タイトル:【協奏】労いの祭マスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 3 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/09 06:45

●オープニング本文


 象の檻作戦決行中において心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こしてしまった住民達だが、心の専門家達によるケアのおかげで落ち着きを取り戻し、日常生活に支障がないほどに回復した。
 沖縄軍は、楚辺周辺住民に多大な迷惑をかけたことのお詫び、カウンセリングに尽力を尽くした専門家達を労うべく、ささやかな祭を催すことにした。
 祭り開催を提案したのは、象の檻解放作戦の指揮を執り、専門家達の護衛を引き受けたソウジ・グンベ(gz0017)だった。
 今回の一件で住民の信頼を取り戻すことができたが、これだけでは何か物足りないと感じたので駄目もとで話を持ちかけたところ、上層部から「住民の心を癒すことと、より強い信頼を築き上げること」を条件に承諾された。
 提案者、ということで企画から実行まで責任もって行うようにとも言われたが。

 祭の開催地は、住民達との話し合いで楚辺通信所から少し離れたところにある学校のグラウンドで行うことに。
「そういや、俺、沖縄の祭りって知らねぇんだよなぁ。出店出店とか、カチャーシーとかいう阿波踊りみたいな踊りを皆で、ってのは駄目なのか?」
「それで良いさー。要は楽しけりゃ何でもいいんだしー」
 住民の代表にそう言ってもらえたので、ソウジは少し肩の荷が下りた。
「んじゃ、屋台と踊りは決定‥‥と。それ以外だと、傭兵に何かしてもらうってことでOK?」
「OKさー♪」
 沖縄の人ってノリいいな、と自然に表情が和らぐソウジだった。

 沖縄軍と傭兵、住民達との交流を深める祭になるだろうか。

●参加者一覧

/ リュイン・グンベ(ga3871) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 風閂(ga8357

●リプレイ本文

●祭の準備
 楚辺住民の癒し、信頼関係を強めるための沖縄軍主催の祭当日は晴天に恵まれた。
 祭に協力すべくやって来たリュイン・カミーユ(ga3871)は、特設ステージ設置の手伝いをしている。
「沖縄の様子も気になるし、何よりソウジが企画したものなら手伝わん訳にはいかん
な。‥‥少々余計なオマケがついて来たが、まぁ精々役立って貰おうか」
「オマケって、僕のコト? お兄ちゃんに対してそれはないデショ」
 ラウル・カミーユ(ga7242)は沖縄の戦況は報告書でしか知らないが、最愛の妹が気にかけているので、何か手伝えればと参加したのだった。
(ソウやんは将来の義弟だからサ、苛めたりはしないケドね‥‥多分)
 本来の目的は、企画者のソウジ・グンベ(gz0017)が祭に参加出来ずにギリギリする姿を見たいというものだ。
「リュイン殿も来ていたのか。先の作戦以来だな」
 屋台設置の手伝いを終えた風閂(ga8357)が声をかける。
「頑張ろうネー。えっと‥‥」
 リュインの後ろからひょいと顔を出したラウルと初対面なので、風閂はどうすべきか一瞬悩んだ。
「あ、はじめましてだネー。僕はラウル、リュンちゃんのお兄ちゃんダヨ。ヨロシク」
「リュイン殿の兄か。俺は風閂と申す、よろしく頼む。今日の祭で、落ち着きを取り戻した楚辺住民の信頼を得るべく頑張ろう」
「モチロン、そのつもりダヨ」
 これからは戦況が激しくなるので、今日だけでもそれを忘れて楽しんでもらいたい。
「皆、準備ご苦労さん」
 警備の腕章をつけたソウジが3人を見かけたので声をかけてきた。
「ソウやん、お久しぶり。僕のことは遠慮なく『お義兄さま』って呼ぶとヨイよ!」
「今からそう呼べと?」
 まだ早いだろう、とはリュインの前では言えなかった。どうすべきか困っていたところ、警備の兵士に呼ばれたので助かった! とそそくさとその場を立ち去った。
「仕方ない奴だな」

