●リプレイ本文
●サプライズ準備前日
「ここに来るの、一昨年の学園祭以来だな。久々に学食のメシ食うか」
カンパネラ学園の食堂に立ち寄った那智・武流(
ga5350)は、近くの掲示板に張り出されたポスターを見てアプサラス・マーヤー(gz0032)のバースデーパーティー開催を知った。
「アプサラス? ああ、カンパネラ学園の教官サンか。バグア鬼ごっこのシミュレーションでしか会ったたぁねぇから忘れちまったい」
他人の誕生日ではあるがめでたい、ということで協力することにした武流は、一人ではなんだからと携帯を取り出し、友人の志羽・翔流(
ga8872)を誘った。
「何で、俺が面識の無い人のお祝いなんぞしなきゃなんないんだ?」
会ったことのない人物の誕生日を祝うのは気が引けると断ったが、武流に借りた金が返せる目処が立たなかったので仕方なく協力することに。
(「これで、返済期限を延ばしてもらえればいいんだけどな」)
千祭・刃(
gb1900)は、アプサラスにはシミュレーションで世話になったということもあり、感謝の気持ちをこめたお返しということで協力することに。
「千祭ではないか。汝もアプサラスのバースデーパーティーに協力するのか?」
二年前、アプサラスが企画したソウジ・グンベ(gz0017)のバースデーパーティーの協力者の一人、リュイン・カミーユ(
ga3871)が声をかけた。
ソウジと出会って早二年。あの頃はまだ恋人ではなかったが、良い想い出を作れた。そのきっかけを作ってくれたアプサラスには感謝をせねば、ということで、お礼だというバースデーパーティーとサプライズをしっかり成功させようと意気込んでいる。
リュインとは初依頼でしか面識の無い刃だったが、サプライズ協力者にリュインがいるのが心強かった。
「皆、集まったな。これからサプライズの打ち合わせするぞー」
協力者全員に、ソウジはサプライズ概要が書かれたレポートとアプサラスの娘・アムリタの写真を手渡した。
まずは分担を決めることに。
料理人の翔流は調理担当に。
「料理は任せときな。アプサラスさん、インド人か。んじゃ、インド料理作っておくか。タンドリーチキン、チキンバターマサラ、チャパティとかだな」
作ろうとしているインド料理は、スタンダートなメニューだった。
「日本料理も知ってほしいんで寿司も用意するぜ。あとは、オードブルに使えそうなから揚げや焼き鳥、枝豆、サラダなどだな、うん。バースデーケーキは、前もってスポンジだけ作って持ってくる。生クリームとかイチゴとかは当日な。あ、板チョコとチョコペンも用意しておかないと」
武流は会場セッティングを担当することに。
「いるものはテーブルクロスとか花瓶、飾りだな。あ、食器やグラスも用意しておかねぇと。料理は‥‥志羽が忙しそうだったら手伝う」
調理や会場セッティング以外では、アムリタの送迎を。これは刃が担当することに。
「父親としては、男一人に託すのは複雑だろう。女がいたほうが安心だろうから、我は迎えだけは一緒に行こう」
「そこまで考えていませんでした。リュインさん、よろしくお願いします」
リュインはアムリタ送迎の他、買出しと会場セッティングを担当することに。
「役割分担は決まったな。それじゃ、当日はよろしく頼むぜ! あ、当日は助っ人聴講生が来るんで」
●アムリタとカンパネラ学園
バースデーパーティ当日。リュインと刃は父親に連れられて学園に来たアムリタを出迎えた。能力者が出迎えてくれたので、父親は一安心。
「娘のアムリタです。能力者の皆さん、よろしくお願いします」
年齢の割りに、丁寧な挨拶をするアムリタに「しっかりしているな」と歓心するリュイン。
「マーヤー教官の教え子の千祭刃です、よろしくね。アムリタちゃんって呼んでいいかな?」
「アムリタでいいです。ちゃん付けは好きじゃないですから」
「そ、そう‥‥。隣にいるお姉さんはリュインさんだよ。きみに来てくれるよう頼んだソウジ・グンベ先生と親しい人なんだ」
「恋人ですか?」
ズバリと言われたので、リュインは返答に困ったような表情に。
「い、行くぞ! アプサラスを驚かしにな!」
学園に到着した二人は、一旦ソウジがいる食堂へ。
「グンベ先生、これ」
アムリタに学園案内する前に、刃は自作の飾りをソウジに手渡した。
「おっ、サンキュ。キミはこれから学園案内か?」
「はい。では、これで失礼します」
学園案内の前に、刃はアムリタに服を手渡した。
「これに着替えてくれるかな? パーティー開催まで、アムリタが学園にいることを知られたくないんだ。サプライズだから」
