●リプレイ本文
●1日目
ノーン・エリオン(
gb6445)が入手したロードマップを頼りに、出発前の傭兵達はスーパーマーケットに寄っていた。
荷物を満載しているカートを押して戻ってきたのは、買い出し担当のルノア・アラバスター(
gb5133)と、彼女のSPを自認するアルジェ(
gb4812)だ。
「スマンね、買出し任せちまって」
彼女等をねぎらった長谷川京一(
gb5804)が積み込みを手伝う。
飲料水や食料品、随伴車の燃料等である。糖分摂取用に果物まである。クーラーボックスまで準備するあたり、実にそつがない。
「聞き込みも、してきましたが、目新しい情報は、ありません、でした」
ルノアが特徴的な口調で調査結果を告げる。
傍らにいるアルジェもこくこくと頷いた。
「資料によると、時間帯による事件の偏りは少なかったし、あとはルート次第かな」
「最後の、事件が、発生した、北の、ルートが、いいと、思います」
「そんなところかな」
積み込みを終えると、傭兵達は班分けに従って2台に分乗する。
囮となるトレーラーは危険なので男性陣が、サルファ(
ga9419)所有のジーザリオには女性陣が乗り込んだ。
30分もしないうちに街並みを脱し、2台の車はアメリカらしい広々とした風景の中を疾走していた。
女性用にあてがったジーザリオだが、運転しているのはなぜか男性である。
「いや、別にいいんだけどさ‥‥。判断基準がメイド服ってのは‥‥」
涙目のサルファ。
女装したりする本人の行動にも問題があるわけで、誰かを責めるわけにもいかないだろう。
「のどかですねー、キメラが出るなんて思えないくらい」
流れゆく景色を眺めながら、柊 沙雪(
gb4452)がくつろいでいる。
「カマイタチ、名前は、知っていても、詳しくは、知りません、でしたね」
ルノアの言葉に、アルジェが眉をひそめた。
「かまいたち‥‥日本の妖怪。見切れる‥‥か?」
ルノアを守ろうとするなら、できないでは済まない。
「しかし何故、人間を直接、ではなく、トレーラー、なのでしょう?」
かくりと可愛く首を傾げるルノア。
「キメラの真意はわかりませんけど、UPC軍にとっては影響が大きいかも知れませんね」
告げた沙雪に少女達の視線が集中する。
「五大湖方面では大規模作戦が控えてますし、陸上輸送が妨害されると、作戦の進展にも影響を与える可能性がありますから」
●2日目
北ルートではキメラが見つからず、本日は北西ルートの調査を行っている。
昼食の時間を迎えると、彼等は何もない道端に車を停車させた。
初日はレストランに寄ったのだが、皆に不評だった。ハイウェイ上では近くに競合相手がいないためか、非常に残念な料理が出たのだ。
事前調査を行っていただけにノーンは悔しかったに違いない。これは場所が悪かったと諦めるしかないだろう。
その反省から、今日は自炊する事に決まったのだ。
アルジェの羽織っている外套からは、テントに飯ごう、そしてカレールーといった様々な品がこぼれ落ちた。何でも出てくる魔法のポケットのようだ。
「テントはいらない‥‥。後は、かまど作って‥‥」
野営の準備までしてきた彼女は、てきぱきと作業環境を整えていく。
料理が得意な人間も手を貸して調理が始まった。
「まるで、キャンプだな」
楽しげにつぶやく須佐 武流(
ga1461)。
「気を張りすぎても疲れるだけですしね。疲労を溜めないようにするのも大切です」
思い思いに腰を下ろした傭兵達が、できあがったカレーに手をつける。
「うまい。ずっと、自炊でいいかもね」
ノーンが満足そうに評価すると、沙雪は控えめに告げた。
「食料にも限りがありますし、あまりのんびりもできませんよ」
今日明日で尽きるわけではないが、長期での対応は難しいだろう。
キメラ退治は早い方がいい。
「つい先日、日本で鎌鼬を退治してきたトコなんだがねぇ‥‥」
「連続だもんな。最近流行なのか? あの生き物は?」
京一のつぶやきに九条・命(
ga0148)がうなずいたのも当然だ。つい先日、ふたりはカマイタチキメラに関する依頼で顔を合わせたのだから。
「コンセプトは悪くない、能力もシンプル。ならば似通った発想を行う者が多発しても可笑しくは無いか」
「フェレット、可愛いんですけどね‥‥」
なにもキメラにしなくても‥‥と、沙雪は考えてしまう。
傾いた太陽が沈みかけている中、傭兵達は北西ルートを往復して、出発した街へそろそろ到着するところだった。
「キメラとの決戦は明日に持ち越しかな?」
京一が残念そうにつぶやいた。
「今日も空振りだったからなぁ。他の車が襲われたって話も聞いてないし」
ノーンが口にしたとおり、キメラ退治につながる成果はゼロだった。
パン!
