タイトル:Broken Happy マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/20 14:41

●オープニング本文


 人間の幸福というものは、突然、ガラスのように脆く崩れ、壊されることがある。
 それが突然、自分自身に訪れたらどうなるだろうか‥‥。

 ある傭兵の男の年齢の離れた姉が、めでたく結婚することになった。
 両親を早くに亡くし、母親代わりとして今日まで自分を育ててくれた姉には、幸福になって欲しいと願った。
 新婚旅行の行き先は、比較的安全地域であるサンフランシスコ。
「今の時期は、サンフランシスコは寒いぞ。何でそこに行くことに決めたんだ?」
 姉にそう聞いたところ、彼女は
「私、シアトル発祥のコーヒー店で大好きな人と一緒にコーヒーを飲むのが夢なの」
 と答えた。
 それが、姉のささやかな夢だった。

 結婚式を無事終えた二人は、教会から空港に直行し、サンフランシスコ国際空港行きのジャンボジェットに搭乗した。
 飛び立つジャンボジェットを見送りったのは、男と姉の友人、義兄の両親と親戚。
 その誰もが、二人が新婚旅行を満喫し、土産話を聞かせてくれるものだと思っていた。

 離陸と同時に、天候が徐々に悪くなり、20分も経たないうちに、ジャンボジェットは雷雲の中を飛ぶことに。
 しばらくして、乱気流に巻き込まれたためにジャンボジェットが突然揺れたかと思われたその時、エンジン一基と主翼が破損。突然出現したキメラの仕業である。

 数十分後‥‥。
 ジャンボジェットは、あともう少しでサンフランシスコ国際空港に到着という時点で墜落し、死傷者四百名以上という大惨事に。
 ジャンボジェットはエンジン一基が破損してもある程度の時間飛行できるので、機長は、時間が許す限り操縦し続けたのだろう。
 アメリカ各地テレビ局は墜落事故ニュース速報のテロップを表示し、放映中の番組を急遽中止して報道番組に切り替え、各新聞社は号外を発行し、ネットではあっという間に広まった。
 事故の詳細はオタワに本部を構えるUPC北中央軍が情報を提供したことで、すべてのマスメディアは悪天候の中での飛行中、キメラに襲われたことを一斉に公表した。
 報道番組で公表された死亡搭乗者リストには、男の姉夫婦の名前があった。
 ジャンボジェット等の民間航空機にはUPC北中央軍航空機の護衛がつくのだが、それにも関わらず、このような大惨事が起きたのは予測不可能な出来事としかいいようがない。
 そうとわかっていながらも、遺族達は「UPC軍が護衛していたにも関わらず、何故このような大惨事が起きた!」という抗議が殺到したため、UPC北中央軍関係者は不眠不休で対応。
 人手が足りないということもあり、上司命令で否応無くUPC北中央軍に駆り出されたソウジ・グンベ中尉は、何でこんな目に遭わなきゃなんねぇんだと心中で愚痴りながらも、忙しない対応に追われていた。

(「キメラのせいで、姉貴の幸福は一瞬にして砕かれちまった!!」)
 報道番組を見て怒り狂った男は、ジャンボジェット墜落の元凶ともいえるUPC軍と、キメラを激しく憎んだ。

 その翌日、リネーア・ベリィルンドは冷静に能力者達に依頼の詳細を説明した。
「昨日、サンフランシスコ国際空港行きのジャンボジェットがキメラの襲撃により墜落しました。航空管制官がキメラを目撃したという機長と副操縦士から聞いた話によると、襲撃したのは、小型の竜型キメラと素早い動きの鳥型キメラ二羽だったそうです。竜型キメラが主翼を破壊し、鳥型キメラ二羽が同時にエンジン一基を破壊したと想定されます。UPC北中央軍からは、視界不良とキメラの動きが俊敏だったため殲滅できなかったという報告がありました‥‥」
 リネーアは目を伏せると少し間を置き、表情を元に戻して説明を続けた。
「犠牲者の中には、一人の男性傭兵の姉がいました。唯一の肉親である姉の仇を討つため、彼は、キメラ退治を勢力的に行っています。凄まじいパワータイプの傭兵故、彼は『ブロークン・クラッシャー』と称されています。その彼と‥‥」
 依頼説明のを遮るかのように、ブロークン・クラッシャーが合流したかと思えば、瞬時に殺気が。
 射抜くような鋭い視線は、その場にいる全員に向けられていた。
 ブロークン・クラッシャーは、亡き姉がリネーアの先輩オペレーターであることを知っているので、すべてのUPC関係者の中でも特に彼女を憎んでいる。
 リネーアはそれに気づいたが、何事も無いように説明を続けた。
「‥‥失礼しました。彼と共に、ジャンボジェットを墜落させたキメラを退治してください。お願いします。小型タイプなので、ナイトフォーゲルでの戦闘は至難の業となるので陸上で退治してください」
 
