●リプレイ本文
●準備
神無月 紫翠(
ga0243)、小川 有栖(
ga0512)、ケイ・リヒャルト(
ga0598)、鴉(
gb0616)の4人はコンテストの司会を務めるソウジ・グンベの案内で審査委員長である貸衣装店を訪ねた。
「店主、彼らがここで衣装と小道具を借りたいそうだ。見立ててやってくれないか?」
「いいわよ〜、他ならぬソウジ中尉の頼みですもの〜♪」
中年女店主の色目使いに気色悪ぃ! と心の中で突っ込み、ソウジは後を任せることに。
「どのようなものをいいのしら〜?」
「私は〜こんなカンジの浴衣が着たいです〜。今年はまだ、浴衣を着ていません〜」
「これ、うちの従姉経営の呉服店の折込みチラシじゃな〜い。嬉しいわ〜。レンタル料サービスするわ〜♪」
店主を喜ばせた有栖の希望は、白地に細い縞(黒、紺、金茶)に黒い萩と飛び跳ねている青い兎の模様の浴衣、黒とグレーのリバーシブル帯。
「帯はこれでどうかしら?」
黒い帯にグレーの満月と黒い兎が描かれた帯を見せた店主に「これ、いいですね〜」と喜ぶ有栖。
「下駄ですが、濃い茶色の桐の台に白と黒の兎の刺繍入り二石鼻緒のものを。ありますか〜?」
あるわよ〜と手際良く用意する店主。
「そちらのお嬢さん、ご希望は?」
「あたしは、蝶をイメージするものを借りたい。浴衣は薄紫から濃紫に掛けてのグラデーションで、その上に大輪の艶やかな花と黒揚羽が施してあるものを。帯は、控えめなラメ入り水色のリバーシブル半幅帯、表地は織模様で大輪の花、裏地はやや彩度が低い無地で。小物は黒揚羽のコサージュ。下駄は、やや厚底漆塗りに紫の縮緬鼻緒で」
蝶の模様入りの服装のケイらしい要望である。
「眼鏡のお姉さんは、どのようなものがお好みなのかしら〜?」
紫翠にそう尋ねたら「彼は男だ」と鴉に突っ込まれたので謝る店主。
「浴衣は‥‥濃紺で。帯は‥‥白無地の献上柄。小道具は‥‥扇で。草履もお願いします」
「わかったわ〜。坊やは何がいいのかしら〜?」
坊やと言われてカチンときた鴉だったが、ざっと見50過ぎのおばさんからみれば20歳の彼はそう見える。
鴉の希望は、藤紫色の地に鳥と蓮柄の浴衣、黒の角帯に下駄。
「小道具だけど、色や柄のあるものなら何でも良いので扇子を6本借りたい」
「本当に何でもいいの〜?」
「何でもいい」
一通りの希望を聞いた女店主は、当日コンテスト会場の控え室に各自借りたものを用意するわね〜と3人に伝えた。
本当に何でもアリな貸衣装店である。
コンテスト会場では、智久 百合歌(
ga4980)とレティ・クリムゾン(
ga8679)がスタッフと打ち合わせ中。
「自己アピールの時にエレキギターを演奏したいので、アンプ等の持込ちとセッティングをお願いします。ストリートで使えるレベルの機材で構いませんので」
大掛かりにはならないので準備できますよ、というスタッフの言葉に安心する百合歌。
レティは、人工的に雨を降らせるため水とホースの用意、スタッフに手伝いをお願いした。野外会場なので雨を降らせる演出は問題ないが、その後の始末が大変である。
スタッフとの打ち合わせが終わったレティは、貸衣装店に電話して蛇の目傘を貸してほしいと頼んだ。
参加者達は、どのような浴衣姿を披露してくれるのだろうか?
