●リプレイ本文
●能力者達は見た
申 永一(gz0058)の部屋を見るなり、彼のアパートの大掃除を手伝いに来た能力者一同は唖然となった。そうならざるを得ないほど、彼のアパートはゴミ屋敷、といえば大げさだが散らかっていたのだから。
「散らかっていると聞きましたが〜これほどとは〜。いかにも研究者らしい生活状況ですね〜」
良く『1人暮らしの男の部屋はこんなカンジだ』と言われているが、永一のアパートはその通りである。ラルス・フェルセン(
ga5133)は実家では家事担当なので、マメに清掃していることだろう。
「さて〜申君が快適に研究生活を送れるよう〜皆で頑張るとしましょうか〜」
腕まくりをし、早速清掃開始モード突入のラルス。
「永一君は几帳面に掃除してる方かと思ったが、ちょっと意外だな」
出雲の依頼で何度か永一と面識がある崔 南斗(
ga4407)は、学者肌の永一の意外な一面を垣間見て、彼も普通の男なんだなと実感。
「レポートと掃除の両方をマメにやると、かえってくたびれるもんだ。俺も覚えがありすぎて他人事と思えんし」
櫻杜・眞耶(
ga8467)は、散乱し放題の永一宅の状況に呆れながら、大掃除の準備を始めた。持参してきたトートバックの中には、掃除に必要なストッキングと重曹等が入っている。
「学者はんや文人はんって、どうしてお世話のしがいのある方が多いんでしょう?」
昔の作家はんもこんなカンジやったんやろねぇ、と思う眞耶だった。
「眞耶殿は準備が良いのですね。皆さん、掃除や整理整頓に必要なものがあったら、私が買い出しに行ってきます」
櫻小路・あやめ(
ga8899)も必要な用具、備品を用意してきているが、掃除中に無くなることがあるだろうと思い、買い出し志願した。
「あやめ君、きみのお言葉に甘えて買い出しをお願いするよ。ここから少し離れたところにホームセンターがあるから、そこで買ってきてくれ。今、地図を書くから」
永一に頼りにされ、俄然やる気が出てきたあやめだった。
「皆さん、頑張って整理整頓を致しましょう! まずは、部屋に散乱している物を纏めて必要な物と不必要な物を分ける作業からです。その辺の判断は、申さんにお任せするしかありませんがね。私達が勝手に触れてはいけないものもあるでしょうし。あまりにも汚く、触るのも躊躇するような物は問答無用で捨てます!」
大掃除を仕切りだしたのは、巫女服にたすきがけをした大曽根櫻(
ga0005)。
「櫻君の言うとおりですが〜、まずは分担を決めましょう〜。洗濯物関連、掃除担当の2班にわけるのが良いでしょう〜」
「ラルス君の意見は、俺も賛成だ。女性に下着類を任せるのはちょっと‥‥」
やや顔を赤らめ、永一はラルスに洗濯担当者になるよう頼んだ。
●洗濯物との格闘
「洗濯をする前に、必要な物を一つに纏めるなりして整頓をしましょう。書類が多い書斎スペースは埃が溜まっているとい思われますので換気が必要ですね」
洗濯物は埃を払ってからにしたほうが良いのでは? という櫻の意見は尤もだ。
「しかし、布団は万年床とはこれまた意外だ‥‥。布団は丸洗いしても大丈夫か?」
布団の表示を確認する南斗。洗濯表示を見ると、布団は丸洗いできないので布団カバーと枕カバーのみ洗濯することに。
「洗うのはいいが、干すスペースがないな。近所にコインランドリーはあるかい?」
