タイトル:【協奏】象の檻解放・地マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/11 19:13

●オープニング本文



 青い海、青い空の沖縄が基地の中にあるという表現はバグアに支配される以前も、支配されている現在も誇張したものではない。
 2011年11月。
 読谷村で目撃されたラルフ・ランドルフ(gz0123)、沖縄の海を支配すると宣言した照屋ミウミ、アルケニー小数精鋭部隊「パープルブラッド」を結成した榊原アサキ(gz0411)、山城カケルの沖縄3姉妹のバックにいる風祭・鈴音(gz0344)がバグア・トリイ基地に姿を現してから沖縄本島、特に読谷村、嘉手納町周辺のバグア勢力が一気に増した。

「鈴音様、例のものの完成は間近です。今しばらくお待ちください」
 トリイ基地司令室で愛用胡弓の手入れをしている鈴音に、バグア技術者が製作状況を伝える。
 沖縄にいるバグア技術者達は、鈴音の得意戦法である胡弓による音波攻撃をうまく利用しようと強化妨害電波発生装置を開発。楚辺通信所内では、急ピッチで技術者や整備士達による最終調整が行われている。
「風りん、元気ー?」
 挨拶もなく陽気に立ち入ったミウミに技術者は無礼だと怒鳴るが、その本人はまったく応えていない。
「何の話してたのかなー?」
「お前には関係ない」
 間に入った鈴音が技術者を落ち着かせ、楚辺通信所でのことを話した。
「面白そうなモノ作ってんだー。カッキーにも手伝わせたらー?」
 誰でしたでしょうかと思い出したところ、噂をすれば影と司令室のディスプレイにその本人の姿が映し出された。
「カッキー、ちょっといいー?」
 無表情の長身、目が隠れる感じの前髪にツナギ姿の少女。
『‥‥何か?』
 興味無さそうに聞き返した少女、3姉妹の次女に当たる山城カケルにミウミは「風りんを手伝ってー」と頼む。
「お会いするのは初めてですわね、カケルさん。あなたのお力を借りたいのだけれど宜しいでしょうか?」
『鈴音様‥‥! ‥‥私に何を手伝えと?』
 ミウミに対してはぶっきら棒かつ無表情で対応していたカケルだが、入れ替わるようにディスプレイに現れたゼオン・ジハイドの姿を見て俄かに緊張感を高める。
「邪魔者を排除する玩具を仕上げて欲しいのです。楚辺通信所に来てくださいませんか?」
 鈴音が言う邪魔者が沖縄軍とすぐに理解したカケルは『了解しました』と短く返答した。

 楚辺通信所で作成中の強化妨害電波発生装置開発の件は、潜入捜査に成功した諜報部からの報告で沖縄軍本部に知れ渡った。
「厄介なものを‥‥。それが完成したらKV戦で我々が不利になることは確実だ。早急に破壊しなければ」
 上層部は装置ごと楚辺通信所を破壊する作戦を練り始めた。
 数日後、檻の中に閉じ込められた象に喩えた沖縄を解放する意味を込め『象の檻解放作戦』と命名された作戦が決行されることになった。


 作戦実行前日、トリイ基地。
「貴様に頼まれて何人か連れてきたが、こいつらをどうするつもりだ」
 拘束された避難住民達を見ることなく、ラルフが尋ねる。
「試してみたいことがありまして。我々の邪魔をすべく動き出す人間が、無抵抗なこの方々をどうするか気になりませんか?」
「そんなことは興味無い‥‥好きにしろ」

 楚辺通信所付近の住民は安全な場所に避難させたので激しい戦闘、破壊の際の爆撃に巻き込まれることはない。
 この作戦が成功すれば今後のバグア戦の負担は少しでも減るだろうが、周囲は作戦を阻止しようとするキメラの大群と武装した大勢の強化人間が取り囲んでいる。
「やっぱ、そうきたか‥‥。どこでこの作戦を嗅ぎつけたんだかねぇ」
 周辺の様子を双眼鏡で窺うソウジ・グンベ(gz0017)がぼやく。
「グンベ中尉、大変です!」
 破壊活動の要となる実戦部隊小隊長のひとりが駆けつけ、トリイ基地方面から鎌や鍬といった農具、包丁等を持った避難したはずの住民が行進してこちらに向かっていることを報告。
 皆虚ろな目、年端もいかぬ子供から老人まで年齢は様々。背後に胡弓を奏でている鈴音がいるという。
「住民は風祭に洗脳されているんだろう。作戦遂行だけでも厄介だってのに‥‥。作戦遂行と行進阻止、両方行うしかないだろう。実戦部隊はいつでも行動できるようスタンバってくれ。それと、本部に増援要請を頼む」