●開催
「お待たせいたしました。ただいまより、ヒエダ貸衣装店主催の浴衣コンテストを開催致します。お‥‥もとい、私は司会を務めますのソウジ・グンベと申します。皆様、最後までお楽しみください」
司会のソウジの衣装は、濃緑時に白地の竹柄、黄色の帯、鼻緒が黒の下駄。司会、審査員一同浴衣着用と義務付けられているためだ。
その姿に見惚れたのか、一部のミーハー中年女性の黄色い声援に程遠い声が観客席から聞こえる。
(「何で俺がこんなことせにゃならんのだ‥‥」)
顔は営業スマイルだが、心は泣いているソウジ。
「まずは、男性部門から行います。最初の出演者に盛大な拍手を!」
トップバッターが野外ステージに登場すると、観客は大きな拍手で出迎えた。
●男性部門
1番:柚井 ソラ(
ga0187)
華奢で女顔なので女の子に間違えられやすいがコンプレックスなのに、着付けスタッフ達から「可愛いお嬢ちゃんね♪」と言われて可愛がられたのでむーとなったが、それはかえって逆効果だった。
「俺、女の子じゃないですっ! 『可愛い』は褒め言葉じゃないですよぅ」
半泣きで反抗する様子が一段と可愛らしいので、その後も着付けスタッフに可愛がられた。
そんなソラの浴衣は、実家から送られた裾のほうに流水と金魚柄入りの空色の浴衣に藍色の角帯。
下駄をからころ鳴らし、顔が隠れないように狐の面を付けて登場。前髪は邪魔にならないよう、青いピンで留めている。
美容師がメイクをしたがったが「俺、女の子じゃないですからっ!」と断固拒否したので素顔。すっぴんでも、可愛いままなのが羨ましいというか何というか‥‥。
「柚井 ソラです。えと‥‥オカリナを吹きます」
ラスト・ホープに来て間もない頃に友人に貰った大切なオカリナを、心を込めて奏でた。優しい音色は、ステージにたくさんの蛍が舞うように飛んでいる幻想的イメージを醸し出した。
オカリナ演奏後、ペコリとお辞儀をして退場するソラ。
「ソラ君、お疲れ様。蛍が見えそうな演奏、どうもありがとうございました」
2番:ネイス・フレアスト
彼が登場するなり、観客席はざわめき始めた。女装して登場したので「女性部門の人?」と困惑しだしたのだ。
本人はいたって落ち着いていて、嫌がる様子を見せず「賑やかで楽しそうですねぇ」とにこやかなご様子。
浴衣は青紫系の『紫陽花』で帯は薄いピンク系。下駄や髪飾り等は貸衣装店の借り物で、着付けやメイクは美容師、着付けスタッフにお任せ。
髪は普段は三つ編みだが、浴衣客用時は上のほうをお団子のように纏めてペットの黒猫『リオンさん』モデルの黒猫の団扇、帯飾り、かんざし等、ところどころにリオンさん飾りがついている。
「ネイス・フレアレトです。こう見えても男です。バラード系の曲を歌わせていただきます」
ネイスが歌い出すと、ざわめいていた観客席は少しずつ静かになった。
容姿だけでなく、声も美しいネイスに一部の女性客はうっとりとした表情に。
「ネイスさん、ありがとうございましたー。いやー、私も見違えちゃうほどの美人さんでしたねぇ」
3番:ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)
浴衣『星流』姿で登場したユーリは、覚醒状態でステージに登場。
外見変化は胸に浮かぶ幾重もの花弁を持つ花紋なので問題なし。花紋はあえていうなら、牡丹か芍薬の様なふわりとした感じのものである。見えたとしても、ちらりと覗く程度だが。
艶消し反射防止シートを付けた小太刀『菖蒲』『夏落』は、危険が無いように念入りにコーティング。緋牡丹模様の扇子は、アクセントとして帯に挿しておくだけで開く予定は無い。
浴衣姿なので、髪はポニーテールにして途中2ヵ所くらいで括り、鈴花飾りを付けている。
(「これをつけたのは‥‥舞う時に少し音がした方が良いかなと思ったからだ。別に趣味じゃない」)
