タイトル:【協奏】因縁遁走曲マスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/16 14:30

●オープニング本文



 風祭・鈴音(gz0344)撃破に伴い、沖縄の脅威は排除されたも同然となった。
 トリイ基地は機能喪失され、戦闘に巻き込まれた嘉手納町、読谷村の復興作業は順調に進み、住民達は平穏な日常を取り戻した。
 その合間に3姉妹が活動拠点としていた最北端バグア基地、トリイ基地の守将だったラルフ・ランドルフ(gz0123)の動向を探るものの一向に動きを見せる気配はない。
 追撃はもう少し後でと判断した沖縄軍は、復興作業を優先的に行うことに。
 復興作業の様子を見終えたソウジ・グンベ(gz0017)は、気分転換にと座喜味城に足を運んだ。大切な人に思いを伝えたあの頃、バグア軍との激戦に身を投じるとは思いもよらなかっただろう。
 思いを馳せながら城壁に向かう途中、かりゆしウェアを着た観光客に「写真を撮ってください」と声をかけられた。少しずつ解放に向かいつつあるので、観光客も増えつつある。
 平和になったなと微笑んでカメラを受け取ろうとしたが、いきなり腕を掴まれた。
「1人で観光か? 呑気なものだ」
 耳元で呟く低い声は、決して忘れることのないラルフのものだった。変装の達人たる彼にとって、観光客に化け、人混みに紛れ込むことは造作もないことだ。
「観光客に扮して俺に接触か‥‥どういう了見だ」
 自分を追い、危険を冒してまで変装してカンパネラ学園に侵入してきた男だ。何をしでかすかわからない。他の観光客を危険に晒さないよう、冷静に対応する。
「そろそろ貴様との決着をつけようと思ってな‥‥俺を倒したくば、最北端の基地に来い。そこで待つ。バグア軍を率いてな」
 思いもよらぬ宣戦布告だった。
「決着は必ずつける。いずれかの死をもって」
 そう言うと掴んでいたソウジの腕を離し、振り返りもせず去って行った。
(あんた‥‥何でそこまで俺に拘る‥‥)
 命を狙われる理由がわからないまま、来たるべき最終決戦を憂い軍にラルフからの宣戦布告を伝えるソウジだった。


 左大腿部の傷が癒えたのを見計らったラルフは、最北端バグア基地に落ち延びていた。ここに来た理由は、沖縄に残されているバグア基地がここしか無いからだ。
 部下だったハルハナが指揮官だった基地は沖縄軍基地として転用され、それ以外は沖縄軍により機能喪失、あるいは破壊された。
(決起する時は熟した。今度こそ‥‥奴を消す!)
 円舞曲、交響曲での戦いで自力でどうすることもできないと悟り、鈴音が襲撃前に与えてくれた兵力を総動員して臨むことに。というが、それだけでは兵力が足りない。
 そこで思いついたのが沖縄各地に散らばる残党をかき集めることだが、合流するのには地理的条件からして難しいので即戦力というわけにはいかない。
 このままでは沖縄軍との決戦に臨むことはおろか、反撃すらままならない。
 自身が動くしかない。
 バグア軍の士気向上を望めないと判断したラルフは、私怨を晴らすべく仮の指揮官として自らバグア軍のトップに立つ。
 バグア基地にいる兵力をすべて集め、冷徹な表情を変えず宣言する。
「風祭・鈴音の弔い合戦のため、沖縄軍に全面的に戦いを挑む。その意思がある奴は俺についてこい。全軍の指揮は俺が執る。以上だ」
 鈴音の兵力、残党の中には未だに鈴音を崇拝する者もいて自分が良く思われていないことを知っているからこそ、弔い合戦を理由に強引にでも自分に従わせる。
 すべてを言い終えると、ここに用はないと踵を返し基地指令室へ。
「くっ‥‥!」
 その最中、激しい頭痛がラルフを襲う。ヨリシロとした生前のラルフと、現在のラルフの記憶が頭の中で入り混じる。
 頭の中を駆け巡るのはヨリシロの妻と息子、ハルハナ、3姉妹、鈴音。様々な人物が交差する中、鮮明に過るのはソウジだった。
(今度こそ‥‥今度こそ必ず俺の記憶から邪魔な貴様を‥‥!)


 ラルフからの宣戦布告をソウジは上層部に報告した。
「ラルフ・ランドルフの現所在地は、四国に落ち延びた3姉妹が活動拠点としていた最北端基地と判明しました。今はまだ動きがありませんが、近いうちに何か仕掛けてくるでしょう。そうなる前にこちらから攻め込みたいのですが宜しいでしょうか」
 宣言したからには、ラルフはバグア軍総動員で待ち構えるだろう。
「ラルフが何故きみに固執するかはわからんが、勝負を挑むからには余程のことがあったのだろう」
「‥‥何があったかは申し上げられません。ですが、挑まれたからにはラルフとの決着をつけます。個人的なことに沖縄軍を巻き込んでしまいますが‥‥」
 個人的な事情に、平和を取り戻した沖縄を再び戦火の巻き添えにするのは心苦しかった。
 それでも、真の平和を得るためには今度こそラルフとの決着をつけなければならない。どちらかの死を以て。
「気にすることは無い。バグア軍を殲滅しなければ、沖縄は完全に解放されることはない。ソウジ・グンベ少佐に命じる。最北端沖縄基地破壊、ならびにラルフ・ランドルフを撃破せよ!」
「はっ!」


