●リプレイ本文
●正門にて
申 永一が全速力で走って出雲大社に向かっている頃、先に到着した能力者達は正門前に集まっていた。
「同国の研究者が頑張ってるんだもんな。以前の依頼には間に合わなかったが、今回は力になりたいもんだ」
サブマシンガンを構えながら待機する崔 南斗(
ga4407)は、永一の依頼を引き受けたのにはそういう理由があった。
「銅鐸の件では謎が多く残されたようなので、少しでも真実に近づきたく馳せ参じました。日本の中でも有数のお社である出雲大社に害をなすキメラを殲滅し、ここをお守りしなければなりません」
以前、永一が関わった銅鐸発掘現場に出没したキメラ退治に参戦した木花咲耶(
ga5139)は、八百万の神々が集う出雲大社を守る覚悟で参加。
シーヴ・フェルセン(
ga5638)は、銅鐸依頼に関わった兄が別件依頼に関わることになったので、その代理として参加。大概のことは兄から聞いているので、件の依頼に関しては説明しなくても良いだろう。
「狙ってた『ドウタク』盗っていきやがったのに、まだ出雲に用がありやがるですか。出雲大社を狙う火兎‥‥炎上、破壊目的? あそこは他の神社と違ぇと、大兄様が言ってやがったです」
シーヴの兄が言っている他の神社との違いは、出雲大社の注連縄の締め方が普通神社と異なり、左から綯い始めるものが多い点のことである。
(「出雲大社の注連縄は、内の何かを外に出さない締め方となっているとか。その『何か』を解放する事が目的でやがる‥‥とか?」)
自分には詳しい事は分からないが、兄に代わってキメラの侵入はさせないと銃を構えるシーヴ。
アキト=柿崎(
ga7330)も銅鐸依頼に関わった1人として、あれ以降どうなってるのか気になり参加。
「今度は『因幡の白兎』ですか‥‥。とはいえ、白くはないですがね〜」
苦笑しながら、今回は何が目的なのかを考えた。
因幡の白兎だが、神話では最初と最後は白だが、途中で赤くなる。
「なんちゅーんスか? コクホーっつーの? やっぱ、日本人としちゃ守んなきゃいけないっしょ! うはっ! 俺マジパネェ!!」
金髪少年植松・カルマ(
ga8288)も、出雲大社を守るという名目でキメラ退治をしにきたのだろうか。
「何でキメラが出雲大社なんかに‥‥? いや、今は考える時じゃない、戦う時だ」
キメラが出雲大社を襲撃する理由が気になるが、素早く気分を戦闘モードに切り替える狭間 久志(
ga9021)。
「新米の自分が、どれだけ役に立てるかわからないけど頑張ろう」
戦闘系依頼はこれが初めてなねいと(
ga9396)は、若干緊張している。
「僕は守るより、壊すほうが大好きなのですがね〜。兎を殺れるなんて楽しみだね〜」
戦闘に身を投じ、手を血で濡らすことが何よりの喜びと感じる使人風棄(
ga9514)は嬉しそうにククッ‥‥と笑う。
(「誰が仲間だろうが関係ない‥‥好きにやらせてもらうね〜」)
烏莉(
ga3160)は、待機している仲間から少し離れたところで静かに佇み瞑想中。
●防衛作戦
巫女である咲耶が出雲大社の見取り図を広げると、彼女を中心に防衛作戦が開始された。
「現在わたくし達がいるのは正門鳥居前です。入ってすぐの勢留で偵察をし、ふたつめの鳥居の先にある松の参道から他ルートへの行動阻害をして誘導しましょう」
能力者達がいる正面鳥居から、拝殿前にある銅鳥居まではかなり離れているが、今回のキメラは素早いので隙あらば入り込んでしまうだろう。
「配置は『勢溜前』『松の参道』『銅鳥居前』の三箇所に分かれたほうが宜しいかと。咲耶殿、いかがでしょう?」
櫻小路・あやめ(
ga8899)の案に「名案ですね」と答える咲耶。