自分にそう言い聞かせ、3日前から練習した下駄履き剣舞の披露に取り掛かった。本番で足挫いたら洒落にならないうえ、依頼を請け負うこともできなくなるので猛特訓と言ってもいいだろう。
「ユーリ・ヴェルトライゼンだ。剣舞をする」
小太刀を構え、最初は緩やかに、次第にダイナミックな動きを取り入れたユーリの剣舞に拍手を送る観客達。
小太刀をビシッと構え、剣舞を終了させた。
「ユーリさん、ありがとうございましたー。見事な剣舞でしたね。皆様、彼に盛大な拍手をー!」
ソウジの司会後、観客達はもう一度拍手を送った。
4番:鴉
ひょっとこの面を被っているが、覚醒しているため鴉の瞳は赤い。赤く浮き上がっている腕のトライバル風模様は、一般人から見ればタトゥーと思われているので覚醒していると思われないだろう。
浴衣の袖をまくり、帯に6本の扇子を挿して登場した鴉の目的は、観客を1人でも多く喜ばせ、楽しませることだ。賞を狙うより、パフォーマーの性、というべきだろうか。
軽く一礼してから面を後ろにずらし、笑顔でスタート。
「鴉です。俺のは芸の延長ですので、気軽に見ていただけたら幸い」
そんな彼の芸は、ジャグリングピンを扇子に変えたジャグリングだった。閉じた扇子をキャッチすると、素早く開いた扇子を投げた。
ジャグリングはお手玉要領のパフォーマンスだが、簡単にできるものではない。それを扇子、しかも開いた状態で行う鴉の腕前は見事だ。空中でヒラヒラ舞う扇子をキャッチし、また空中に放る。その様子は、光の加減でアゲハチョウのように綺麗に見えた。
フィニッシュは、高く全ての扇子を投げ、一回転して振り向く流れで片手に3本ずつキャッチし、扇子を開いたまま柄を見せるようにして両腕を広げ一礼。
華麗なジャグリングに喝采を送る観客達だった。
「ありがとうございましたー。華麗な一芸を披露した鴉さんに、もう一度拍手を!」
観客席の盛り上がりと同時に、司会のテンションが上がるソウジだった。
5番:ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)
「やれやれ‥‥俺まで出場することになろうとは」
参加経緯は、妹のアリス・L・イーグル(
gb0667)に強引に誘われて止むを得ず。
浴衣を持っているのに、使い道が無い状況だったということもあるが。
浴衣『星流』姿のブレイズ自体、浴衣に興味が無いわけでない。むしろ、粋な感じに着こなしている。
「ブレイズだ。これから、魚を投げ空中3枚卸をする」
器用さに長けた彼なりの挑戦だが、魚を捌くのに使用するのは『イアリス』である。
「俺は長ったらしいアピールはしない。流星の如き業を見ろっ!」
魚を放り投げると『イアリス』で一刀両断! もとい、見事に捌いた!
スタッフは慌てて大皿を取り出し、3枚卸にされた魚をキャッチ。
「これ、どうするんですか?」
スタッフの質問に「このままでは食えんな、刺身にするか。悪いが、もう一度受け止めてくれ」と頼むや否や、ブレイズは3枚卸にした魚を放り投げ、目にも止まらぬ速さで刺身にした。
「フッ‥‥やれやれだぜ。折角捌いたんだ、食ってくれ」
刺身にされた魚は、審査委員長とスタッフがコンテスト終了後に美味しくいただくことに。
「見事な魚捌きでしたねー! SES搭載武器をそのように使っていいのかが疑問ですが。いよいよ、男性部門最後の方の登場者です、どうぞ!」
6番:神無月 紫翠(
ga0243)
浴衣(女物)を身に纏い、スタッフに施された薄化粧で横笛の演奏に合わせてしなやかにステージに登場する紫翠を見て、観客達は「女性部門の人再登場?」と困惑。
演奏が進むにつれ、アップにしている髪が解けて瞳の色が赤く変わったが眼鏡をかけているため幸いにも気づかれなかった。
出場時に覚醒するとは‥‥神無月 紫翠、恐ろしい出場者!
