タイトル:【出雲】宝船漂流マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/20 06:37

●オープニング本文


 7月某日未明。漁を終え、港に戻ろうとした漁船の船長があるものを見つけた。
 それは‥‥今にも朽ち果てそうな古い船だった。
 帆には紅筆で「寿」の一文字が書かれておるが、布は破れている。
 朽ちた船の穂先には右手に釣竿を持ち、左手に鯛を持った神らしき人物、いや、神そのものが乗っている。
 神の名は『恵比寿』。天津神にも国津神にも属さない漂流神である。

『永(なか)き世の 遠の眠りのみな目ざめ 波乗り船の音のよきかな‥‥』

 どこからともなく、海底から聞こえてくると思われる低い唸り声がひとつの歌を詠んだ。
 この歌は、正月2日に宝船の絵を枕の下に入れて寝ると良い初夢を見ることができると言われている回文である。回文が聞こえなくなり静かな波音しか聞こえなくなったが、今度はユラリと何やら黒い影が海面に映った。
 ゆっくりと姿を現した影はクジラだったが、これも船同様、全身が朽ち果てていた。肉はただれ、骨が剥き出しになっているゾンビにような姿だった。

 幽霊船とゾンビクジラ出現!

 このニュースは、島根県内全てのマスメディアが報じたことにより県内に知れ渡った。

 数日後、出雲市内すべての漁港に大変な事態が発生。すべての漁船の網に、魚が一匹もかからなくなってしまったのだ。それだけではなく、絶好の釣り場と言われている場所でも小魚一匹釣れない。
 漁師、釣り好き達からは「魚が一匹も釣れない!」という苦情が区役所に殺到した。
 不思議なことに、出雲市内の領域のみ不漁なのである。
 その原因は幽霊船とゾンビクジラではないかと思った区役所職員の1人は、ULTに連絡し、それらの調査を行い、キメラだったら退治してほしいと依頼した。

 その3日後。
 それらが目撃された現場に生真面目そうな男性と科学者風の女性が漁師に頼み漁船に乗せてもらい、その近辺の調査を始めた。
 男性は、県内の大学で考古学の研究をしている留学生の申 永一(シン・ヨンイル)。
 女性は、UPC本部に調査要請されたことで出雲に来た『実践訓練センター』教官のアプサラス・マーヤー。
「何も変わった様子はないようですね‥‥。申さん、朽ちた船ですが何だかご存知ありませんか?」
「船とクジラ‥‥鯛を持った人物‥‥。船は『宝船』ではないでしょうか? 鯛を持った人物は、七福神の恵比寿ではないかと」
 宝船というのは、七福神(恵比寿、大黒、インド神の毘沙門、弁天、中国神の福禄寿、寿老人、布袋)が乗る宝物を積み込んだ帆船である。
「中国地方の依頼報告書に目を通しましたが、弁天キメラが出現して男女を襲ったようですね。今回の恵比寿出現は、それと関係があると思いますか?」
「それはないでしょう。恵比寿と弁天には『七福神』という以外共通点はありませんし。クジラに関しては、恵比寿が神格化されたものと言われていますが。クジラのほうは、調査報告によると骨格からイワシクジラに似た『ニタリクジラ』ではないかという結果が出たそうです。こちらのほうは、体長が約13メートルなので生身では戦うのは難しいでしょう‥‥」
 永一は眼鏡のブリッジを中指でグイッと押し付け、ふぅ、と溜息をついた。
「申さん、今回はキメラ2体同時攻撃は無理ではないでしょうか?」
「俺もそう思いました。では、二手に分かれましょう。あなたは以前、稲佐の浜に出現したワニザメキメラ退治の指揮を執ったそうですね。クジラをお任せしても宜しいでしょうか?」
「わかりました。では、申さんは恵比寿をお願いします」

 こうして、二手に分かれてそれぞれの退治を行うこととなった。

 永一は能力者だが、一介の留学生という立場を弁え山陰UPC軍所属の軍人に依頼要請を頼んだ。
「こちら山陰UPC軍。能力者諸君に依頼要請を行う。島根県出雲市内の海岸に、一隻の朽ちた木造の船が漂流中であり、そこにキメラ1体乗船している模様。諸君は漂流している船を調査し、キメラを撃退せよ。こちらからの報告は以上!」

 朽ち果てた宝船に乗船している恵比寿を倒し、出雲市内の漁業を再開させよ!

