●リプレイ本文
●コウタとご対面
ソウジの個人的依頼を引き受けた子守り役能力者は6名。
「アーイーシャー♪」
フェブ・ル・アール(
ga0655)は、愛紗・ブランネル(
ga1001)を発見するなり抱きついた。
「苦しいよ、フェブお姉ちゃん」
「悪い。と、まぁ、こういう風に交流を深めたい。おまえさんがコウタかい?」
受付嬢の後ろに隠れながら、コクンと頷くコウタ。
「コウタ君、フェブお姉ちゃんは良い人だよ。愛紗達と一緒に遊ぼう♪ この子は、はっちー。宜しくね」
パンダのぬいぐるみ『はっちー』の前足を動かし「おいでよ」とコウタを誘う愛紗の笑顔に警戒心を解いたコウタは、集まった能力者達の前にやって来た。
家族がいるかどうかわからない愛紗にとっては、弟ができたようで嬉しかった。
(「ソウジお兄ちゃんのお姉ちゃんの子ってことは、ソウジお兄ちゃんの小さい時はこんなカンジかな?」)
ソウジの幼少時を想像する愛紗。
「俺は橘・朔耶(
ga1980)、宜しくな」
人懐こく明るく陽気な性格の朔耶に「よろしく」と挨拶するコウタ。
朔耶には飼い犬がいるのだが、ここに来る前に大型犬用の餌と水を用意し、自宅で留守番させている。
(「兄弟には誰も苦労するな。同情する」)
ソウジと何かと縁があるリュイン・カミーユ(
ga3871)も参加。
「俺の名は蓮沼千影(
ga4090)、ソウジの友人だ。ソウジの頼みとあっちゃ、断るわけにいかねぇ。宜しく頼むぜ!」
コウタの頭をくしゃくしゃと撫でる千影。
傍から見るとスーツが似合い、笑顔が素敵な美形パパとその息子に見える。
和気藹々としている中、愛輝(
ga3159)は不安だった。
彼の両親は共働だったため、いつも妹の面倒を一人で見ていた。そのため、家事全般一通りこなせる。そのため、ソウジに面倒を押し付けられたコウタに同情したが、他の能力者と会話している様子を見ていると、全く気にしない子だと認識した。
(「俺は‥‥両親にかまってもらえなかったから凹んだっけ。置いてきぼりの俺と妹はいらない子で、邪魔な存在だったのかと」)
考えすぎと頭を振り、皆の元に駆け寄った。
●お約束
「我は、受付で必要経費とソウジの兵舎のキーを受け取りに行く」
そう言うと、リュインは受付に向かい受付嬢からソウジからの預かり物を受け取った。
その間、フェブはコウタの前に立つと真剣な表情で「言いたいことがある」と宣言。
「コウタ、三つだけお約束がある。ちゃんと守るように。ソウジおじさんから言われたことだ。その1、飛び出さない! その2、返事は「はい」! その3「ありがとう」という感謝の言葉を忘れない! 以上。男の子だから守れるよな?」
「うん‥‥じゃなかった、はい!」
良くできました、とコウタの頭を撫でるフェブ。
「愛紗、コウタ君を呼び捨てにしたいんだけど良いかな? それとも、こーちゃん?」
「コウタがいい!」
男の子なので「ちゃん」付けは、小さいとはいえ恥ずかしいのだろう。
「ソウジからの預かり物を受け取った。それじゃ、行こうか」
リュインが戻ってきたので、一行はショッピングモールに向かった。
●お買い物
ショッピングモールに着くと、店内案内図で子供服売り場を確認。
ここは大規模な店舗なので、大人でも迷ってしまう迷路のような場所である。
「子供服売り場は二階の奥!? 随分遠いじゃないか!」
フェブが場所を確認するなり怒る。
