タイトル:少し不思議なお食事会?マスター:田辺正彦

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 13 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/02 00:08

●オープニング本文


●事の発端
 その日は、ある意味彼らにとって幸福と呼べ、またある意味では不幸と呼べる日でもあった。
 『彼ら』のリーダー――食堂を取り仕切る料理長は、恐ろしくげんなりとした顔でこう呟く。

 「‥‥どうしてこうなった」

 キッカケと言えば、それは些細なことだった。
 日頃キメラやバグアに関する依頼を請け負うULTの側へ、UPC、一般の依頼者を問わず、多くの出動要請が舞い込んだのだ。
 依頼は主に、新たに発見されたキメラのプラントや、人里を襲うキメラを倒して欲しいというものなど。‥‥簡単に言えば、そのどれもが『キメラに関するもの』であったのだ。
 当然、職務熱心な能力者達はその全ての任務、依頼をパーフェクトな戦果で収めた。
 ――其処までは、良かったのだが。

「すいませーん、ちょっとこのキメラを調理したいので、厨房貸して貰えますか?」
「おう、美味そうなキメラの肉持ってきたから、料理して貰えねぇか?」

 人間の雑食性をいかんなく発揮した能力者達は、或いは直接自分達でキメラの調理を行い、或いは調理そのものを食堂の人間に御願いするなどして――結果的に、余った食材が大量となって食堂に残ったのである。
 研究所とかに回さなくて良いのかと聞いたら、「そのキメラの全ては過去に確認し終えた個体であるか、既に必要な部位のサンプルを渡しているために必要ない」という意見だった。まさしく退路が断たれた瞬間である。

「‥‥料理長、どうするんですか、コレ」
「流石にこの量とあっちゃ、保存庫に収納しきれませんよ」
「‥‥解ってらァ」

 頭痛を抑えつつも、料理長は必死に頭を回転させる。
 ――保存することが出来ないのなら、調理するしかない。かと言って、調理するにもこの食堂のメンバーだけでは到底喰いきれる量では無い。
(‥‥誰か、客が必要だ。この量を残さず喰いきれるだけの人数か、胃袋の持ち主が‥‥!)
 其処まで考えた辺りで、料理長は拳をダン!と調理台に叩きつけ、大声で叫ぶ。

「UPC、ULT内で暇な奴らを片っ端から連れてこい!」

●依頼内‥‥容?
「‥‥あー、手前ぇら、ちょっとこっち来い」
 とある能力者達がULTのロビーを歩いていた最中、一人の女オペレータが声を掛けてきた。
 依頼か? とも能力者は考えたが、カウンターにも座らず、資料なども一切持っていないその姿から見るに、依頼の相談とは考えにくい。
 訝しみながら近づくと、オペレータはポケットから折りたたんだ紙片を差し出した。
「食堂からのチラシだ。何やら、今夜軽い食事会、みたいなモンをやるらしい」
 その言葉に、能力者達は僅かばかり驚いた。
 季節事の行事とは余り無縁なこの時期、このような食事会が行われる理由が分からなかったからである。
 オペレータも然りと言った様子で、続けて説明を行った。
「ま、ちょいと面倒な事があって、食材の仕入れ量が保存庫の限界を超えるほどに送られてきたらしい。腐らせるのも勿体ないから、せめてパーッと使うことにしたんだと」
 言って、オペレータは紙片を広げてみるように軽く顎をしゃくる。
 広げた紙片には、食事会を行う時間、簡単な注意事項などが書かれており、其処まで見て能力者も「どうやら本気らしい」と思った。
「単に腹が減ったから行くでも良いし、結構珍しい料理やデザートみたいなモンも出るらしいからな。暇だったら行ってみたらどうだ?」
 其処まで言って、オペレータはニヤリと笑い、彼らの元から去っていく。
 『使用されている材料はキメラの素材だ』とは言わぬままに。