「ホームセンターの近くにありますよ」
永一の回答を聞き終えた南斗は、布団カバー、枕カバーを紙バッグに詰めるとコインランドリーに向かった。
洗濯物の分別はラルスの仕事だ。
布団の上に置かれていたので、せっかく洗ったのにしわくちゃになっているもの、少し臭う衣類もあった。
「まずは〜洗濯済の衣類と未洗濯物の分別ですね〜。曖昧な物は再度洗濯です〜」
服をひとつずつ手にすると、ラルスは洗濯済み、洗濯やり直し、未洗濯物に分け、洗濯済みの下着類を綺麗に畳み始めた。
洗濯物の山の下になっていたもの、臭いが残っているものは再度洗濯するしかない。
「夏秋物でしたら〜洗濯機で回せる素材ばかりでしょうが〜、スーツの類は〜クリーニングに出すか判断を仰がないといけないですね〜」
「スーツは6月に着たきりだったな。今日、クリーニングに出す。Yシャツはついでに出す」
持参したアイロンとアイロンマットを用意したラルスは、自分がYシャツを新品同様綺麗にしますね〜、とニッコリ笑って言った。
「そうか。では、お言葉に甘えよう」
ラルスが仕分けした洗濯物は、櫻が洗濯機に放り込んだ。ドラム式洗濯機なので、洗濯は楽にできる。Yシャツの他に、ちょっとしたロゴ入りの白いTシャツの中に下着が少し紛れ込んでいたが、それを気にせず洗い始める櫻。実家で父親や祖父の下着も洗っているので、自然と免疫がついた模様。
「本当でしたら畳も埃を払い干したいのですが‥‥場所と時間がありませんね」
本格的に大掃除する気だった櫻は、ちょっとがっかり気味。
その間、ラルスとあやめは畳んでいない洗濯物の整理中。畳み終えた洗濯物は、所定の位置へ収納。
「申君、タンスの片付けも必要ですか〜?」
分類されているか少々不安だったが、開けてみるとほとんどの引き出しが空っぽに近い。
「‥‥片付ける必要はないですね〜」
●台所での格闘
キッチン清掃、水回り担当は眞耶。
まずはキッチン床の清掃。埃で汚れているので雑巾でサッと吹き、キッチンマットの埃を払った後、溜まっている汚れた食器を洗い始めた。
「1人暮らしなのに、どうしてこんなに溜まるんでしょう‥‥。永一兄はん、無精者なんやなぁ」
彼の意外な一面を知っても、幻滅せずに「これも永一兄はんらしいところですね」と言いながら洗い終えた食器を食器乾燥機に入れようとしたが‥‥汚れているので使う気になれなかったので持参した布巾で、食器ひとつひとつを丁寧に拭いてから食器棚に丁寧にしまい込んだ。その後、食器洗い乾燥機の掃除。
「食器はこれで完了です。後は、流し台だけですね」
シンクはストッキングで拭きいた跡に掃除し、ガスレンジや換気扇は重曹を使って掃除。換気扇はかなり汚れていたので、浴室で漬け置き用の洗剤液の中に漬けて油汚れを落としてから、フィルターを交換。油汚れは相当頑固だったので、落とすのに一苦労だったが、眞耶は一所懸命頑張って落とした。
ついでなので、冷蔵庫の中身もチェック。これに関しては、ラルスから洗濯物も畳み方を教わっている最中の永一から許可をもらっているので問題無し。
冷蔵庫の中身のほとんどは、賞味期限切れの物ばかりだった。
「永一兄はん、賞味期限が切れているものは捨てますからね」
「ああ、そうしてくれ」