「俺は周辺住民の避難誘導や参拝客、大社関係者等の一般人を迅速に避難させる。念のため、駐車場の車も現場から遠くへ移動させるよう指示しよう」
南斗が言うように、出雲大社防衛もだが一般人の安全も考えなければならない。
話し合いの結果、配置は以下のとおりに。
勢溜前:シーヴ、あやめ、久志
松の参道:南斗、咲耶、アキト、ねいと
銅鳥居前:烏莉、カルマ
風棄は単独行動のため除外。
作戦開始というところで永一が合流。全速力で走ってきたものの、息はさほど切れていないようだ。
「待たせてすまない。皆、依頼内容はわかっているだろうな?」
「もちろんですわ、永一様。少しお休みになってはいかがですか?」
「永一は体力回復しやがるです」
咲耶とシーヴの説得に「そうするか‥‥」と素直に従う永一。
「おまえが申 永一か。俺は崔 南斗。同国者ということで参加した。宜しく頼む」
同国というが南斗は釜山出身、永一は首都出身である。
「永サマ来たんだしーウサギちゃん狩りといくッス!」
「永サマ!?」
クールな永一は面食らったが、すぐ表情を戻してキメラが接近していることを告げた。
「永一さんでしたっけ〜? 今日は楽しみましょうね〜ふふ‥‥」
凶笑を浮かべる風棄を見て「きみは鬼か」と皮肉る永一。
こうして、キメラ『イナバノシロウサギ』殲滅作戦実行された。
●第一関門
「早く逃げろ! キメラがこっちに向かっているぞ!」
大声でキメラ接近を告げ、参拝客をを迅速に避難させる南斗。
「キメラが来るって本当かい?」
参拝客の質問に「嘘だったら能力者がここに来るか」と答えた。
その後、駐車場に向かい観光バス、タクシーの運転手にキメラ接近を告げ早く離れろと忠告。
「こちら南斗、参拝客避難誘導終了」
「了解でやがる」
連絡を受けたシーヴは、これで安心して戦えるでやがるとひとりごちた。
あやめと久志は、武器を構えていつでもキメラ退治できるよう準備。
「キメラが来ました!」
双眼鏡で様子を窺っていたあやめが、キメラ接近を報告。
「久志です‥‥。アキトさん、カルマさん‥‥キメラが正門付近に来ました。戦闘準備してください‥‥」
「いよいよウサギちゃん狩りッスね! ウサギ狩りは貴族の嗜み‥‥キツネでしたっけか?」
胸躍らせるカルマに対し、烏莉は鳥居によりかかりながら瞑想中。
「キメラがくるでやがるから、落ち着いて避難しやがるです!」
担当区域である勢溜にいる参拝客達に等に避難するよう、声をかけるシーヴ達。
あやめはパニックを起こしかけている小柄な老人に「私達がいますから大丈夫です」と安心させると背負って避難させた。
「こちらシーヴ、キメラが勢溜にきやがったです」
松の参道、銅鳥居班へ無線連絡し、シーヴは戦闘体勢に入るよう指示すると東西へ散らさず、参道を真っ直ぐ北上するように誘導攻撃する。特に西の大駐車場へは、大規模火災防止のためにも絶対に向かわせてはならない。
「こっちは通行止めでありやがるです。参拝は参道まっすぐ行きやがれです。じゃなかったら‥‥」
小銃S−01射程に入ったイナバノシロウサギに狙いを定めると
「逝きやがれ」
躊躇うことなく発砲。
キメラの行動阻害重視派の久志だが、確実に仕留められる好機があれば『流し斬り』を使い、頭数を減らすことを念頭に置きながら攻撃を試みたが、残念ながら外れた。
「すばしっこいのは承知してるけど‥‥僕も早さには自信があるんだ‥‥!」
覚醒すると、自身から噴出す蒼紫の陽炎と自身の速度を利用した残像を利用し、イナバノシロウサギの炎弾の火球攻撃の照準を自身へ引き付けた。
「‥‥残念、それは残像‥‥。僕はこっちだ!」