●参加者一覧

/ R.R.(ga5135) / Letia Bar(ga6313) / 番 朝(ga7743) / 最上 憐 (gb0002) / ソウマ(gc0505) / 守剣 京助(gc0920) / 桜井・遊美(gc1284) / エスター・ウルフスタン(gc3050) / 那月 ケイ(gc4469) / 立花 零次(gc6227) / ゆっくり!(gc7171) / ユーダイ(gc7188) / 石田三成(gc7199

●リプレイ本文

 メイン会場に並べられた、豪華な料理は、一流ホテルのバイキング等と比べても遜色の無いものであった。
「おや、軽い食事会だと聞いていましたが、結構豪華ですね。見た目も鮮やかな物が多いですし」
 それは、この、立花 零次(gc6227)の言葉からも明らかだった。だが、それ故この会場は参加者でごった返しており、人気のありそうな料理はどんどん食べられていたのである。

 一方、カオス会場を訪れていたR.R.(ga5135)は、カオス食材を扱う料理人が足りない、とスタッフから聞かされた。
「いつもは作る人だけど、今日は食べる人のつもりだったアルが‥‥」
 普段は扱わない珍しい食材に興味が湧いたR.R.は、料理の研鑚ということで、厨房を手伝うことに決めた。
 とりあえず、どんな味付けがされているか先に確かめておこうと、カオス会場を回っていたR.R.は、ソウマ(gc0505)が、食べた料理の味付けについて『もっとこうした方がいい』と独り言を言ったのを、偶然近くで耳にして、その意見に感心して、ソウマに話しかけた。
 これがきっかけで意気投合した二人は、少しでもカオス料理を美味しくしようと、自分たちも調理を楽しみつつ、奮闘することに決め、まずは実地調査の為に会場を回り始めたのだが‥‥
「あれ‥‥? 料理が無いアルよ‥‥?」
 R.R.は一瞬の内に空になっていた皿を見て、唖然とした。そう、R.R.が食べようとした料理は、横から割り込んできた最上 憐(gb0002)に一足先に食べられていたのだ!
「な、何てことするアルか〜! その料理、ワタシ食べようと思てたアル〜!」
「‥‥ん。早いもの勝ち。さっさと食べない方が、悪い」
 R.R.の抗議にも、憐はどこ吹く風だ。
「む、これは‥‥この料理、ひょっとして‥‥」
 料理を一口食べ、何かに気付くソウマ。
「このコクのある感じ‥‥間違いありません。鳥類型キメラの、手羽先の感触‥‥ふむふむ」
 さながらプロの料理評論家のように、料理の素材となったキメラの種類まで看破してコメントし、再度料理に箸を伸ばすソウマであったが‥‥
「そして、この部位は‥‥あれ? おかしいですね‥‥?」
 箸が、チンチンと皿に当たったことに違和感を覚えたソウマが、傍らをよく見ると‥‥
「‥‥ん。おかわり。どんどん。おかわり。大盛りで。特盛りで」
「ああーっ!」
 なんと、ソウマがコメントしようとした料理は既に憐によって食べ尽くされていた!
「も、最上さぁああん!?」
 ソウマが叫んだ。

 危険を感じた二人は、少し離れた所に移動して、ジックリと味見しようとしていたが‥‥
「フウ、出来たアル! 今度はどうアルか? ソウマさん?」
「そうそう、この火加減です‥‥フフ、後はここに、この僕が感で選んだ調味料を加えれば‥‥僕の感に、狂いはない! です」
「‥‥ん。とりあえず。火が。通っていれば。大丈夫だよ?」
 折角、R.R.が下茹でをした肉片が憐の胃袋に!!
「ならば! これはどうです!?」
 業を煮やしたソウマは、自分が食べてみて、明らかに駄目だと判っている一皿を憐に差し出した。
「‥‥ん。コレは。弱い。キメラなら。毒殺。出来そうな。勢い。刺激的な。味だね」
 しかし、憐には通用しないようである。