 最北端基地を破壊すべく、沖縄軍歩兵部隊、実戦部隊は紋章も柄も無い青い旗を持つソウジの指示を待つ。
「今度こそラルフとの勝負に決着をつけてくださいね、少佐。我々も全面的にお手伝いしますよ」
 実戦部隊を指揮する渡嘉敷大尉がプレッシャーを押しのけようと声をかけてくる。
「すまん、協力頼む」
「了解! 俺も頑張りますよ」
 そんな2人が話している最中、歩兵部隊の兵士からバグア残党が基地に向かい北上中との報告が。
「残党は多数のキメラを引き連れこちらに向かっています! バグア、キメラの数は把握できません!」
「それだけ数が多いということか‥‥」
 ラルフ撃破、基地破壊活動だけかと思っていたが、残党も相手にすることになるとは‥‥。
「渡嘉敷、数は多いが戦えるな?」
「もちろんです! 沖縄軍実戦部隊の底力、奴らに見せつけます!」
「傭兵、歩兵部隊、実戦部隊に告ぐ。バグア軍指揮官ラルフ・ランドルフを倒し、バグア基地を跡形もなく破壊せよ! 沖縄をバグアの手から完全に解放するんだ!」
 振り下ろされた青い旗が、決戦の合図となった。

 完全なる沖縄解放、ソウジとラルフの因縁に終止符を打つ決戦の火蓋は落とされた。

●参加者一覧

/ リュイン・グンベ(ga3871) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 風閂(ga8357) / 千祭・刃(gb1900) / クレミア・ストレイカー(gb7450) / 夢守 ルキア(gb9436) / サウル・リズメリア(gc1031) / レインウォーカー(gc2524) / 音桐 奏(gc6293) / 祈宮 沙紅良(gc6714) / ジョージ・ジェイコブズ(gc8553

●リプレイ本文

●因縁の時、来る
 ソウジ・グンベ(gz0017)率いる沖縄軍と傭兵達は、作戦決行の時を待っている。
「動いたか、ラルフ・ランドルフ。ヤツを倒さぬ限り、沖縄は真に解放されたとは言えん。それにソウジも‥‥解放されない。故に、我はラルフを倒す」
 アメリカから続いているソウジの因縁、カンパネラ学園での一件に関わっているリュイン・カミーユ(ga3871)が決意を固める。
「未来のお義兄サマとしてはー、さっさとソウやんが落ち着いてくれナイと困るんだヨネ。今でもリュンちゃんあげたくないとは思ってるケドね!」
 妹に幸せになってほしいという理由で参戦したラウル・カミーユ(ga7242)。
「コレはリュンちゃんの為のお手伝いだからネ。別にソウやんの為じゃナイんだカラッ!」
 夜想曲以来の顔合わせとなるクレミア・ストレイカー(gb7450)と風閂(ga8357)は、今回の依頼を成功させようと意気込む。
「主死すとも配下死なず‥‥か?」
「そうだな。ラルフ・ランドルフがまだ残っていたとは‥‥。風祭撃破で沖縄が解放されたと思っていたが、簡単に倒せそうもない相手がまだ残っていたか。ラルフを必ず撃破し、沖縄を完全解放する。今度こそ故郷に確実たる平和を!」
「張り切っているわね。頑張りましょう!」
 恩師たるソウジの手助けをすべく参戦したのは千祭・刃(gb1900)は、敬礼して沖縄軍と仲間に挨拶を。
「皆さん、よろしくお願いします! グンベ先生、お久しぶりです。沖縄軍少佐に昇進されたんですね。遅くなりましたがおめでとうございます。カンパネラ学園の教え子として先生、もとい、少佐のお手伝いに参りました!」
「ありがとう、心強いよ。こちらこそよろしく頼む」
 
 緊張した雰囲気を打ち破ったのは、沖縄美女のためという動機で参戦したサウル・リズメリア(gc1031)。動機はともあれ、士気上昇とやる気は人一倍。
「待望の俺、到着! リュイン、終わったら飲みにいかねぇ? 俺の奢りでいいし、ツレがいても超歓迎だぜ」
「そうだな‥‥考えておこう」
 婚約者がすぐ側にいると知ったら、サウルはどのような反応を示すだろうか。
「戦力差を考えれば厳しい戦いになるんだろうけど、負ける気はしないなぁ。頼りになる仲間がこんなにいるんだしねぇ」
「その通りですね」
 沖縄での激戦を幾度となく潜り抜け、鈴音撃破の立役者となったレインウォーカー(gc2524)と音桐 奏(gc6293)は、サウルや夢守 ルキア(gb9436)をはじめとする仲間がいることが心強いと思った。

