タイトル:元傭兵専業主夫のお願いマスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/28 04:18

●オープニング本文


 赤ん坊を抱き、フリルのエプロンをつけた男性がULTに依頼要請をした。
「こ、このような恥ずかしい姿で申し訳ないのですが、能力者の皆様に依頼をお願いしたいのです。私は、ごらんの通り、専業主夫をしているトムといいます。お願いします! 飛び出していった私の妻のレミーを連れ戻してください!」
 どういうことですか!?

「私達は、夫婦揃って傭兵でした。レミーは、息子が生まれてからはしばらくは母親としてちゃんと面倒を見ていたのですが‥‥息子の乳離れをきっかけに、傭兵稼業を再開しました。最初は妻の両親も家事・育児に協力してくれたのですが「子供のことを真面目に考えろ!」と呆れ果てて怒鳴った義父は、その日以来、我が家に寄り付かなくなりました。義母はそれでもしばらくは来てくださいましたが、義父同様、愛想を尽かしてこなくなりました‥‥。その後、私は傭兵を辞め、主夫となったのです‥‥」
 堪えきれず、泣き出してしまったトムとその息子。

「お願いします! 妻を説得してください! 今、妻はアラスカに熊退治に行っています!」

 こういう依頼もあるんですね‥‥と、ULTオペレーターのシェリル・クレメンスは先輩であるリネーア・ベリィリンドに相談した。
「こういう依頼を引き受けるのも能力者の仕事よ。頑張って状況説明しなさい、シェリル」
「はいっ!」
 憧れのリネーアに励まされ、やる気を出したシェリルであった。

●参加者一覧

五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
鷺宮・涼香(ga8192
20歳・♀・DF
鴉(gb0616
22歳・♂・PN

●リプレイ本文

●男性側の意見
「妻であり、母親が能力者としてキメラを倒して回り、夫が家で子供の面倒を見る‥‥か。今の世の中、父親の育児参加も声高に叫ばれているとはいえ、依頼人のトムさんは苦労するな。レミーさんは、話を聞いたところでは気性の激しい女性と見たが」
 木場・純平(ga3277)はULTオペレーター、シェリル・クレメンスが用意してくれた資料と家族写真を見比べながらトムを同情した。
「強そうな‥‥奥さん‥‥。頼りがい‥‥ありそうだけど‥‥今は‥‥ちょっと‥‥行き過ぎ‥‥? 家族を愛してるのは‥‥俺にも分かる‥‥。見てて羨ましい‥‥。だからこそ‥‥レミーさんにはもっと‥‥家族のことを‥‥見て欲しい‥‥な‥‥」
 幡多野 克(ga0444)も写真を見て、レミーには家族を大切にしてほしいと思った。
「女性は家庭に守るべき! なんて古い論を掲げるつもりは無いけど、小さな子供にはお母さんって存在は大切であり、すべてだからなぁ」
 新条 拓那(ga1294)は、母親の重要性をレミーに知ってほしいことを重点的に説得しようと考えた。
 そのためには依頼人であるトムの切実な訴えを知ってもらわなければならないので、シェリルに頼んでトムに家庭困窮振りを具体的にまとめた書類にして提出するよう要請し、それを材料にして説得するつもりだ。頼んだ書類は、今は拓那の手元にある。
「依頼人である旦那さんも大変そうですし、家族は一緒がいいもんですからね」
 数年前に家族が消息を絶ったという過去を持つ鴉(gb0616)は、誰よりも家族の大切さを知っている。

●女性側の意見
「お母さんには、やっぱり子供の傍にいてほしいな‥‥。傭兵としての仕事も大切だけど‥‥家族に心配かけちゃうのはダメだよね‥‥? お子さん‥‥まだ小さいから寂しがってると思う‥‥。大切な人には‥‥傍にいてほしい‥‥ですよね」
 五十嵐 薙(ga0322)はまだ赤ん坊の息子のことを考え、レミーには『母親』でいてほしいと願っている。
「ほむ、家族はやっぱりいつも一緒がいいです♪」
 赤霧・連(ga0668)は、家族一緒が何よりの幸福だと思っている。
「ご家庭の事情は色々ですが‥‥トムさんのお宅はかなり大変そうですね。妻であり、母である女性が傭兵ですか。いずれは自分も通るかもしれない道なので、色々考えさせられますね」
 レーゲン・シュナイダー(ga4458)が言うように、レミーの現状は女性能力者なら誰しも避けて通れない問題である。
「大人と子供、両方の視点で自分なりにいろいろ考えました。これは他人事ではありません。私は、旦那様と坊やの写真をレミーさんに見せて説得します」
 職業柄、厳格で多忙だった父とほぼ別居状態で育った鷺宮・涼香(ga8192)は、誰よりもレミーに家族をもっと大事にしてほしかった。