●屋台で腕を揮う
 料理が得意なラウルは、屋台でフランスの食べ物『ガレット(そば粉)』『クレープ』を出すことに。同じように見えるが、ガレットは片面だけを焼く。
「ガレットは食事的なモノ、クレープはデザート的なモノになるヨ」
「食事とデザートが楽しめるのか。クレープとは奥が深いものなのだな」
 手作りの魚介のクリーム煮を見せながら説明するラウルに感心する風閂だが、何やら困っている表情をしている。そんな彼の目の前には、まな板の鯉ならぬ、まな板のアバサー(ハリセンボン)が。
「どーしたノ?」
「いや、ちょっと‥‥」
 チャンプルーとアバサー汁を振る舞おうとしたのだが、アバサーが捌けないのでどうすべきか悩んでいるのだ。結局、どうなったかというと、助け舟を出した沖縄軍兵士が捌くことに。
「じゃ、僕は生地と具を用意しようっト♪」
 ガレットの具は先ほど見せた魚介のクリーム煮に加え、じゃがいもとクリームチーズを始めにハム、ベーコン、チーズ、卵、トマト、アスパラ等。クレープは生クリームに各種フルーツ。ソースはフルーツ系とチョコを用意。
「本場フランスの味を沖縄の人に楽しんで貰えたらヨイな」
「大丈夫、喜んでもらえるさー。俺も負けていられぬな」
 アバサーには躊躇いがあったが、ゴーヤー、島豆腐といった食材は手際良く切れる風閂だった。
 祭が始まると、やちむん体験コーナーや屋台、沖縄軍による催し物で特設ステージに住民が集まり始めた。リュインだが、現役アイドルであることを買われ、司会進行役を任された。
「美味しいガレット、甘いクレープはどーデスか?」
 ガレットとクレープを別々のフライパンで焼きながら、もふもふな銀狐パーカーで愛嬌を振りまいて屋台を歩く人々に声をかける。
「狐のにぃにぃ、イチゴと生クリームのクレープちょうだい」
「アリガトー。今作るカラ待っててネー」
 焼きあがったクレープ生地にイチゴと生クリームを手際良く作り、紙に包んで「お待たせー♪」ととびっきりの笑顔で手渡す。注文した小さな女の子は、受け取ると早速一口。
「おいしいー♪ にぃにぃ、ありがとうー」
「喜んでもらえて、狐サンとっても嬉しいナ」
 愛嬌ある銀狐が作るクレープとガレットは予想以上に売れたので、ラウルは嬉しい悲鳴を上げた。
(評判いいのは嬉しいケド、目が回るヨー‥‥)
「ラウル殿の店、なかなかのものだな。こちらも頑張らねば」
 横目で様子を伺いながら、風閂はゴーヤーチャンプルーと豆腐チャンプルーを交互に炒める。
「できたぞ、配膳を頼む」
 彼ひとりでは手が回らないので、沖縄軍兵士に手伝ってもらっている。ガレットほどではなかったが、評判は良く、作ったチャンプルーは全部売れた。

