●リプレイ本文
●バグア踊り
強制的に安来節(以下:どじょうすくい)を踊らされている様子を詳しく知るため、能力者達は山陰UPC軍モニター前に集まり対策を練っていた。
「赤村菜桜です。皆さん、宜しくお願いします!」
現地に向かう前、赤村菜桜(
ga5494)は、面識者を除く能力者達に挨拶。
「音楽を聞くと勝手に『どじょうすくい』を踊らされるだって!? そんな‥‥何て恐ろしい力なんだ!」
モニターを見るなり、煉条トヲイ(
ga0236)の全身を戦慄が襲った。良く見ると、鳥肌が立っている。
(「依頼中にどじょうすくいを踊る羽目になったら煉条家一生の恥‥‥! 何とかしなければ!」)
洗脳され踊らされてしまっては、お坊ちゃん育ちのトヲイには耐え難き屈辱となるだろう。
「音を耳にしただけで踊らされるとは、影響力を考えるとキューブワームのジャミングに近いものなのだろうか?」
「そうだろうな。音で催眠をかけて躍らせるのか、音波が届けば外部から神経に『どじょうすくいを踊れ』という指令を流せるのか‥‥それが謎だがな」
白鐘剣一郎(
ga0184)と御山・アキラ(
ga0532)は、音波による洗脳と考えた。
「ほむ、音楽を悪用するなんて許せないのです! 音楽を使って何かを強要とは‥‥あのバグア、お仕置きなのですよ!」
赤霧・連(
ga0668)は、音楽を悪用するのが許せなかった。
「話には聞いていたけど〜、まさかこんなに‥‥ぷくくっ‥‥こんなに笑えるとは! 駄目駄目、依頼なんだから気を引き締めていかないと‥‥くくくっ!」
人々が踊らされている様子を見て、腹を抱えて笑う新条 拓那(
ga1294)。
「し、失礼だとは思うけど‥‥笑いが止まらな〜い!」
拓那の笑いは、当分の間止まらなかった。
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、そんな様子を見ていながらもいつもの冷静な表情だった。
「踊りは笑えるが、やっていることは笑えない。バグアが人々を操り踊らせているのを放置すれば、住民は過労死してしまう。それはシャレにもならん。‥‥で、バグア捕獲だがどうするつもりだ?」
「耳栓、もしくは大音量の音楽を聴きながら戦うのが良いだろう。敵の音楽を打ち消すためには、こちらも音楽を大音量で流すというのもひとつの方法だ」
漸 王零(
ga2930)の一言は『目には目を、音楽には音楽を』という作戦だろう。
「そういうだろうと思って、曲を用意してきた」
剣一郎がバグアの曲を打ち消すために用意したのは、ヘッドホンをつけて汗だくになって走り出したくなるギンギンロックをループで聞く作戦だった。
「考えることは同じようだな」
ホアキンの曲は、ハイスピードのガンガンヘヴィメタル。ヘッドホンをつけ、これをエンドレスで聞くのが彼なりの対策だった。
「私はコレなのです♪」
連がルンルン気分で手にしたのは、CDアルバム『Hope』。
用意した曲を聴くという以外の能力者は、ヘッドホン、耳栓でどじょうすくい対策を始めた。話し声は当然聞こえないので、ジェスチャーと合図を決めておくことに。
「ほむ、どじょうすくいを踊らされている人達を助けにいくのです!」
おー! と拳を握った右手を天に掲げ、やる気マンマンの能力者達(トヲイ除く)。
●恐笑の踊り
ホアキンは、遠距離から双眼鏡でバグア周辺を調べていた。
人々がどじょうすくいをする動きをトレースし、笑ってしまう動きを覚えて踊らされている人々の中にバケツを側に置いている人物がいないかどうか確認したところ、すぐ発見できた。カゴを腰に付け、豆絞り手ぬぐいをほっかむり、一文銭の鼻あてをつけザルで掬うというスタイルの人物は1人しかいない。
