タイトル:【AC】お手伝い求むマスター:竹科真史

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/10 23:35

●オープニング本文


 ラスト・ホープで大衆食堂を営む稗田・盟子(gz0150)の夫、清蔵は、能力者達の説得に応じ退去することに‥‥というが、危険な状況にありながらも残っている常連客のために何かしたかった。
「退去する前に、まだ残っている客に感謝の気持ちを込めて一時閉店セールをやろうと思う。おまえも学園食堂が忙しいと思うが、俺ひとりじゃ大変だから手伝ってくれ」
 電話越しの清蔵の声は真剣だったので、盟子としての夫の協力をしたかった。
 ダメもと、と食堂関係者に夫の手伝いをしたいと話したところ、皆、口を揃えて「いってらっしゃい」と快く送り出してくれた。
「あ、お父さん? 私、お手伝いできることになったわ〜。セール当日にラスト・ホープに行くからよろしくね〜」
「すまないな。四国にいるなぎさにも手伝いに来るよう言った。子供の世話と仕事があるから無理と言っていたがな」
 頑固で強引な父親に敵わなかったのか、なぎさも手伝いをすることに。

 退去前日。馴染みの中年客が汗だくでやって来た。
「今、ラスト・ホープの後片付けをしているんだ。清さんも知ってるだろ? ここが損傷したこと」
 何度か揺れを感じたなと思ったのはそのためか、と清蔵は納得する。
 この話を聞き、残っている常連客だけでなく、後片付けに従事している労働者を労うことに。
 その日の夜、盟子に常連以外の客にも食事を楽しんでほしいということを伝えると「それはいいわね〜。私も賛成よ〜」と喜んでくれた。
「明日は忙しくなりそうだ」
 稗田親子だけでは大変ということもあり、清蔵は能力者達に店を手伝ってくれるよう要請したのだった。

●参加者一覧

/ 百地・悠季(ga8270) / 志羽・翔流(ga8872) / 立花 零次(gc6227) / 祈宮 沙紅良(gc6714) / アレックス(gc7754

●リプレイ本文

●セール準備開始
 ラスト・ホープ退去を決意した稗田・盟子(gz0150)の夫、清蔵はその前にまだ残っている常連客に感謝の気持ちを込めた閉店セールを行うことを決め、能力者達に手伝ってくれるよう要請した。
 手伝いに応じたのは説得に関わった志羽・翔流(ga8872)と祈宮 沙紅良(gc6714)の2人を加えた盟子と交流がある百地・悠季(ga8270)、立花 零次(gc6227)、他1名の合計5名。
「今回は宜しくお願い致します、令子さん‥‥? どうしてココに? ご主人はどうされたんですか?」
 沖縄で結婚式を挙げた従姉妹、令子の護衛にあたっていた零次が驚く。
「レイちゃんのお知り合いなのね〜。間違えるのも無理ないわ〜。私とレイちゃん、双子に間違えられるほどそっくりだもの〜。私は盟子、カンパネラ学園食堂のおばちゃんよ〜」
「そうだったんですか、失礼しました。それにしても‥‥そっくりですね」
「話はそのくらいにしてくんな。準備するぞ」
 力仕事もあるので、妊娠9ヶ月半の悠季と息子の世話をしている娘のなぎさ以外で行う。
「さて、頑張りますか。まずはテーブルセッティングですね」
「テーブルとか運ぶのは俺ら男に任せな。女の子とおばちゃんはテーブルクロスかけたり、椅子並べてくれ」
「かしこまりました」
 男性陣、得にアレックスが率先して運んで並べたテーブルと椅子を丁寧に拭く沙紅良
は、遣うのであればより綺麗に、とひとつずつ磨き上げる。
 黙々と働く巨躯のアレックスの働き振りを見て、頼りになる奴だと清蔵は期待する。

 すべてのテーブルにクロスをかけ終えた沙紅良は、涼しさを演出できないかと、グラスにカラフルなビー玉と水を入れたものを用意した。
「本当はお花でも飾れたら良いのですけれど、屋外は暑いですし‥‥。こういう飾りは如何でしょうか?」
「綺麗ね〜。お父さん、これ、屋外のテーブルに飾りましょうよ〜。涼しくなりそうでいいじゃな〜い」
「テーブルクロスだけじゃ殺風景だし、この大きさなら邪魔にならんからいいだろう。それ、頼んだぞ」
「ありがとうございます。では、早速ご用意致しますね」
 沙紅良がグラスを置いている間、零次は大通りに打ち水をし、少しでも涼しくなるようにする。

