●リプレイ本文
●コウタを捜せ
UPC士官であるソウジ・軍部の依頼を引き受け、大規模ショッピングモールに集まった能力者は八名。彼らは、どのようにしてコウタを捜すか話し合っていた。
「一階をざっと見ただけでも、大規模な感じですね。これでは、私達だけで探すのはかなり無理がありますから、従業員の皆さんにも協力してもらいましょう‥‥とはいえ、それぞれのお仕事があるでしょうから、見つけたら保護して連絡を頂くというのはいかがでしょう?」
水上・未早(
ga0049)の案に、反対するものはいなかった。
「あと、事務所にお願いして各売り場、テナントなどに通達してもらうのもいいかもしれませんね」
「水上さんの案に、異論はございません。私の捜索方法ですが、子供の行きそうな場所を中心に捜索します。お客様や、従業員の方にも聞き込みをしても良さそうですね。あまり動き回っても発見できる保障はありませんし、入れ違いになる可能性もありますので、あまり多くの売り場を回らない様にします」
武器を持ってくる必要は無いのだが、何故か持ってきてしまった着物姿の鳴神 伊織(
ga0421)が穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「俺は白鴉(
ga1240)、宜しくな! 迷子探しか‥‥。キメラとの接触の心配はないとはいえ、大変そうだ。しっかり気を引き締めて、何としてもコウタ君を早く見つけなくちゃね! ということで、俺は色々な売り場を回ってみるね!」
元気に自己紹介をし、自分の行動を報告し終えた白鴉は、足での直接捜査にあたることに。
「俺は、屋上とかの高いところから捜してみるぜー!」
けけけけけー! とハイテンションに笑うのは、やる気マンマンのNAMELESS(
ga3204)。
(「コウタ君ってどんな子なんだろう‥‥? かっこいいかな? キサラとお友達になってくれるかな? きっと、かくれんぼしているんだろうな。キサラだったら、どこに隠れるだろう‥‥?」)
迷子捜し、というよりはかくれんぼを楽しむような感覚で参加したキサラ(
ga4147)。
「迷子さんですか‥‥他人事とは思えません。私もここへ初めて来た時、随分迷いましたから‥‥。あ、今は大丈夫です。このショッピングモールは巨大規模ですから、見取り図は必須ですね」
夏 炎西(
ga4178)は、ここに着くなり受付嬢に店内案内パンフレットを人数分受け取り、合流した仲間に手渡した。これが地図代わりになるので、コウタ捜しの必須アイテムとなるが、当然のことながら、スタッフルーム、倉庫等の関係者以外立ち入り禁止箇所は掲載されていない。
炎西は、自分はUPC本部からの依頼でここに来たと受付嬢に告げると、事情を察知したのか、従業員施設、倉庫等の位置を示した地図と、ソウジの姉から借りたコウタのデジカメ写真をプリントアウトした用紙を人数分手渡した。店内での通信手段は、ソウジ負担(代金後払い)による携帯電話で行うことに。
「では、行動開始としましょうか」
炎西の一言が合図となり、各自、コウタ捜しを行うことに。
●コウタは何処?
未早は、迷子センターの係員にショッピングモール内の迷子が、どのようにして迷子になったのかを確認しに行った。
「そうですねぇ。多くの子供は、親とはぐれたというケースは多いですが、中には、関係者以外立ち入り禁止の場所に迷い込んでしまうようなこともありました。子供の行動のパターンは決まっているようなものですから、この話が参考になるかどうかは‥‥」
ベテランと思われる中年女性の情報は、それだけでも十分な情報である。
「ありがとうございました。参考になりました」
関係者以外立ち入り禁止場所が記された地図を見ながら、未早はどこを捜そうか考えた。
伊織は、子供が行きそうな場所を中心に聞き込み捜索をしていた。
玩具売り場にはいない、とソウジが言っていたので、ゲームコーナーに向かい、順番待ちをしている子供達にコウタのことを訊ねた。
「紫のパーカーを着ていて、ワニのリュックサックを背負った鼻に絆創膏を貼った4歳くらいの男の子を見かけませんでしたか?」
コウタの画像を見せて聞くが、「知らなーい」とか「そういう子多いよ」等の答えしか返ってこなかった。
「似たような特徴の子がいるのですか‥‥困りますね」
あまり動き回っても発見できる保障はなく、仲間やコウタと入れ違いになる可能性もあるので、伊織は多くの売り場を回らないよう心がけた。
NAMELESSは、屋上に着くと辺りを一通り見回したが、コウタはいなかった。
「菓子屋かゲームセンターで、子供が寄り付きそうな何らかのイベントでもやんねぇかなー。そうすりゃ、子供が集まりそうなのに」
白鴉は、主に各売り場を横に置くような人通りの多い中央通路を中心に捜索し、売り場の中を外から覗きながら端から端までを地道に捜していた。
『お知らせします。13時から、一階中央広場にて『ホープマンショーと撮影会』を開催します』
疲れてきたなぁと思った頃、ヒーローの撮影会案内のアナウンスが。
ホープマンとは、バグアをモチーフにした地球制服を企む悪い宇宙人を倒し、地球の平和を守る子供に大人気のヒーローである。
「そこなら、大勢の大人や子供から聞き込みができる! 早速GO!」
案内図を確認しながら、白鴉は一階の中央広場にダッシュで向かった。
NAMELESSは、グッドタイミング! といわんばかりにハイテンションで笑いながら走って向かおうとしたが‥‥迷ってしまった。地図は確認しようね?
