●リプレイ本文
●どうやって説得しよう
「まずは、依頼人であるさなえさんとご主人、娘さんと接触し、可能な限り四十七氏の情報を集めましょうか。事前に四十七氏の人間性や性格等を直接知っておいた方が、説得もしやすいでしょう」
翠の肥満(
ga2348)は、アグレアーブル(
ga0095)ら能力者と共に、説得対象である四十七に面会しようと提案。
「私も、四十七さんに能力者についてどう思われているのかお伺いしたいです。個人的には、能力者になる事に必ずしも反対ではない事もお伝えしたいのですが‥‥ご家族が心配していますし。高齢ゆえ、戦場に出るのは難しいということからでしょう」
隣にいる櫻井 壬春(
ga0816)を見て、アグレアーブルは、依頼人が四十七のことを心配するのがわかったような気がした。
「バグアと戦おうというその心意気は良い。老齢にも関わらず血気盛んな性質は、自分にとっては好感が持てる。だからこそ、適当に言いくるめるのではなく、真摯に対応したいと私は考えている」
鯨井昼寝(
ga0488)は、四十七の気持ちがわかるからこそ、真摯に対応したいと考えている。
「能力者になるのは良いんだけど、実戦に出られると困るね。腰痛持ちのじいさんが重装備担いで行軍なんて、土台無理だろうし」
後進の育成したほうが良いんじゃないかな? と最年少能力者であるリチャード・ガーランド(
ga1631)が意見を付け加える。
「能力者が一斉に一般家庭にお邪魔するのも迷惑だと思うので、依頼人一家と相談したい人達が、事前相談をするというのはどうでしょうか?」
アルフレッド・ランド(
ga0082)が言うように、大勢で押しかけると、四十七に怪しまれる可能性がある。
「では、私とアーさんが一足先に柊家に向かい、ご家族と相談することにしましょうか」
「翠君、俺も行きたいんだが構わないかい?」
須賀 鐶(
ga1371)が、手土産にと用意したチョコを手にして訊ねた。
「俺も行きたい‥‥」
鐶が行くなら自分も、と言い出す壬春。
「俺の目的は『四十七じいさんと茶飲友達になり、まるーく一服にお誘い』だけどね」
誰とでも気さくに接する鐶らしい考えは、四十七説得材料としては良いアイデアかもしれない。
「俺は、この依頼に関しては「能力者になろうとしている四十七さんを止めて欲しい」と考えています。ご家族の説得が無理でも、俺達能力者なら何とかなるでしょう」
話し合いの結果、家族と話し合うメンバーは翠の肥満、アルフレッド、アグレアーブルの三名、その間の四十七の足止めは鐶、壬春が行うことに。それ以外の能力者は、待機状態となる。
●依頼人との話し合い
柊家を訪れた能力者達を出迎えたのは、依頼人であるさなえと娘の千尋だった。
千尋は、母から能力者が四十七の説得に来ることを事前に聞いていたので突然の訪問に驚きはしなかった。このことを知らないのは、四十七本人と説得に無関心の夫だけだ。
「お待ちしておりました、皆さん。私の個人的な依頼に応じてくださってありがとうございます」
立ち話も何ですから中へどうぞ、と、能力者達は客間に案内された。
「あの‥‥四十七さんはどちらに?」
「おじいちゃんですか? 離れにある道場で稽古中です。ぎっくり腰がまだ治っていないというのに、日課である鍛錬を欠かさないので困ります」
溜息を吐き、壬春にそう言うさなえ。
「ありがとうございます。鐶さん、道場に行こう」
「そうしようか」
家族と話し合うメンバー以外は、さなえに軽く会釈した後、道場に向かった。
「こちらが客間です。今、お茶を淹れて参りますので少々お待ちください」
客間に通された翠の肥満、アルフレッド、アグレアーブルは、さなえを待つ間、好奇心旺盛な千尋の質問攻めに遭っていた。
さなえが人数分のお茶と茶菓子を客間に運び終えると、早速、四十七のことを話し始めた。
「おじいちゃんは、第二次世界大戦で家族や友人を失ったと言っていました。そのような辛い思いを体験したからこそ、バグアの行為が人一倍許せないのだと思います。私としては、できればおじいちゃんの意見を尊重したいのですが‥‥高齢なうえ、腰痛持ちですので、戦場に行っても足手まといになるだけです」
武道に長け、即戦力になり得るかもしれないといっても高齢者。
若い世代が多い能力者についていくのに苦労するという依頼人・さなえが心配するのは無理もない。
「そのような体験をされた四十七さんは、強い愛国心から能力者になりたがっているのかもしれません。バグアを倒す、というのは建前でしょう。私も弟のような存在である壬春には場に出てほしくないといと思っていますが、誰しも守りたいものはあります」
さなえの話を聞き、四十七がバグア撃退に拘る理由が何となく理解できたアグレアーブル。
かつてテロリストだった翠の肥満は、少し胸が痛んだ。