 集まった傭兵達は、3つの班に分かれることに。
 ラルフ撃破を担当する撃破班はリュイン、ラウル、風閂、サウル。
 撃破班の突破口を開き、実戦部隊の手助けをする基地撃破班はルキア、レインウォーカー、奏。
 基地に合流すべく北上中のバグア残党を足止めするの残党班は刃、クレミア、祈宮 沙紅良(gc6714)、ジョージ・ジェイコブズ(gc8553)。
「役に立つかどうかわからんが、これを皆に渡しておく」
 ソウジが手渡したのは、沖縄軍と諜報部が最近の調査を元に作成した基地内図だった。簡易的なものだが、役に立つだろう。基地の何れかにラルフがいると、撃破班は内部を頭に叩き込む。
「では、作戦を開始する。各々の持ち場についてくれ」
「その前にひとつ確認したい。ソウジ殿、本当にラルフに関わらなくて良いのか? 因縁ある相手なのだろう?」
 沖縄での因縁しか知らない風閂だが、2人の間によほど深い何かがあると感じている。
「私はグンベ少佐とラルフ・ランドルフに何かあったのかは存じませんが、本当にこのままで宜しいのでしょうか‥‥」
 沙紅良も心配するが、歩兵部隊を率いる身だと頑なに拒む。
「作戦に私情を挟む気はない。わかったら早く行け」
「‥‥わかったヨ、ソウやん。僕らはラルフぶっ倒しに行くワケだケド、気が向いたらソウやんも早くおいでネ」
 手をヒラヒラさせ、撃破班を促すラウル。
「気が変わったら来てくれ。待っておるぞ」
 それに続き、風閂達はそれぞれの武器を手に基地に駆け込んでいく。

●いざ敵陣へ!
 撃破班が基地に侵入するまで、破壊班と実戦部隊は行動を共にすることに。
(どうやって突破口を開こうかな)
 双眼鏡で周辺のタートルワームやレックスキャノンの位置を確認したルキアは『隠密潜行』ですり抜けられないか考えたが、誰かが引き付けないと難しいかもと諦めた。
「閃光手榴弾を放り投げて突破でもいいか。皆、今からこれ使うから閃光と音に気を付けて!」
 注意を促してからピンを抜き、行く手を阻むキメラや教化人間達の中に放り込む。激しい閃光と音が止むと、視界を遮られたモノはパニック状態に。巻き込まれたタートルワームとレックスキャノンが何体かいたが、無人なのか影響を受けていない。
「ここはボクらに任せて行け、サウル。勝って生きて帰って来いよぉ」
「任せたぜ隊長! 沖縄美女のためラルフを倒してくる!」
 相変わらずだねぇと刀を構えるレインウォーカーに続き、奏も声をかける。
「無茶や無理をするな、とは言いません。ですが、必ず生きて帰りなさい。私達の隊長からの命令ですからね」
「了解!」
 突破する間に何が起きるかわからないので、用心に越したことはないとサウルは『探査の眼』を発動。
「渡嘉敷殿、破壊班と共に基地に侵入する手助けを頼むぞ!」
「わかりました、ここは実戦部隊にお任せください!」
 威勢良く基地に乗り込む撃破班を援護すべく、渡嘉敷は実戦部隊を率いて一気に攻め込んでいく。その間にタートルワームとレックスキャノンが行く手を遮るかのように出現したので、風閂は相手しようと立ち止まる。
「何立ち止まっているんだぁ? さっさと行け。こいつらの足止めはボクらの役目だぁ」
 ボクが相手をする、とレインウォーカーが代わりに相手を。
「きみは基地に行くんだろう? ここは私達が何とかする。レイン、奏君、派手に動き回って、撃破班へ流れる敵を少なくしよう」
「ええ、私たちの役割を果たして見せましょう。さあ、早く基地へ」
「すまぬ、恩に着る!」
 礼を言い仲間に合流する風閂だったが、その間にもキメラが迫りくるので薙ぎ払いながら駆け抜ける。
「行く手を阻む者は誰であろうと容赦せぬ!」

