●リプレイ本文
●一足お先に
三島玲奈(
ga3848)は、他の能力者より早く出雲聖陵高校に着いていた。
セーラー服姿で「編入先の学校見学に来ました」という口実で訪れ、教師から校内と体育館を案内してもらい、その後、学校のパンプレットを入手した。
「どうもありがとうございました。編入ですが、検討してみます」
礼儀正しく教師に挨拶した後、玲奈はパンフレットに記載されている体育館内部の構造を把握するためじっと見ていた。
「これで、作戦がうまくいくはずです」
玲奈は、潜入時の様子見、体育館付近警戒中の終夜・無月(
ga3084)のもとに向かうと、パンフレットを手渡した。
「ありがとう‥‥ございます‥‥」
バグアが出現したのは、校門付近にある第一体育館。
外からの入り口は正面と左右に一箇所ずつ。後は、校内からの入り口がひとつだけ。
「玲奈‥‥急ごう‥‥」
玲奈と無月は、校門前で待っている仲間のもとに駆けつけた。
●止めてください!
「能力者の皆さんですね、お待ちしてました!」
依頼人である新体操部のマネージャーは、校門前に集まった能力者達を早速体育館に案内しようとしたが玖堂 暁恒(
ga6985)に止められた。
「まずは‥‥情報収集からだ‥‥。俺は‥‥選手達やコーチの顔を‥‥知らん‥‥」
「し、失礼しましたっ! そう仰るだろうと思いまして、秋に行われた大会の優勝記念写真をご用意しました。ここに写っている選手ですが、高校総体メンバーと同じで、写真の中央に写っているのがコーチですっ!」
マネージャーが差し出した写真をじーっと見て、救出すべく人物達の顔を覚えた。
「お姉ちゃん、早く行こう!」
「そうじゃ。部活に情熱を傾けておる娘御達を狙うなぞ、何たる不届き者じゃ。早々に成敗してくれようぞ!」
リチャード・ガーランド(
ga1631)、秘色(
ga8202)に急かされたマネージャーは、能力者達を体育館に案内した。
「あぁ‥‥ンだありゃ‥‥?」
体育館の様子を見た暁恒は、様子を窺うなり不機嫌に。体育館では、洗脳されたことにより無理矢理演技をさせられている選手達と力尽き、倒れた選手達が。外側にある両側には、キメラに魅了され、演技している選手達に釘付けになっている男子生徒達、選手達同様、無理矢理踊らされている女子生徒達がいた。
体育館正面には、キメラ・アメノウズメノミコトが裸体を露にしたような衣装を身に纏い、ショールを翻しながら華麗に舞っている。
「しかし‥‥斯様なあられもない姿、教育的指導じゃな。キメラとはいえ、18歳未満に見せるでないわ、たわけが」
秘色は、教育上良くないと不機嫌。
「白昼堂々‥‥学校で随分と舐めたマネ‥‥してくれんじゃねぇか‥‥。叩き潰してやるよ‥‥」
出雲には何かと縁がある暁恒にとって、今回の依頼は気に食わない様子。
「最近、出雲には何かと縁がありますが‥‥今回の依頼もこれまでの件に関係しての事でしょうか?」
内心でそう考え込む櫻小路・あやめ(
ga8899)だったが、そうも考えられるので油断できない。そう考えている彼女は、依頼をこなしているためか、学校にはもう随分と行っていないようで。
●洗脳解除作戦
現場状況を把握した能力者達は一旦体育館から離れ、どのようにしてアメノウズメノミコトを退治するか考えた。
アメノウズメノミコトの魅了、強制舞踊を確認した結果、能力者全員での接近は危険と判断したため『陽動班』『潜入班』に分かれて行動することとなった。
陽動班は秘色、香倶夜(
ga5126)、あやめ、野之垣・亜希穂(
gb0516)。
