●リプレイ本文
四国にある一つの学校に招かれた者達は愕然とした。
ソレはなんなのだろう。目の前に広がる瓦礫の山。人間のうめき声が一つの塊となり、一帯を埋め尽くしている。何かが落ちる音がするが、それはすぐに大音となりコンクリートが崩れる音と重なりあう。
学校を囲んでいた木々も倒れ、辺りに広がるのは荒れた場所。
「キメラ‥‥ね。迷う必要はないわ。行きましょう。どこかにキメラが潜んでいるか分らないから気をつけて」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)は、瞳の色を朱色に染め一歩前に進んだ。
「旅行が台無しです‥‥どうしてこんなところにキメラが」
「ほんとうです。せっかくの旅行がー! なにしてくれやがったんですか‥‥キメラ撲滅ですね」
セレスタ・レネンティア(
gb1731)にヨグ=ニグラス(
gb1949)もまた、惨状にたいし気持ちを漏らし覚醒する。
レオンティアの腕から青白い光が浮かびその服の下には、紋様が浮かんでくる。
ヨグの首にも黒い線が刻まれる。
「私の今の生きる理由がまたここに‥‥それは目の前の命を守るためだ!」
クレア・アディ(
gb6122)は覚醒する。道のりを示すように銀糸の欠片が歩んだ後に煌く。
「そうだ、一刻の猶予もないんだな。俺も向かおう――」
アーヴァス・レイン(
gb6961)は自らを鼓舞するかのように言い、討伐班となりキメラを倒すべく覚醒した。
五人人は正門をくぐり、整備された道を歩いていく。廃墟と化した場所へ――。
「私は救助に向かう‥‥お願い、倒して。生徒を少しでも助けるために」
瑞浪 時雨(
ga5130)は強い願いを込めて討伐に向かう仲間の背中に頼んだ。
「時雨さん、私じゃなくて私たちよ。一緒に行きましょう」
望月 美汐(
gb6693)は、気負う時雨の緊張をほぐす為に優しく微笑んだ。
「もちろん、手伝うのダー」
レベッカ・マーエン(
gb4204)もまた意気込みを表した。
三人も瓦礫の道を歩き始めた。
「どこにいるのかしら‥‥」
ケイは細く長い手で目元に影をつくり、辺りを見渡す。
「さほど広くもない。建物が2つ。体育館が1つと言ったところだろう」
アーヴァスは冷静に勤めキメラの動きがないか、生徒たちの姿はないか探した。
深入りすればキメラも簡単に見つけることができるだろうが、このあたりにいないと断言できるまで動くべきではないと、4人は判断した。
入口付近にいる救護班がキメラに心配をせずに救護に努めるために。
「こっちにもいませんでした。もう少し進みませんか?」
ヨグは現状の位置からなにも見つけれないことから、提案をする。早く倒さなければ、多くの死者をだすことになってしまう。最悪、学校からキメラが移動する恐れもあるのだ。
「入口付近には逃げ遅れた生徒さんたちもいませんでしたし、ヨグさんの言う通り進んで構わない気がします」
セレスタも奥へと進むことに賛同する。目の前にあったのであろう校舎の壊れた一階、落ちてきて潰れた二階、なんとか地上におりたった三階をみているのは痛々しい。
四人は無言のうちに進むことを決めていた。討伐班、あと一人が来るのを待つ。そこに、無線機から声が発せられた。
隠密潜行を使用し先行し周囲の捜索を開始したクレアは、校舎の瓦礫の一部を手に持ち暴れている熊型のキメラを発見した。
無線機を取り出し、討伐班へと連絡をいれる。
「こちらクレア。分れた方向――学校入口を背面に、三時の方向に熊型キメラ発見したわ。まだ、こちらには気がついていない」
通信が入った四人はすぐに駆けつけた。