 開店準備中、力仕事ができない悠季は授乳中のなぎさから子守りの仕方を教わっている。
 子守りをする盟子の孫、新の年代そのものは昔の避難所生活の世話で培ってきたので手馴れたもの、そういう勘を思い返す面がある、育児の予行練習を頑張ってみせると意気込む。
「いつだって色々皺寄せ来るのは子供達なのだから、そこはしっかりと面倒みるわよ」
「ごめんなさいね、こんな格好で‥‥。夫婦共稼ぎだから、側にいられる間は甘えさせてあげたいの」
「気にしないで、赤ちゃんですもの。お母さんのおっぱいが恋しいお年頃だしね」
 目を閉じて飲んでいる新のほっぺたをつつき「可愛い‥‥」とうっとり。
「この子の手癖は何でも触ったり、口に入れたりすることね。煙草やライター、鋏とかは絶対に持たせたりしちゃ駄目。興味を示したものには歩いて近づこうとしたり、触ろうとするから危ないことだけはさせないで。転びやすいからそれも注意ね」
 側においてあるバッグと保冷バッグを指差し、着替えやおもちゃ、離乳食がそこに入っていることを教え、ご飯の食べさせ方、麦茶の飲ませ方、おむつの取り換え方等を教える。
「あと、泣き止まないようだったらこれを使って。そろそろやめさせたいんだけど、つい頼っちゃうのよ」
「わかったわ、後は任せてちょうだい」
「頑張ってね、プレママ」

●それぞれの仕事
 テーブルセッティングが終わると、調理担当の翔流は清蔵と盟子と一緒に下ごしらえを。前もって材料を用意しておけば時間の節約になる。
「親父さん、たこ焼きとかお好み焼き作ってもいいかい?」
 メニューを見た翔流がメニューに拘らなくてもいいなら作りたいと申し出ると、感謝セールだからそれもいいだろうと許可した。
「サンキュー。料理は和洋中なんでもアリってとこだな。フランス料理なモンは苦手だが、定食とかは大丈夫だ」
 本職料理人だが「俺に任せろ!」と大口を叩かず、あくまでも清蔵のサポートとして動くことに。その理由は、常連客の中には清蔵の味に慣れ親しんでいるからだとか。
「調理の準備、OKよ〜。開店しましょう〜」
 盟子が暖簾を出し、待っている数名の客に「お待たせ〜」と声をかける。

「いらっしゃいませ」
 お出迎えは笑顔ではっきり、感謝の気持ちを忘れないように心がける沙紅良がテーブルに案内したのは、清蔵説得に協力してくれた常連客のひとりだった。
「お姉ちゃん、清さんの説得できたんだな。閉店は残念だけど、このご時勢じゃ仕方ないわな」
「私のことを覚えていてくださったのですね、先日はご協力ありがとうございました。おかげさまで‥‥この通りです。ご注文が決まりましたら仰ってくださいね」
 常連客は差し出された冷たい水を飲むと「暑いけど頑張れよ」と励ます。
「すみません、今、混んでいますのでお呼びするまでお待ちください」
 暑いのでこれを、と零次は待っている客に冷たい水とおしぼりを差し出す。

「豚しょうが焼き定食と冷やし中華をお願いします」
「あいよ! 注文伝票は俺らが目に付くような場所に貼っといてくれ」
 沙紅良から注文を聞いた清蔵は、食材を取り出すと手際良く調理し始める。
(さすがは親父さん、いい手つきだ。俺も負けちゃいられないな)
 こりゃ忙しくなりそうだ、と額の汗を拭うことなく冷やし中華の麺を茹でる翔流。
「豚しょうが焼き定食できたぞ! お嬢ちゃん、こいつを運んでくれ」
「かしこまりました」
「熱いから気をつけてな」
 清蔵から豚しょうが焼き定食のトレイを受け取った沙紅良は覚醒し、それを注文した客に運ぶ。
「豚しょうが焼き定食、お待たせ致しました」
 動きを追うように舞う幻想の桜の花弁のパフォーマンスを見て、周囲の客は凝った演出だと関心を抱く。
「ごゆっくりお召し上がりください」
 そんな彼女にお近づきしたいと、別の男性客がメニューが決まったと声をかける。