「確か最上さんがこちらにいらっしゃるはずなんですが‥‥ああ、アレですね」
 メイン会場から移動して来た零次は、憐とソウマ、R.R.の三人が陣取って騒いでいる一角を見て、言う。
「‥‥何と言いますか、ここまで予想通りの光景ですと、逆に落ち着くというか安心ですね‥‥」
 三人のやりとりを見て、零次が呟いた。
「デザート、おいしかったですよ。いかがですか?」
 零次は、とりあえずこの惨劇を止めようと、持ってきたデザートを憐に差しだす。
(ヒソヒソ‥‥これなら憐さんも、止まてくれるアルね)
(ヒソヒソ‥‥ええ、これで、彼女の場合、まだ食べられるのでしょうが‥‥これで興味がデザートの方に移ってくれれば‥‥)
「‥‥ん。二人とも知ってる?」
 ほっとした表情で、囁きあうソウマとR.R.の間に、ぬっと憐が割り込んできた。
「‥‥ん。今のは、フレンチのフルコースでいうグラニテ(料理の合間に出る口直しのシャーベット)に過ぎない‥‥ん」
 そして、憐のドヤ顔である。

 こうして、二人が呆然と見つめる前で、数多の料理が憐の餌食となった。
「‥‥ん。料理。出る。速度。落ちて来たよ? 遅いと。調理場を。襲撃するよ?」
 ジロリとスタッフを見る憐。怯えたスタッフたちが後ずさりを始める。
「さすが憐さん、よく食べるアル‥‥こうなったら、私も、覚悟決めるアル!」
 この危機を救うべく拳を握りしめR.R.が立ち上がった!
「フフ‥‥いいでしょうR.R.さん! 僕も覚悟を決めました! カオスな食材を僕の感で、憐さんが悶絶‥‥いや、満腹するような超美味しい料理に変身させて見せます!」
 さり気無く本音を覗かせつつ、やはり闘志を燃やすソウマ!
 二人は調理場に乱入すると、スタッフから道具を取り上げ、猛然と調理を開始した!
 かくして、ここに、調理担当のR.R.と味付け担当のソウマのコンビVS消化係である憐の、凄惨な死闘が開幕するのであった!
「‥‥ん。緊迫感が。ある方が。美味しい。料理が。出るね」
 憐は、満足そうな黒い笑みを浮かべた。

「こ、これは苦いとか辛いじゃない苦しく辛(つら)い味‥‥」
 自らの味付けにもかかわらず、味見をしたソウマは、一瞬だけ意識を消失し、なんとか歴戦の傭兵の耐久力を発揮して回復した。
「う〜ん、このソース美味しいけど、この肉には合いそうにないアルね。あっちにつけたらどうアルか?」
 一方、基本、舌がイマイチなR.R.は顔をしかめつつもそんな提案をする。
「フフフ、R.R.さん。そんなことは僕も承知しています‥‥ですが、忘れていませんか? ボクたちの目的‥‥」
「そうか、これを憐さんに食べさせるアルね!」
「そういうことです(ニヤリ)さあ、これを憐さんにお出しして下さい」

「さあ、憐さんお待たせしたアル! このカエルのキメラの料理を食べるヨロシ! ワタシもカエルのキメラを料理したことあるアルね! 味はお墨付きアルよ!」
 R.R.は自信満々に、傍らの零次が思わず鼻を撮むどうみてもゲテモノのそれを憐に渡す。
「‥‥ん。不思議な。食感。個性的な。味。キメラ料理は。個性的で。楽しいね」
「おお。気に入ってもらえたアルか! やっぱり、元の生物があるキメラだと料理しやすいアルね‥‥ってそれじゃダメアル〜!」
 料理を頬張る憐を見て、R.R.は頭を抱えた。