「俺が迷子になっちまったよー! けけけけけー!」
ママーあのお兄ちゃん怖いー! と泣き出す子供達がいた、いうのは言うまでも無い。
ショー開演1時間前であるにも関わらず、多くの親子連れが席を陣取り、その横には立ち見客が。白鴉は聞き込みの前に、コウタがいるかどうかを念入りにチェックするが、それらしき子はいなかった。
「そういや、腹減ったなぁ。入り口付近にファーストフード店があったっけ。そこで腹ごしらえしよう。コウタ君、そこにいるかもしれないし」
腹ごしらえのついでに店内を見回したが、コウタらしき子供は残念ながらいなかった。
●一旦休憩
白鴉は、ファーストフード店に集まるよう仲間に携帯で連絡した。一旦、互いの情報を報告しあうためである。
連絡を受けた未早、伊織、キサラ、炎西が辿りついたのは約15分後。それだけ、このショッピングモールが広いということである。
「迷子捜しですが、バグアやキメラを倒す依頼より手強いですね。子供が行きそうな場所を捜すとしても、こう広いのでは‥‥」
困り果てた表情の伊織。
「男の子ですから、迷子センターや託児所よりは、機械室の類の方に興味があるのではないでしょうか?」
未早の一言に「それあり得るかも!」と言う白鴉。
「そこを捜してみれば、コウタ君に会えるかも‥‥」
期待に胸躍らせるキサラ。
「未早さんの意見ですが、考えられなくも無いですね。私は、危険な場所を中心に捜すことにします。普段は施錠されているが人の出入りが無くはない、閉じ込めや転落など、事故の危険がある所が有力的でしょうか? 考えられるのは冷蔵・冷凍の食品倉庫、倉庫、機械室ですかね。コウタ君の名前を呼んで声を掛けつつ、くまなく見てきます」
では、失礼と軽く会釈し、炎西は一足先にコウタ捜しを再開した。
「や‥‥やっとで辿りついたぜー!」
それと入れ替わりにNAMELESSが合流。いつものハイテンションはどこへやら、半べそをかいている。
「NAMELESSさん、どうしたの‥‥?」
キサラが聞くと、彼は、自分を見て泣き出した子供を宥めようと飴玉をあげたり、あやしたりと色々試みたのだが、かえって泣かれてしまい、親に注意されたと語り始めた。子供好きなNAMELESSにとっては、ショックな出来事であった。
●個性的探索
ランドルフ・カーター(
ga3888)は、警備員に扮してコウタ捜しを行っていた。
本人曰く、公衆の面前ということを意識して。
関係者以外立ち入り禁止箇所がある地図を頼りに、ランドルフは警備室へと向かった。
(「バグアを警戒しているだけあって、警備員達の動きは隙がないですね」)
関心しつつ、警備員の様子を窺いながらもコウタのことを訊ねることに。
「何だ、おまえは?」
警備員責任者が、見慣れない顔だなと訝しげにランドルフを見るが、彼は臆することなくコウタの画像を見せた。
「私は、本日付けで雇われた新人であります。実は、UPC上層部のご子息がここで迷子になられたとの報告がありまして。これがその子供の写真です」
「そんな話聞いてないぞ? 誰から聞いた?」
「警備会社社長からです。皆さんにお伝えするようにと」
咄嗟の嘘で誤魔化せるかと冷や汗ものだったが、責任者は「そうか」と納得し、コウタの写真を見ると何か思い出したようだ。
「この子なら、さっき防犯カメラで見たぞ。地下の倉庫前にいたような‥‥」
情報入手できれば、即、行動!
「御協力、ありがとうございました!」
来るべき時のために、警備員達に私の名前を覚えてもらわねば! と目論みつつ、ランドルフは真面目な表情で敬礼し、警備室を立ち去った。
「新人にしてはやる気があるな。感心、感心」
責任者は、最後まで彼を新人警備員だと思いこんでいた。能力者と知ったら、どのような反応をするだろうか?
