タイトル:【AC】愛機に捧ぐマスター:とびと

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/21 01:46

●オープニング本文


「‥‥‥‥っ!!」
 時計を見る。
 二つの針が描き出すのは、残酷な図形だった。
 やばい。その言葉を口にする時間すら惜しい。
 布団を蹴り上げざま、クローゼットに突進。能力者用に頑丈に作られた衣類をかつてない速さで身につけていく。代名詞になっている傷だらけのジャケットを羽織り、お守りの首飾りを引っ掛ければ、準備は完了だ。
 あてがわれた自室を飛び出しながら、鏡を見る。――寝癖? 見えない見てない。
 兵舎の廊下を彼は疾駆した。

『あのな、坊主』
 無線機越し。小隊長の男の声は、まるで死刑宣告を下すかのように重苦しかった。きゅ、と心臓が縮み上がる感覚。
『――依頼の出発は明日だぞ?』
 ドクン、と心臓が動き始め、次いで全身から汗が吹き出す。先に安心が来た。遅れて脱力感も襲ってくる。あぁ、やっちまった。無線機の向こうから同じ小隊に属するメンバーの笑い声が聞こえてくる。
『聞いてくれよ。新人が依頼の出発日を間違えやがった』と、小隊長。
 女の声が『え? ‥‥え!?』と応じ、さらに続いた別の男の声が切り捨てた。
『でも、間違えていたとしたら遅刻ですよね?』
 ゲラゲラ、ガヤガヤ。ミキサーに突っ込まれた野菜の心境。チクショウ。おかしいと思ったんだよ。小隊のKVハンガーに誰もいないから。
『で、坊主。ちなみに今、どこに居るんだ?』
「‥‥‥‥自機コックピット内です」
 無線は再び笑い声で埋め尽くされた。

『――て、わけでよ、俺らは今、KVのシミュレータをやってる』
『新人クンも一緒にどう?』
 心は揺れた。だが、静まった。しようと思っていたことがあった。
「折角のお誘いなんですが、いい機会なので『グリフォン』を綺麗にしてやろうかと‥‥」
 無線機に耳を当てながら、キャノピーの縁を撫で、愛機を見下ろす。機能美に溢れる『グリフォン』の表面には、無数の傷が付いていた。見覚えのある傷、見覚えのない傷。『グリフォン』と駆け抜けたいくつもの戦場が鮮やかによみがえる。
 女の声の端には微笑が滲んでいた。『それも、大事なことね』
『しばらくはそういう余裕も無くなってしまうでしょうし』
『ま、ここで溜まってるからよ。来たくなったら来いや』
 無線が、切れる。その機械的な切断は、冷徹なようで、人の温かさに溢れていた。一人にしてくれる優しさ。ブライトン博士の『演説』があったばかりだ。ラストホープをも前進させた総力戦――今回の『アフリカ奪還作戦』は間違いなく激化する。作戦が進行すれば、こういう時間を確保するのは難しくなっていくだろう。
 大きく息を吐き出し、自分の体の延長とも思えるようになったシートに体を沈める。
 ――ナイトフォーゲル『DH-201Aグリフォン』。
 インドに本社を置くMSI社が開発した魔獣型KVだ。褐色の機体は、選びぬかれた複数の曲線で構成された鋭角なフォルムを誇っているが、その変形後の姿には度肝を抜かれる。翼を持つ四脚の幻獣、グリフォンを模した姿に変形するのだ。
 コックピットから飛び降り、ハンガーの端にあるKV用の巨大なブラシとバケツを取りに行く。洗浄用水をバケツに注ぎ、一般人であれば持ち上げることも出来ないようなそれを『グリフォン』のそばへ。洗浄用水に浸したブラシを持ち上げ、ランディングギアの間から、腹にあたる部分を磨いていく。
 どこかの市街地の防衛戦で決めた急ターン。あれがなければ小隊はワームを撃墜できなかっただろう。あの頃はビビってたな。‥‥最近ので言えば、ヘルメットワームとの一騎打ち。そうそう、後ろを取られてて。急降下から変形して、水の上を走って、真下からヘルメットワームに襲いかかった。あれは勲章ものだったな。
 ところどころを洗浄泡に包まれた『グリフォン』の翼に立つ。中折れ式の可変翼。その先端にはKVに付与されるIDと製造年月が示されている。
 そっか。お前に出会ってから、そんなに経つのか‥‥。