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
崔 南斗(ga4407
36歳・♂・JG
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
レン・ヴィアータ(ga8843
12歳・♀・DF

●リプレイ本文

●宝船発見
 クジラキメラ退治は日の出前の東方で行われるが、恵比寿キメラ退治は日の出間近の西方で行われることとなった。
「キメラが出たと思えば、宝船‥‥しかも恵比寿? 恵比寿って、鯛持ったアレだろ? 縁起がいいのか悪いのか。いや、悪いに決まっている。なんであろうと、キメラは敵だ!」
 キメラ七福神とは縁起が悪いと主張している伊河 凛(ga3175)。
「恵比寿って小繁盛の福の神でしょう? まったく、めでたくも無いものに作り変えてくれるね。しかも漂流している宝船なんて‥‥」
 周囲を見渡し、宝船を捜索する遠石 一千風(ga3970)は、波を心配している。アプサラス・マーヤー担当のクジラ依頼の場所とは離れているが、波の動きにより接近する可能性がある。

「此度の敵は恵比寿キメラかえ? 前に弁財天もおったのう。七福神と申しても、ルーツは天津神と言われるものばかりじゃ。恵比寿も斯様な船なれば、蛭子と申した方が良いやもしれぬ。しかし‥‥何が神を模したキメラを出雲に呼ぶのかのう? 黄泉への道が死を招く者共かのう‥‥」
 ふぅ、と溜息をつく秘色(ga8202)に、申 永一は井語り始めた。
「秘色くんの言うとおり、イザナギノミコトとイザナミノミコトの最初の子、蛭子と言ったほうが正しいかもしれん。蛭子は後の恵比寿、あるいは同一化という説がある。流れてきたのは常世というのは変わらないが」
 ひとつ疑問なのは、常世からの漂流神・恵比寿が何故出雲の海に出現したかだ。
 
 宝船を見た崔 南斗(ga4407)は、めでたくない宝船だなと思った。
「永一君も大変だな‥‥ゆっくり研究がしたいだろうに。首尾良くいったら、海の幸と缶ビールで一杯やるか? ビールは成人だけだぞ。永一君、ビールは大丈夫かい?」
「いえ、全然‥‥」
 永一は下戸なので、一口飲んだだけでも顔が赤くなり呂律が回らなくなる。
「そうか。同国出身のきみと飲んでみたかったんだがな」
 山陰UPC軍の船が宝船接近に成功したので、兵士が梯子つきロープを船に引っ掛けてから強度を確認。
「大丈夫です。順番に上ってください」
 体重が軽い能力者から上るが良いでしょうという兵士の案に従ったレン・ヴィアータ(ga8843)、秘色、優(ga8480)、虎牙 こうき(ga8763)、凛、一千風、南斗、翠の肥満(ga2348)の順に上った。
「ご協力、感謝します」
 兵士に礼を言うと、永一も上り始めた。

●宝船乗船
「うわ〜、ボロボロだな‥‥。落ちないように気をつけないと‥‥」
 恵比寿がいつ来ても構わないように、自作のギター型張り子に嵌めた『超機械γ』を構えて戦闘準備を怠らないこうき。
「あー、キメラとは言えカミサマ相手はバチが当たりそ」
 煙草を吸いたい気持ちを堪えつつ翠の肥満がそう言った途端、床板が折れ、右足がはまってしまった。宝船に乗り込んだ後は無駄な動作を避けようと心がけたが、腐った床板に右足をうっかり乗せてしまい嵌ってしまった。
「誰かー助けてー!」
 慎重に翠の肥満のもとに来た南斗が、彼を引き上げた。
「あ、ありがとう。うー不っ気味! コレに乗り込んだせい‥‥? ええい、仕方ない。お仕事お仕事っ!」
 立ち直りは早いが、能力者8人中最重量(装備込み)なので慎重に行動するように。

