●リプレイ本文
●チーム結成
ソウジ・グンベが考案したNHLのひとつ『ミネソタ・タフネス』との交流試合と称し、バグアと化した『厚き氷の壁』の異名を持つゴールキーパー、マイク・ハワード撃退実行一ヶ月前。
彼の元に『能力者チーム』のメンバーが、練習用に貸し切ったスケート場に集った。
変貌調査に関わった能力者、ノエル・アレノア(
ga0237)とヴァルター・ネヴァン(
ga2634)。
ヴァルターの知り合い、クリストフ・ミュンツァ(
ga2636)。
リュイン・カミーユ(
ga3871)、ラウル・カミーユ(
ga7242)兄妹。
本業、神主の那智・武流(
ga5350)。
学生服を身に纏い、日の丸鉢巻を締めている美海(
ga7630)。
選手は6名なので、1名は監督代行、あるいは看護士を務めることに。
「皆、俺の呼びかけに応じて参加してくれて感謝する」
能力者チーム監督であるソウジは礼を述べた後、コーチ陣を紹介した。
中心的存在は、変貌調査を依頼したミネソタ・タフネスのセンターフォワードのクロード。補佐を務めるのは、日本人選手でディフェンスの氷上と、補欠ゴールキーパーのテリー。
「スケーティング、ステッィク捌きやパックの打ち方等は3人のコーチが丁寧かつ、みっちりと指導する。キミ達に希望ポジションを尋ねたところ、フォワード希望者が4名。この中で誰をフォワードにするかは、コーチ陣に決めてもらう。これなら文句ないだろう」
「質問! キーパーだけど、殺人鬼っぽいマスク着用すんの? 俺、それヤなんだけど」
元気良く挙手しながら質問した武流に、テリーは、ゴールキーパーは他の選手と少し形状が異なるホッケーマスクを着用している。そのテのタイプもあるが、今は使っている奴がいないと答えた。
「良かったぁ〜! アレだけはヤだったんだ」
ホッと胸を撫で下ろす武流。
「まずは、ランニングと柔軟運動を行います。皆さん、俺について来て走ってください」
クロードが全員に「ランニング始め!」と合図するが、ソウジが待ったをかけた。
「武流、その格好で練習する気か?」
ソウジが呆れるのは無理も無い。彼の服装は、いつもの袴姿なのだから。
袖は邪魔にならないようたすきがけをしているが、そんな格好では練習にならない。
「ジャージに着替えろ! ミネソタ・タフネス側で用意したものがある!」
へいへい、と武流は渋々着替えに行った。その分、周回遅れとなったため、一人取り残されてのランニングとなったが。
少し休憩した後、柔軟運動開始。柔軟性に関しては、皆、問題無し。
●ステッィクを振れ
「次はスティックの素振りを行います。基本なので、十分行うように」
ビュッと風が鳴るような音が出るまで行ってもらう、というクロードに「できるかな‥‥」と不安がる参加者達。
練習前に、氷上から各自希望したステッィクが手渡された。
ノエル、ヴァルター、武流、美海は木製。
クリストフ、カミーユ兄妹はアルミ製を選択。
「あの‥‥僕の身長に合った長さに調節して欲しいんですけど。僕は身長が低い方だと思いますので‥‥」
男性陣の中では、ソウジを含めてもノエルが一番低い。
「俺も調整希望! できるだけ使いやすいように」
「わかった」
氷上は、ノエルと武流を連れて控え室に向かった。
ノエルの木製スティックはグリップエンド(持ち手)の先端を削り、仕上げは念入りにテニスラケット用のテーピングを巻いて調整。
武流のものは、長さ調整の必要無しなのでテーピングだけ行った。
「どうだ?」
「ちょうど良いです。氷上さん、ありがとうございました」
「ありがとな!」
氷上に頭を下げて礼を述べたノエルと武流は、急いで皆のところに向かった。
「クロードに聞きたい。我やラウルは両利きなのだが、スティックはどう選べば良い? 右利用、左利用と分かれているようだが」
リュインがいうように、ステッィクハンドには『レフトハンド』『ライトハンド』がある。通常、スティックハンドリングはトップハンド(=ライトハンド)で行うものなので、トップハンドが利き手の方がハンドリングがし易い。
「きみ達は、普段はどの手を使っている? 両利きとはいえ、普段から両手を使っているわけではないだろう。選ぶとしたら、普段使い慣れている手のほうを奨める」
その結果、ラウルはライトハンド、リュインはレフトハンドのステックを使用することに。
調整を終えた二人が合流したところで、素振り練習が始まった。
「始め!」
クロードが鳴らすホイッスルに合わせ、各自素振りをするものの‥‥風が鳴るような音は思うように出ない。
暫くすると、ヴァルターのステッィクがビュッ! と音を立てた。
「やっとで、鳴りたんやでおざる」
メンバー1の長身で、筋肉質のヴァルターは最初にマスター。
その後は武流、リュイン、ラウル、美海、ノエル、クリストフの順でマスター。
