●リプレイ本文
●行動前日
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、『ラスト・ポープ』内にある依頼受付窓口で、ヘッドセット型無線機と公園周辺地図を借りたいと申し出た。
「かしこまりました」
人数分のヘッドセット型無線機と公園周辺地図を職員から受け取ったホアキンは、公園周辺、対象者の詳細を何も知らずに護衛するのは自殺行為に等しいと思っていた。
公園で帰り支度を始めているスマイル・クラウンに神楽克己(
ga2113)は、ある頼み事をしていた。
「人間は、唯一笑うことができる生物だって聞いた。こんな物騒な世の中だからこそ、俺も人々に笑ってほしいと思う。頼む、いや、お願いします! 俺を弟子にしてくださいっ!」
克己が依頼を請けた動機は、クラウンの行動に感動したこと、卓越した物真似技術を直に学んで習得したいと思っているが、護衛という本来の依頼が忘れていない。
「私がお前に教えることは何も無い。自分で技術を習得するんだな」
クールな刑事役俳優の声色で、克己の申し出を断るクラウン。
それでも克己は諦めず、必死に弟子入り志願した。
「詳しいことは言えないけど‥‥あんたは、何者かに狙われているんだ! だから、俺はあんたを守りたい!!」
師匠が、自分でなければならない余程の事情があると悟ったクラウンは、克己の熱意に根負けし、弟子入りを許可した。
「では、明日ここでまた会おう」
そう言うと、クラウンは振り向かずに公園を去った。
作戦成功に喜んだ克己は、鷹司 小雛(
ga1008)とノエル・アレノア(
ga0237)に通信機で連絡した。
「鷹司姉さん、ノエルさん、クラウン弟子入りに成功した! 合図は、あらかじめ決めてあるものでな」
●午前の公園
「スマイル・クラウン様の芸は興味がありますわ。物真似というものは、些細で面白い能力ですが、敵に回すと厄介ですもの‥‥。必ず阻止しないといけませんわね」
「今の世の中、人々に笑顔を与える存在は重要だと思う。それを悪用することは許せない」
穏やかな性格の小雛の隣にいる漸 王零(
ga2930)は、見えている右目で公園内を見渡した。
「スマイル・クラウンが、どのような人物なのか楽しみです。この依頼が無事に終わったら、パフォーマンスをゆっくり見たいな」
ノエルは、大評判のクラウンのパフォーマンスを心待ちにしている。
「観客が集まりだしたようだね」
辺りを見回しながら、仲間を捜すMIDOH(
ga0151)。
「克己さん以外で来ていないのは‥‥」
ノエルがそう言いかけた時、フライトジャケットを着用し、ハンドガンをショルダーホルスターでジャケットの下に隠した軍人らしき男性が駆けつけた途中で転倒したが、即座に立ち上がり体制を立て直すと同時に、自己紹介を始めた。
「能力者の皆さんですね? 私は、戦闘集団零→∞駐屯地基地司令の緑川 安則(
ga0157)といいます!」
「堅苦しい挨拶は良い。他の奴は何してるんだ!」
MIDOHが怒鳴ると同時に、タイミング良く能力者達を見つけたのは真田 一(
ga0039)とホアキンの二人。
「怒ると、折角の美人が台無しだ。機嫌を直せ」
MIDOHを宥めながら、ホアキンはヘッドセット型無線機と公園周辺地図を皆に手渡した。
「このようなものを用意するとは‥‥ホアキン、汝は準備が良いな。依頼だが、スマイル・クラウンと申す者の護衛と洗脳された老人の監視とのことだが、皆はどう動くつもりなのだ?」
王零の質問に、能力者達はそれぞれの行動方針を話すことに。
●方針報告