 能力者諸君には申し訳ないが、憎まれ役になり、ブロークン・クラッシャーと共に飛行機墜落の原因であるキメラ一匹と二羽を退治してほしい。

●参加者一覧

エスター(ga0149
25歳・♀・JG
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859
17歳・♀・AA

●リプレイ本文

●それぞれの心情
「俺のことは好きに呼べ。それと‥‥おまえたちは仲間と思っていない。それだけは忘れるな」
 ULT担当オペレーター、リネーア・ベリィルンド指示の下、『ブロークン・クラッシャー』と称される傭兵のブライアン・マリガンは、片手所持可能な試作型のオリジナル大剣を両手に持ち、鬼神の如く険しい表情をし、彼と共に行動するUPC本部受付前に集合した八名の能力者を睨みつけた。
 その言葉に憤ったのは、普段はノリの良い性格な須佐 武流(ga1461)だった。
「ブロークン・クラッシャーよぉ‥‥おまえの気持ちもわかんねぇんじゃねぇが、リネーアさんを逆恨みするのは筋違いだ。文句があんなら、仕事が終わってからタイマンでケリでもつけてやる。勿論素手でな。仲間同士の殺し合いはしたくねぇんでな。だが、その前にキメラにオトシマエ付けに行くぞ!」
 ブロークン・クラッシャーは何をするかわからないので監視というかたちで参加したが、彼が自分を仲間と認めていなくても、武流自身は、彼を仲間だと思ってるので、彼を見捨てる真似はしないだろう。

「マリガン、この手の事は何処にでも転がってる事ッスからね〜! 抑え難い感情を抱くのは、それはそれでOKッスよ〜」
 少しでもブロークン・クラッシャーの気分を和らげようと、おおからな性格のエスター(ga0149)は彼を元気付けようとするが、ギロリと睨まれたのでかえって逆効果になったようだ。

 普段は朗らかな性格で、いつもニコニコしている水鏡・シメイ(ga0523)だが、ブロークン・クラッシャーと共に、ジャンボジェットを墜落させたキメラを退治することに心配を隠せない表情をしている。

「奴はキメラとUPCに向かい、私はバグア全てに向う。違うのは方向性か‥‥」
 御山・アキラ(ga0532)は、両親をバグアに殺害されて以来、全てのバグアを殲滅すると決意したが、最終的にバグア殲滅が成れば自分が殺せなくとも良いと考えいる。
 ブロークン・クラッシャーには、自分と似た何かを感じ取ったが、あえて何も言わないアキラだった。

「今回の依頼は、アメフトに例えるならファイターがランニングバック、グラップラーがワイドレシーバー、スナイパーがクォーターバックってところかしら?」
 今回は小型とはいえ、飛行タイプのキメラとの陸上戦なので、スナイパーが重要な鍵を握っているといっても過言ではない。
 シャロン・エイヴァリー(ga1843)は、ブロークン・クラッシャーが元アメフト選手だったため、各ポジションに例えて各クラスの役割説明をした。
 スナイパーはエスターとシメイの二名なので、司令塔ともいえるクォーターバック的存在になる。

「憎まれ役‥‥それは慣れている。渇望の王には寧ろ、それ位が似合う‥‥」
 崎森 玲於奈(ga2010)は、ブロークン・クラッシャーと自分を重ね合わせいるようだ。

「マリガンの逆恨みが気に入らんが、依頼には私情を挟まぬ故、安心するが良い」
 本来なら墜落の原因であり、世界各地を脅かす存在であるキメラを憎むべきだろうと漸 王零(ga2930)は心中で思っていた。

