●リプレイ本文
●思い出深い学び舎
「カンパネラ浮上‥‥か。こんな日が来るとは思わなかったぜ」
教室を貸し切り、カンパネラ学園の学業機能をどうすべきか、本校をどこに置くかという話し合いをすることに。
窓際で学園の外を見つめながら物思いに耽るソウジ・グンベ(gz0017)だったが、自分に務まるかどうか不安になってきた。
「意見聴取はここでいいんですか?」
最初にやって来たのは、今年の春から学園生としてカンパネラ学園に通っている獅月 きら(
gc1055)。
「カンパネラは、宇宙に‥‥行ってしまうんですね」
学園で出会ったたくさんの人達、学園で起こった様々な出来事を思い返しながら寂しいと呟くきらに、ソウジは「俺の不安が伝わったか?」と気を紛らわせようとする。
「カンパネラ学園宇宙行きは決まったことだが、だからと行って学園自体が無くなるワケじゃない。そうだろう?」
学園教師としてカンパネラに来て早3年。その間、彼にも様々な思い出が出来た。カンパネラが宇宙に飛び立っても、思い出は色褪せることはない。
「そう‥‥ですね。カンパネラ浮上により戦争が終わるのなら、私は笑顔でステーション化を見届けたいです」
●それぞれの意見
きらが落ち着いたのと同時に、次々と学園生や聴講生がやって来た。
「それじゃ、早速だが皆の意見を聞かせてくれ」
はいっ、と手を挙げて真っ先に意見を述べたのは白虎(
ga9191)。
「ボクとしては、学園は地上に残してほしいかなぁ。グリーンランドの決着が付いた今となってはカンパネラ学園の生徒、つまりまだ就学中の人達を最前線に編成する意味はあまりないと思います」
戦いが佳境を迎えているとはいえ、今日明日でそんな学徒動員のような体制まで取る必要はないと付け加える。
「父上も言っていたっ、がくせーのほんぶんは勉強することだとっ。というわけで、カンパネラの学園生徒に落ち着いて勉強してもらうためにも、学園機能は地上にあったほうが良いとボクは思うのです」
「俺もその意見に賛成だ。今から宇宙ステーションを作ってる余裕が無いのはわかるが、通ってる生徒からすりゃ、宇宙へ行くのは大問題だぜ? ということで、学園の機能は地上に残すに一票」
カンパネラが宇宙へ行くと変形してロボットにでもなるんじゃあるまいな? と考えつつ、アレックス(
gb3735)も同意する。
「そもそも、わざわざ学びに宇宙に行かなきゃならないのは面倒だろうさ。宇宙に行ってしばらく帰れないなら、勉強してる場合でもないんじゃないかな。グリーンランドの分校、ってのもあるのは知っていたが、いきなり出てきてそこがメインになるってのもなぁ」
通いの生徒の苦労を考えたほしいもんだ、と意見終了。
「学業機能ですが、私も地上に残してほしいです。最前線の要塞として求められるものは、学業機能ではないはずです。そこに求められるのはより戦うため、バグアを殲滅するために必要な機能であったり、戦う者を支援すべき場であると思うのです。傭兵にとっても、そして学生にとっても、両者にとって宇宙へ学業の場を移す事は得策ではないと考えます」
学業とバグアとの戦いは両立できない、というきらの意見にはカンパネラ学園は自分達が帰るべき場所、今、ここにいる地球であってほしいという思いも。
傭兵としても学生としても、学んでいる期間、実践に出るまでもう少し時間がほしいと思う生徒が最前線で不安を抱えながら学ぶのはどうか。戦争のためだけに宇宙へ飛ぶのは如何か、と意見を続ける。
「先生、どうか私達の学校を宇宙に持っていかないで‥‥」
恋人がいる大切な学び舎を残してほしいです、と潤んだ瞳で懇願。
「いや、そう言われても‥‥。俺に決定権ないから‥‥」
女の子の涙に弱いので、強く否定できなかった。
●戦力を考慮して
「AU−KV等の研究施設に関しては宇宙に本格的なものを、本校は地上に、というのが俺の意見だ」
現状最前線基地としての機能がカンパネラに求められている以上、そこに余分となる学園機能を持たせるのは危険だし、非効率ではないかというのがヘイル(
