●リプレイ本文
●こんなはずでは
UPC士官服に武器を装備した三崎・裕士(gz0096)は、自分の対戦相手となるべきカンパネラ学園の生徒達を見て唖然となった。
「な‥‥! 何故、このようなことに‥‥!」
参加者は、これが初陣となる空木崎・ひふみ(
gb4102)。
立ち技系格闘技大好き少女、天地 明日美(
gb2400)。
この2人は問題ないが、何故か20代の千祭・刃(
gb1900)と梓・弓鶴(
gb3856)が参加している。
「おまえ達、参加要項をキチンと見なかったのか! 参加資格は10代の少年少女限定と書いてあっただろうが!」
三崎中尉に怒鳴られても、2人は平気な顔をしている。
「お言葉ですが中尉、僕達が参加していなかったら、この勝負は成立しなかったんですよ? 23歳の僕が参加したのはまずいとは思いますが」
「むしろ、感謝してほしいくらいですよ。俺達だってドラグーンなんですから。それとも、女3人が相手では戦えませんか?」
弓鶴の挑発が聞いたのか、三崎中尉は「面倒だ、参加者全員でかかって来い!」とムキに。
(「三崎先生って、本当にこわ〜い体育教師で有名な先生なんだ。そんな人に、あたし勝てるのかなぁ?」)
三崎中尉が噂どおりの人物だと知り、少し怖気づいたひふみ。
「三崎中尉は、カポエイラという格闘技の使い手とお聞きしました。未知の格闘技の使い手と対戦できるのが楽しみです! 対戦相手として不足無し、いえ、上等です!」
異国の格闘技を知らない刃は、三崎がどのように技を繰り出すのか楽しみで仕方がない様子。
「カポエイラの使い手でもあるんだ‥‥相手にとって不足無し! 鬼体育教師で有名な三崎中尉に勝って、鬼の涙でも見てみるとするかね」
どうなるか楽しみだぜ! とやる気を漲らせる弓鶴。
三崎中尉がカポエイラの名手と聞いて参加した明日美は、早く勝負が始まらないかと今か今かと待ちわびていた。
「天地 明日美です、宜しくお願いします! 本物のカポエイラが目の前で見れるなんて超感激です!」
三崎中尉は腕組みをしながら、ドラグーン達に「自分は一切容赦せん! 戦場にいる敵だと思い、おもいっきり全力でかかって来い! 情けは無用だ!」
この一言が、対戦開始の合図となった。
●一斉攻撃!
皆、一斉に飛びかかると思いきや、慎重に三崎の様子を見ている。初めて対戦する相手ゆえ、どのような攻撃をしかけてくるか予測できないからだ。
装備武器で攻撃してくるかもしれないし、10分の1のダメージしか与えられなくとも得意のカポエイラでを仕掛けてくるかもしれないので予測不能。
前衛メインでいくつもりの刃でさえ、まずは三崎中尉の様子見と慎重になっている。
(「攻撃の前に『竜の鱗』を使っておこう」)
歩み寄ってから『竜の鱗』を発動させた刃は、三崎中尉の足止めを銃、弓を装備している仲間に任せて突進した。
「後衛の人、足止めお願いします! その間、僕は接近戦に持ち込みます!」
後衛を担当するのは、銃使いの弓鶴と弓使いのひふみの役目。
「ここは俺達に任せてさっさと行け、千祭!」
「あたしも、三崎先生を近づけさせないようにするからね!」
弓鶴は『竜の爪』『竜の瞳』を、ひふみは『竜の鱗』『竜の瞳』を発動させた後、即座に三崎中尉の足元めがけて一斉攻撃!