 ブロークン・クラッシャーに対しては理解はするが、同情も共感もしていない冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859)は、本人の悲しみは本人しか知らないと目を離さないようにしているが。武流と王零が付いているので、キメラ戦に集中することにした。
「憎しみか‥‥」
 無表情で淡々と言葉を吐く冥姫。

●キメラ殲滅作戦
「戦いの場所は、サンフランシスコ国際空港にしましょうか。私は、旅客機の安全のため施設の一時貸し出し、というより、閉鎖を申請しに行くから、一旦失礼するわ。ついいでに、無線機も借りてくるわ」
 シャロンは受付に向かうと、受付嬢を介してUPC軍上層部に依頼遂行のため、サンフランシスコ国際空港の一時閉鎖を申し出た。
 上層部は、最終便が飛び立った夜間であれば一時閉鎖を許可すると回答。
 それまではUPC軍兵士数十名を派遣し、キメラの監視をさせるとのこと。
「ありがとうございます。では、そのようにお願いします」
 受付嬢に受話器を返したシャロンは、皆の元に向かいそのことを報告しながら、皆に無線機を手渡した。
「サンフランシスコ国際空港貸し出しの件だけど、上層部からお許しが出たわ。ブロークン・クラッシャー、私はこの場所を選んだ理由は、あの事故が起きた忌まわしい場所付近だからよ。決着を付けるのには、もってこいの場所だと思わない?」
「それもそうだな‥‥」
 険しい表情のまま、シャロンの案を受け入れたブロークン・クラッシャー。
「マリガン、アメフトもキメラ退治も一緒ッス。一人で出来る事なんてタカが知れてるッスよ。アメフトのクォーターバックの予想を超えることが致命的になることも良くあることッス。過ぎた事を悔やんでも、憎んでも何しても自由ッス。それをできてるヤツは、そう多くは無いッスけど」
 そういう事態を繰返させない為に何が最善の手段なのかを冷静に考えて実行して欲しいと、陽気なエスターにしては珍しく、最後に真面目にそう言った。
「今回のキメラは小竜型キメラとハヤブサ型キメラ二羽とのことだが、どのようにして誘き出すのだ? ラジコンでも使い、誘き出すか?」
 王零は、キメラとの戦闘は格納倉庫等の狭い場所や遮蔽物のある場所に誘い、そこで殲滅しようと考えてうえで皆に訊ねた。
「そうですね‥‥。ラジコンを使用し、サンフランシスコ国際空港の格納庫にキメラを誘き寄すのは良いかもしれません。ラジコンは前衛の方々が操作する、というのでいかがでしょうか? 後衛である私とエスターさんが、キメラ出現に備えて待機します」
「偶然ね、シメイ。私も、飛行機型のラジコンを高空に飛行させ、キメラの警戒網として誘導して互いが認識できる距離まで接近するよう考えていたわ。その後、皆が誘導して、飛行機用格納庫まで誘き出すってのはどうかしら?」
 王零、シメイ、シャロンの提案に「異議無し」と声を揃えて言う能力者達。
「私もラジコンを操縦したいのだが‥‥」
 淡々という冥姫が協力を申し出たので、アキラは心強く思った。
「宜しく頼むよ、冥姫」
「はい‥‥」
 ブロークン・クラッシャーは、その様子を見て「くだらん」と、聞こえないように吐き捨てるように呟いた。
「ラジコン飛行機の操縦は私がしよう。キメラを刺激し、誘き寄せれば良いのだな」
 ラジコン飛行機でキメラを誘き出す担当は、全員一致でアキラに決まった。

 殲滅方針が決まれば、最終便が飛び立ち、空港が閉鎖されるまで待機するのみ!