 突破口を作成し終えると、ルキアは強化人間やキメラの五感を狙う。
「生体兵器は五感があるし、影響も与えやすい。Joker、斬り込んで」
 そう指示すると『電波増幅』使用後に超機械で攻撃。
「ボクは前に出て踊ってくる。後ろは任せたよぉ。それと、ボクに当てたら斬るからなぁ」
「それは怖いですね。ではいつも通り、よく狙って撃つとしましょう」
 派手に暴れ回ることで陽動役となり、撃破班が動きやすくするよう、レインウォーカーは刀を振るい踊りと称した戦いに身を投じ、組んで行動する奏は攻撃しやすいよう小銃を用いた射撃で足止めを。
 群がる敵の攻撃は極力回避するが、避けられなかったもののみ刀で受け止め防御。
「それ以上動かせませんよ」
 動きが止まった敵の動きを『影撃ち』で止めを刺し、相棒の手助けを。
「さすがはボクの相棒だねぇ」
 回避直後に生じる僅かな隙を見逃さず、刀での斬撃を主軸とした脚甲での蹴りを織り交ぜたカウンターを仕掛ける。
 派手な立ち回りが仇となったのか、2人はタートルワームとレックスキャノンの標的となった。
「囲まれてしまいましたか。支援だけが取り柄じゃないんですよ。私も時には派手に踊りたくもなりますしね」
 行動を妨害すべく貫通弾を装填し攻撃力を上げると、奏は『制圧射撃』と『部位狙い』で攻撃する。
「どうした鈍間ぁ。ボクはここだよぉ」
 挑発しながら『高速機動』を使い、足元狙い動きを鈍らせていくレインウォーカー。
 そうはさせまいと威力が高い攻撃を仕掛けて来たので、やられまいと『迅雷』で緊急離脱するが強化人間に阻まれた。
「邪魔だぁ」
 刀で追撃しながら『刹那』を用いた蹴りで倒していく。
「音桐、こいつを蹴り飛ばすぞ!」
「わかりました。いきますよ」
 2人は足並みを揃え、タートルワームに駆け寄ると息の合った蹴り技を足元に繰り出した。
 奏のステュムの爪、レインウォーカーの脚甲がヒットしたことで体勢を崩す。
「覚悟はできていますね。では、さようなら」
 至近距離から小銃での射撃で追撃をし、レインウォーカーに止めを刺すことを任せる。
「さあ、壊れなさい」
「嗤え」
 容赦無い猛攻により、タートルワームは倒れた。

●必死の足止め
 その頃、残党班と歩兵部隊は北上するバグア軍の足止めを。それだけではなく、作戦を何も知らされていない沖縄市民を守る役目もある。
 作戦実行前、沙紅良はソウジの副官的存在である軍人に交渉を。
「想いに決着をつける為にも、グンベ少佐が基地へ向かえるよう協力して頂けませんか? 当初の予定を考慮すれば、軍務には反しないはずです」
 自分も気になっていたという軍人もラルフの元に向かわせたいと思っていたので、ソウジを合流させる協力をすることに。
 刃はソウジが落ち着きがないのに気付き、基地に行かないのかと訊ねる。
「少佐、指揮官のラルフとかいうバグアのお相手しなくていいんですか?」
 因縁関係については全く知らないが、ラルフの元に向かいたいという気持ちは何となくわかった。
「お相手したいのでしたら撃破班に合流してください。ここは僕達傭兵と歩兵部隊の皆さんにお任せください! 必ず食い止めて見せますから」
「気遣いは無用と言ったはずだ」
 2人に割って入り、説得に加わったのは協力に応じた軍人と沙紅良、ジョージの3人。
「援軍としては俺達傭兵と歩兵部隊で十分かと。因縁相手となれば、逃げるのを防げるかもしれません。私情かもしれませんが、理にもかなっていますよ」
「少佐の戦場は此処では御座いません。すぐに基地へお向かい下さい。こちらにいる方の確約は頂いております。恋人に決着を任せるような男は沖縄軍の男では御座いませんよね、皆様」
 歩兵部隊を煽り、意地でもソウジを基地に向かわせようとする。皆、うんうんと頷き沙紅良に同意する。
「少佐が此処にいらっしゃる事が知れれば、ラルフが現れる可能性も御座います。そうしますと、今回の作戦を何も聞かされていない住民への危険が高くなりますわ」
「基地に行ってください、グンベさん!」
「嫌だと言っても、強引に行かせますよ?」
 ジョージと刃に迫られたことで観念したのか、説得に折れたソウジは基地に向かうことに。
「‥‥わかった。ここは皆に任せて良いな。任せるからには、絶対に足止めするんだ。これは沖縄軍少佐としての命令だ」
「ここは私達に任せて、ソウジさんは早くラルフのところに!」
 任せて! と胸を叩くクレミアも後押しする。
「こんな事もあろうかとバイクをご用意しました。これで行ってください」
「悪いな。借りるぞ!」
「どうぞ御武運を」
 SE−445Rに乗ると、ソウジは迷うことなく基地に走り出した。
(今度こそ決着をつけよう、先輩‥‥)

