●リプレイ本文
●始動
「実に悪趣味な‥‥元は人か、これは」
吹雪の中にいるかつては人であっただろう多数のキメラを不愉快そうに見つめるメルセス・アン(
gc6380)。
「にしても研究者って奴は‥‥。まあ、人類にはまだ解かっていない技術ってのを研究したい気持ちは何となく解かるが。新バグア派の兵と戦ってた方がまだ気が楽だ」
初の実戦がこれというのもどうなんだろうね? と綾瀬 宗司(
gc6908)が首をかしげる。
「キメラになってしまった者を元に戻す手段は無い。サックリと殺してやるのが、慈悲ってもんかね?」
変に同情して俺達が死んだら笑えない、と捕獲対象以外を倒すことに。
「皆さん、よろしくお願いしますねぇ」
宗司同様、これが初実戦となる宇加美 煉(
gc6845)が礼儀正しく挨拶。
「初めてのお仕事ですからねぇ、頑張るとしましょう。一応学生としてはぁ、先生に媚びを売って損は無いと思うのですよぉ」
『そんなもんなのか?』
ホワイトボードに書きながら自作の抹茶クッキーを食べる赤月 腕(
gc2839)。
「すごく寒いですね〜‥‥本当にキメラはいるのでしょうか〜?」
双眼鏡で捕縛対象となるキメラを探す八尾師 命(
gb9785)。
「永一さん、研究部に貸与申請したものは用意できてますか〜?」
すべて揃っていると申 永一(gz0058)から聞き、なるべく早く終わらせ、暖かいところに戻りたいと思いつつキメラに目星をつける。
「我輩は人間でなくなることに重要性を忠告し、非能力者でも戦える方法を探し、フォースフィールドの脅威から逃れる方法を研究し、時には疲れた心を趣味で癒していたらスチムソン君があんな状態であったことが判明したから我輩も腹をくくらねばと決意を新たに、研究と仲間や信仰との板ばさみに悩みながらも限られた設備で進まぬ研究を続けてきたというのに‥‥」
一呼吸おき「捕獲を頼んだ本人は『寒いの嫌だ』で他人任せだとぉぉ!」とおもいっきり大声で叫ぶドクター・ウェスト(
ga0241)。キメラ研究に真摯な彼としては、責任者がくだらない理由で同行しなかったことが許せないようだ。
憤るウェストをUNKNOWN(
ga4276)は「気楽に行こう。確実に、ね」と宥める。
2人のやりとりを見たメルセスは、見覚えのある白衣にもしや、と思い挨拶を。
「以前も同席したな、ドクター。今回もキメラのサンプル回収かな?」
まあそんなところだね〜と答えると、ウェストは装備チェックを。
「キメラの研究が進めばいろんなことに応用できそうですね。キメラに対しての有効な攻撃方法、生体強化、新生物の創造、可能性は様々です。研究者の方には、是非頑張ってもらわなくてはいけませんね」
ニッコリ笑ったかと思えば「そのために‥‥僕達は、こうして寒い所で一生懸命頑張っている訳ですし」と皮肉気に呟くソウマ(
gc0505)は肉眼で視認できるキメラの能力、習性、数、周辺地理の詳しい情報を収集している。
「数はさほど多くないようですが、僕達の人数を考えると苦戦するかもしれませんね」
同行者の永一を人数に入れても10人なので、キメラの大群を退治するのは骨が折れることだろう。
『それでもやるしかないだろう』
腕のホワイトボードを見た皆は、そのとおりだとそれぞれ行動することに。
●作戦
「捕獲ですが〜、対象を生肉とかの餌をセットした檻に閉じ込める、というのはどうでしょう〜?」
餌付けできるかどうかはわからないが、命の案はやってみる価値があるということで全員賛成した。
「アレなんかはどうでしょうか〜?」
「どれどれ〜」
捕獲対象を命から借りた双眼鏡で確認したウェストは「永一君、アレでいいかな?」と指差す。2人が選んだのは、人と獣が混ざり合っているような特殊な器官の無い獣人系キメラだ。
「大きさ、外見共に申し分無いな。よし、アレにしよう。皆、悪いが協力を頼む」
研究対象が決まったので、それぞれの行動に。
「身体には気を付けて、だ。寒いと身体が鈍る」
煙草と白檀系コロンの残り香がする予備のコートをメルセスに貸すと頭をポン、と軽く叩くUNKNOWN。
