●リプレイ本文
●緊急出動
「ったく‥‥奴等‥‥ドコから湧いてきやがるんだ‥‥? ウザってぇにも‥‥程があるぜ‥‥。とりあえず‥‥とっとと行くか‥‥。アイツも大概‥‥ムチャしやがるからな‥‥」
大型キメラと1人で戦っている『ブロークン・クラッシャー』と呼ばれる傭兵、ブライアン・マリガンと面識がある玖堂 暁恒(
ga6985)は、死なれては気分が悪いと移動中の高速艇中で、いつも通りに鉢巻で長い髪を束ねている。
「今回は〜武器の忘れ物はないようですが〜、相手が悪すぎですね〜。ケルベロス相手に一人では〜、いくらブライアン君でも長くはもたないでしょう〜」
暁恒同様、ブロークン・クラッシャーと面識があるラルス・フェルセン(
ga5133)は、彼にはたくさん守るべきものがあるので、死なせるわけにはいかないと思った。
「あの〜急いでくれませんか〜?」
ラルスの要求に、これでも精一杯飛ばしてますと答える操縦士。
「操縦士殿、急いで下され! こうしている間にも、ブライアン殿に危ない目に遭っているので御座る。今、我らが参りますぞ! それまで、何とか持ち堪えて下され!」
オットー・メララ(
ga7255)も、急ぐよう操縦士に頼む。
「面白い場所に、面白いヤツが現れてくれやがって! 試合中のスタジアムじゃ無い分、良心的な問題がねえから楽だな。さっさと潰すぜっ!」
クロムブレイドの手入れをしながら、九条・縁(
ga8248)の全身は戦いの衝動に駆られている。
「もうすぐ『セントルイズ・アルデバラン』の本拠に到着します。皆さん、着陸準備は宜しいですね? 飛ばしますよ!」
操縦士の言葉に、皆、力強く頷いた。
●栄光の場所
「くそっ‥‥!」
愛用のオリジナル大剣が威力ある武器であっても、倒すべきキメラが大型ゆえ、与えられるダメージはかすり傷程度にしかならない。
能力者達の到着を今か今かと待ちながら、ブロークン・クラッシャーはケルベロスと戦っていた。
「ブライアン殿、待たせてすまぬで御座る!」
オットーの声に「ようやく来たか!」と思わず言ってしまったブロークン・クラッシャーだった。
「おまえらには、世話になりっぱなしだな。悪いが、こいつを倒すのを手伝ってくれ。かつての栄光の場所を守るために!」
アメフト選手を引退しても、彼にとって『セントルイズ・アルデバラン』の本拠は思い出深い場所であり、チームメイト達は良き仲間である。
「そのために‥‥俺らは来た‥‥。五十嵐‥‥選手達の避難誘導は‥‥任せたぜ‥‥」
「はい‥‥。あたしも‥‥大切な場所‥‥守りたい。思い出の場所を荒らすキメラは、絶対に許しません!」
覚醒することにより、五十嵐 薙(
ga0322)の口調は徐々にテンポが速くなった。
一目見て、ケルベロスが黒のシャイロ・シェパードを改良したものであることがわかった動物好きな薙は、思い出の場所を壊すキメラを倒すと誓った。
「あたしは選手、コーチ達、逃げ遅れている人達の護衛と避難誘導をします。高速艇で本拠の見取り図を確認したところ、出入り口は2つあることがわかりました」
逃げ惑う選手陣、コーチ陣に背中を見せ、必ずキメラを正面に見ながら薙は行動を開始。
「皆さん、大丈夫です。焦らないで!」
「彼女を信じて」
ミオ・リトマイネン(
ga4310)も、薙に続き選手陣を保護しながら迎撃すると、打ち合わせ通りに配置につき、ケルベロス撃退部準備を始めた。
「間に合った‥‥んだよな? 三つ首の火を噴く巨大犬か。しかも、何処からともなく湧いて出て来ると来たもんだ。もう何でもアリだな。宜しくな、ゼシュト‥‥初対面、だよな?」
「ああ。きみとは初対面だ」