「ちょ‥‥これ、は‥‥むりぃぃぃっ、見た目から無理ぃぃっ」
 Letia Bar(ga6313)は、その山盛りとなったカエルキメラ料理を、通りすがりに目撃して思わずこう叫んだ。
 一方、彼女に同行している番 朝(ga7743)は、もの珍しそうにそれを眺め、平然と箸を伸ばした。
「ちょっ‥‥アシタ! 大丈夫なの!?」
「何事もチャレンジって言われたから、激辛とか激苦のじゃなければ、どんな料理でも食べるぞ? 見た目も気にしないしな」
 そんなアシタの様子を見たLetiaは、ねちゃっと、にちゃっと、しているカエル料理に半泣きになりながらも、怖いもの見たさか、恐る恐る一口食べてみた。
「案外‥‥いけるお味っ。アシタこれ美味しい!」
 意外な反応を見せるLetia。朝も、
「Letiaくんも気に入ったみたいで良かった! 食感でも味でも、不思議なのは面白いな!」
 とその独特の食感が気に入った様子である。
「ん。負けない。もっと。食べる」
 一方、更にペースアップする憐。ここに、鉄の胃袋対決が実現するかに思われた。だが、Letiaが、朝の様子がおかしいことに気付いた時には、もう遅かった。
「う〜、ずるいぞ、俺ももっと食べる〜!」
「ちょ、アシタ‥‥って目が座ってる!? 顔も真っ赤! どういうこと? 誰がお酒飲ませたの!?」
 慌てるLetiaに、R.R.が事も無げに答えた。
「あ、すまないアル。 その肉に風味をつけるのに使った、お酒のアルコール、充分に飛んで無かたみたいね」
「あ! Letiaの持ってるジュース、いい匂いだな! ちょうだい!」
 むくれていたいた表情を、コロッと一変させ、Letiaにおねだりを始める朝。
「ダメよ! これ、ジュースじゃなくてお酒‥‥!」
「うう〜Letiaの意地悪〜」
「‥‥やだ、何この子‥‥かわいい//‥‥って、駄目だってば〜!」
 今度は泣きそうな表情になっておねだりする朝に、和みながらも、これ以上飲ませまいと頑張るLetiaであった。
「ふにゅ‥‥もう駄目〜‥‥俺、寝る〜」
 酔いが完全に回ったのか、個室でもないのに、パタンと倒れてしまう朝を、慌ててLetiaが抱き留めた。
「大丈夫かい? お水っ、お水っ!」
「レティ‥‥眠い〜ひざ枕〜」
 そう甘えた声で言うと、朝は目をこしこしし、ぴとっとLetiaの膝にもたれ掛ってスヤスヤと寝息を立て始めた。
「寝顔も和むねぇ〜おやすみ‥‥」
 そんな朝を優しくあやすLetia。完全に二人の世界に入っている二人を尻目に、憐はソウマが運んで来た新たな料理に手を付け始めた。
「ん。食べものより。彼女を取るリア充に。私と。勝負する。資格なし‥‥ん?」
 いつもの如く、怒涛の勢いで料理を咀嚼していた憐だったが、ふと歯に気になる触感を感じ、半分齧った炒め物の具に目を落とした。
 極僅かだが、普段無表情な憐の顔が引きつった。何かのキメラを酢豚風に調理したそれに入っていたのは、彼女の唯一嫌いなキュウリであった。
「ん。どうして。酢豚のような何か、に。キュウリ?」
「あれ、憐さん知らないアルか? 酢豚にキュウリを入れるのは、結構普通アルよ。ソウマさんが、折角台所にあるから使えいうし、入れてみたアルが‥‥」
 R.R.が言う。
 その言葉を聞き終えた時には、既に憐は酔いが回っていた。そう、彼女はキュウリを口にすると酔っぱらってしまう体質だったのだ。
「ん、ん、ん。なんという。不覚。中華料理、恐るべし‥‥無念」
 かくして、憐もテーブルに突っ伏して寝息を立て始めた。
「ふ‥‥やはり、僕の感に狂いはない」(ニヤリ)
「ソウマさん‥‥なんか白々しいアルよ‥‥」
 ようやく憐の動きを止めることに成功したソウマがガッツポーズを取るも、そこにR.R.のツッコミが入るのであった。

