タイトル:子供達の夢が届くようにマスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/22 23:01

●オープニング本文


 七夕は日本、中国、台湾などにおける行事のひとつである。
 日本では7月7日、または一月遅れの8月7日に七夕祭りが行われる。
 中国での行事であったものが奈良時代に伝わり、日本の伝説と合わさって生まれた言葉でもある。

 現在では、笹の葉竹に願い事を書いた短冊や飾りつけをする行事として親しまれている。

 カルフォルニア州在住の女性カウンセラー、碓井梓紗から依頼があった。
「能力者の皆様にお願いがあります。以前、私が住んでいたロサンゼルスに残してきた孤児達をサンフランシスコに連れてきていただけないでしょうか? 7月7日に、子供達と七夕祭を行いたいのです。皆、私が長いこといなくて寂しい思いをしていることでしょう‥‥。どんなに忙しくても手紙は欠かさず送っていますが、子供達は、実際に私に会いたいことでしょう。お願いします! 子供達を安心させるためにも私の依頼を引き受けてください!」
 子供が大好きな梓紗にとって、ロサンゼルスに置いてきた面倒を見てきた子供達は何よりも気がかりだっただろう。
「最後になりますが、今、私のもとでジェフという7歳の少年がカウンセリングを受けています。その子と子供達を仲良くさせる協力もお願いします」

 子供思いで、優しい心の梓紗の願いを聞き届けてほしい。

●参加者一覧

壁(ga0285
20歳・♂・FT
鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD

●リプレイ本文

●七夕前日
 碓井梓紗宅で行われる七夕祭りの前日。
「7月7日で俺も23か‥‥」
 カレンダーを確認してぼやく鷹代 朋(ga1602)は梓紗と招待客であるジェフの両者と面識唯一の能力者だ。
 年をとるのは、男性にとっても複雑な気分なご様子で。
 料理本を見ながら、七夕らしい料理を探すが良いものが見つからない。
「七夕らしい料理って、やっぱり『素麺』かな? 流し素麺にするには竹がいるし」
 悩んだ末、UPC軍本部にいるソウジ・グンベ中尉に電話で相談を持ちかけた。
「どうしたんだ?」
 流し素麺をするのに竹を用意できないかと相談したが、それは難しいという回答が。
「先週、甥っ子の誕生プレゼント買うのにラスト・ホープの大型ショッピングモールの玩具売り場に行ったんだけど『流れるプール式釣堀り』ってのがあったぞ。それなら流し素麺の雰囲気が楽しめるんでない? 必要なら俺が買うぞ」
「いいんですか?」
「子供達のためだ」
 こうして、流し素麺(もどき)は実現可能に。
 後は、七夕関連の絵本や書籍を持ち込むだけ。万一に備え、装備はいつもどおり子供達に見えないよう常備。
「何かあった時に本気出せないと本末転倒だしなぁ‥‥。何も無いのが一番だけど」

●会う前夜
 帰宅のタイミングを見計らったかのように、ソウジの携帯に着信が。
 相手はリュイン・カミーユ(ga3871)。
「今、大丈夫か?」
「ああ。何かあったのか?」
 不安そうな声だったので、リュインの身に何かあったのかと心配するソウジ。
「今回の依頼だが、ジェフの新生活に大きく関わる願いなら我は受けん訳にいかんだろう? 依頼人は子供達を随分大切にしているようだが、それは『無償の愛』と言うのだろうか? 我には到底真似できんし、理解できん」
 無償の愛。
 血が繋がっていようがいまいが、親は子供に愛情を注ぐ。
 子供と上手く接することができない親は、そっと抱き締めて愛情表現。
 可愛がっているペットや植物に話しかけることも同類といえよう。
 赤ん坊が父親、母親を見て笑うのは、愛情を注いでくれた親に対する報酬である。
 ‥‥という難しい話はおいといて。
 リュインが何を言いたいのか分からないソウジだったが「想われたい」と望んでいることは理解できた。
「すまん‥‥しんみりしている場合ではないな。安全に皆を梓紗の元へ連れ行き、七夕を楽しもう! ところで『七夕』とは何だ?」
 シリアス雰囲気が、その一言で一転。
「それは当日、碓井女史が説明してくれるだろう。集合時間に遅れるなよ?」
「遅くに電話して悪かった。おやすみ」