直接戦闘班の龍深城・我斬(
ga8283)は、紳士的、貴族的だが、何処となく背徳的な香りを匂わす雰囲気の長い銀髪傭兵、ゼシュト・ユラファス(
ga8555)に挨拶をしながら配置につく。2人は、ケルベロスの真正面に相対してぶつかるアタッカー兼壁役だ。
●破壊の番犬
「これはまた‥‥醜いキメラで御座るな‥‥っ!」
オットーと縁は、ケルベロスの背後につき、二人一組での連携攻撃を繰り出す戦法で撃退することに。早速配置についたオットーめがけ、蛇の尻尾が狙いを定めて唸りを上げて鞭のようにしなるが、寸でのところで避けたので、彼が立っていた場所は鋭く抉れた。
「おのれ‥‥キメラの分際で人間に尻を向けるなど! 無礼な、許さん!」
ケルベロスの俊敏な動きに対し、うねうねと動く尾に臨機応変に対応するオットー。
「オットーも尻尾の切断を考えてたか! 考え方が同じな奴と組むと戦いやすいぜ。んじゃ、俺は後ろから攻撃を仕掛けて、後足破壊をメインに狙うとすっか!」
縁は、後足を攻撃する際に『流し斬り』と『両断剣』を同時発動し、足首を斬り飛ばす感覚で片足ずつ斬ったが、大型なため、容易く切断できなかった。
「防御力低いから、すぐぶった切れると思ったんだけどなあ」
「縁殿、焦りは禁物で御座るよ」
それに対し、ラルスとミオは、距離を開けて逆側面に配置。
駆けつけざま、ケルベロスが射程範囲内に入った時点で覚醒したラルスは『強弾撃』と『ファング・バックル』で洋弓「アルファル」の攻撃を強化すると『影撃ち』でケルベロスの顔面を狙撃。
「炎は水で‥‥消えてしまいなさいっ!」
炎を吐き出す口潰しを優先にし、目潰しはその次と考えながらラルスは洋弓「アルファル」を番え、矢を放つ。
「ブライアン君、治療を受けますか? 判断はあなた任せます。治療が必要なら、一旦退いてください。より良い状態で戦えるよう、自己判断出来ると信じていますからね」
孤児院の一件でブロークン・クラッシャーは自己判断ができると見込んだラルスは、初撃と同時に彼の様子を窺った。
グッドタイミング、といわんばかりに、選手陣、コーチを全員避難させた薙が、ブロークン・クラッシャーの元に駆けつけ、ケルベロスの包囲網に加わった。
「救急セットが役立ちますね。今、治療します」
「すまん‥‥」
その間、ミオは側面からスコーピオンで攻撃し、ケルベロスの視線を自分に向けるよう、意識を逸らさせている。
「ブロークン・クラッシャー、あなたは良く頑張りましたね。私達が戦っている間、ゆっくり休んでください」
攻撃の合間、ブロークン・クラッシャーを気遣うミオ。
「これ以上、やらせるかっての!」
ミオ同様、ブロークン・クラッシャーの治療中、彼を庇うように割り込んで攻撃する我斬は、棍棒を味方に当てないようにケルベロスを突き、縦振りを主軸にしつつ、無理に高い部分は狙わずに足元と胴体を狙い牽制を仕掛けている。
「うざい、と思わせられればそれで良い」
「それは同感だが、相手は5メートルを越す化け物だ‥‥。正面切って、そうそう直撃が当たるモノではない。それにしても、これを作ったバグアは余程暇なのか? 味なモノを造るとはな!」
ゼシュトの基本動作は、防御と回避をメインに粘り、攻撃の際は側面と後方の攻撃を布石とし、隙の生じた箇所を狙っていくというものだが、特にケルベロスの顔面と尻尾を狙い、シュリケンブーメランを投擲。これならば、ブロークン・クラッシャーを守りながら攻撃ができる。
ケルベロスの肉弾攻撃はバックラーで受け流しながら交わし、三つ首の口から吐き出される炎撃の警戒は常に怠らず、吐かれたらバックラーでガード、という綿密な攻撃法をゼシュトは考えていた。負傷した場合は、錬力残量を考えて『活性化』で回復させるつもりだ。