「うっそー!? 貫通しているはずなのにノーダメージ!? 信じらんない!」
面食らったような表情で驚くひふみ対し「エキスパートのスキル『自身障壁』使いやがったな‥‥」と冷静な弓鶴。
スコーピオンと小銃「フリージア」を構えつつ、弓鶴は三崎中尉を挑発。
「三崎中尉、やるからには俺は本気で行く! だから中尉も本気で来い!」
弓鶴の挑発に眉ひとつ動かさず冷静に動こうとする三崎中尉は「やるからには自分も全力で相手する!」と宣言。
「せっかくだから、私は組み手をしていただこうと思います! いきます!」
武器を持たず、低い姿勢から『竜の翼』を発動させ、足首を狙いタックルした明日美の咄嗟の行動に気づかなかった三崎中尉は脚を捕らえられ、腱を固めようとしたが技をしかける隙がない。
「そ、そんな‥‥! 技を仕掛ける隙が無いなんて‥‥。こうなったら! ええい、ままよっ!」
上手く三崎中尉の背後に回り込めた明日美は、背中に両手を回し、抱えて投げ技に持ち込んだ。
「いきます! バァーック、ドロォーップッ!」
三崎中尉は思いっきり地面に叩きつけられたが、『自身障壁』のおかげでノーダメージだが油断は禁物。
バックドロップ後、三崎中尉を横に倒してローリングクレイドルに持ち込み動きを止めることに成功したが、弓鶴、ひふみが攻撃しにくいという欠点が生じた。
「天地さん、格闘技も良いですけど後方の2人が攻撃できませんよ?」
ローリングクレイドル中に声をかけた刃の指摘に、自分の攻撃が後衛の2人の足を引っ張っている行為に気づいた明日美だった。
「私、邪魔でしたか? ご、ごめんなさいー!」
「気にするな。天地だけが相手じゃないんだ、俺達も相手なんだぜ?」
「梓さんの言うとおりだよ、あたし達を信用して!」
明日美はローリングクレイドルを中断し、弓鶴、ひふみに合流。
●三崎の反撃
「皆、それぞれの攻撃を仕掛けているようだが‥‥天地以外はまったく個性がない! マニュアル通りの戦法では自分に勝てないことを思い知らせてやる! 今度は自分の反撃といくぞ!」
瞳が紫に変わり、全身に赤い炎のようなオーラを纏って見えるのが三崎・裕士中尉の覚醒状態だ。
即座に覚醒し終えると、カポエイラ基本動作である『ジンガ』から『アウー(側転のような移動技)』に転じ、刃から顔を背けずに移動を行った後に再び『ジンガ』に繋げて接近すると『メイア ルーア ジ フレンチ(前方で半月を描くような蹴り)』で刃の腹部を思いっきり蹴った。AU−KVを装着している、蹴り攻撃なので刃にダメージはないものの、体勢を崩し倒れこんだ。
「これが『カポエイラ』ですか‥‥。無駄な動きの無い異国の武術ですね」
感心しながら立ち上がり、三崎に反撃しようと試みる刃。
「あれが『カポエイラ』かぁ。初めて見たよ。あんなアクロバッティングな動きを攻撃に取り入れてるんじゃ、足元狙いにくいよ。足が地面についている時間が短いみたいだし」
「俺も初めて見た。あんなんでヒョイヒョイ避けるなんて‥‥ありゃ達人クラスだな。さっきの移動技は基本だろうな。初志貫徹っぽいあの人なら、忠実に基本行動を続けるはず。その隙が狙い目だ。そう思わないか?」
弓鶴の観察力に「そこまで見てたんだ、すごーい!」と感心するひふみ。
「接近され、攻撃を喰らったら痛そうだな〜。喰らったら、俺は大人しく倒れるか。ダメージが大きかったらダウンもんだろうけど、AU−KV装着してるし、素手、蹴りでのダメージはさほどないって聞いたことがあるし」
そこ、私語を慎め! と三崎中尉が2人を怒鳴ったかと思うとダッシュで接近し、体を回転させ、捻りを利用して上半身が前を向かせてから足を出すと、華麗で流れるような『アルマーダ』 で2人同時攻撃!