●束の間の恋人達
 ガレットとクレープの店が一段落したところで、リュインが様子を見にやって来た。
「繁盛しているようだな」
「おかげさまでネ。リュンちゃんもどう? 美味しいヨ」
「そのつもりで来た。ガレットをくれ」
 ソウやんにあげるんだな‥‥とちょっとジェラシーなラウルだったが、可愛い妹のため、心を込めてガレットを作る。
 出来立てのガレットを受け取ると、リュインは会場警備中のソウジを捜し、見つけると駆け寄った。
「ご苦労だな、ソウジ。口を開けろ」
 何だ? という間もなく開いた口にガレットを詰め込まれた。
「けほっ‥‥食べ物入れる時はもうちょい優しくしてくれ‥‥」
「すまん、腹が減っただろう。愚兄が作ったものだが食べてくれ」
「サンキュ、歩きながら食えるのがありがたい。キミは何かしなくていいのか?」
「ライブまでまだ時間がある。それまでは‥‥一緒にいたいのだが‥‥」
 わずかな時間でも一緒にいたい、という彼女の気持ちを察し、ソウジはガレットをゆっくり食べる。
「うん、美味い。俺、こういうの好きなんだよな」
 俺のこと理解してくれるとはさすがだ、と言おうとしたが「当然だ」と言われそうなのであえて言わない。もう少し話したかったが、警護中の兵士に呼ばれたので別れることに。
「キミのライブをゆっくり見れないのが残念だ。ま、歌は聞こえるけど。頑張れよ、アイドル。ガレット、ご馳走さん。未来のお義兄さまにも礼言っておいてくれ」
「‥‥そう呼ぶのはまだ早い、馬鹿者。次は一緒に楽しめるといいな」

●思いと歌声よ届け
「リュインさん、ライブの準備お願いします」
「わかった」
 舞台袖で持参したオケ音源をセットし、ヘッドセットマイクを装着すると「よし」と気合いを入れ、ステージに立つ。
「次はアイドル集団Impalps所属アイドル、リュイン・カミーユのライブです。歌は『音の生まれる場所』です。どうぞ!」
 深呼吸をし、自分の音楽が、国境も心の壁も越えられると信じ歌う。

 どれだけ言葉を重ねても 伝えられない想いがある
 どれだけ仕草で伝えても すれ違う気持ちがある

 越えられない壁どうしたらいい?
 この手にある物忘れていない?
 高い壁さえ突き抜ける 魂の調べ奏でろ

 ありったけの想い込めた 音はきっと届くだろう
 ありったけの願い込めた 音はすれ違うことはない

 何気ない瞬間 かけがえのない刻
 この手にある物変えてくれる
 切なさも誓いも迷いも 全て愛しき音になる

 ワンテンポ間を置き、聴衆からも手拍子を誘うように両手を広げる。ヘッドセットマイクを選んだのは、住民達との一体感を得たいがためだ。
(皆、我と共に手拍子をしよう)

 La la la‥‥
 白と黒の鍵盤 走る指は幸せに踊る
 しなやかな絃は歌い 鮮やかな日々を描く
 響け 打ち鳴らす音
 届け 吹きぬける音
 愛しい音の生まれる場所は 僕らの手の中

 思いが伝わったのか、リュインの歌声を聴いている聴衆達は、老いも若きも、司会者も合わせて手拍子を。その中には、一時的に店を閉め、ステージ前方で応援するラウルもいた。
「あの子、綺麗でショ? 僕の妹なんだヨ」
「そうかい。綺麗な妹さんでいいねぇ。足も綺麗だし、歌も上手いし。羨ましいさー」
「えへへ、そうでショ?」
 自慢の妹を褒められたので、自慢して良かったヨと満面な笑みを浮かべるラウルだった。
 ライブが終わると、沖縄民謡も幾つか覚えたので何かリクエストがあれば応えることに。
 何かないかと尋ねたところ、どこからかこれを歌ってほしいさー、という要望が。
「わかった、それを歌おう」
 アカペラで歌おうとしたが、沖縄民謡には三線が付き物と風閂が飛び入り参加した。
「沖縄民謡は得意だ。皆に喜んでもらえれば俺も嬉しい」
「すまんな、頼む」
 三振演奏が特技ということもあり、風閂の演奏はリュインの歌声と見事に調和していた。歌が進むにつれ、聴衆は住民、警護の沖縄軍問わず人数が増えてきた。
 その中にサボって様子を見に来たソウジがいたのだが、真剣に歌うリュインは気付かなかった。

