●リプレイ本文
●前日
アパートの一室の台所。明日の作戦のために必要な材料がそこには並べられていた。
「巨大ゴキブリって‥‥B級映画じゃあるまいし‥‥」
緋阪 奏(
gb6253)はつぶやきながら、玉ねぎをすりおろしていく。
「全くだ。B映画でももうちっとマシなんじゃないか」
桂木穣治(
gb5595)は大鍋に砂糖、牛乳、小麦粉、ホウ酸を適当にぶち込んでいった。
そこに緋阪奏がすりおろした玉ねぎを入れ、桂木が混ぜていく。混ぜ終わった頃に、ゴム手袋をつけ丸めていく。
「こねて丸めて乾かしてこれだけ見たらクッキーでも作ってるみたいだな」
「同感だ‥‥まさかキメラに手作り菓子を御馳走する事になるとはな‥‥」
「よし、じゃあこっちは足りない分のトリモチを作ろうか」
龍鱗(
gb5585)は大鍋に強力粉と水を入れ山東に渡し、もう1つの大鍋にも同様の作業をする。それを掻き混ぜ始める。
山東雪夢(
gb6422)は受取、かき混ぜ始めるがポツリと呟いた。
「剛鬼‥‥か」
ひたすら2人が混ぜていると、生地が滑らかになった。
「なめらか」
「こっちもいいかな?」
2人はお互いの出来栄えを確認すると、ポリ袋に入て寝かす。1時間寝かしたトリモチを布巾で包み水に水で洗い揉んでいく。それを繰り返しトリモチは完成した。
こうして、トリモチもホウ酸団子も完成した。
●情報収集と依頼
冴城アスカ(
gb4188)とカルマ・シュタット(
ga6302)は商店街の住人に聞き込みを始めたが、店だけが静かに並び閑散としている。
「静かだね‥‥」
「バグアはどうしてこうも人が嫌がることに目ざといんだ」
2人は歩いていく。暫くすると老人が1人座りこんでいた。
「すみません、キメラですが、どんな場所で見かけます?」
カルマ・シュタットは訪ねた。
「路地裏などを歩いていれば、壁にぺったりとくっついておる。あれだけのでかさだ、目を凝らさなくても見える」
「あ、あのアレは複数いるんですか? それとも単品ですか?」
「多い」
老人ははっきりと伝える。多いとなると誘導経路を念入りに決める必要があるため、その場を去ることにする。
「あ、あと地図なんか持っていますか?」
カルマ・シュタットは足をとめ振り返った。
「地図、今はないが清掃局にはあるんじゃないかな」
清掃局にホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は来ていた。アンジェリナ(
ga6940)は入口で待っているといい、中には入ってこない。
ホアキン・デ・ラ・ロサは清掃局の人に明日の作戦を説明し、軽トラ2台と地図2枚を手に入れた。ついでに、生ゴミを入れるためのポリバケツと清掃局の駐車場を好きなだけ使用していいという許可が下りた。
「待たせたな、次は街の人々に協力を求めるぞ」
「順調のようだな。生ゴミをここに集めるんだったな。では、私は生ゴミを受け入れ係りになろう」
「いいのか? 臭いぞ」
アンジェリナは不敵な笑みを浮かべ、頷いた。
ホアキン・デ・ラ・ロサと冴城アスカとカルマ・シュタットは商店街で合流することにした。現状を説明し、街の人々に協力を求めるため扉を叩くことにした。3人は生ゴミを清掃局のポリバケツにいれること、明日は出歩くのを控えてもらうことを、叫びながら伝えた。
清掃局では、用意された2台のトラックの前でアンジェリナが立っている。幾つもおかれたポリバケツに入りきらない程の量が溜まっている。アンジェリナは近寄ってくる、犬や猫を払いのけながら生ゴミを守った。
●作戦当日 〜罠設置〜
