タイトル:キメラ1日研究員募集!マスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/27 14:42

●オープニング本文


 たぷたぷ先生こと時任 健三郎、金子 雄二管理下のもと、研究部に所属する部員達は、キメラの研究、生態調査等に勤しんでいる。
 研究は順調に進んでいるかと思いきや‥‥問題があった。

 それは、研究用キメラが多数いること。

 研究員の数はそれなりだが、全部のキメラの調査までは不可能なので何人かはかけもち調査を行っている。
 それを見かねた特別研究生の申 永一(シン・ヨンイル)は、1日だけでも調査を手伝ってくれる生徒や聴講生を募集してみてはどうかと提案したところ、それは以外にもあっさりOKされた。
 上からの許可が出たので、永一は掲示板に『1日研究員募集』のお知らせを書いたプリントを貼った。

●1日研究員募集要項
 学園生徒、聴講生問わず。
 研究対象キメラは1体。1人で調査するも、共同調査するも良し。
 どのキメラの調査を行いたいか、必ず報告すること。
 キメラは20センチ未満の小さなものから5メートルを越す大型がいる。
 猛獣系は扱いに注意するように。

 猫の手も借りたい研究部に、何人の1日研究員が集まるのだろうか。
 なお、1日研究員達の指導は永一がすることになった。言い出した本人がやるのが当然である。

●参加者一覧

/ ネイス・フレアレト(ga3203) / 百地・悠季(ga8270) / 櫻杜・眞耶(ga8467) / 美環 響(gb2863) / ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522) / エリザ(gb3560) / 榎城・ひにゃ(gb3676) / 織部 ジェット(gb3834

●リプレイ本文

●集まった1日研究員
「久しぶりの依頼なので、ゆっくりとキメラの観察をしてみたいものです。学園での依頼はこれが初めての聴講生ですが、宜しくお願いします」
 学園に着てみたかったのも参加動機でもあるネイス・フレアレト(ga3203)は、のんびりと研究対象のキメラを見ていたが壁にぶつかってしまい、眼鏡がはずれたことでウロウロし始めた。
「まずい、このままではキメラを閉じ込めている檻や籠にぶつかってしまう!」
 申 永一(gz0058)はネイスの眼鏡を咄嗟に拾うと、彼に手渡した。
「ありがとうございます」
「気をつけてください。ここには、危険なキメラもいるんですから」
 先行きが不安になった永一だった。

「士官学校とはいかないけど、一応UPC直下の軍学校士官学校だからそっち方面もやらないと拙いのかしら? 気持ち悪いから出来れば避けておきたいのが道理なのだけれど、そう行かないのは世の中の常ってヤツよね」
 溜息をつく百地・悠季(ga8270)。
「だからって、鬱になって逃げ回るのもなんだからな・る・べ・く、前向きに対応して無難なのから扱ってみるのが良いかもね」
「それが良いかもしれませんわね」
 悠季の知り合いであるエリザ(gb3560)も、悠季同様の考えのようだ。

「私は、キメラの嗜好について調べていこうと思います。逃走したり、攻撃しようとしたら巨大ハリセンで殴ってもいいですか?」
 櫻杜・眞耶(ga8467)の質問に「SES搭載武器でないなら殴っても構わないが、逃走させないように」という永一の先輩研究生が回答。

「僕は、変身できるキメラの研究をしてみたいですね」
 キメラを効率良く倒すヒントを探すために参加した美環 響(gb2863)は、変身キメラに興味があるようだ。

「お久しぶりです、申さん。今回は宜しくお願いします。セクハラキメラですけど、あの後どうなりましたか?」
 永一に挨拶したハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)は、以前逃げ出した18匹のセクハラキメラ捕獲協力者の1人だった。
「こちらこそ。あのキメラだが、虫篭に女性物の下着を入れた途端大人しくなったよ。女性に関するものなら何でもいいらしいと見た」
 困ったものです‥‥と溜息をつく永一。