「宜しくお願いします」
微笑んで挨拶した後、ゆったりした曲に合わせてステージを歩いた。
持ち時間首領後、一礼をして速やかに退場。
「ふう‥‥男物着ていても‥‥女性に間違えられそうですね‥‥」
女顔なので、本格的に女装すれば女装名人だろう。
「以上を持ちまして、浴衣コンテスト男性部門を終了致します。10分間の休憩の後、浴衣コンテスト女性部門を開催致します」
●ステージ裏
「男性部門参加者の皆、ご苦労さん。皆、芸達者だねぇ」
男性出場者全員を労うソウジ。
「ブレイズ、聞きたいことがある」
「何だ?」
「あのイアリス、消毒したんだろうな?」
当たり前だ! と怒鳴るブレイズを「まぁまぁ」と宥める妹のアリス。
ステージ裏には、いつでも出場できる女性能力者達が控えている。
「それなら安心した。審査委員長の女店主が刺身を早く食いたがっているんで。俺も食いたいが、コンテストの黒子であるスタッフ達にお裾分けしたほうがいいだろう」
ブレイズは「俺が捌いた刺身は美味いぞ!」と胸を張って言う。能力者を辞めたら、料理人になれる腕前という事実が本日発覚。
「ソウジお兄ちゃん、おひさー♪」
そう言っている女性スタッフがいたので真似て元気良く挨拶したのは愛紗・ブランネル(
ga1001)。この年頃の子供は、何でも真似したがるのです。
賞金はいらないけど参加しようか、相棒のぱんださんぬいぐるみ『はっちー』を代わりに参加させようかとギリギリまで考えた結果、はっちーと一緒に出場することに。
「ああ、元気だ。その浴衣、可愛いな」
「えへへ‥‥」
はにかむ愛紗を見て「可愛い‥‥」と呟くソウジ。
「コホン‥‥次は女性部門だ。皆、準備はいいか?」
スタンバイしている女性能力者達は、元気良く返事した。
●女性部門
10分後、女性部門が開催された。
「お待たせいたしました。続いては女性部門です。艶やかなお姉様から可愛いお嬢さんまで色とりどりの浴衣美人が登場しますよー。最初の出場者の方、どうぞー!」
1番:愛紗・ブランネル
「夏だ! 浴衣コンテストだ! れっつらごー! はっちーも一緒だよ♪ 愛紗だよ、宜しくねー!」
元気良く自己紹介する愛紗を見て「可愛いー!」と叫ぶ一部の男性観客。
愛紗が着ているのは、白地にぱんだちゃんの顔が小さめに散りばめられているものだった。遠目から見ると、ぱんだちゃんは花模様に見えるだろう。帯は紫のグラデーション色、履物は星型のワンポイントが入ったサンダル。歩くたびに「ピヨピヨ」と鳴るのはなんでだろう?
髪型は長い後ろ髪をポニーテールにし、途中まで一本の三つ編みにしたものを結び部分に括りつけ、先端を多めに残し留めた状態に。黄色い花飾りとリボンで髪を飾り、手には小さな鈴付きのぱんだちゃん巾着を持っている。
「浴衣はね、ぱんだちゃんだよ。んとね、他にもいろんな動物さん柄があるけど、愛紗はぱんだちゃんがお気に入り♪ どんな帯の色とも合うから、自分の好きな色が選べるんだよ。でも‥‥」
一瞬間を置き、抱えていたばっちーを差し出すように観客に見せた。
はっちーは青地に『無駄』と書かれた白文字の浴衣を着ていた。お揃いの紫帯の後ろには『夏男』と書かれたミニ団扇が挿してある。文字には意味はないらしい。
「主役は、はっちーなの」
はっちーの性別は永遠に謎だ。愛紗自体知らない。
主役にされた彼、いや、彼女? はどう思っているのだろうか。
「ありがとうございましたー。はっちーが主役とは、意外なオチでしたねー」
2番:小川 有栖
貸衣装店で借りた浴衣姿、兎の刺繍入り二石鼻緒で登場した有栖は、スタッフの手を借りず自分で着付けをした。
「花嫁衣裳の着付けたり出来るんですけれど、なかなか機会がないですね〜」
そこまでできるとは‥‥小川 有栖、凄い出場者!