 ――その日、小隊のハンガーから明かりが消えることはなかった。
 翌日。とある小隊長が、とある隊員の部屋に殴りこんだことは、言うまでもない。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
カイト(gc2342
19歳・♂・ER
紅 和騎(gc4354
20歳・♂・GP
蚕(gc4459
16歳・♂・ST
美空・火馬莉(gc6653
13歳・♀・ER

●リプレイ本文


「‥‥」
 いつ、だったか。美空・火馬莉(gc6653)の視界が靄に包まれたのは。
 視力が悪いこととは厳密には違う、と医者は言った。それからだろう。帽子を目深にかぶって伏し目がちに生きるようになった。
 ――だが、能力者の適正が見つかったことで美空の人生は一変した。
 否応もなく戦場に駆り出されることではなく。
 死と隣り合わせの生き方に身を置いていることでもなく。
 KVという最先端の科学に触れられたことが、彼女の人生を変えた。
『網膜投影装置』――それはKVの外の映像を視神経に直接送ることで、美空の視力を補正するために導入された装置のことだ。
 そう。
 彼女が戦うのは、全てが輝くこの世界に触れるため。

 今日は依頼任務のブランク日だった。兵舎にいてもすることはない。もやっとした世界に生きる美空の日常は、家事が得意な姉たちが何かと面倒を見てくれるため、そういう意味では暇なのだ。
 だから、ハンガーにぶらりと来て、愛機に潜り込む。用もなく出撃することはできないから、ハンガーという地下世界を見つめるだけになってしまうのは残念といえば残念。
 だが、美空は知っている。
 無味乾燥なハンガーにも人が集えば、色が溢れることを。
 家のソファよりなじむシートに身を沈め。『網膜投影装置』のヘルメット状デバイスを被る。起動と同時に目を閉じれば、彼女の視界は愛機のそれと一致する。
 今日のあの人は何をやっているのだろうか? 美空の観察が始まった。


「繰り返すようじゃがな‥‥」
 使い込まれた工具箱を床におろしながら、エンツォ老が言った。
「おぬしはKVを持ち過ぎじゃ」
「全てに。思い入れがありますから」
「‥‥ふん」
 その鼻息が、この偏屈な老人の最大限の譲歩であることをUNKNOWN(ga4276)は知っていた。知っているからこそ、その譲歩に甘んじたことはない。どのKVにも人並み以上の情熱を傾けて接してきた。
「積んでおるオリジナルのプログラムに対応した改造はどうする?」
 そう言ったエンツォ老の視線は88という年齢を全く感じさせないほど鋭い。『カプロイアの名工』という通り名は伊達ではないのだ。咥え煙草を指に挟みながら、UNKNOWNは事前に用意しておいた資料を取り出した。
「このように」
 名工はびっしりとならんだ数値に目を通し、
「どうなっても知らんぞ?」
 そう言って、UNKNOWNを見上げる。問いに微笑で答え、UNKNOWNはハンガーの隅に置いてある応接セットに向かった。
 レポート用紙が散るシックな木目のテーブル上には高性能PC。四方に伸びる無数の配線はそれぞれが機体に繋がっている。ソファに身を沈め、フロックコートの中から取り出した次の煙草に火をつけた。その視線はゆっくりとPCの画面をなぞる。機体のバランス調整と試作AIの反応実験が並行して行われている。どちらも順調だ。
 UNKNOWNは、煙草を揉み消すと、ロックのウィスキーで喉を潤した。
「ふむ‥‥次はこいつを完成させてみる、か」
 身を乗り出して、レポート用紙の1枚を手に取る。
 カラン、と氷が涼しい音を上げた。


