タイトル:【協奏】妹練習曲マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/18 21:43

●オープニング本文



 ソウジ・グンベ(gz0017)が考案したバグア前線基地占領作戦「夜想曲(ノクターン)」が決行される数時間前。
 風祭・鈴音(gz0344)が拠点としているトリイ基地に、照屋ミウミに連れられたひとりの少女がやって来た。
「風りん、この子、うちらの妹になりたいって言っとるんやけどー」
「どういうことか説明してくださいませんか?」
 真新しい胡弓を愛おしく撫でながら、事の成り行きをミウミから聞く。
 聞くところによると、どこで嗅ぎ付けたのか、3姉妹三女の榊原アサキ(gz0411)のところに行き、いきなり自分を妹にしてと頼んだとか。
「そうお願いしたら、カッキーのところに行けば? って断られたんやて」
 その次は次女の山城カケルのBFに行ったが、ここではミウミに聞けという伝言を頼まれた部下に追い出された。改造HWのメンテナンスを邪魔され、機嫌が悪かったことはミウミは予測できたので「カッキーらしいねー」と笑う。
「そーゆーことでうちんとこに来たんだけど、うちの独断で決められんから風りんに決めてもらおうと思ってさー」
「そういうことでしたか‥‥。あなた、お名前は?」
 名前を尋ねられた少女は、元気よく「具志堅チトセです、よろしくお願いしますです!」と自己紹介。
「チトセ、3姉妹のお姉様と一緒に鈴音お姉様のお役に立ちたいです!」
 ウルウルな瞳で鈴音に頼み込む可愛い少女だが、チトセ、バグアである。とはいえ、これまで人間に脅威を与えた実績はない。
「うちとしては可愛い妹が増えるのはいいんだけどねー。うちらの役に立つかは別として。で、考えたんだけどー、グッチーをテストしたいんやけど、どうかなー?」
 グッチーというのは、ミウミが即興で考えたチトセのあだ名である。
 どのようなことをするの楽しみな鈴音は、ミウミに話を続けさせた。
「聞いた話やと、UPCがうちらの基地占領する作戦実行するとかー。そん時、あいつらの戦力が手薄になるとは思わない?」
「確かにそうですわね。その作戦にかかりっきりで、他のことは疎かになるでしょう」
「そやろ? その隙をついて、グッチーに襲撃させるんよ。場所はグッチーに決めさせるわ。それでええかなー?」
「ええ、それで構いません。チトセさん、3姉妹の妹になりたいのでしたら、それ相応の働きをしてくださいね」
「はいです! チトセ、頑張りますです!」
 幼いバグアは、張り切ってトリイ基地を後にした。
「風りん、あんなこと言っていいのー?」
「あの子には申し訳ありませんが、私達の妹には相応しくありません」
 身の程知らずには自分の力量をわからせてあげるまで、と穏やかな鈴音にしては珍しく冷たく言いようだった。
「と言いましたが、どのような働きをするのかを見届けましょう。ミウミさん、人間達のお相手頼みましたよ」
「あいあいさー!」


 夜想曲が成功した日の明け方、読谷村のさとうきび畑農道にキメラが出現した。
「目標、楚辺通信所跡地ですー! キメラ発進ー!」
 チトセが襲撃地を楚辺に選んだのは、鈴音がかつて胡弓を破壊され、辛酸を嘗めさせられた場所だと知っていたからだ。
(鈴音お姉様の無念、チトセが晴らすです!)
 白く、四角いモノに大きなゴーヤーを乗せ、キャタピラーをくっつけた戦車のような外見のキメラの上に乗り、両腕を組み仁王立ちするチトセは、そんな決意を固めるとキメラを進ませる。
「豆腐のようなふざけた外見しやがって!」
 キメラ出現の知らせを受け夜想曲に関わっていない兵士が一刀両断してやると刀を手に突進したが、あともう少しで接近というところでキメラは素早く後退した。その時間、1秒あるかないかだった。
「な‥‥!」
 あまりの素早さに唖然となる兵士。
「これならどうだ!」
 後方にいる兵士のライフルから放たれた銃弾、番えられた弓から放たれる矢はキメラにめり込んだかと思いきや、体内でドロドロに溶けはじめた。
「ふざけた外見って失礼です! チトセの最高傑作をバカにするとは許せないのです! 発射ー!」
 命令されたキメラは、ゴーヤーから小型のゴーヤー型弾丸を発射し兵士達を蹴散らす。
 近づこうとすれば目にも止まらぬ速さで後退、銃弾、矢は効かず。
 ふざけた外見のキメラに苦戦した兵士は、沖縄軍本部を通じて応援を要請したのだった。
「このままでは、楚辺に近づかれてしまう‥‥。沖縄軍と楚辺住民の信頼関係が築き上げられたばかりだというのに‥‥」
 歯軋りしてキメラを睨む兵士は、何が何でもこいつを倒す! と刀の柄を握りして再び突進する。
「どうなるか楽しみですわね」
 さとうきび畑に潜り込み、鈴音は誰にも気取られぬようチトセの働きぶりを期待しながら見物している。

