タイトル:普遍的な親子の一幕。マスター:田辺正彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/22 22:17

●オープニング本文


●優しすぎた母親
「君は、その年にしては類い希なる才能を持ってるね。この分だと出世も夢ではないのではないかな?」
 かつて、会社で上司にそう言われていた頃が有った。
 今は、と問われれば――それは叶わぬ夢と答えるしかない。

 今からおよそ半年前。自分が働いていた大きな街とは遠く離れた、故郷の寂れた村から、母が倒れたとの知らせを受けた。
 駆けつけた際、母は一命こそとりとめていたものの‥‥首から片手足に障害を負っていた。
 父は既に他界しており、自分以外に身よりはない。村の人間に頼めば介護をしてくれるかも知れなかったが、俺は自分で母の身の回りの世話をすることにした。
 母を介護していく過程では、多くの問題があった。収入が減ったこと、介護の仕方が解らなかったこと。
 それでも、俺は慣れない介護生活で、少しでも母を楽に生活させようと努力し続けていた。

 ある日の晩、母が一言だけ呟いた。
 ――貴方は、前の仕事に戻りたいと思ったことはないの?
 その日、母はもう寝るばかりだった為、少し気が緩んで酒を飲んでしまっていた。
 だから、だろうか。
 ――ああ、戻りたいなあ。上司には出世できるって言われてたし、向こうは此処よりもっと良い暮らしが出来てたんだ。
 俺は、知らずの内にそんなことを呟いていた。
 
 翌日。
 俺が目を覚まして母の寝室へ向かうと、其処には一枚の紙片だけが置かれていた。

●依頼内容
「ありがた迷惑、お節介、余計な世話‥‥お前らに経験はあるか?」
 酷くつまらない。そんな表情を隠そうともせず、女オペレーターは能力者にそう語りかける。
「はいはい。依頼依頼っと。今回の場所は、小さな村の直ぐ近くにある森の中だ。お前らはその中に入って、ある婆さんを保護してきて貰う」
 そう言って、オペレーターは一葉の写真を取り出す。
 写っているのは、粗末な服に薄い外套を引っかけた程度の老婆だ。
「この婆さん、半身不随らしくてな。今は遠方で仕事をしていた息子が引っ越し、世話をしてる。‥‥が、まあ当の婆さんはそれを良しとしていないらしい。自分が死ねば息子も自由になれると考えて、件の森に自殺目的で入っていったわけだ」
 解説を聞く内に、能力者達は何とも言えない顔になる。
 息子を慮る気持ちも分かるし、障害を負った自分の身体が誰かの人生の妨げになる苦悩も理解は出来る。が――かと言って残された者の気持ちを考えず死を選ぶというのは、余りにも愚かな行いと言うしかない。
「先刻も言ったとおり、この婆さん半身不随だからな。杖持ってたとは言え、移動速度は常人より遙かに劣る。森の中は木が乱立してる上、太陽の光が届かないくらい葉が生い茂ってるらしいが‥‥ちょいと探せば見つかるだろ」
 が、とオペレーターは言う。
「そう簡単にはいかないんだ、コレが。‥‥多少調べてみたところ、その森にはどうにも厄介なキメラが多数、住んでることが発覚してな」
 発見されたキメラは、大きなコウモリ型だ。基本的に動物の血を吸って養分とし、暗闇でも問題なく行動出来るらしい。
 そして、このキメラは光に対しては過敏な反応を返すのだそうだ。その対象に向かって一斉にたかる習性があるらしく、森に入る際にライトなどをつけていれば、標的にされることは間違いない。
「依頼人曰く、婆さんと一緒に家から無くなってたのは車椅子だけって話だ。灯りが無い以上、キメラが無闇に襲いかかることはないだろうが‥‥それでも、単純にエサとして食われる可能性は無いワケじゃない」
 灯り無しで緩慢に‥‥ではなく、あらゆるリスクを考慮しても、速やかに対象を保護せよ。
 オペレーターは、そう言外に語っていた。
「依頼内容を、もう少し詳しく説明するか。お前らはコウモリ型キメラに襲われること覚悟で速やかに対象を探索、保護し、その後対象を守りながら森から抜け出す。一々奴さんらの相手をしてたら依頼失敗どころか、お前らの命も危ないからな。気をつけろよ」
 能力者が緊張の面持ちで頷いたのを確認すると、オペレーターは最後に一言。
「下らねえ勘違いしてる婆さんの頭を、お前らの説教で吹っ飛ばしてやれ」
 口の端をつり上げた笑みを浮かべて、そう呟いた。