『バグアらしき人物発見』
ホアキンの合図を見て、一斉に踊りの集団の中へ駆け出す能力者達。
捕縛用具を用意したアキラは、耳栓がちゃんとついているか再確認すると踊らされている人々の表情を確認したが、妙な違和感を感じた。愉快そうに、というよりは強制的に笑わされているという感じだったからだ。
『人々に異変あり』
アキラの合図を見た剣一郎はホアキンと共にバグアを捕縛するべく動こうとするが、その前に障害となるキメラを排除することに。バグアを包囲し追い詰めるよう誘導できればなお良いのだが、それはできるかどうかはキメラ殲滅次第となる。
『バグアは単独で出てくるだけあるな。アキラ、ホアキン、作戦開始だ』
頷いたアキラとホアキンは、バグアを捕縛すべく各自準備開始。
最初に登場したのは、ザルを持ってどじょうすくいを踊るホアキン。
バグア探索をしている際、人々の踊りを覚えた動きをトレースし、笑ってしまうものにアレンジし、その間に踊りの中心人物存在であるバグアの足元に置いてあるドジョウを発見。
(「こいつがキメラ‥‥かもしれないな。用心するよう伝えておくか」)
ホアキンは剣一郎、アキラ、駆けつけた前衛班のトヲイ、王零に
『キメラらしきドジョウ発見。注意しろ』
と合図。
トヲイは合図を確認すると、他の仲間に現在地を知らせるべく『照明銃』を打ち上げた。強制的どじょうすくいの元凶であるバグアの捕獲の前に、キメラ退治が先だ。
トヲイ、王零はバケツの中を覗き込んだが、何かが妙だ。
「「サイズは普通なのに、何故ヒゲがナマズ級!?」」
同時に驚く2人。ヒゲが長いのはバグアにより改良されたためだろう。
バケツの中にいた一匹のドジョウが勢い良く飛び跳ねたかと思うと、トヲイの胸元にピタッと張り付いた。ドジョウ版体当たりである。
「ぎゃあああ! ド、ドジョウがーっ!!」
威力はないが、胸元が開いている服装なため肌に直接ドジョウの感覚が。この気色悪さは、当分トラウマになることだろう。
「落ち着け!」
手で払い退けた王零は、地面でピチピチ跳ねているドジョウを『名刀「国士無双」』で串刺しに。
「すまん‥‥。まったく、暫くはツルツルウネウネした生き物は見たくない‥‥」
土用の丑の日には、うなぎの蒲焼を見るだけでも抵抗感があることだろう。
(「ULT‥‥責任取ってくれ‥‥」)
気色悪さを堪えながら憎きドジョウキメラを倒すんだ! 煉条トヲイ!
ザルを手にしたホアキンは、ラジカセ狙撃のタイミングを連と菜桜に素早く合図。
●安来節阻止
後衛担当の連と菜桜は、合図を確認する各武器を構え『OK』と合図を送った。
2人同時に『狙撃眼』と『鋭覚狙撃』を使用すれば、一瞬でラジカセ破壊は可能だろう。
『バクアが逃亡しないように足を止めますよ、菜桜さん』
『わかりました』
連と菜桜はラジカセに狙いを定めると、同時にでラジカセを破壊! 成功したことを手を叩いて喜ぶ二人だった。
ラジカセが壊れると同時に、踊り疲れた住人達は次々と倒れた‥‥というが、酸欠状態の者もいれば、息切れ状態と症状は様々。倒れた住人達の服からは、ピクピクしているドジョウが出てきた。様子がおかしい原因はこれだったのだろう。
拓那は住人の無事を確認すると、救急セットで怪我をしている者の手当てを始めた。
「どじょうすくいには少し剣呑過ぎるけど、SES搭載ザルが無いから堪忍な!」
怪我人の手当てが終わるなり『疾風脚』でバグアに突進する拓那。
「ぐはぁ!!」
強烈な蹴りをいきなり喰らいながらも、バグアは陽気に笑っていた。
(「馬鹿なバグアもいるもんだな‥‥」)
感心している場合ではないだろう、拓那。