 増援要請が行われている頃、住民達と胡弓を奏でている鈴音は歩みを止めることなく楚辺通信所に向かっている。
「この人達に迂闊に手出ししないとは思いますが、どうなることでしょうね」
 作戦遂行のためなら、多少の犠牲はやむを得ないと住民に手をかける者がいるかもしれない。
 そうなれば沖縄軍と傭兵の信用と士気がガタ落ちすると読んだ鈴音は、ラルフと部下の強化人間に住人、主に子供と老人を連れてくるよう命じたのだった。
 クスクス笑い、沖縄軍と傭兵達の動向を楽しみにする鈴音だった。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
風閂(ga8357
30歳・♂・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
サウル・リズメリア(gc1031
21歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA

●リプレイ本文


 キメラの大群と大勢の強化人間を蹴散らし、沖縄軍が『象の檻解放作戦』を遂行すべく奮闘している最中、ソウジ・グンベ(gz0017)の要請に応じた10名の傭兵が駆けつけた。
「悪いが、キミ達には風祭の足止め、洗脳されている住民の解放と避難誘導を頼みたい」
「わかった、我らに任せておけ」
 真剣な表情のリュイン・カミーユ(ga3871)がソウジの肩を叩く。
「ここが象の檻かあ」
 実物の楚辺通信所を見て、こんなことがあったなと戦史から得た情報を思い出すリチャード・ガーランド(ga1631)。
「読谷村でのバグア戦が本格的なものになるとは‥‥これ以上、故郷を破壊させてたまるものか」
 沖縄解放の手助けをすべく参加した風閂(ga8357)。
「効果的な策とでも驕っているかもしれんが、ゼオン・ジハイドのくせに発想が雑魚だな。住民を盾にされようがやりようは幾らでもある。我らを舐めるなよ」
「民間人を盾にするとは、やることが下種すぎて頭が上がらんわ。人類より強いバグア様は真っ向から戦うのがよほど嫌いなんだな。うちらはどこまで見下されてんだか」
 リュインの言葉に犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)がやり方が呆れると同意。
「住民を盾とする‥‥バグアの考えそうな事ですわね。私達の動向次第で住民感情に影響を与えようとしているので御座いましょうが、思惑通りには参りません。必ずや、無事に皆様を取り戻してみせますわ」
 誰一人欠けることなく解放させてみせる、と決意を固める祈宮 沙紅良(gc6714)。

(ボクはこの時をずっと待っていた。敗北の予感も死の恐怖も乗り越え、ボクは、ボクと仲間の存在を風祭に認めさせる為に挑む)
 大規模戦で幾度となく鈴音と合間見えた小隊『サーカス』を率いるレインウォーカー(gc2524)だったが、鈴音と直接会うのはこれが初めてである。
「行くぞ音桐、サウル。『サーカス』の意地を見せるぞぉ」
「了解しました。私も見させてもらいます、貴方の覚悟を」
 風祭に執着する友人が今回どうするのか、自分に挑む友人を見て鈴音は何を思うのか。音桐 奏(gc6293)は、興味深い事が多い今回の依頼をひとつ逃さず観察することに。
「そのカッコ、無駄になんないようにな」
 サウル・リズメリア(gc1031)に「道化の正装を死に装束にする気はないさぁ」と嘲笑。
 身に纏う【OR】戦闘用道化衣装は、本気の時に着る正装だ。それほど、鈴音との対決に力を入れている。

● 
 鈴音達を相手にするのはいいが、人数が多いので二手に分かれることに。
 迂回して胡弓の演奏を止め、洗脳を解除する鈴音対応班はリチャード、リュイン、狐月 銀子(gb2552)、サウル、レインウォーカー、音桐。
 住民対応班は時雨・奏(ga4779)、風閂、犬彦、沙紅良。
 それぞれの持ち場に着く前、時雨がソウジに近づき元気良く挨拶。
「ソウちゃん元気ぃ? すずちゃんとの合コンやけどさー」
「合コン? こんな時に何を!」
「話は最後まで聞いてえな。相手の子達がちと多いから、頭数にそっち何人かと。会場へ運ぶ足貸してくれへん? 足腰弱そうな子沢山おるし。相手の子達さあ、傭兵のわしらだけと緊張させそうやん? 軍服着てる奴がいるとウケがいいと思うンよ」
 住民護衛のために兵士を回してほしいということを漸く理解したのか、ソウジは「住民解放が終わったら連絡しろ」と言うと持ち場に着くよう指示する。