●幸福を破壊したモノ
 サンフランシスコ国際空港の最終便が飛び立ち、閉鎖されたのを確認した能力者達は、空港内に忍び込み、作戦を実行することにした。
 殲滅対象は、小竜型キメラ『ワイバーンパピィ』一体とハヤブサ型キメラ『サンダーファルコン』二羽。いずれも飛行タイプで動きが素早いので、能力者達は苦戦を強いられることになる。
 サンダーファルコンに関しては、雷雲の中でも素早い動きでエンジン一基を破損させたので、鳥目という不利な特徴は取り除かれていることだろう。
 空港の飛行機格納庫に待機していた玲於奈は、風向きを計算しつつ、狙撃に絶好の場所として高所並びに遮蔽物に恵まれた場所を確保し、双眼鏡を片手に敵の動向を観察していた。
 様子を窺っていたその時、キメラらしき飛行生物を発見。
「敵のお出ましのようだな‥‥」
 キメラ三体を確認した玲於奈は、無線機で全員に連絡した後、照明弾で出現位置を知らせた。
「キメラが出現したようです。格納庫内で戦うのはまずいと思うので、外で戦闘を行いましょう」
「私も水鏡と同じ意見だ。それじゃ、ラジコン操縦をするかね」
 アキラは、ラジコン飛行機を飛ばしてキメラを刺激して格納庫に誘き寄せたが、引っかからなかったので、シグナルミラーで反射した光を当てて挑発した。
「闇影よ、我が求めに答えよ」
 その様子を見た王零は、覚醒していつでも戦えるように備えた。
 冥姫もラジコンを操作し、キメラを飛行機格納庫周辺まで誘導しているが、操縦初体験なので、ぶっつけ本番である。
「まあ、操縦が出来れば良かろう」
 初めてにしては上出来な飛ばし方なので、キメラの誘導には成功している。

 最初に出現したのは、サンダーファルコン二羽。
「ハヤブサは驚異的な飛翔速度が最大の武器だが、最大の弱点でもある。一度避けてしまえば、こっちのもんだぜ!」
 サンダーファルコンの一羽が武流に向かって突進したが、武流は『瞬天足』で即座に避け、即座にショットガン20を叩き込んだ。
「やったぜ‥‥って、まだ生きてる!」
 確実に仕留めたと確信した武流だったが、サンダーファルコンの速度は落ちていない。倒すほどのダメージを与えることができなかったようだ。
「畜生‥‥皆、素早い動きに気をつけて倒せっ!」
 武流の言葉を聞いた能力者達は、一斉に攻撃態勢に。
 シャロンは『豪力発現』で体力を強化した後にバックラーでガードし、サンダーファルコンを力で押し返して姿勢を崩したところを『流し斬り』で翼を斬りつけて飛行能力を奪い、落下させることに成功。タイミングを合わせたかのように、王零が『豪破斬撃』で威力を上げた蛍火で真っ二つに切り裂いた。

 残る一羽は、急降下で突っ込んできたサンダーファルコンの降下点に『瞬天速』で割り込み、アミッシオを盾に体当たりしてブロックしたアキラが動きを防いでいる隙に、シメイが『狙撃眼』で洋弓「アルファル」の性能を最大限まで引き出した後に『鋭覚狙撃』で翼を狙った。
「一応命中力には多少自信がありますので、なんとか射ち落としてみせます」
 狙いを定めると、シメイは弓をつがえ一気に矢を放ったが、速度が落ちる程度のダメージしか与えることができなかった。
「フルボッコ、お外でリンチッス! タイミング良く撃つッスよ〜!」
 エスターが『鋭覚狙撃』で胴体部分を打ち抜いたことで、撃退に成功!
「やったッス!」
 撃退成功に大喜びのエスター。

 残るはワイバーンパピィ一体のみとなった。
 能力者達はワイバーンパピィの攻撃を極力回避し、攻撃のチャンスを窺っていたが、ブロークン・クラッシャーのみ、突進して大剣を振り回して攻撃を仕掛けた。
「無闇に攻撃するんじゃねぇよ、この馬鹿!」
 武流の忠告を無視し、ブロークン・クラッシャーは更に攻撃を仕掛けている。覚醒したことで全身の筋肉が硬くなっているためか、受けたダメージは致命傷でない程度だ。
 シャロンは、パワーではブロークン・クラッシャーに劣っているため、ガードに徹している。
「‥‥まだまだ! どこからでもかかってらっしゃい! 皆、私がガードしている間にコイツを倒して!」
 シャロンの行為を無駄にしてはいけないと、皆、一斉に攻撃を仕掛けた。
 小型とはいえ、素早い動きの竜型キメラなので侮ることはできないのは承知のうえ。
「コイツに関しちゃ、ショットガン20の弾を全力でぶつける以外に方法はねぇな‥‥」
 武流は、ショットガン20を構えると無造作にワイバーンパピィめがけて発砲したが、全て外れたのを見計らったアキラは、できるだけ距離を取り、小銃S−01で貫通弾をリロードして反撃。それが功を奏したのか、ワイバーンパピィの速度が落ちた。
 落下するワイバーンパピィに向かいジャンプした玲於奈は、上手い具合に懐にもぐりこむと『豪破斬撃』で威力を上げた蛍火の柄を力強く握り締め、一気に斬りかかった。
「フフ‥‥その身を穿ち、貪るからこそ『渇望の王』に得物は無いと知るが良い!」
 その呟きと同時に、ワイバーンパピィの身体は真っ二つに。

