
G・オークを翻弄しつつ、翠の肥満はKVボウガンで牽制を続ける。イーリスの援護をするために、G・コボルトへも矢を射掛けていた。
背中に矢が突き立ったのを見て、イーリスは敵の剣を強く払う。金属音と共に敵の剣が宙に舞った。
KV小太刀が翻って、G・コボルトの首を半ばまで断ち斬った。
一方、翠の肥満も勝負を決めるべく、ディアブロ固有のパニッシュメント・フォースを使用して攻撃力を大幅に上昇させる。
レッグドリルの足払いが片足を削り、転倒させたG・オークの胸元をチタンナイフで貫いた。
格闘中のアセットは切り札の機杭『エグツ・タルディ』を使用する。
「どんな装甲があったって、ゼロ距離からのこの攻撃なら!」
炸薬によって突き出されたメトロニウム製の杭が、G・トロルの腹部を深々と抉った。
さすがに痛みを感じたのか、G・トロルが棍棒でディアブロを殴り飛ばした。
入れ替わりに拓人が挑みかかる。
持ち替えた練剣『雪村』とミカガミ内蔵『雪村』の2刀。さらに、接近攻撃において真価を発揮する特殊マニューバを発動させた。
これが彼の切り札だ。
「練剣弐刃――煌きと共に万物を切り裂かん!」
交差させた太刀筋がG・トロルの胸に十字傷を刻む。
噴き出した大量の血を浴びたミカガミだったが、振り下ろされた棍棒を受けて地面に倒れ込んだ。
「なんて奴だ!?」
呆れるほどのタフさだ。
G・トロルの棍棒をストライクシールドで受け止めて、アセットが接近を試みた。
「力押しはディアブロの得意分野‥‥やれる!」
彼女の狙いは棍棒を握る右腕。パイルバンカーによる狙い澄ました一撃がG・トロルの右肘を粉砕する。
悲鳴を上げたG・トロルは無防備だった。
ブーストを起動させた拓人は、がらあきの頭部へ両手の双剣を続けざまに振り下ろした。
●真ん中へ
分岐点に戻って無事に合流できた8人だったが、それぞれの事情を説明するのがまた一苦労だった。
果ては筆談である。
ダンジョンにしゃがみ込んだKVが、地面に文字を書き込むのは奇妙な光景だ。
全員そろって正面の通路を進んだが、これ以後モンスターと遭遇する事はなかった。
突き当たりには鉄格子で囲まれた檻があって、扉が開いていた。G・トロルが閉じ込められていたのだろう。
檻の中で見つけた鍵を、壁の鍵穴に差し込んでみると、再びゴンゴンと何らかの駆動音が鳴り、またしてもなにもないまま終わる。
筆談をかわした彼等は一つの推論に達した。
右の部屋の鍵とは、中央の檻を開けるための鍵であり、左の部屋からモンスターを呼び寄せる仕掛けと思われた。中央の檻にあった最後の鍵で、今度こそ右の部屋の扉は開いたに違いない。
右の部屋へ向かった一行は、その考えが正しかった事を確認する。
彼等は、隠し階段を登り始めた。
シミュレーションを終えた傭兵からは、会話できるようにしてほしいという要望が出た。
頭を掻きながらタクトが応じる。
「もともとは、二手に分かれた時の会話を制限するのが目的だったんだよ」
ここまでの弊害がでるとは彼自身も考慮していなかったのだ。
「せめて、同一パーティー内なら会話できないと不便だったね」
ちなみに、真ん中から聞こえていた風の音はG・トロルのいびきだとか。
「まずは1階攻略て事だが、後で続きが出るんだろうな。そいつも楽しみにしておくぜ」
Lolandの言葉はタクトを喜ばせた。
「うん。期待に応えられるように頑張るよ」
本来の目的であるデータ収集よりも、彼は他の方面で頑張るつもりらしい。