「とっとと住民を返して貰おうじゃないか。行くぞ!」
 リュインの言葉が、行動実行の合図に。
「風祭に取り付くためのサポートはうちらに任せろ。1回限りのチャンスタイムだ、しっかり頼むぞ! ちなみにうちはそこそこ頑丈だから心配は無用だ」
 胸を叩く犬彦が動くと時雨、風閂、沙紅良もそれぞれの行動に。
「風祭さえ殺せば沖縄開放は目前や、些細な犠牲は気にするな! わしは突撃するで!」
 時雨が住民の犠牲を無視して『瞬速縮地』で突撃しようとしたが、住民を攻撃する気かと風閂に咎められたので「いややなあ、振りやって」と宥め、自分に向かわせるよう誘導。
「脅かすでない」
 天照を外し、装備をプロテクトシールドのみの風閂も引き付け役に。
「おまえらの攻撃は俺が食い止める、来るが良い!」
 迂回する鈴音対応班が追いつき、住民の洗脳が解除されるまでシールドで耐え抜く。
 強化妨害電波発生装置破壊を担う沖縄軍の成功を祈る沙紅良も、風閂同様、攻撃されても耐えている。
 貧相な武装だが、それでも鈴音を守る為に攻撃に出て来る可能性は高い。ならば攻撃をしかけて引き付けるまで、と住民対応班は各々の方法で食い止める。
「わしんとこおいでー」
 時雨は派手にアピールするので攻撃されやすかったが、回避と『獣の皮膚』でやり過し、少しずつ住民を放す。
「さあ、こっちに来い!」
 住民接近のタイミングに合わせて『仁王咆哮』で敵迎撃を阻止する犬彦だが、何もせずされるがままはまっぴら御免と天槍「ガブリエル」で武器を片っ端から弾き飛ばし、攻撃させないようにしていく。


 住民対応班のおかげで、鈴音の壁となる住民の数が減った。
「守りが薄くなってきたね。じゃあ、行くよ。獲物を仕留め、救出対象を救い出せばオレっち達の勝ちだ!」
 リチャードは超機械「マジシャンズロッド」を構え進撃。
「将を射んとせば先ず馬を射よ。大将首欲しければ護衛を叩く! 練成強化、電波増幅発動! 目標! 強化人間!」
 ぶちまかすぜ! と『練成強化』と『電波増幅』の重ね掛けで威力を高めた砲撃で強化人間をメインに狙っていく。
「やれやれ、あの楽器の音響攻撃が洗脳の道具かねえ。ハーモナータイプ‥‥かな? 素直に楽器を壊してくれるといいんだけど」
「そんなことさせるわけないでしょう。意地でも成し得ようって意志、あの子にはあるのかしら」
 鈴音を見据える銀子の拳と魂は、蔑みの気持ちが込められている。
 不義を通して見殺しにされれば破綻するような作戦で他人に悪戯して困らせているように思え、勝利への執念が見えてこない。
「近づいてきましたわね。ゼオン・ジハイドを名乗る割には陳腐な手をお使いですのね。風祭・鈴音、覚悟なさいませ!」
 近づく鈴音と正面に対峙し、沙紅良は覚醒して超機械「ヘスペリデス」を掲げる。
「随分と威勢の良いこと。その台詞、この方々をどうにかしてから仰いなさいな」
 演奏の手を休めない鈴音を庇うように、後衛にいる青年達が前に出て襲い掛る。
「くっ‥‥!」
 それに加え、中年、女性、子供も追撃。
 必ず解放してみせると、さり気なく、少しずつ鈴音から引離すように後ずさり、隙を見ては『練成治療』で治療する。
「目を覚ませ!」
 シールドで攻撃を受け止めている風閂も必死に訴える。
「そろそろ飛び越える頃かしらね」
 住民を迂回する形で『竜の翼』で移動し、銀子は自分に釣られるよう何度も移動経路を変える。攻撃対象が瞬時に移動することもあり、住民達は狙いを定めることができずにいる。
「今のうちに楽器を壊せ!」
 リチャードは突撃するタイミングを計るためにやや後方に待機していたリュインと胡弓破壊に挑むレインウォーカーに『練成強化』を使い、射程内にいたのでマジシャンズロッドによる電撃で牽制し囮に。
「悪いけど、沖縄は渡せない。本土絶対防衛圏だし。散っていった軍人さんに恥ずかしいところ見せられないんだ! 敵将の首は勇者に任せて魔法使い、賢者は支援支援。ほーら! 行くぜー!」
 縁の下の力持ちに徹し、胡弓破壊の手助けをすべく動く。