「バグアに洗脳された老人がいるのは解っているが、他にもいるのか気になる。気にいすぎるとキリが無いけどな。あまり人混みで派手な行動をしたくないんだが、クラウンの護衛を兼ね、パフォーマンスを披露しようかと。あ、万一の場合に備え、これは道化のパフォーマンスだと言い訳を考えてある」
パフォーマンスは、ロープに絡まってこけた、投げたナイフが老人の足を掠る、というような内容、その一環とし、老人を公園外に担いで連れ出すというのが、一の行動方針だった。
「あたしは、情報収集に徹するから戦闘お預け。不審人物の特定とバグアの確認メインで行動する。クラウンに聞きたいことがあるんだけど、まだ来ていないようだしね」
簡潔に報告するMIDOH。
「私は、標的の老人の動きとその他の異変を確認し、クラウンの護衛を支援します。多くの観衆の中から標的の老人を監視するのは難しいでしょうが、やれるだけやってみます」
以上であります! と敬礼しながら報告した安則。
「作戦内容なんですけど、依頼人であるクラウンさんに伝えた方が良いですね。全体的な作戦は、二人同士の四班に分かれての行動はどうでしょう? これなら、問題の老人の誘い出しと確保、クラウンさんの保護ができると思います」
僕は観客の中に紛れて、小雛さんと一緒に行動しますと言うノエル。
彼の武器はナックルなので、袋に入れて腰の下げれば特に目立たない。
小柄な体型を活かせば大勢いる場所でも小回りが利くので、何かあれば、仲間の元に即座に駆けつけることができる。
「私は、ノエル様と共に行動致しますわ」
小雛、ノエル、王零の三人は、事前に克己に教わったサインの確認と、作戦の確認を行っていた。
「観客として、スマイル・クラウン様の警護に当たりますわね。私、目立つ風貌ですが、観客の中に紛れて警護するのは不自然ではありませんわ‥‥」
顔を赤らめ、照れながらそう言う小雛だが、密かにクラウンの芸を拝見したいと思っている。
「四班編成は良いな。各担当に分かれて通信で連携し、クラウン活動終了後の公園に老人を誘き出して包囲戦を敷くのはどうだろう。上手くいけば、生け捕りにして洗脳を解除することができると思うのだが」
ホアキンの意見に「同感だね」と言うMIDOH。
「クラウン護衛班だが、助手は克己くんが勤めるそうだから、観客の中に紛れ、クラウンが、ヨリシロとして価値があるか見定める老人を捜すことは可能だろう。故意に隙を見せ、老人の襲撃を誘うのもひとつの方法だが、観客を巻き込む危険があるから止めよう。観客班は状況変化を助手担当に伝え、クラウンをカバーするということで」
指示を提案するホアキンの前に、2メートルを軽く越している巨躯の男性が近づいてきた。
「ホアキン、ノエル、小雛、克己以外の者には自己紹介が遅れてすまぬ‥‥。我は漸 王零。好きなように呼んでくれ。我は、敵との交戦時は真っ向攻撃し、覚醒を行う」
冷静である王零らしい行動といえよう。
●事情説明
「遅くなってごめん!」
フンブンと右腕を振り、自分はここだとアピールしているのは、ピエロに扮した克己だった。
スマイル・クラウンの紹介はするまでもないので、能力者達は、クラウンがバグアに洗脳されている老人の標的にされていることを事細かく説明した。
「わしの物真似が、悪用されるかもしれないというのかい?」
本日の声は、アメリカの人気ドラマの主人公の祖父の真似だ。
「大丈夫だって! 俺と漸兄さんが助手になって守ってやるから!」
「クラウン殿、汝の役に立てるのであれば我は本望だ」
堅苦しい話はやめじゃ、と話を中断するクラウンだが、話し合いはまだ終わっていない。
「主役のお出ましのようだから、いくつか質問するよ。クラウン、住まいは何処だい? 移動ルートは? あんたを狙っている老人の他に、怪しい奴はいないのかい?」