 宝船に乗船するなり、エマージェンシーキットから懐中電灯を取り出した南斗、一千風、秘色、優、レンがは、山陰UPC軍の船がまだ宝船付近にいるのを確認してから、宝船の各方面に設置した。
 軽く甲板を足で叩いて状態を確認した一千風は、もう少し体重を絞っておくべきだったかもと思った。
「わしも設置完了じゃ」
 重量を減らすべく、懐中電灯のみ持ち込んだ秘色は、乗船中も隙がないよう、仲間と警護している。
「まだいないようじゃの‥‥。允にボロじゃな。福の神ではなく、貧乏神が乗っていそうじゃ。それはさておき、魚が獲れぬなぞ大迷惑も良いところじゃ。主婦に対する挑戦状と受け取った! 物価が上がり、特売が無うなれば死活問題! ゆえに成敗してくれるわ! わしは鱧(はも)が食いたいのじゃ!」
 鱧は京料理の食材だが、本州中部に位置する出雲でも捕れる。

 南斗も秘色同様、重量を極力軽くするためキットの残りは軍の船に置いてきた。
 宝船に乗り込む際は足元の感覚に集中し、きちんとした足場が確保できるまで無理に動かないことに。一箇所に重量を掛けないためである。体重は翠の肥満の次に重いので、彼も移動は慎重に行わなければならない。
(「予想以上のに朽ち果てようだな。翠の肥満ほどではないが、重量級な俺も注意して行動しないとな‥‥」)
 懐中電灯取り出し、銃を持たない方の前腕の外側にガムテープでしっかりと固定する前に、蛍光塗料を中に入れたペイント弾を装填しておいた。
 優は宝船を発見するなり覚醒し、恵比寿戦に備えている。乗船後、恵比寿の位置を把握できるようにしつつ船の故、足場に注意しつつ懐中電灯を腰に固定した。
 レンは、懐中電灯を左腕に固定。
 能力者の中では軽量だが、宝船の朽ち果て振りが酷いので重量削減のためエマージェンシーキットとランタンを軍の船に置いてきた。
 宝船に乗り込んだらこっそりと恵比寿に近づきたかったが、気配すら感じられない。
(「宝船っていうくらいだから、名刀とか金塊とか積んでいたりしそうかも」)
 そう考えたレンは、腕の立つ能力者が多いので戦い方も学べそうだと思った。余裕があれば、宝探しもしてみたいとも思った。金銀財宝があるかもしれない、と夢見る12歳の少女だった。
 永一も念のため懐中電灯を用意し、宝船の死角になりやすい箇所に固定した。
「これで少しは明るくなるだろう。皆さん、恵比寿退治の強力お願いします」
 能力者に一礼する永一に、他人行儀はよせという南斗と秘色。

●恵比寿出現!
「カミサマご登場のようですよ」
 翠の肥満が、恵比寿出現を告げた。
 外見は右手に釣竿、左脇に鯛を抱えている一般的に知られているものだったが、表情は鬼のように険しいものだった。
「皆さん、恵比寿退治を始めましょう!」
 永一の言葉が合図となり、恵比寿退治が始まった。

 支援武器がギターに見立てた超機械のこうきは、音楽を奏でながらスキルを使用する。
 懐中電灯の明かりを頼りに恵比寿の動きを察知し、発見次第『練成弱化』を使用。
「弱化の旋律、敵を蝕め! 練成弱化!」
 大音量のギター演奏は、恵比寿を弱らせるのに十分な効果をもたらした。
「続いて強化の旋律! 味方に勇気と力を、練成強化!」
 派手さを控え曲を奏で『練成強化』で全員の武器を強化した。
「皆、頑張ってくれよ! 怪我したら俺が治療するからな‥‥っと、危ない!」
 邪魔な存在を釣竿で攻撃しようする恵比寿を見て、おおこわ、とその場を離れるこうき。

「こいつを使う時が来たか‥‥」
 後衛に位置した南斗は、懐中電灯を恵比寿の顔に当てる様にして目眩ましと照明をか兼ねて、照準を恵比寿に合わせる。
 確保した足場を動かずに囮の役目をしつつ、確実に射線が通る時に攻撃開始‥‥というが、射撃に使う弾は、あらかじめ蛍光塗料ペイント弾が装填されているものだ。
 既にペイント弾が装填されている『スコーピオン』で『鋭角狙撃』を使用し、恵比寿を狙い撃ちしたところ1発目は恵比寿の顔面に当たったが、2発目は外れた。
 固定した銃を外すと弾丸に装填し直し、翠の肥満と共に前衛援護を行うことに。
 