商店街から路地裏に入ったろこに緋阪奏はいた。山盛りになったホウ酸団子を抱え、細い道の中に入りアレが迷わず誘導班ルートにくるよう団子を置いていた。
「まったく、あいつの為に作ることも初めてだが、食べてもらうために置いていくのも初めての経験だ」
団子を薄暗く汚い場所に等間隔に置いていった。無線機が機械音を発した――。
駐車場では龍鱗と山東雪夢は特製トリモチホイホイの設置をしていた。
龍鱗は順調に罠はできていることを告げようと、設置場所から少し離れ無線機を取り出すが何か物音がする。振り返るとアレが物影に潜んでいた。足元に転がっている石を投げつける。石は黒光る背中に当たって跳ね返り、Gは一瞬動きを止めたが再び動いた。
無線機を取り出した龍鱗は緋阪奏に今起こったことを端的に説明する。
「フォースフィールドはまだ生きてるが、知能や危機感は下がってるようだ。すぐに誘導班に連絡をいれる」
「ああ、頼んだ」
「あ、こらなっちゃん! これは食べちゃ駄目だ! きっとそう言ったろうな」
桂木穣治はかき集めてきた洗剤をバケツに開けていた。そこに龍鱗が近付いてくる。何やら話があるようだ。山東雪夢のもとに行くと龍鱗は簡潔に説明をしてくれた
「大分任務は軽くなるな」
「‥‥叩く」
聞くなり山東は表情の乏しい顔でつぶやいた。
「た、叩くってアレをか? すごいな」
「新聞紙、叩く。これ、正しい」
「うーん、でも大きいから難しいかもしれないな」
「残念」
●当日〜誘導 1班〜
ホアキン・デ・ラ・ロサは車を運転し荷台には目を閉じたままのアンジェリナがいる。清掃局に借りた地図に記された収集経路を辿っていた。
車を走らせているとアレが道の片隅で何かを食べている。
「ゴキブリ自体はまったくの無害‥‥俗世のいう虫嫌い、中でもゴキブリを嫌う感性はよく分らないな」
「同感だ。だが、生活する上では邪魔なのかもしれないな」
車が近づくとアレも存在と臭いに気が付いたようで、車が横り過ぎるとソレは車の速さに追い付こうと走りだした。
「臭いに見事にひきつられているようだ。成功だ」
「ああ」
時折、ついてくることを諦めたように止まるアレには、ホアキン・デ・ラ・ロサがエネルギー銃を使い、激励するかのように刺激を与える。
走行距離が10kmほど行ったころには、アレの群れがついてきていた。
「少し広がりすぎているな」
「では、行ってまとめてこよう」
「あいよ。気をつけてな」
アンジェリナは覚醒させ瞳が赤く染まり全身に漆黒のオーラを纏う。荷台を蹴り跳躍しソニックブームで外側から威嚇攻撃をする。次第に横に伸びたアレの群れも縦一列に並ぶようになっていた。
「燃料は問題ないが、そろそろ追いかけっこも飽きてきたな」
サイドミラーで確認すると黒い塊は十分集まったように見える。アレの一世帯は30匹前後というが、10は超えている。駐車場に戻ってもいい頃合いだ。ホアキン・デ・ラ・ロサは無線機を取り出し罠班へ連絡を取る。
●当日〜誘導 2班〜
車は走行していた。その車内はまだ穏やかな時間が流れているように思われた。
「地図は見ないの?」
「大丈夫だ。昨日道を何度か歩いて確認したからな」
作戦ルートを暫く走らせているとブーン、という羽音が聞こえてくる。カルマ・シュタットは無線機を手にとり1班に連絡をいれる。
「こちら、2班。無事に奴らが現れた」
「こっちも順調だ。思っていたよりも誘導は簡単かもしれないな」
通信を切った。
「向こうも順調だって‥‥こっちも順調だって伝えるように頑張ろうか」
「そうね。お掃除だと思えばいいのよね。じゃあ、始めましょうか」
車は一旦停車し、冴城アスカは生ゴミに囲まれた荷台へと乗り込み、車は発車する。