●七夕当日
 出発時の天候は快晴。これなら、夜には満点の星が見えることだろう。
 ロサンゼルスの孤児院に向かう能力者は、朋を含めて6名。その中には、梓紗をサンフランシスコまで送り届けた依頼の参加者、壁(ga0285)もいた。
「鷹代さん、柊 理(ga8731)です。覚えていますか? ジェフ君関連の依頼では何度もお世話になっています。今日も宜しくお願いしますね」
「ああ、覚えているよ。こちらこそ宜しく。ジェフ君と孤児達が仲良くなれるよう頑張ろう」
「はい!」
 理は、初対面の能力者達にも挨拶をした。
「理の挨拶が済んだようだな。皆、碓井梓紗女史の依頼を受けてくれたことを感謝する。高速移動艇のルートは、ロサンゼルスに向かった後、サンフランシスコ付近のジェフ少年宅に向かう。ジェフ少年宅だが、最近キメラが出没したという情報あり、能力者や子供達が一緒にいたほうが精神的に安心する点を考慮して同乗することとなった」
 説明を終えると、ソウジと能力者達は高速移動艇に乗り込んだ。

 ロサンゼルスに到着すると、孤児院前に6人の子供達が待っていた。
 孤児は最年長である11歳の少年クライドを筆頭に、10歳のやんちゃ小僧ジータ、9歳でお菓子作り大好き、おっとり少女なフレア、7歳のおませな少女マリナ、最年少は4歳の甘えん坊な少年レックス。
 後ろには、孤児の面倒を見ている院長のレヴィン・マークスがいた。
「お待ちしておりました、皆さん。子供達を無事アズサの元に送ってください。皆、お兄さんとお姉さんにご挨拶をしなさい」
『よろしくお願いしまーす!』
 声を揃え、子供達は頭を下げてお願いした。
「皆、こんにちは! 先生に会いに行こう!」
 子供達が高速移動艇に乗るまでは周囲を見張るため、理は裏側にアーミーナイフを付けた『バックラー』を背負い『小銃S−01』は上着の胸ポケットに。
 その姿を見た見たジータは「亀みたい」と笑った。
「確かにそうだね‥‥」
 櫻杜・眞耶(ga8467)は、服の下に隠せる物を装備している。小銃は、太股部分に着けるタイプのホルダーを使用しているので上手く隠せている。

 壁は、思い切って孤児達に声をかけた。
「自分は、以前アズサママを守った一人できみ達と会ったのだが‥‥覚えているか?」
 忘れられているだろうと思っていたが、当時3歳だったレックスは覚えていたのか「あの時の大きなおじちゃん!」と大声で言い、それを聞いた子供達は覚えている、いないに関わらず「アズサママを守ってくれてありがとう!」とお礼を言った。
「覚えていてくれて光栄だ。アズサ殿から、きみ達を七夕に招待したいと言われてやって来た。一緒に行こう」
 不慣れな子供の相手をする壁を見て、共に梓紗を守った朋は自然と笑みが浮かんだ。
「俺も会うのは久し振りなんだけど‥‥」
 壁の存在が大きいため朋は忘れられているようだったが、そんな彼のところにトコトコとやってきたマリナは「大きくなったらお嫁さんになってあげる♪」と言い出した。
「ありがとう‥‥」
 覚えていた子がいたので朋は嬉しかったが、少し複雑な気分だった。

 その様子を見ていた魔宗・琢磨(ga8475)は、梓紗は優しい人だと思った。
 彼も子供が大好きだが、梓紗のような行動はできないだろうと痛感した。
 ほんの少しでも梓紗の力になれるのなら手伝いたい、依頼を成功させたいと誰よりも強く願った。

