タイトル:11月の神様衣装披露会マスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/17 17:09

●オープニング本文


 9月、10月と好評を博した手芸部企画、『ヒエダ貸衣装店』主催の衣装披露会を11月にも開催することが手芸部会議で決定した。
 しかし、問題がひとつだけあった。テーマがなかなか決まらない。

 困り果てた手芸部部長は、主催者であるヒエダ夫人こと稗田・令子の従姉妹にあたる食堂のおばちゃん、稗田・盟子に相談した。
「11月のテーマね〜? 文化の日、勤労感謝の日といった祝日にちなんだものはどうかしら〜?」
 文化の日だと『文学少年・少女』、勤労感謝だと『職業関連』の衣装が相応しいだろう。
「それもいいかもしれませんが‥‥」
 考え込む手芸部部長に「何か悩みごとか?」と声をかけたのは休憩がてら食堂に来た研究生の申 永一。
「あら、ヨン君じゃな〜い。この子のこと、気になるの〜?」
「いえ、そうじゃなくて‥‥。ただ、この子が困っているのを見過ごせないだけです」
 遅い昼食を摂りにきた永一は、食事をしながら手芸部部長の悩みを聞いた。
「そういうことか‥‥。俺が日本で研究していたテーマは『日本神話』では、旧暦10月、今の11月には八百万の神々が一箇所に集まるといわれているんだ。そうだ、神様集合というのはどうだろうか?」
 神、と一口にいってもいろいろある。有名どころではギリシャ神話、日本神話、『封神演義』で馴染み深い中国神話、北欧神話、インド神話といったところだろうか。
「それ、いいですね。バリエーションが増えますし。衣装製作は大変な作業になると思いますが、着てくれる参加者のことを考えると苦になりません。申さん、ありがとうございます!」
 こうして、11月の衣装披露会のテーマは『神迎え』に決まった。
「テーマが決まってよかったわね〜。レイちゃんには私が連絡するわね〜」
「宜しくお願いします!」
 深々と頭を下げ、部室に戻った手芸部部長だった。

 数日後、ヒエダ夫人がカンパネラ学園にやって来た。
「今回も主催として協力できて嬉しいわ〜♪ 衣装や小道具だけど、うちも協力するから安心してちょうだ〜い」
 任せなさ〜い! と胸をポンと叩くヒエダ夫人だった。
「司会だけど、今回は提案者である申 永一さんにお願いしようと思うのですが‥‥いかがでしょうか?」
「そうねぇ〜」
 ヒエダ夫人としてはUPC軍中尉兼カンパネラ学園教師のソウジ・グンベに頼みたいところだが、彼も何かと忙しいだろうからと今回は休ませることにした。
「提案者の永一君って、日本神話の研究者だったんですってね〜。専門家に司会を任せたほうがいいかもしれないわね〜」

 放課後、手芸部部長とヒエダ夫人が永一に交渉したところ、彼は「自分で良ければ」と承諾してくれた。

●参加者一覧

/ 夏 炎西(ga4178) / 崔 南斗(ga4407) / ラルス・フェルセン(ga5133) / 百地・悠季(ga8270) / 櫻杜・眞耶(ga8467) / 朔月(gb1440) / 美環 響(gb2863

●リプレイ本文

●打ち合わせ
 今月の衣装披露会は、特別研究生である申 永一(gz0058)の提案で『神様の衣装』がテーマとなった。
 彼は、カンパネラ学園に来る前は、日本の大学で日本神話の研究をしていた。留学先にある大きな神社には、旧暦の10月(現在の11月)11日には神々が集まるといわれている。それにちなみ、神様の衣装披露会が行われることになった。
「申さん、お忙しい中ご協力ありがとうございます」
 手芸部部長が、永一に感謝の言葉を述べた。
「いや、構わない。そちらこそ、衣装作成は大変だろうが頑張ってくれ」
 はい! と着合いを入れる手芸部員達。
「ヒエダ夫人も、わざわざ学園に来てくださってありがとうございました」
「いいのよ〜。皆の協力ができることはすっごく楽しいから〜」
 衣装披露会の主催者であるヒエダ夫人こと稗田・令子は張り切っている。
「衣装披露会に集まってくれた皆さん、どのような衣装をご希望か仰ってください」
 手芸部部長は、参加者達にどのような衣装を着るのか訊ねた。