 ホワイトナイト。
 愛称は純白にカラーリングされたS−01HSCが持つ盾と槍に由来する。
(傷だらけじゃないか‥‥僕もまだまだだな)
 ファイナ(gb1342)は純白の機体についた無数の傷を眺めながら、内心に呟いた。先日の大規模作戦。ホワイトナイトは『中傷』に区分されるダメージを受けていた。被弾ゼロには程遠い。
 白い騎士の隣にあるのは、対照的な真紅の機体『ディアブロ』。
 アセット・アナスタシア(gb0694)もレッドバンカーと名付けたその機体を見上げていた。
「レッドバンカー‥‥今までありがとう、そしてこれからもホワイトナイトと一緒に頑張ろう」
 前大規模作戦で大破したレッドバンカー。失って初めて気付いたその存在の大きさを忘れない。忘れてはいけない。
 しばらくして、ファイナとアセットは目を合わせた。
 するべきことは、決まっている。

『俺らはあんたらほどKVの改造をしてねえ。その点では安心してくれ。‥‥ただ、手を抜くつもりはねえぞ?』
 プチロフの電子戦機『サヴァー』から。小隊長の声だ。
『「ロビン」です。知覚重視のセッティング。お手柔らかにお願いします』
『「フェニックス」。よろしく』
 柔らかい男の声に、とげとげした口調の女の声が続く。レーザーを主体としたロビンが後衛、近接戦を得意とするフェニックスが前衛か。ファイナはそう分析する。
『「グリフォン」です。よろしくお願いします』
 とすれば、このグリフォンは遊撃役だろう。アセットは断じた。
 ファイナとアセットも軽い自己紹介を済ませる。小隊長の「問題はないか?」という声にイエスと返事をして、ファイナとアセットは操縦桿を握りこんだ。
『‥‥模擬戦を開始する!』
 その言葉が切れると同時に、レーダーに表示された4機のマーカーが敵機を示す赤に変わった。
 まだ、遠い。ブースターは使用せず、最大速度で距離を詰めていく。
「いくよ、アセット」
 距離は瞬く間に縮まり。
「うん‥‥! ファイナ! コード【デモニックタイズ】!」
 アセットがミサイルポッドの発射ボタンを押しこむのと同時に、ファイナはブースターを起動した。ミサイルが前衛のフェニックスとグリフォンに襲いかかる。ファイナはそれを追いかけるように加速。
 爆発が立て続けに起こる。
 内蔵されたベアリング弾をばらまくミサイルだ。多少狙いが荒くとも、大きなダメージを狙える。爆炎から上に抜けたのはフェニックス。ミサイルの危険を認知し、早めの回避行動をとったのだろう。だが、グリフォンはそうではなかった。キャノピーはひび割れ、機体のところどころから煙が上がっている。
 グリフォンの真横をすり抜けながら、ホワイトナイトは反転した。挟撃。それが作戦だが、その必要はなかったかもしれない。
 続くレッドバンカーの放つ突撃仕様ガトリング砲がグリフォンに致命的なダメージを与えた。レッドバンカーは変形後の落下コースをグリフォンの飛行コースに重ねて、変形。交錯の瞬間に『エグツ・タルディ』を叩き込む。
「一つ」
 戦闘機型に戻し、加速したレッドバンカーの後ろで爆炎が咲いた。
 ――この瞬殺とも言える撃墜がその後の流れを決定する。
 サヴァーの支援を受けた小隊の攻撃はかなりの命中精度を誇っていたが、囮として立ち回るホワイトナイトはそれらを巧みに回避し続けた。
 そのことにしびれを切らしたフェニックスを小隊から分断し、撃破。ロビンは冷静に動いたが、そもそも機動力が違う。支援機のサヴァーを守りきれず、先にサヴァーが墜ちる。
 それから間を置かず、シミュレータに4つ目の爆炎が咲いた。