 さて、憐がダウンしたことで、心置きなく料理に集中するR.R.とソウマ。二人が新たな一皿を出すと、それに真っ先に手を付けたのは、カオス会場に来た那月 ケイ(gc4469)とエスター・ウルフスタン(gc3050)であった。
「ソース、気を付けてね。せっかく可愛い服なんだから」
 ケイの何気無い気遣いが、エスターをいきなり赤面させた。
 そう、今日の彼女は、髪は、ツーサイドアップ。服は、袖や襟口に黒いリボンのついた、襟ぐりの広い長袖のTシャツ、タータンチェックのミニスカートに、オーバーニーの黒ストッキングと赤い革靴。
 そして、ちょっと可愛らしいパンキッシュ‥‥と片思いのあの人の気を引くために、慣れないオシャレを頑張ったのだ!
(ぜ、前回はスルーしておいて、今回はこんなに早く気づくなんて〜!)
 内心こんなことを想いつつ、やっぱり嬉しいエスター。
「ん? どうしたの? 顔赤いけど‥‥」
「べ、別に嬉しくなんか、な、無いわよ! か、辛いの! そう、この酢豚がちょっと辛すぎるだけよ!」
 微妙に強がって、つんけんしているように見せても、端から見たらバレバレの態度である。
「‥‥ん、コレ、案外イケるぞ? 辛いっていうか、甘酸っぱいし‥‥」
「う、う、う、うるさい! 私が辛いっていったら、辛いの!」
 片思いの人の、冷静だが、空気を読まないツッコミに増々ヒートアップするエスター。
「おや、二人ともラブラブ仲良しさんだねぇ♪ デート?」
 そんな、様子の二人を見て、朝に膝を貸したままの、Letiaが早速冷やかしにかかった。
「ね、ねーさん?! 来てたんだ‥‥」
 貴重な、異性の友人にバッタリと出会ったケイは、驚きの表情を浮かべる。
「二人とも、相変わらずだねえ♪ こんなところで、痴話喧嘩なんかしちゃって♪」
 うりうりとケイをつっつくLetia。
「ね、ねーさんこそ、こんなところで朝さんと、らぶらぶじゃない‥‥」
 苦笑しつつ、どうやってLetiaをかわそうかと考えるケイ。その問題を解決してくれたのは、新たな料理を運んで来たR.R.とソウマであった。
「アイヤ、エスターさんは、随分とオシャレして来たアルね〜、これじゃあ、麺類は跳ねるから止めといたほうが良いアルか?」
 いかにも料理人らしい気遣いを見せるR.R.。彼が次に完成させたのは、どう料理しても不味そうな肉塊のようなキメラを挽肉にしたものと、都合よく青梗菜っぽい葉っぱを持った植物型キメラで作った、担担麺、のような何か、であった。
「あ、ボク紙のエプロン借りてきましょうか?」
 厨房から顔を覗かせたソウマも気遣いを見せる。ここで二人の名誉の為に述べておくなら、二人の言動は純粋な気遣いによるものである。
 しかし、色々とテンパッていたエスターには却って逆効果であったようだ。
「け、け、結構よ!」
 却って恥ずかしくなったのか、料理の見た目が、それほどおどろおどろしくないこともあって奪うように盆から取ると、照れ隠しのようにズルズルと一気にかきこんで見せたのだ。
「‥‥むぎ、苦?! いや辛い?!」
 そしてエスターは、今度は本当に辛さから、顔を真っ赤にするのであった。
「どれどれ‥‥?? あ、味の良し悪し以前に何を食ったのかすら、わからねぇ‥‥」
 二人の感想に、R.R.は頭を掻いた。
「まあ‥‥原型がおぞまし過ぎたので、徹底的にミンチにしちゃったアルからねえ‥‥」
「結構、いい感じに仕上がったと、思うんですけどね‥‥」
 そう、言いながら、ソウマは、自分用に取り分けた小皿から担担麺のような何かをちゅるちゅると啜った。
 味付けが彼の、仕業であることは、もはや言うまでもないであろう。