「なぜ11月神様の格好をするのでしょうか? と思いましたが、日本では10月は『神無月』と呼ばれていて、申さんの留学先では『神在月』と呼ばれているんですね。神様の集会があるなんて、面白いですね。他にもいろんな神様の扮装が見られるのでしょう。楽しそうです」
 企画者である手芸部部長、主催者であるヒエダ夫人、司会者である永一と他の参加者に挨拶をする夏 炎西(ga4178)は、他の参加者がどのような扮装をするのかすごく楽しみだった。
「お久しぶりです、南斗さん。ご参加してくださり、ありがとうございます」
 同国出身者の崔 南斗(ga4407)が参加してくれたことに、嬉しさを隠せない永一。
「せっかく聴講生になったし、こういう学園祭のようなノリのイベントにも参加してみたくなってな。皆の衣装も楽しみだな。ぜひ女の子にはアメノウズメノミコトを‥‥いや、何でもない」
 女性陣の視線が気になり、顔を少し赤らめコホンと咳払いをして会話を中断する南斗。
「神様衣装披露会という事で〜、私は、北欧の神に扮したいと思います〜。ですが〜衣装に特徴のある神が〜少ないのですよね〜。神の衣装というには地味ですので〜」
 聴講生として参加したラルス・フェルセン(ga5133)は、スウェーデン出身ということもあり北欧神話の神に扮するようだ。
「今回は神様関連の衣装披露会なのね? 神様なんか信じたくはないんだけど、衣装ネタとなるならそれはまた別問題。まあ、あたしに相応しいのを考えてみようかしらね」
 頭を捻りながら、百地・悠季(ga8270)はあれこれ神話資料を見てどれにしようか考えたが、女神の衣装は「皆薄着すぎよ」とぼやく。
 11月の寒さに、薄着はたしかに辛い。
「あー、中国系ならなんとかなりそうか。あっちの衣装用語がよく判らないから、その辺はまあ、専門家の永一さんはいるからお任せといきましょう」
 神話は神話でも、永一の専門は『日本神話』なのだが、他の神話に関しては多少の知識はあるだろう。
「おばさん、今回も着ぐるみ貸してほしいんだけど。今回はシマフクロウに似た感じの模様のフクロウの着ぐるみな。俺、今回も着ぐるみでいくから」
 用意するわね〜、と笑顔で答えるヒエダ夫人。
「俺は七福神の『恵比寿』の格好で参加します」
 美環 響(gb2863)が恵比寿の格好で、と聞いて一瞬ピクリとなる永一だった。留学先にいた頃、恵比寿キメラ退治に関わったことがあるからだ。それがトラウマになっているようで。
「私は天鈿女命(アマノウズメノミコト)に扮します。天照大御神が『天の岩戸』に隠れた時、岩の前で舞った芸能の女神で、日本最古の踊り子でしたよね?」
「ああ、その通りだ。良く調べたな。元祖ストリッパーとか、裸踊りの開祖とも言われているがね」
 永一に褒められて嬉しくなった櫻杜・眞耶(ga8467)。
 アメノウズメノミコトの扮装をする参加者がいるとは‥‥! とドキマギした南斗だったが、それは秘密♪
「それでは、衣装の打ち合わせを行いたいと思います。女性の方は、ヒエダ夫人と共に手芸部部室へ、男性の方は、永一さんと隣の空き部屋に移動してください」