「な‥‥! AU−KV装着してるのに‥‥!」
AU−KVを装備しているにも関わらず、弓通はよろめいた。ひふみに至っては『竜の鱗』が発動していたのでかろうじて立っていられた。
「私語している暇があったら、どのように攻撃し、どのように防御するかを常に考えながら行動しろ! これが戦場であればおまえらは死亡しているぞ! 気をつけろ!」
『はいっ!』
次こそは負けない! と決意した弓鶴とひふみは、声を揃えて返事した。
「遠距離武器、持って来れば良かったかなー」
明日美はそう思いつつ『竜の鱗』を発動させ、少しでも三崎中尉の攻撃を凌ごうとした。
「いきます!」
全速力で三崎中尉に近づくが、回避や移動に最適な『ホレー』で咄嗟に避けると地面に手を付け、頭を両腕の間に入れ、明日美から目を離さず『メイア ルーア ジ コンパッソ(コンパスのように円を描く蹴り技)』で反撃。この技だが、基本の蹴りの中でも難易度が高い。
「‥‥っ!」
強烈なダメージはないものの、衝撃で倒れそうになった明日美は足を地面につけ、倒れないようにしっかりと仁王立ちしている。
「なかなか骨のある生徒だな。だが、これはどうかな?」
続いて繰り出されたのは『アウー バチードゥ』。相手が予測しづらいトリッキーな蹴り技である。相手を翻弄させるにはもってこいの応用蹴りである。
「痛いっ! 痛いですっ! 先生っ!」
蹴りを連続で喰らい続けていれば、AU−KVを装着していても『竜の鱗』が発動中でも、多少のタメージを受けてしまう。それでも、踏ん張って立っている明日美の根性はお見事!
(「か、かっこいいです‥‥」)
蹴り技をくらいつつ、三崎中尉の動作の技に目を輝かせて見惚れてる明日美だったが攻撃が終わると同時にへたりこんだ。
「明日美さん、しっかりして!」
ひふみに体を揺さぶられることにより、明日美は正気に戻った。
「はっ! わ、私は‥‥」
「かなりの蹴り喰らったみたいだね。今度は、あたし達が反撃しよう! 三崎先生、あたしはこれが初陣だけど、根性は誰にも負けないんだからね!」
弓の先を突きつけ、三崎に宣戦布告するひふみは闘志に燃えている。
「それ、同感。さっきは『竜の鱗』使ってなかったから痛かったけど、今度はあんたが痛い目に遭う番だ!」
「僕も諦めません! 日本男児は、簡単に負けを認めたりしないものだと、とーちゃんが言っていました! 最後の最後まで正々堂々と戦います!」
弓鶴、刃も反撃すべく三崎中尉の行動に慎重に見て、反撃の隙を窺っている。
●竜騎兵の逆襲!
「足止め、お願いします!その間、僕は接近戦に持ち込みますので!」
「それ、さっきも言っただろうが! わかったからさっさと行け!」
刃の反撃開始の合図と同時に『竜の爪』『竜の瞳』を発動した弓鶴は、三崎中尉の足元を狙い撃ちして足止めに徹した。
「先輩のお手並み拝見といきますか」
刃がどのような戦法で攻めるか楽しみでもある弓鶴だった。
「援護は任せといて!」
ひふみは力強くそう言うと、長弓「燈火」で足元を狙い撃ち!
その間、刃は接近しつつ『竜の爪』を発動させ、三崎中尉が自分の間合いに入ると養父直伝の『千祭流剣技』で攻撃!
