●リプレイ本文
カンパネラ学園の木々生い茂る場所から、2匹の猿の大合唱が響いていた。朝昼晩と騒ぎ物を奪ってはそれで攻撃をしかけてくる。そしてまたねぐらへと帰っていく。
どう考えてもこちらを怒らせ、おちょくっているようにしか見えない。生徒達は何度武器のトリガーを引きそうになったことだろう。
そんな日々も今日で終わると皆が思ったことだろう。
ここにメンバーが揃い今日、猿退治を決行することとなったのだから。
揃ったメンバーは5人。各々アフロに対する思いを胸に猿を退治すると言っても間違いではないかもしれない。
UNKNOWN(
ga4276)はアフロの呪を胸に、芹架・セロリ(
ga8801)は一方通行の思いを胸に、彩瀬・梨衣(
gb1382)はアフロの使用方法を正すために、リア・フローレンス(
gb4312)はキメラの殲滅のために、フィー(
gb6429)は自らを鍛えるために森へと向かう。行くまでの道のりが大分汚れている。子供がおもちゃで遊び広げた場所を思い出させた。
「すごい散らかりようだな。全て学校のものだろうがな」
UNKNOWNは長い足もとの先に転がったボールを蹴りながら言う。
「ガジガジガジガジガジガジガジガジ‥‥‥‥」
「どうしたの? さっきからぬいぐるみの耳を噛んだりして」
アフロカツラを被るセロリの髪形の乱れた部分を直しながら、アフロを愛する梨衣は尋ねる。
「やっぱ‥‥やだ! なんでボクこんなの被っているんだろう! てんたくん‥‥持ってください」
少し離れた位置にいるフィーが頷き、投げられたぬいぐるみを受け取る。
「‥‥来た‥‥」
フィーは投げられたぬいぐるみの頭を見つめると、微かに湿っている。フィーは考えてしまう。投げられた、ということは自分も噛めということなのだろうかと。
助言者UNKNOWNは言う。
「持っていて、と言っていたから持っているだけでいいと私は思うが」
フィーの真っすぐの瞳が長身彼を見上げ頷く。
「えぃ‥‥‥‥!!」
被っているアフロを投げつけるが、どういうわけか明後日の方向へと飛んでいってしまう。アフロの女王が小さく悲鳴を上げる――がそこに、俊足の称号を持つフローレンスがアフロをキャッチし、ぬいぐるみの頭に被せてやる。
「被せればいいんですね! はい、できまし‥‥!!」
「キターーーーーーーー」
てんたくんのアフロ姿に向かって叫ぶセロリに、あまり表情を変えないがこのときばかりは驚くフィー。離れた位置にいるフローレンスも何が来たのだ? と疑問の顔が浮かんでいる。
「ふふ、アフロをお気に入りのお人形にかぶせて興奮しているのね。分るわ。あたしも時折自分の姿を見て興奮するもの」
分るわ、としきりに頷く梨衣は落ち着かせるようにセロリの背中を優しく叩いた。
「十分交流はすんだと思うが、どうだろう?」
煙草を咥えながらUNKNOWNは任務へと進むべく切り出した。
森は静かだった。風に揺られる木々の動く音が聞こえてくるだけだ。だが、この森のどこかに猿キメラが二匹いることは間違いない。5人は近くの場所を円を描くようにしてして捜索することになった。
一番遠い場所にはバナナを手に持つ、UNKNOWNが探していた。
猿キメラは必ずこちらの動きに気がついているはずだ。先ほどあれだけ騒いだのだから。ならば近くに来ていると考えて間違いはないだろう。そう考えるUNKNOWNは慎重にバナナを1本食べ、前へと進む。
「キキキキーーーー!!!!!」