潜入班は無月、玲奈、暁恒。
唯一のサイエンティストであるリチャードは、潜入班と共に行動。
「俺、今回の依頼のために『虚実空間』覚えてきたけど、これってすごく錬力使うんだよねえ。だから今回は錬力節約のため『練成治療』が使えないかもしれないんだ。だから、みんなできれば怪我しないでね」
「大丈夫ですよ、救急セットを持っている方もいますし。それより、まずすべき行動は生徒達の救出優先ですね」
リチャードを励ました後のあやめの意見に、全員が頷いた。
その後、周囲への被害を最小限に抑えることを意識しつつ、バグアを最速で殲滅することに。
「では、わしら陽動班が先に行き、キメラを体育館から引き剥がすとするかの」
緋色の意見に、無月は潜入班は時間をずらし、敵に見つからぬよう障害物の陰等を利用して体育館側面入口を目指すと提案すると、様子も報告。
側面入口の右側が強制舞踊させれれている女子生徒が多く、左側が魅了された男子生徒が壁にへばりついているような体勢をしているので容易に入れない。
「潜入班は‥‥比較的生徒の数が少ない右側から潜入しましょう‥‥。左側は‥‥隠密での潜入を‥‥行いやすくするため‥‥接触する生徒には静かにするよう頼み‥‥男子生徒の魅了を解くには‥‥当身で気絶‥‥」
体育館潜入完了後は、玲奈が一歩前を先行し、様子を確認しながら状況を後ろの潜入班に伝達、踊らされている選手達がいる場所の中が窺える所に近づき、中の様子とバグアや音楽の発信源を無月が偵察し、洗脳したコーチと発信源の位置が分かり次第突入という方針だ。
「その後、体育館前から誘導すべく、十分距離を取った上で『アサルトライフル』で狙撃といくかのう? アメノウズメノミコトの注意を此方へ向ける陽動が目的ゆえ、威力より命中精度重視じゃ。周囲の生徒に危害が及ばぬよう、十分に射線には注意を払うゆえ安心せい。此方の存在に気付かせたら亜希穂の出番じゃ。存分にキメラと張り合うて引き付けてくれ」
「秘色さん、それは俺に任せて♪ キメラと同じような格好をしているから、キメラにとっても目立った存在だと思うでしょうね。囮として仲間の行動が動きやすいようにするわ。敢えて、操られて踊らされるわよ。その間、皆はキメラを退治してね♪」
キメラと同じような格好というが‥‥亜希穂は日本髪に露出の激しいビキニである。
「早くしないと、お姉ちゃん達が大変なことになっちゃうよ!」
リチャードの一言で、皆、作戦実行に。
陽動班で早速行動を開始したのは、あやめだった。
体育館正面で舞っているアメノウズメノミコトの周辺には、魅了された男子生徒数名がいて、守るような体勢で立ちはだかっている。
(「何か、特殊な能力によって影響を受けたのでしょう」)
あやめは落ちている小石を拾い、アメノウズメノミコトに向かって投げたが、フォースフィールドに跳ね返された。それでも、あやめは小石を投げ続ける。
「皆さん、早く各自の持ち場に向かってください!」
「ここは、わしらに任せるのじゃ!」
「頼りにしているわよ〜♪」
あやめ、秘色、亜希穂に正面を任せ、無月、玲奈、暁恒は体育館潜入を試みた。リチャードは、選手達を救う重要任務がある。
●潜入開始
男子生徒で塞がっている左側の入り口に向かったのは玲奈と無月。
玲奈はセーラー服を脱ぎ捨て、体操着姿になると魅了された男子生徒に向かい「あんなオバンの何処がいいの?」と逆魅了を試みたが、失敗に終わったので「私の魅力があんなのに劣るだなんてー!」と泣きながら1人ずつハリセンでおもいっきりどついた。
そのおかげで、左側入り口からの侵入成功!