隙をついて背後に回りこんだ久志は、氷雨と刀で交互に攻撃し、イナバノシロウサギを退治。
永一と共に松の参道に向かうあやめ。
「イナバノシロウサギ出現と同時に、稲佐の浜にワニザメが出現したそうです。何か『国譲り』の伝承に準えている様な感じがするのですが気のせいでしょうか?」
「気のせいではないだろう、俺も同感だ」
留学生とはいえ専門家である永一がそう思うのであれば、推測は間違っていなかったと思いながらあやめは突進してきたイナバノシロウサギの動き次第で行動。
参道方向へ進むモノは無理に手出しせず、参道から逸れようとしたモノはそちらに向かうよう仕向けた。
「覚悟!」
素早いので、あやめは水属性付与のアサルトクローで1体を仕留めるのがやっとだった。
「残りを何としてでも倒すぞ!」
「はい!」
2人が松の参道前に近づきつつある頃、祓橋でイナバノシロウサギと会った風棄は覚醒すると『瞬天速』で間合いを詰め「楽しめるね〜」と凶笑を浮かべた。
「ふふ‥‥綺麗に壊してあげますよ、兎さん」
イナバノシロウサギを捕らえると情け容赦無く祓橋に叩きつけた。
「兎も哭くのですね〜悪くないですよ〜」
弱ったのを見計らうと放り投げるた風棄は、刀で首を刎ねた。首と胴体を手にするとゴミ投げ捨てるかのように川に放り投げ。
残り、あと5体。
●第二関門
久志から無線機でイナバノシロウサギ6体松の参道に向かっていることを聞いたアキトは、南斗、咲耶、ねいとに「いつでも戦えますか?」と尋ねた。
言われるまでもなく、全員戦闘準備OK。
「あなた達、塩風にあたり過ぎですわよ。黄泉へお帰りなさい! ここはあなた達が来る所ではありません。汚らわしい!」
深紅に染まった爪をした手は、アラスカ454をしっかりと持っている。
「お待たせしました」
あやめが合流すると同時に、咲耶は一斉射撃した後に武器を氷雨に持ち替えた。その間、1体退治成功。
「裸兎、川で身体を洗って蒲の穂綿をつけてこい!」
南斗の台詞は、『因幡の白兎』で皮を剥がれた白兎が末弟に教わった元の姿に戻る方法だ。末弟『大黒』=出雲大社の祭神である。
「ここで止める!」
動きが素早いため、確実に仕留めるには『隠密潜行』で気配を消して迎え撃たなければならない。
水属性のサブマシンガンを構えると『影撃ち』でイナバノシロウサギ1体狙撃。
後方にいるイナバノシロウサギは、命中の高い洋弓「リセル」に持ち替え『強弾撃』で援護したが、残念ながら全弾外れた。
遅れて合流した永一に会った南斗は、彼に「バグアは何が狙いなんだ?」と尋ねるが、永一は「皆目検討つかん」と答えた。
近接戦闘になったアキトは、炎対策はジャージをミネラルウォーターで濡らして対応。これで、幾分か炎弾、体当たりによるダメージが軽減される。
「この程度で炎を防げれば良いのですが‥‥」
「大丈夫‥‥かも‥‥?」
参拝客、松の参道に被害が出ないよう、ねいとはキメラの注意を引きながらアキトに声をかけた。
2人は銅鳥居を背にし、アキトは菖蒲で、ねいとは刀でイナバノシロウサギを連携プレイで倒した。
「火災が起きないよう、気を付けなければいけませんね‥‥」
「本物のウサギは可愛くて好きなんですが」
こいつはね‥‥と肩を竦めるねいと。
「俺は銅鳥居に向かう。皆、後は頼んだ!」
松の参道にいる能力者に護衛を任せ、永一は銅鳥居に向かった。
残り、あと2体。
銅鳥居付近では、先回りしていた風棄がイナバノシロウサギを待ち構えていた。
炎を纏いながら突進するイナバノシロウサギを避けるとファングで胴体を貫くと、地面に叩きつけたりファングで殴り飛ばしたりして攻撃、いや、弄んでいる。