正統派な浴衣の着方で清楚に見えるように心配りをし、帯はリバーシブルの黒い方を表にした片蝶結び。前面の一枚を斜めに折り返し着付け終了。
髪型はサイドを少し残して、ピンを使ってアップ風にて白いリボンで留め、メイクはナチュラルに。髪結い、メイクはスタッフにお任せした。
「小川 有栖です。草笛演奏します。目を閉じて、ご自分の故郷を思い出しながら聴いてください」
年配の観客にも楽しんでもらえるよう、草笛を奏でることにした有栖。
ワンコーラスは歌で、もうワンコーラスを草笛で曲演奏。
演奏を終えた有栖は一礼すると、草笛に適した葉を探すのに苦労したこと、ビニールでもできるが味気ないことを話し出した。
最後まで緊張することなく、十分なアピールをした有栖は満面の笑みでステージを後にした。
ステージ裏には、友人の戎橋 茜(
ga5476)がいた。
「その浴衣、茜ちゃんによく似合っていますね♪ 今度、一緒に浴衣を着てお祭りにいきましょう!」
「そらええな。それにしても‥‥出場者、めっちゃ美人ばっかりやん」
有栖に自分は場違いな所に来てしまったのと洩らす茜だった。
「大丈夫ですよ〜。あ、次は茜ちゃんの番です〜」
ほな行くで! と気合いを入れてステージに向かう茜だった。
「戎橋 茜さん? ステージに来てください」
シウジの呼び出しにいけない! と慌てたのが災いし茜は転んだ。
「よっしゃ! 折角来たんや、アタシはアタシの出来ることをやるだけや!」
人目を憚らず気合全開の茜は、のめり込むと周囲の白い目を気にしない性格である。
3番:戎橋 茜
ミニ丈フリル付きのギャル系浴衣は、白地に大きな橙色の蝶柄模様。朱色のへこ帯を締め、作業時に袖が邪魔にならないようにたすきがけ、髪型はポニーテール、睫毛エクステ、唇にピンクグロスというギャル系メイク。
ミドルカットの白いエナメルブーツというギャル姿で颯爽と登場し、コテを手にして威勢良く自己アピール。
「戎橋 茜です。お好み焼『茜屋』の宣伝の為に参加しました。アタシは、皆みたいにお洒落なことは出来ません‥‥でも、コレがアタシなんやあ!」
スタッフに用意してもらった屋台を利用し、大コテでの焼ソバ作りのパフォーマンスを始めた。大きな鉄板の上には、あらかじめ下ごしらえした焼ソバが乗せられているのは内緒。それを高熱で仕上げ、紙皿に盛り、割り箸をつけ「いっちょあがりぃ!」と差し出す。
「茜屋の焼ソバは天下一品! 茜SPの完成や! 食べてみてや!」
キメポーズを取り、観客達に焼ソバを振舞う茜。審査員やスタッフの分は別にとってあるので大丈夫。
茜SP焼ソバとは、イカ、刻みキャベツ、ムキエビにじっくり甘辛く煮込んだ牛スジ肉と酸味控えめの国産キムチを加えたピリ辛仕立てのソース焼ソバである。
茜いわく、めちゃ美味しいのでお試しあれ♪
「ありがとうございましたー! ん〜美味しそうな匂いですね〜。焼きソバをお召し上がりながら、次の出場者をお出迎えください」
4番:櫻杜・眞耶(
ga8467)
眞耶の浴衣コンセプトは、赤と黒の和風ゴシックドレス。
トップスは黒地に赤い花柄の模様の入った浴衣、ボトムスは黒いコルセットスカートというデザイン。スカートの下にはスコートを着用し、足元はヒールの低いショートブーツを履き髪型はポニーテールに。
和風な彼女にしては、珍しく洋風である。
「櫻杜・眞耶と申します。宜しくお願いします」
軽く頭を下げ、礼を取ってから自己アピール開始。アピール演目は、覚えたばかりのカポエイラ。アンゴーラ(流派のひとつ)のリズム音楽の入ったCDをスタッフに頼んでBGMとして流してもらう。