 鉛筆と消しゴム、ノート等の筆記具を準備し、気づいた点があれば何でもメモできるように準備した榎城・ひにゃ(gb3676)は、まだ始まらないのかな? とワクワクしている。筆記用具は予備を用意しており、キメラ研究中に誰かと出会い、一緒に研究するようだったらプレゼントをするつもりでいる。

 織部 ジェット(gb3834)は、緊張しながら初めての依頼であるキメラ研究に挑もうとしている。
 幼少時、治安の悪いスラム街で育ったジェットは人間相手ではそれなりの数の喧嘩をこなしてきたが、今回の相手は、敵になるかもしれない初めて見る、見たことも無い怪物だ。
「もしキメラが研究中に襲ってくるようなことがあれば、俺は勝てるのか?」
 つい、不安を口にしてしまったジェットに対し、永一は「研究中は、キメラが襲わないよう俺達研究員が見ているから大丈夫だ」と安心させた。
「これは皆にも言えることだが、ここにいるキメラは警戒心が強かったり、獰猛なものもいる。それ故、研究には研究員達が立ち会う。その条件つきで、今回の1日研究員制度が実施された。わからないこと、不安なことがあれば研究員に尋ねるように」
 永一の言葉に「はい」と返事する1日研究員である生徒と聴講生達。
 研究員達は、各自に白衣を配ったが‥‥ひにゃのサイズに合う白衣がなかったので、永一の汚れても構わないお古を白衣代わりに着せたがそれでもブカブカだった。
「永一さん、ありがとうございますにゃ」
 語尾に「にゃ」が付くのは、つい口癖が出てしまったためである。
 さあ、観察開始だ!

●榎城・ひにゃの観察
 小さな研究員のひにゃは、できるだけ小さく、可愛らしいキメラを選ぶことにした。
「これなんかがいいですね」
 研究対象に選んだのは、ファンタジーに出てきそうな愛らしい容姿の妖精キメラ。
 あまり近づかず、そっとゆっくりと覗き込みながら妖精キメラを観察している。
「研究員さーん、聞きたいことがあるんですけどいいですかー?」
 ひにゃが研究員を呼んだので、側にいた女性研究員が対応することに。
「何かしら?」
「このキメラ、裸なんですけど風邪はひかないんですか? それと、この子は何を食べているんですか?」
 食事については説明できるが、風邪をひくのかという質問にどう返答しようか困る女性研究員。おそらく、妖精キメラが全裸だからそのような質問をしたのだろう。
「キメラには『フォース・フィールド』が張られているのは、能力者なら知っているわよね?」
「はいです」
「だから、キメラは風邪はひかないの。SES搭載武器でしかやっつけられないから。食事は、ほとんどが雑食性だから何でも食べると言ってもいいわね」
 女性研究員の言葉を、一言一句漏らさずメモするひにゃ。
 気づいたこと、わかったことをノートにメモるとは感心、感心。
「キメラにご飯、あげてみる?」
 女性研究員が差し出したセロリに「はいです!」と元気良く答えるひにゃ。
 妖精キメラが入っている虫篭の蓋をそっとあけ、セロリを挟み込むようにして入れると、キメラは両手で持ってちびちび食べ始めた。
「キメラとはいえ、可愛いですね」
 餌を食べているキメラの傍を離れず、その行動をノートに描くひにゃは「カメラを持ってこれば良かったです‥‥」と後悔。仕方が無いので、ノートの隅セロリを食べる可愛く描かれた妖精キメラのイラストを描いた。
「きみは絵が上手だな。細かいところまで良くかけているよ」とイラストを見た申はひにゃを褒めた。
「ありがとうです。ひにゃ、頑張ってキメラさんと仲良くできるよう研究します」
 食事を終えた妖精キメラは、この後どのような行動をするのか考えながら、ひにゃは積極的に研究を行った。
「あ、これ、お姉さんと永一さんにお礼なのです」
 ニッコリ微笑んだひにゃは、女性研究員と永一に筆記具をプレゼントした。
「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」
 ひにゃの頭を優しく撫で、礼を言う永一。
「もらっていいの?」
 コクンと頷くひにゃに「ありがたくいただくわね」と礼を言った女性研究員。