破裂音と共に、左側へ傾いたトレーラーが反対車線へと突っ込む。対向車がいなかったのは幸運と言えた。
「ちぃっ!」
舌打ちした武流がハンドルを切り返し、もとの車線へ戻そうとする。
突然の事態に、追走しているジーザリオ側も驚いていた。
「バーストしている」
アルジェの指摘通り、ざっくりと裂かれた前輪はタイヤの形状を保っていなかった。
「見てください! キメラです」
沙雪が指差したのは、トレーラーの上。
そこでは、命がキメラを相手に斬り結んでいた。
タイヤ付近は死角となっていたが、2匹目の接近は彼も視認できた。
トレーラーに向けて振るわれた斧を、命がキアルクローで受け止める。
タイヤを軋ませながらトレーラーが急停止したため、立っていたひとりと1匹は平衡を失ってトレーラー上を転がっていた。
座席から飛び降りた京一は、狙い澄ましたかのような針イタチの攻撃を、危ういところでかわす。
ジーザリオから駆けつけた女性陣を警戒し、キメラ達は距離を取って様子を伺っていた。
こうして、傭兵達とキメラ達の戦いが始まった。
●集団戦
縦に並んで疾走するイタチを、アルジェは正面から迎え撃った。
低い姿勢で疾駆する1匹目。両腕についている鎌を、アルジェは上に跳んで避ける。
続く2匹目は、彼女と同じように跳び上がって正面から襲いかかった。
「‥‥ベタだけど、踏み台にさせてもらう」
ここで、アルジェにとって計算外の事が起きる。
右足で踏んづけた1匹目のイタチが、ぺしゃりと潰れたのだ。キメラは彼女よりも小さいのだから無理もない。
つんのめったアルジェは、2匹目の斧を下にくぐる事で辛うじてかわしていた。
地面に転倒している彼女に向かって、3匹目の針が突き出される。
ドドドドド!
