タイトル:【協奏】祈願の蒼海マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/20 22:07

●オープニング本文



 龍をかたどった爬竜船(はりゅうせん)と呼ばれる船による競漕と航海の安全、豊漁を祈願する伝統ある沖縄県最大規模の海人(うみんちゅ)による祭り、ハーリー。
 今年は風祭・鈴音(gz0344)、沖縄3姉妹による奇襲があると予測した沖縄軍だったが、軍全体の士気が上がり、沖縄解放の意思が強まったことを確信したので例年通り開催しても問題ないと判断。
 それもあるが、沖縄県側から是非開催したいという要望もある。
 沖縄軍は警護だけでなく、3日目の最後に行われる「御願(うがん)バーリー」に参加してほしいという要望もあったが、それは傭兵に任せてはと提言した。沖縄のために奮戦する傭兵達なら参加してくれるはず、と付け加えて。

 ハーリー1日目、2日目共にキメラの襲撃は無く、最終日である3日目を迎えた。空も豊漁と沖縄解放を祈願するかのように青く澄み渡っている。
 何事もなければ、16時半には予定通り御願バーリーと3代表地域による3隻の爬竜船による競争「本バーリー」が行われる。本島ではバグアの襲撃を受けたりしたが、それでも、この日のために代表チームのメンバーは練習を積み、成果を発揮しよう緊張している。
 ハーリー一般競漕があともう少しで終わりという頃、沖縄軍にキメラ接近という情報が入った。
「何てことだ。もう少しで御願バーリーが始まるというのに‥‥」
 ハーリー歌の歌い手を務める沖縄軍軍人は、青い海を見詰め、被害が及ばないことを願う。


 ハーリー開催地の港に接近しているのは、1体の水中用ゴーレムと2体のマンタ型キメラだった。
 水中用ゴーレムに乗っているのは、3姉妹長女・照屋ミウミの部下である。
(イラつくのはわかるが、八つ当たりだけはすんなよな‥‥)
 この部下、ラルフ・ランドルフ(gz0123)の態度に腹が立ったミウミにかなり八つ当たりされた。
「オバサンのヒステリーほど怖いもんはないってね」
 禁句である「オバサン」を思わず口にしたものだから、かなり手酷くやられたのは言うまでもない。
 このままでは腹の虫は収まらん! と鬱憤晴らしにハーリーを邪魔することにしたのだった。
「海で勝手なことしたら怒るだろうなぁ、オバサン。ま、いっか。ハーリー滅茶苦茶にしたら機嫌が直るだろう、多分」
 
 沖縄軍はハーリー会場警護のため、ゴーレム達の相手をすることができない。
 御願バーリーに参加する傭兵には申し訳ないが、軍の代わりに何とかしてほしい。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
風閂(ga8357
30歳・♂・AA
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST

●リプレイ本文


 ハーリー3日目。
 蒼く澄んだ空の下、夜想曲、嘉手納円舞曲と立て続けにバグアとの激戦が行われた沖縄だが、観光の目玉であり、毎年恒例の伝統行事「ハーリー」は例年通り行われている。
 盛り上がる沖縄県民、観光客がハーリー一般競漕に注目している間、6名の傭兵達は気取られないよう、北上する水中用ゴーレムとマンタを開催地に近づけさせまいと攻め込みに行く。
「バグアとの激戦の最中だが、ハーリーは例年通り行われているのだな。御願バーリーを成功させるためにも、水中用ゴーレムとマンタを倒す」
 故郷の伝統行事を守るべく参戦したのはいいが、初の水中戦、水中キットを慌てて用意した急ごしらえ装備のシコン改『鳴鏡』に騎乗する風閂(ga8357)は足手まといにならないよう精一杯頑張ると意気込む。が、嘉手納基地弾薬庫制圧時の傷が完全に癒えていないので無理はできない状態だ。
(傷は痛むが、ハーリーは必ず護る!)
 操縦桿を握る手に、自然と力が入る。
「えっと‥‥シーサーだっけ? 僕も参加する〜! ゴーレムとキメラなんかに邪魔させないよ〜!」
 心躍らせるリヴァイアサン『レプンカムイ』騎乗のオルカ・スパイホップ(gc1882)に、BEATRICE(gc6758)は「ハーリーですよ‥‥」と控えめに訂正。
「足手まといは避けたいですが‥‥やれるだけやってみましょう‥‥」
 風閂同様、ロングボウII『ミサイルキャリア』に水中キットを装備しての参戦なので水深と移動力に不安を感じているが、自分にできることをするまでと深呼吸。
「お祭りの邪魔するなんて無粋よねー。きっちり倒しましょう♪」
「蒼い海を穢す事は許しません‥‥」
 アルバトロス騎乗の雁久良 霧依(gc7839)、水中キットを装備したミカガミ『白皇 月牙極式』騎乗の終夜・無月(ga3084)もハーリー防衛を固く決意する。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
 緊張感漂う中、ドクター・ウェスト(ga0241)はリヴァイアサンのコックピットで高笑いし、水中キットを装備している3機を深みに行かないよう先回り。
 バグアを倒すための武器として武器やKVを使えるようにするのも能力者の役目と考えている彼は、仲間を信用できなくなっていることもありこのような行動に出る。というが、邪魔な存在を追い払おうという気持ちは皆と同じだ。
「僕はゴーレム担当するよ!」
 ブーストを使い、水中用ゴーレムに突撃するレプンカムイ。その後を追うように、アルバトロスと白皇が続く。
「さっさと倒すよ〜」
 残ったリヴァイアサン、鳴鏡、ミサイルキャリアはマンタの相手を。


「全力で行きます‥‥いつものことではありますが‥‥」
 水中での機動力不足を補うべく、早めにマンタの進行ルートの予測を行い、接近に合わせてミサイルキャリアの位置調整を行うBEATRICEは、調整を行っては、出来うる限り正面から進行ルート上で迎え撃つことで最大限の攻撃機会を得ようと慎重に行動する。その結果、絶好の機会が得られたのでマンタの口めがけて水中用ホールディングミサイルを発射。
「やるな、BEATRICE殿」
「まだ倒れてはいません‥‥」
「ならば、倒すまで。ハーリーを転覆させては大変だ。できるだけマンタとゴーレムを会場に近づけさせぬようにせねば。沖縄の祭りを決して邪魔させぬ!」
 郷土愛が強い風閂は、何が何でもハーリーを守り抜くと決意を固め、仲間と離れないようブーストを使いマンタに接近を試みてはスナイパーライフルD−06、 M−25水中用アサルトライフルで攻め込む。
「くっ‥‥」
 無理をしたためか、傷が疼きだしたので一旦攻撃の手を止める。
「何をもたついているのかね〜さっさと倒れてしまえ〜」
 ウェストのリヴァイアサンがブーストで風閂が仕留め損ねたマンタの腹部に潜り込むと『エンヴィー・クロック』と『システム・インヴィディアVer.De』を起動し、水中用太刀「氷雨」で勢い良く真っ二つに切り裂いた。
(ちぃ、コンナこともできないのか)
 水中戦に不慣れな上、負傷している風閂の手際の悪さが我慢ならないのか、心の中で毒づく。
「もう1体残っています‥‥油断しないように‥‥」
「わかってるよ〜」
 アサルトライフルと対潜ミサイルで遠距離のマンタを攻撃するリヴァイアサンに続き、遅れを取るまいと鳴鏡、ミサイルキャリアも一斉に攻める。