一度に言われてものぉ‥‥と言いつつ、クラウンはMIDOHの質問に一つずつ答えた。
ホテルを転々としているので住所無し、移動は専ら徒歩。夜間に移動しようものなら、老人に「私を狙ってください」と言っているようなものだ。
老人の生死が不明では、戦闘時に躊躇が生じるため捕獲か殲滅、どちらかを選択せねばならない。
「クラウン、ペンシルバルーンで幾つか動物を作ってくれないか? この辺りにはストリートチルドレンがいるだろう。これを手土産に、老人の居場所を探ってみる」
クラウンが動物を作り終えた後、ホアキンはそれを紙袋に割れないように詰め込み、製図用丸筒にソードを隠し入れ、肩にかけて行動を開始した。
「ストリートチルドレンに聞き込みか。俺、全然思いつかなかった」
「克己、我と汝はクラウン殿の助手をするのであろう。練習しなくても良いのか?」
王零にそう言われ「おっと、いけねぇ!」とおどける克己。
こうして、クラウン護衛と老人監視が遂行された。
●笑顔の中で
正午の鐘が鳴り響くと同時に、スマイル・クラウンのパフォーマンスが始まった。
待ちかねていた観客達は、クラウンの盛大な拍手を送り、口笛を吹く。
「皆さん、今日もわしのパフォーマンスを見に来てくれてありがとうよ。今日は、特別にお手伝いさんがいるから紹介するよ。こっちのちっこいのが「カツ」で、でっかいのは「ゼン」じゃ。応援してやっとくれ」
克己は「カツ」、王零は「ゼン」とクラウンに命名された。
最初は、克己による白いボール五個使ってのジャグリング。お手玉の要領でやれば良いんだと軽い気持ちで行ったが、これが意外と難しい。
「最初から無理するから、失敗するんじゃ。練習をさぼるでないぞ」
苦笑して頭を掻く克己に続き、王零はヴィアを手にし、演武を行った。
二メートルを越す長身、筋肉質体型であるが、演武は緩やかで、優雅な動作だった。
アメリカ人にとっては珍しい芸なのか、デジカメで撮影する観客が多数いた。
終了と同時に、無言で礼儀正しくお辞儀する王零。
●鑑賞と監視
小雛とノエルは、常に最前列にいることを不自然に思わせぬようクラウンと周囲から常に視線を離さず、克己と王零のサインを見逃さないよう気をつけている。
「大型の獲物は目立ちますので、ナイフの『リィナ』を連れて来ましたわ。可愛い子でしょう?」
武器に名前をつけるのが好きな小雛は、長さ20センチのナイフをノエルに見せていた。
「そんなこと言っている場合じゃないでしょう。僕達がやらなきゃいけないこと、わかっていますよね?」
「勿論ですわ。スマイル・クラウン様をお守りすることでしょう? 私達のすべきことは防衛が最優先ですが、ご老人を捜すこともしておりますわ」
クラウンのパフォーマンスを見ながらも、二人は洗脳されている老人を捜している。
特徴は事前に聞いていたが、似たような服装の人物が予想以上に多いため、特定が難しい。
「スマイル・クラウン様が、観客の気を引いている隙をつきご老人が襲撃と言う事もあり得ますから、特に注意する必要がありますわね」
「観客を巻き込むわけにはいきませんから、そちらのほうも注意しないといけませんね」
気を引き締める小雛とノエル。
●老人探索
MIDOHとホアキンは、風船の動物をくれたお礼だと、ストリートチルドレンからクラウンの相談に乗った男性が言っていた特徴の老人がいる場所を教えてもらった。
二人が向かったのは、公園から1キロほど離れた寂れた街の片隅にある酒場のカウンター席だった。
「あたしが様子を窺う」