三階が一階となっている建物だ。足場が悪く、いつ崩れおちてきても不思議ではない。
「来てくれたか――あそこにいる」
クレアは集まった四人にキメラの姿を指示す。
キメラは建物の壁に両手をつき壁を壊そうとしている。
「えと、早く止めないと、この場所が落ちてきますよ」
ヨグは震える建物の柱を見つめたた。校舎だけあって鉄でできた柱の強度は強いはずだが、キメラの手にかかればそんなものはただの木の棒同然だろう。
「ならばいくまでだ――」
「私もあなたと共に行きましょう――無理をして怪我をしたら意味がないですからね」
アーヴァスとセレスタ、ヨグがキメラに向い走りだす。
走る音に気がついたキメラはゆっくりと振り向いた。その動きにそうようにして、手に持つコンクリートの欠片を投げつける。だが、その塊が二人に当たることはなかった。
「お痛のし過ぎはダメってコト、教えてあげる‥‥。ほら、こっちよ?」
後方に控えているケイが銃で塊を撃ち飛ばし、そのまま二人の援護へと周る。
「一体お前は何のためにこのようなことをした‥‥」
クレアもまた銃を取り出し、弾を撃ち込む。それはキメラにではなく、キメラの動きを一瞬鈍くするために足元を狙った。キメラは銃に怯むことなく突進してくる二人にさらにコンクリートの塊を投げつけようとするが、ケイが再び狙いを定め撃ち落とす。そして、クレアがまたキメラの足元を撃ち行動に制限をかける。灰色の幕が広がった。
幕が広がっている奥では、三人がキメラと相対していた。
まず、セレスタが最初にキメラに近づいた。キメラは近づく者を壊そうと太く丈夫な腕を振り回す。目と勘で相手の攻撃を避ける。避けながらも攻撃の機会を待つ。
「セレスタさん、んと、いきますっ!」
ヨグは少し離れた位置から武器アーミーナイフを取り出し、振り下ろされる腕に切りつける。キメラの声が漏れるが対して効果はないようだったが、セレスタはそこに攻撃の隙を見つけ出し、自らもスキル流し切りを発動させた。
「ちっ――装備が整っていれば‥‥」
攻撃を与え再びキメラが自らの動きを取り戻す。装備が不十分だったため、攻撃が思うように当たらない。
「屈め――」
セレスタの背後から壱式を構えたアーヴァスがキメラに切りかかる。
「‥‥相手が悪かったな俺達相手に勝てると思ったのか?」
キメラはここで頭から体を半分に切られ絶命した。
一端外に出て今後の方針を検討する。倒したキメラの実力を考えてセレスタが発言をした。
「体育館側ともう一つの校舎側に分れても問題なさそうね」
皆が頷き二手に分かれた。
瓦礫に埋まっていた生徒を助け出しながら、時雨は呟いた。
「銃撃音が止みましたね‥‥」
目の前にいる生徒は右足が瓦礫に埋まっている状況だったが、つぶれることもなく軽い打撲と出血ですんでいる。
ただ気絶してしまっているため、一人置いていくのには抵抗がある。
「こっちにも三人、どれも軽症ダー。連れていってもらえばいい」
レベッカの後ろに三人歩いている。三人とも顔や腕に軽い怪我を負っているが、特に問題はなさそうだった。
「そうですね、お願いしてもよろしいですか?」
生徒たちはすぐにうなずき、気絶した生徒を運びだしていく。
「傷痕‥‥残らないといいのですが」
「きっと大丈夫ダー。さ、今からが問題」
望月の心配に答え、レベッカは先ほどまでキメラとの戦いが行われていた建物。
「そうですね。校舎の中にはきっと多くの生徒がいるはずですから――救わなければ」
「目の前で死なれるのは目覚めが悪い。一人でも多くの生徒を救うのダー」
「行きましょうか‥‥」
時雨はおずおずと、校舎へと二人を促した。
中はまだ埃が舞っていた。