「くぅうっ、まだだ! この程度じゃ、俺は倒れんぞ!」
我斬が尻尾が来ると読んで予測すると回避に入り、振り切った後を狙って尻尾の先端を棍棒による『流し斬り』を叩きつけ、動きを止めた。
「今だ、ゼシュト!」
その言葉を耳にしたゼシュトは、口元を歪め、不敵にニヤリと笑うと、ケルベロスを作成したバグアの趣味を皮肉った。
「一気に行くぞ!」
投擲武器として使用していたシュリケンブーメランを持ち直したゼシュトは、『両断剣』でケルベロスの隙をついた。それと同時に、我斬も『両断剣』を叩き込んだ。
「見えた‥‥そこだぁ!」
●躾という名の撃破
「芸どころか、躾もキチンとされていない犬なんぞに褒美はやれんな! 代わりに、俺の鉄塊をくれてやろう!!」
避難確認を終えた暁恒は、ケルベロスの前足と後ろ足の中間位置を陣取ると、真紅に変わった長い髪をなびかせながら『疾風脚』を駆使しつつ、側面から後方支援。
(「脚にダメージが蓄積されたら『急所突き』で関節狙って‥‥フランベルジュ横薙ぎで叩き込むか」)
そう考えているいるうちに、オットーと縁による連携攻撃が。
オットーは、蛍火による二刀流で戦闘しつつ、尻尾に接触しないよう十分注意している。
「ブライアン殿を殺らせるものかっ!! 私が、身を挺してでも守るで御座る!!」
休養中のブロークン・クラッシャーめがけてしなる尻尾を『流し斬り』『ソニックブーム』の連続攻撃で切り落としたオットーに続く! と気合いマンマンの縁が、クロムブレイドとカプロイアM2007を併用して切り落とした。
「よっしゃ! 次は足だぜ!」
足を攻撃する際は『流し斬り』『両断剣』を同時発動し、攻撃の手を休めない縁は、今度こそ足を斬り落とす感覚でぶった切った。
「自分の尻に頭向ける愚を取る用に仕向けられたら儲け、って感じ?」
「‥‥そういうことになるで御座るな」
肩で息をしながら、縁に同意するオットーの体力は尽き掛けていた。尻尾の動きを見切ったつもりだったのだが、不覚にも何発か攻撃を食らってしまったのだ。
「俺が治療してやるよ。良く頑張ったな、熱血武士」
かたじけない、と頭を下げ、救急セットを取り出した縁の治療を受けるオットー。
薙は、治療中の仲間を庇うかのように夕凪とイアリスによるスピードを活かした二刀流スタイルに転じ、命中力を重視した攻撃を仕掛け、早期決着をつけるため特殊能力をフル活用。
「大きいからって何よ! あたしは負けない!!」
二刀に『豪破斬撃』を付与して攻撃力を上げた後、『流し斬り』『ソニックブーム』を駆使して足元を確実に狙っている。
ラルスは、担当配置からキメラの顔面、脚部を狙う等、前衛の援護射撃を積極的に行い、特殊能力は惜しまず使用しながら、ケルベロスの注意を逸らすよう狙撃している。
「注意力散漫ですね。此方に集中なさい!」
渾身の一矢が、ケルベロス中央頭部の右目に突き刺さった。それを見逃さなかったラルスは、残る左目、右頭部、左頭部の目潰しにかかった。
「私も手伝います」
ミオもケルベロスの目を狙い、スコーピオンで狙撃開始。二人の連携プレイの甲斐あり、三つ首の目は瞬時に潰された。
「ブライアン君、体力は回復しましたか?」
「ああ‥‥万全だ。治療してくれたおまえ、ありがとう」
ぶっきらぼうに微笑みながら、薙に礼を言うブロークン・クラッシャー。
「調子良いみたいですね。最後は、皆で力を合わせトドメです! いきますよ!」
ラルスの言葉を合図に、能力者達とブロークン・クラッシャーは最後の攻撃!