その間、連は踊りから解放された住民の避難誘導中‥‥なのは良いのだが、どじょうすくいを踊りながら方向転換、先頭をしていた。『Hope』に合わせて踊れるのはある意味すごいかもしれない。
「いっとー、にーとー、さんとー、しーとっ」
「連さん、真面目に誘導してください!」
共に避難誘導していた菜桜が注意するが、イヤホンをしているためお説教は『馬の耳に念仏』状態だ。
「皆さん、こちらです!」
「あのー‥‥あの子、何で踊っているんですか?」
住民の1人にそう訊ねられた菜桜は、彼女はまだ洗脳が解けていないようですと誤魔化した。
ラジカセが破壊されたことにより、耳栓と大音量が不要となった。
「耳が痛い‥‥」
ガンガン、ギンギンの曲を延々と聞きっぱなしだった剣一郎とホアキンの耳が傷むのは当然だ。鼓膜が破れていないことを祈る。
住民を避難させ終えた連はそれにまったく気づく様子もなく『Hope』を聞きながらノリノリで踊っていたが、ホアキンにイヤホンを取られた。
「何するんですか〜! ノリノリでしたのに〜!」
「もうこれは不要だ」
そうなんだ、と納得する連。
「ほむ、そんなことより、早くバグアを捕らるのです。こんなことをするのは許せないのです!」
住人救出は成功したが、バグアを逃亡させた場合は依頼失敗とみなされる。
「早くいったほうが良いみたいだ。トヲイの様子がおかしい」
アキラが見ていたものは、ドジョウキメラを避けつつも必死で戦うトヲイ。
「近づくなっ!」
胸元の感触再来を避けるべく、トヲイは狙いを定めて1匹ずつ『シュナイザー』で切り裂いた。
「冷静になれ、トヲイ」
トヲイを宥めつつ、王零も『名刀「国士無双」』で器用にウナギを捌くかのように斬っている。
「邪魔なキメラの掃除をするとしようか‥‥闇よ、我が求める形をなせ。万魂掃浄‥‥汚れし魂よ、器を捨て聖闇へと還れ‥‥!」
トヲイ、王零がキメラに苦戦している間、剣一郎、アキラ、ホアキンはバグア捕縛作戦を開始。
前衛2人が障害となるキメラを排除する間に、2人の動きを把握しつつ三方向よりバグアを包囲し追い詰めるよう誘導。
単独で出現ということは、自分達と同等かそれ以上と見極めたうえで、剣一郎は慎重に捕縛作戦に。
素早く背後に回りこんで『月詠』での峰打ちによる行動力を低下させた後、羽交い絞めし『瞬天速』で素早く駆けつけたアキラが、バグアの両手を剣一郎から借りた手錠で繋ぐと素早く地面に叩きつけた。顔面からにも関わらず、バグアは陽気に笑っていた。
「気持ち悪い」
叩きつけ終えるとアキラは素早く離れ、後の捕縛作業はホアキンに任せた。
「顔と踊りは笑えるが、やってることは笑えないし許せない。UPC軍にたっぷりお仕置きしてもらうんだな?」
バグアの顔面近くに『ソード』を突き刺し、猿轡をかませるホアキンを見て「は、はいぃ!」と言うバグアだったが、明るい表情と口調は相変わらず。
バグア捕獲を目撃したトヲイはキメラ戦を一旦離脱すると、ロープを持ってバグアのもとに駆けつけ、ロープでぐるぐる巻きに。
「踊りたいのなら勝手に1人で踊ってろ‥‥! 大迷惑だっ!!」
トラウマの原因であるバグアに腹が立ち、背中を思いっきり踏みつけるトヲイの行為にもホアキン同様の反応だったが気絶した。ひくつきながらも笑っているのが気持ち悪いが‥‥。
「このままにしておくのがベストだろう」
釣り上げられたドジョウの如くヒクついているバグアの監視をアキラに任せ、剣一郎、ホアキン、トヲイはキメラ戦に合流した。
●ドジョウ戦
合流した3人を交えた能力者達は、一斉に残っているドジョウ退治に取り掛かった。