●参加者一覧

柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
エメルト・ヴェンツェル(gc4185
25歳・♂・DF
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN
緋本 せりな(gc5344
17歳・♀・AA
カイン・メンダキオルム(gc6217
17歳・♂・FC
煌・ディーン(gc6462
18歳・♂・DF

●リプレイ本文


 暗い森が、眼前に広がる。
 件の老婆が立ち入ったと報告されている広大な森を前にし、煌・ディーン(gc6462)は誰にともなく呟く。
「救出対象有り、か。厄介な」
 言葉こそ事務的に聞こえはするが、その声音に込められた感情がどのようなものかは、能力者たちもはっきりと理解できる。
 ――自らを息子の重荷と感じ、その身を死に追いやろうとする母親。
 短絡的な自殺にせず、この森で死を迎えようとする意味は、自らの手で死ぬ覚悟がないためか、息子に自分の死に様を見せないようにするためか。
 いずれにせよ、褒められた行為ではない。
「子を思う故の行動か‥‥しかし、残されたもののことを考えると、その選択は愚か過ぎるよ」
「気持ちは、わからないでもないけどね」
 それを言葉にしたのは、緋本 せりな(gc5344)と黒木 敬介(gc5024)。
 一見噛み合った風に聞こえる会話だが、老婆の行為を想い、正そうとするせりなたちとは違い、敬介は寧ろ、この親子に苛立ちを抱いていた。
 縛られた自身の出生とは違い、この親子には、どれほど狭まろうと、確かな選択肢が存在した。
 それを感情に流されるまま、得られるものもない苦難の道を歩んだ親子に対して、彼は憤りを覚えていたのである。
「‥‥姥捨山じゃあるまいし‥‥然も自分から行っちゃあ世話ないんだが‥‥」
 それに比べ、寧ろ呆れたように言うのはカイン・メンダキオルム(gc6217)。
 赤い瞳を眇めつつ、彼は森の中に居る老婆の身勝手な思いに対し、思わず嘆息してしまう。
「‥‥何にせよ、一刻の猶予もないな。現地情報を確認後、すぐに出るぞ」
「ああ、そうそう。近くの猟師から地図を貰ってきた。流石にキメラが住む森の中までは描かれていないが、一応は役立つと思うよ」
 天空橋 雅(gc0864)の呼びかけに対し、敬介が軽く挙手しつつ、一同に村から森までの地図の写しを渡していく。
 肝心の森の内部が描かれていないのは残念だが、村から森までのルートを見れば、保護対象となる老婆がどの辺りから森に侵入したのかは推測することができる。
 これは大きな助けだ。
「それじゃあ、行きましょう。一刻も早く、お婆さんを助け出さないと!」
 そして、柊 理(ga8731)の言葉を機に、能力者たちは暗い森の中へと踏み出したのである。