(オルカ君は11歳の男の子‥‥コホン。真面目に仕事しなくちゃ!)
 そう考える霧依だが、レプンカムイ、白皇の後ろに隠れるような隊列でアルバトロスを移動させ、いつでも攻撃できるよう水中用ゴーレムに接近する。
「行きますよ‥‥」
 レプンカムイがブーストを使い、急接近すると同時に白皇はM−042小型魚雷ポッドを放っては即時にリロードし、途切れることのない高弾幕力で水中用ゴーレムの移動力を低下させ、業を煮やして接近戦を挑むように仕向けている。
「そのまま突っ込んで体当たりだっ!」
 回避行動にとレプンカムイはアクティブアーマーを使い、弾幕を掻い潜り水中用ゴーレムの胸元に突っ込むが、お返しだと言わんばかりの体当たりをされた。
「そんなノックみたいなの、僕には効かないよ〜!」
 バランスを崩したがエンヴィー・クロック』で急制動をかけて立て直し、すかさず『システム・インヴィディアVer.De』発動、お返しだと水中練剣「大蛇」を胸部に突き刺した。
「目標、水中用ゴーレム。アレクタン発射!」
 それに合わせ、標準を合わせたアルバトロスが後方から悟られないよう、タイミングを合わせて様にロケット魚雷「アレクタン」を2発発射。
「まだ倒れていませんね。来ないなら、こちらから仕掛けるまで‥‥」
 仲間が攻撃するための隙を作ろうと白皇は囮となるべく距離を詰め、接近戦に持ち込むべくM−042小型魚雷ポッドの弾幕併用の高分子レーザークローを主体とした水抵抗を計算した攻めに出た。


 ブーストで接近した白皇は生身の体術が基の動きの攻めで機体の両手両足及び全身を使い、水中用ゴーレムの動きを止めたり、隙を作ったりする。
 撃破に必要な行動止めをすべく水中練剣「大蛇」で連撃し、仲間に必中の好機を与える。
「今のうちに」
「了解!」
 水中用ゴーレムや仲間の戦い方を見て、真似できそうなものがあれば色々な攻撃を仕掛けてみようと思っていたオルカは、戦いの最中、注意深く観察した動きをアレンジした戦法を試すことに。
(亡霊さんからも戦い方を覚えたりしたしねー。武器が違ってもマネ出来る事は絶対にあるはず〜!なんかすっごい技っぽいのしてきたらすごいし楽しい!)
 それを真似ることができたなら、自分もその一部と実感している。
「それじゃ、いっくよー!」
 白皇が離れると同時にアンカーテイルを地面に打ち込んだレプンカムイは、変則的な旋回をするとそのまま勢いに乗って水中練剣「大蛇」を打ち込む。
 この攻撃は、真似できそうなものがあれば敵、味方問わず動きを注意深く観察しながら戦っていたオルカならではだ。
「あ、こら逃げるなー!」
 これ以上やられてたまるかと言わんばかりに撤退した水中ゴーレムは、遠く離れると魚雷を打ち込んできた。
「逃がさないわよ! お見舞いよ、受け取りなさい!」
 撤退を見逃さなかったアルバトスは距離を取り、レプンカムイと連携してG−09X水中用大型ガトリングとアレクタン発射。
「ねちっこく攻撃していくわよ♪」
「逃がしませんよ‥‥」
「いっけぇー!」
 3機の連続攻撃により、水中用ゴーレム爆破。

 その頃、マンタ班は残る1体を攻撃していた。
 鳴鏡のスナイパーライフル、ミサイルキャリアの水中用ホールディングミサイルで攻め込まれた時、逃げるかのように飛び跳ねた。
「今だ!」
 ジャンプのタイミングを見逃さなかった風閂は、ブーストして鳴鏡を先に海上に。着水と同時にDM5B3重量魚雷を発射。マンタ着水と同時にダメージを与える作戦に出た。
「当たれぇ!」
 最後の切り札として発射した魚雷は腹部に命中したが、致命傷とまではいかなかった。
「まったく、世話が焼けるね〜」
 文句を言いながらも、ウェストが止めを刺した。
「やったね!」
 マンタ撃破を確認したオルカは、ハーリー開催地に影響が出ないよう離れた場所でレプンカムイをイルカジャンプさせた。
 水中用ゴーレムとマンタは、ハーリー開催地の漁港に近づくことなく能力者達に倒されたのだった。