●女性陣はどの神様に?
「では〜まずは悠季ちゃんから希望を聞こうかしら〜?」
 悠季はあれこれ考えた結果、中国神話の女神『西王母』に扮することに。
「西王母ね〜。それなら、小袖を何枚か重ね着、上着は白地に桃の花を散りばめた柄ので〜下は紫の袴がいいわね〜。それに薄いショールをつけて〜天女みたいにしましょうか〜? 髪型は〜髷みたく結い上げるのが良いんだけど〜長くないようだからウィッグで我慢してもらえないかしら〜?」
「そうね‥‥ウィッグ‥‥よね、この場合。あたしの髪の色に合うの、あるかしら?」
「それは大丈夫よ〜。いろんな色のウィッグがあるから〜。髷もOKよ〜」
 細かいことは、ヒエダ夫人にお任せすることにした悠季だった。
「手芸部の皆には〜袴と髪飾りを用意してもらいたいんだけどいいかしら〜?」
「袴でしたら、和裁が得意な子がいますから大丈夫です。髪飾りは、中華風にアレンジして作成します」

「眞耶ちゃんは〜アメノウズメノミコトだったわね〜? 神話に基づくとかな〜り薄い衣装になるけど、どうするのかしら〜?」
「トップスは茶色のチューブトップで、着物は上半身を脱ぐ形で着用します。髪は花の付いたコサージュでまとめ、『増女(ぞうおんな)』の能面をつけます。足は靴を履かずに、素足で動きます」
 増女とは憂いを含み神性を感じさせる女性面で、天女や神女の役に用いられる能面である。アメノウズメノミコトの神秘性を醸し出すために、眞耶はこの面を選んだのだろうか。
「着物とチューブトップは自前の物を使用しますが、能面はヒエダ貸衣装でお借りしたいのですが宜しいでしょうか?」
「能面ねぇ〜。知り合いに面コレクターがいるから、あったら借りるわ〜」
 面の調達は、ヒエダ夫人なら何とかしてくれるだろう。
「花が付いたコサージュは、手芸部で作成させていただけないでしょうか?」
 手芸部部長の申し出に、眞耶は「宜しくお願いします」と応じた。

「朔月ちゃんは〜今回も着ぐるみだけど、どんな神様に扮するのかしら〜?」
 着ぐるみで扮する神があるのか? と疑問を抱いたヒエダ夫人は、朔月に訊ねた。
「俺? コタンコロカムイっていうアイヌ神話の神に扮する。だから、外見はシマフクロウだから、フクロウの着ぐるみを借りたいんだ」
 コタンコロカムイとはアイヌ語で『村や国を領有する神』という意味を持ち、夜にやってくる悪い存在から人々を守る存在である。『フクロウ』は名称は違えど、日本神話では商業・学術・知恵の神として上がっているものも。
「手芸部には、アイヌ模様の鉢巻を着ぐるみの頭に合わせて作ってもらいたいんだけどいいかな?」
 朔月は、装飾してほしいアイヌ風のデザイン画を手芸部部長に手渡した。
「わかりました。当日に間に合うよう作成します」
「ああ、頼むよ」
 こうして、女性陣の話し合いは終了した。
 悠季の衣装、朔月の着ぐるみ合わせは『ヒエダ貸衣装店』で行うことに。

●男性陣はどの神様に?
 最初に意見を述べたのは炎西だった。
「私は『神農』をイメージした衣装にします」
 神農とは古代中国の伝説に登場する皇帝で、三皇五帝の三皇の一人といわれており、『神農大帝』と尊称されており、医薬と農業を司る神とも言われている。医学だけでなく、人間に五穀、商業、時間の概念をもたらしたといわれている。
「ここまで辞典の受け売りですが‥‥。自分でも知らなかったことがありましたね。ですが、調べる過程で新たな発見があったりして、なかなか有意義でしたよ」
 永一に「人身牛面の神だから、古代中国の衣装を着て頭の両側に角が生えている様な冠を被ってはどうだろうか」と意見されたので、炎西は賛成した。
「ついでに古代の兜に角がついた感じのもので、後ろに垂布がついてたら格好良いですね」
「その辺りの相談は、ヒエダ夫人としてほしい。衣装に関しては、俺は詳しくない」
 わかりました、と微笑んで了承する炎西。