M−121ガトリング砲の吐き出した弾丸が針イタチに雨あられと降り注ぐ。
「アルちゃん!」
アルジェを救ったのは、彼女のパートナーであるルノアだ。
アルジェがルノアを護衛対象だと思っているのと同じく、ルノアにとってもアルジェは守るべき存在だった。
「なかなか厄介だな、あの連携。さて、どうしたものかな‥‥」
サルファのつぶやきは、皆の言葉を代弁したようなものだ。
「閃光手榴弾いくぞっ!」
皆の注意を促した京一が、閃光手榴弾を炸裂させる。
極めて短時間だが、キメラ達の視覚と聴覚が大幅に低減された。
一歩下がった位置から、サルファが魔創の弓で牽制し、イタチ同士の接近を妨害する。
ルノアのガトリングによる弾幕を受けて、3匹は分断された。‥‥かに思われた。
鎌イタチが命へと向かった。
「速いっ!?」
超機械を使う余裕もなく、一瞬で間合いを詰められた。
両腕に光る鎌のうち、右側だけはキアルクローで防いだものの、左の鎌が命の左太股を斬りつける。
回り込んでいた斧キメラは、命の背中目がけて斧を振り下ろした。
さらに、右側から接近した針キメラは、すれ違い様に右脇腹に針を突き立てる。
3方向から繰り出された強力な連続攻撃に、命はたまらずにその場で膝をついた。彼のタフさがなければ命すら失っていたかもしれない。
「はいはい、治療はこっちだよ〜」
軽く告げたノーンが錬成治療で命を回復させる。
「よし、治った! さぁいってこい!」
自ら前線に立とうとせず、そう言って命を送り出す。
戦場を知らない人間ならば、『何しに来た?』と問いつめたくなるような行動だ。
しかし、前線に立つ人間にとって、回復担当の存在は非常に心強い。彼は自分の役割を、スキルによる支援や治療と考えていたのだ。
●各個撃破
自分へ向かって迫るキメラ達を、武流がにらみつけた。
まだ、行動パターンを読み切ったという自信はなかったが、やるしかないと覚悟を決める。
まずは1匹目。右の鎌を左へかわし、左側の鎌はタイガーファングで受け止めた。
カウンターを狙ったが、1匹目はすでに傍らを駆け抜けた後だ。
続いて2匹目。
ダーン!
狙撃眼を使用した京一の番天印が火を噴いた。
「真ん中が切れれば連携は崩れるだろ!」
彼はキメラ達の要と思える斧キメラだけを狙っていたのだ。
そのおかげで、武流は3匹目の攻撃に備える事ができた。
「待ってたぜ、この瞬間を‥‥」
顔を狙って突き出された針を、わずかに頭を傾けてかわす。それと同時に、空いていた手でキメラの尻尾を捕らえる。
「テメェの体の一部をつかまれりゃあ、逃げられねぇだろ?」
イタチの腹部めがけて、拳による急所突きを叩き込んだ。
「すみません、そのまま抑えててください」
瞬天速で駆けつけた沙雪の両手に握られているのは、二刀小太刀『疾風迅雷』。
尻尾で吊り下げられた状態の針キメラに、彼女の二連撃と急所突きが炸裂する。
「さすがに風の妖怪‥‥速い‥‥」
アルジェは外套の中に収めてあるソードを投げつけて、鎌イタチを牽制する。
「動きに惑わされず‥‥その殺気を見る」
目を細める彼女をルノアが援護してくれた。
敵の行動を予測した影撃ちだったが、キメラはそれすらかわす。
だが、ガトリングによって降り注ぐ弾丸は、キメラに行動の自由を奪っていた。
身を竦ませた鎌イタチにアルジェが間合いを詰める。
キメラの2丁鎌を、それぞれ雲隠と夏落で受け止めた。
4本の刃が噛み合っている間に、番天印に持ち替えたルノアが狙い撃つ。
鋭覚狙撃による銃弾が鎌イタチをえぐっていた。
不利と感じたのか、鎌イタチが身を翻す。
強力な武器を持つ斧イタチを、一定の距離を保ち3人の男が囲んでいる。
「近づかせねえよ‥‥」
サルファは矢を放つ事で接近を許さない。
命が手にしているのは超機械『ブレーメン』。ただのオルゴールにしか見えないが、発せられた電磁波が斧イタチにダメージを与えていた。
傭兵を警戒していると見せかけた斧イタチが、たわませた全身のバネをつかってサルファに跳びかかる。
「たしかに早いな、だが直線的すぎるぜ!」
京一の強弾撃を受けて、斧イタチの軽い体が弾け飛ぶ。
武器をセベクに持ち替えたサルファは、一転して自ら間合いを詰めていた。
繰り出す技は、伍式。
両断剣とスマッシュを続けざまに放ち、イタチの体に十文字を刻み付けた。
とどめとなったのは京一による影撃ちだ。スコーピオンの銃弾が、斧イタチの頭部を貫通した。
ザン!