「はっはー! こっちでも、食うぜ、飲むぜ、騒ぐぜー! 俺の体が肉を、炭酸を求めている!」
 食、というか肉に対する熱い想いを語りながら、カオス会場に現れたのは守剣 京助(gc0920)である。
 一方、チャイナドレスを着用し、髪型は二つお団子にして、ちょっと中華娘風におしゃれをした、京助の恋人である桜井・遊美(gc1284)は、心配そうに周囲を見渡している。
「うわあ、強烈‥‥どれなら食べてもいいのか、悩んじゃうな‥‥」
 そう言って、テーブルに並んだ料理を見て蒼褪める遊美。
 そう、元々彼らは、カオスでは無く、メイン会場の方で食事会を楽しむつもりであった。‥‥が、見た目的に普通の豪華料理と比べても何ら遜色の無い、メイン会場は当然参加者全般から人気が高く、人気の高そうな料理は見る見るうちに無くなっていたのだ。
 当然、京助のお目当てである肉料理も、めぼしいものはほとんど、彼ら二人の口に入ることはなかった。
 この為、満足できない京助は、微妙に身の危険を感じて、渋る遊美を伴ってカオス会場に乗り込んで来たのである。
 彼が、このような無謀な行動に出てしまったのも無理はないだろう。何故なら、この二人は料理がキメラだとういうことを全く知らなかったのだから‥‥
「ぁ゛、こういう感じどこかで‥‥欲しいレアカードがあるんだけど、それ以外のカードは全部持ってるセットがあって、どれを買うか悩んだときと同じ‥‥!」
「遊美、今日は危険な事(カオス会場)につき合わせちまって悪かったな。だけど、まあ心配すんな。遊美は必ず(危険な料理からは)守ってやるさ」
 何故かシリアスに決める京助の前に、早速新たな一皿が運ばれてきた。おあつらえ向きに、何かの肉の塊をローストしたものである。いや‥‥何かというか、明らかにキメラの脚のようだ。腿肉だろうか‥‥?
「わ、私‥‥結構1日3食カップ麺でも平気なほうだけど、これは、無理! 一体何の肉なんですか!?」
 当然の如く遊美は取り乱し、R.R.を問い詰める。
「二人とも知らないで来たアルか? 今日の食事会の素材、これ全部キメラアルよ?」
「メイン会場のほうで食べて、気付かなかったんですか?」
 R.R.とソウマは、しれっと言う。
「あ、あっちの料理はちゃんとしていたから‥‥ちなみにこれ、どんなキメラのお肉なんですか‥‥?」
「確か、トリケラトプスだか、草食恐竜型キメラの脚だたね。まあ、豚足みたいなものだと思て食べればヨロシ♪」
「お♪ おいしいそうです‥‥ん? コレ、昔受けた依頼のキメラ肉と同じような感じですね。まぁ、食べられれば何でも‥‥うん、美味しいです」
 零次は早速キメラ肉を食べ、そう言う。
「無理です! キメラ食に慣れないとかそういう問題じゃなくて、明らかに無理!!」
 零次とは対照的に、半泣きで後ずさる遊美。しかし、そんな彼女の身体を、愛しい人の手が優しく、そして力強く支える‥‥
「きょ、京助‥‥」
「遊美‥‥大丈夫だ‥‥」
 力強く微笑む、京助。その手には、既に肉の旨そうな部分ががっしりと握られており‥‥
「はっはっー! この肉、凄くうまいぞ! 炭酸とも良く合うぜ!」
「あはは‥‥ま、まあ、一緒に食べてくれる人がいるんなら、何だって美味しくて幸せだよね!」
 幸せそうに、肉を頬張り、炭酸を流し込む彼氏に、彼女も覚悟を決めたのか、肉片を恐る恐る口にして‥‥
「あれ!? 美味しい!? 以外と普通の味‥‥」
「はっはっー、どうだ? こっちの料理も食べてみるかー?」
 京助はそう言って、別の料理を箸で摘み、遊美に差し出した。遊美はそれを口にしてにっこり微笑んだ。
「うん、これもすっごく美味しい!」
 いつの間にか、個室無しで、二人の世界を構築し始めている。二人に、京助の知人であるケイが挨拶して来た。
「はは‥‥お前ら、相変わらずだな‥‥」
「おう。那月も来てたのか! はっはー! 奇遇だなー」
 京助も挨拶を返した。
 ちなみに、那月の隣のエスターは、微妙に羨ましそうな顔をしている。京助と、遊美を見て、未だに友達以上恋人未満である自分たちの境遇を省みてしまったのだろう。
(エスターさん、あの二人に刺激されてるね‥‥ああ、もう! これをきっかけにして、くっついてしまえばいいのに!)
 さらに、それを眺めるLetiaも、やきもきした態度で一同を眺めるのであった。

