●リプレイ本文
●譲れないもの
如月 くれは(gz0317)のもと、カンパネラ学園宇宙食化計画意見交換に参加したのは最上 憐(
gb0002)、天戸 るみ(
gb2004)、巳沢 涼(
gc3648)の3人。
他にも来るかもしれないと待っていたが、誰も来なかったので3人から意見を聞くことにした。
「それじゃ、始めましょうか。まずは、宇宙で何を食べたいか言ってちょうだい」
手を挙げて最初に意見を出したのは、具でかレーを宇宙で食べたいという憐。
彼女は少し前に初めて宇宙に上がり、そこで宇宙食カレーを食した。初めて食べた宇宙食カレーは味は予想より美味だったが、具が小さくて味気なかったとか。
「‥‥ん。宇宙食の。カレーは。具が。小さかった。なので。具が大きい。具でかレーを。全力で。推す。具が小さいと。生徒の。やる気が。下がる。下がると。元気も。なくなる」
具が小さいと宇宙にいる生徒の士気も下がり、大変な事になるかもと懸念したので具でかレーを強く推す。
「‥‥ん。決して。単純に。私が。個人的に。具が。大きい。カレーを。食べたいだけでは。無いよ? 食べながらだと。更に。良い意見が。出るかも。具でかレーを。所望する」
更に詳しい意見を出すには具でかレー食べながらの方が良い案が出ると言いだし、くれはに食べたいとをねだる。
「わかったわ。今、持ってくるから待ってて」
「‥‥ん。大盛りで」
大丈夫なのかしらと心配だったが、出された具でかレーをペロリと完食し、お替りを要求したので大丈夫そうねと割り切った。
「日本人として米は譲れないだろ。バラけて危険なのは分かるが‥‥宇宙で丼飯が喰えるとテンション上がるぜ。カツ丼を推したいが‥‥この際、おにぎりバーガーでも文句は言わねえ」
カツ丼だととじ卵とカツがバラけてしまい飛び散ってしまうと懸念したため、おにぎりバーガーを推したのだろう。
「そのおにぎりを焼きおにぎりにして具を挟めば、バラバラになるという欠点が解消されると思うんだ。そう考えたら、焼きおにぎり単品ってのもいいね」
本来ならやっぱり人気があるものを宇宙食にするのが一番なのだろうが、やはり環境的に食べづらいものがあるかもしれない。
そう考えたるみは、手堅いところでと丼系を薦める。
「いくつか種類を用意すれば、ある程度のニーズにも応えられる気がします。似たようなのでロコモコとかタコライス、あとそれこそチャーハンみたいなまあいわゆるご飯ものは人気もあるでしょうし、宇宙食としても適していると思います」
「ご飯は俺も欠かせないな。今までとは違う環境にいるとストレス溜まるだろうから、せめて飯だけでも普段通りのものを食べられるようにしたいと思う」
地球とは何もかも違う環境下だが、慣れ親しんだものを食べれば適応できるのではないかという考えもある。
●外せないもの
意見聴取は、休憩を挟みつつもスムーズに進んだ。
憐が食べている具でかレーを見て、これを宇宙に持っていけないだろうかと涼は思った。
「カレーが嫌いな日本人はいないだろう。宇宙で食うなら、米を一口大のボール状に丸めて筒状のパックに入れ、具は全部粉々にしてカレールーと合わせ、それをパック詰めにする。で、ライスを口に放り込み、ルーはチューブを挿して吸うって食べ方かな?」
宇宙で食べるならそういう食べ方もあるだろうが、カレーライスと言えるかは微妙である。カレールーとご飯は別々なのは仕方ないとわかってはいるものの、できればご飯の上にルーをかけた馴染み深いものを食べさせてあげたい。
「このカレー、できれば食べさせてあげたいですね。今のところ、宇宙食の難点はカレーでしょうか‥‥?」
カレー好きな憐がカレーを候補に出しているので、るみとしても宇宙食カレーを是非宇宙食化したい。
宇宙食にするならば、何らかの工夫が必要になってくる。水っぽさを抑えたり、少し粘り気が強いルーにしてみたりと。
「とりあえず、実際に作ってみないことには何とも言えません。宇宙食カレー、見事完成させましょう!」
実行あるのみですと食堂を借り、材料を分けてもらうことに。
「‥‥ん。味見しようか? しようか? 味見なら。任せて。塵も欠片も。残さず。飲み込むよ?」
「俺も試食する。腹が減っては、良い案が浮かばないからな」
●実際に作ってみる
学食厨房で食材をチェックし、るみはくれはに手伝ってもらい宇宙食カレーを作ってみることに。具材はそのままだが、ルーをどうするかで苦労しそうだ。
「宇宙では味覚が鈍くなるそうよ。だから、濃い目の味付けにしたらどうかしら?」
「そうなんですか。では、そうしましょう。粘りを出すに、じゃがいもを摩り下ろしたものを使ってみましょう」
「はちみつも加えてみようか」
あれこれ試行錯誤し、ルーを濃い味、粘度を高めに仕上げる。
完成までに時間がかかったので、待ちくたびれた憐は空腹でテーブルに突っ伏している。
「おまたせしました、天戸るみ作、宇宙食具でかレーができました!」
試作具でかレーを乗せたトレイを持ってきたるみが、満足気な笑顔で報告。それを聞いた憐はむくっと起き、完成品をじっと見る。
「‥‥ん。美味しそう。でも。地上と同じ盛り付けだね」
実際に無重力での試食は無理なので、それは我慢していただきたい。
「美味そうだな。それじゃ、一口」
お味のほうは‥‥いかがでしょう?