 赤崎羽矢子(gb2140)は奥歯をギリッと噛み締めた。
「くそっ」
 毒づきは人気のないハンガーに吸い込まれていく。ただ、ナイトフォーゲルCD‐016G『シュテルン・G』だけが羽矢子を見下ろしていた。
 先の出撃は、『ユダ』へのG5弾頭攻撃を観測するブリュンヒルデIIの護衛任務だった。
『我はブライトン。我はユダ』
 大西洋に降下した黒い悪魔の声が脳裏に響く。
 奴は。ブライトンは。あたしたちの事など眼中にないかの様に振舞った。
 ――いや、実際無かったんだ。
 そして、いとも容易く攻撃艦隊を壊滅させた。
 ふ、と握りしめた拳が緩む。
「‥‥まだ、敵わないっていうの?」
 それは普段の彼女からは想像できないほどに弱々しい独白だった。
 艦隊を簡単に蹴散らす化け物と羽矢子は対峙した。そんな奴に戦いを挑み、何も出来ず死ぬことが恐いのだ。それ以上に、こんな臆病な自分を慕う小隊の仲間を死なせることがもっと恐い。
 打ち明けることは、出来ない。
 そうして積み上がった黒い重みが羽矢子の両肩を押し潰そうとする。
(いっそ次は小隊でなく個人で出撃しようか)
 卑怯な考えがよぎる。
(だめ。あたしを信じて付いて来てくれてる皆を裏切ることになる‥‥)
 正論だ。だが、それは卑怯な考えを打ち破る力を持ってはいても、道を示してくれるものではなかった。ユダの姿が脳裏をちらつく。呆然として。溜め息さえも詰まらせた羽矢子に出来たのは、自問することだけだった。
 どうしたらいいの? と。
 ――ピピッ。
 その瞬間、シュテルンからシステムチェック終了の通信が入った。
 チェックの概要が並ぶ、簡潔な文書形式の通信。
 文末には「system all green」の文字が誇らしげにあった。
「‥‥ははっ」
 不意に、可笑しくなる。
 物言わぬ機械。そう決め付けるにしてはあまりのタイミングの良さに『自分が居る』と励まされた気がしたのだ。
「そうだね。お前はこんなあたしも知ってる『相棒』だったね」
 恐怖心がなくなった訳ではない。
 だが、忘れていたことを思い出せた。
 私は一人じゃない。
「まったく。乗ってるんだか乗せられてるんだか」
 その苦笑を聞くのも、シュテルンだけだった。


 蚕(gc4459)の『リンクス』は木が密集する水辺に潜んでいた。もちろん、KVシミュレータだ。
 作戦は待ち伏せからの狙撃。頭部から飛び出すセンサーをフル稼働させ、時を待つ。
 その時は、すぐに来た。
 ぴぴっ、と電子音が鳴り、レーダーにグリフォンのマーカーが表示される。戦闘機状態で空を飛んでいるようだ。飛行コースはリンクスの真上を外れているが、近づいたときならばライフルの射程内。
 蚕は手早く機体の向きを変えると、ライフルを発射した。
『ッ!?』
 グリフォンの片方の翼が炎上し、機体が僅かに傾く。それでも、発射位置を探知したのだろう。褐色の機体は機首をこちらに向けた。
「ここまで辿りつけるかな?」
 蚕はライフルを立て続けに放った。グリフォンにはダメージが積み重なっていく。グリフォンから一斉にミサイルが放たれたのを見た蚕は、リンクスを戦闘機状態に戻すと、戦場を水辺に変えた。

 グリフォンはリンクスを追った。
 だが、湖の上に出たとたん、背後をリンクスに取られてしまう。機動力が目に見えて落ちているのだ。
 ちりちりと背中を焼かれるような感覚。スナイパーライフルが狙っている‥‥!
 瞬間、グリフォンは急降下した。尾翼を弾丸がかすめ、無線から蚕の驚嘆の声が聞こえる。水面にぶつかる寸前、機体を変形。この魔獣型のKVは水上を走ることが出来る。
 リンクスを見上げる。変形し、降下してくるリンクスの手には『センチネル』。
 奇しくもそれはグリフォンの武器と同じだった。
 機首を持ち上げ、下からすくい上げるように。グリフォンはリンクスに突進した。
 2本のセンチネルが交錯し。
 グリフォンの槍はリンクスの肩をかすめ、リンクスの槍はグリフォンの動力炉に深々と突き刺さった。