「ありがとう、ドーター。貴公は、何故この依頼に参加したのだ?」
理由に関しては「何故、だろうね?」とはぐらかし。
バハムートをトライク形態にして周囲を注意深く移動する煉を見て「あれはこういう局地では重宝するな」と感心。その本人はというと、毛皮が欲しくなりますねぇと寒がっているが。
「見づらいですし、寒いですし、困ったものなのです」
捕獲対象キメラに檻の存在が気づかれないよう、命は永一と慎重に罠を設置。その付近には寒さをしのぐためのテントが設置されている。
「結構上手に罠ができましたね〜。これでしばらく待ってみましょうか〜。長時間待機になりそうですが〜、うまくいくよう頑張りますね〜」
吹雪の中、外で待機していては体力が消耗してしまうのでテント内での待機は正しい選択かもしれない。
「きみはそこで捕獲キメラの様子を窺ってくれ。俺は外で窺う」
いつでも戦闘になってもいいように、永一はテント前で待機する。
檻を設置してからかなり時間が経ったが、獣人系キメラは一向に現れない。
「あれ〜‥‥? なかなかやって来ませんね〜‥‥」
『そう簡単に来るわけないだろう』
腕のホワイトボードを見た永一も「そのとおりだ」と苛立ちを隠して言う。
それから十数分後。
「見つけましたよ」
『探査の眼』と五感と第六感をフル活用して周辺を警戒していたこともあり、ソウマは捕獲対象の獣人系キメラが来ても慌てることなく無線機で命に連絡を。
「こちらソウマ、対象キメラ接近。捕獲準備はできていますか?」
「八尾師です〜、準備はできていますよ〜」
と言うが、視界不良なので大群の中のどこに対象キメラがいるのか見当がつかない。下手に動くと吹雪の中で孤立すると考えた命は永一、腕とテント付近で待機を。
●殲滅
「大勢来たようだね。まあ、ぶらりといくか」
奇襲に合わないよう覚醒して『探査の眼』と『GoodLuck』を発動するUNKNOWNの側には、迫る様々なキメラの人であった時の顔のようなものを嫌悪感を露に見るメルセスがガシャン! と音を立てガトリングシールドを構える。
「捕縛は他の誰かがするだろう。私は‥‥眼前の敵すべてを殲滅する! 相棒よ、この哀れなヤツらを1体残らず喰らい尽くせ!」
キメラ群を掃射すべく唸らせるが「慌てず、騒がず、だ。キメラ戦は、のんびり、散歩のようなものだよ」と窘められる。
「ドーター、もう一度聞くが、あなたは何故この依頼に?」
メルセスの問いに答えず、戦いにおいてもダンディズムを崩さず接近するキメラの手足を撃ち、無力化したところを小型超機械αで殴る。
キメラの大群を目にした煉は、覚醒するとバハムートを歩行形態に。
「虎ならぬ龍の威を借る狐ですねぇ。どれくらい敵がいるのかわからないのでぇ、エコ運転が良さそうですねぇ」
「頼りにさせてもらうよ、宇加美。獣人以外は掃討で良かったよな?」
「そうです。ではいきましょうかぁ」
ニマっと笑い、前衛に出ず射撃で支援を。
宗司は互いの死角をカバーしつつキメラに囲まれないよう注意していたが、小型キメラに懐に踏み込まれてしまった。
(射撃は難しいな‥‥こいつで一撃といくか)
マーシナリーナイフの一撃を加え、怯んだ隙に後退し距離を離してからSMG「ターミネーター」で攻撃を。
「小型に隙を突かれるとはな」
煉はどうなっているだろうかと様子を見ると、1体のキメラを倒した後だった。
「危なかったです。胸が無ければ即死でしたぁ、とか言ってみます」
首を傾げてダメージが少ないのを不思議がる。
「そういうことでは無いような‥‥。そんなことはどうでもいい、予想以上に数が多いが、やるしかないだろう」
「そうですねぇ。早く帰ってぬくぬくするためにぃ、キメラはぱっぱとやられてしまえば良いのです。当たるときっと楽になるのですよぉ」
と言うが、捕獲対象に当たらないようにしている。
ぱっぱと倒そうと焦ったのか、手足等が肉団子状になっているキメラに後ろから体当たりされ、その拍子に手のひとつが後頭部に当たった。