本場ブラジルでカポエリスタから教わったのは基礎である『ジンガ』のみだが、見て覚えた『アルマーダ』(「艦隊・海軍」を意味する回転蹴り)等を組み込んだカポエイラを技を披露することに。
音楽が流れ出すと、カポエイラの技をブレイクダンスの要領で披露しはじめた。日本舞踊を習っていたこともあり、見よう見真似のカポエイラはそれなりに見栄えするものになっている。
自己アピールが終わると、眞耶は一礼して退場。
「ありがとうございましたー。いつもは和風な彼女ですが、今回は打って変わって和洋折衷変化してくれましたねー」
5番:加賀 弓(
ga8749)
IMP所属のアイドルといいうこともあり、彼女が登場するなりIMPファンの男性客の声援が。
弓の姿は藍色で蛍柄の浴衣、浴衣よりも濃い藍色の帯、鈴付きの下駄姿という基本的で落ち着きのある雰囲気。
着付けは自分でしたのだが、念のため着付けスタッフに確認。
「乱れはありませんよ。お見事です」
スタッフに褒められて安心した弓は、メイクをスタッフに「軽くお願いします」と頼んだ。髪型はいつも通りと思ったが、美容師が「髪を下ろした方がいいわね」と言うのでそうした。
「IMP所属の新人アイドル、加賀 弓です。IMPの宣伝を兼ねて参加しました」
26歳にもなって新人アイドルというのもあれですね‥‥と心の中で苦笑する弓だったが、新人に年齢は関係ない。
そんな彼女のアピールは、IMPの歌。
一曲全部歌えればそれに越したことはないのだが、時間の都合上ショートバージョンに。普段は和服美人の弓だが、ステージに立てば今風のアイドルに一変。
「最後まで聞いてくださり、ありがとうございました。今後もIMPを宜しくお願いします」
宣伝を兼ねた挨拶を済ませ、礼儀正しく一礼して退場する弓。彼女の退場を惜しむIMPファンは「弓ちゃーん!」と声援を送る。
「ありがとうございましたー。アイドルが登場するとは思わなかったので驚きました。皆さん、今後も彼女を応援してくださいね」
6番:アリス・L・イーグル
これが初依頼となるアリスだが、緊張せず、元気いっぱいな感じの花火柄の浴衣姿で登場。
「初依頼が兄さんと一緒だなんて幸先良いねっ♪ 兄さん、見てるー?」
ステージ袖にいる兄・ブレイズは「恥ずかしい‥‥」と照れていた。
「アリスでーす! 宜しくね♪ 夏だから花火柄を選んだの♪」
コンセプトは本人いわく、夏祭りで誰もが振り向く元気美少女。
ありのままの自分で登場したアリスの自己アピールは‥‥。
「これだけじゃないよぉ! キャスト・オフ!」
浴衣を高速で脱ぎ捨て、浴衣からセーラー服に早変わり! 浴衣コンテストなのに、浴衣を脱ぎ捨てるとは珍しい‥‥。
そのアピールは男性客の視線を釘付けにし、中には「セーラー服も脱いでー!」という不届き物も。
そんなことを気にせず、自己アピールの締めに。
「あたしは兄さんを愛してる! 大好きだよぉぉぉぉ!」
「やめんか! 恥ずかしい! スタッフ、妹を退場させてくれ!」
堪えきれなくなったブレイズは女性に触れられないので、スタッフに頼んでアリスを強制退場させた。
ステージ袖で「あんなこと言うな!」と怒鳴る兄と「いいじゃない♪」とあっけらかんに言う妹。
「あ、ありがとうございました‥‥。いやーお兄さん思いの妹さんでしたねー。自己アピールには驚きましたが‥‥」
7番:朔月(
gb1440)
藍色の麻の作務衣、頭は白いタオルでスッポリと巻いて足元は素足に草履。手には薄い布手袋を着用。小道具は長さ2〜30数センチほどの竹製の小型の簾。これが前日で貸衣装店で借りたものだ。
「朔月だ。「南京玉簾」を披露させてもらうぜ。手拍子、お願いしま〜す♪」
あ、さて、あ、され、あ、さてさてさてさて、さては南京玉簾♪