「四十七氏は、武道の腕前はかなりのものと聞きました。実力があり、体力が同世代より勝っているのなら戦力にはなるでしょうが、戦闘中に腰痛になられては‥‥」
それこそ、命取りになりかねませんと四十七の身の心配をするアルフレッド。
「それが問題なんだよね。未だにぎっくり腰治らないんだもん、おじいちゃん。それなのに無理して「儂は、絶対能力者になるんじゃ!」って大張り切り。困ったものよ」
肩を竦めて困り果てる千尋。
さなえ、千尋と話し合った結果、三人は、四十七に能力者になることを考え直すよう説得することにした。
●お茶会という名の足止め
家族会議の最中、鐶と壬春は四十七とお茶会をしていた。お茶は、道場にある冷蔵庫の中にあるペットボトルの緑茶で、お茶請けがチョコというミスマッチはあるものの、今のところ和やかな雰囲気‥‥かと思いきや。
「美味い菓子を持ってきて、儂と茶会をして丸め込もうとしても無駄じゃぞ。儂は、絶対能力者になるんじゃ。今時の若いモンよりは、儂のほうが強い。甘いものを持ってきたことは褒めるがな」
疲労回復に良いという理由から甘いものは和洋問わず何でも好きな四十七は、手土産のチョコを食べながらも二人を訝しい表情で見ている。
チョコが無駄にならなくて良かったよ‥‥と思いつつ、鐶は話し易い空気作りを心がけている。
「まあまあ。不甲斐ない若者には言いたい事があるでしょうが‥‥」
(「その自覚のある俺としては、痛い発言だ。怒られ役に徹するか。この人、俺よりは戦える人だと思う、本気で」)
内心でそう呟きつつ「仰ることはご尤もです、精進します」と頭を下げる鐶。
「そこの小僧、お前さんも茶会を利用して儂を説得しに来たのか?」
壬春を睨みつつ訊ねる四十七。
「俺は‥‥日本の武士道と、西洋の騎士道には通じる所があると聞きまして。外国に居た期間が長くて‥‥武道に触れた事が無くて‥‥。実際に武道を体験することで、その、答えがわかるかと‥‥。それで、是非、武道に長けた四十七さんに稽古、つけてもらいたい‥‥です」
おずおずとしながらも、真剣に四十七に頼む壬春。
「ほぉ、若いのに武士道をご存知か。感心、感心。稽古したいと申すなら、今すぐでも良いのじゃぞ?」
「‥‥今は遠慮します」
稽古に夢中になられては困る。ますます四十七の「能力者になりたいと」いう気持ちが強まることになりかねない。
お茶会をしつつ、まだ話し合いが終わらないのかと二人は不安になってきた。
●頑固爺さんを説得
「お茶会はまだ終わらないのかね?」
待ちくたびれた昼寝は、道場の中を窺った。道場の中央では、四十七がチョコを食べつつ、武士道について上機嫌で解説していた。
「俺、退屈になってきた」
大欠伸をするリチャード。悪戯好きの腕白小僧にとって、待機は退屈以外の何物でもない。
痺れを切らした二人の元に、さなえ、千尋との話し合いを終えた翠の肥満達がやって来た。
「待ちくたびれたぞ!」
「すみません。説得方針に手間取りまして‥‥」
二人に謝るアルフレッド。
「では、行きましょうか。バグア以上に強敵かと思いますが」
こうして、能力者七名による四十七説得が始まった。
「お話を中断するようで申し訳ないが、失礼します。お初にお目にかかります、四十七氏。僕は、翠の肥満と申します。申し訳ないが、故あって本名は名乗れません」
「お前さんたちも、この二人と一緒に儂の話を聞きたいのか?」
翠の肥満の自己紹介を無視し、話を続けようとする四十七。
「はじめまして、四十七じいちゃん。俺、リチャード・ガーランドっていいます。宜しくお願いします」
孫に見える年齢だから躾として一喝されると思ったリチャードは、敬語で自己紹介した。
「あー、使い慣れない言葉は疲れるや。普通に話そう。俺達はね、おじいちゃんを説得しに来たんだ」
「説得じゃと?」
その一言に、四十七の表情は更に訝しげを増した。
「私達は、お嫁さんのさなえさんから四十七さんを説得するよう頼まれた能力者です。私達は能力者は、戦場以外にも必要とされる事がたくさんあります。例えば、今回の様に人とお話をする仕事や後方での支援です。できれば、共に「可能性」を考えていただくことはできないでしょうか」
穏やかな雰囲気を壊さないよう、アグレアーブルが説得する。
「若者に関してですが、戦おうとしないのではなく、能力者への適合率が千人に一人いるかどうかという状態だからです。あなたが能力者となってエミタを体内に埋め込むことは、若者が手にするエミタが一つ減ることになります。あなたのような人生経験の豊富な方は、後方で若者を支える役目があるのでは? 能力者の役目は、戦闘だけではありません。人々の不安を解消する事も役目のひとつです。一番身近な家族の不安を、あなたは取り除けていますか?」
アルフレッドが言うように、エミタの適合率はかなり低い。
「そ、その話は本当なのか!?」