 いざという時の足止め用にとジョージは歩兵部隊に手伝ってもらいバリケードを設置。
「後で人が戻ることを考えれば、壊さないに越したことはないですが‥‥」
「仕方ないわよ。こういう事態なんだし」
 クレミアは覚醒し、貫通弾を用意すると歩兵部隊前衛を護衛すべく動く。
「皆様、その前に‥‥」
 沙紅良が周囲にいる仲間に『練成強化』を。
「ありがとうございます。多数のバグア、キメラ相手ですので長期戦は覚悟しないとですね。沖縄のためここから先は通しませんよ!」
 刀を構えた刃も戦闘態勢に。
「来たわね。何処を向いてるのかしら? こっちよ!」
 狙いを定め、クレミアは迫り来る強化人間に向けFFを破壊すべく拳銃に込めた貫通弾を撃つ。回避防止にと立て続けに発砲し、ある程度少数になったのを見計らうと小銃に持ち替え『制圧射撃』で攻め込む。
「付近住民の避難状況にも気を配らないとね。危険に晒すワケにはいかないわ」
「それ、同感」
 何事にも運は大事と『GooDLuck』を発動したジョージがキメラを撃つが、撃ち残した何体かが接近してきた。
「接近戦も想定内だぜ。フンヌァ!」
 やられてたまるかと銃床でキメラを殴る。
「防衛ラインに穴を開けるわけにはまいりません。私も頑張らないと‥‥」
 押され気味にさせまいと『呪歌』で援護する沙紅良は、前線で防衛ラインの維持に努め、射程に応じて超機械と知覚剣を併用し敵を倒していく。
「先に進ませませんよ! 住民の皆さんを巻き込ませないためにも!」
 数が多すぎるのも問題ですがと言いつつ、キメラを刀で薙ぎ払う刃。
 歩兵部隊の奮闘もあり、残党は近辺集落に向かわずに済んだ。
「あらかた足止めが成功しましたね。他の皆さんにお知らせします」
 撃破班、破壊班に近況報告しようと無線機を取り出した刃だったが、まったく通じない。
「撃破班は基地内部なので通じないのかもですが‥‥破壊班に通じないのは何故でしょう?」
「ここ、バリバリのバグア軍エリアじゃない? それが原因じゃないかしら?」
 クレミアの言うとおり、バグア支配地では通信できない。
「そうなんですか‥‥」
「通信ができないとなると、朗報が来るまで足止めするしかないでしょう。歩兵部隊の皆さん! 防御陣形ですよ、防御陣形!」
 長期戦に備え、ジョージは『防御陣形』を範囲内にいる歩兵部隊に。

●暗躍者現る
 残党班が通信不可能に落ち込むことなく足止めしている最中、ルキアは一歩下がった箇所から戦況を観察、余力を残しつつ相手の行動を待ち一気に攻撃に移る戦法に。
「攻撃の瞬間、防御が疎かになる。大きな動作の前だトカね、呼吸は止めちゃダメなのさ」
 基地壁際に追い詰められないよう、斜めからの攻撃を心がけ受け流していく。
 その間、破壊班、実戦部隊関係なく負傷した者を治療していく。
「大丈夫?」
「ありがとうございます‥‥。こんなところでへこたれていてはソウジ少佐に怒られちゃいますよ。少佐は今頃」
 今頃足止めしていますからと言おうとした渡嘉敷だったが、基地に向かうSE−445Rに乗っているのがソウジであることに驚いた。
「しょ、少佐!? 何故ここに!?」
「話している暇はない、こいつを頼む。傭兵からの借り物だ、壊すなよ!」
 渡嘉敷にバイクを押し付け、振り向くことなく基地内部に駆け込む。
「何だかんだいって、結局来たんだね、ソウジ君」
「‥‥そのようで。実戦部隊も負けてはいられません! 皆、一気に破壊するぞ!」
 ソウジが撃破班に合流したことで実戦部隊の士気は一気に上がり、戦力に勢いが増す。それに加え、ルキアの警戒力もあり実戦部隊は基地外部壊滅状態に持ち込んだ。
「敵戦力はだいぶ削がれたようだねぇ。実戦部隊に管制室等の基地内部の破壊を要請するかぁ」
「そうですね。ルキアさんにお伺いしてみましょう」
 渡嘉敷の側で援護しているルキアの元に向かった2人は、どうすべきか話し合う。
「基地は格納庫トカ、ついてるのかな? 大体は中枢に、管制や動力庫があると思うケド」
「ソウジからもらった内部図だと、中枢部にあるみたいだねぇ」
「でしたら、中央へ進軍すべきですね。ですが、私達は基地を破壊する役割が‥‥」
 どうすべきか思案していた奏に、ここは実戦部隊に任せてくださいと渡嘉敷が後押しする。
「これまで様々な激戦を潜り抜けた沖縄軍を甘く見ないでください。早く!」
「助かるよ、渡嘉敷君。行こう!」
 徹底的に破壊したい破壊班とラルフを狙う撃破班は、目的地が異なるわけではない。
 ならば共に行動しても良いはず。
 そう判断したルキアは『隠密潜行』で警戒しつつ直感で基地内部に駆け込んでいく。
「いくぞ、音桐」
「はい」