拓那は『超機械γ』で一匹ずつ確実に狙いを定めて攻撃。倒されたドジョウは良く焼けているサンマのように見えた。
「ま、まずそう‥‥」
口元に手を当て、こんなの食いたくないと思う拓那だった。
ホアキンはどじょうすくいのリズムを取りつつ『フォルトゥナ・マヨールー』で闘牛士の如く攻撃。
「ドジョウでは様にならん」
溜息をつくホアキンに「手を休めないでください」と注意する菜桜は、攻撃系能力者達のサポートに徹していた。
「間近でみると気色悪いですね‥‥」
「ほむ、同感です‥‥」
菜桜の背後で援護攻撃している連も同意見だった。
それを堪えながらドジョウキメラを退治している連と菜桜が、トヲイの二の舞を演じないことを祈る。
剣一郎は『月詠』『蛍火』の二刀流、王零はウナギを捌くように倒している。
ドジョウと格闘すること10数分、ようやく依頼終了。
●それは勘弁
戦闘終了後、アキラは救急セットで負傷した能力者達の治療をし、ホアキンは「バグアを捕獲した」と山陰UPC軍に報告。
「皆さん、記念写真撮りましょう♪」
依頼を無事成功させたことの証拠、もとい、記念としてバグア捕獲の様子を『使い捨てカメラ』で撮影したいという連。
「全員で写ることが出来たら嬉しいです。写真はアルバムに大切に保存なのですよ?」
それも良いかと言う能力者達だったが、トヲイだけは良い顔をしなかった。
(「もうこういう嫌な思いをするのはゴメンだ‥‥!」)
丁度良いのか悪いのか、山陰UPC軍が到着して捕縛されたバグアを連行しようとしたが連に「まだ駄目なのです!」と待ったをかけられた。
「シャッター押してください。記念写真を撮るのです♪」
「そ、そうなんだ‥‥」
使い捨てカメラを手渡されたUPC軍兵士は「撮りますよー?」と言うと、連は皆のもとに駆け寄り、満面の笑みを浮かべた。
「はい、チーズ!」
こうして、記念写真撮影終了。連は各能力者達に写真の郵送先を聞いたが、トヲイは「俺はいい」と断った。
「皆さん、お疲れ様でした。洗脳されていた住民達も無事解放され、バグア捕獲、キメラ退治は無事終了しました。皆さんもどうです? 『どじょうすくい体験道場』に行けば指導してもらえますよ。この時間帯だったら、まだ開いているはずですから」
バグア連行中のUPC軍兵士の1人が、安来名物を宣伝するかのように詳しく教えてくれた。
「面白そうだから行ってみないか?」
興味を示した拓那がそう言い出すと、トヲイ以外全員賛成したので早速言ってみることに。
「俺は踊るのは嫌だからな!」
「だったら、見学していれば良いだろう。汝も一緒に踊れ、と言っているワケではないのだから」
王零に諭され、観念して皆と『どじょうすくい体験道場』に行くことにしたトヲイだった。
●オチこれ?
山陰UPC軍に向かう途中、能力者達に安来節体験を勧めたUPC軍兵士は肝心なことを忘れていた。
「今日、火曜日だったっけ?」
「何だよ、突然。火曜だと何かあるのか?」
「あそこ、今日休館日だった。能力者達に悪いことしたなぁ」
「だったら、お詫びとして『どぜう鍋』か『地獄鍋』が食べられる店に連れて行ってご馳走するんだな。喜んでくれるかどうか微妙だが」
女性能力者もいたので、キメラ退治は後味悪いものだったろうなぁと同情する兵士2人だった。
その頃、何も知らない能力者一行は『どじょうすくい体験道場』前に到着。
本日休館のプレートを見て「何しにここまで来たんだろう‥‥」と、全員心の中で呟いた。
そんな中、今回のバグアは親バグアか、バグアに寄生された安来節好きな人間の仕業だったのかと考える剣一郎だったが、考えを切り替えた。
「踊るなら、自分の意志で踊りたい。今回のようにバグアに踊らされるのは‥‥な」