●参加者一覧

ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
サウル・リズメリア(gc1031
21歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG

●リプレイ本文


 バグア前線基地占領作戦「夜想曲」は成功を収めたが、楚辺に向かうキメラが勝利の余韻を打ち消した。
 前線基地指揮官撃破、人質救出に携わっていた傭兵は、休む暇も無くさとうきび畑に駆け付ける。
「やれやれ、基地での戦闘が終わったと思ったら次は別の敵の相手とは。少しはこっちのことも考えて欲しいよな。まったく」
 ゆっくり休もうとしていた大神 直人(gb1865)がぼやく。
 そんな彼同様、各々の作戦に参加していたサウル・リズメリア(gc1031)、レインウォーカー(gc2524)、春夏秋冬 立花(gc3009)が合流する。
「援護は任せるよ。間違ってもボクに当てるなよぉ」
「任せてください。今日は貴方と戦う理由はありませんしね」
 先に現場に到着していた腐れ縁で相棒の音桐 奏(gc6293)が、待っていましたと微笑む。
「メシア、更に胸がでかくなっ‥‥ぐはぁ!」
 奏と共にサウルを待っていたハイビスカスの絵柄のスカート姿のメシア・ローザリア(gb6467)は、蹴りを入れて挨拶を中断させる。
「冗談はそれくらいにしてくださいませ」
「ホントに懲りない奴だなぁ、お前」
 互いに遠慮無しの戦友なので、レインウォーカーは容赦なくサウルのボケに突っ込む。
「痛ぇ‥‥俺は沖縄美女のため戦うぜ!」
「美女の為とは貴方らしいですね、サウルさん」
 歓談している彼らに割り込み、ラルス・フェルセン(ga5133)がキメラをどう倒すか話し合おうと促す。
 さとうきび畑は狭くないものの、キメラが戦車並みの大きさとなると挟撃は難しい。
 そこで奏が提案したのは、正面からの攻撃と回り込みだった。
「それでいきましょう。では、私は正面から。キメラの移動には『瞬天速』で対応出来ますので。回り込まれる場合は、側面ではなく背後を取った方が良いでしょう。そうすれば、挟撃で前進後退を妨害出来ますし」
「気に食わないですが、戦略としては有効ですね。Иたん、ヨダカ、頑張るです!」
 ラルスの案に頷いたヨダカ(gc2990)が言う「Иたん」は、隣にいるレインウォーカーのあだ名だ。
「ああ、頑張るとしようか、お互い。今ここでボクらに出来るのは戦う事だけなんだからねぇ」
 キメラがまだ傭兵達がいる地点に見えないので、どうすべきかを皆で話し合う。
 正面で対応するのはラルス、メシア、立花。直人とヨダカは背後から攻め込む。
 サウル、レインウォーカー、奏の3人は側面から回り込んで正面班に合流することに。
「前はお願いするのですよ、Иたん!」
 家族を、仲間を、戦友をバグアに殺されたため、ヨダカは誰よりも楚辺に進行中の具志堅チトセを激しく憎んでいる。
 ラルスは、自分達が合流するまでキメラと戦っていた兵士達に左右に回り込んで行動するよう頼む。
「私達がキメラの攻撃の的にならないよう、さとうきび畑に分け入り、物音をさせて行動をカモフラージュしてください」
 その会話を聞いたメシアとサウルも手伝ってほしいと頼む。
 さとうきび畑を掻い潜って回り込むサウル、左右からの挟撃を狙うメシア、ラルスの考えを聞き、夜想曲に関わっていた傭兵がいることを知った兵士は、ソウジ・グンベ(gz0017)に協力した傭兵の頼みとあらばと快く引き受けてくれた。