「痛いですねぇ。私を殴るとはぁ、遡って七代祟ってやるのです」
やられたら倍返しです、と至近距離から反撃。
テント付近にいた煌 闇虎(
gc6768)は「腕が鳴るぜ!」と胸を高鳴りを抑えることなくキメラを掃討すべく仲間との連携を狙う。
「研究所に依頼して作ったコイツの試しとしては、この依頼は丁度いいぜ。さっそく出来具合いを試させてもらおうか。ついでに稼げりゃ、なおいいんだがな」
両手に装備している【OR】機械手甲『衝』は手が自由に動くうえ、掌から衝撃波を発することができるので気功術全般を習得している闇虎にとっては最良の武器といえる。
「コイツと片手にバッソ持って併用だな。攻撃されたらバッソで受け止めてみるか。いくぜっ!」
1体ずつ接近しては、狙いを定め正確に倒す。
「らああぁぁっ!!」
インファイトな戦法は、小さい頃に叩き込まれた武術が十分に活かされていた。
「武術が無駄にならなくて良かったぜ。いくぜ! 襲牙虎撃!!」
フランケンシュタインのような大型キメラに大打撃を、と軽く跳ぶと地面を叩き割る勢いで振り振り下ろした『流し斬り』が見事に決まった。
「数が多いな」
攻撃力はさほどではないが、多数に襲われては動けなくなるほどのダメージになる。
「甘いんだよ! ぶっ飛びやがれ!!」
それでも戦いを止めないのは彼の意地だろうか。
「危ないです〜」
視界不良で孤立しやすいと考えられるのでテントから動かなかった命だが、闇虎のピンチにいても経ってもいられなくなり駆けつけた。
「まずは定石から手を打ちますね〜」
超機械「ビスクドール」を掲げると『練成弱体』でキメラの防御力を下げ、怪我を『練成治療』で回復させた。
「悪いな。俺はこれでいい。他に怪我してる奴がいたらそいつも治療してやってくれ」
「わかりました〜」
他の仲間を支援する前に、腕と永一に檻から離れないよう頼む。
『ここは俺達に任せろ。キメラにやられないよう気をつけてな』
と腕が心配するので、慎重に仲間と合流すべく動き出す。
●捕獲
「雪ばかりで全然見えないですよ〜…真っ白ですよ〜…」
泣きそうになりながらも誰かに会えると歩き続けると、能面のような無表情なソウマのところに辿り着いた。『練成弱体』をと思ったが、様々な感情が入り混じった雰囲気に動きを止めた。
「‥‥苦しまないように、ひと思いに逝かせてあげますよ」
低く呟くと『隠密潜行』と『瞬天速』で死角から攻撃し、瞬時にキメラを倒した。
死角から襲い掛かるキメラの攻撃は、未来予知じみた直感で回避。
「‥‥無駄ですよ」
俺も負けちゃいられないな、と闇虎が張り切る。
「ゼロ距離でくらいな! 虎哮掌っ!」
腰を落とすと『両断剣』を発動し、思い切り踏み込んでキメラに掌を押し当て『流し斬り』を。掌から発せられた特大衝撃波はキメラを一撃で押し倒すと、捕獲対象が檻に近づいているのを見たのでそこに向かうことに。
「キメラが来たようだね〜。我輩が機械剣αで四肢を切りつけて鈍らせるから、腕君と永一君は捕獲を頼むよ〜」
腕は早く行け、とハンドサインをするとウェストを援護すべく、前線に出ようとする捕獲対象をフォルトゥナ・マヨールーで足元を攻撃する。
「追いついた‥‥。おっと、捕獲の邪魔はさせないぜ! 遠くにいるからって油断してると喰っちまうぞ、虎咆掌っ!」
咆哮する白虎の頭部のような衝撃波を、捕獲対象に群がろうとするキメラに喰らいつくかのように放つ。衝撃波で吹き飛ばされた小型キメラはUNKNOWNとメルセスがとどめを。
「怪我をしているじゃないか」
すぐに治す、と『練成治療』でメルセスを回復する。
「ありがとう、ドーター‥‥」
そうしている間に、捕獲対象に接近されそうになった腕は刀で『急所突き』を。
「こいつは生かさず、殺さず程度に痛めつけてもいいんだろ?」
離れていてはホワイドボードは使えないので【OR】腕装形 人工声帯を使い、永一に聞く。
「大事な研究材料だから倒さないでくれよ?」
「了解!」