しかし、ソウジに頼まれた以上、コウタの着替えを購入しなければならないので渋々向かうことに。
子供服売り場で購入するものは、パジャマと下着。
まずは、パジャマ選び。
「コウタ、どのパジャマにする? あ、ワニさん着ぐるみパジャマみっけ! これ、どう?」
愛紗はワニ着ぐるみパジャマを手にし、コウタに見せた。
「ホープマン着ぐるみパジャマもあるぞ? どうだ?」
リュインは、コウタにホープマン着ぐるみパジャマを当ててみる。
「他の動物の着ぐるみパジャマもあるぞ? 好きなのを選べ」
どっちにしようか迷ったが、コウタはホープマン着ぐるみパジャマを選んだが‥‥サイズが小さいため着ることができない。
「ワニさんにする!」
パジャマは、愛紗お見立てのワニ着ぐるみパジャマに決まった。
その後、下着を数点購入。コウタは、ホープマンやヒーローものの子供用ブリーフを選んだ。
「領収書を頼む。名前はソウジ・グンベで」
店員に領収書をもらうのを忘れないリュイン。
買い物を済んだ頃には、昼食の時間帯となっていた。
「軽食コーナーは一階だったな。そこで軽く何か食べるか?」
フェブがそう提案したその時、コウタが全身をブルッと震わせた。
「おしっこ!」
やっぱりそうきたか! と予測していた千影は、コウタを抱えて愛輝に「コウタを頼む!」と押し付け、愛輝はコウタをおんぶすると同時に覚醒し『瞬天速』で男子トイレへと向かった。
スキルは、本来なら公共の場で使うべきではないのだが、依頼人であるソウジから使用許可が出ているので問題は無い。
後日、上官がソウジにこのことを伝え、始末書を書かせたというのを付け加える。
●ゲームで遊ぼう
トイレから戻ったコウタは大人しくしているかと思いきや、通りがかったゲームコーナーに向かい走り出した。4歳児にしては足が速いほうだが『瞬天速』を使用できる愛紗にすぐ見つかった。
「コウタ、鬼ごっこがしたいの?」
突然、自分の目の前に現れた愛紗に吃驚したコウタ。
「腹ごしらえといきたいところだが、今はどこも混んでいるだろう。それまで、ここで時間潰しってのはどうだい?」
腕時計を見た千影の提案に「それもそうかも」と納得する五名。コウタは「ゲームしたい!」と瞳を輝かせて千影に言った。
「ああ、いいぜ。俺とクレーンゲーム勝負だ!」
クレーンゲーム代も必要経費。
使用した分の領収書は切ってもらえないので、メモ帳に使用額をメモるリュイン。
こうして、千影とコウタによるクレーンゲーム勝負が始まったのが、結果は、コウタがホープマン人形一個ゲット、千影は取れずじまい。
客が空いてきた時間になった頃、一階にあるフードショップで腹ごしらえをすることに。
そこに向かう途中にある中央広場では、デトロイトを中心にストリートパフォーマンスを行っているスマイル・クラウンがジャグリングを行っていた。
「蓮沼、あれを真似ろ」
「できるか!」
リュインの言葉に、つい突っ込んだ千影。
少し見物した後、フードショップに向かう途中、フェブがこう言い出した。
「天気が良い事だし、ここで腹ごしらえするより外でしたほうが良いんじゃないかい? ソウジの情報によると、コウタは動物好きとのことだし。動物園に行って、動物見ながら食事ってのもオツだと思うんだがねぇ」
「愛紗も動物園行きたい!」
「ボクも!」
コウタと愛紗のお子様スマイルに負けた能力者達は、フェブの案に賛成し、フードショップでサンドイッチ、ハンバーガー等、ドリンクを購入した後、ショッピングモールを出た。