『ひにゃが観察したのは、可愛い妖精キメラさんでした。このキメラさんのことをもっと知って、とっても仲良くなりたいです。 榎城・ひにゃ』

●織部 ジェットの観察
 ジェットは、キメラはただ殴って蹴れば屈服する相手とは思っていない。言葉が通じる相手ということを理解しているからだ。
「しかし、襲われてしまったのなら‥‥その時はやるしかない。それが俺の覚悟だ」
 その感情は、血気盛んなジェットらしいことが窺える。
「人間に手傷を負わせる訳じゃない、楽に行けばいいか‥‥」
 従うことに耐える。それも傭兵の試練だと言い聞かせ、ジェットが観察対象に選んだのは自分と同じ立場だと思われる猛獣型キメラだった。
 外見は狼だが、ケルベロスのように頭が3つある。
 観察とはいえ、ひにゃのようにメモも取らず餌付けする気配も無い。
 こいつは俺と同じだ、という感情しかジェットにはなかった。
「まず、強いキメラが優先されることだろう。年功序列は、人間であろうとキメラであろうと関係ない。経験がモノを言うんだからな。何事も体験。そして、後は自分で覚えていけばいいだけのことだ」

『キメラとはいえ、食うか食われるかだ。それしか書けん。 織部 ジェット』

●ハイン・ヴィーグリーズの観察
 ハインが選んだ研究対象キメラは犬型キメラだった。
 小型、中型なら何でも良かったが、小型犬を選んだ。
「さて、この子を調きょ‥‥いえ、研究でもしましょうか」
 言いかけた台詞から察すると、小型犬キメラを躾けようとしたのだろうか!?
 ハインは、小型犬キメラがどこまで基本的な犬であるかを調査してみることに。
「まずは、これで実験してみましょう」
 取り出したのはエアーソフト剣。これを竹刀のように使用し、躾の基本と言わんばかりに芸を仕込ませようとしたが‥‥。
「ちょ、ちょっと! 何をしているんだ!」
 その様子を見た永一に止められた。
「この子の躾です。いけませんか?」
「いや、そうじゃなくて‥‥。小型とはいえ、キメラなんだぞ。危険だとは思わないのか?」
「こんなに可愛いのにキメラに生まれるなんて‥‥何て不憫なんでしょう。躾ですが、上手くいくかどうかわからないでしょう? 最後までやらせてください」
 もう勝手にしてくれ‥‥と折れた永一だった。
 まずが『お手』をさせようとしたが、一向に言うことをきかない。野生動物に近いキメラを躾けようということ事態、無理がある。
 駄目ですね、と巨大ぴこぴこハンマーで小型犬キメラを思いっきり叩きつけた。どんなに痛めつけても、キメラは人間の言うことをきかないんですから諦めてください。
「躾は駄目でしたか‥‥。では、次の実験といきましょう」
 そう言うと、ハインは水筒に入れてきた刺激の強い臭いがする液体の臭いを嗅がせてみた。
 嗅覚は並みの犬以上に優れているので、小型犬キメラは近づこうともしなかった。
「臭いに関しては犬、いや、それ以上ですね。人間様の言うことはきかないですが」

『今日は楽しかったですね。またやりたいものです。躾は失敗が残念でしたが、今度は成功させてみます。 ハイン・ヴィーグリーズ』

●美環 響の観察
 響が研究対象に選んだのは、化け狐型キメラ。
「このキメラを選んだのか。こいつは口から火を吐くだけでなく、見た対象の姿形、行動を真似る能力を持っている。化け狐、というだけあってな。それだけ、知能が高いという証拠だろう。観察する際は気をつけろよ」
 永一の言葉に「それは楽しみです!」とワクワクする響。
 最初はじっくりと化け狐キメラの観察をしていたが、途中からこのキメラで遊ぶという目的に切り替わった。
「変身できるってことは、いたずら好きな性格でもあるんですね? 僕に変身しないか楽しみです♪」
 早く変身しないかな? と待っていたその瞬間。
 化け狐型キメラは、太った響に変化した。
「うわぁ! 本当に変身した! でも、僕はそんなに太ってないです!」
 そう言うなり、今度は女性化した響に変化。
「これが女性になった僕ですか‥‥思わず惚れてしまいそうです♪」
 うっとりしている間に、今度は次は背の低い響に変身。
 女性化の僕の邪魔して! と怒りながらも、響は楽しみながら興味津々に観察をし続けた。
 他種のキメラの物真似物をさせて悪戯をしようと企んだその時、研究員に「そのキメラだけど、ひとつの対象しか真似ることが出来ないから集団戦にとても弱いんだ」と一言。
 それで、僕の姿を完璧に真似ることが出来ず、どこか、というか、微妙に違っていたんですね‥‥と響は落ち込んだ。