 基地潜入に成功した撃破班は、罠があるかもしれないと『探査の眼』を発動し、先陣切ったサウルを先頭にラルフ探索を。
「ラルフはどこだぁー! 悪い奴はいねーがー!」
「ナマハゲではないのだが‥‥」
 風閂が真面目な顔で突っ込む中、ソウジ暗殺計画での一件もあるので、ラルフがこの中に紛れこんでいるのではと考えるリュインとラウル。
「この期に及んで変装などと姑息な真似はするまいな」
 半ば挑発めいた言葉を聞こえるか聞こえないか程度で呟く。
「ラルフが総指揮を取っているのだろうから、居る可能性が高いのは司令室だろう」
「総指揮的には司令室にいる可能性が高いカナー?」
 その可能性が高いと、一斉に基地最奥部にある司令室を目指す。その途中、風閂の姿が見当たらなくなった。
「あれ? カンちゃんは?」
 ラウルがキョロキョロ探していると、息を切らして駆け付けた。
「すまぬ。ここに向かう途中、強化人間に出くわしてな」
 ハルハナがいたかつてのバグア前線基地、トリイ基地に配下の強化人間がいたのでここにもいると警戒していたら案の定。足止めを買って出て、少しでも仲間をラルフの元に向かわせようとしていたのだとか。その間に負傷したが、素早く『活性化』で回復。
「ソカ、ご苦労サン。皆揃ったネ。それじゃ、ラルフに会いに行こうカ」
 進行中、リュインはエネルギーガンで設置されている監視カメラを破壊。風閂の件もあり、皆、強化人間がいつ攻め込むかと警戒を怠らず。
「敵はいないようだ。急ぐぞ」
 曲がり角で一旦停止し、リュインが誰もいないことを確認し進む。念には念をと、サウルの『探査の眼』も頼る。

 強化人間に邪魔されながらの侵攻となったが、何とか司令室前に辿り着いた。
 待ちきれないと言わんばかりに、リュインがドアを蹴破って中に入る。
「来たか」
 予測していたかのように、腕組みをして余裕の態度を見せるラルフが待ち構える。
「来てやったぞ、ラルフ・ランドルフ! ソウジの半身たる我が相手だ、不服は言わせん」
「面白いことを言う女だ」
 フッと笑い、全身を嘗めるように見る。それに対しリュインは睨みつけたまま何も言わず。
「まあいい。まずは貴様から始末してやろう」

●基地内の激戦
 コートの懐からナイフを取り出し、素早くリュインの喉元を掻き切ろうと動き出す。手にしているナイフだが、ハルハナの部下が遺品だと手渡したものだ。
 部下の中で使える手駒であったこともあり、ラルフはハルハナを重宝していた。そんな彼女を倒した傭兵が如何ほどの力かを、ハルハナの愛用武器で確認してみたいと思いこれを選んだのだった。
「リュンちゃんに手出しさせないヨ!」
 照明銃で目を狙い撃ち、目くらましをしたラウルに出鼻を挫かれた。
「くっ‥‥!」
「リュンちゃん、今のうちダヨ!」
 兄がくれた好機を逃さないと目が眩んだことで動きが止まったラルフに『練成弱体』をかけ、隙を埋めるようにヒットアンドアウェイの斬撃を繰り出す。
「おのれぇ!」
 冷静さを欠いたラルフの手の内を見ては攻撃の軌道を読み、目前で体を沈め足払いで体勢を崩させたりと動くが、視界が開けたことで落ち着きを取り戻したラルフはそうはさせまいと身を躱し反撃する。
「させるか!」
 脚爪「オセ」でナイフを受け止め、アルメリアの盾でラルフを動きを食い止めるサウル。
「小賢しい! 失せろ!」
 飛び退くとナイフを放り投げ、ナックルに装備を換えてサウルに殴りかかる。
「やられてたまるかっての!」
 拳を盾で受け止め、破壊力を下にぶれさせて急所を攻撃されないように。
「おい、ラルフ! 因縁だか何だか知らねーけど! 殴り合って笑って握手っつー未来はねーのか!」
「殴り合って笑うだと? くだらんな!」
 不真面目な奴と言わんばかりに、露骨に不機嫌な表情のラルフは盾を払い除け拳を繰り出してくるが、お構いなしに話を続ける。
「俺は喧嘩は好きだが、戦争は嫌いだ! 俺は仲間の為にも死なねー、だから、戦う! 矛盾上等、仲間のいる場所が俺の場所だ!」
 仲間という言葉を聞いた途端、ラルフの心が一瞬揺らいだ。
 一瞬脳裏を過ったのは、生前のラルフの記憶。共に戦った戦友、部下。その中のひとりだったソウジ。ヨリシロとした男が信頼し、共に戦場を潜り抜けた仲間達の記憶が僅かに動きを止めたのだろうか。
「仲間‥‥だと? そのようなもの、俺にはいらん! 俺はひとりでやっていける!」
 4年前、ソウジを暗殺しようと変装してカンパネラ学園に侵入したものの、失敗に終わり追われる身となったラルフは各地を転々と逃亡、沖縄に辿り着いたところで鈴音に出会ったのだった。

