タイトル:【極北】魚雷群マスター:トーゴーヘーゾー

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2011/03/29 18:10

●オープニング本文


 北極圏制圧作戦へ加わる予定だった、UPC軍の艦艇が航海中に攻撃を受けた。
 突然の衝撃を受けた艦が激しく揺れ、船内に海水が侵入する。
 艦長からの避難指示を受け、慌てて甲板へ飛び出す乗組員達。
 彼等は見た。
 艦を貫いている巨大な柱を。
 どこから出現したのかまるで理解できないが、ここで呆けていては、艦の沈没に巻き込まれて溺死するしかない。
 救命ボートを降ろすような余裕もなく、彼等は危険を顧みず、わずかな可能性を求めて海面へダイブする。
 必死で船から離れた彼等は、海中から新たに突き出でた柱を目撃する。
 海面に浮かぶ船が、3本の巨大な槍で串刺しにされた。
 その槍自体が身体を揺すり、海面にうねりが生じる。
 敵の正体は槍ではなく、円錐状の貝殻を持つ巨大なオウムガイのキメラだった。
 伸ばした触腕で船から胴体を引き剥がし、オウムガイキメラは再び海中へと姿を消していく。
 巨大な穴を空けられて浮力を失った船が、あっさりと海中へと姿を消してしまう。
 極寒の海に放り出された兵士達は、呆然とその光景を眺めていた。

 救助に差し向けられた艦艇には、護衛として傭兵達が同行する。
 この時点では明らかになっていないが、事態を知らせた通信士は、脱出が間に合わずに船と共に海に沈んでいた。

●参加者一覧

雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
コッペリア・M(gc5037
28歳・♂・FT

●リプレイ本文

●海上には人、海中には貝

「アリス‥‥久し振りな所恐縮ですが宜しくお願いしますよ‥‥」
「‥‥ん」
 挨拶する終夜・無月(ga3084)へ、無言のままにアリス・ターンオーバー(gz0311)が頷いた。
「基本的には船の直護に当たってもらうけど、無理はしないでね」
 水中専用機体ではない彼女へ、雪野 氷冥(ga0216)が念を押す。
 実際に水棲生物キメラへの攻撃にあたるのは、正式に依頼を受けた八名のKVであった。
「厄介なキメラだが、早々に片付けないと後に続く海上戦力の投入に支障を来すしな」
 大規模作戦への影響を懸念し、威龍(ga3859)が戦意を見せる。
「責任を持って片付ける事としようか」
「救助までの時間稼ぎとも言えますが‥‥。別に、倒してしまっても良いのでしょうけど、周囲のことも考えて戦わないと不味いですね‥‥」
 沈没した地点を書き込んだ海図へ目を落とす如月・由梨(ga1805)。
 探索を気づかう彼女が見上げた空には、住吉(gc6879)の搭乗するノーヴィ・ロジーナが飛翔していた。
「貴方達には指一本触れさせません‥‥」
「この極寒の海に投げ出されている方々の救助の為にも、救助隊の艦艇は必ず守り抜きます」
 捜索する船員達に言い残して、無月やリュティア・アマリリス(gc0778)が機体へと乗り込んだ。

 班編制上、単機で出撃する予定だった由梨は、直前のシフト変更によって、似たような名のユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)と組むことになった。
 潜行するリヴァイアサン五機には二人の乗機も含まれていた。
「船から先行して、早期発見に努めましょう」
「了解だ」
 氷冥に応じるのは、彼女とバディを組む翡焔・東雲(gb2615)。
 他に、リュティアは威龍と、無月はドクター・ウェスト(ga0241)と組み、合計四班で護衛にあたる。
「オウム貝‥‥突っ込んで来られると面倒だな」
 ユーリが、直衛のアリスや艦船のいる後方を、自然に振り返った。
 遭難者の捜索を目的とする以上、広い範囲をカバーしようとして、三隻が徐々に間隔を広げていく。それは、護衛役にとって困難さを増していくことにつながった。
「毎度ながら、新しい機体に乗る時はキツイ仕事を請けてる気がするわ」
「敵だ。こちらに向かってくる」
 ぼやいていた氷冥も、東雲の急報に応じて行動を起こす。
 オウムガイの英名はノーチラス。この名は、以前より潜水艦の名として使用される例が多い。
 小型の潜水艦を思わせるノーチラスを、東雲の小型魚雷や氷冥のホーミングミサイルが、水中花火となって出迎える。