『終わりよければ全て良し! 観察自体面白かったので、これで良かったということにしておきましょう。 美環 響』

●櫻杜・眞耶の観察
 眞耶の研究対象に選んだのは、座敷童子のような人型キメラ。
 おかっぱ頭に着物を着た5歳ぐらいの幼女の外見をしているが、実物するといわれているものと違い、人間に幸福を与えず、攻撃して危害を与えるタイプだ。先月、日本で瀕死状態のところを捕獲されてここで研究対象となった運の良いキメラともいえる。
「まずは、接触してみましょう」
 檻の隙間から手をそぉっと入れたら、ペチッと叩かれたことで眞耶の手は真っ赤に。怪我は完治していないが、かなり力があるようで。
「次は、この子の嗜好について調べていこうと思います」
 嗜好調査は、まず意思の疎通がとれるか確認したうえで行うことに。
「お腹、すいていませんか?」
 優しく声をかけて気遣うが、座敷童子キメラは無反応。意思疎通は不可能と判断。
 嗜好調査はあきらめ、このキメラがどのような匂いを好むのか調べることにした。
 持ってきたのは香水、刺激臭、血液臭等様々。
 まず嗅がせたのは香水。リラックス効果があるラベンダーだ。座敷童子キメラはクンクン臭いを嗅ぐと、少し大人しくなった。
「ラベンダーは人間同様の効果あり‥‥と。次はカレーの臭いです」
 持ち込んだタッパーの蓋を取ると、カレーの匂いを嗅がせた。これに関しては少し嫌な顔をされたが、他のキメラの食欲を増進させてしまった。
「眞耶くん、それを早くしまってくれ。他のキメラに影響をきたしてしまう」
「はい‥‥」
 永一に注意されシュンとなる眞耶だったが、これで最後と赤い液体を嗅がせた。
 それは、眞耶自身の血だった。ここに来る前、自分で指を切って少し溜めたものだ。
 これは嗅がせてはならなかった、と眞耶は後で思い知った。
 血の臭いはキメラの闘争本能を剥き出しにする効果があるのか、大人しかった座敷童子キメラや、その他のキメラが暴れだした!
「何をしたんだ! まさか、血の臭いを嗅がせたのではないだろうな!? そのキメラは外見は幼女だが、人間を襲ったことで血の味を覚えた凶悪なキメラなんだ!」
「す、すみませんっ!」
 知らなかったとはいえ、またしても永一に失態を見せた眞耶だったが観察は続けた。
 1時間後。大人しくなった座敷童子キメラに様々な映像をテレビで見せ、画像毎の反応をチェック。興味を示したのは、幼女だからなのかぬいぐるみ劇場だった。
 反省点も加えキメラの反応を全てメモに記入後、書類にまとめて報告することにした。

『永一兄はんに叱られてしまいましたが、それはキメラを大事にしている証拠だと思っています。今度は注意されないよう、気をつけて、慎重にキメラの観察をすることに決めました 櫻杜・眞耶』