gc4085)の意見だ。
「将来的に宇宙情勢が安定して前線が離れ、本格的な生活の場として新たな拠点が出来れば改めて移転を視野に入れるべきではないかな。学生はあくまで学生であり、能力者を多く含むカンパネラ学園生といえども戦闘になった場合は、正規の能力者や傭兵に戦力で劣る。彼らを最終防衛線として考えているのならば、それはリスクの増大にしかならないだろう」
それは一理あるな、と天野 天魔(
gc4365)は軍事的な点では人類が宇宙上に建設できる拠点は多くなく、その数少ない拠点に学園機能等という軍事的に不要な設備を置くべきでないとヘイルと同じような意見を。
「そんなスペースがあるなら軍事施設を載せるべきで、学園機能はバグアを撃退し平和になった後に改めて持たせれば良い。人道的な点では、カンパネラ学園生は能力者であるとはいえ、少なくとも建前上は学生であり、軍に属していない民間人である」
以上の理由で、カンパネラ学園に学園機能を残す事には反対だと一旦区切る。
「今回のカンパネラの宇宙ステーション化の目的は人類の宇宙拠点にすることあり、今後、バグアとの熾烈な戦闘が確実に発生する。そんな危険地帯に民間人の学生、それも未成年を大量に連れて行くこと人道的に考えて非難は免れないだろう。UPCは、学園生を敵に侵入された際の時間稼ぎの捨石にするつもりなのか?」
義務教育を終えていない能力者のための軍学校であるカンパネラには、天魔が言うように未成年が多く在籍している。
「先生の意見はどうなのだ?」
ジリジリ詰め寄り意見を求める天魔にたじろぐソウジだったが、ここで弱気になっては話が続かないと強気に。
「戦力云々はUPCや学園側が、宇宙行きや戦闘するかどうかは学園生本人が決めることだ。俺は教師だが何とも言えん。これじゃ駄目か?」
言い過ぎたかも‥‥と反省したが、教師兼UPC軍の軍人であるソウジ個人としては民間人を危険に晒すようなしたくない。というが、危険地帯ともいえる戦地に赴くかどうかは生徒達が決めることなので天魔の意見に関して強く意見できなかった。
「まあ、たしかにそうだが‥‥」
●共鳴の行く末は
ピリピリとした雰囲気を変えたのは、白虎の何気ない一言だった。
「忘れられがちだけど、学校が宇宙に行ってしまったらUPCで保護したハーモニウムの人達の居場所がなくなってしまうかもしれないのにゃー。まさか、戦いもしない人達を宇宙の最前線まで引っ張りまわすとは言わないよね?」
ソウジ先生はそんな冷たい人じゃないよね? と言われているような目で見られているのがコワイ。
北伐作戦展開時、バレンタイン強襲戦作戦前後、ホワイトバレイ防衛戦で戦ったグリーンランドに出没したメトロポリタンXと共に陥落した北米軍学校の制服に酷似した服を着たバグアの強化人間集団、ハーモニウム。
「ハーモニウムか、俺も他人事とは思えないな」
「私も気になります。どうなるんですか?」
対ハーモニウム戦を乗り越えたアレックスときらも、保護されたハーモニウムのことを案ずる。
「本校をどこに置くかという今回の話し合いと関係ないから、その話はスルーな」
それ答えになってないーと不満がる白虎だったが、ハーモニウムの処遇と今回の議題はまったく関係ないのでそうとしか答えられない。
●それぞれの要望
全員一致で「学業機能を地上に」となったので、その後は各々の提案や個人的な意見に。
「宇宙の方の技術開発等に関しては出張所や研修施設のような形で、施設の一部のみを移転する形で対応してはどうかな。メインの学業は地上でやって、宇宙での開発は研究は専門のチームがそっちに出向いてやる、と。こうすれば宇宙に移す施設や体制も最小限で済むのではー? 地上と宇宙のリンクは、映像データや通信回線を使ったら学業施設の残らなかった方に滞在する生徒もある程度の講義や授業を受けられるように出来るかと。通信が難しいなら、録画データの入ったディスクを補給物資と一緒に手渡しで輸送すればいいだけだし」
授業のやり方を工夫すればそんなに難しい話ではないと思います、と白虎。