「スティック捌きって、けっこう力いるな〜」
「そうでおざるな」
ヴァルターと武流は、かなり苦心した様子。
スティックの素振り後、コーチ陣によるフォーム矯正を行った。
特に熱心なのはノエルだった。真摯な姿勢、人一倍の努力の甲斐あり、能力者の中では一番フォームが良い。
●リンクを滑ろう
アイスホッケーのスケート靴は、プレイから足や足首を護るように頑丈にできていてスピードより耐久性や小回りの利きの方が重要なため、短かく厚い刃が装着されている。ゴールキーパー用は脛に装着する防具があるため見えないが、プレイヤー用とは異なった形状だ。
他のスケート靴に比べ怪我をしにくいようにできているが、その分重い。
危険を減らすという性質上、最も強く初心者でも悪い癖は比較的つきにくいのでスケートの練習には最適だ。
スケーティング練習の前に、選手達には試しにスケート靴を履いて滑走することに。
「滑走に関しては、後から指導を行います。合図がなるまでは、各自、自由に滑ってください」
クロードの合図まで、選手達はそれぞれのフォームで滑走。
ノエルはスケートをする機会に恵まれいないため、普通に滑っているがどことなくぎこちない。ヴァルターとクリストフは普通だが、姿勢は良い。
スイスイ滑っているのはリュイン、武流、美海。
「美海は万能超人なので大丈夫! 片足でもスイスイ滑れるのです!」
祖国のため、どんなことにでもお役に立たればと能力者に選抜された美海の今回の依頼は、アイスホッケー交流試合への参加だった。素人だが、本人曰く「万能超人エクセレンター」故、スケートそのものに遜色は全く無い。
美海同様なのはリュイン。
子供の頃から毎冬滑ってということもあり、バックは勿論、Wルッツ、アクセルが可能だが、アイスホッケーはスピード重視である。
武流も美海同様、片足でもスイスイ滑っているが動きがどことなくぎこちない。
休憩、と客席の方に行くと、ソウジが「調子悪いようだな」と聞いてきた。
「慣れたカッコのほうが動きやすい。あんたがジャージ着ろって言うから仕方なくこんなカッコしてんだ。着替えて良い?」
駄目だ、と即答するソウジ。愚痴っているものの、武流のレベルは若干高め。
ずば抜けてレベルが高いのは、大得意なラウル。
「マルセイユでは毎冬移動リンクで滑ってたし、他も放浪してたからね。だから僕、氷上でも生きてく自信あるネ! 人生とかギャグとか滑るのも得意だヨー」
陽気に笑いながら得意気に滑るラウルを見て、リュインは「情けない‥‥」と呟いた。
参加者のレベルを一通り見た後、コーチ陣によるスケーティング練習が開始された。
バックとブレーキングができなければ、アイスホッケーはできないと言っても過言ではない。スピードスケート、フィギュアにしてもそうだが、止まれなければ危険である。
スケーティング練習は、陽気なテリーが中心になって行うことに。
「まずは、最も確実で実用的なブレーキング練習から行うぜ。滑っている状態で、進行方向に対して氷を蹴るのが基本だ。それじゃ、やってみよーう!」
まずは、遅いスビードで足をハの字にした『ハの字ブレーキ』から練習。
遅い時は全員上手く止まれたが、スピードアップすると共に、転倒者続出。
それでも、全員めげることなくできるまで立ち上がっては滑っている。
「よーし、次はバックだ。バックは内股が基本だ! 男は恥ずかしいだろうが、そうしないと確実に止まれないぞー。まずはバックでの滑り方から」
テリーが言うように、基本スタンスは内股である。
後ろ向きに滑る場合も、前向きと理屈は同じ。前向き同様、片方の足を踏ん張り、踵の方向へ後ろ向きに滑り、気持ち後ろに体重をかけるようにすると自然に後ろに進む。
「この練習は、必ず後ろを振り帰りながら行うように。フォームチェックのためだ」
氷上の指示通り、選手達は慎重にバックで進む練習を行った。
全員できるようになったので、次はブレーキング練習。止まる時は、体の重心を前に傾けるようにしつつ、後ろ足で氷を削るようにすると倒れにくい。得意とする足だと、確実に止まりやすい傾向にある。
これには、スケートが得意とするカミーユ兄妹も苦戦。武流、美海も同様であった。
ラウルに関しては、そんな状況下でも明るさを失っていなかったのでそれが皆の「やる気の源」となったのか、全員、挫けることなく練習を続けた。
●パス練習
「言い忘れ。ミニゲームの前に、スティックで実際にパックを打ってもらう。角度とかは気にせず、思う存分打て。ステッィクの強さ加減が、パックのスピード調整になる」
ソウジの一言に頷くコーチ陣。
能力者達は、それぞれパックを打つ練習を行った。強く打つとパックはスピードを増し、弱く打つと緩やかに移動。
その後、移動しながらのパックキーピング。これは、縦パスの練習で、左右に上手く動かすのがコツだ。