軽快な朔月の歌に合わせ、観客は手拍子をする。最初にできたのは魚釣竿(フィッシングロッド)、お次は瀬田の唐橋(ブリッジ)、帽子(ハット)等、南京玉簾の芸としては代表的な物を行っている。
朔月の南京簾は、老若男女問わず盛り上がった。
「はい、ありがとうございましたー。日本の伝統芸を披露した朔月嬢に拍手ー!」
8番:篠原 悠(
ga1826)
緊張するわ〜、と怖気づいている悠に「頑張りなさい」と舞台袖で励ますレティ・クリムゾン。
悠の姿は、落ち着いたオフホワイトのに笹蛍柄の浴衣、それに合わせた藍染め帯と鼻緒の下駄。浴衣と同じ柄の巾着に涼しげな薄い和紙張金魚柄の団扇と、金魚尽くしであるが夏の涼しさが感じられる。
「最近は見ないけど、コレは夏の風物詩やん♪ 入賞目指してがんばるぞ〜! 『ミス・マドラガン』になったわけやないで〜!」
元気良くアピールするが、レティの浴衣姿が凄い綺麗なので惚れ直し、彼女がますます大好きに。自分の出番が終わったら全力で応援するようで。
悠曰く、改造浴衣は浴衣じゃなく和の心に対する冒涜‥‥とか。
アピールタイムはボーカリストとして歌で勝負。
浴衣姿でポップスもロックもあったもんやないというので、故郷を思い出しながら郷愁誘う童謡を歌い始めた。
これには、ご年配の審査員が感涙。
「どうもありがとうございました〜♪」
哀愁はどこへやら、悠は元気良く退場。
9番:ケイ・リヒャルト
貸衣装店から借りた『蝶』をイメージする浴衣に帯、下駄に加え、アイメイクは紫系で妖艶に。睫毛は長く、目力は強め、他はナチュラルという浴衣と自身の顔との調和、対比を意識したメイクで登場。
小物は、黒字に黒揚羽の織模様の洋日傘を使用。
日傘を差して登場すると自己紹介し、1回転すると開いたまま傘を置き、アカペラで合唱。
透明感の在る声は声量があるのでマイクは不要。曲はクラシックとジャーマンメタルをアレンジしたオリジナルで、クラシック系で静かに始まり、段々メタルに移行し、最高潮部で元のクラシック系に。
歌い終わったら日傘を取り、もう一度くるりと1回転して日傘を閉じ、一礼して退場。
「眞耶さんとは違う大人の和洋折衷でしたねー。歌も見事でしたー」
10番:智久 百合歌
普段から和装は着慣れているが、今回は少し趣向を凝らして出場。
自己アピールでエレキギターを演奏するので、アンプ等の持込み、セッティングは前日にスタッフのお願いしてあり、現在設置中。
彼女の衣装は濃緑に若竹柄の浴衣『若竹』に幅広の黒エナメルベルトを帯代わり。銀チェーンも合わせてゆったりと巻きアクセント。胸にさらしを巻き、ボディラインはタオルで補正。履物は、松葉色のかすれた風合いの鼻緒の男桐焼き右近下駄で、左足に太めの銀アンクレットを。
装飾品は銀ロザリオ、シルバードッグタグ、シルバーリング等ロックテイスト。
髪は後ろで一束ねにした後、緑と黒の市松模様バンダナを巻きワイルド感を醸し出し、シャープな印象の男装メイクを。
ステージ中央までは飄々とした雰囲気で歩幅も大きく、ゆったり歩いている。
男性っぽく、やや外股になるくらい意識して「ユーリって呼んでくれ、宜しく‥‥」と低めのハスキーボイスで流し目を送ながらクールに自己紹介。
アピールは、ハイテンポの和ロックを魅せテク入れつつの演奏。元楽士ということもあり、演奏は見事だった。
百合歌が退場すると「ユーリ様ー行かないでー!」という黄色い声援が飛び交う。
「ありがとうございましたー。男装して登場とは驚きでしたねー。女性部門最後の出場者の方、どうぞ!」
11番:レティ・クリムゾン
浴衣を着れる機会がそうある訳ではない、友人である悠の晴れ姿も見たいということが参加動機のレティは、どのような浴衣姿を披露してくれるのだろうか?