「キメラが来たようです」
 遠距離から目標の視認し、今いる場所から目標までの距離と動きやすいルートの確認していたメシアがキメラを発見。どう動こうか頭の中で綿密に計算する。
(前進か後退か。左右に動き辛いのは、敵も同じ筈。問題は指揮官ですわね)
 厄介になりそうだと溜息を吐いたが、キメラを指揮する立場のチトセは兵士が発見した時同様、余裕綽々で戦車キメラの上に腕組み仁王立ち。
「あれが指揮官ですか。探す手間と確認する手間が省けましたわ」
 でかい島豆腐の上にゴーヤーを乗せ、それにキャタピラをつけただけの「戦車」と呼ぶにはおこがましいキメラを見た立花はげんなり。
「うへぇ、何あれ。子供の粘土細工みたいな外見だね」
 発見と同時に『瞬天速』で戦車の背後に回り込んだ直人も、立花と同じようなことを考えていた。
「性能はそこそこいいみたいだけど。なんというか製作者の人間性が分かる残念な形だな。俺が言うことがあるとすれば、ゴーヤと豆腐に謝っとけといううぐらいだな」
 沖縄を代表する食べ物に失礼すぎるというのもある。
「変なキメラなのです」
 夜が明けたとはいえ、外灯がないさとうきび畑は薄暗い。低姿勢で直人に駆け付けたヨダカは機械「牡丹灯籠」の明かりのスイッチをつけ周囲の視界を良くし、時々『バイブレーションセンサー』を使い、戦車が高速で移動することを念頭に入れ、いつでも前後に攻撃できるよう互いの位置を確認する。
「早いとこ倒しましょうか」
 そう言うと、動きを止めようと立花が真っ先に動き出す。
 気配を可能な限り消して接近したが、勘が良いのか、気配を察知したチトセがキメラに居場所を伝える。
「バレましたか。では、これならどうです?」
 ジグザクに動いて緩急をつけ回避し、10メートル以内に接近したら『瞬天速』で意表を付く動きでキャタピラを機械刀「凄皇弐式」で攻撃し、動きを止める。
 動きが止まった一瞬を狙ったメシアが『呪歌』を使い、ラルスは接近せずじっくり様子を見て、チトセの号令で砲撃されることを推測して少しずつ歩み寄る。
「鬱陶しいです。ゴーヤーキャノン発射ー!」
 一気に蹴散らそうと焦るチトセが発射号令すると、戦車に搭載されているゴーヤーが正面班に狙いを定めて発射する。
「皆様、伏せるか、わたくしの後ろに隠れて!」
 スキュータムを掲げ、一番先頭に立って射線を阻害し弾き落としを使うメシアのおかげで大ダメージを免れた。
「さとうきび畑に被害を与える訳に参りません、沖縄の復興がかかっているのですから」
 負傷した仲間に『練成治療』で治療し終えた後、メシアは再度『呪歌』で動きを止めようとしたが「これ以上やられてたまるか!」と言わんばかりに戦車は素早く後退。
「戦闘と言うものは、逃げているだけじゃ勝てないのよ!」
 ものすごい速さで後退したが、背後の直人の援護射撃と通常射撃に阻まれ、メシアの超機械「グロウ」から放たれる電磁波で更にダメージを受けた。
 ノロノロと後退しようとするが、ヨダカが囮にと置き去りにした明かりがついたままの超機械「牡丹灯籠」牡丹灯籠を敵と思ったのか、前進で避ける。
「囮がうまくいったです」
 超機械「天狗ノ団扇」で不意打ちを狙うが、ゴーヤーキャノンがヨダカに狙いを定めたので止む無く撤収。
「口惜しいです」