「おや、信じておられない? でも本当なんです」
嘘ではない鐶の一言に四十七は愕然。
「街を荒らすキメラはザコですが、バグアを退治しなければキメラは何体でも出てきます。時には、戦闘機に乗ることもあります。戦闘機のGに耐える体力、複雑な機械操作の知識がありますか?」
機械オンチの四十七は、ぐうの音も出なかった。
「軟弱な若者は増えているかも知れないが、それはあくまでも一部。集まったメンバーを見ても分かる通り、能力者の大半は若い面子だ。人生の先達から見れば、まだまだ頼りない部分もあるかも知れんが、私達は身体を張って、時には命を賭けて戦っているんだ」
若者の中には、そのような能力者達がいることを知ってもらいたい昼寝の説得。
「おじいちゃん、能力者になりたいんでしょう? でもね、能力者って全力で戦うと短期決戦しか出来ないんだよ。俺の場合、覚醒での戦闘は四時間ちょいしか持たない。スキルを使って回復とかすれば、制限時間はもっと短くなる。仮におじいちゃんが覚醒している間は、人間離れした能力を得れるけど、制限時間が過ぎれば、ただのおじいちゃんになるんだよ。それは俺も一緒だけど」
短期決戦しか出来ない覚醒のデメリットを説明し、能力者になることを諦めさせようとするリチャード。
「お気持ちは分かりますが、ご老体は若者に比べて変調をきたしやすいのです」
これは、翠の肥満の偏見ではなく事実である。
「いざ戦闘に臨まんとするときに腰痛を起こしたら、誰が面倒を見るのでしょう? 仲間が、ですか? 極端かもしれませんが「潔く自決」、あなたがお好みの武士道で言う切腹は許されない、いえ許しません。戦場では、あなたの身体は我々の身体でもあります。その言葉を熟考願いたいものです」
四十七が戦場に立たれることは、むしろ自分達の方がリスクが大きいことを説明する翠の肥満だが、能力者になること自体は反対しない。能力者の可能性は、戦場に限るものではないという考えがあるからだ。
「能力者=バグアと戦う、戦いを避ける若者達のイメージが先行して、使命感に燃える部分があるかも知れませんが‥‥視野を広げてもらえればと、俺は、思う。ヒトは、誰かと関わって‥‥生きた証を、確かな物にすると、言ったヒト、います。出来ることを、担えば良いと。武術指南も心の鍛錬も、出来ると思います。四十七さん、選択肢、沢山あるから、一つに拘るの、勿体無いです」
自分なりに説得する壬春。
「壬春兄ちゃんが言うように、戦闘技術を教えるのはどう? 剣道四段、柔道三段、合気道二段の実力を皆に伝えるんだ。そうすれば、おじいちゃんみたいに強い能力者がどんどん誕生するよ。はっきり言って、能力者って覚醒での強化はされているけど戦闘技術を知らない人が多いんだ。想像してみてよ。覚醒で強化されている上に達人の腕前を持つ若い剣士が振るう乾坤一擲の斬撃を。まさに斬鉄となるその太刀筋、バグアも一刀両断と思わない?」
格好いいだろうなあ、とうっとりするリチャードの意見に「それも良いかも‥‥」と納得する四十七。
「言葉だけで足りないのであれば、この先の自分を見てもらえれば。逃げず、退かず、躊躇わず戦い、そして生き延びることを約束しよう。結果、万が一にも自分が倒れた場合は、その時こそ再び名乗りをあげれば良いだろう。無論、そう簡単にくたばるつもりはないがな」
ウィンクして、誓いを交わす昼寝。
頑固であるということは、説得が難しい反面、一度決めた約束は反故にしないということでもあると納得した上での彼女なりの説得方法のひとつだ。
「ま、そういう気合入った人は嫌いじゃないけどね。老若男女問わず。じいさんだって「最近の年寄りは〜」なんて一括りにされたら嫌でしょう? それと同じコトよ。心配しなくても、じいさんの目が黒いうちに私がバグア全部倒してくるわ」
「それは困るのぉ。儂が能力者になったら、倒すバグアがおらんようになるではないか。‥‥と言うが、お前さん達には敵わんがな。能力者になる考えは、一旦保留したほうが良さげじゃな」
そう呟いた四十七に、能力者達は、自分達の説得が無駄ではなかったことに安心した。
四十七は、能力者になりたがった経緯を話し始めた。
「終戦記念日である八月十五日は、儂の十二の誕生日じゃった。戦争は、今のバグア襲来と同じじゃ。それ故、大切な家族、住み慣れた家や道場を守りたいと思ったのじゃよ」
四十七が体験した過酷な状況に比べれば現代はまだ自由なほうだが、侵略の脅威は戦時中と大差ないと言ってもいいだろう。
「四十七さんは、能力者になることでご家族を守りたいのですね。能力者になるという判断は、あなたにお任せします」
高齢の養父母に育てられた為、高齢者に対して好意的なアグレアーブルは、四十七のことを考え、最終的なことは彼自身に決めさせることにした。
様子をこっそりと見ていたさなえと千尋は、胸を撫で下ろしてほっとした。
結果:説得成功。