●敵はノーチラス

 流線型の強固な外殻が爆発のダメージを軽減するのか、ノーチラスは速度を落とさずに接近していた。
 当初の方針通り、ユーリ組はこの敵への集中攻撃へ加わった。
「コレ、オウムガイではなく先祖のエンドセラスではないかね〜」
 そう評するウェストは、アンモナイトと表現しなかった最初の報告者に少しだけ感心する。
「もう一体の接近をソナーが感知しました」
 一体目の包囲は完成しておらず、警告を発したリュティアが威龍ともどもそちらの迎撃に回る。
 敵もまた散開しており、バラバラのタイミングで接敵がなされ、無月達もまた別な個体を発見したのだった。

 最初の個体であるノーチラスAは、魚雷の雨の中、墨を吐き出して姿を隠そうとする。ユーリの射出する魚雷まで加わって、増加した爆発が墨のカーテンを引き裂いた。
 もう一度吐き出された煙幕の中で、ノーチラスAが方向転換する。
 自機への突撃をかける敵に、ユーリはリヴァイアサンを変形させて迎え撃つ。
 SESを最大稼動させて、カウンター気味に水中機槍斧「ベヒモス」を叩きつける。手応えは感じられたが、伸びてきた触腕が武器を持つ手に絡みついてきた。
 横合いからブーストで接近した由梨が、その触腕をレーザークローで斬り捨てる。
 幾つもある触腕の一本だが、ノーチラスAが今度は由梨へ体当たりをしかけた。自分を敵として認識させようと望んだ由梨の狙い通りに。
 由梨へ向かう巨大な槍に、四方から四機の攻撃が取り囲んだ。
 ユーリがガウスガンを撃ち込むところへ、氷冥は水中用粒子砲「水波」による知覚攻撃を行った。
「これで落とせるなんて、思っちゃいないけどね!」
 しかし、ダメージがゼロのはずもない。
 一対四という数の差に比例して、与えるダメージの違いもさらに大きくなる。
 ノーチラスAの突進を装甲で耐えきった東雲は、こちらも装備していた「ベヒモス」で、敵の本体を半ばまで両断する。
 この一撃で、水を噴射する力を失ったキメラは、力無く触腕を広げ、海流に押されてどこかへ流されていった。

 パピルサグの魚雷と、リヴァイアサンの対潜ミサイルが、ノーチラスBを捉える。しかし、その破壊力はノーチラスBのスピードと装甲の頑強さに阻まれ、期待した損傷を与えられずにいた。
「まあ、オウムガイ系列であれば‥‥」
 考えがありそうなウェストのため、無月は魚雷を立て続けに打ち込んで足を止めを行った。
 墨を吐いて命中精度を落とそうとする敵に、無月は単純明快な手段で応じた。すなわち、圧倒的な弾数で押し切るというものだ。
「‥‥本体は殻と強力に接合していないのだよね〜」
 ウェストはリヴァイアサンを張り付かせて、本体を引っ張り出そうとしているが、生体兵器であるキメラは欠点が補強はされているらしく、思うようにはいかない。
 オウムガイの本体と組み合っているため、触腕が機体に絡みつき、機体表面のアクティブアーマーや、水中用太刀「氷雨」を握るで左腕に不調を生じさせた。
 それでも‥‥、補強だけでは構造的欠陥を補いきれず、ウェストは右腕のレーザークローを殻の中にまで突き入れて、本体と殻をつなぐ体組織の切断を成し遂げる。
 サザエの壺焼きをくりぬくように、リヴァイアサンはオウムガイの本体を引きずり出した。
 KVを突き飛ばして逃走しようとするも、殻を失った本体は海流に翻弄され逃げ足が鈍い。
 殻のかわりに、墨で姿を隠そうとするノーチラスB。
 しかし、無月はお構いなしに魚雷を撃ち出し、墨どころか本体までもボロボロに引き裂いた。