 かくして、状況が一段落し、カオス会場に秩序(コスモス)がもたらされる時が来た。
 憐が寝落ちしたことで、安心したスタッフたちが調理に戻り、R.R.と、ソウマも時たま調理に注文を付けつつ、料理を味わっていた。
 二人の尽力で、どうにか食べられるようになったり、メイン会場のものより美味しくなったキメラがあったりで、いつのまにか、メイン会場にいたゆっくり!(gc7171)やユーダイ(gc7188)、それに石田三成(gc7199)といった人々もカオス会場に姿を見せ始めていた。
「俺、こっちに来てよかった! こんな珍しいものが食べられるなんて!」
 料理を口にしたユーダイは、感激した様子を見せる。
「なかなか、美味しいですね〜」
 おっとりした口調で石田も感想を述べた。
「こ、これは‥‥見た目の割に‥‥なかなか」
 おどおどした口調で、恐る恐る料理に手を伸ばしたゆっくり!も料理に満足している様子だ。
「よおし、今日は楽しんで食おうぜ!」
 ユーダイが言った。

 宴もたけなわに入り、参加者の内、何人かは連れ合い同士で個室に移動していた。
「まぁ、たまにはこういうのも悪くないかな?」
 個室で、適当に持って来た料理を楽しみつつケイが言う。
「‥‥あ、これ、美味し。ほんとにキメラなの? ‥‥こっちも食べてみなよ」
 エスターは、そういって、料理をケイに押しやった。
「任せろ! 押しつけられた料理は気合で完食‥‥って、押しつけすぎだぁぁっ!」
 食べられるものが出て来たとはいえ、さすがに限界だったようだ。そうやって、ふざけた後、明るく騒ぐケイ。
 しばらくして、意を決したようにエスターが切り出す。それまでと違って、緊張した声である。
「あんた、また最近、色々抱え込んでない?」
 最近の大規模、でお疲れ気味のケイを、エスターはずっと心配していたのだ。
「そ、んなことないって。ちょっと忙しかっただけで‥‥」
 ケイは、エスターに心配され内心驚く。確かに疲れはあるが、他人に、特に彼女には気付かれないよう、振る舞っていたつもりだったのだ。
「うち、あんまり出来ることないけど‥‥あんたの為なら、頑張るから。何でも言ってね」
 その、エスターの言葉に、ケイは、悪いとは思った。だが、それ以上にエスターが心配してくれた事が少し嬉しい。
「‥‥ありがと。そう思ってくれてるだけで十分だよ」
 エスターの頭を落ち着かせるように撫でるケイ。
「な、なななあああぅぅ‥‥」
 顔を真っ赤にして、あわてるエスター。
 それでも、ケイは慈しみを込めて彼女の頭を撫で続けた。