「俺の扮装は、中国の創世神話に出てくる『伏義』で。韓国でポピュラーな天下大将軍とか『トルハルバン』をやりたかったんだが、知名度がちょっと‥‥。誰? って言われるのも悲しいものがあるしな」
 韓国人の南斗としては、母国の神の扮装をしたかったのだが、知名度を考慮し却下した。韓国出身の永一も残念がった。
「伏義ですか。それは良いですね。では、妹であり妻である女神に扮する方もいるのですか?」
「いや、それは‥‥」
 伏義は、竜の体と人の頭を持つ男神で、八卦をまとめ、火を使った料理や婚姻制度などを人間に教えたとされている神である。妻であり、妹とは蛇の下半身が絡みついている姿が有名だ。
「相手がいたのだが‥‥結局決まらなかったので、俺1人で参加となった」
 その相手は炎西なのだが、これは南斗しか知らない事実である。
「でしたら、衣装は古代中国衣装をベースに、竜身をイメージした鱗っぽい模様を腰のあたりから裾にかけてつけるのはどうでしょう? 下半身が蛇では、動きづらいでしょうから」
「ああ、じゃあ、そうしてもらおうかな。頭には冠、できれば、慶州の天馬塚から出土された高麗時代の冠を‥‥。壁画等の写真を参考にしてもらって、作ってもらえるなら作成してもらいたいのだが‥‥ここだけ韓国風だな。難しければ、古代風の冠ってことで」
 それは、打ち合わせが終わったら手芸部員と相談してみるよと南斗は話を終わらせた。

「僕は、先程もいったように恵比寿の格好で参加します。恵比寿は商売繁盛の神様ですから『ヒエダ貸衣装店』に商売繁盛の加護がありますように、と願いを込めてこの扮装をすることにしました。衣装は全部『ヒエダ貸衣装店』借ります」
 小道具のは花びらが入った籠、釣竿、鯛がいるのだが、それは手芸部に頼むことにした。

 残るはラルスのみ。
「私は〜北欧神話から最高神オーディンを選びました〜」
 ラルスが言うようにオーディンは北欧神話の最高神で、戦争と死の神、魔術の達人とされている。
「衣装ですがー〜長い白ヒゲをつけ老人の姿に扮します〜。オーディンは隻眼なので、つばの広い帽子で片目を隠した状態にしますね〜。ローブは青い外套で〜それを羽織って片手に魔槍グングニルを持ちます〜。腕には黄金の環ドラウプニル装着で〜」
 ゲリ(貪るもの)とフレキ(飢えるもの)という2匹の狼と、フギン(思考)、ムニン(記憶)という2羽の鴉はぬいぐるみを使用。
 グングニルのレプリカ、装飾品、ぬいふるみは『ヒエダ貸衣装店』で借り、ローブは手芸部で作成してもらうことに。

「ところで、永一君は何の神様の格好をするつもりなんだ?」
 南斗の質問に「それは当日のお楽しみということで」と回答する永一だった。
 男性陣も、打ち合わせが終わると手芸部部室に行き、それぞれ用意してほしいものを頼んだ。
 当日は、どのような神々が光臨されるのだろうか。

●衣装披露会当日
 披露会当日、司会者を務める永一は緊張していた。そんな彼の衣装は『毘沙門天』。
 仏教では持国天、増長天、広目天と共に四天王の一尊に数えられる武神であるが。中央アジア、中国など日本以外の広い地域でも信仰の対象となっており、七福神の1人でもある。
 戦国時代の武将、上杉謙信は自身を毘沙門天の生まれ変わりと信じていたため、合戦の旗には『毘』の文字を入れていた。
「司会は初めてなので、緊張するな‥‥」
 舞台裏で、観客達の様子を見ながら緊張する永一。学会ではスーツ姿なので凛と意見を述べることができるが、司会などしたことがない。しかも仮装だ。
「申さん、そろそろ出番です。出場者の皆さんもスタンバイOKです」
 ギリシャ神話の勝利の女神、アテナに扮した手芸部部長に促されてステージに向かう永一。