●百地・悠季の観察
 白衣の下にカンパネラ学園の制服着用という悠季は、汚れてもそんなに酷いのを扱わなければ大丈夫でしょうと思った。素手での扱いが衛生上問題解消のため、全員、薄手の手袋着用が義務付けられている。
 準備万端といったところで、悠季は観察対象のキメラを捜した。
「可愛い容姿のものから見ていったら良いかも。小さい妖精もどきキメラの生態観察でもしようかしら?」
 どんなに可愛く、愛らしい容姿でも一応キメラであることを忘れていない悠季は、そのあたりを注意して、観察対象に選んだ少し大人びた少女キメラ。和風な衣装を見る限り、このキメラは天女を模したものだろう。
 檻から逃げないよう注意しつつ、無難に餌付けとか始めることにした。
 まずは、普通に人が食べられる物を。昼食にと思い用意したサンドイッチを天女キメラの檻の隙間からそぉっと入れた。天女キメラはそれを見るなり、外見に相応しくない食べ方であっというまに完食。
「外見は美しくても、汚い食べ方をするのね? やっぱりキメラ、ってところかしら」
 次は鉱物類。とりあえず、鉄くずを食べさせてみることに。しかし、それには全く反応を示さなかった。食べ物と思われていないようで‥‥。
「薬物は危険よねえ‥‥どれがそれに当るのかは生態次第だけど」
「きみ、薬物をキメラに与えるつもりなのか!? 見たところいろいろ持ち込んできたようだが、どのような危険性があるかわからないんだぞ。それだけはやめてくれ!」
 永一だけでなく、他の研究員も薬物を摂取させる観察に反対した。
 貴重な研究対象に死なれては困るというのもあるが、ここで問題を起こしたら、この場にいる研究員全員解雇処分になるかもしれない危機があるからだ。
「わかったわ。さすがに、薬物投与は駄目だったか‥‥。サンプルも駄目となると、諦めるしかないわね」

『私が観察したのは綺麗な天女キメラ。外見は美しかったけど、食事のマナーがなっていないのが残念だわ。キメラに品良く食事しなさい、というのは無理なのかしら? 躾は難しいでしょうね。 百地・悠季』

●エリザの観察
 エリザが研究対象に選んだのは、スライム型キメラだった。
 地球上で比較的似た生物は粘菌類だが、明らかにそうした生物とは異なるのは一目瞭然。それらをベースとした生物も思い当たらないので、興味深いキメラだとエリザは思っている。
「気になることは、スライムが郡体なのか、それとも単体で独立した生物かですわね」
 近くにいた研究員に、可能であればスライムの一部を切除して調べてみたいと申し出たところ「切断は自分がするから、研究は好きにしていいよ」とスライムの一部を切断した後、シャーレに入れてくれた。
「ありがとうございますわ」
 スライムキメラは、もしかしたら単細胞生物をベースとしたのかもしれないと想定したエリザは、早速顕微鏡でスライムの一部を観察。
「ゲル状の体から筋繊維による移動とは考えにくいですけれど、どのような経路で中枢から指示を送っているのでしょう? 神経系や中枢神経系がどのようになっているのかも気になりますわ」
 スライムの細胞は、とても興味深い観察の材料となった。
 調査の結果、郡体でないとしたら、一種のフェロモンによる化学物質で行動を決定している可能性アリと判明。
「次は、酸の強度を調査してみましょう」
 Rh試験紙は、研究員にわけてもらったものをしよう。それを使い、酸がどれくらいあるのか、系統は何かをチェック。
 それが分かれば、スライムの攻撃を防護するのに丁度良い道具が見つかるかもしれないと思った。
「酸性の体を持つスライムに、アルカリ性薬品漬けにしたらどうなるのかしら?」
 それも気になるので、顕微鏡で研究済みのスライムの一部を更に切断し、アルカリ性薬品と水分豊富な体に塩をまぶし、塩漬けにした。
 薬品の類を用意したのは、エリザを心配して手伝いに来た悠季。
「必要な薬品をすぐ使えるよう、準備しておいて正解だったわね」
「ありがとうございます。どうなるか気になりますわね」
 スライムキメラ全体を浸けたりすると死にそうと思ったエリザは、切片を使用することに。このほうが賢明な判断といえよう。
 弱点云々より、スライムはどのような生物なのか、というのが気になって仕方が無いようだが、生殖方法も気になっている。
 エリザと悠季はじーっと様子を窺っていたが、何の反応も無い。
 薬品実験を諦めたエリザは、スライムキメラ生殖の事例があるのかどうかは、研究員に訊ねることに。
「スライムキメラの繁殖? 繁殖、というよりは復元増殖かな?」
「そうですか‥‥残念ですわ」
 今回は良く観察できませんでしたが、次こそはじっくりしますわ、と誓ったエリザだった。