●イチャリバチョーデー
 ラウルと風閂が忙しなく動き回っていた屋台、リュインのライブをはじめとする特設ステージの催し物は大成功を収めた。
 愛嬌あるラウルは小さい子供に、リュインのライブは若年層、風閂とのセッションは民謡好きの高齢層に受けが良く、それ以外でも本来の目的である住民との交流を果たすことができた。
 楽しい時間はあっという間で、キャンプファイヤーの時間になった。
「あーあ、お祭り終わっちゃったネ。時間があればやちむん体験もしたかったんだケド。ま、いっか。最後は、皆で楽しく踊って終わろー!」
「うむ、同感だ。 皆で楽しもうではないか」
 住民、沖縄軍関係なく火を囲み、皆でカチャーシーを踊る。
(そういえば、ソウジと一緒に踊ったことがあったな‥‥)
 昨年の沖縄観光の際、琉球舞踊体験をしたことを思い出すリュインは、ソウジがいればもっと楽しいものになると思っていた。
「どうした、表情が暗いぞ? 明るくいこうぜ、明るく」
 後方から声がしたので振り向くと、そこにはどうみても阿波踊りな動きのソウジがいた。
「汝、警護はもう良いのか!?」
「部下が、企画者がいなくてどうするんですかって言うもんで。後は任せて、楽しんできてくださいってさ」
 気を聞かせてくれた部下に感謝し、リュインはおもいっきり踊ることに。
「あの時同様、阿波踊りだな。汝のカチャーシーは。それでも沖縄軍中尉か」
「それとこれとは関係ないだろ!」
 と言いつつ、近くから何やら痛い視線を感じたが、誰かを探るのが怖かったのでしなかった。
(ソウやん‥‥義弟になったら容赦しないから覚悟してネ‥‥)
 仲睦まじい2人に嫉妬するラウルの視線、というのは言うまでもない。
「ラウル殿、楽しい祭でそのような怖い顔をするな。さあ、楽しもうではないか」
 生真面目な武士を思わせる風閂が表情を緩ませ、軽快に踊っているのを見て「今日は許してあげようっト」と見逃すことにしたのだった。
 住民達が帰り、火が消えたところで会場の後片付け。
 リュイン、ラウル、風閂の3人は、沖縄軍と共にゴミを拾ったり、テントを片づけたりする。
「終わったら後片付けは当然だな、立つ鳥跡を濁さずというだろう」
「まあネ。お祭り、楽しかったネ」
 リュンちゃんどこカナと探しつつ、テントを仕舞うラウル。

●祭の後の憂い
 後片付けが終わったが、ソウジはまだ会場にいた。
 住民には今日1日楽しんでもらえたが、今後ますます激しくなる戦況を思うと素直に喜べなかった。
「祭は終わったというのにまだいたのか。忘れ物でもしたのか?」
 声のしたほうを振り向くと、背後にリュインが。彼女だけでなく、ラウルと風閂もいた。
「いや、これからのことを思うと気が重くて」
「これから?」
 楚辺通信所を破壊したが、風祭・鈴音、彼女に付き従う沖縄3姉妹、ラルフ・ランドルフをはじめとする直属の配下といったバグアを倒さない限り、沖縄は平穏にならないだろう。
 鈴音達との戦いは、熾烈極まりないものになり、住民を象の檻解放作戦以上に怖い思いをさせるかもしれない。
 そう思うと、プレッシャーが重くのしかかる。
「心配しすぎダヨ、ソウやん。僕達、能力者がいるんだからサ」
「ラウルの言うとおりだ。汝は1人で何もかも背負いすぎだ。我らを信用しろ」
「俺も同意見だ。敵が如何に強かろうと、我らが束になればどうにでもなる」
 心強い3人の言葉に、何を悩んでいたのだろうとソウジは苦笑する。
「‥‥そうだな。皆、風祭達との戦いは激しくなるだろうが、その時は宜しく頼む」
 3人は力強く頷く。

 住民の心を癒し、信頼関係を築き上げることには成功したが、楽しかった束の間の時間は、嵐の前の静けさである。