『あなたは私に似ています。誰にも頼らず、自らの力で目的を遂げようとしているところが』

 初対面にも関わらず、鈴音はそう言った。
 自分に近い、あるいは同等の力があると感じとったのか、ラルフは鈴音の招聘に応じ、沖縄を暗躍していた。
(風祭に従ったのは因縁を断ち切るため。そのためなら誰にでも従おう。あいつをこの世から消すまでは‥‥!)
 幾度となく苦悩する記憶と感情。
 脳裏を過るヨリシロの妻と息子とソウジ。
 これらを抹消しなければ自身が消えてしまうと恐れたラルフは、執拗に妻と息子を抹殺しようと動いたが、その度にソウジに邪魔をされた。
(忌々しい存在を消すためなら俺は何だってする。この身朽ち果てようとも!)
 ラウルは仲間を『援護射撃』で支援し、攻撃精度を高めるとタイミングを計りつつ隙を埋めるように射撃。
 それを掻い潜り、風閂が接近する。
「ラルフ、何故ソウジ殿を狙う? 貴様とソウジ殿の間に何がある?」
 その問いに関しては何も答えず。
「‥‥答えぬか。沖縄に仇なす存在は倒す! 覚悟せい!」
 少しでも動きを封じようと、トリイ基地で負傷した左大腿部中心を狙う。古傷を攻めれば動きが鈍くなるだろうと判断して。
 姿勢を低くして左大腿部を斬りつけようとしたが、ラルフの強烈な蹴りが腹部にヒットしたので蹲る。更に風閂を甚振ろうとするラルフを、サウルは盾で食い止めた。
「邪魔だ! どけ!」
「どかねえよ!!」
(ギリギリまで耐えて、俺が引き付けりゃぜってー上手くいく!)
 覚醒変化と覚醒紋章を最大限に活かし、味方、特にリュインに攻撃が行かないよう持久戦に持ち込む。
 赤鎧「ネメア」の固い部分で攻撃を受けながらも、勢いを付けたまま回し蹴り、払いや踵落としを加えたりと近接戦に。
「気合いは兎も角として、近接戦が得意な敵に近接で挑んでも勝ち目ねーだろうけどやるぜ!」

●断ち切られた因縁
 司令室に向かうソウジだったが、強化人間に阻まれなかなか進めなかった。
 このままではラルフに会う前にダウンしそうだと弱音を吐きかけた時、背後から何人かが駆けつけてきた。破壊班として基地破壊に関わっていたルキア、レインウォーカー、奏の3人だった。
「ココは私達が食い止めるから、ソウジ君は早くラルフのところに行って!」
「私達にお任せください」
 迫り来る強化人間に攻撃しながら、先に行くように勧めるルキアと奏。
「派手に踊って、基地内部破壊といこうかぁ。ここにいると巻き込まれるぞぉ」
 邪魔だと言う視線を送るレインウォーカー。
「ありがとう、ここは任せる!」
 振り返ることなく、ソウジは最奥部に向かい走り出す。

「そろそろ決める!」
 リュインは『瞬天速』で側面を抜け背後に回りこみ、『真燕貫突』を付与した鬼蛍で背中から心臓部を刺突すべく更に正面に回ると袈裟斬り。ついでに、とエネルギーガンを至近距離で射撃。
「お‥‥おのれぇ! 許さんぞ女ぁ!!」
 怒りに我を忘れたか、険しい表情で叫ぶと拳をリュインの腹部に叩きつけた。
 拳によるダメージは予想以上に大きく、ヒットすると同時にリュインの体は壁に叩きつけられると同時にめり込んだ。
「くっ‥‥!」
「リュンちゃん! よくもリュンちゃんを酷い目に遭わせたナ! 許さないんだカラ!」
 ラルフが視界に入った状態で的を外したように見せかけた『跳弾』と『急所突き』を使い、間合いを詰めてから天照で斬撃。
「もいっちょ行くヨ!」
 更に駄目押しと再度『跳弾』と『急所突き』を。
「リュイン、大丈夫か?」
「ああ‥‥何とか‥‥」
 サウルに助け出されたリュインも反撃しようとするが、全身が痛み思うように動けない。
 限界突破を使用したラルフの攻撃力は増したが、その分、肉体が朽ちる時間も早まる。攻めるならその弱みにつけこんでといきたいところだが、皆、激戦に疲れ果て思うように動けない。リュインはそれに加え、先程のダメージがある。比較的ダメージが軽いラウルだが、彼だけではどうにもならない。
「ここか!」
 勢い良く司令室に入り込んで来たのはソウジだった。
「ソウやん、おっそーい! きっと来ると僕は信じてたヨ!」
 決着をつけに来たことに喜ぶラウル。サウルと風閂も来たことに安心する。
「遅いぞ、ソウジ。これで決着だ、やれ!」
 全身の痛みに堪えたリュインが攻撃を促す。
 限界突破によりパワーアップしたが、その分、肉体が脆くなったラルフの相手をするソウジもここに辿り着くまでキメラや強化人間を相手にしてきたので万全の態勢ではない。
 精神、肉体ともに限界に近い2人だったが、4年に渡る因縁に決着をつけるべく、どちからともなく動き出す。
「ソウジ・グンベ! 貴様をここで殺す!」
「させるか! あんたを倒し、沖縄を完全に解放する! それが沖縄軍少佐たる俺の役目だ!!」
 ナイフと刀が激しくぶつかり合う音が司令室に響き渡る。
 撃破班は、誰もソウジに加勢しようとしなかった。激しい戦いで満身創痍、疲労困憊な状態なのでできない。
 4人が見守る中、2人の激戦は続く。
「何故、俺を殺すことに拘る? それに何の意味がある?」
「貴様を倒さねば、俺は完全にこの男を支配できん! そのためなら邪魔な存在をすべて消す! この男の家族も! 貴様も!!」
 ラルフがソウジに拘っていたのは邪魔な存在であると同時に、生前のラルフの過去を清算するためでもあったのだ。
 その一言で、ソウジはそれを察知した。
「あんたはもう死んでるんだよ、先輩。ヨリシロにされた時点で既に‥‥。今、解放しますよ‥‥」
 背後に回り込むと、天照と月詠をおもいっきり突き刺した。
(さよなら‥‥先輩‥‥!)
 限界に達したのか、抵抗することなくラルフは止めを刺された。刀を突き刺したまま、ソウジは背に縋り付き誰にも見られないよう涙を流した。
「ふっ‥‥この俺が消えることになろう‥‥とは‥‥な‥‥」
 そう言い残し、立ったままの状態でラルフの身体はサラサラと崩れ落ちて消えた。