「おやおや〜もう終わりですか〜、ちょっと欲求不満ですね〜」
まだ血が足りないですね〜と残念がる風棄の顔や服は、イナバノシロウサギの返り血で汚れていた。
残り、あと1体。
●最終関門
無線機でイナバノシロウサギ2体が銅鳥居に向かっていると連絡を受けたカルマは、倒す気マンマンでイアリスを構える。
「狡兎死して走狗煮らるる‥‥ってか? 意味知らねーッスけど」
意味は『「ずる賢い兎が死んでしまえば、走狗(猟犬)は煮られて食べられてる」、転じて「目的を達成すれば不要となった人間は殺される」』なのだが、カルマ流にたとえると『ヤバイ奴とはおさらばッス!』である。
「来たか‥‥」
風の流れや空気の変化を感じた烏莉は、愛銃S−01腰のホルスターから抜き、呼吸を整え戦闘態勢に入った。
イナバノシロウサギが射程範囲に入ったので一発づつ確実に落ち着いて撃つが、素早く移動したため銅鳥居を打ち抜くことになる。
「そこだ‥‥」
冷静に狙いを定めた烏莉は、イナバノシロウサギの首元めがけて狙撃。
見事にヒットしたので依頼成功したと見なした彼が、カルマや他の仲間に別れを告げず次の場所に向かった。
「まだ倒れてないッスよ! 俺がとどめを刺すっきゃないか!」
刀が光って唸って大騒ぎな状態で『流し斬り』『両断剣』を併用してイナバノシロウサギにとどめかと思いきや、瀕死状態でありながらも素早い動きで避けた。
「チャカ(フォルトゥナ・マヨールー)ならどーよ!」
バンバン狙い撃った甲斐あり、イナバノシロウサギ退治に成功。
「俺のカッコよさに皆俺に血眼になっちまうッスよね!!」
倒した喜びをそういうふうに表現するのは、いかにもカルマらしい。
「ん‥‥? たしか、全部で10体だって聞いたッスけど、数が足りないような‥‥」
首をかしげて、何故帳尻が合わないのかを考えるカルマの疑問に答えたのは銅鳥居に辿り着いた永一だった。
「ここに来る前、きみの仲間が1体倒すのを見た。キメラとはいえ、快楽で倒すとは虐殺行為としか思えない。勢溜から松の参道に向かう能力者が、祓橋にキメラの血らしきものが付着していると連絡があった。そこでもキメラを嬲り殺しにしたのだろう。能力者の風上にもおけん奴だ‥‥!」
ギリッと奥歯を噛み締め、怒りを堪える永一。
「永サマ、怒るとイケメンが台無しッスよ?」
「その呼び方はやめろ!!」
カルマの余計な一言が、永一の怒りを爆発させたようで。
キメラを虐殺した風棄だが、烏莉同様、何も告げずに出雲大社を去った。
●大社巡り
イナバノシロウサギ殲滅終了後、永一の案内で正門から順に出雲大社を参拝することに。これに喜んだのは、ゆっくり観て回れると思っていたねいとだった。
銅鳥居前にある手水舎のそばにある『御慈愛の御神像』に気づいたねいとは、永一に「これは何ですか?」と尋ねた。
「神話『因幡の白兎』で、大黒が白兎に元の姿に戻る方法を教える場面の像です」
永一の代わりに、咲耶が答えた。
「これが、あの場面のエピソードか。見れて良かった。そういや、ここの神は縁結びの神でもあったな。兵舎の面子と元妻の分までお守り買っとくかな‥‥」
南斗がそう言うので、近くの社務所で買おうと誘う永一。
「そうするか」
永一の案内で社務所に向かう途中、咲耶が歌い出した。
「その歌は『だいこくさま』だな。『因幡の白兎』を基にして作られたという」
「そうですわ。さすがは永一様、ご存知でしたか」
「ああ。続きを歌ってくれ」
その歌を教えてと、シーヴとあやめが咲耶に教えを請う。
「では、一緒に歌いましょうか」
社務所に向かいつつ、男性能力者は女性陣の歌声に耳を傾けた。
豆知識:祭神、大国主神は恋多き神様。