「店員、領収書。名前はソウジ・グンベで」
リュイン、しっかりしてるね。
●動物園
ショッピングモールから少し離れたところに、規模は小さいが動物園がある。
入場料は、当然ソウジ負担。ここでも領収書受け取りを忘れないリュイン。
「わーい!」
入場するなり、走ってはしゃぐコウタは石につまづいて転んでしまった。泣き出すかと思ったが、自力で立ち上がった。
「偉いぞ、コウタ。それでこそ男の子だ」
そう言って、愛輝はコウタの服についた泥や砂を払った。
昼食は、ペンギン舎の前にあるベンチに腰掛けて。サンドイッチを食べながら、コウタは泳ぐペンギンを楽しそうに見ていた。
コウタが一番はしゃいでいたかと思いきや、それ以上にはしゃいでいたのはフェブだった。
コウタを肩車しては「ほーら、キリンさんだぞー! ライオンさんだぞー!」と4歳児に勝るとも劣らないはしゃぎ振りであった。
●ソウジ宅
日が暮れた頃にソウジの兵舎に戻ることにしたが、その前に夕飯の買出し。
夕飯材料買出し係は朔耶と愛輝。二人は、ソウジから聞いたコウタの好物をメインとしたメニューを考えたうえで材料を購入。
メニューは、全員一致でカレーは即決。それにトマトをメインとしたグリーサラダとジャーマンポテトを付け加えることに。
ソウジを含め、7人分の材料なので荷物はかなり多いので分担して運ぶことに。コウタと愛紗には小さめの袋を持たせて手伝わせた。
スーパーでも領収書を請求したリュインは「腕が鳴るな」と大張り切り。
ソウジ宅に到着した一行は、見るなり唖然となった。
リビングは散らかり放題、DVDは出しっぱなし、服は脱ぎっぱなし、煙草の吸殻は灰皿からはみ出ている。
だらしない男の一人暮らしの見本、と言ってもいい。
「掃除のやりがいがあるってもんだな」
指をポキポキ鳴らし、やる気マンマンの朔耶。
「俺も手伝うぜ」
見事なまでに散らかってるな、と呆れた千影が協力を申し出た。
「俺は夕飯の支度をする。台所はどこだ?」
「ここだ」
一足先にお邪魔したリュインは、既に台所にスタンバッている。しかも、エプロン着用して。いつの間に?
「張り切っていますね。お手伝い、お願いします」
愛輝とリュインは夕飯担当、朔耶と千影は掃除担当に。
●コウタ探検隊
夕飯作り、掃除担当以外の能力者は何をしているのかというと‥‥。
「28歳独身、ソウジ・グンベ中尉の兵舎たんけーん! コウタ、おまえが隊長だ。チビ隊長、腐海の底へ進みましょう!」
腐海。ソウジの兵舎は、そう例えられても仕方が無い。
「ソウジお兄ちゃんのお部屋には、すっごいお宝が隠されているかも♪」
双眼鏡を手にし、探検する気マンマンの愛紗。
コウタ隊長、フェブ副隊長に続き、愛紗はソウジの寝室に向かった。
散らかっているかと思いきや、意外にも整理されていた。というより、ベッドとスタンドライト、クローゼットしかない。
コウタは、ベッドの下に潜り込みあるものを発見した。
「ねえ、これなぁに?」
フェブと愛紗に見せたお宝は‥‥4歳児にどう説明して良いものか困る代物(H本)だった。
(「ソウジも男、ということか」)
それを見て呆れるフェブは、「これは自分が預かる」とひったくった。
「たいちょー! お宝発見ー!」
愛紗が枕元から見つけたのは、一人の女性の写真だった。
「ママより綺麗なお姉ちゃんだね」
その女性は、以前ソウジを振った受付嬢。
ソウジ、まだ彼女のことを忘れられないのか?