MIDOHは、背後からカウンター席で酔いつぶれて眠っているかのような老人の肩を人違いを装って叩き、呼吸の有無と体温、バグアの寄生箇所と思われる肉体の変貌を看取した。
「こいつ‥‥既に死んでる。残念だが、洗脳を解くのは無理だ」
「そうか‥‥」
ホアキンは、洗脳された老人の死亡と、MIDOHから聞いた攻撃目標部位を各自に連絡したその時、老人が素早く飛び起き、バーの外に出た。
尾行担当の一と安則は、MIDOHからそのことを聞き、急いで公園に戻った。
「俺らの出番、結局無しかよっ!」
「残念ですね。ですが、スマイル・クラウンに脅威をもたらす存在となってしまった以上、倒すまでです!」
走りながら安則は覚醒し、フェンリルと名乗る能力者となった。覚醒時の彼は、戦術を重視し、感情を表に出さない。
「貴公には悪いですが、先に公園に行かせてもらいます。バグアの殲滅が私の使命ですので」
フェンリルは、公園に着くなり『隠密潜行』を発動させ、観客の中に紛れ込んだ。クラウンが危険に晒された場合には『鋭覚狙撃』でスコーピオンを使用し、老人を射殺するつもりでいる。
「クラウンさん、あんたを狙っている奴がここに向かって来ている! 戦闘は仲間に任せてあるから、あんたは逃げてくれ!」
「克己、クラウン殿の護衛は汝に任せる」
王零は、自分が囮になり、老人を公園外におびき出すことにした。
●守るもの
「老人を誘い出すなら、人気の無い場所を望むのが一番だと思います。ここだと、周りの一般人の皆さんに危険が及ぶだけでなく、依頼遂行しても、街の人達の不安を煽ることになりかねません。人々を安心させること。それが、クラウンさんと依頼人さんの望みではないのでしょうか?」
ノエルの言葉に、皆、そうだと一斉に頷いた。
「ノエル、汝の言い分は正しい。人気の無い場所への連れ出し、我に任せてくれ」
王零の申し出は、とてもありがたかった。
「‥‥汝には、我の過去の贄となる以外の道はない!」
王零は老人を抱えると人気の無い場所に連れ出し、能力者以外誰もいないことを確認すると豪快に投げ落とした。
「方針を話した時に冗談で言ったナイフ投げ、マジでやりたくなった。既に死んでるから、痛み感じないし」
「一様、あれを本気でなさるおつもりでしたの?」
真に受ける小雛に「いや、冗談だから‥‥」と突っ込む一。
「道化師の笑みは闘牛士の剣と同じく、人の心を揺るがす技だ。悪用はさせない」
製図用丸筒からソードを取り出したホアキンは、闘牛に止めを刺すかの如く、剣で老人の喉元を軽く突いた。
弱点を見抜かれた老人は、逃げようとしたが、覚醒後に『瞬天速』を利用したノエルに逃げ道を阻まれた。
「バグア殲滅を開始します」
安則が機械的な口調でそう言うと、足を重点的に狙い撃ち。
「清浄なる闇に中で、永劫に眠るがいい‥‥」
ヴィアに『豪破斬撃』を付加し、老人に止めを刺した王零は、その一瞬、失った記憶を記憶を微かに思い出していた。
「あの老人、洗脳解けなかったんだな‥‥。でも、クラウン師匠の護衛に成功したんだからオールオッケー、だよな? 短い間だったけど、いろんな芸を教えてもらったからスマイル・クラウンは俺の師匠だ。師匠を守るのは、一番弟子の俺の役目だ!」
老人が死亡していたため、洗脳は解除できないことに落ち込んでいた克己だったが、右腕を空高く掲げて、誰よりもスマイル・クラウン防衛成功を喜んだ。
その後も、スマイル・クラウンは広場でストリートパフォーマンスを披露し、人々に笑顔をもたらしている。観客の中には、クラウンに一番弟子と認められた克己もいた。
「俺もいつかクラウン師匠みたいに芸達者になって、皆を元気付ける!」
決意の言葉は、他からの引用ではない克己自身のものだった。