タイトル:新米オペレーター奮闘マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/16 04:21

●オープニング本文


 ULT(未知生物対策組織)に配属され、オペレーターに任命されたシェリル・クレメンスは困っていた。
 シェリルはアナウンスは得意であるものの、緊張してしまうと実力を発揮できないタイプの女性なのだ。
 子供の頃、アナウンサー目指して早口言葉や流暢な言葉遣いを必死に練習し、ジュニアハイスクール時代は放送部に所属していた。
 ところが‥‥初めての放送で、緊張のあまり言葉が途切れ途切れに。そのことでクラスメイトや友人にからかわれたことがトラウマとなり、シェリルは次第に引っ込み思案な少女になってしまい、アナウンサーになるという夢を捨てた。

(「そんなあたしが、オペレーターになれるワケないじゃない‥‥」)

 ULTには、有能で人気高いリネーア・ベリィルンドがいる。
 彼女がいれば自分はいらない存在なのでは? とネガティブなシェリルだが、上層部から任命されたのであれば、それを克服してまでも与えられた職務を遂行しなければならない。
 
 自力ではトラウマを克服できないと思ったシェリルは、能力者達に克服協力をしてもらおうと思い立った。

「能力者の皆様、はじめまして。あたし‥‥いえ、私はシェリル・クレメンスと申します。お願いがあります! 緊張するとトチってしまう私の癖を直す協力をしてください! お願いします!」

 大規模作戦で忙しいとは思うが、職務遂行をしなければ、という使命感が強いシェリルの頼みを聞いて欲しい。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN

●リプレイ本文

●先輩に相談のはずが
 奉丈・遮那(ga0352)は、オペレーターの先輩達にシェリル・クレメンスのことを相談してみることにした。
 これから先、何か困ったことがあっても相談しやすいようにしておくのは良いことだとが思うが、時期が悪かった。
 リネーア・ベリィルンドを含むオペレーター達は、全員、大規模作戦や他の依頼で多忙を極めていた。
「時間があるようでしたら、経験談を聞かせてもらえばと思いましたが‥‥これでは無理ですね」
 多忙なところ邪魔をしてはいけないと、遮那は相談を諦めて去っていった。

●あがり性克服相談
「皆さん、お忙しい中‥‥お、お集まりくださり‥‥あ、あり、がとう‥‥ございますっ!」
 挨拶時点で、早くもガチガチ状態なシェリル。
 能力者達は『大丈夫か?』と、皆、少し不安になった。

「あがり性ですか‥‥。これに関しては、私も人前に出るというのは未だに慣れないところもございますので、お気持ちは分かります‥‥。とりあえず‥‥やはり人前で、いつも通りに仕事ができるくらいの精神状態にすることができればよろしいのでしょうから‥‥やはり、精神修養が必要でしょうかね?」
 私もできる範囲で一緒に修行してみようかと‥‥とシェリルと共に克服しようとする大曽根櫻(ga0005)。
「櫻さんの修養というのは、トラウマ克服作戦ですね。皆さん、シェリルさんのためにも頑張りましょう」
 朗らかな性格な協力者、水鏡・シメイ(ga0523)。
「修養、というか訓練ですが、大人数の前で声を出すことも必要だと思いますが‥‥一対一での経験も必要だと思うんです。ですので、私は、一対一の訓練をしてみようかと思っています」
 いきなり大勢の前では、かえって逆効果になると予測してのシメイなりの配慮だ。

「過去のトラウマを乗り越えるということは、並大抵な事ではありません。それなら、逆に発想の転換をして致命的でない、些細な失敗ならば許容出来ると示してあげる事が大切ではないかしら?」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)は、シェリルのあがり性は、失敗は許されないという思い込みとあると予測し、皆に提案した。
「失敗を失敗のままに終わらせず、次に繋げること、それが大切だと思います。『失敗は成功の元』と申しますし。シェリルさんにも、その辺りの事を分かって貰えたら良いと思いますわ」
「『あがり性』というのが、我には理解できん。まぁ‥‥相手によって緊張するのは、最近少し分かったが」
 遠い目をしながら『分けてやれるものなら、自信なぞ有り余るほどくれてやる』と心のなかで呟くリュイン・カミーユ(ga3871)。相手によって、という言葉に関しては深い追求はしないでいただきたい。
「実力はあるのだという話だし、緊張とかあがり性が原因なら、その根本をどうにかしたいな‥‥という訳で『人前で喋る事に慣れろ!』作戦を実行したい」
 いきなりそれは、とリュインを説得する櫻、シメイの2人に対し、クラリッサは「荒療治ですが、それも良いかもしれません」と同意。