 食事を終え客が帰った後のテーブルを零次と沙紅良が分担して片付け、いつ次の客が来てもいいように準備する。
「お待たせ致しました。こちらにどうぞ」
 沙紅良がてきぱきと行動し、客を待たせることのないようにする間、零次は食器を大きめのケースにしまう。
「お客様、こちら、お下げしてもよろしゅうございますか?」
 近くを通りがかったテーブルの客に声をかけ、確認してから片付ける。
(能力者ならお皿の100枚や200枚、なんてことはありませんね‥‥とはいかないようですね)
 大丈夫だろうと思ったが、予想以上に重いので落とさないよう慎重に運び込むと汚れが落ちやすいようケースにお湯を入れ漬け置き。その間にもう一度食器の回収に。
「では、洗いますか」
 洗剤で手がかぶれないようゴム手袋をすると食器洗い開始。量が多いので洗うだけでも一苦労だ。
「ふぅ、意外と大変ですね。でも、偶にはこういうのも楽しいものです。そう思いませんか?」
 横にいるアレックスに声をかけるが、何も言わずせっせと皿を洗っている。
 洗い終えた食器は湯きりし、拭いている暇は無いので食器立てに並べて扇風機で乾かす。
「夏場ですからこれですぐに乾きます。さあ、残りも片付けましょう」
 その様子を見ていた翔流は手伝いたかったが、調理が忙しいのでそれどころではない。

●子守りは大変だ
「突起物と発火機器は届かないところに置いたから大丈夫ね」
 新が触ったら大変、と悠季はそれらを目に付かない場所に仕舞いこむ。
「新ちゃん、こんにちわ。クマさんですよー」
 居間にある熊のぬいぐるみを持ち、わざと離れて少しでも興味を惹かせようと声をかけながら動かす。
 興味を示したのか、ゆっくり立ち上がると少しずつ歩き出した。
「そうそう、あんよ上手ね。クマさんのところにおいでー」
 何度かペタンと座り込んだが、機嫌良くぬいぐるみのところに歩み寄った新を褒める。
「クマさんのところに来れたね、えらいえらい」
 可愛い、とぎゅっと抱きしめ、頭をナデナデする。
「歩くのが疲れてでしょう。次はご本を読んであげるわね」
 読んであげるのは小さい男の子と動物が冒険する内容の絵本。身振り手振りを交えての読み聞かせが面白いのか、ニッコリ笑って悠季の話を聞く。
(子供は無邪気に笑っているのが一番ね。生まれてくる子もこうだといいんだけど)
 お腹をさすり、そろそろ生まれてくる我が子のことを思う。

 絵本を読み終え、次は何をして遊ぼうかと考えていると新がぐずった。
「まんま」
「まんまって言えるのね。もうお昼だものね、お腹すいたわね。今、ご飯の用意をするから待っててね」
 タッパーに入っている離乳食をレンジで温めている間にストローマグに麦茶を入れる。温まると食事用エプロンをつけ、座らせてからスプーンで食べさせる。熱いのでフーフーし、冷ましてから食べさせる。
「はい、あーん」
 口を開けて待っている新を見て、雛鳥みたいで可愛いとうっとり。ストローマグを手渡すと、自分で持って麦茶を飲んだ。
「喉が渇いていたのね。麦茶全部飲んじゃったわ」
 口元を拭きながら飲みっぷりに感心。
 食事用エプロンを外してから食事の後片付けをし、しばらく遊んでいると新が身震いしたのでもしかしたら‥‥とズボンを脱がしておむつを見ると、おしっこラインの色が変わっていた。
「あらあら、おしっこしたのね。取り換えましょうね」
 バッグからおむつとおしり拭きを取り出し、新しいものに換えようとするが歩き出すので思うようにいかない。
「捕まえた、さあ、取り換えるわよ」
 素早くおむつを脱がし、おしり拭きでぱぱっと拭いて新しいものをはかそうとするが、嫌がって足をバタバタさせたのでお腹を蹴られないよう注意しながら押さえ込んではかせた。
「おむつ交換がこんなに大変だったなんて‥‥。そういえば、なぎささんも動き回るから苦労するって言ってたわね」
 お母さんって大変なのね、と改めて育児真っ最中の母親の苦労を知る。