 一行がコウモリ型キメラに襲われ始めたのは、森の中に入って暫くした頃‥‥具体的には、森の外からの陽光が完全に届かなくなった辺りで、だった。
 一行が班を分ける前の現在、光源は最低限にしていたのだが、それでも僅かな光を目ざとく見つけるキメラたちが、徐々に集まりつつある。
「それじゃ、此処からは私たちの出番だね」
 緊迫した空気を本能的に悟ったのだろう。夢守 ルキア(gb9436)は明るく言って、エナジーガンを抜き放つ。
 キメラの陽動役を担った彼女と、せりな、ディーンの三人は、絞っていたランタンの光を一気に増すことで、行動開始の合図とする。
「頼むよ。お婆さんを救助してきてくれ」
「ええ。必ず連れ戻します。‥‥無理矢理にでも」
 せりなの言葉に対し、決然とした表情で返すエメルト・ヴェンツェル(gc4185)。
 今まで、生を乞う人々の死を目の当たりにしてきた彼としては、自殺しようとしている老婆に対して、怒りにも似た意思を抱いていたのだ。
(‥‥いかなる理由があろうと、自ら命を粗末にする行動を、自分は許容できません)
 身勝手な理屈かもしれないが、それは老婆の心を思えばこその考えである。
 せりなも、彼の秘めたる意思を察知したのだろう。ちらっと微笑んで頷く。
「時間がねえ。キメラがもうこっちに向かってきてるぞ。さっさと行きな!」
 ディーンが叫ぶと共に、能力者たちはそれぞれの役目を全うするべく、二手に分かれたのである。
 その一瞬後に、此方を発見したコウモリ型キメラが数匹、ディーンに向かって飛び掛ってきた。
「‥‥チッ!」
 大剣を振るって両断しようとしたディーンだが、それは出来なかった。
 木々の密集するこの森では、満足に武器を振るうこともできない。能力者の力なら、木々を切り倒すことも可能だが――倒れた木々が此方の行動を阻害しないとも限らないし、何より植物を愛する彼としては、そのような行為は可能な限り避けたい。
 結果として、彼は抜群の破壊力を持つ大剣を満足には振るえず、殆ど防御や牽制程度の最小限の動きしかすることが出来なかった。
 このような場所だと、万全に振り回せるのは1m程度、多少の制限で使えるのが1m半と言ったところだろうか。
 残る二人の得物がその範疇で収められていたのは、幸運であったと言えるだろう。
 片や、銃を擁して襲ってくるキメラの翼を次々に撃ち抜き、片や強烈な音波を発生させて、方向感覚が狂ったところに容赦ない一撃を浴びせる。
 戦闘開始時の彼女らの活躍は、まさしく一騎当千と言って過ちではない。
 が、時間が経つにつれ、その行動にも鈍りが見えてくる。
 個々の実力では能力者たちの足元にも及ばないとしても、キメラたちはそれを補って余りある数を有している。
 数秒経つごとに数体、数十秒経つごとに数十体と数を増やすキメラたちに、流石の彼らも息を切らせ始めた。
「‥‥まだ、五分も経ってないんだケドなあ」
 苦笑するルキアは、先ほどキメラに噛まれた傷を活性化によって癒していく。
 ディーンもまた、同じように傷を癒しつつ、苦虫を噛み潰したような表情である。
 多少なりとも、スキルの恩恵を受けて未だ互角に戦う三人だが、それを放つ余力が無くなれば、形勢が敵方に傾くことは明白である。
(戦闘を行うにしても、人数が少なすぎた‥‥)
 彼らは、今になってそれを痛感する。
 事前にオペレーターが、障害を負った老婆の移動速度は常人のそれより遙かに衰え、少し探せば直ぐに見つかる、と言っていた。
 逆を言えば、多人数を捜索方に回しても、それが個別に分散するでもなく、一塊になって行動するのなら、少人数であろうと多人数であろうと、老婆を見つけるまでにかかる時間に大差は無くなってしまう。
 老婆の護衛のために人数を増やしたにしても、今現在キメラ達は陽動班によって注意を惹きつけられている。余分が出るとは言わないが、無難な人数とも言うことは出来ない。
 結果的に言えば、この作戦では、陽動班の負担がどうしても大きくなってしまうのだ。
 それでも、今更泣き言は言えない。
「‥‥キツい役目になりそうだ」
 苦笑交じりに呟きつつも、せりなは再びギター型超機械を構えなおした。