「私達も行きましょう。彼をフォローしないと無茶をしかねないですからね」
 狙いは鈴音ただ1人と意気込むレインウォーカーが飛び出したので、音桐もそれに続く。後方から『制圧射撃』で援護し強化人間の足止めをしようとしたが、住民を盾にしたので『部位狙い』で足を撃ち妨害する。
「無粋な真似はやめていただきたいですね。レイン、今のうちに」
「わかった。サウル、頼んだぞぉ」
 踏み込みやすいようサウルが身体をやや斜めにすると同時に、近くにいた沙紅良の肩を足場に踏み越えるリュインは僅かにタイミングをずらし、鈴音の対処が難しくなるよう計算しながら方向を変え飛び越える。
 ダッシュしたレインウォーカーはサウルの背を踏み台に『回転舞』で飛び越え、鈴音に一直線に向かう。
「他人踏まれる日が来るとは‥‥美女ならオールOKなのによ」
 体勢を崩したサウルは、住民達に踏みつけに。
「あたた‥‥用途違いだっての!」
 即座に起き上がると住民達が手にしていた武器を掴み、落としたり破壊したり。
 死の行進か、コラ! と突っ込みながらも『ボディガード』で仲間を庇い、その合間に『ロウ・ヒール』で回復。
「これでどうだ!」
 超機械「扇嵐」で生じた竜巻で一時的にでも視界や手元を乱せば、少しは演奏を妨げられると思ったリュインは跳ぶと同時に攻撃。着地時に胡弓の弦を切ろうと狙うが、タイミングがずれ失敗した。
「ボクに任せろぉ」
 入れ違いざまに、着地したレインウォーカーが割り込む。
「久しぶりだなぁ、風祭。道化の格好をしていても分かるよなぁ、ボクの事が」
 黒い道化姿だったが、鈴音には誰だか一目瞭然。
「ええ、お久しぶりです。分かりますわ。何度も現れる鬱陶しい存在ですもの。お馬鹿振りも変わっていませんのね」
「ずっとこの時を待っていたぁ。さぁ、戦え。ボクと‥‥レインウォーカーと!」
 そういうや否や夜刀神と脚甲「グラスホッパー」での蹴りを織り交ぜた攻撃を繰り出すが、庇い立てした強化人間2人が食い止めた。
「ねえ、あたしも混ぜてよ。ひとつ聞くけど、アンタの目的って何なのかしらね」
 また邪魔が入りましたかと溜息をつく鈴音は、質問に答えるのが礼儀と演奏の手を休めず答える。
「強いていうなら、この沖縄を赤く染め上げることでしょうか。愚かな人類の血で」
「なんだ、そんなこと。残念だけど、アンタはあたしの敵じゃない。以下、って事よ」
 尤もな理由かと思いきや、気まぐれに近い回答に信念と強い意志が無いと判断。
 正面から狙う姿勢で手元の動きを見せぬよう構え、超機械「フラン」のコインを握り発動させると同時に『静寂の蒼龍』併用で鈴音の手元を狙い強力な電磁波攻撃。
「鈴音様!」
 レインウォーカーを振り払った強化人間のひとりが盾となり、代わりに電磁波攻撃を受けた。
 もうひとりの強化人間が住民を人質に攻撃を止めさせようとしたが、見逃さなかった犬彦が阻止。
「甘いな。うちの目が黒いうちは、住民に指一本触れられると思うなよ」
 咄嗟に発動した『不壊の盾』で住民を庇い、この場から遠ざけた。
「不意打ちとは、随分と卑怯なことを」
「案外近いのよあたし達。まー汚い作戦と不意打ちでおあいこって事ね。遊びは終り、次は本気でね」