「レミーさんに会いにアラスカに行きましょう。キメラ戦を早く終わらせ、説得の時間を稼ぐのです!」
 連が言うとおり、キメラ戦を早期解決しなければレミーを説得できない。

 話し合っているうちに、高速艇はアラスカ付近に辿り着いた。

●戦う母親傭兵
 能力者がアラスカに辿り着き川沿いの道を歩いていたところ、河原で熊と格闘している女性を発見した。着用している迷彩服に刺繍してある『H&S LOVE(Husband&Son LOVEの略)』の文字を見て、彼女がレミーとすぐ分かった能力者達は急いで駆けつけた。
 キメラは獰猛なグリズリー一体のみ。獰猛さは、普通のグリズリーより増していると思われる。
「やるじゃない、熊のくせに! でもね、私は負けるわけにはいかないの、愛する夫と可愛い息子のためにも!」
 両腕に装備している『ゼロ』で孤軍奮闘するレミーとキメラの間に割り込んだのは、戦闘状況を確認次第『瞬天速』で戦闘現場にいち早く到達した拓那だった。
「あなたがレミーさんですね? ちょっとお邪魔します。俺は怪しいモノじゃありません。通りすがりの傭兵です」
 怪しまれないようにニッコリ笑う拓那だったが、グリズリーが邪魔しようとしたところに克が前衛に出て、キメラの相手をすることに。
 グリズリーを牽制しつつレミーの状況を確認した拓那が、彼女が右腕を負傷していることに気づいたので『救急セット』を持っている仲間に早く手当てをするよう頼んだ。
「あたしがします‥‥。レミーさん‥‥こっちへ‥‥」
 薙と涼香が駆けつけ、レミーをグリズリーから遠ざけた。
「俺達が頼れるところ、見ていてください!」
 説得の布石となるよう、拓那は張り切った。

 覚醒した鴉は、レミーを戦線から下げようとする薙と涼香を守りつつ、グリズリーの気を逸らそうと『スコーピオン』で攻撃しつつ行動しているが、弱いから気乗りしない、というのは秘密。
「奥さん、ここは一旦、俺達に任せてもらえません? 旦那さん、奥さんのコト心配してましたよ、とてもね」
「トムが‥‥?」
 旦那さんが心配している、という一言にレミーは動揺したが、すぐ下がった。

「早めに戦闘を終結させましょうね」
 連はグリズリーの足止めをし、前衛の見せ場を作る役目を担っている。
「息継ぎの出来ないような連続攻撃を魅せますよ? ほむ、道を切り開きます!」
 長弓「クロネリア」から『即射』『二連射』『影撃ち』の連続攻撃を繰り出し、クリズリーが動く隙を奪う。
「全力で行きますよ! さっさと済ませて、レミーさんを説得するのです!」

 仲間の治療と後方支援に徹することにしたレーゲンは、先行組のグラップラー3人に『練成強化』を施した。
「さぁ、行っておいで! 怪我するンじゃないよ!」
「ありがとう。それじゃ、行くか!」
 純平はグラップラーの高機動力を利用し、先行してキメラに接近。
 爪や噛み付き、体当たりを警戒しつつ、なるべくグリズリーの正面に立たないように注意しながら仲間のサポートとなるよう、レスリングの低空タックルからグリズリーの脚を絡めとリ下半身の自由を奪った。爪を使って攻撃してくることを警戒し、身を低くして爪の死角となる位置へ身を潜めることに。
「今のうちにコイツを倒せ!」
 動きを封じることに成功した純平は、仲間に攻撃するよう命じた。