●蒼い空の下での解放
「ヨリシロの人、ゆっくり眠れるとヨイね」
 ラルフが消え去るのを見届けたラウルは、泣きそうになるのを堪えて呟く。
「‥‥汝もやっと解放されたな」
 痛む身体を引き摺ってソウジに寄り添うリュイン。 
 やったぜ! とサウルは喜び、風閂は結末を静かに見届けた。
 あらかた内部を破壊し終えた破壊班が司令室に着いた頃には、すべてが終わっていた。
「お疲れ様。今、治療するね」
 負傷が酷いリュインを優先にルキアは『錬成治療』を施す。
「早く脱出しましょう。実戦部隊が外部をすべて破壊すれば、ここもじき崩れ落ちます」
「行こうかぁ」
 治療を終えた撃破班は、破壊班と共に基地を脱出した。

 沙紅良にSE−445Rを返しに来た実戦部隊兵士から、残党班はラルフ撃破を知った。
「グンベ少佐、やりましたね‥‥」
 お役に立てて良かったと安心し、涙ぐむ沙紅良。
 ジョージは張り詰めていた緊張感が切れ、刃はやりました! と大喜び、クレミアは終わったのねと力が抜けた。
 北上中の残党は、ラルフ撃破、基地破壊を知ると自分達の出る幕は無いと言わんばかりに撤退していった。

 破壊班は基地を脱出すると、残っていた破壊作業をすべく実戦部隊に合流。
 キメラがまだ徘徊しているので、撃破班も加わり跡形もなく破壊し尽した。
 燃え盛る赤い炎に包まれた基地を、傭兵、実戦部隊、歩兵部隊の全員は無言で燃え尽きるのを待った。その間、誰ひとりとして言葉を発しなかった。
 作戦が終了すると、ソウジは近辺住民に今回の作戦のことを黙っていたこと、不安がらせたことを一軒ずつ訪れ、深く頭を下げ、丁寧に事情を話し謝罪した。
 住民は皆、沖縄軍を信頼していたから大丈夫と言ってくれた。それは何物にも代えがたいありがたい言葉だった。
 近辺集落は被害に遭うことはなかったので破損無しだったが、残党足止めとなった場所は損傷具合が酷かったので後日沖縄軍が責任もって修復することに。
 基地周辺をどうするかは、軍上層部が話し合って決めるだろう。
「終わったな‥‥完全に‥‥。これで、沖縄はバグアの手から解放されたんだな‥‥」
 澄み渡る蒼い空を見つめ、ソウジが呟く。
「皆、ご苦労だった。ラルフ・ランドルフ撃破、基地破壊は成功を収めた。我々が勝利したことで、沖縄は完全解放されたと言ってもいいだろう。良くやった!」
 ソウジが紋章も柄もない青い旗を掲げると同時に、周囲に沖縄軍の勝鬨の声が響く。
 傭兵と沖縄軍は勝利を素直に喜んだが、ソウジだけ浮かない顔だった。
 ソウジは覚醒の際にかけているサングラスを手に、ラルフのことを思い出していた。
 このサングラスはラルフが戦地に赴く際かけていたものだ。戦死した時もこれをかけていた。これはラルフの妻がソウジにくれた遺品だった。
「これはもう必要ないな。あの人もいなくなったことだし。もう一回休暇‥‥取れるかな」
 休暇が取得できたらアメリカにいる妻子に会い、息子に父の形見だとこれを手渡そう。そう決めると、少しだけ気分が楽になった。
 因縁はソウジが決着をつけたことで断ち切られ、沖縄はラルフの死をもって平和が齎された。

 2012年9月。
 沖縄県、11名の傭兵ならび沖縄軍実戦部隊、歩兵部隊の活躍によりバグアから解放。
 完全にとはいえないが、近いうちにそうなることだろう。