浴衣は朝顔模様の青と白の涼やかな浴衣。帯は藍色、履物は女下駄、髪の毛はアップで纏めて簪で留めるいる。
全体として青、藍色系統で揃え、瞳の紅彩をより印象付けている。
前日まで着付けの先生に浴衣の着方を教わり。日舞の先生に指導してもらった甲斐あり、日本女性としての動きをしなやかに身に付けた。
「レティ・クリムゾンだ。宜しく頼む」
アピールは開いた蛇の目傘を用意し、スタッフに頼んで人工雨をステージに降らせてその中をゆっくりと歩いている。深く傘を落とし、顔は口元までしか見えないように心掛け、女らしさを強調。
ステージ中央に到達したら後ろを振り向き、雨を止めてもらってから見返り美人のように傘を閉じ、柔らかな口元と涼しげな目元で微笑んでアピール。
清楚、可憐、綺麗、静かな色気という日本女性の王道を心掛けたレティのアピールは見事だった。
「以上を持ちまして、浴衣コンテスト男性部門、女性部門を終了いたしました。審査結果発表まで暫くおまちください」
その間、スタッフ達は塗れたステージを必死に拭いていた。ご苦労様です。
●審査発表
「お待たせいたしました。各賞の受賞者が決まりましたので発表します」
ソウジが審査委員長から受け取った封筒を開けると結果が書いてあった。
「『粋な男賞』受賞者は、ブレイズ・S・イーグル氏です!」
体格の良さ、見事な魚捌きが決め手になったのだろう。
「『浴衣美人賞』受賞者は、レティ・クリムゾン嬢です!」
そこはかとなく漂う女性の色香が、全員一致で決まった。
「レティさん、おめでとう!」
「私としては、悠が一番だったと思うな」
そう言うと、レティ特別賞として手作り風車を悠にプレゼントした。
「麗しい友情に拍手をお願いします!」
ソウジの言葉に、レティと悠に拍手を送る観客達。
「『浴衣ボーイ賞』受賞者は、柚井 ソラ君です!」
女性票、特に彼と同じ年頃の子供がいる母親の票が多かった。
「『チャーミング浴衣賞』受賞者は、愛紗・ブランネル嬢です!」
ソラに比べると、年代問わず男性票が多かった。
「『逆転浴衣賞』受賞者は、神無月 紫翠さんです!」
一般審査員ではネイスと同票だったが、審査委員長の一票で紫翠に決まった。
「『インパクト浴衣賞』受賞者は、智久 百合歌さんです!」
若い女性の票が圧倒的で、ユーリ様の活躍がもっと見たい! という意見が多かった。
これで全ての賞が発表し終えたかと思いきや、審査委員長であるヒエダ夫人がステージに登場し、特別賞があると公表。
「ものすごく切り捨てるのに惜しい方がいましたので〜『特別賞』を授与することにしました〜。受賞者は〜、焼きソバパフォーマンスを披露してくれた戎橋 茜ちゃんですよ〜! みなさ〜ん、盛大な拍手を〜!」
ヒエダ夫人の一言で、会場は拍手で盛り上がった。
受賞者達には、賞金と賞状が与えられた。
●コンテスト終了後
「兄さんおめでとう♪ 何か買ってね♪」
賞金を手にしたブレイズに、早速可愛くおねだりするアリス。
ケイはレティ、百合歌、愛紗とドリンクを飲みながら各自の衣装について話し合っていた。途中から悠も加わり、浴衣談義で盛り上がった。
「ソウジ君〜お疲れ様〜♪ 今月のコンテストも公表だったから〜来月も行うことにしたわ〜。その時は〜司会お願いね〜♪」
まだやんのかよ!? と突っ込むソウジだった。
7月は終わりに近いが、夏はまだまだ終わらない。