全員がコツを掴んだところで、クロードがパス練習を行うと宣言。
「二人一組の横パス練習を行います。こちら側で、相手を決めましたのでその人と組んでください」
コーチ陣が決めたのは、一組目はノエルとリュイン。二組目はヴァルターと武流。三組目はクリストフと美海。
一人余ったラウルは、氷上とパス練習を行うことに。
リュンちゃんと組みたかった‥‥と、ラウルは心の中で泣いた。
クロードの丁寧な指導、テリーの厳しい指摘もあり、能力者達は短時間でパスをマスター。
●ミニゲーム
全ての基礎練習が終わった翌日。
正式ポジション決定のためのミニゲームを行うことに。
「ゲームを行う前に、ルール説明をする。得点は、パックをゴールに入れることで1得点獲得。試合時間は20分。今回は第一ピリオド(ピリオド=試合)のみとする。交流試合では第三ピリオドまで行う。フェイス・オフ(試合開始)時にリンク中央にあるフェイスオフ・スポットでパックを取った選手は、速やかにアタッキング・ゾーンへ移動すること。そうしないと、味方にパスが行えない。パスは、アタッキング・ゾーンの後ろにいる選手に行える。パックを取った選手は、相手ゴール側に向けてパックを放つ際、誰にも触れられずにゴールラインを越えないよう注意するように。これを『アイシング・ザ・パック 』という。ゲーム再開は、ディフェンディング・ゾーンのフェイスオフスポットでフェイスオフを行い、味方ゴールに最も近い場所で再開される」
氷上がその他基本的なルールを説明し終えた後、クロードがチームを発表。
赤い腕章をつけたAチームメンバーはノエル、クリストフ、武流。
白い腕章をつけたBチームメンバーはヴァルター、カミーユ兄妹。
カミーユ兄妹が同じチームなのは、ラウルが「リュンちゃん熱望っ!!」と言ってきかないのでやむを得ず。
ポジションは、Aチームフォワードはクリストフ、ディフェンスはノエル、ゴールキーパーは武流。武流は「フォワード希望!」と主張したが「何事も経験だぜ!」とテリーに言われ、嫌々ながらもすることに。
Bチームポジションは、フォワードはリュイン、ディフェンスはヴァルター、ゴールキーパーはラウル。
美海は、監督代行と看護士に抜擢されたためメンバーから除外。
ゴールキーパーに選ばれた武流とラウルは、テリーに教わりつつ手の甲や足に特殊なパッドを装着し、スティックを持たない方の手にパックをキャッチするためのグローブ(野球のファーストミットに似ているがサイズは大きめ)をはめた。
「ゴテゴテして動きづらい‥‥」
「僕は大丈夫ー! テリーさん、動き全く分かんないカラ御指導ヨロシク!」
テリーの厳しい指導を受けた二人は、大苦戦しながらもゴールを守り続けた。
その間、残りの選手はクロード、氷上から防具にはヘルメット(目を保護するためにバイザーがついているもの)、肩周りや腰周りのパットのつけ方を教わっていた。
粗悪な防具ではかえって負傷の危険が増す場合もあるので、能力者達にはコーチ陣が選んだ防具を装着させている。
「フェイスオフ!」
クロードの合図と同時に、パックを取ったのはリュイン。リュインは器用にパックを打ちつつ、アタッキング・ゾーンに向かう。その後にヴァルターが続く。
「させません!」
ノエルがリュインをマークするが、リュインは素早く横に移動していたヴァルターにパス。ヴァルターはパックをステッィクで素早く受け止めた後、思いっきりシュート!
「させるか!」
武流が、足につけている特殊なパッドで素早くセービングする。反射神経は良いと見た。ステッィクで器用にパックを捌くと同時に、素早く味方にパス。
クリストフがパックを受け取ると、猛スピードでアタッキング・ゾーンに移動。ノエルもそれに続く。
「いきます!」
スナイパーであるクリストフは、ゴールの空いている箇所を素早く見抜いて思いっきりシュート! 狙いを正確に定めるのは、スナイパーの十八番ともいえる。
「得意分野と通じている‥‥かな?」
ラウルは反応するも、パックを取れなかった。
これにより、Bチーム1点先取。
そうこうしているうちに、ピリオド終了。結果は、Aチーム無得点、Bチーム2得点獲得。
●ポジション決定
「これからポジションを発表する。コーチ陣の厳選なる結果故、苦情は受け付けん」
クロードからメモを受け取ったソウジは、それを読み上げた。
「フォワードはセンターフォワード、クリストフ・ミュンツァ。ライトウィング、ラウル・カミーユ。レフトウィング、リュイン・カミーユ。ディフェンスはヴァルター・ネヴァン、ノエル・アレノア」
「とゆーコトは‥‥」
ソウジはニヤリと笑うと「ゴールキーパー、那智・武流」と言った。
プロが選んだポジションなので、たしかな選択と言えよう。
キャプテンは『ミネソタ・タフネス』が行っている交代制を取り入れることに。
後は、リンクでマイクを撃破するのみ!