期限切れのものは容赦なくゴミ袋行きと化し、残りは調味料の類、あと少しで期限切れのキムチの瓶のみとなった。それらを全部だし、冷蔵庫の中を雑巾で拭き綺麗にした。
「脱臭剤がありませんね。私、買いに行ってきます」
眞耶が冷蔵庫の脱臭剤を買いに行こうとした時、帰宅したあやめとすれ違いに。
「櫻杜殿、どちらへ?」
「冷蔵庫の脱臭剤を買いに行くところです。まだやり残しがあるんですが‥‥」
「でしたら、私が買いに行ってきます」
帰ってきたばかりで悪いと眞耶は断ったが、あやめは買い物袋を眞耶に預けると「行ってまいります。冷蔵庫の脱臭剤ですね?」と再度買い物にいった。
袋の中身は、洗濯用洗剤、柔軟剤詰め替え、シャンプー・リンス、ボディソープの詰め替え、ゴミ袋数枚、スポンジ、シンク用たわしと掃除に必要なものばかりだった。
「助かるわぁ」
「ただいま。永一君、布団カバーと枕カバーの洗濯が終わったぞ!」
「お帰りなさいませ、南斗兄はん。お疲れさんです」
「眞耶君もご苦労様。きみのほうは、全部おわったのかい?」
「いえ、まだです」
そう言うと、眞耶は残っていた作業を始めた。
綺麗になった冷蔵庫には、自宅で作ってきたゲンニップやナムルが詰まったタッパーをトートバックから取り出し、それを冷蔵庫に入れた。
キッチンは、眞耶の孤軍奮闘で見事なまでに綺麗になった。
その頃、櫻、ラルスが洗濯物をベランダに干していた。
「今日はお天気が良いので〜、すぐ乾くでしょう〜」
「布団も干したので、洗濯物が乾く頃にはフカフカになるでしょう」
自然に微笑む櫻とラルスだった。
●書類との格闘
次は、難攻不落ともいえる書斎スペースの掃除だった。
パソコンデスクの周囲には、書き損じて丸めたレポート用紙がそこいらに捨ててある。ゴミは屑籠に入っているようだが、ぎゅうぎゅうに詰め込んであるのでこれ以上入りきらない有様だ。
「申君、入りきらないレポートやフロッピーディスク、DVD−R等は段ボールにしまってはどうだい? 資料は、あやめ君が買ってきてくれたバインダーに閉じよう」
あやめは「はい、どうぞ」と南斗に購入したバインダーを手渡した。
「これで、1件ごとにファイルが作れるだろう? 『蛭子関連』とか『恵比寿関連』など、タイトルを付けると一目でわかるぞ。しかし、良くこれだけ詳細に調べたもんだな。資料の量も膨大だし。整理すりゃ、立派なデータベースになるぜ」
流石は日本神話研究者だな、と資料をバインダーに閉じながら永一を褒めた。
書斎スペースが片付いたら、ダイニングのフローリング、パソコンデスクの上に敷いてあるカーペットの掃除だ。それは、櫻が率先してやった。掃除機をかけ、カーペットローラーをかけて埃や髪を取り、床を雑巾で拭いた。
●仕上げといきましょう
その間、綺麗になった和室ではラルスと眞耶が洗濯物を畳んでいる。下着類は、永一自身が畳むことに。畳み方は、ラルスに指導してもらっている。
「永一君、筋がいいですね〜。これからは、1人でちゃんとしてくださいね〜」
「あ、ああ‥‥」
だらしない一面を見られたな‥‥と恥ずかしがる永一だった。
その途中、あやめが脱臭剤を買い終え帰宅した。
「櫻杜殿、これで宜しいでしょうか?」
「おおきに、助かります」
眞耶は早速、あやめが買ってきた脱臭剤を冷蔵庫に入れた。これで、冷蔵庫もバッチリ!