猿の威嚇の声が頭上から聞こえてくる。UNKNOWNは煙草を上下に動かしながら辺りを見回した。すぐに1匹の猿が目に入った。この猿はアフロを持ってはいない。
「1匹発見だな。さ、もう一匹のところに私を連れて行ってくれ」
バナナを持たない手は武器をつかんでいる。猿が襲ってこようとすればすぐに攻撃を仕掛けるつもりだ。だったが、猿は片手に持った布を投げつけてくる。
「んなっ! あの猿め、お、私に再び呪われろということか‥‥!!」
投げられたのは海パン。黄色とピンクの派手で履いていれば一目でわかることだろう。払いのけ猿キメラに攻撃をしかける。が、1匹の猿は森の中へと隠れてしまった。
「まあ、いい。今は仲間の元へ誘導するのが第一だからな」
投げられた水着には目もくれず猿が去った方向へと進んだ。
もっとも大きく、もっとも美しいアフロを持つ梨衣は2人で行動していた。狙ってくるなら彼女の持つアフロが1番狙われると誰もが思ったからだ。
共にしたのはフィーだ。森の中を遠くまで見通しながら進む。
「神聖なアフロを遊び道具に使うなんて‥‥お仕置きが必要ね」
「‥‥‥‥ん‥」
会話はあまり弾まなかったがフィーは心なしか笑っているように見える。
暫く森を歩いているとぼと、と頭の上から落ちてくる音がした。同時に見上げる。そこにはアフロのカツラを持った状態の猿が一匹いる。
「狩り‥‥‥‥演習‥‥‥‥開始!」
フィーはすぐさま銃を取り出し威嚇射撃をする。照準を合わせ足元の木の枝を折る。猿もまた次の枝に飛ぶ。
「アフロを撃ちぬくのは止めて!」
アフロのカツラに同情をする悲鳴が上がる。
その思いをくみ取ったのか、フィーはナイフを取り出し猿の攻撃を待つ。猿もまた光るナイフに興味を示しているようだったが、その場は一旦引くことを決めたのか去って行ってしまった
「ごめんなさいね‥‥」
「ううん‥‥‥‥大事‥‥‥‥仕方ない」
猿はアフロから視線を外さないように、後退していった。
「あれ‥‥‥‥狙ってる」
「そうね。きっとまた襲ってくるわ。その前に仲間と合流しましょう」
アフロのカツラを被せたままのてんたくんを木に立てかけて周りにバナナを置き、罠を設置したセロリ。
「我ながら美しい罠だな‥‥うんうん、でも、こないなー」
遠くから眺めながら見つめていた。そのとき耳の奥を引っ掻かれたような鳴き声が響いた。
てんたくんの頭上を見つめた。まだ、姿は見えない。
「‥‥まだこない。バナナが台湾産じゃないから嫌とか? わがままな猿キメラだ!」
呟いたところでアフロ目がけて――だったが、セロリにはてんたくんめがけ猿キメラが落ちてきた。
「てんたくんは、ボクが守る!」
フローレンスは木々の間を駆け巡っていた。猿の嘶きが微かに聞こえる。だが、まだ姿は見えなかった。何か彼らの興味を引くようなものがないか、自分の手持ちを探したが見つからない。くやしげに舌打ちが出そうになったが、セロリの声が聞こえた。
猿の後を追っていた梨衣とフィーもまた近くに来ていた。
「ほーら、あなた達が大好きなアフロがここにもあるわよ!」
梨衣は自らを囮に猿たちを誘き寄せようとしている。だが、一向に猿たちが近付いてくる気配はない。
「‥‥‥‥声した」
フィーは森の一角を指差す。
アフロをかぶったてんたくんを死守したセロリは、バナナを投げこの場に留まらせようと必死だった。1人下手に攻撃をしてしまえば逃がす恐れがある。何より自分が買ってきた100円のバナナを食べきってもらわないと困る!