「こういうデートってあんまり経験なかったし‥‥メイン会場の料理は、あっという間に無くなるしで、どうなるやらと思ったけど‥‥」
 別の個室では、京助と遊美がデザートを堪能していた。
「はっはー! あの二人のおかげで美味い肉が食えて良かったなー、遊美!」
 京助も、ゆったりとデザートを食べながら、二人っきりの時間を過ごしている。
「そうだね‥‥私はあんまり料理とか得意じゃないし、こういう、京助が喜ぶような料理が御馳走できるようになれると良いなぁ‥‥うん! 決めた! 今度は私が御馳走するよ、ずっと忘れらない味を作って‥‥離れられないようにするんだから」
「はっはー! ‥‥まあ心配すんな! 俺も、遊美から絶対離れたりしない。 遊美はいつだって、必ず俺が守ってやるさ」
 京助の力強い言葉に、遊美は幸せそうに笑った。

「あー‥‥こっちは落ち着く‥‥デザートは普通なんだ♪」
 こちらの個室では、まだスヤスヤと眠る朝を見守りつつ、Letiaがデザートを堪能していた。
「ん‥‥」
 やがて、こしこしと目を擦り、ようやく朝が目を覚ます。
 それを見たLetiaは悶えた。
(‥‥やだ! 何この子‥‥寝起きもかわいい//)
 そして、デザート朝に渡すLetia。
「お、起きたかい。ほら、朝のぶんもデザート持って来たぞ♪」
 ところが、朝は立ち上がると、カオス会場に向かう。
「さっきは、途中で寝ちゃったからな。まだ全然足りてないぞ。まだ美味しそうな匂いもしているしな。もう少し料理を取ってくる」
 そんな朝に、Letiaは苦笑しつつ行ってらっしゃい、手を振るのだった。

「えっとな。これ貰ってくぞ。あ、これも美味しそうだな」
 新しい料理を受け取った朝がホクホク顔で去っていくのを見送って、ようやくR.R.とソウマは人心地着いたようだ。
「ふう‥‥タダより高い物は無いと言うけど‥‥こういう流れになるとは‥‥ま、僕の感では皆さん、喜んで頂けたみたいですけどね」
 額の汗をソウマが拭う。
「ワタシ、別に高級飯店の料理人でなくていいアル。たくさんの人に美味しい物、食べてもらいたいだけアルね。飾り切りの手間や材料費がかかり過ぎるような大げさな料理は、それを作る技術があるってだけで、ワタシには充分アルね」
 料理人として、多くの人を満足させたことに達成感を感じたのだろう。独り言のようにR.R.が呟いた。
「あ、でも味に手間を惜しまないことは大事アルよ」
「今回は特に、ですね?」
「まあ、素材がアレアルからねえ‥‥」
 そう言って苦笑する二人の間に、意識を取り戻した憐が割り込んできた。
「‥‥ん。私、復活。少なくとも、私には味付すら必要無い」
「‥‥ああ、やっぱりこうなるアルね‥‥」
「心配しなくても、厨房の人が、余った肉に火だけは通して、余ったソースを適当にかけてありますよ、最上さん」
 だが、憐は首を横に振る。
「‥‥ん。それは、たった今平らげた。そこそこ。結構。満足したので。帰り道に。甘い物でも。食べて。帰るね」
 思わず頭を抱えるR.R.とソウマ。
「はは‥‥さすが、最上さんですね‥‥でも、お二人の奮戦のおかげで、意外と楽しかった‥‥いや、美味しかったですよ。 よければいくつかレシピを教えていただきたいですね」
 憐と一緒にいた零次はそう言うと、R.R.とソウマに微笑んだ。
 こうして、少し不思議なお食事会は、無事在庫のキメラを全て消費して、無事幕引きとなったのである。

(代筆 : 稲田 和夫)