オットー、縁の攻撃は右前足切断、我斬、ゼシュトの攻撃が左前足切断、ラルス、ミオの射撃は右後足切断、薙と暁恒の薙ぎ払いは左後足切断。
ケルベロスが跪くように倒れたのを見計らったブロークン・クラッシャーは、素早い大剣捌きで三つ首を一気に切り落とした。
皆の協力で、ケルベロス撃退成功!!
●遠い思い出
「酷い‥‥ですよね‥‥。大切な場所なのに‥‥。こんなことをしたキメラは‥‥絶対に許せない‥‥!」
涙を堪えながら、拳を握り悔しがる薙。それだけ、フィールドを守りたいという意思が誰よりも強かったという証拠だ。
「フィールドは修復可能だが、人の命は修復できん。ここは壊れたが、また直せば練習できる。おまえは良くやった、だから泣くな。誇りを持て」
薙を気遣い、彼女の肩にそっと手を置いて自分なりに慰めるブロークン・クラッシャー。
「私も悔しいです。キメラは倒せても、フィールドは守れなかったので」
悔しいのは、ミオも同じだった。
「ここにキメラが、二度と来ねば良いので御座るが‥‥」
「そん時は、また俺達が倒せば良いじゃねえか!」
縁の言葉に、フッと笑い「そうで御座るな」と答えるオットーであった。
「神聖なるスポーツフィールドを土足で踏みにじったうえ、焼き焦がすとは‥‥。無粋なキメラだったな」
ゼシュトの治療を行いながら、我斬は焼け焦げたフィールドの芝を見てそう言う。
「まったくだ。キメラというものは、本当に躾がなっていない」
深い溜息をつき、呆れたものだと呟くゼシュト。
「ブロークン・クラッシャー‥‥おまえがスタジアムに偶然いた‥‥ってこたぁねぇよな‥‥? ここは‥‥おまえと何か関係があるのか‥‥?」
普段は自分から話しかけるタイプではない暁恒だったが、ブロークン・クラッシャーと『セントルイズ・アルデバラン』の本拠の関係が気になって仕方が無いようだ。
「話しておいたほうが良いかもしれんな‥‥」
少し間を置いた後、ブロークン・クラッシャーは能力者達に語り始めた。
「俺は、傭兵になる前は『セントルイズ・アルデバラン』のランニングバックとして活躍していた。数年前の健康診断でエミタ適性者であることが発覚した時、能力者の道を歩むか、アメフトを続けるかさんざん悩んだものだ。最終的には、能力者になることを選んだがな‥‥」
大切なものを守るためですか〜? と質問するラルスに「その通りだ」と答えるブロークン・クラッシャー。
「体力が続く限り、アメフト界にはいつでも復帰できる。その前に、バグアを倒すことに決めた。そうでないと、安心してプレイできん。それに、強いキメラを倒せば倒すほど、良い報酬が手に入り、姉貴に楽させてやれると思ったが‥‥姉貴は‥‥」
ケルベロス退治に関わった能力者達は、ブロークン・クラッシャーの姉がキメラ襲撃による航空機墜落事故で死亡したことを誰一人として知らない。
「お姉さん‥‥キメラに‥‥?」
薙の質問にコクンと頷くブロークン・クラッシャー。
「おまえ‥‥やっぱり‥‥アメフト界に戻りたいのか‥‥?」
「ああ‥‥。いつかは‥‥な」
「いつか‥‥か‥‥。戻れるさ‥‥あのクソッタレ共を‥‥ブッ飛ばした後にな‥‥」
ニヤリと笑いながら、暁恒はバグアの本星を親指で指しながら励ました。
それに続き、能力者達は「そうだ」と口にする。
「皆さん〜フィールドの後片付けをしましょう〜。少しでも〜整理しておけば、後が楽ですよ〜」
ラルスの言葉に、皆、同意してそれぞれ後片付けを手伝った。
「破壊傭兵‥‥おまえ‥‥絶対復帰しろよ‥‥」
口数が少ない静かなるグラップラーの言葉に、心から感謝するブロークン・クラッシャーはこう言った。
「期待通り、必ず復帰してやるさ。何年かかってもな‥‥」