「やっぱりなんでもいいのか」
結果に満足するセロリ。
その場に駆けつけた、梨衣とフィー。2人と合流しバナナもなくなったので、攻撃を開始するが、近づこうとするとナイフやトンカチをとりだし近づけようとしない。銃撃戦でと思ってもアフロを盾にしたり、持前の敏捷さで逃げ回ったりと隙を見せない。
「仕方ないわね‥‥」
梨衣は戦闘の最中だというのに背中を向けて座った。
「いいカモになるでしょう?」
猿たちもまたアフロの姿に魅せられたように、赤いアフロに飛び込んできたが――フローレンスが持つシグナルミラーで光を反射させ、猿たちの注意を引き付けた。
間をおかずに背後から銃声が響く。2発、3発つ立て続けに。
「猿2匹のアフロダンスだ。踊れ、踊れ」
駆け付けたUNKNOWNは手に持っているバナナを食べ皮を投げ捨てる。
誘導するつもりだ、と気がついたフローレンスもまた進路先にバナナの皮を投げ捨てる。
「ウッッキーーー!!」
1匹の猿がまんまと罠にかかり転んだ。助けるためにもう1匹の猿が援護しようとするが、シュリケンブーメランでアフロを持たない猿を牽制するアフロの女王。
「俺が見ているところでアフロに近づくのは許さないわ!」
猿はシュリケンブーメランの刃を交わすため高く跳びあがるが、ブーメランの法則により武器は持ち主の元に戻ってくる。それに気がつかない猿キメラは背後からの攻撃をくらってしまう。猿は尚のことキメラの本能で攻撃をしかけようとするが、それはできなかった。
「フォルトゥナ・マヨールー、発射!」
セロリの弾は見事に猿の足を打ち抜き、獲物の体は倒れる。止めを刺すため機械剣を取り出し猿の息の根を止めた。
残るは後一匹。こちらもほぼ終焉を迎えようとしていた。
倒れた猿は体制を整えブーメランにより傷ついた猿の援護に回ろうとしていたが、遅い。
俊足の持ち主フローレンスの足にかかれば猿の敏捷な動きにもついていける。最初に足でアフロのカツラを蹴る。
「‥‥‥‥げっと‥‥アフロ♪」
フィーが蹴られたアフロのかつらを無事保護した。
そのままフィーは銃を取り出し猿の手足を打ち抜く。
「ギィィィ!!」
打ち抜くたびに、濁った声が響くがフィーは躊躇いを見せずに動きを完全に止める。
次いでフローレンスは二連撃と円閃を重ねがけし、その上に円閃を使用する。
「猿キメラ! 許しません!」
フローレンスの動きに翻弄された猿もまた、撃ち抜かれた自身の持つ爪で反撃を試みるがそれは出来ずに倒れた――。
猿キメラを見事退治したメンバーは各々の事故処理に入った。
UNKNOWNはバナナの皮を集めていく。ついでに道々に投げ捨てられた物も回収する。落し物係りにでも預けておけば問題はないだろう。
落し物を届け、さらにアフロヘアーを奪われた少年の元に行く。
フィーは奪い返したアフロのカツラを返す。
「‥‥返す‥‥‥‥」
フローレンスはフィーの言葉を補足する。
「これって君のですよね? よかったですね、無事で」
少年は震える手でアフロのカツラを受け取る。喜んでいるようだ。
「これ、てんたくんの頭には似合わないからあげる」
セロリは自分が持ってきたアフロのカツラを少年に渡そうとするが少年は、嬉しそうに断りをいれる。
「1つで十分です。ありがとうございます」
頭には先ほど奪い返してもらったアフロのカツラがある。
「少年アフロヘアーには海パンが一番だぜ?」
耳打ちし離れた。少年は困惑の表情を浮かべながら、今度試してみますと返事だけをした。
「なんだったの? 今の」
「俺の呪を彼に引き受けてもらったのさ。キメラ退治したんだ、それぐらいいいだろう?」
「呆れた。アフロには呪なんてないのよ。あるとしたら、天の力が働いているぐらいよ」
アフロに手をおき、愛しいものに触れたような表情を浮かべる。
「どうでもいいさ。清々しい気分には違いないんだ。どうだ学食で何か食べていくかね? 奢ろう」
「てんたくんの分もお願い」
最初に食いついてきたのはセロリだ。
「‥‥仲間と慰労会‥‥うん。参加‥‥希望」
フィーは無表情のままだったが、言葉から喜びが溢れている。
「はい! ご馳走になります」
フローレンスも元気よく挨拶をする。
「そうね、頂こうかしら」
アフロの形を整えながら梨衣もまた頷く。
こうして傭兵達は体を休めるためカンパネラ食堂で食事をとった。