 足元に注意しながら真っ先に接近攻撃を試みたのは一千風。
 射撃班が攻撃を開始した隙に、足場の悪い甲板に気をつけつつ恵比寿に接近。
 鯛の口から噴射される水撃や釣竿での釣り針攻撃の回避を試みたが、動きが早い釣竿捌きの動きが読めず、釣り針攻撃を数回喰らってしまった。
 それでも攻撃囲内に捕らえることを諦めなかった一千風は、射撃の邪魔にならない位置で雷属性の『ファング』で反撃し、機会があれば恵比寿の釣竿や鯛の破壊を狙うことに。しかし、恵比寿の懐に入り込むのは容易いことではなかった。
「なるべく甲板上を動き回らないようにしないと‥‥」
 下手をすると、恵比寿もろとも海に落ちてしまう。恵比寿はフォース・フィールドで守られているため落下しても問題ないが、一千風はそうはいかない。
 そう考えている時、恵比寿の釣竿攻撃の対象となった凛を発見し、反射的に助けた。
「ありがとう」
「お礼はいいわ。早く恵比寿を倒しましょう!」

 凛は明らかに色がおかしい、朽ちている場所の移動は避けるようにし、恵比寿が海に落下しないよう、足の攻撃を仕掛けることに。注意する点は、下手をすると船板を踏み外すか、自分も海に落ちるかだ。
 狙いは釣竿と水撃を吐く鯛。
 懐中電灯で照らしながら索敵し、発見時は足場に注意して攻撃を誘いつつ接近し、囮として後衛への攻撃を減らすことに。距離を詰めるまでは回避と防御を優先し、水撃は『ソニックブーム』で相殺。それにより、水撃は裂けた。
 釣竿攻撃は、竿の動きが早いので思った以上にやり難い。
 それをフォローするのは、囮兼、護衛狙撃手から多少距離を置いて盾役となっている中衛の秘色。波の揺れ具合に注意し、闇雲に動き過ぎず足場を確保した後『小銃S−01』や『蛍火』による『ソニックブーム』で前衛を援護しながら、水弾は最小限の動きで回避。
「天才と何とかは紙一重で避けるのじゃ。凛、釣竿を攻撃するぞ!」
 秘色は『蛍火』で鉤爪叩き落しを狙い、凛は『月詠』で釣り糸の切断、竿破壊を試みた。2人の即席連係プレイが功を奏し、釣竿破壊に成功!
「針無き竿では、太公望も釣れぬのぉ?」
 不敵な笑みを浮かべ、恵比寿を挑発する秘色。
「まだ、恵比寿は倒れていない」
 凛は釣竿を失った恵比寿に接近するが、まだ水撃を行う鯛がいる。さほど接近しないにも関わらず、水撃を喰らい、甲板に叩きつけられた。そこは幸いにも腐敗していない箇所だったので、全身を打ち付ける程度のダメージで済んだ。
「‥‥そこだ!」
 立ち上がり、体勢を立て直した凛は『先手必勝』『急所突き』を使用し、恵比寿の動きを止めた。恵比寿が動けなければ、鯛も水撃不可能なはずと考えての攻撃だった。
 
 後衛の翠の肥満は『小銃S−01』は右手に、懐中電灯は左手で持ち、常に銃口の先を照らしつつ恵比寿を狙い、『強弾撃』『影撃ち』で援護射撃を。
 船の崩壊は避けたいので、やたらな攻撃は避けている。
 南斗は手足を狙わず、大きな腹に狙いを定め撃ち込んだ。
「今だ‥‥貫けっ!」
 腹部に見事命中かと思われたが、脂肪に覆われた贅肉が弾丸を防いだ。
「腹部に銃撃は効かないのか!? 何て厚い肉なんだ‥‥」

 自身と敵が船から落ちないように注意しながら戦闘に臨む優は、狙撃班の邪魔にならない様に接近しつつ鯛に集中攻撃を仕掛けることに。一時的とはいえ、恵比寿が動けない今なら十分狙える。
「あの鯛の恵比寿の一部なら‥‥倒せるはず!」
 懐中電灯の明かり、南斗のペイント弾効果があったとしても視界不良は避けられず、いくら注意しようが水弾を避けることは難しいので被弾覚悟で接近することに。
 悪条件下での戦闘は、能力者も恵比寿も同じこと。