「すみませーん、誰かいませんかー」
「いたら返事をしろ」
「お願いです、返事をしてくださーい」
三人の声が校舎の中に響き渡る。一方通行の廊下を歩き、傾いた扉から教室一つ一つを見ていく。
「いませんね」
美汐は心配そうに呟いた。これだけの被害だというのに誰もいないのは、可能性としてはゼロではないだろうがゼロに限りなく近い気がしてならないからだ。
「‥‥この下にいると考えるのが妥当か」
レベッカは足もとに転がる瓦礫を軽く蹴りつけていう。
「生き埋め‥‥まだ間に合います。瓦礫をどかしましょう」
「それしかないだろうな」
時雨は行動と発言を同時に行っていた。足元に広がる瓦礫を持ち上げ始める。レベッカと美汐もまたしゃがみこみ瓦礫をどかし始めた
細かい瓦礫は少なく、大きい塊を持ち上げどかす作業だ。振動を与えないためにも、今無事の校舎がつぶれないためにも補強材として壁に寄り掛からせ置き場所にも困らなかった。
瓦礫をどかしていく。そこには机の下に隠れるようにして潰れた生徒達が数名生き埋め状態になっていた。
「すぐに手当が必要だ」
レベッカは中に降り、生徒を引き上げ時雨、美汐に渡していく。五人だけだったが、誰もが一目でわかる重傷だった。三人はすぐに手当を開始し、今できる限りのことをし五人を安全な場所へと移動させた。
奥にある校舎へと向かっていた、ケイ、セレスタ、ヨグ三人は無線で仲間の状況を把握した。一番の気がかりの生徒は生き埋めになっていることだ。早くキメラを倒し救助隊を受け入れる状態にする必要がある。
「えと‥‥笛を吹いてやるのです!」
音が鳴る。
「現れませんね」
セレスタが辺りを見渡しながら調べていく。
「不思議ね。こっちの校舎はそれほど大きな損害は受けていないみたいだけれど」
「確かにそうですね‥‥キメラはあれ一体ということでしょうか」
「んと、ボクはそれはないと思うんですが」
ケイとセレスタの疑問の会話にヨグも加わる。
ヨグの指摘とおり、三人が歩いている道の木々も全て倒れている。先ほど倒したキメラがこの辺り一帯を通り入口付近の校舎を壊したとは考えにくい。三人はキメラの姿を捜しているとき、無線機から声が漏れた。
「駄目だ。こっちは今戦闘中なのかもしれない」
レベッカは苛立たしげに叫んだ。後ろでは時雨の撃つ音が響く。
「キメラを発見しました――生徒がすぐ傍にいます――来てください! 入口近くです」
美汐は焦りを感じながら無線から応答がくることを願った。――そして、それは叶った。
瓦礫に埋められた生徒を運ぶ最中、キメラと遭遇してしまった。
「すぐに応援に来てくれるようです」
レベッカは頷き無線機の代わりにエネルギーガンを取り出し、キメラに攻撃を仕掛けている。
「助け‥‥ないと、絶対‥‥」
時雨は重点的にキメラの片足を狙って撃ち続けた。
「私も出ます!」
武器セリアティスを持ちキメラの前に出ていく。時雨の片足だけを狙う攻撃をさらに有効にするために、槍を回転させ突きキメラの動きを封じる。
「今がチャンスなのダー」
レベッカは銃をしまい、スキルの射程まで行動を進める。射程距離を捕えるとスキルと仕掛ける。
「練成弱体、シュート!」
キメラの体が大きく傾いだ。
その隙を狙い、美汐はスキル竜の爪を使用しキメラの眉間に打ち込む。
「多くの生徒を傷つけた報いです」
キメラは頑丈でまだ倒れない。あと一歩で倒れるところに、誰もいないはずの方向から銃が流れてきた。キメラの体はよろめきあと僅かで倒れる。
時雨は倒すために、銃を撃ち込む。更に別方向からも援護射撃が来る。
キメラは目を潰されそのまま大きく倒れた。