「‥‥ん。粘りが強いけど。具はおんなじ。大きい。味もおんなじ」
「俺はちょっと濃いと思うが。でも、悪くない。これなら宇宙食にできるんじゃないかな」
好評価だったので作った甲斐があったと顔を合わせて喜ぶるみとくれはだったが、実際に宇宙食化されるかどうかは別の話、ということで。
「‥‥ん。宇宙食は。全体的に。具とかが。小さいから。きっと。具でかレーは。救世主になる。主に私の」
一日も早く宇宙で具でかレーを食べたい。それが憐の願いだった。
「‥‥ん。お替り。大盛りで」
「まだ食べるの!?」
割り切ったとはいえ、さすがに食べすぎだろうとくれはは「やめたら!?」と言うが、大丈夫とお替りを要求。
●真面目に考える
具でかレー試食会が終わり、くれはが後片付けをしている間小休止。
お腹が落ち着いたところで、意見交換会が再開された。
「丸い物なら恐らく宇宙でも食べやすい筈だ。という事で、たこ焼きやスコッチエッグなら宇宙食にしやすいんじゃないかね? ホットケーキボ−ルも悪くない案だ」
フリーズドライなら、たこ焼きとスコッチエッグはスナック感覚で気軽に食べられるだろう。食事だけでは物足りないと、デザートの案も出す。
「デザートには苺クリームパフェだな。和風にするなら餅や白玉だろう。これが宇宙食になったら月で餅が食えるぜ。なかなかロマンチックじゃなかろうか」
「月でお餅をつくのではなく、月で食べるのですか。なかなか面白そうですね」
どんなものになるのかと想像を膨らませ、るみは更なる提案を。
「宇宙食ですが、ただ炭水化物ばかりではやはり飽きが来てしまいますし、定食っぽいものも欲しい所ですね。地球を離れて宇宙に出ているわけですし、日替わり各国定食なんて結構ウケが良いかなとか。あと個人的にはカンパネラの代名詞なえーゆーけーぶい定食を何とか宇宙食にしたいですね」
生徒にも人気があるえーゆーけーぶい定食宇宙食化は良いアイデアだが、バハムー丼はバターライスと魚肉がバラバラになる、ミカレールーは具でかレーと被る。実際に宇宙食化できるのは、冷凍林檎なリンゴブルムだけかもしれない。
「ご当地スープは、カレーと同じ製法なら宇宙食化できるかもしれないわね。さっき作ったカレーと同じように粘り強くなるから、クラムチャウダーがいいかも」
熱心に意見をいう皆に感化されたのか、くれはも意見交換に加わる。
「あんたはカレー以外で何か食べたいものはないのか?」
涼が黙々とカレーを食べる憐に尋ねるが、具でかレーがあれば他はなんでも良いと答える。
一通り意見が出たので、候補をいくつかに絞る。
「‥‥ん。具でかレーは。外せない」
「これも追加しましょう」
「俺はこれが食いたい」
あれこれと意見が飛び交うので、まとめ役のくれはは大変だった。
(これ、全部まとめるの‥‥? でも頑張らないと‥‥)
●学園側と企業側の交渉
数日後、カンパネラ学園食堂。
意見交換会の司会進行を務め、意見をまとめたくれはを中心に、宇宙食開発企業の役員数名が実際にどれを宇宙食かするか話し合っている。
「具でかレーを宇宙食にという意見は、意見交換会参加者全員の案です。人気が高いこのメニューを宇宙食化すべきと考えていますが‥‥いかがでしょうか」
カレーは実際に商品化されているが、具でかレーは普通のものより具材が大きいのが特徴だ。より大きいの具材をどう活かすかが課題になるだろう。
あまり大きすぎるとかえって食べにくいのではないかという意見もあったが、宇宙要塞カンパネラにいる本校生徒向けということを考慮し、じっくり検討することに。
「続いておにぎりバーガー、焼きおにぎり、たこ焼き、スコッチエッグ、苺クリームパフェ、餅、白玉、クラムチャウダーが候補に挙がっています」
その他にもいくつか候補があったが、開発できるかどうかを念頭に置きいくつかに絞った。その結果、くれはが報告したものだけになった。
「如月さん、ご意見、ありがとうございます。何を宇宙食化するかは、我々の判断に任せていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
役員のひとりが、資料を見てくれはに伝える。
「わかりました。良いお返事、お待ちしています」
意見交換から更に数日たったある日。企業側から採用メニューがひとつ決まったという知らせが。
採用されたのは具でかレー。
具材をどうすべきかが議論されたが、本校生徒のことを考えた、人気があるメニューという理由で半数以上の支持を得て決まったのだとか。
宇宙食化にあたり、くれはに商品名を考えてほしいと企業側は依頼した。
「具でかレー宇宙食版‥‥『スペース具でかレー』といったところかしら?」
安直なネーミングと我ながら思うが、これしか思い浮かばなかった。
企業から意見交換会に参加した全員に、完成したら名前がそのまま採用されたスペース具でかレーを配布するという連絡が届いた。
「‥‥ん。どんな味かなるか。すごく楽しみ」
「宇宙食化されて良かったです。試作した甲斐がありました。美味しくできたでしょうか? 楽しみです」
「届いたら早速食ってみたいが、もったいないような気もするな。どうしようかね」
感想はそれぞれだが、皆、意見交換をして良かったと大満足。
「‥‥ん。これ。もっと欲しい。美味しかったらだけど」
宇宙要塞に懐かしい学食の味が届くのは、そう遠くない話かもしれない。