●夕飯と掃除
台所では、愛輝とリュインは夕飯作りをしていた。
リュインがカレー担当、愛輝はサラダとジャーマンポテト作り担当。
「リュインさん、材料切らないんですか?」
皮は剥いてあるものの、リュインは材料をそのまま鍋に放り込んだ。
「そのままのほうが美味い」
「煮込むのに時間かかりますから切ってください。それと、灰汁は取るように」
「アク?」
「濁った汁みたいなものです。これ取らないと不味くなりますよ」
愛輝の指示に従い、リュインは灰汁取りをし、その間、愛輝は段取り良くサラダを作り、それが終わるとジャーマンポテト作りに取り掛かった。
カレーの鍋だが、二つ用意してある。ひとつはコウタに合わせた甘口カレー。
もうひとつは秘密。
リビングでは、全員で夕飯を食べられるよう朔耶と千影が掃除をしていた。
「汚ねぇなぁ。テーブル、煙草の灰だらけだぜ。カーペットに食べカスついてるし」
「男の一人暮らしなんてそんなもんだ。俺? ちゃんと整理整頓してるぜ」
服を畳みながら、朔耶を見て自分は違うと主張する千影。
服を畳み、DVDを棚にしまい、掃除機とコロコロカーペットをかけて掃除終了。
後は、テーブルをもう一つ用意するだけだ。
●夕飯
数時間後、夕飯が完成した。
「皆、我が作ったカレーを食すが良い」
自信満々にカレーを配膳するリュイン。こっそり打ち明けるが、仕上げは愛輝担当。
「コウタ、食べてくれ。口に合うかどうかわからんが」
「いただきます」
キチンと合掌してから、カレーを食べるコウタ。挨拶の躾はされているらしい。
「美味しい!」
「そうか、それは良かった」
安心するリュイン。
その様子を見た他の能力者も「美味しい」と褒めた。
トマトメインのグリーンサラダ、ジャーマンポテトはあっという間に胃袋に納まった。
『ご馳走様でした』
最後は、全員で合掌。
●お泊り
ソウジが帰宅できないことを予測していた能力者達は、各自お泊りセットを用意していた。朔耶に至っては、ハンドタオルとバスタオルを事前購入したほどだ。この費用だが、ソウジ名義の領収書を切っている。
「ジュース!」
風呂上りのコウタが、裸でジュースをおねだり。
「コウタ、服を着ないと風邪ひくぞ!」
バスタオルを手にした愛輝が、濡れているコウタの身体を拭こうと追い掛けまわしている。
千影は、テレビを観ながらその様子を楽しそうに見て、ぱんだ着ぐるみパジャマに着替えた愛紗は、コウタがワニ着ぐるみパジャマに着替えるのを待っていた。
日付が変わった頃には、コウタと愛紗はぐっすり眠っていた。
愛輝と千影は、食器洗いと台所の掃除中。千影は、掃除終了後に入浴。
フェブは、コウタと愛紗と添い寝。
朔耶はソウジの寝室に向かい、持ってきたロリコン雑誌、美少女戦隊アニメDVDをバレる場所に置いた。
リュインは、愛輝が台所を去ると同時に進入し、カレー作りの続きをしていた。
ソウジが帰宅したのは、夜が明けた頃だった。全員、眠っているので起こしては悪いと思い、そぉっと入った。
テーブルには「夜食を用意した、食え。リュイン」というメモが置かれていた。
メモを手にしたソウジは、台所に向かった。コンロに置いてある鍋には『ソウジ専用』と書かれた紙が貼ってあった。中身は、材料丸ごとのカレー。
腹が減っていたので、早速食べることにしたソウジ。
味は悪くはないが、野菜は生煮え状態だった。材料は皮を剥いたものそのまま煮込んだのだから。
翌朝、目が覚めた全員にソウジは手製のおにぎりと味噌汁を振舞った。
「皆、コウタの面倒見てくれてありがとな。これは、俺からの礼だ。こんなモンしか作れなくてすまんな」
能力者達とコウタは、ソウジが作ったおにぎりを食べた。意外と美味しかった。味噌汁は具が無いものの、味は悪くなかった。
朝食後、コウタの両親が迎えに来た。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
手を振りながら、コウタは能力者達に別れを告げた。
コウタが帰った後、ソウジは寝室に向かうと、そこには‥‥。
「な、何じゃこりゃー!!」
ベッドの下に隠しておいたはずの本、枕元に置いてあった写真、朔耶が持ち込んだ雑誌、DVDがベッドの中央に置かれていた。
あいつら‥‥! とソウジが怒ったのは言うまでも無い。