●反撃開始!
「あなた達、どうしてここに?」
「ご主人に‥‥頼まれて来ました‥‥」
 レミーの手当てをしながら、ここに来た事情を話す薙と涼香。
 涼香は、着物の懐からトムと息子が写っている写真を見せながら話し始めた。
「坊やですけど、レミーさんが最後に見た時と明らかに表情が違うはずだと私は思います。これには、あなたに抱っこされて笑っている坊やが写っています。日々変わりつつある子供の成長を見届けることも、傭兵と同じくらい大切なお仕事だと思います。これは、母親のレミーさんと父親のトムさんにしかできないことなんですよ? 傭兵の仕事より、子供の成長を見届けることのほうが大切ではないでしょうか?」
 家族との思い出を大切にしてほしいと願う涼香は自分の思いをすべて話したが、レミーは薙に傷の手当ての礼を言うと黙り込んでしまった。どうすべきか悩んでいるのだろうか?
「薙さん、純平さんがグリズリーの動きを封じることに成功したようです。私達も攻撃しましょう!」
 それを確認した薙は覚醒すると『夕凪』と『イアリス』を構えた。
「レミーさん、ここで私達の戦いを見ていてください。それ以上怪我を悪化させるとトムさんが心配しますから」
 そう言い残し、薙はグリズリーに向かって駆け出した。涼香も覚醒を終えると、薙の後を追った。
 アイコンタクトでタイミングを合わせた二人は同時に駆け出し、グリズリーの後ろに回り込み『ソニックブーム』を同時に放った。
「さぁ、暴れてないで静かにして頂戴!」
「レミーさんのためにも負けられませんっ!」
 女の意地にかけても、レミーを守ろうとする薙と涼香だった。
 克はその間、援護射撃を行いながら『急所突き』で弱点を狙い撃ち。
 全員で一気に決着をつけようとしたその時、純平の力が尽きはじめたのかグリズリーが暴れ始め、純平のスーツを爪で引っ掛けると遠くへ放り投げた。
「‥‥っ!」
 覚醒しているとはいえ、河原の石に思い切り叩きつけられるのはものすごく痛い。
 駆けつけたレーゲンは、急いで『練成治療』で純平を回復。
「これで良し、と。さぁ、傷の礼をしておやり!」
「恩に着る。この借りは倍返しだ」
 ポキポキと指を鳴らし、体を軽く動かした後、純平は仲間と合流した。

「くっ‥‥! お‥‥重い‥‥!」
 その間、克はバックラーでグリズリーの重い攻撃を受け止めていた。
「もう少しそのままでいとくれ!」
 克が踏ん張っている間に『練成弱体』をグリズリーにかけ『小銃S−01』に持ち替えたレーゲンが、足元を狙って牽制攻撃。
 今がチャンス! と言わんばかりに、能力者達は一斉攻撃をしかけた。
 薙と涼香の息が合った連携攻撃、連が放つ一矢、拓那の『ツーハンドソード』、純平の『ナイフ』、鴉の『蛇剋』による斬撃を一度に喰らったことでグリズリーは倒れた。

 グリズリー退治:成功!

●レミーが選んだ道
 グリズリー退治が終わったので、次は説得。これが終わらなければ、依頼は終了したとは言えない。
 最初に説得を始めた克は、レミーの説得もトムが要請した依頼のひとつであることを正直に伝えた。彼としては、傭兵を辞めるといかないまでも、もう少しトムを手伝ってもらえたらと思っている。
 説教は自分の柄ではないが、思っている事を伝え始めた。
「俺は‥‥母親は家にいるべき‥‥とは思わない‥‥。父親が‥‥十分に愛情を‥‥かけてあげられるのなら‥‥ね‥‥。けど‥‥今の旦那さんは‥‥疲弊してる‥‥。愛情を注げる‥‥状態じゃ‥‥ない‥‥。このままだと‥‥旦那さんも‥‥息子さんも‥‥良い方向には‥‥行けない‥‥。子育ては‥‥夫婦の共同作業‥‥だと思う‥‥。片方に押し付けるのは‥‥違う‥‥。傭兵が戦闘で‥‥互いにフォローしあうのと‥‥同じだよ‥‥。レミーさんは‥‥仲間が傷ついたら‥‥助けるよね‥‥? 旦那さんを‥‥もう一度‥‥良く見てあげて‥‥」
 せめて、息子がもう少し大きくなるまでは母親でいてくれたら嬉しいと締めくくり、克の説得は終了。
「旦那さんですが、誰にも頼れず、一人で家事と育児ををするのは大変なことです。身体も、心も、疲れ果てちゃいます。それに‥‥お花は、お水だけでは元気に育ちません。日光がなくてもお花は育つけれど、元気に綺麗に咲いてもらうには、お水も日光も両方必要なんです。少しだけ傭兵をお休みして、お子さんの『お母さん』でいてあげることは出来ませんか? 旦那さんには休息を、お子さんにはお日様の光のような愛情をたくさん注いであげてほしいです」
 レーゲンは、愛する家族のために、戦うことを少しだけ我慢してもらえないかと頭を下げて頼んだ。