レベッカと美汐は一旦時雨がいる場所まで下がり銃が来た方向を見ると、ケイがウィンクをして合図してきている。来てくれたのだ。
駆け付けた三人は飛びだす。まず最初に攻撃を仕掛けたのはケイだった。銃を持ち立ち上がろうとするキメラにニ連射、影撃ちで注意を自分たちへと向ける。生徒を運び出そうとする救助班の邪魔だけはさせない。
「蝶の舞をご存じかしら――そう知らないの。では、堪能するといいわ」
ケイはそう言い、キメラを翻弄するように蝶のようにヒラヒラと自らの服を髪をなびかせ銃を撃つ。だが、その狙いは正確であり頭を中心に狙い撃ちを続けた。
注意がケイに向けら得ている間に、セレスタとヨグはキメラの近くに来ていた。
銃に気を取られていたキメラは二人の存在に気がつくと、咆哮を挙げその力強い腕を振りかざした。
今から逃げても間に合わない。そう感じたヨグは竜の鱗を使用し、セレスタと自らの身を守る。
「ボクが守ります」
注意が完全に攻撃にあるキメラにむかい、セレスタもまた自らの仕事をこなす。スキル流し斬り、急所突きを使用しキメラの行動力を大幅に削減。ヨグがそこにナイフを突き立て、ケイがゆっくりと歩みより口内にアラスカを撃ち込んだ。
これで二匹目のキメラが退治された。
二匹目と戦闘中だったころ、体育館側に向かっていたクレアとアーヴァスもまた戦闘を繰り広げていた。
先制をしかけてきたのはキメラの方だった。突然現れ、両腕を振り回し周りの木々を倒していく。それを交わしながら、二人は攻撃の機会を待つことなく作り出す。
アーヴァスは一端後退し、銃を取り出し牽制をしかける。キメラは怯むも倒した木を盾に攻撃を止めることはしない。それでも攻撃の相手がほぼアーヴァスに絞られていた。
クレアは右側からただ一点を狙い定めた。
「――そこだ」
クレアの銃はキメラの右目を撃ちぬき、次いで左の目をも撃ちぬく。
完全に視界が閉ざされたキメラは怒り狂いその場で木を持ちながら回転する。
クレアは銃をその場に置き、曲刀を取り出す。振り回す木を避けキメラの懐に飛び込む。そのままキメラの腹部に斬りつける。よろめくキメラ。
アーヴァスもまた、壱式を取り出しクレアに次いで攻撃をしかける。もうその頃にはキメラは動かなくなっていた。
「‥‥このようなことをしても、何もならないというのに――」
クレアは完全に動きをとめたキメラに向けて呟いた。
「クレアさんにアーヴァスさん、ご無事でしたか」
美汐は生徒を運ぶ途中に戻ってくる二人と出会った。
「キメラの方はどうですか?」
「もういないだろうな、一周してきたが見当たらなかった」
アーヴァスが返事をし、クレアが美汐に逆に訪ねた。
「そちらの方々は‥‥被害者ね」
「はい‥‥。まだいると思うので‥‥お手伝いお願いします」
二人は当然というように頷き、美汐とは反対方向へと歩きだす。
「一体‥‥なんのために、こんなことをするのだろうな」
現場でも多くの人々が傷つき多くの生徒の命が失われたであろう。クレアは胸に手を置き大きく息を吸い吐いた。
「だが、確実に助かった命もある。まだ、そして助けることのできる命も――行こう」
アーヴァスは救出された生徒を思い出し微かに笑った。
「旅行が、重労働になるとは思ってもいなかったな」
レベッカは負傷した生徒の手当をしながらつぶやく。
「でも、助けれて‥‥よかった」
頷きかえす時雨。
「んと、えーと、ボクはこっちの瓦礫をどかすです」
「手伝いますよヨグさん」
セレスタとヨグは瓦礫の下に眠るか分からないが、それでも手あたり次第探していく。
「二人から連絡が入ったわ。キメラ発見なしですって」
ケイの言葉は、キメラの脅威がなくなり生徒達の安全が守られたことが確証した。