 水中用ゴーレムとマンタを倒し終えたことを沖縄軍に報告した傭兵達は、手渡された衣装に着替えるよう言われたがウェストは拒否した。
「そんなもの、我輩には必要ない」
 バグアを全滅させるため、人間であることを捨てたウェストには、人間としての願いは無い。ハーリーに参加しないのはそれ故のことだ。
 バグアへの憎悪、バグアに協力しようとする能力者への不信感が精神の不安定を招いている状態であったが、バグアを全滅させるまで壊れるわけにはいかないと、最後の最後まで必死に心を繋ぎ止めていた。
 沖縄に住んでいたが、ハーリーを漕ぐのは実質初めてな風閂はウチナーンチュの血が騒ぐのを抑えきれずにいる。
 衣装を手渡した沖縄軍兵士に、駄目もとであることを頼む。
「実は‥‥」
 それを聞いた沖縄軍兵士は、わかりましたと快く引き受けてくれた。その時の笑みは、どことなくからかうようなものだったが風閂は気づいていない。
「僕もシーサーに参加するよ〜!」
 ハーリーだと指摘されても、まだ「シーサー」と言うオルカ。
「伝統的な着物ね、こういうの着てみたかったんだ〜♪ 漕ぐのは全力! 楽しまなくちゃね! ね、オルカ君」
「そうだね〜」
 楽しむ2人とは対照的に、BEATRICEは参加を躊躇う。
「私は‥‥祈る場にふさわしいものでは‥‥いえ‥‥やはり‥‥」
 やめようと思ったが、一緒に参加しようとオルカと霧依に誘われ騎乗することを決めた。
「私でよろしければ参加させていただきます‥‥」
 
 着替えに手間取ったが、ハーリーにのっとった蒼を基調にした衣装を着たウェストを除く傭兵達は、有志の傭兵と共に御願バーリーに参加した。
 ぎこちない手つきで、傭兵達はゆっくりと櫂をさばいてハーリーを前進させる。
 ハーリーが進むと、歌い手の軍人が声高らかにハーリーウタを歌う。
 それに合わせ、次第にゆっくりと、鮮やかになった傭兵達の櫂さばきで港内を回遊し、この儀式を神に捧げ、豊穣と大漁を願う。
 そんな中、BEATRICEは自分に相応しくはないと思っていたが、平和を望みながら戦いの場に赴かざるを得ない沖縄軍のために祈る。
(平和が訪れるまで‥‥小さな【GooDLuck】が共にありますように‥‥。ヴァルハラに向かうのは私のような者が相応しいのですから‥‥)
 その思いに応えるかのように、海風がBEATRICEの頬を撫でる。

 御願バーリーが終わると、本バーリーが行われた。
 傭兵達は最後までハーリーの無事を見届けようと、本バーリーを観戦していた。
「‥‥あれ?」
 観戦中、霧依は涙が流れている事に気付いた。
「‥‥お祭りの雰囲気に感動しちゃったかな‥‥ふふ‥‥」
「感動できるのは良いことだ。来年も、無事に行えると良いな」
「僕もそう思うー」
 涙を拭う霧依に、風閂とオルカが微笑む。
「このような祭、途絶えさせたくはないですね‥‥」
 目を細め、無月は本バーリーをじっと見つめる。
「‥‥決めた。私、戦争が終わったら各地のお祭りや伝統行事を復興する事業をする。こんな‥‥素晴らしいお祭りの火を絶やさせなんかしないわ!」
 ハーリーに参加して、改めて祭の素晴らしさ、大切さを知った。
「まずは故郷の群馬のね」
 ウィンクして皆に決意を伝える霧依を見て、頼もしいと思う仲間達。

 数日後。ULTにいるシェリル・クレメンス(gz0076)のもとに、ハーリーを漕いでいる傭兵達の写真が届いた。
『沖縄の蒼い海を見てくれ』
 写真には一言、そう書かれていた。
 写っている傭兵の中に見知った顔があったので、誰が送ったのかシェリルはすぐにわかった。


「あいつ、勝手なことして‥‥。うちの海が汚れたらどうするつもりだったんだか」
 嘉手納基地弾薬庫基地から帰ってきた照屋ミウミは、部下の報告で今回の騒動を知った。
 勝手な行動をして倒された部下より、沖縄の海を心配しているのは彼女らしい。
「ま、あいつがせんでも、海を汚さない程度にうちがしていたけどね。あ、風りんがしてたかもー」
 部下の不手際に呆れたり、怒ったりと忙しかったが、最後には明るい思考になったミウミだった。

 ハーリーがすべて終わり、静まり返った夜の海。
 今は穏やかな海だが、沖縄バグア軍との激戦で赤く染まるかもしれないだろう。
 それまでは空同様、蒼く済んだ海であるよう‥‥。