 住民対応のため引き下がった銀子に代わり、レインウォーカーが鈴音の前に。
「馬鹿だ、愚かだと笑いたければ笑うがいいさ。ボクは道化‥‥笑われてこそ華。だけどねぇ、ボクは道化であると同時に『サーカス』の隊長でもあるんだよぉ。そうだろ。サウル! 音桐!」
 周辺にいる住民を邪魔させないよう阻止するサウル、援護する音桐に向かい言う。
「その通りです。さあ、行きなさい。レイン!」
 鈴音集中できる状況を作るべく貫通弾を装填した音桐は『影撃ち』『部位狙い』で攻撃し、レインウォーカーが攻撃する機会を作る。
「さぁ、嗤え! 風祭ぃ!」
 射撃のタイミングに合わせて『鋭刃』を発動、夜刀神で『真燕貫突』を放つ。
 避けきれない鈴音は咄嗟に防御したが、標的は彼女ではなく胡弓だった。

 道化の渾身の一撃は、鈴音の胡弓を粉砕した。

 砕けた胡弓をわなわなと震えて見る鈴音だったが、沸々と怒りの感情が湧き出る。
「よくも‥‥よくも私の大切な胡弓を‥‥!! この蛆虫がぁ!!」
 怒号が周囲に響き渡る。
 怒り心頭の鈴音は側にいた強化人間が持っている武器をひったくり、険しい表情で容赦の無い攻撃をし始めた。
「胡弓を壊した罪、その命で贖え!」
 とらえどころのない鈴音しか知らないレインウォーカーは豹変振りに驚き、避けることを忘れ、されるがままになっていた。
「そこまでだ! 邪魔者は消えろ!」
 飛び込んできたリュインが鈴音を止めようとする強化人間を鬼蛍で切り結び、もうひとりは踏み込んでの『瞬即撃』での逆袈裟に。
「調子に乗るな、屑が!」
「鈴音様、ひとまず退散しましょう」
 倒れなかった強化人間が鈴音を宥め、撤退を促す。
「今日はこれまでだが、次はないと思え!!」
 怒り治まらぬ鈴音の罵倒は、見えなくなるまで続いた。


 鈴音撤退後、洗脳されていた住民達が正気に戻った。
「住民開放、成功成功したな。ソウちゃん、頼んでたモンよろしくー!」
 無線機で解放成功を知らせた時雨は、自身も避難誘導を。
 気がついたら戦場にいたこともあり、住民達、特に老人、子供はパニックに。
「大丈夫ですわ。私達がついております。安全な場所に参りましょう」
 沙紅良は子供のひとりに手を貸すと誘導し、優しく声をかけ恐怖心を鎮める。
「素人さん達ー、避難会場への車はあちらやでー。兵士さん、警戒しとけよ。避難させたら一旦隔離やで?」
 誘導する兵士がキメラに襲われても即座に対応できるよう、時雨は『先手必勝』を発動し身構える。
「敵の増援が現れないとも限らないからな。手を貸すか」
 犬彦と両手に刀を持った風閂、リュインは楚辺通信所周辺の援護に。
 風閂が『両断剣』発動後に『ソニックブーム』を放つことで突破口を開く。
「実戦部隊、破壊開始!」
 ソウジ指揮下の部隊が駆け込み、楚辺通信所に手榴弾を投げ込むとリュインと犬彦が加勢した方角にいた各部隊も破壊活動を。

 沖縄軍の猛攻により、強化妨害電波発生装置は跡形も無く破壊された。

「作戦、無事成功したね」
 仲間と住民の回復を行いつつ、リチャードは炎上する楚辺通信所を見る。
 尽力する沙紅良のメンタルケアにより、怯えていた子供と老人は若干落ち着きを取り戻した。
「思い知りましたか、風祭さんとの力の差を」
「まあねぇ。ああいう奴は初めて見たけどねぇ」
 負傷重体、手足を失うことは覚悟の上だったが、逆上したのは予想外だった。
「レイン、それでも挑み続けますか、貴方は」
「当たり前だぁ。この命ある限り何度でもねぇ。必ず生きて何度でも挑むさぁ。そういうお前らはどうするんだぁ?」
「勿論、最後まで見届けます。命ある限り、ね」
 シリアスな雰囲気の中、サウルが急に何かを思い出した。
「どうしたんですか?」
「鈴音の胸のサイズとカップ聞き忘れた!」
 音桐に手当てされているレインウォーカーは苦笑するしかなかった。
 そんな彼らに子供がお礼を言いに来たので、サウルは「俺は戦場に、愛と平和と自由を届ける使者だからな!」と笑う。

 バグアの手に落ちた象の檻が破壊されたことで、沖縄解放は一歩前進した。