店内案内パンフレットで地下倉庫の位置を確認するが、警備員室からかなり離れている。これは移動に手間取りそうですねとぼやきながらも、ランドルフは中央広場に向かった。
その頃、烏莉(
ga3160)は単独で関係者以外立ち入り禁止箇所を探索中。
まず立ち寄ったのはスタッフルーム。ドアをそっと開けて中を覗くと、そこには昼食を摂っている従業員しかいなかった。
子供が無断で立ち入ろうものなら、追い返されるか、迷子センターに預けに行くかするだろう。
当てがはずれたと思った烏莉は、別の場所を探すことにした。
ランドルフが地下倉庫に辿りつくと同時に、タイミングを合わせたかのように烏莉と炎西が合流。
「ランドルフさん、何故警備員の格好を?」
「警備室に進入するためです。そこで得た情報だと、コウタ君をここで見たとのことですが‥‥いないようですね。烏莉さん、他の場所で見かけませんでしたか?」
首を横に振る烏莉。
「私も、危険性を考えここから捜そうと思ったですが‥‥空振りでしたか」
項垂れる炎西。
「仕方がありません、他の倉庫も捜してみるとしましょう。ランドルフさん、どちらへ?」
「本屋に行ってみようと。コウタ君がそこにいるかと思いましてね。そこで絵本を読んでいるかもしれないでしょう?」
そうかもしれませんね、と納得する炎西。
「では、私はこれで」
ランドルフが本屋に向かうと、烏莉は無言で別倉庫へ。
●コウタ発見!
ホープマンショー開催10分前。中央広場特設ステージには大勢の人だかりが。
「うひゃ〜、さっきより人が多いじゃん! この中からコウタ君捜すの苦労しそうだ」
唖然となる白鴉。
「男の子なら、ヒーローショーにも興味を持つでしょうね。とりあえず、この人混みを手分けして捜してみましょう。コウタ君らしき子を見つけたら、携帯で連絡を取り合うということで」
未早の提案に頷く伊織、白鴉、キサラ。
「わかりました。私は、コウタ君を見つけたら受付に連絡して、ご両親に来てもらうよう連絡します」
伊織は、ソウジの姉を一刻も早く安心させたいと思っている。
「NAMELESSさんは‥‥?」
「屋上で頭を冷やしてくるってさ」
あの人、子供に嫌われたことが相当ショックだったんだろうな‥‥と同情する白鴉であった。
ヒーローショー開催中の間、その場にいた能力者達はコウタを捜したが、それらしき少年は見当たらなかった。
「何でこんなに広いんだろう‥‥? キサラ、疲れてきちゃった‥‥」
10歳の少女には、この広さは相当堪えただろう。
そうこうしているうちにショーが終わり、撮影会が始まった。
ステージに真っ先に上がったのは‥‥見覚えのある4、5歳くらいの少年だった。
「ボク、お名前は?」
司会のお姉さんが少年に名前を聞くと「コウタ!」と名乗った。
『コウタ君!!』
能力者達は、一斉にステージに駆け寄った。
「良かった、無事だったんですね!」
コウタを抱き締める未早。
「無事見つかりましたね。早速、ご両親に伝えましょう」
携帯で受付に連絡し、両親に中央広場に来るよう伝える伊織。
「コウタ君、あっちにはホープマンよりすっごーい力を持った人たちが待ってるぞ。みんな強い人達だから会ってみない?」
俺達のことだけどな、と内心舌を出して言う白鴉。
ステージ前でへたりこんでいたキサラは、やっとでコウタ君に会えたと一安心。
「他の皆さんにも連絡しないと」
未早は、他の能力者にコウタ発見の報告を。
「そうですか、無事でしたか。それを聞いて安心しました。私も、すぐそこに向かいます」
コウタが無事見つかったことを聞き、胸を撫で下ろす炎西は皆がいる中央広場に向かった。それと同時に、二階倉庫前に向かっている烏莉も一階へ。
NAMELESSは、携帯に出る元気すら無いほど落ち込んでいた。
ランドルフは、本屋捜索中、新作を立ち読みしたい誘惑に負けていた。携帯が鳴っていたが、立ち読みに夢中で出なかった。
●両親とご対面
受付で待機していたコウタの両親は、急いで一階中央広場に駆けつけた。
「コウタ!」
無事見つかったコウタをぎゅっと抱き締め、一目をはばからず無く母親。
父親は、皆さん、ありがとうございましたとペコペコ頭を下げまくっていた。
「皆さん、本当にありがとうございました。ほんの少しですが‥‥」
父親は、人数分の封筒を差し出し、能力者ひとりひとりに手渡した。
「そんなことをなさらなくても宜しいのですが‥‥」
「私達は、当たり前のことをしただけですから」
受け取るのを躊躇う伊織と未早。
「折角だから受け取りましょう。ご両親の気持ちを無碍にするわけにもいかないでしょう」
炎西に説得され、受け取ることにした能力者達。
「コウター!!」
もうひとり、駆けつけた人物が。コウタのことが気になり、本部を抜け出したソウジだった。
「良かった、無事だったんだな!」
そう言うソウジに、コウタが一言。
「おじちゃん、だぁれ?」
「‥‥!!」
ソウジがコウタに最近会ったのは、コウタがまだ物心つく以前の頃なので、覚えていないのは当然だ。
「何はともあれ、無事コウタが見つかったんだ。皆、良く頑張ってくれた。ありがとう! じゃ、俺は用があるから」
ソウジが向かった先は、入り口付近にある携帯ショップ。能力者達に手渡した携帯料金を払いに行ったのだ。
その後、能力者一同はソウジからも謝礼金を受け取った。