「私も‥‥主婦に専念してほしい‥‥。傭兵としての仕事に誇りを持っているようなので‥‥辞めるのは辛いはず‥‥。レグさんも言ってましたけど‥‥お子さんがある程度大きくなるまで‥‥育児休暇としてしばらく傭兵業を休んでみませんか‥‥? 旦那さんも‥‥お子さんも‥‥あなたが傍にいないのは大変だし、寂しい‥‥。愛しているからこそ‥‥傍にいてあげてほしい‥‥」
 傭兵を続けたいのなら、一ヶ月に一度だけと言うのはどうですか? と意見を述べる薙。それは夫婦、特に夫であるトムの了承を得てからになるが。
「今の内に‥‥家族の時間‥‥大切に過ごしましょう? 時間は限りあるもの‥‥だから、大切な人との時間は‥‥これからも、ずっと‥‥大事にしてほしい、です」

「俺は傭兵は避けて、もう少し家族と一緒にいてほしいと思う。家事や子育ては分担制にしても良いし、子供をある程度まで育てるとか。でも、家族と過ごす時間をとってくださいね。少しの間でも、家族は近くにいても悪くないですよ?」
 軽く話す鴉だったが、本当は近くで一緒にいてほしいと思っている。
 彼の場合は違う仕事だったが、依頼で遠くに行っているうちに家族は行方知れずに。
 傭兵稼業を続けると言うのであれば、危険な任務につくのは阻止したいとも考えている。
 傭兵を続けるとしたら、危険の少ないもの、頻度を抑える、仲間のいるものを選ぶようにしたらどうかと提案した。
「どーぞ命と家族は大切に、という方針です。あなたと旦那さんのご両親とちゃんと話すことを薦めます。腹割って話すと、理解も深まりますからね」

 トムの希望を叶えるためにも、レミーには家庭を選んでもらいたいと思う純平は、彼女が直情的な女性なら、キメラ退治と違った意味で育児や家庭もやり甲斐のあるものだと思わせられればと考えて説得した。
「夫と共に子供を立派に育てあげることは、キメラ退治のような達成感を得られるものではないが、それよりずっと大変で、尊い戦いだ。人それぞれ領分があり、能力者には能力者の戦いがあるが、母親には母親としての戦いがあるだろう。自分のなすべきことを放棄するべきじゃないな」
 レミーは、純平の考えを察することができるだろうか。

「代わりの傭兵はいますけど、お子さんを育てるのは母親であるあなたしかできないんです。だから、しばらくは育児に旦那さんと専念してもらえませんか?」
 拓那は覚醒を解き、レミーに『母親としての道を選ぶ』方向で説得した。
「その迷彩服の刺繍、誰が?」
「私よ。夫と息子をキメラから守るという誓いを立てた時、心を込めて縫ったの。その行動が、かえってトムを苦しめていたなんて‥‥」
 我慢しきれなくなったのか、レミーは涙を流し始めた。

「お子さん、可愛いですネ♪」
 写真を見せながら言う連だが、レミーが傭兵を続ける=当たり前、ということは望んではいない。
 それは、愛するわが子が初めてはいはいした場にいないこと、初めて言葉を喋ったその場にいないこと、成長し、初めて逆上がりができた場にいないことになる。
 レミーが二度とこない時を放棄するのなら、連は傭兵を続けることを止めないと決意した。
 傭兵は平穏を捨て、その身一つで戦場に立つ。
 平和を望むからこそ、己を顧みない。それ故、いつも孤独だ。
 傭兵は『死』と隣り合わせの職業だからだ。
「レミーさん、お子さんの未来を守るためにご一緒に歩みますか?」
 連はすべての考えを隠し、笑って手を差し伸べた。レミーが手を拒むことを切に願って。
 手を差し伸べるかと思われたが、レミーは払い退けた。
「やっぱり、家族はいつも一緒がいいです! ね?」
「そうですね。先のことだけど、私がお母さんになる頃には平和な世の中になってるかな? ううん、するの。傭兵と母親と‥‥なんて、悩む必要のない世界に」

 私もそうしないとね‥‥と涙を拭うレミーが悩んで末選んだのは、母親として息子の未来を守るという『母親の道』だった。