冴城アスカは方々を飛び回り臭いの元を探ろうとしているアレに向かい牽制射撃を繰り返す。目を瞑り撃つこともあり、アレにぶつかることもあったが上手く誘導されていきている。
車が曲がると臭いにつられてきたのか、目の前にアレが現れた。カルマ・シュタットは傍らに置たショットガンで威嚇。アレは飛ぶのをやめ屋根からこちらをじっと見つめている。
「アスカさん屋根の上にも一匹いるんでお願いします」
「はあ、りょ、了解――」
アレを誘き寄せようと撃とうとするが、臭いに気がついたのかソレは高所から下降してきた。それだけではない。群れとなったアレらは一団となり迫ってきていた。
「ど、どんどん来てるわ! は、早く戻ったほうがいいと思うわ」
カルマ・シュタットは無線機をつかみ、これ以上現れなさそうにないことを1班に告げる。罠班も準備が整ったことを告げられ駐車場に向かうことになった。
「く、来るなぁ!」
冴城アスカの絶叫と銃撃音とともに、カルマ・シュタットが運転する車は駐車場へと向かう。
●集まる場所
罠設置班は物陰に潜み、誘導班の帰還を待った。緋阪奏が無線機で罠の準備が整ったことを伝えてから待つこと数十分。最初に目に写ったのは黒い塊。その中心に目のように白い車が2台。飲み込まれまいとして必至に走っているように見えた。
「‥‥駄目だな。生理的にアウトだ‥‥」
「新聞紙、無理‥‥」
「うげぇ、想像以上の気持ちの悪さだぜ」
羽音が大音量となり、車のエンジン音など聞こえない。ホウ酸団子が効いている様子はない。否、車と同等のスピードまで落ちていると思えば、効果はあったといえるだろう。
車はトリモチの奥に止まる。アレ達もまた一心不乱に餌場へと突っ込んでホイホイに捕まる。
「いまだ!」
「よし、投げる」
桂木穣治は叫んだ。洗剤を持ち上げばらまいていく。山東雪夢もアレ目がけ、洗剤を巻いていった。洗剤により動きが鈍くなる。
車から降りてきたホアキン・デ・ラ・ロサは覚醒し赤く光る掌で剣を抜き、横一列に並ぶアレめがけ流し斬りを放ち脚の関節と羽根を切断する。
緋阪奏もまた覚醒し反対側から攻撃を加える。
「‥‥抜刀『剣』」
かちん、と音がした。
「やるねー。練成強化を使うつもりだったが必要なかったようだな」
桂木穣治の口笛が聞こえてきそうな言葉に、笑顔で返すホアキン・デ・ラ・ロサ。懐から出した瓶を罠に投げつける。割れた音が響きアルコール臭が漂う。
「スブロフか。俺も投げるかな」
「剛鬼、燃やす。スブロフ‥‥」
山東雪夢と桂木穣治もまた投げつけた。
一方では罠に入れなかったキメラ2匹の退治していた。
アンジェリナは小太刀2本を持ち、高所から見下ろしているアレに向かいジャンプする。高さは足りないが、近くにある壁に着地し再び跳躍し高さを凌駕する。2本の小太刀で 部分を突く。アレは気を失ったのか落ちてくる。そこを狙ったカルマ・シュタットは武器を振りかぶった。
「をぉりゃあぁぁ!」
カルマ・シュタットはハンマーを振り下ろしアレを潰す。プチッという音がしたが、力を加減したため体は半分だけ潰れた状態で留まった。
「ああ〜気持ちが悪いな‥‥ここで燃やすのはまずいよな」
地上に降り立ったアンジェリナは離れた場所に転がった卵を潰しながらカルマ・シュタットの独り言に答えた。
「問題ない。潰せばいいだけのことだ」
う゛、と小さくうめき声を挙げたカルマ・シュタットだったが、諦めたようにハンマーで押していった。
大量のアレと合体させると2もまた懐からスブロフを取り出し投げつけた。
「俺が奴に弔いの炎をくれてやろう。念のため下がってくれ」
緋阪奏もまたスブロフを投げ、武器壱式を取り出しアルコールがかかっている部分に着火させる。