 その後、ぬいぐるみで遊んだり、積み木を積んで遊んだりしていたが、色々遊びまわって疲れてきたのか新がぐずりだしたので抱きしめて背中をトントンと優しく叩いて落ち着かせようとするが泣き出した。
 これ使ってと手渡されたおしゃぶりを銜えさせ、再度背中をトントンすると落ち着いたのか眠ってしまった。
「ふぅ、やっとで寝たわね。寄り添って昼寝しようかしら」
 横になり、一緒に昼寝して休むことに。
「もし先々年子になるなら、こういう状況が毎日になるのよね‥‥。そういう子のお母さん、よくもつわね」
 先に目を覚まされてもどこかに行かないよう、小さな手を握り締める。
 子守りで疲れたのか、うとうとしていた悠季も眠ってしまった。

●セールの後は‥‥
 大盛況だった閉店セールが終わると、全員で後片付けを。
 零次と沙紅良、なぎさは食堂内外のテーブルとその周辺、翔流と清蔵、盟子は調理器具を片付け、厨房の清掃を。
「やれやれ、終わりましたね。皆さん、お疲れ様でした」
「清蔵さん、なぎささん、傭兵の皆様、お疲れ様でございました。冷たいお飲み物で一息つきませんか?」
「暑かったでしょう〜? さ、飲んで飲んで」
 沙紅良と盟子が冷たい緑茶を差し出す。
「サンキュー。んー美味い!」
 一気に飲み干す翔流。
「志羽さん、汗だくで調理してましたからね。お疲れ様でした」
 厨房での働き振りを見ていた零次が一口飲んでから労う。
「アレックス様、お疲れ様でございました。どうぞ」
 疲れきったのか、無言で沙紅良が差し出した緑茶が入ったグラスを受け取る。

 後片付けが終わり、皆が落ち着いたのは日が半ば落ちた頃だった。
 涼しくなってきたので、悠季は気晴らしにと新を散歩に連れて行くことに。日焼け止めを塗り、帽子をかぶせると靴を履かせて外へ。
「私もいつか、この子と同じくらいになったこの子とお散歩するのかしらね」
 食堂周辺を散歩しようとしたら、翔流がこれから慰労会するからあんたも来いよと食堂の中に誘う。
 テーブルには翔流が張り切って作った料理と飲み物があり、その周囲には清蔵をはじめとする全員がいる。
「ありがとう、助かったわ。動き回るこの子のお世話、大変だったでしょう。お疲れ様」
 新を抱っこしたなぎさが悠季を労う。
「お姉ちゃんと遊んで楽しかった?」
 そう聞かれた新は「だぁ♪」とニッコリ笑ったので楽しかったのだろう。
「さ、乾杯だ。皆、グラス持ったな」
「これは悠季ちゃんの分よ〜」
 盟子がリンゴジュースが入ったグラスを手渡す。
「皆、俺のわがまま聞いてくれてありがとうな。ラスト・ホープの食堂は閉めるが、これで終わりじゃない。落ち着いたら必ずここで営業再開する。しばらくは骨休めだが、近いうちにどこかで料理人として働く。とまあ、前置きが長くなったがお疲れさん。‥‥乾杯!」
『乾杯!』

 慰労会だが、偶然通りかかった常連客を交えて賑やかに行われた。
「親父さん、お疲れさん。さ、一杯」
「お、悪いな」
 翔流に勧められ、上機嫌で清蔵はビールを注いでもらう。
「さっき、どこかで料理人として働くって言ってたけど、働き口あるのかい?」
 そう聞かれたが、清蔵は何も答えない。
「お父さん、ラスト・ホープが落ち着くまでカンパネラ学園の食堂で働くことになっているの〜」
 照れくさいから言わないのね〜と笑いながら盟子が説明する。夫婦揃って学園食堂で働くことを報告するとからかわれると思い、何も言わなかったのだろう。
「そうか。何にせよ、親父さんには料理続けてほしいな」
「俺もそう思います。またここに帰って来られた時にはお手伝いしますよ。遠慮なく声をかけてください」
「清蔵さん、その時は私もお手伝い致しますわ」
 零次と沙紅良の申し出がとても嬉しくて涙が出そうになったが、男が泣いてたまるか! と堪える清蔵は、口にするのが恥ずかしいので、心の中で皆に感謝する。
(皆‥‥ありがとな。今日のことは絶対に忘れないからな‥‥)