沙雪の左膝下で鮮血が散る。
背後に迫った鎌イタチが、走り様に足へ斬りつけたのだ。
伝承のように、転ばせるのが目的だったのかもしれない。
片膝を突いた彼女を見て、武流は捕まえていた針イタチを投げ捨てていた。
妹も同然な沙雪を守る事は、彼にとってなによりも重要だったから。
沙雪をかばおうとしている武流は、動きが制限されたために、イタチの攻撃を真っ向から受ける事となる。
タイガーファングのナイフ部分でなんとか受け流していく。
「お前の分の攻撃は、俺が全部受けてやるから安心しろ」
最近の仕事で大切な人を守れなかった後悔が彼をつき動かしていた。
彼はしくじるわけにはいかなかいのだ。もう、二度と。
守勢に回った武流を救ったのはノーンだ。
錬成治療を受けて回復した沙雪が攻撃に転じる。
二連撃によって、二条の銀光が走った。
宙に舞う、ふたつの鎌。
彼女は一度の攻撃で、イタチの両腕を斬り飛ばしていた。
武器を失った鎌イタチが逃げようとしたものの、後ろ足だけでは走る事など不可能だ。
そして、それを武流が許すはずもない。
「逃がしゃしねぇ!」
彼の足に装着されている『刹那の爪』が光っているのは、ノーンの練成強化によるものだ。
彼が右足を跳ね上げると、鎌イタチの柔らかい腹部がごっそりとえぐられた。
針イタチは自分の傷だけは治療できたものの、逃亡する余地など無かった。
新たに立ちはだかったのは、アルジェとルノアだ。
「アルちゃん、前は、任せました!」
「‥‥‥‥」
無言のままアルジェが前に出る。
応戦しようとした針を避けて、彼女はカウンター気味に雲隠で斬りつけた。
その戦いの合間に、ルノアは銃撃を加えていく。
「っ! ‥‥ちょこまか、と!」
初めのうちこそ敏捷さを活かしていたキメラだったが、ふたりの攻撃を受けるうちに動きも鈍ってきた。
自分を回復させるのもおのずと限界はある。回復の残数に問題はなかったが、ふたりの攻撃によって受けるダメージに回復が追いつかないのだ。
支援担当だったためか、攻撃力が弱かったのも災いした。
傷の治療を後回しにして、針イタチはアルジェへの攻撃を優先する。
それを、ルノアの影撃ちが迎え撃つ。彼女はアルジェの体をブラインドにして番天印で狙い撃った。
射撃タイミングに合わせてアルジェが身をかわした瞬間に、それまで立っていた空間を銃弾が走り抜ける。
ふたりの間にある阿吽の呼吸で勝負が決した。
傷を負ってバランスを崩したキメラの体を、アルジェの夏落が切り裂いた。
●戦い終えて
戦闘中にもノーンが錬成治療を行っていたものの、さすがに全員を完治させるまではいかなかった。
救急セットを手にしたルノアが、負傷者の手当を行っていく。
「日本の妖怪って面白いのが多いですよね。そのキメラと戦うのは、遠慮したいですけど‥‥」
沙雪の言葉には実感がこもっている。
アルジェはキメラ相手に投じたソードを回収していた。それらは全てマントの裏側に消えていく。
「トレーラーが壊れた後、帰りの足がなくなるんじゃないかと心配してたんだよな」
武流の漏らした言葉に、京一が苦笑する。
「考えてなかったな。それなら、トレーラーを守ってくれた命に感謝しないと」
「感謝はいいが、パンクを直さないと帰れないぜ」
命の指摘はもっともだ。
「スペアタイヤもジャッキもどこかにあったんじゃないか?」
言い出したサルファとともに、手分けして修理道具を探し始める。
どうやら、街へ戻るまではもう少しかかりそうだった。