 遠間に捉えたノーチラスCへ、真っ先に届いたのは威龍の放った対潜ミサイルだ。彼は魚雷を弾幕替わりにして、接近を試みる。
「ここから先へは行かせません、全てお掃除致します」
 メイドらしく撃滅の意思を表したリュティアは、わずかにでも減速させようと多連装魚雷「エキドナ」をばらまいた。
 突進するノーチラスBと正面衝突するかと思われた威龍機は、水中戦闘スキルですかさず人型形態へ移行する。
 寸前でかわしたリヴァイアサンは、システム・インヴィディアによる燐光を発しながら、貝殻にレーザークローを突き立てた。
 リヴァイアサンを捉えようとする触腕を目にして、リュティアもまた接近戦を挑んだ。
 突然、二人の機体を激しい衝撃が襲う。原因は互いの機体だった。それぞれにしがみついた触腕が、二機のKVをぶつけ合わせていた。
 驚く二人の眼前が、吐き出された墨で真っ黒に染まる。ノーチラスCはKVを手放して急速離脱を行った。
「‥‥この辺が空戦のノリに近いんだよな」
 すかさずリヴァイアサンを変形させた威龍が追う。それに続くリュティア。
 リュティアの銃撃を援護に、威龍は再び近接戦へ持ち込んでいた。
「攻撃出来るチャンスは数少ないんだし、そのチャンスを生かせないでは武闘家としての名折れだしな。必ず決めてみせる!」
 リヴァイアサンと交戦中のキメラへ、リュティアの銃弾が撃ち込まれた。柔らかい本体部分では、銃痕がわかりづらいものの、流れ出る体液がその傷を物語る。
 リヴァイアサンのレーザークローが触腕の根本を深々と貫き、力の抜けた触腕が海流にたなびくのだった。

●障害物排除は目的にあらず

 ノーチラスD・Eという新手に対し、KVもまた二手に別れて応戦中だ。
 ウェストと無月の基本戦術は先ほどと同じで、話を聞いたユーリと由梨はガウスガンでの牽制を受け持った。
 銃撃の傷は浅くとも、その軌道には生じた影響を、無月は見て取った。
 パピルサグ固有装備のブラストシザースで、無月は敵の真っ正面に弾幕を張る。
 うまく取りつけたウェストだったが、左腕の不具合で思うように動けないらしい。
 無月はパピルサグを接近させ、リヴァイアサンの邪魔となる触腕を、レーザークローで一本一本斬り飛ばしていく。
 ウェストがようやく引きずり出した本体は、やはり、不格好に逃げ出そうとして、魚雷の爆発に飲み込まれるという顛末で海中に散った。
「巨大ドリルだね〜、って大きすぎるわ〜!」
 本体を失った巨大な抜け殻を、ウェスト機が沈まないように抱えている。研究所所長の肩書きを持つ彼としては、みすみす捨てるわけにはいかないらしい。
「‥‥あっちを頼めるかね〜?」
 彼が願ったのは、5体目と交戦している仲間への援軍だ。
 ちなみに、貝殻本体が大きすぎたため、レーザークローでなんとか破片を削り取り、彼はサンプルを入手することに成功する。