「ニャは〜☆ 人前で上がらない訓練ニャか〜? あたいは人前で上がったことなんか無いニャからニャ〜」
 アイドルタレントであるアヤカ(ga4624)が緊張するとしたら、コンサートや緊迫した撮影現場といった仕事関前だろう。
「シェリルさんの今の状況を見て、どの辺りを直したら良いか考えたほうがいいかもニャね〜」

「シェリルお姉さんのために。、オイラも頑張るぞー! 苦手を克服か‥‥どうすればいいんだろ? 緊張ってなんだろう‥‥? 難しい問題だなぁ‥‥。応援するかな‥‥頑張れー頑張れーって!」
 元気いっぱい少年の火茄神・渉(ga8569)は、自分なりに精一杯シェリルを応援。

「私に言わせれば、医学的にあがり症をみるのであれば、不安や恐怖を感じると分泌される『ノルアドレナリン』が交感神経を活性化させることによる心拍数や血圧上昇、脳内で過剰な興奮や活性が生じ、情報の混乱が発生する。これがいわゆる『あがった』状態であり、ノルアドレナリンを抑制するのが『セロトニン』であり、あがりにくい人はセロトニンの分泌が活発である」
 御巫 雫(ga8942)の説明に、頭が混乱したのか「わかりやすく説明してよ!」と言う渉。外見年齢10歳の少年には、難しい専門用語が多すぎる。
「すまん。要するに、抑制する『セロトニン』の分泌量を増やすには、1に『体操、散歩、ジョギング、良く噛む』等の等の反復運動をすること、2に『ゆっくり息を吸い込み、長く息を吐く』。3に『温かい飲み物を飲んだり、温かいタイルを顔や首筋にあてて体を温める』。4に『筋肉の緊張をほぐし、体全体をリラックスさせる』。5に『タンパク質、特に豚肉や鶏肉、卵、牛乳等によく含まれる『リプトファン』摂取』が、一般的に効果があるとされる」
 ふむふむ‥‥を素早くメモるシェリル。
「話を聞いた感じだと、貴様、完全主義傾向だな?」
 雫の一言にギクッ! と後ずさるシェリル。
「やはりそうか‥‥。それ故『失敗をしてはいけない、醜態をみせたくない』という強い動機が、緊張を増幅させる。心にゆとりを持ち、リラックスするはできないのか?」
「‥‥‥」
 欠点を指摘されたことで、無言のまま項垂れたシェリルの肩にポン、と手を置き、遮那が励ます。
「自分も緊張すれば失敗する人間ですし、他の人の特訓が1人で出来そうになければ、一緒にしてもらうのも良いかもしれません。相談の中の話を聞いていると、自分が先に挫けそうですが。あなたが尊敬する先輩も、最初からキチンと仕事がこなせたと思いますか? 彼女にも、あなたと同じ新人時代があったのですよ」
「それはそうですが‥‥」

●バイトで克服
「ちょっと、彼女をお借りしますね」
 そう言うと、シェリルの腕を掴んで『気分転換に外出しましょう』と説得し、クラリッサはシェリルを外へ連れ出した。
「克服の具体的な手段としては、人前で説明する事に慣れさせるのが一番です。そこで私が考えたのは、店頭の実演販売で人と接する事、臨機応変に対処する必要があるアルバイトをあなたにしてもらうことです」
 そう言って連れて来られたのは、一軒のドラッグストア。ここの店長には交渉済みである。
「アルバイト代と良い経験が貰えるから、良いじゃないですか」
 店の制服に着替えながら微笑んで言うクラリッサに「が、頑張ってみます!」と意気込むシェリル。
 店長が、バイトがもう一人増えたからと連れてきた女性は‥‥リュインだった。
「呼び込み手伝いでシェリルを鍛えようと考えていたのだが、考えは同じようだな、クラリッサ。大衆の面前で声を出す事に慣れるのも大切、店も助かり一石二鳥! 商品説明とオペ業務は、通じるものがあると思うぞ。相手に応じた臨機応変な説明が特にな」
 3人が引き受けたバイトは、ダイエット茶の試飲販売。
 効能のメモ内容を頭に叩き込んだので、いつ、誰に何を聞かれても大丈夫なシェリルだったが、キツそうなご婦人に説明しようとするが、言葉が途切れ途切れ状態。
 それでもすべての説明を仕切った点は褒めるべきだが、ご婦人は「ちょっとわかりづらいわね」と購入を諦めた。
「良くできていましたが、あがり性はまだまだのようで」
 その後は、クラリッサのフォローもあり、試飲バイトは無事終了したが、店長はシェリルに「明日は良いから」と一言。
 落ち込むシェリルに「あんな親父の言うことなど気にするな!」と檄をとばした。