「皆様、このたびは手芸部企画、ヒエダ貸衣装点主催の衣装披露会にお越しくださりありがとうございました。今回のテーマは『神々の衣装』です。最後までお楽しみください」
 手芸部部長が挨拶を終えてステージ中央から下手に下がると同時に、司会の永一が登場。
「た、只今より、神様衣装披露会を開催致します。司会は私、毘沙門天に扮した申 永一が務めます。最初においでになる神様は『神農』、扮するのは夏 炎西氏です」
 永一の紹介の後、神農に扮した炎西は堂々と歩いて舞台中央に現れた。
 
 牛の頭と人の体を持ち『炎帝』とも呼ばれる神農の衣装は、全身は古代中国の衣装、頭には両側に角が生えている様な冠を被り、後ろに垂布がついている皇帝らしきものである。
 神でありながら、実在する皇帝といわれているだけあり高貴な雰囲気が漂う。
 中国人である炎西が選んだというだけあり、神農は適役とえいよう。
 端正な顔立ち、礼儀正しい人柄が高貴さを増している。
 炎西は一礼すると、下手に向かった。
「ありがとうございました。高貴溢れる皇帝神でしたね。次においでになる神様は、北の国からお越しになった『コタンコロカムイ』、扮するのは朔月嬢です」

 観客達は「あれ、神様?」と唖然としたが、永一の解説により納得したようだ。
 着ぐるみの頭には、手芸部員製作のアイヌ柄の鉢巻が締められている。やや長すぎたので、両側で結びリボンみたいに見せている。
 着ぐるみを着用しているので、行動中の意思や言葉は全てジェスチャーである。
 手に辞書を持ちヒョコヒョコと滑稽な動きをしながら舞台上を歩いたり、動きが鈍くなったかと思うと『昼だから眠い‥‥』と言っているようにじっとして、ウトウトし始めた。
 他には飛ぶ真似をしたり等、コミカルな動きで観客を楽しました。
 退場する際は、頭をペコペコさせてお辞儀。
 朔月のパフォーマンスは、観客を大いに楽しませた。盛大な拍手がその証拠である。
「ありがとうございました。続いておいでになる神様は、北欧から起こしになった北欧神話の最高神オーディン、扮するのはラルス・フェルセン氏です」

 最高神オーディンとして登場したラルスだったが、長い白ヒゲをつけた老人、隻眼なので、手芸部に作成してもらったつばの広い帽子で片目を隠し、これも手芸部作のローブの上から青い外套を羽織り、片手に魔槍グングニルを持ち、両腕にはヒエダ貸衣装店から借りた黄金の環に見えるドラウプニルを装着という姿だった。
 紐でつないだ狼+鴉のぬいぐるみを引きつれて舞台中央に登場する際、グングニルを杖がわりに老人らしく歩いた。
 中央に付いたら、外套を翻してグングニルをバトントワリングのように回し、巧みに捌いて『戦神』オーディンの側面を見せるかのように静かにポーズを決めた。
 それを見た観客は「おおーっ」と歓声を上げた。
 その後、再びグングニルを杖代わりにし、ぬいぐるみを引きつれ退場した。
 ラルスが退場すると、観客達は盛大な拍手を送った。ぬいぐるみのお供でコミカルさを醸し出し、槍捌きで戦神の勇壮さを表現したことが楽しんでもらえたのが理由であろう。
「ありがとうございました、意外な演出でしたね。続いておいでになる神様は、魅了の舞姫アメノウズメノミコト様、扮するのは櫻杜・眞耶嬢です」