『スライムキメラの観察は、とても興味深いものでしたわ。私の予想とはかけ離れていた結果もありましたが、損をしたとは思いませんわ。次回があれば、また参加したいものですわね。 エリザ』

●ネイス・フレアレトの観察
 研究員達が不安がった1日研究員は、のんびりとした性格のネイスだった。
 観察前のように、メガネが外れて見えない状態になると困るからだ。
「小動物が大好きなので、キメラだろうと可愛い物を見るとウズウズしますね。溺愛している鈴音(リオン。ネイスが飼っている黒いオス猫)並みの可愛いキメラがいると良いですねぇ」
 そんな彼が選んだキメラは、獣型で、小さめのキメラ。
「出来れば、モフモフした子がいいです」
 そういうワケで、選んだのはモフモフの猫型キメラ。長毛種なので、文字通りモフモフである。
 モフモフ猫キメラに引っ掻かれたり噛み付かれたりするのを覚悟したネイスだったが、そぉっと撫でても全く警戒されなかった。むしろ、人懐っこい。
「人に懐くなんて、珍しいキメラですね」
 観察内容は考えていなかったので、永一に餌付け、体型調査をするようアドバイスを受け、それらを真面目に、指示通りに行った。
「モフモフ‥‥可愛いです‥‥」
 食事中のモフモフ猫キメラを見ながらぽややんとなるネイスだった。

『可愛いモフモフキメラの観察が出来て楽しかったです。 この子だけでなく、他のキメラも人間に懐けば良いなと思いました。 ネイス・フレアレト』

●観察終了後のお茶会
 キメラ観察終了後、永一は全員の観察レポートを回収した。
「皆さん、ご苦労様でした。本来なら倒すべき対象ですが、いろいろと観察できて生態や嗜好がわかったことと思います。以上で、1日研究を終了します」
 これにて解散、と思いきや、ネイスが「皆さんでお茶でもしませんか?」と誘うので、研究員達、1日研究員仲間はお言葉に甘えてネイスのお誘いに応じることに。

 お茶会は、カンパネラ学園の食堂で行われた。
 ポットやティーカップは、食堂のおばちゃんに断ってから借り、茶葉はネイスは持参したものを使用。お茶菓子も数点、用意してある。
「キメラですが、その数だけ観察ができるというのが面白いですね。皆さんが観察したキメラはどうでしたか?」
「ひにゃが観察したのは、可愛い妖精さんです。お食事している仕草が可愛かったのです」
 そう言うと、観察の際に描いた絵を皆に見せた。
「上手ね、ひにゃちゃん。あたしなんて、反対された観察もあったわ。キメラって、食事のマナーがなってないわね。綺麗な天女なのに」
 幻滅したわ、とぼやく悠季。
「私は、有意義な観察ができましたわ。今度は、観察ではなく、研究をしてみたいものですわね。永一さん、宜しいかしら?」
 研究員立会いのもとでなら‥‥と、エリザの質問に答える永一。
「私は永一兄はんに怒られましたが、お目当てのキメラの観察ができて良かったと思います。兄はん、ほんま、すんませんでした‥‥」
「もう気にするな。次に観察する時に気をつければ良いんだから」
 永一の言葉に、瞳が潤んだ眞耶。
「キメラに躾ができたら、被害は少なくなるでしょうねぇ。調‥‥もとい、躾ができないと判明したのが残念でした」
 躾と称した『調教』を諦めきれないハイン。
「僕も楽しかったです。でも、観察したキメラが1対象しか変身できないのが残念でしたね」
 それでも楽しそうな表情をしている響。
 ジェットは、何も語らずお茶を飲んでいた。
「私も、今回キメラの観察ができて楽しかったです。申さん、また募集するんですか?」
 ネイスの質問に「上に掛け合ってみるよ」と永一は答えた。

 こうして、キメラ研究と称した観察は無事終了。お疲れ様でした。