南斗は、干し終えた布団を取り込むと布団カバーをかけ、枕に枕カバーをかけた。
「布団も終わったぞ。永一君、これで今夜はゆっくり眠れるぞ」
「ありがとうございます、南斗さん」
布団もフカフカになったので、今夜は気持ち良く眠れるだろう。
最後の仕上げは、フローリング全体を雑巾がけした後にワックスがけと窓拭き。
数時間後、永一のアパートは来た時より見違えるように綺麗になった。掃除前と後が一目瞭然なほどに。
「これが‥‥俺の部屋? 信じられん‥‥」
能力者達に掃除を頼んだ永一は、目を丸くして感心した。
「皆、ありがとう。近くの喫茶店で冷たいものをご馳走するよ。今日の礼代わりになるかどうかわからんが」
能力者達は、永一の言葉に甘えて奢ってもらうことにした。
●お疲れ様でした
喫茶店は、永一のアパートからそんなにかからない距離にあった。ちょうど6人掛けの席があったので、皆、そこの席についた。
「好きなものを頼んでくれ。これしか礼ができないが」
「申殿、ありがとうございます。本来ならそのお気持ちだけをお受け取りするところですが、お言葉に甘えてご馳走になります」
あやめがそう言うと、他の能力者達も「ご馳走になろうかな?」とメニューを見て何を頼もうか考えていた。
頼んだものは、南斗はアイスコーヒー、ラルスは紅茶(ホットティー)、櫻、眞耶、あやめはアイスティー、永一はレモンスカッシュを注文した。
「そういや、出雲といえば『大国主』そのもののキメラってのはまだ出て来ないな」
南斗がアイスコーヒーを一口飲み終えるとそう言った。
「大国主は、出雲大社の祭神ですからキメラ化はされないと思います。キメラ化するとしたら、ツキヨミノミコト、スサノオノミコトあたりでしょう」
「永一兄はん、だとしたらヤマタノオロチが出る、ということも考えられるんでしょうか?」
そうだろうな‥‥と答える永一。スサノオとヤマタノオロチは、切っても切れない因縁関係にある。
「ツクヨミノミコトは、出現する可能性は高いでしょうね。漂流神の恵比寿に蛭子といった常世や根の国に纏わる神が続いて出てきていることから、今後も海繋がりのキメラが出現する気がします。気になるのは、出雲大社摂社にも祀られている祓戸四神(神道において祓を司どる神)でしょうか?」
ラルスは、恵比寿、蛭子と言った漂流神が再び出現するのではないかと気にしているようだ。
あやめは、これまでの依頼でバグアは『日本神話』を元ネタにしたキメラを出現させた点を考えていた。
「今後も、日本神話の神々を模したキメラが現れると私は予想しています。日本神話に準えて何を企んでいるのか、『国譲り』再現を画策しているのか、と思うのです。イナバノシロウサギやワニザメが登場したときは『因幡の白兎』を再現していたようですし。それに、以前ワームに持ち去られた『銅鐸』が、今後どのように影響してくるのかも気懸かりでなりません。あの銅鐸には、何か秘密があるような気がするのです」
銅鐸が発掘された遺跡現場にいたラルスも、持ち去られた銅鐸の使用目的が気になって仕方がないようだ。あの銅鐸は、成人女性一人が納められるほどの大きさの棺、といってのいいものであった。
バグアが、なんらかの力を待つ女性を幽閉するために使うのであれば持ち去った理由が納得できる。
「最終的には、例の二柱の神も登場するだろうな」
「ツクヨミとスサノオのことでしょうか?」
「ああ‥‥」
煙草に火をつけ、一服する南斗。
出雲には、祭神の大国主神の他に『因幡の白兎』で妻となった八上姫、スサノオの娘で大国主神の妻である須世理姫、兄弟神である八十神(やそがみ)キメラが出現する可能性も大いに考えられる。
これまでの系統では『国津神』が多いが、今後は『天津神』のキメラが出現するだろう。そうなれば、出雲での激戦は免れないだろう。
「皆‥‥出雲が激戦区になった場合は、是非協力してほしい。お願いしてもいいだろうか?」
永一が頭を下げてそう頼むと、能力者達はそのつもりだと答えた。
皆、そのつもりで集結したのだから。
喫茶店を出た後、そこで解散することに。
「申君、散らかしはもう駄目ですよ〜」
ラルスにそう言われ、それは言わないでくれと照れる永一。
櫻は掃除のし甲斐があったと喜び、南斗とあやめは、自分達にできることがあれば手伝うと言った。
眞耶は、永一の顔を見てこう言った。
「永一兄はん、きちんとご飯を食べて、ぐっすり眠ってください。それと‥‥たまにでいいですから部屋のお掃除とお洗濯もしてください!」
そう言うと、喫茶店前を後にした。
永一のアパートだが、今日の綺麗さを保つことができるのだろうか?