 こうして、ジャンボジェット墜落の元凶であるキメラ殲滅は終了し、依頼は成功を収めた。

●ブロークン・クラッシャーとの決着
 依頼は成功したものの、まだ問題が残っていた。
「ブロークン・クラッシャー、ケリ付けるって約束、忘れちゃいないだろうなぁ?」
 立ち去ろうとするブロークン・クラッシャーを挑発する武流。
「忘れてはいない。おまえのような奴は、素手で十分だ。来い!」
 武流以外の能力者は、二人の決着を見守ることにした。
 パンチ中心にミドル・ローキックで距離を取り、ハイキックで仕留めようとした武流だったが、ブロークン・クラッシャーの強烈な拳が、鳩尾に命中した。
「ぐはっ‥‥!」
 そのまま地面に叩きつけられるかと思いきや、武流は痛みを堪え、即座に体勢を立て直した。
「おまえ‥‥どうしようもない怒り、悲しみをぶつける先がわからないんだな。大切な人を失った悲しみ、怒りの感情を持っているのはおまえだけじゃない! ここにいる皆もだ! 甘ったれんじゃねぇ!」
 武流の必死の訴えに、ブロークン・クラッシャーの険しい表情が崩れた。
「救えない命だってあるけど‥‥それでも救おうとすることが大事なんじゃねぇのか? 俺は‥‥これ以上、おまえのような奴を作りたかねぇ‥‥」
 そう言うと、ダメージに耐えられなくなった武流は倒れた。
「汝は、姉が死んだのをUPC軍のせいと言っているがそれはお門違いだ。そんなに大事なら、己で守れば良いものを。それをせず、UPC軍に任せておいて死んだらそのせいだと? 汝は、一般人と違い守る力を持っていたにも拘らず他人任せにした。その時点で、汝に他人を批判する権利など無い。批判するなら、非力な己を批判しろ。悲しいのは、汝だけではない。武流が言うように、汝以外にも悲しみを持つ者は大勢いるのだ。その悲しみを耐えることが出来ぬのなら、同じ悲しみを生み出さぬよう、我らに力を貸せ。汝には、それだけの力があるのだ」
 王零の会話は責めるような感じの切り出し方だったが、最終的には、ブロークン・クラッシャーの力を求めているようなものであった。
「ブライアン、おまえの姉の仇のキメラは消えた。これ以上、一体何を望む。私は、おまえの前の姉のことは知らん。だが、おまえの記憶の中の彼女は、今のおまえを見て喜んでいると思っているのか?」
 冥姫の言葉に、ブロークン・クラッシャーは生前の姉を思い出していた。
 自分のことより、彼のことを親身に考え、彼の幸福を望んでいた姉。
 早くに両親を亡くした悲しみに暮れる幼い彼を、姉は、そっと抱き締めて涙が止まるまで宥め続けた。

「姉貴‥‥」

 ブロークン・クラッシャーの表情が哀愁漂うものに変わった瞬間、頬に涙が伝った。
「リネーアさんも、表面上は冷静に振る舞っていたけど、内心は、あなたと同じぐらい傷ついてるわ。いつも見ている顔だもの、何かを我慢してる顔ぐらい見分けがつくわ。
依頼の報告は、できればあなたがして。そのほうが、きっとお姉さんも喜ぶから」
 シャロンの言葉に、ブロークン・クラッシャーは無言で頷いた。

 彼の姉は、天国でその様子を見ているのだろうか‥‥。