●出発
 孤児達と合流し終えたので、一向は高速移動艇でサンフランシスコに向かった。
 朋は移動中、七夕の飾り付けを作るように孤児達に声をかけた。
「皆にお願いがあるんだ。アズサママのところに行く前に、男の子が合流するんだ。その子とも仲良くしてあげて欲しいんだ。お願い‥‥できるかな?」
 うん! と頷く孤児達の笑顔を見て安心した朋は、一緒に七夕飾りを作ろうと言い、作り方を指導した。
 壁はというと、大柄な体を屈めて端っこて大人しくしている。
 リュインは子供達に花火を見せた‥‥というが、それは琢磨と櫻杜・眞耶(ga8467)が購入したものだった。花火の知識はソウジ直伝(強引に教わった)。
「これはロケット花火、これはくるくる回るねずみ花火、これは打上花火で、上空で破裂した後にパラシュートが降りてくるやつだ。細いのは線香花火。最後にやるのがオツだと友人(ソウジ)が言っていた」
 花火の解説を聞いた子供達は「お姉ちゃん物知りだね!」とリュインを褒めた。
 子供達の名前は会った時に院長から紹介されて覚えたが、確認のため名前を呼んだ。
 子供達は、名前を呼ばれるとちゃんと返事をしたので、リュインは「ちゃんと挨拶出来た褒美だ」と返事し終えた子供達の口へ一口サイズのチョコレートを投げ入れた。
「ところで、皆は毎年『七夕』というものをやっているのか? 七夕とは何だ?」
 最年長のクライドは「オリヒメとヒコボシって2人が年に一度会える日だ」と言い、マリナは「違うよー。2人の結婚式のお祝いだよー。だから飾りつけするんじゃない」と言い返す。意見はバラバラだったのでリュインは「聞くんじゃなかった‥‥」と後悔した。
 孤児達は長時間の高速移動艇にいるのが飽きたのか「つまんなーい!」と言い出したので、眞耶はお菓子とトランプ、児童書を差し出した。
「これで暇を潰してください。もう少しでサンフランシスコに着きますから」
 能力者を交えてトランプで遊びはじめた孤児達だったが、始めたばかりだというのにサンフランシスコ付近のジェフ宅前に到着。

●ジェフ合流
 ジェフを訪ねたのは、面識がある朋と理、ソウジの3人。
「久し振りだね、ジェフ君、今日は梓紗先生が前に住んでいた町にいる子達と一緒だから賑やかだよ。アンナさん、ジェフ君をお預かりします」
 お願いします、とアンナは3人に頭を下げた。
「久し振りだね、ジェフ君。 新しいお家に慣れたかな?」
「うん! あ、理お兄ちゃんから貰ったCD聞いたよ。ありがとう!」
 誕生日プレゼントのCD、聞いてくれたんだねと喜ぶ理。
「アンナさん、お引越しお疲れ様でした。ジェフ君の様子は如何ですか?」
「梓紗先生のカウンセリングと、新しい環境に慣れて元気を取り戻しましたわ」
 それを聞き、朋、理、ソウジは安心した。
「ジェフ、皆さんが待っているから早く行きなさい。ソウジさん、この子をお願いします」
「わかりました」

 遠くからその様子を見ていたリュインも付き添いたかったが、母子引っ越し依頼の際はこっそり参加したので「久し振りだな」と挨拶するのはおかしいので、ジェフ宅周辺をさりげなく警戒。
 ソウジから「ジェフは続けて起きたキメラ襲撃で神経が過敏になっている」と聞いたので、悪戯に刺激しないよう心がけることに。
 ジェフと子供達は、高速移動艇が飛び立って暫くするとすっかり仲良くなった。ここから碓井宅までは、少し距離がある。
 朋、理、リュインは子供達と打ち解けるため折り紙で動物を折ったり、簡単な飾りを作る作業に取り掛かった。折鶴は勿論、やっこさんや動物、星の折り方を丁寧に教えながら楽しそうに作り始めた。クライドは最年長だけあって、折り紙は子供達の中で一番上手で難しいカンガルーをあっという間に折った。
「へへん、俺だけがアズサママに教わったんだぜ。すごいだろ!」
 リュイン、眞耶、琢磨は拍手してクライドを褒めた。
「壁のおじちゃん、一緒に作ろう」
 レックスに手を引かれ、仕方なく輪に加わる壁。
「壁さん、あなたも子供達の引率者なんだから一緒に楽しもう?」
 朋にそう諭され、きごちない笑顔で七夕飾り作りに壁も加わった。

 皆で協力した甲斐あり、完成は早かった。
 子供達は退屈なのか、高速移動艇内で走り回ったり飛び跳ねたりしてはしゃぎ出した。
「アズサママに会えるからってはしゃ‥‥って、いてぇ! 髪引っ張るなー!」
 子供達に振り回されながらも、しっかりと面倒を見る琢磨だった。
「皆、そろそろ碓井梓紗宅に着くぞ。全員、荷物を纏めて降りる準備をしておけ」
 ソウジに「はーい!」と返事をする子供達に対し、能力者は黙々と準備中。