攻撃して少しでも弱らせることができれば、その分捕獲が楽になると動き出した彼に続け、と視界内にいるキメラを『電波増強』のエネルギーガンで攻撃し終えたウェストが足を斬りつける。
こっちに来いよ、と挑発ハンドサインをする腕に釣られたのか、2人に反撃しようとしたのかはわからないが、捕獲対象は自分から檻のほうに歩き始めた。
「命くん、いつでもキメラを入れられるか?」
「バッチリです〜」
怒りを露にした捕獲対象を誘導したウェストと腕は、檻の入り口の真ん前に立つ。
走って近づこうとしたのを見計らい、2人はひらりと身をかわして檻から離れる。止まらない捕獲対象は、勢い良く檻に突っ込んでしまった。
「今だ!」
永一の合図で、2人は檻をおもいっきり閉めた。
「捕獲、終わったね〜。残りのキメラのサンプルでも集めようかね〜?」
キメラの肉片を集めて細胞サンプルの採取を始めたウェストだったが、捕獲を依頼した責任者が恵まれた環境にいるかと思うと腹が立ったので嫌がらせをすることに。
●搬送
「皆さん、お疲れ様でしたぁ」
捕獲が無事終わり、一安心の煉がほっとした顔で皆を労う。
命は捕獲された獣人系キメラが気になり観察を。
「‥‥こいつはこの先どうなるのだ? 解剖されたりするのだろうか」
メルセスが捕獲された獣人キメラを一瞥。人間が素体となっていることへの配慮だろう。
周囲の安全確認を行い、怪我人がいたのを確認した命は救急キットを取り出すと治療を始めた。
同じく安全を確認した腕は、【OR】小型携帯用保冷ボックスに入れた水と飲み物の材料を揃え、適当に体が温まる飲み物を用意し、SES中華鍋の火力で加熱する。
「ま、こんなものだろう」
テント内で酒を嗜みながらリラックスした風情で言うUNKNOWN。
「スブロフでも飲んであったまるか。ん? おまえも飲むか?」
闇虎はあまり酔わないほうだが、勧めた宗司が酔った場合は「自己責任だからな」と割り切るが、水筒の中身はウィスキーと知ると大丈夫そうだと安心する。
そんな彼が腰掛けているクーラーボックスが気になったのか、中身が何かを訊ねると「責任者に送りつける雪だ」と答えた。
それを聞いたウェストは「嫌がらせ仲間が増えたね〜」と喜んだ。
(あの時の依頼も、人間と思われるもののキメラ退治でしたね‥‥)
かつての依頼を思い出したのか、すべてが終わった雪原を静かに見つめ、一瞬だけ何かに祈るように目を閉じたがすぐに開いたソウマがいた。背を向けると、チョコレートの一欠けらを口に入れる。
「‥‥僕は進み続けます」
ソウマにとって甘いものは、思い入れがあるものであると同時に心を落ち着かせるものであった。
腕の飲み物、酒で体が温まったところで、捕獲したキメラをカンパネラ学園に持ち帰ることに。アルコール入りの紅茶を飲んだウェストは、移動中の高速移動艇の中で真っ赤な顔でヘニャリと倒れこんでいたが、到着すると「売店で買うものがあるから先に行っててくれ」と1人別行動を。
「頼まれた研究材料ですが、これで良いでしょか?」
檻の中でぐったりしているキメラを見て「うん、これでいいよ」と満足気の責任者。
さあ、さっそく研究だ、と張り切ったところにウェストが研究室にやって来たかと思うと冷たい視線で何かを手渡した。
「無理に食えと言うわけではないが、恵まれた環境で人任せの貴様に我輩からの嫌がらせだ」
それは、液体窒素によるマイナス200度の冷却槽でさらに冷却したウェスト特製ドクター印アイスキャンディーだった。
「俺もあんたに送りたいものがある」
宗司はクーラーボックスを開け、中にぎっしり詰まっている雪を見せた。
「悪いね、お土産まで用意してくれて。このアイス、後で食べることにするよ。贅沢を言えば、あったかいものほうが良かったんだけどね」
責任者、嫌がらせをされていることにまったく気づいていない様子のようで‥‥。
(こいつ、いつか叩きのめす‥‥!)
外見にこやかだが、内心は怒り心頭のウェストが聞こえないようボソリと呟く。
捕獲されたキメラは、体力が回復するまで研究部が責任もって面倒を見ることに。
それまでは、本格的な研究はおあずけ、ということになった。