●座禅で克服
 翌日。櫻は、シェリルを自宅に招いた。
「では、私と共に座禅を行いましょう。座禅をすることで、心を落ち着かせる修行を行います。その前に‥‥」
 これに着替えてください、とシェリルに白単と緋袴に着替えさせようとしたが、アメリカ人の彼女一人では着替えは無理なので、櫻が着付けすることに。
 着替えが済んだ後、正座の作法を指導。
「一緒に精神を統一しましょう。回りの人のことは、気になさらないように‥‥心を落ち着けて‥‥」
 静かな心の持ち方を教えた櫻だったが、長くはもたなかった。足が痺れてしまったシェリルが、転倒したからだ。純日本人であっても、長時間の正座は辛い‥‥。
「私ができるのはこの程度ですね‥‥。あとは、他の皆さんにお任せしましょう」
 シェリルの足の痺れが治まった頃を見計らい、櫻は、気分が落ち着くラベンダーのハーブティーを差し入れた。
「良い香りですね」
「私はハーブよりは日本茶が好みなのですが、たまには、こういうのも良いですね」
 一口飲んだシェリルは、身も心もやっとで落ち着いた様子。

●歌で克服
 その翌日。
 兵舎にある会議室の貸し出し承諾を得たシメイは、シェリルをそこへ呼び出した。広さは、学校の教室くらい程だが、最後列にも声が届くよう、音声が響きやすくなっている。
 彼とシェリルは、会議室で向かい合うように立っていた。会議室の大きな椅子にどかっと腰掛けて「こういう椅子、初めてだ!」と、はしゃいでいる渉はギャラリーだ。

「シェリルさん、その状態で歌ってください」
「歌‥‥ですか?」
 人前で、しかもアカペラで歌うのはとても緊張することだ。シェリルは洋楽好きだが、聞きながら一緒に歌うということはしない。恥ずかしいので、必要な時以外は、自分の歌声を聞かれたくないからだ。
「恥ずかしがらずに歌えるなら、人前で喋ることは全然難しいことではないですよ。ここには、私とあなたしかいませんから大丈夫です」
 シメイを信頼したシェリルは「アメリカ国歌ですけど良いですか?」と尋ねると、何でも構いませんよ、とシメイは微笑みながら答えた。
 腹筋に手を当てシェリルが歌おうとした時、渉はシェリルの袖を掴んで話し始めた。
「難しい事はオイラに解らないけど‥‥緊張しなければ、トチらないんじゃないかな? おまじないの言葉とかでさ『私は私でいいんだよ。だから他人は、他人のままでいいんだよ』って言うのがあったと思う‥‥んだ。言葉を発するとね、必要以上に他人のことを気にしない余裕が生まれればな‥‥とおいらは思う!後はね、掌に『人』の字を3回書いて飲むのも良いって聞いた事あるぞ!」
 単純に深呼吸するのが一番じゃないかな? と締めくくる渉に同意するシメイ。
 渉の言葉通りに『自分は自分』と言い聞かせ、掌に『人』と3回書き、それを飲み込んだ。
 改めて歌い出したシェリルの声は、高く澄んでいた。
 シメイと渉は、ここにいない皆にシェリルの美しい声を聞かせたいと思った。