「千祭流剣技、乱弾突!」
おそらく『自身障壁』で自らの防御を高めていそうなので、刀の尖端を利用した連続付き攻撃が通用しないと思っていたが、多少のタメージを与えることができたのか、三崎中尉の眉が少し歪んだ。
「思ったほどのダメージを食らっていないようですね。でも、僕は諦めません! 日本男児たるもの、簡単に諦めるものではないと、とーちゃんが言ってました! だから、僕も簡単に諦めたりしません! 最後の最後まで戦い抜きます!」
次の反撃の際には『竜の翼』で急接近しようと決めた刃。
遠距離攻撃が得意なひふみは、接近戦に持ち込まれると反撃に持ち込めないのが欠点であるということを熟知しているので、三崎中尉に近づかれたら離れしかないと自覚している。
「逃げるのも戦法のひとつ! 言うじゃない? 『逃げるが勝ち』って!」
それでも何の躊躇いもなく三崎中尉が接近するので、ひふみは弓を横にして、下腹部に叩きつけた。
「三崎先生! ごめんなさいっ!」
「今の自は敵だ! 敵に謝る馬鹿がどこにいる!」
ひふみの甘さに激怒した三崎中尉は、接近すると『シャーパ(足刀蹴り)』でひふみの胴体をおもいっきり蹴飛ばした。ダメージは無いものの、ひふみは勢い良く倒れこんでしまった。
(「思ったとおり、あたし、吹っ飛んじゃったなぁ‥‥」)
それでも立ち上がり、強気な態度をとるひふみ。
「あたしはこれが初陣だけど、根性は他の誰にも負けないんだから!」
「それは俺も同じだ。ただ援護するだけじゃない! 積極的に攻撃にも参加させてもらう!」
カポエイラ技で何度も避けられたら、避け終わった隙を狙い撃ちを考えている弓鶴。移動技の中には、動作終了後に隙が生じるものもある。
(「あの人、あんな体型で軽々とヒョイヒョイ避けるなんて‥‥。ありゃ、達人クラスだな。接近されなうように気をつけないと」)
AU−KVを装着している、素手、蹴りでのダメージは10分の1のダメージしか与えることができないものの、三崎中尉の腕前だと体勢を崩すことだけは可能である。
そんな中、明日美は三崎中尉を攻撃を目を輝かせて見つめていた。
「かっこいい‥‥。あの人は、格闘家の鑑です!」
「明日美さ〜ん、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ! 今はあの人にとっては実戦なんだから。真面目に取り組まないと怒られちゃうよ?」
「そ、そうですね」
気を取り直し、戦闘態勢を取る明日美。
「皆さん、どいてください!」
そう言いながら三崎中尉に急接近したのは、『竜の翼』を発動させた刃だった。
「‥‥しまった!」
いきなり接近され、至近距離での攻撃にはどうすることもできない三崎中尉は、刃の一太刀を喰らって倒れこんだ。
「千祭さん、すごーい!」
ジャンプして喜ぶひふみに対し、なかなかやるねぇと冷静にその様子を見る弓鶴。
明日美は、三崎中尉が負けたことに関しては「油断大敵ですね」と冷静分析。
●日が暮れて
長時間の実戦さながらの訓練が続いたので、ドラグーン、三崎中尉共に体力が尽き座り込んでいた。体力が少ない女性陣が、全員、肩で息をしている。
「思った以上に、全員骨のあるドラグーンだな‥‥。それに個人技を取り入れれば、無駄の無い戦法になるだろう。そうなれば、自分は負けるだろう‥‥」
厳しいことで有名な三崎中尉にしては、弱気な発言だった。
「三崎中尉、ご指導、ありがとうございました。また、三崎中尉と対戦したいです」
立ち上がると、礼儀正しく礼を述べる刃。
「俺も。勝負だけど、勝ったとしても、負けたとしても満足したかも。まぁ、ベテラン軍人に新米の俺が勝てるわけないんだけどね」
「弓鶴さん、それ、あたしも同じこと考えてた。あたしも同じだよ。三崎先生、ご指導、ありがとうございました」
「三崎中尉、俺も礼を言います。ありがとうございました」
新人の弓鶴とひふみは、共に達成感を得ると同時に、次回の対戦に燃えた。
「皆さん、私が作った自家製のはちみつレモンドリンクをどうぞ。お疲れ様でした」
疲れが取れますよ? と、魔法瓶から紙コップに注ぎ、全員に笑顔で手渡す明日美。
彼女も達成感を得ていた。
「三崎中尉、お願いがあるんですけど‥‥」
「何だ?」
「今後も、私達に色々教えて下さい。サバイバル技術とか、戦闘時の心構えとか、カポエイラとか! そうしたら、いじめは無くならなくても、少なくはなるかもしれませんし‥‥」
考えておこう‥‥と、ぶっきらぼうに答える三崎中尉だった。