●カリフォルニアでの七夕
「碓井さん、本日は子供達と共に能力者達を招待してくださりありがとうございます」
 ソウジは手袋を外すと、梓紗に握手を求めた。
「アズサママー!」
 ロサンゼルスにいた幼い孤児達は、梓紗を見るなり抱き付きに行った。
「皆、元気そうね‥‥。今日は皆で七夕を楽しみましょう。新しいお友達のジェフ君と、能力者のお兄さんとお姉さん、ソウジ中尉と一緒にね」
 俺も頭数に入っているのか!? と驚くソウジだった。
「ソウジさん、子供達を送迎をしてくださる御礼はたいしたことはできませんが楽しんでいってください」
「では、お言葉に甘えて」
 孤児達とジェフは、庭に立てかけてある笹竹を見て「これに飾りつけいっぱいしよう!」と意気投合。

「梓紗さん、キッチン借りたいのですが宜しいでしょうか? 素麺を作りたいので」
「朋はん、私も手伝います。人手は多いほうがいいでしょう?」
 梓紗に案内され、朋と眞耶はキッチンに向かい、早速素麺作りの準備に。
 素麺を茹でるのは朋担当、具である錦糸玉子や星型にくり貫いた人参等作成は眞耶担当。
 出来上がった素麺は、七夕らしいものとなった。

 素麺が出来上がるまで、残りの能力者達と子供達は笹竹に七夕飾りの最中。
 高いところは、壁が子供を肩車して飾り付けできるよう手伝っている。
 楽しそうに飾りつけする子供を見て、壁がぎこちないながらも微笑を浮かべた。
 梓紗はレックス、マリナ、ジェフと言った小さい子供と一緒に低い位置に飾りつけ。楽しそうに飾り付けをするジェフを見たソウジは「元気そうだな」と呟いた。
 浴衣『七々夜』に着替えたリュインは、高速移動艇で子供達と折った折り紙の動物に紐をつけ飾った、兎、豚、孔雀、天使、星、蝶等、様々なものがある。
 地面に立てた風車で自然の風を目で楽しみつつ、皆で花火を楽しもうかと言うが、その前にメシだろ? とソウジから待ったが。

「お待たせしました。素麺の出来上がりです」
 朋が持ってきたのはソウジ購入の『流れるプール式釣堀り』に素麺を入れたもの、眞耶と梓紗は食器とフォーク、箸を乗せたトレイを持ってきた。
 本格的なものは竹を繋げ水を流すものだが、調達できなかったので流れる玩具で我慢というものの、流れるプールのように素麺が流れているので雰囲気は十分。
「ソウジ兄はん、今日はお酒はありませんよ?」
「何ぃー!?」
 眞耶の「酒無し」宣言に驚くソウジに、子供達は「その通りだよ」と忠告。
「お口に合うかどうかわかりませんが、召し上がってください。流れている麺を掬って小皿に入っている麺つゆにつけて食べるんだよ」
 朋の解説終了後、流し素麺タイム開始。
 アメリカ育ちの子供達は箸が使えないのでフォークを使用。
「美味しい!」
「アズサママ、日本にはこういうのがあるんだね!」
 孤児達は、初めて食す日本料理にご満悦。ジェフも悪戦苦闘しながら美味しそうに食べている。

●願い事ひとつ
 食後には、お待ちかねの花火タイム。
「皆、花火やるぞー!」
 ソウジの合図で、子供達と能力者は一斉に花火を始めた。
「夏はやっぱりこれだなぁ‥‥」
「そうなの?」
 線香花火を見て呟く朋と、そうかなぁ? と思うマリナ。
 リュイン、理、琢磨はロケット花火や打ち上げ花火を離れた場所でクライド、ジータ、フレア、ジェフと一緒に楽しんでいる。
 壁とレックスは、率先して、ロケット花火の後片付けをしている。
 眞耶は梓紗、ソウジと共に食後の後片付け。片付けるのは礼儀です。

 楽しかった時間はあっという間に過ぎ、そろそろ変える時間となった。
「帰る前にお願い事を書いてね? 皆さんもどうぞ」
 梓紗はペンと短冊をひとりずつに手渡すと、子供達は頭を捻りお願い事を書いた。

 能力者願い事一部。
『世界から悲劇が消えますように』
『Je veux vous voir plus(もっと会いたい)』
『子供達がずっと笑顔でいられますように』

 願い事を書き終えた子供達は高速移動艇に乗り込み、窓から遠く離れる碓井邸をじっと見ていた。

 子供達全員の願い事は『アズサママにまたあいたい』だった。