「音源を‥‥探そう‥‥」
双眼鏡で体育館の様子を窺った無月は、コーチの側においてあるCDラジカセから流れる曲が怪しいと睨んだ。
曲はショパン作の『革命のエチュード』。テンポが早いこの曲に合わせて長時間演技させるのはあまりにも危険だ。
「不届き物なバグアはいるようだな。まあ生きて此処から出すつもりは無いが」
覚醒状態の暁恒は後ろを警戒している。魅了させた男子生徒が襲ってくる可能性があると思った矢先、生徒の1人が襲い掛かってきた。
「大人しくしろ」
チョークスリーパーをかけ、気絶させた暁恒だった。
「新体操部のお姉様、綺麗だなあ。俺がもう少し年上なら、映画のヒーローみたいに助け出したヒロインと恋に落ちるっていう展開もあるんだけど。10歳じゃ無理か」
悩み多き少年として愚痴をこぼしてから作戦を開始したリチャードの行動は、洗脳されないようにアメノウズメノミコトの姿を見ないようシールドで守りつつ、前衛担当が交戦を開始するのをじっと待つ、というものだ。
亜希穂はアメノウズメノミコトに負けじと踊り続け、香倶夜は『ディフレクト・ウォール』で抵抗力を上げ、洗脳対策を行いながら魅了されている男子生徒を蹴散らしている。
「いい加減にしなさいっ! 邪魔!」
アメノウズメノミコトが接近したら『アサルトライフル』で攻撃しようとする香倶夜は『急所突き』『ファング・バックル』を付加し、いつでもOKな状態に。
秘色は、距離を保ちつ攻撃しながら攻撃されたことで魅了が解けた生徒達を離れた場所へ誘導ながら『蛍火』に持ち替えて戦闘開始。
(「特殊能力は何らかの発動要因があるものじゃが‥‥あやつの場合は、もしや‥‥手にしておる榊かえ?」)
可能性は潰した方が良い、先に狙うとしようと秘色はアメノウズメノミコトが両手に持っている榊を『蛍火』で切り捨て、襲い掛かるショールは上手く回避。
能力者であれど踊らされる能力を完全に防げるものではないが、秘色が意識があることを利用し、闇雲に動かず、舞いつつ『ソニックブーム』を放ち攻撃。
「リチャード、秘色じゃ。今のうちにアレを使うのじゃ!」
トランシーバーでリチャードに連絡し終えた秘色は、更に攻撃を続けた。
体育館の中に駆け込んだリチャードは覚醒すると、即座に『虚実空間』を使用し、洗脳を解除できるか試した。
「覚えたばかりの新必殺技だ! 『虚実空間』展開! 洗脳なんぞ解除してやる!」
超機械によって妨害電波を飛ばし、相手が得ている特殊効果をすべて無効化する『虚実空間』が効いたのか、洗脳された選手達の動きが止まった。
「んじゃ、アレを壊しますかね♪」
玲奈は狙いを定めると『ライフル』を構え、『鋭角狙撃』で曲を流しているCDラジカセを壊した。
「やったね!」
リチャードはエネルギーガンを後方から使用し、陽動班の支援を行っている。
「キメラやバグアに再度洗脳させる隙を与えるな! 今のうちに殲滅するのみ!」
「わかっておるわい! 口うるさい子供じゃのう!」
「2人とも、口喧嘩している場合じゃないよ!」
香倶夜の仲裁で、ようやく大人しくなったリチャードと秘色だった。
『自身障壁』で防御力を上げたあやめは、仲間の攻撃を縫い近接戦闘を仕掛けている。『血桜』で攻め『氷雨』で受け止めの攻防を繰り返している。
「踊るのって楽しいわぁ〜、悩殺ダンスなら負けないわよ! まだまだ踊り続けられるわよ、だって楽しいですもの♪」
アメノウズメノミコトに負けず劣らず踊り続けている亜希穂。体力あるね‥‥。
「彼女、弱っちゃったみたい。踊り勝負は俺の勝ちね♪ 生徒や先生達の救出に回るから、後はヨロシク♪」
そう言うと、亜希穂は踊りをやめ体育館に向かった。
●舞姫救出
ラジカセを破壊したはずなのに、洗脳は弱いもののまだ解けてはいなかった。