 正面と背後から戦車を攻撃する仲間とチトセの様子を側面から見ている奏は、チトセがこの場所を狙う理由は、鈴音の為の仕返しではないかと考えていた。
「バグアならば容姿は当てになりませんが、言動と行動は見た目相応の単純なモノですね。だとすれば、アレを試す価値はありそうだと思いませんか?」
「そうだねぇ」
 正面に回り込む2人をカバーすべく、サウルは何時如何なる場合にも瞬時に対応できるようにと『探査の眼』を発動。
「飛ぶぞ、音桐」
「了解しました。行ってきなさい」
 さとうきび畑から飛び出し、キメラの正面に位置した奏は両手を組んで踏み台にし、レインウォーカーが高く飛び越えられるように。
「頼んだぜ! レイン、奏!」
 今行くと正面と背後にいる仲間に声をかけてから側面に回り、待機していた兵士と協力して超機械「グロウ」とオセの爪先の『瞬即撃』を交えた蹴りを繰り出し戦車を食い止める。
「狭いのはお互い様だよな」
 飛び越えたレインウォーカーは『回転舞』を発動し、戦車の背後に回り込むと夜刀神で斬りつける。
「ダメージが少ないようだねぇ」
 スライムに似た形状だが、豆腐にしては固い島豆腐が素体なのでそう簡単に斬れないようだ。
 だったらと『抜刀・瞬』で大鎌「紫苑」を装備し、知覚攻撃が有効かを確かめる。
「来い、ゴーヤチャンプルー! 俺が美味しく料理してやるぜ!」
 サウルはレインウォーカーが飛び退くと同時に正面に回り込み、『瞬即撃』で戦車の注意を自分に引き付け、脚爪「オセ」の爪先で蹴ったり、軸足回転させて正面にいる仲間と挟撃するように連撃したり、『瞬天速』でキメラを足場にして回り込んだりと動き回る。
 今がチャンスと『瞬天速』で戦車に接近するとそのまま駆け上がったラルスは、チトセに狙いを定めて『二連撃』の刺突でダメージ与えつつ、戦車の上から叩き落す。
「灯台下暗し‥‥でも。己の上には撃てないでしょう?」
 地面に叩き付けられ尻をさするチトセに目もくれず、エネルギーガンで戦車を零距離射撃。その衝撃で混乱したのか、あるいはコントロールできなくなったのか、一心不乱にグルグル回り出した。


「大丈夫?」
 チトセに駆け寄った立花は、身体を起こしながらどうしてこんなところにいるのと尋ねる。
「チトセは、お姉様の敵を討つためにここにいるのです」
「ふむふむ、なるほど。だけど分かっている? 戦場というのはとても危険なんだよ? もしかしたら死んでしまうくらい」
「わかっているです! でも、チトセはお姉様のために戦うのです! 鈴音お姉様と3姉妹のお姉様達のためなら死ぬ覚悟なのです!」
 鈴音と3姉妹のためなら死ねる。その言葉に、立花は頭に血が上った。
「ふざけんなー!」
 カッとなり、乙女桜の柄でチトセの頭をおもいっきり殴る。
「痛いですー!」
「覚悟しているとか、お姉様の為とか言うな! チトセちゃんも風祭さんも、私も、誰も彼も命の重さは一緒じゃあ! それもわからないお子様は戦場に出るな!」
「それでも、チトセは」
 口答えするので「でもももヘチマもねぇ!」と強烈なツッコミを。
「命を賭けるなら、同じものを相手に求めろ! それが姉妹だ! 家族だ! 少なくとも家はそうだ! もし、それでもやるというならば、お姉ちゃんがお級を据えてあげよう」
 大人しくさせるため『子守唄』を使おうとしたが、戦車の相手を中断したレインウォーカーが夜刀神を突き付け止める。
「優先順位を間違えてるぞ、お前。ボクらは仲間と友達、味方を優先すべきだ。敵であるこいつらじゃない。チトセとか言ったなぁ。お前の目的は何だぁ?」
 キッと睨みつけ、鈴音の胡弓を壊した奴の敵を討つと言い放つ。
「なるほど、風祭の胡弓の敵討ちが狙いかぁ。ならお前の相手はボクだねぇ。アイツの胡弓を壊したのはこのボクだぁ」
 胡弓を壊したのは自分だと告白したレインウォーカーに激怒するチトセに、奏も自分も壊したようなものですと告げる。
「お前らがお姉様の大切な胡弓を‥‥許せないです! チトセが仕返しするです!」
「ならば話は早いですね。貴方が狙うべき相手は私達です。さあ、きなさい」
 奏の挑発に乗ったチトセは戦車に2人を襲うよう指示するが、傭兵達の猛撃で身動きとれずな状態だった。
「敵である以上、容赦はしません」
 後方に下がった奏は戦車ごと『狙撃眼』で小銃「FEA−R7」の射程を延ばし、チトセを『影撃ち』で狙い撃つが、それは『瞬天速』で駆け付け、チトセを庇った立花に邪魔された。
「この子を倒す理由はないでしょう。捕縛で十分です」
 冷ややかな目で戦車相手に見ていたラルスだったが、その言葉に我慢ならなくなったのか戦闘を中断して口を挟む。
「人類側の拠点を襲撃しようとする。倒す理由なんてそれで十分でしょう。夜想曲では、バグア捕縛で済ませましたか?」
 立花が関わったのは人質救出だったが、ここに駆け付ける際、直人から前線基地指揮官撃破を聞いた。
 それでもチトセを殺したくないと訴える立花に、言ってもわからないと刀柄で腹部を突き排除する。
「捕縛して、貴女にその後の責任が持てるのですか? できないのなら余計なことはしないでください」
「っつーか、敵に情けをかける方が逆に失礼だろ。全身全霊で馬鹿やりつつ、戦うぜ! あんたは、戦争で何がやりたかったんだ? 俺は仲間と一緒に、戦いたいんだけどよ」
 戦車を攻撃する手を止め、愛すべき友人達をチラ見しつつ理性で割り切れても情では割り切れないサウルが説く。
 立花とラルス達が対立している間、正面からメシアが、背後から直人とヨダカが攻撃してどうにか戦車を食い止めていた。
 チトセを倒す前に戦車を仕留めようと『抜刀・瞬』で武器をランダムに切り替えたレインウォーカーが惑わしながら加勢する。
「さぁ、次はどれかなぁ?」
 傭兵達に囲まれていたチトセだったが、あいつだけは絶対に倒すと戦車に駆け付け、ゴーヤーキャノン発射を命じた。
「そうはさせないよぉ」
 レインウォーカーの大鎌が戦車を容赦なく切り刻み、それが終わると戦車はグシャリと潰れて倒れた。