●滑舌で克服
「声を使うお仕事と言うことニャから、滑舌を良くするために、発声練習と早口言葉って言うのも良いかもニャ〜」
 知り合いの声優の友達から習った練習法は、基本は『あえいうえおあお』の早口言葉だった。
「声が出せるようになれば、それに集中して他に意識が行かなくなるかもニャしね〜。はじめるニャ〜」
 アヤカと共に早口言葉に挑戦するも、何年もアナウンス練習を怠っていたシェリルは舌を噛みまくりだったが、次第に滑舌になってきた。
「次のステップニャ! 人前で早口言葉の練習って言うのも面白いニャね〜。だから、兵舎とか、人がたくさんいそうな所で大声を出すのが良いかもニャ〜!」
 ええ!? と驚くシェリルを強引に兵舎前に連れ出すアヤカ。
「まずはあたいがお手本。『ニャ〜☆ アヤカにゃ〜☆ みんな元気ニャか〜☆』」
 元気で〜す! というファンからの返事が。
「ハイ、やってみるニャ☆」
「に、ニャ〜、シェリルで〜す♪ げ、元気ですかぁ〜?」
「元気が無いニャ! もう一回!」
 こうして、日暮れまでアヤカコーチの特訓は続いた。

●総合結果
 シェリルの特訓に付き合った能力者達は、それぞれの結果を話し合った。
「あいつは、人前に出ると緊張しまくりだ」
「説明はできていましたのですがね」
 ドラッグストアのバイトに付き合ったリュインとクラリッサ談。
「大勢の前で話すのも駄目みたいニャ〜」
 あの後、「もう嫌です〜!」と泣きながら逃げ出したシェリル。
「やる気はあるようですがね‥‥」
 精神修行が必要です、ときっぱり言う櫻。
「シェリルお姉ちゃん、歌、すごく上手だったよ! 歌い出すまで時間かかったけど」
「渉君の言うことは本当です。後は、彼女の自信に賭けるしかありませんね」
 元気に褒める渉と、今後はシェリル次第と言うシメイ。

「このままでは埒があかん! 模擬オペレーティングをやらせよう!」
 我慢の限界に達したのか、リュインがいきなりこのようなことを提案した。
「緊急依頼であれば、否が応でもせねばなるまい! その様子を全員ガン見の前で、オペ業務をやって貰おう!」
「ガン見がまずいな。あやつ、誰かに少しでも見られると何も言えぬと見たからな」
「それでは、抜き打ちはどうでしょう?」
 遮那が「あのですね‥‥」と、皆に耳打ち。
 波話し合った結果、良し、それでいこう! と即決。

●ドッキリ依頼
 オペレーター室に戻ったシェリルは、自分の持ち場に戻るなりぐで〜っとなった。
「シェリル、たった今、能力者への緊急出動要請依頼がありました。早くこのことを伝えにいきなさい!」
「はいっ!」
 ハイミス先輩の指示に従い、シェリルは緊急出動要請のアナウンスを行った。

『緊急出動発令! ウィスコンシン州グリーンベイにあるNFL『グリーンベイ・アンターズ』の本拠地にバグア11体と大型キメラ出現し、フィールドと観客席を破壊している模様! 能力者は、至急ウィスコンシン州に急行せよ!』

 アナスンスが終えると、シェリルは全身の力が抜けた。
「シェリル、UPC本部受付前に行って集まった能力者達に依頼内容の説明をしに行きたまえ」
「イエッサー!」
 ULT上官にそう言われたシェリルは、急いでUPC本部前に向かった。
 ハイミス先輩とULT上官は、遮那に説得された協力者であるが、これは内緒。

 そこにいたのは、見知った8人の能力者達。
「皆さん、どうしてこちらに!?」
「どうして? だと? 汝の依頼要請を聞いたからに決まっておろう」
 リュインの言葉に、一斉に頷く能力者達。
「失敗することは、悪いことではない。失敗することで、貴様を笑う者もいよう。最初から全てが上手くいく人間など稀であるのだ。開き直るくらいの気持ちでおれば良い。後は場数を踏んで慣れること。良いな?」
 後は経験次第、と締めくくる雫。
「上手にできて良かったねー、おめでとうー!」
 ちゃんとできてもできなくても、渉はシェリルをぎゅっと抱きしめただろう。
「皆と共に努力した成果、発揮できていたぞ? 良く頑張ったな」
 微笑むリュインを見ながら、シェリルは「出動しなくて良いんですか?」と聞くので『いけない!』と演技が入った台詞で、高速艇に向かい走り出す能力者達。

 シェリルが、この依頼がドッキリだと知ったのはその翌日のことであった。