「諸悪の根源であるバグアを倒さなきゃ終わんねぇか。しゃあねぇ」
暁恒はコーチの姿をしらバグアを見つるなる『瞬天速』を使い、距離を詰めて『急所突き』で喉を『キアルクロー』で突いた。
ラジカセ破壊、リチャードの『虚実空間』で選手達や生徒の洗脳は解けたが、まだひとつ問題が。
「あのキメラも潰さねぇと」
いてもたってもいられなくなった暁恒は、体育館正面に向かって走り出した。
「大丈夫‥‥?」
体育館に倒れている選手を起こし、ひとりひとりに声をかける無月。
寝息が聞こえることから、皆、疲れたことで眠っているようだ。
「よかった‥‥無事で‥‥」
無月が支えていた選手の1人が目を覚ましたのか「怖かった!」といきなり抱きついた。
「な‥‥」
一瞬照れた無月だったが「もう‥‥大丈夫だよ‥‥」と選手の頭を撫でながら安心させた。まだ倒れている選手達の介抱もあるので、彼はここから動けない。
「なーんだ、もう終わっちゃったのね」
駆けつけてきた亜希穂がつまらなさそうに頬を膨らませた。
「いいじゃない‥‥皆‥‥無事なんだから‥‥」
「ま、それもそうね」
●御礼の舞
体育館正面では、秘色、香倶夜、あやめ、リチャードがアメノウズメノミコトと対戦中。何度も攻撃を仕掛けるのだが、魅了されるような舞でひらりとかわされてしまうのだ。
「リチャード、『虚実空間』はまだ使えるかの?」
「わかんないけど‥‥やってみる! お姉様達のために!」
本当のことを言うと練力は残りわずかだったが、あと一回分残っている。
「これが最後の『虚実空間』展開だぁー!!」
効果あったのか、アメノウズメノミコトが舞うのをやめた。
「今じゃ!」
無効化を確認した秘色は、一気に『流し斬り』で攻め、香倶夜は『アサルトライフル』連射、あやめは『血桜』『氷雨』の連続斬りを繰り出した。
これには身軽なアメノウズメノミコトも避けきれず、もろに攻撃を喰らった。
アメノウズメノミコト殲滅:成功!
「やったね!」
「舞は武に通ず、逆もまた然りじゃ」
「秘色さんの仰るとおりです」
「お姉様達の救出成功っ!」
思い思いに喜ぶ4人だった。
「体育館の様子を見に行こうよ!」
香倶夜に急かされ、秘色、あやめ、リチャードは体育館に向かった。
そこでは、へたりこんでいる選手、眠っている選手達が無月、玲奈に解放されていた。
気がついた選手達の数人は、リチャードのもとに駆け寄り「小さなヒーロー君、助けてくれてありがとう」とお礼を述べ、そのうちの何人かは彼の頬にキスをした。
「モテモテだな‥‥悪ガキ‥‥」
「うるさい!」
暁恒にからかわれたリチャードが怒鳴ったが、言われた本人は無反応。
「お姉ちゃん達、今度の高校総体、優勝目指して頑張ってね。素敵な演技で皆を魅了させて。俺も応援するからさ」
「わしもおぬし達の見事な舞、楽しみにしておるぞえ」
微笑を浮かべ、楽しみにしていると付け加える秘色。
「ご無事で何よりです。高校総体でのご武運、お祈りします」
激励するあやめ。
「踊りは楽しいわよ♪ あなた達にも、楽しんで踊ってもらいたいわ」
楽しさを忘れないでほしいと願う亜希穂。
体力が回復した選手達は、能力者に自分達の演技を見てほしいと申し出た。
「まだ‥‥無理‥‥」
心配する無月に、新体操部部長は「もう大丈夫ですから」と安心させた。
「それじゃ‥‥見せてもらおうか‥‥おまえらの舞‥‥」
選手達の演技のテーマは『アメノウズメノミコトの舞』。
時には華麗、時にはダイナミックな選手な動きに能力者達は皆、魅了された。
バグアは暁恒によって新体操のロープで簀巻きにされ、体育館前で待機していたUPC山陰軍に連行された。
玖堂 暁恒、油断できない男である。