「よかったな‥‥お前には勿体ない程の火葬だ」
緋阪奏は燃える炎に興味がなくなったのか、踵を返した。
「もっとも、魂は天国には行けそうにもないがな‥‥」
●最後の大掃除
卵やアレがいないか確認するために一部の傭兵は街を再び探索した。歩く程度の速さでついてくる車。
運転するのはカルマ・シュタット。助手席には使うのは今回で最後と決めたハンマー。冴城アスカと龍鱗の2人は歩きながらホウ酸団子と卵を回収しながら見回りをしていた。
「もういないかもしれないな」
ホウ酸団子を拾っては荷台に投げながら、龍鱗は言う。
「そうね。もう、戻ってもいいかもしれないわ」
冴城アスカも安心し頷く。
「いるぞ」
そんな時、カルマ・シュタットは窓から顔をだし叫んだ。壁にぺったりと一体になるように動かない。
「死んでいるかもしれない」
龍鱗はポツリという。冴城アスカは確かめるため、お手製の霧吹きで届く距離まで近づき吹きかける。アレは羽をばたつかせ壁を走り出した。
「気持ち悪い!」
龍鱗は刀を抜き落ちてくるアレを横から斜めに叩き落とす。冴城アスカはもう一度霧吹きを使い弱らせたところに、車から降りてきたカルマ・シュタットのハンマーで荷台へと押し込む。
再び街を回るりながらホウ酸団子を集めるがもうアレの姿は見つからない。これで本当に終わったのだ。
「はあ、はあ‥‥やっと終わった。もう帰りたい」
冴城アスカは涙目になりながらつぶやいた。その肩を叩くのは龍鱗。
「お疲れ様。これでやっと終わったね」
駐車場に戻ると焼け焦げた跡だけが残っていた。そこに集めてきたアレを重ね、龍鱗と冴城アスカがスブロフを投げつける。緋阪奏がもう一度、壱式で炎を着火させる。これが最後の弔いの炎だった。
「あ!」
燃え栄える炎の中山東は声を上げる。
「何!? まだ、いるの?」
冴城アスカは上空を捜す。
「違う、子供?」
「あ〜俺は見てないぞ、見てない。俺はいいとこどりをするんだ」
カルマ・シュタットはまわれ右をし、見ないようにする。龍鱗はそんなカルマ・シュタットに声をかける。
「いいとこどり?」
「幼虫は、見れないものだから見れたら幸福が訪れるという話があるらしい」
「そんな言葉が残っているのに、俗世は嫌うのか? ますます謎だな」
アンジェリナも目を丸くし小さい弱々しい子供を見つめた。
山東雪夢は新聞紙を取り出す。
「新聞紙、正統派、よし!」
小さく振り下ろし、巨大●●●●最後の一匹は簡単にあの世へと送られた。
●後処理
「あーそうだ。誰かけが人はいるか? アレはバイ菌を持っているだろうし、」
桂木穣治は確認する。苦手としているメンバーは力強く顔を横にふるう。苦手としていないメンバーは静かにふるう。
「ま‥‥怪我人がいなくてよかったが、帰ったらしっかりと手を洗わないとな」
緋阪奏は汚れていない手の平を見る。
「街のゴキブリは臭う。俺はシャワーが浴びたいな」
平然とアレの名前を出しながらホアキン・デ・ラ・ロサは言う。
「俺は銭湯だな」
桂木穣治は舞っている灰を嫌そうに払いのけながらいう。
「仕事終りの風呂はいいな。行こう」
「剛鬼、汚れ、落ちる‥‥よい」
龍鱗は笑顔で頷き、山東雪夢も無表情のまま頷いた。
「そうね、私も一緒に行こうかしら」
冴城アスカもまた体を叩きながら賛成する。アンジェリナを見つめると彼女は首を横に振る。
「慣れないが行ってみよう」
皆が銭湯に向けて足を向けた。カルマ・シュタットだけ足を止め一度戻る。
「忘れていたぜ。このハンマーは捨ててください、と」
カルマ・シュタットはハンマーに張り紙を置き、先に進んでいる仲間の元へと走り寄っていく。こうして商店街に再び活気が戻った。