 捜索班の行動は、思い通りとはいかなくとも、比較的順調に進んでいた。
 陽動班とは違い、此方は多くの人数を割いており、尚且つ敵の注意の殆どは陽動班に向いており、キメラたちとの交戦は最小限に済んだ。
「しかし、本当に際限無いな。コイツらは」
「ああ、予想以上だ。‥‥これが一斉に襲い掛かってきたらと思うと、ぞっとしないな」
 偶然にも能力者に気づいたキメラを一撃で倒しつつ、雅とカインは小さく呟く。
 捜索班は、交戦回数こそ少なくとも、それまで見かけたキメラたちの数の多さは確認している。そこから敵の規模を知るのも難しくは無い。
 それゆえに、これほどキメラが存在する森に入り込んだ老婆の安否が気にかかった。
「‥‥この調子だと、最悪の可能性も考慮すべきかな」
 表情を変えぬまま、敬介が淡々と呟く。
 他の面々もそれは考えていたのだろう。顔を青ざめさせつつも、決して感情に任せた反論を行う者は居ない。
 ――と。
「! あそこ、誰か居ます!」
 知覚能力を拡大させた理が、誰よりも早く森の一点を指差す。
 能力者たちがそちらへ向かうと、果たして、其処には一人の老婆が身体を横たえていた。
「‥‥息はある。外傷も無い。ただ、疲労で大分弱っているな。早めに休ませないと危険だ」
 老婆の容態を見つつ、雅が練成治療をかけるが、それとて気休めだ。
 一般人にも個人差はあるだろうが、この老婆は体力の上限が元より低い。一時的な回復力よりも、恒久的な養生こそが必要とされる人なのだ。
「私が背負います。皆さんは、この人の護衛をお願いします!」
 言うや否や、エメルトは老婆をそっと背負い、なるべく振動を与えないよう、摺り足気味の歩調で、しかし可能な限りすばやく移動し始める。
 流石に、其処まできて老婆も意識を取り戻した。体勢こそは変わらないが、薄く目を開き、視線を動かして周囲を確認する。
「‥‥此処、は‥‥?」
「気づきましたか?」
 真っ先に言葉を返したのは理だった。
 老婆は自分に言葉を返す存在、そして、自分が今何処に居るかを理解し、必死の口調でエメルトに言った。
「誰かは知りませんが、私のことは置いていって下さい。私は此処で‥‥」
「自分は、元軍人でした」
 老婆の言葉を遮って、エメルトが言う。
「その時代、人々を守って亡くなっていった方を、沢山見てきました」
「‥‥」
「生きたくても生きられない人がいる。月並みな言葉ですが、とても重い言葉です。‥‥自分は、その方達の為にも生きてほしいと思います」
「そうです! あなたがいなくなれば為になる、そんな事は絶対に考えちゃいけません!」
 老婆は、彼らの必死の言葉に対し、思わず返す言葉を失う。
「‥‥長い話は帰ってからです。まずは、生きなさい」
 穏やかな声で、雅が老婆へと告げる。
 老婆は、暫く呆然とした面持ちで居たが‥‥暫くすると、エメルトの背の中でうずくまり、小さく身体を震わせ始める。
 泣いているのだ、と。それに気づいたのは、エメルトの後ろを走るカインのみであった。