 戦車を倒した手ごたえを感じたままチトセに迫りくるレインウォーカーから守るよう、立花が両腕を広げ庇う。
「あなた、これが戦争だとわかってらっしゃるのかしら? 戦争は遊びじゃないわ」
 幼い少女だが人類に仇なすバグアだ。見た目に誤魔化される訳にはいかない。
 そう説得するメシアの言葉は、立花には届いていないだろう。
 そんな彼女を無視し、歓喜と憎悪、狂気に塗れた笑顔のヨダカが近づいてくる。
「攻撃されて痛いですか? 苦しいですか? でも、皆そうやってお前達に殺されたのです。だからお前もそうやって死ぬのです♪」
 超機械でとどめを刺そうとしたところ、潰されて無残な姿のままの戦車がチトセの前に現れた。瀕死状態で主人を守ろうとするかのように。
「嗤え」
 レインウォーカーの『真燕貫突』が戦車ごとチトセを貫き、ここで確実に仕留めるとラルスのエネルギーガンと斬撃で追撃する。
「友人達の苦労を水の泡にしたくはありませんので」
 声を上げる間もなく、チトセの身体は農道に倒れこんだ。

「そこまでにしていただけますか?」

 背後から声がしたので振り向くと、いつの間にか、さとうきび畑で傍観していた鈴音がいた。息が絶え絶えのチトセを抱きかかえ撤退しようとするが、レインウォーカーが止める。
「久しぶりだな、風祭ぃ。本当は戦いたいけど今日は遠慮しておくよぉ。今日は働きすぎたんでねぇ」 
 疲れている状態で相手をするのは却って不利な状態になることを悟ったサウルは、回復に専念すべきだとやめた。直人と奏も同じことを考えたのか何もせず。
「あなたが風祭様ですか。退いて下されること、恩に着ますわ」
 敵にお礼を言うのはおかしいが、こう言うしかなかった。
「では、ごきげんよう」
 歩き出す鈴音を、心身共に疲れ切った傭兵は誰も引き止めようとしなかった。

「ごめ‥‥ん‥‥な‥‥」
 泣いて謝るチトセだったが、力尽き、肉体がサラサラと崩れた。
「こうなることはわかっていましたが、後味が悪いものですわね。ですが、予想以上に楽しめました」
 傭兵達は自分を更に楽しませてくれるかと、鈴音は少し楽しみになるのだった。