「これは俺の提案だが、学園機能はグリーンランド分校に完全に移し、宇宙に上げるのは研究施設と軍事施設に絞り、所属人員は正規軍と傭兵等の軍属で固めるというのはどうだろう?」
どうだろう? と言われてもなぁ‥‥とため息をつくソウジを無視し、天魔は更に提案する。
「学園生を宇宙に上げる際、事前に危険性と教育が受けられない等のデメリットを十分に説明するべきだろう。但し、通信教育や宇宙活動を単位として認める等のデメリットの埋め合わせは考えるべきだ」
ヘイルは学業も大事だが、学園にあるAU−KVを始めとした特殊研究施設に関しては宇宙に移設できないかと意見。
「これから先、宇宙での戦闘が拡大することが予測される以上、AU−KVの持つ強化戦闘服という側面が必要になると考えられるからな」
ドラグーン、ハイドラグーンが身に纏うAU−KVだが、デチューンするかその技術を応用するかすることで更なる防御力、機動力を持った戦闘用アーマーとして宇宙服関連の技術を向上させることが必須、というのは明白である。
「それには、宇宙に研究施設があるのは利点となる‥‥というが、個人的には宇宙用の新型AU−KVの開発も進んで欲しい、という期待がある」
そのことは否定しないが、と苦笑する。
「とはいえ、これも宇宙基地としての機能が必要以上に圧迫されないことが前提だ。宇宙ではそう簡単に撤退できない以上、非戦闘員を多く抱える事はそれだけで危険なのは先に述べた通りだが」
「キミ達のその意見、一応お偉いさん方に話してみるよ。どうなるかわかんないけどな」
期待しないでくれよ? とメモるソウジ。
「生徒会だけど、俺達は入れないのかね。長らくカンパネラで活動してるが、適任者を知らないんだ。次期生徒会選挙だけど、俺達でも立候補や他薦が出来るなら面白くなるかもしれないな」
学園としては色々と大変だろうけど、と同じ少尉待遇としてティグレス副会長みたいなポジションに憧れるアレックスが訊ねる。
「生徒会問題か。立候補者がいないなら、現役員に指名させてその承認を全校集会でとり選挙で決めるべきだろうな。タイミング的にはグリーンランド分校と合併前後が望ましいん。選挙というイベントを通し、カンパネラとグリーンランドの生徒間で交流がもてるだろう」
平和的な話題になったと安心した天魔が、アレックスの意見に身を乗り出す。
学業をどうすべきか、施設に関すること、生徒会選挙等、参加者達による意見交換が続いた。
●今後どうするか
翌日。
理事長室に呼び出されたソウジは、参加者から寄せられた意見をまとめたレポートを学園関係者に手渡す。
「集まった能力者達の意見ですが、全員一致で『学園機能を地上に』となりました。激戦区となる宇宙での学業に不安、未成年の学園生を危険に晒したくない、という意見もありました」
そうきたか‥‥と関係者達は意外だなという顔をする。
「その他には、宇宙に行った生徒の学習に関して、宇宙の研究施設に関して、宇宙用AU−KV開発要望がありました。これらに関してもご検討願います。それと‥‥」
一呼吸おき、ハーモニウムの処遇に関しては慎重にご検討を、と一言。
それに関しては、関係者達の返答は無かった。その話題に触れるな、という暗黙の回答だとソウジはすぐにわかった。
報告を一通り終え、立ち去ろうとするソウジに学園関係者のひとりが「きみは宇宙に行くのかね?」と質問した。
「俺が宇宙に行くか行かないか、というのは今すぐに決めなければならないのでしょうか?」
「いや、そうではないが‥‥」
教師なので宇宙に行くのだろう、という偏見があるとすぐにわかった。
「その質問に関しては、近いうちに答えを出しますよ。では、失礼します」
理事長室を後にしたソウジは、地上で遣り残していることがないかを考えてみた。
(何かあったっけか? う〜ん‥‥)
あれこれ考えたが、考えすぎて頭が痛くなったのでやめた。
カンパネラ学園の行き先は決まったが、ソウジが宇宙へ行くか、地上に残るかは当分決まらないだろう。