 雅楽は流れると同時に、茶色のチューブトップ、上半身を脱ぐ形で着用した着物、まとめた髪は手芸部作の百合の花付きのコサージュで飾り、増女の能面を顔に付けて素足でゆっくりと歩いて舞台中央に登場した眞耶。
 シチュエーションは『天照大御神の岩戸隠れのシーンを模した踊り』だが、舞扇子を使った踊りや神話のような舞ではなく、刀を使用した剣舞を日舞の男舞だった。
 剣舞なのは、神話のような舞では演出に問題ありと判断したのもある。神話では、アメノウズメノミコトは裸体を露にして一心不乱に待っていたのだから。
 舞妓修行に日本舞踊を習っていたというだけあり、剣舞は見事なものだった。
 音楽が止むと、眞耶の舞も終わりを告げた。
「剣舞ですが、私が真似をしてるだけという事で堪忍してください。神楽舞の方が見たければ、何時でもお見せしますので‥‥」
 一礼して、観客にそう言った眞耶は、舞っているかのようなステップで退場した。
 魅了された男性客は、眞耶の退場をものすごく惜しんだ。中には「もう一度踊って」という男性客も。
「アンコールはありがたいのですが、アメノウズメノミコト様は『天の岩戸』に閉じこもった天照大御神様を外にお出しするため戻られました。続いておいでになる神様は、本来なら一対なのですが、お1人でお越しになった『伏義』、扮するのは崔 南斗氏です」
 
 伏義とは上半身が人間、下半身が竜(蛇でもある)の神であるが、伝説の三皇の1人とも言われており、妻である女神と共に『陰陽説』を伝えたといわれている。
 そのような説がある伏義に扮した南斗は、古代中国衣装をベースした衣装を身に纏い、衣装の腰から裾にかけては、手芸部員総動員で作成した竜の鱗の刺繍があしらわれている。これで、下半身が竜のように見える。
 頭には高麗時代の冠を被っているので、神でありながら、皇帝のような雰囲気が漂っている。
 神なので、舞台の上では堂々と歩こうとするが、歩き方がややぎこちない。
 舞台の中央に辿り着くと、正面、後ろ、横と、いろんなアングルから衣装の裾部分が見えるように動いている。
(「何だか、ファッションモデルになった気分だ‥‥」)
 心の中で苦笑する南斗だったが、最後は堂々と立ち去った。
「ありがとうございました。堂々とした神様でしたね。続いておいでになる神様は、漂流してこちらに辿り着いた恵比寿様、扮するのは美環 響さんです」

 恵比寿とは、永一扮する毘沙門天同様、七福神の1人であり、商売繁盛の神である。
 本来持っているはずの鯛は、作り物に紐をつけて引き摺っている。
「恵比寿は商売繁盛の神、ヒエダ貸衣装店に商売繁盛の加護がありますように」
 神の衣装も、大袋も、小槌もヒエダ貸衣装店の借り物である。
 響はパフォーマンスとして、籠に入った集めた花びらを釣竿を使って観客席にばら撒き、観客達にも幸福のお裾分けをしている。
「皆様にも幸せが訪れることをお祈りします」
 そう言うと、まだ残っている花びらを撒き散らしながら退場した。
「ありがとうございました。観客の皆様に、恵比寿様のご加護があることをお祈りいたします。それでは、最後においでになる神様は『西王母』、扮するのは百地・悠季嬢です」

 西王母とは中国に古くから信仰された女仙であるが、現在のイメージは、道教完成後の理想化された姿であるといわれ、本来の姿は人間の女の顔に虎の類の獣の体、乱れた髪に宝玉の頭飾を付け、虎の牙を持ち、よく唸る鬼神という説もあるが、一般的に知られているのは、天女のような姿だろう。
 悠季は、高貴な天女を思わせる衣装でしずしずと歩き舞台中央に登場。
 白地に桃の花を散りばめた柄の着物、紫の袴を中国宮廷風にアレンジし、そのうえに薄布のショールをはおっている、それは天女のイメージを思わせるのに効果覿面だった。
 髪はウィッグだが、ヒエダ夫人の髪結いによりそれを全く感じさせない鬘になっており、それに手芸部作の金の中華風髪飾りが刺してある。
 中央付近で飾り絹布をふわっとたなびかせる様に一回転し、優雅さを表現した。
 衣装により高貴な女性に変身した悠季に、盛大な拍手が送られた。それは、眞耶、ラルス以上のものだった。
 礼儀正しく一礼した後、悠季はしずしずと舞台を後にした。
「以上を持ちまして、神様衣装披露会を終了致します。このためにお集まりくださった神様方は、それぞれの国にお帰りになりました。またお会いできることを楽しみにしつつ、お開きと致します。最後までご覧くださり、ありがとうございました」
 永一の司会の後、終了を惜しむ観客達は盛大な拍手を送った。