『新人クン、惜しい! もう一戦?』
「お願いしますっ」
 シミュレータの明かりは消えない。


 カイト(gc2342)は一瞬、我が目を疑った。カイトの機体は『ディアブロ』だ。そして、モニタに映しだされた相手の機体もディアブロのはずだった。
 仁王立ちする紅 和騎(gc4354)のディアブロを一言で表すならば、『青い』。
 青を基調としたカラーリングの機体は鋭利なデザインに改造され、その上からKVサイズの赤いマントを纏っている。西洋騎士のよう、といえば聞こえはいいが、ディアブロの原型はとどめていなかった。
 だが、そのマントの下にはずらりと刀剣が装備されている。
 カイトは無意識のうちに呟いていた。
「折角だ‥‥。近接武器同士で――」
『ヤ ら な い か』
 近接戦闘を愛する。同じ運命を背負った男達が向かい合ったのは、KVシミュレータの中。
 二機は遠距離武器をパージすると同時に、ブーストした。

『抉らせてもらうで、ワカメ君』
 みるみるうちにモニタの中で赤い機体が大きくなる。得物はバンカー。
 近づかれれば厄介、と和騎は冷静に分析。青いディアブロが双機刀を抜き放つ。
「舐めるな! 速度ならこちらの方が上だッ!!」
 ガッ、と『青』の右手の剣と『赤』のバンカーが火花を散らす。チューニングが違うとはいえ、同じ機体。じりり、と押し合う力に差はない。鍔迫り合いだった。
「まずは片腕、もらったぞ!」
『押せよ‥‥! スパイラルバンカー!!!』
 青は空いた左手の剣をすくい上げるように振るった。それと同時に、赤は鍔迫り合いの優位をとるべく、バンカーを射出。鍔迫り合う剣を弾き飛ばそうとした。
 交錯する意図。
 宙を舞ったのは、赤の右腕部ではなく、青の左手の剣だった。
 青はそのまま右手の剣も放り捨て、マントの下からブレイブソードを抜き放った。追撃とばかりに突き込まれたバンカーの一撃を潜り込むように回避し、
「迂闊‥‥だな‥‥!」
 そのまま切り上げる。咄嗟に身を引いた赤の胸部には一筋の傷。
 だが、それで怯む理由はない。赤い機体は、隙が大きいバンカーのリロードはせず、そのまま頭部の『角』を青に突き刺そうとする。クラッシュホーン。KVの頭部に装着するその角は、かなりの破壊力を有するが、当てるのが難しい。体をひねって回避されたこともあり、クラッシュホーンは青の脇腹をかすめるだけに終わる。
 そのまま、赤は装輪走行で距離をとった。その間にバンカーを再装填。
(バンカーの弾数は、2‥‥)
 和騎は青い機体を起こしながら、内心にそう呟いた。

「っ!」
 炸薬により加速した合金の杭が空を切るのをカイトは見た。自機のバンカーは空振り。カウンターが来る、と頭で理解する前に体が動き、赤いディアブロはバンカーを横に構えていた。
 が、と散る火花。青の大剣とかち合ったバンカー。
 カイトはその反動を活かして飛び下がる。打ち込んだバンカーは、リロード後、2発。こちらの作戦が通用していれば、相手はこちらが弾切れだと判断しているはずだ。
 その読みは的中した。
 青はブーストと同時に、持っていた大剣を投擲。
 こちらを弾切れと勘違いしての行動だろう。だが、それは、仕掛けてくることを読めていても反応しきれない速さと精度だった。機体を大きく横倒しするように回避する。カイトの視界には、ブーストの加速で大きく近づいた青のディアブロが映る。その手には練剣『メアリオン』。
 ――迷う隙は、ない。
 赤は身を起こし、バンカーを構える。
 青は剣を翻し、赤に迫る。
 2人のパイロットの言葉は、奇しくも重なった。
「『貫けぇ! 奴よりも‥‥速く!!』」

「相討ち、ね」
 和騎は息を整えながら、ぽつりと言った。
 KVシミュレータの画面は落ち、筐体の中は暗い。頬を伝う汗を拭う。
 こちらの一撃は相手の胴を逆袈裟に両断し、相手のバンカーはこちらのコックピットそばの動力炉を打ちぬいていた。どちらも文句なしで行動不能。大破だ。
 だが、得たものは多い、と思う。
「そろそろ行くか‥‥」
 シミュレータの筐体が開く。和騎は眩しさに一瞬目を細めた。