 森を出て、陽動班と合流した後、雅は彼らの治療にかかりきりとなった。
 陽動班の三人が受けたダメージは予想以上で、特にルキアに至っては倒れる寸前までの傷を受けていたのだ。
 能力者たちによって防寒着と温かい飲み物を与えられた老婆は、陽動班の深刻な怪我を見て、思わず呟いていた。
「‥‥私のせいで、貴方がたはそれほどの傷を負ってしまったのですね」
 反省ではない、ただ自分を責めるだけのその言葉に、ディーンが苛立ちまぎれに言葉を返した。
「ふん、情けねぇ‥‥仕事を辞めてまであんたに元へ駆け付けた息子が哀れだな」
「‥‥!」
 それを言われると、老婆は思わず目を伏せてしまう。
 ディーンは自分の言葉が老婆の心に染み込むまで待った後、今度は少しだけ柔らかな声音で言った。
「誰かに生きてる事を求められる、それは幸せな事だ。‥‥命ある限り精々楽しく暮らせや。お節介な息子さんも支えてやんな」
「‥‥ええ、解っているんです。私は幸せだと。けれど、息子が私を支えることは、果たして息子にとっての幸せなのかと、そう考えると‥‥」
 くずおれるように泣く老婆に対して、治療を行っていた雅が思わず彼女の手を握り、強い語調で言った。
「母親の犠牲の上に、子の幸せなどありません‥‥!」
 その彼女が泣きそうな顔で訴えかけてきたことに対し、老婆は驚いた。
 同時に、雅の中で母親がどれほど大きな存在だったかを、その言葉から理解する。
 最後に、どうにか動ける程度に回復したルキアが、老婆の横に座り込む。
 彼女は、自分に親が居なかったこと、養父が死んだときのことを訥々と語り、其処から自分の言いたいことを話し始める。
「‥‥養父が死んでも、私の毎日は続く。死、に意味なんて無い、ソンザイが無くなるダケ」
「‥‥死んだ者にとっては意味が無いでしょう。けれど、生きている者にとっては‥‥息子にとっては、幸せな街暮らしが送れると言う意味が、有るのではないでしょうか」
 それに対し、ルキアはふるふると首を振る。
「どんな境遇でも、ヒトはシアワセを感じる。殺されるかもしれない戦場で、生きてる私は間違いなく、シアワセだから」
 ――貴方が居る日常でも、居ない日常でも、息子さんは間違いなく、平等に幸せを感じる。
 だから、残るのは貴方が生きたいか、生きたくないかの意志だけなのだ、と。
「生きてていーんだ、きみは。私、ルキアの言うコトだから間違いないんだよっ!」
 其処まで言って、ルキアは満面の笑みを老婆に向ける。
 老婆は、それに対して泣き笑いのような表情を浮かべ、「ありがとうございます」とだけ呟いた。
 せりなは、それまでの老婆の様子を見届けた後、超機械の弦を爪弾かせる。
「この曲は姉さんが好きなんだ。優しい気持ちになれるだろう?」
 答える者は居ない。
 ただ、一同がそれを聴いて浮かべた表情を見て、どのような気持ちになったか、せりなは理解した。

 暫くの休憩を置いた後、一同は依頼人である老婆の息子の下へ訪れ、老婆を彼へ引き渡した。
 男性は涙ながらに老婆を抱きしめて謝罪の言葉を言い、能力者たちに感謝の意を伝えた。
「‥‥あの人は、立ち直ってくれるでしょうか」
 帰り際、エメルトが能力者たちに言う。
「‥‥少なくとも、もう自殺するような真似はしないと思います」
 みんなで説得しましたからね、と返すのは理。
「次にあんな真似をしたら、それこそ許しはしないさ」
 憤然と返す雅。
 その態度に、能力者たちも失笑してしまった。
「‥‥と、そうだ。せりなさん、折角だから、今晩一緒にどうかな?」
 唐突に敬介が誘いをかけてきたことに対し、せりなは目を丸くしつつも、すぐに笑顔に戻る。
「気持ちはありがたいけど、私には姉さんがいるからね。遠慮させてもらうよ」

 ――あの依頼人にとっての、お婆さんのように。

 心の奥でそう付け加えて、せりなは敬介の誘いを軽く受け流した。