 リュティアや威龍の放つ魚雷の爆発をくぐり抜け、ノーチラスEが海中を突き進む。
「好きにやれ。こちらが雪野にあわせる」
 東雲の言葉を受け、氷冥はサーベイジで出力を上げつつ、人型形態のビーストソウルで敵の軌道上へ進み出る。
 彼女は、ノーチラスEの突進をそらすように、横方向からバンシーを叩きつけた。そのまま、貝殻の凹凸にバンシーの爪を噛ませて貝殻に取りついた。
 水流を乱す『アン』バランサーの存在がノーチラスEの軌道を狂わせ、さらにブースト機動まで行われたことで、あらぬ方向へと矛先を向けてしまう。
 うねうねと触腕を伸ばす本体へ向けて、零距離射撃でアサルトライフルの弾丸を叩き込む。
 それを奇貨として、リヴァイアサンを接近・変形させた威龍が果敢に攻め込んだ。引っ張って伸びきった状態の触腕を、レーザークローで斬り飛ばしていく。
 二機を抱え込んだままノーチラスEが移動を開始すると、高速移動で生じた海流がKVを振動させる。
 KVにあたらないよう狙いをつけ、リュティアと東雲の魚雷が炸裂する。
 機体を揺すられながらも氷冥と威龍の攻撃は止まず、増えていく傷に反比例して、移動速度は低下していく。
 無月達も戦いに加わり、ノーチラスEの命運は風前の灯火となった。

 その時、六体目の敵が出現した。
 交戦に加わることもなく、放たれた矢のようにノーチラスFは一隻の艦艇へ向かっていた。
「‥‥頼む!」
「任せてください」
 ユーリの言葉に即座に相棒が応じた。同型の機体だったが、行動力を上昇させた由梨の機体はさらに速い。
 ノーチラスの狙いが船なのか、その前にいるヘルヘブンかは不明ながら、アリスにしてみれば船を背負う以上は、かわすという選択肢は存在しない。
 自らの機体を盾とすべく、動かずに待ちかまえるアリス。
 機体を急速反転させたリュティアが、ブーストでノーチラスFへ追いすがる。推進力を生むために吐き出している水が息継ぎのように止む瞬間を狙い、リュティアの撃ち出した銃弾は殻の内部へと滑り込んでいた。
 ブーストを多用して追いついた由梨が、アクティブアーマーをぶつけるようにして、敵の軌道を強引にねじ曲げる。
 ヘルヘブンをかすめるようにして進んだ一機と一体は、船に接触することもなく通過していた。
 一旦、リヴァイアサンから離れたノーチラスFは、弧を描くようにして今度は由梨機目がけて突進する。
 それを妨害するように、ユーリと威龍、二機のリヴァイアサンが交戦に加わった。
 触手攻撃をせずに体当たりを繰り返すノーチラスFに、魚雷や銃弾がわずかずつダメージを積み重ねていった。
 幾度も繰り返されたユーリがガウスガンによる銃撃。一点集中による成果が現れ、貝殻を貫通した銃弾が内部にまで届く。
 取りついた威龍が、レーザークローを使ってさらに破損を広げた。
 そして、リュティアやユーリの多連装魚雷「エキドナ」が、その爆発力によって貝殻の亀裂をこじ開ける。
 貝殻を割られて浮力を蓄えられなくなったノーチラスFは、北極海の海底へと沈んでいった。
 勝利を確実視していたウェストは、突き放したように彼等の戦いを眺めていた。最近の彼に見られる悪癖で、味方すらも研究対象と見なすようになっているのだ。

 引き受けた仕事はすでに終了したと言えるが、彼等はまだこの海域に留まっていた。
「う〜ん、少し壊しすぎてしまったかね〜」
 嘆いているウェストの機体は、船に隣接させて停泊状態だ。起動できないほどに壊れたわけではなく、彼自身が遭難者の治療を手伝っているのだ。
「‥‥少しでも犠牲が出ないようにするのが、私にできることだろうしね」
「無事に全員を救出したいものですね」
 氷冥や無月はそれぞれの機体に乗り込んで、海上の探索に加わっている。
 由梨などは、沈没した船の引き上げにも手を貸そうと考えたくらいだが、現場の深さや船の大きさから言っても、現状においてはサルベージは無理そうだった。
「北極海での寒中水泳とは皆さん根性ありますよね〜。‥‥あ、救助しませんと本当に死んでしまいそうですね‥‥」
 通信機から聞こえるのんびりとした住吉の声に、海上を探索中だったリュティアが安堵の笑みをこぼす。
「苦労された皆さんには、体を温めるためにも、暖かいスープでもお出しするとしましょうか」