●衣装披露会終了後
 参加者は即着替え‥‥ではなく、会場の後片付けを始めた。
 司会の永一、手芸部員達、ヒエダ夫人の協力もあり、後片付けは短時間で終了。

「皆〜参加してくれてありがとう〜♪ 今回も大成功だったわ〜♪」
 大満足のヒエダ夫人。
「もう着替えてもいいわよ〜。その後、食堂でお茶にしましょう〜。メイちゃんにはそう言ってあるから用意しているはずよ〜」
 メイちゃん、というのはカンパネラ学園の食堂のおばちゃん、稗田・盟子(gz0150)で、ヒエダ夫人の従姉妹にあたる人物だ。
「あの‥‥その前に参加者の皆さんご一緒に記念写真を撮りたいのですが宜しいでしょうか? 生憎、カメラの持ち合わせがないのでどなたか持っているとありがたいのですが‥‥」
「カメラなら、俺が持っている。皆のステージでの様子を撮影するためにな」
 炎西にそう聞かれたので、永一はカメラを取り出した。
「稗田さん、すみませんがシャッターを押していただけませんか?」
「いいわよ〜」
 こうして、神々に扮装した参加者と司会の永一の記念写真が撮影された。
「写真が欲しい参加者は、出来上がったら連絡する。学園に取りに来るも良し、郵送も良しだ」
 希望者は、永一に連絡先を教えた。

 着替え終了後、参加者達は食堂に向かった。
「皆〜待ってたわよ〜。レイちゃん、久しぶり〜♪」
「メイちゃんも元気そうね〜♪」
 2人揃うと、どっちがどっちかわからないほどそっくりである。 
 お茶会では、衣装披露会での裏話等で盛り上がった。
「実はですね、僕は本来、崔さんと参加する予定だったんですが、どっちが伏義で、どっちがその妻をやるか揉めちゃって‥‥。崔さんが『自分が女禍になったらどうする』って強硬に反対しましてね‥‥」
 苦笑する炎西に「それを言うな」と照れる南斗。
「はぁ〜ヒゲは結構暑かったですね〜。口の周りが〜、まだむずむずします〜。衣装、よく出来てましたね〜。小道具も〜。手芸部の皆さん、ヒエダ夫人、どうもありがとうございました〜」
 微笑してお礼をいうラルスは、参加して良かったです〜と喜んでいた。
「ヒエダ夫人、12月も開催するのかしら?」
 悠季の質問に「まだ考えてないわ〜」と、お茶を啜った後に答えるヒエダ夫人。
「師走関連ぽい気がするけどねえ‥‥。そっちに走るなら、ネタ被るのが多いのを覚悟でパレード扱いにしてみたらどう?」
 来月は絶対『クリスマスでサンタ衣装だ』と思う参加者と永一だった。
「そうね〜? 検討してみるわ〜」
「皆はん、おはぎをどうぞ。私の手作りです」
 ちょうどお腹がすく時間帯だったので、眞耶の差し入れはとても嬉しかった。
「僕は初めて衣装披露会に参加しましたが、すっごく楽しかったです。次はもっとすごいことをしますよ!」
 次回も参加する気マンマンの響は、あんこおはぎをパクリと食した。

 こうして、神様衣装披露会は無事終了した。