「恵比寿が海に落ちたら‥‥ダメなのね‥‥。接近できたら‥‥恵比寿に回り込んで迎撃してみようかな‥‥」
 最年少のレンも、自分なりに一所懸命考え防御の構えで牽制しつつ、恵比寿が海に落ちないように注意して『鬼蛍』で攻撃を仕掛けた。
「やるからには一撃必殺のつもりでやりますですよ? 一刀入魂! せりゃーあ!」
 渾身の一撃は、恵比寿に大ダメージを与えることに成功した。

「皆、恵比寿に止めを刺しましょう! やるなら今しかないわ!」
 優の掛け合いと共に、能力者達は連携攻撃。
 最初の一撃は、優の『両断剣』。次は凛と秘色の『ソニックブーム』。
 翠の肥満、南斗は『強弾撃』と『影撃ち』を連続使用。
 レンは『流し斬り』。
「秘剣・桜楼月霞! なーんてね♪」
 連係プレイが見事成功したので、恵比寿はその場で倒れた。

 恵比寿退治:成功!

「わっ、な、何だぁ!?」
 恵比寿の側にいたこうきが、一足先に振動を感じた。恵比寿が倒れたショックで、腐敗した底板が壊れ、船底に落下したのだ。
「恵比寿の様子を見にいきますか?」
「おっと、その前に治療が先だぜ?」
 ギターを構えたこうきは、優しいメロディーを奏で始めた。
「癒しの旋律、味方を癒せ! 練成治療!」
 安らぎを与えるような音楽の調べに乗せた『練成治療』のおかげで、能力者達の生命力は幾分回復した。それでもまだダメージが残っているのは、それだけ恵比寿戦が厳しい条件下で行われたという証拠だ。
「何はともあれ、鱧の仇を成敗じゃ!」
 恵比寿を倒したことで、満面の笑みで笑う秘色。
「お‥‥終わったのか?」
 きょとんとした表情のこうき。
「終わった。きみ達のおかげだ、ありがとう」
 能力者達に感謝の言葉を述べる永一。
「恵比寿、退治できて良かったな。きみが困った時は、同国のよしみとして、できればまた手助けさせてもらうよ」
「ありがとうございます、南斗さん。その時は宜しくお願いします。皆さんも、宜しくお願いします」
 南斗と握手を済ませた後、他の能力者達にも協力してほしいと頼む永一。 
 
●宝船の中には
 戦闘が終了し、余裕があれば宝船漁り、もとい、調べたいと言い出したレン。
「恵比寿退治も終わったことだし、宝船を見回るのも悪くはないだろう。足元に注意して進んでくれ」
 懐中電灯を持った永一を戦闘に、能力者達は宝船探検を始めた。
 船室、調理室といった通常の船に設置されているものは当然無い。あるのは、下に下りる梯子だけだったが、腐りかけているので永一が持ってきたロープを利用して下りることに。
「宝船だろうと幽霊船だろうと、こういう類の船にはすんごいお宝が積んであると相場が決まっているのですよ。おったから〜っ♪」
「はしゃぐのは良いが、足を踏み外すでないぞ?」
 レンを気遣う秘色。
 船の最下層には、恵比寿の死骸があるだけだった。
「むぅ‥‥お宝が何もありませんね‥‥残念‥‥」
 頬をぷぅと膨らませて残念がるレンを見て、他の能力者はクスクスと笑った。 
「そろそろ戻ろう。ここは傷みが酷いから早く戻らないと沈んでしまう」
 永一に促され、能力者達は宝船の甲板に戻った。

 恵比寿退治を見届けた山陰UPC軍は、船を宝船近くに泊めた。行き同様、帰りも縄梯子で船に戻る能力者達。
「恵比寿の死骸は、山陰UPC軍が責任持って処理致します!」
 新人兵士は、敬礼しながら能力者達に報告。
 
「鯨退治は終わったかな?」
 優がそう言い出すので、永一はUPC軍の無線を借りてアプサラスに状況確認。
「クジラキメラ退治も成功したそうだ」
 やった! と喜ぶ能力者達。

 これで出雲の海も落ち着き、漁業は再び盛んになるだろう。