そう言って手渡したのはオーバーオール等、男の子に見える彼が少年時代に着ていたものだ。
「わかりました」
服だが、少しサイズが大きかったが歩くのに支障のないものだった。
刃は一般人が立ち入っても支障のない教室を真っ先に案内したが、夏休みということもあり誰もいなかった。職員室にならいるかもしれないとアムリタを連れて行きそっと様子を伺ったところ、アプサラスは他の教師数名と何やら作業中。ノート型パソコンにデータ入力しているようなので、シミュレーション作成をしているのだろう。
「お母さん、お仕事中みたいですね」
家にいるときと同じ、とアムリタは思った。
アプサラスは、家庭に仕事を持ち込んでは寝る間を惜しんでしていた。というが家事は手抜きせず、食事を作り、掃除、洗濯をしていた。
「お母さん、無理しすぎです。離婚する前もそうでしたから。だから、今日はお仕事を忘れて楽しんでほしいです」
「そうだね。次はどこを見学したい?」
動物がいたら見たいというので、どこかにいたかな‥‥と考え込む刃だった。
その頃、リュインと武流は会場のセッティング。
「バースデーパーティーと言えばこれだろう」
リュインはそう言うと、自作の色紙の輪をつなげた飾りを食堂の壁に飾り、テーブルには清潔感のある真っ白なクロスをかけ少しでもパーティーっぽく演出。中央のテーブルに飾られている花はガーベラ。アプサラスの誕生花のひとつで花言葉は『神秘』だ。
「アプサラスに似合っている花言葉だな」
その後は紅茶の準備を。心をこめて美味しい紅茶をいれようと決めた。
「おっと、ティーカップ出しておかねぇとな。食堂にあったっけか?」
食器とグラスを一通り並べ終えた武流は、ティーカップを探しに厨房へ。
「おっ、上手そうなスポンジケーキじゃん。ケーキ、おまえが作るのか?」
厨房で調理中の翔流に訊ねる武流。
「スポンジはなんとか上手く作れたんだけど、生クリームとかで飾りつけは苦手なんで作ってないんだ。リュインだっけ? あんた、できる?」
武流と共にティーカップを探しにきたリュインにやってもらえないかと頼んだ。
「ああ、まかせておけ」
ソウジの時のように完成させよう、と腕によりをかけて作業するリュイン。
「フルーツをたくさん使いたいな、娘も喜びそうだし」
見学を一通り終えた刃と来た時の服に着替えたアムリタも手伝い、飾りつけは早めに終わった。
「後は、プレゼントを用意するだけですね。僕、部屋に取りにいってきます」
「俺は着替えてくる。千祭、おまえの部屋借りてもいいか?」
あるものを手にした武流を不思議がったが、ここで着替えられると困るので刃は部屋に連れて行った。
「おっさん、買い出し終わったぞ!」
クラッカー等のパーティグッズが入った紙袋を抱えた元基駆だったが、途中でコケた。
「なにやってんだ、キミは‥‥。ご苦労さん。皆もセッティングご苦労さん。時間まで自由行動してもいいぞー」
●サプライズパーティー開催
19時。アプサラスはソウジにエスコートされて食堂にやってきた。
アプサラスが入ると同時に、クラッカーが盛大に鳴った。
「おめでとー!」
背中にエンジェルウィングをつけて天使のコスプレをした武流に続き、翔流、刃、リュインも鳴らす。武流に至っては紙吹雪のサービスも。
「アプサラス、誕生日おめでとう。これからも時に厳しく、時に優しく、汝らしくあってくれ」
「おめでとうございます、マーヤー教官」
その様子をデジカメで撮影しているのは、カメラマン担当の駆。
「おめでとう。あんたとは面識ないけど。俺自慢の料理とケーキ食ってくれ。これが俺からのプレゼントだ」
そう言って翔流がテーブルの真ん中にデン! と置いたのは『Happy Birthday Apsaras』とチョコペンで書かれた白い板チョコが載っているバースデーケーキだった。スポンジは彼が作ったが、果物を切ってスポンジに挟んだり生クリームコーティングをしたのはリュインだ。
「これは、僕からのプレゼントです」
刃のプレゼントは、綺麗にラッピングされた箱に入ったカクテルだが中身は開けるまでのお楽しみ。
「これ、俺が作ったタンドリーチキン。チャパティもあるぜ」
取り分けた料理を盛った小皿を手渡す翔流は、あとですっげぇプレゼントがあるぜと付け加え。
「あ、来たぜ。ビックリなプレゼントが!」
駆がデジカメを向けた先には、リュインにエスコートされ、ガーベラの花束を大事そうに抱えている娘のアムリタがいた。
「ハッピーバースデー、お母さん」
精一杯の笑顔で花束を差し出すアムリタを見て、アプサラスは驚きを隠せずにいた。
「アムリタ、あなた、どうしてここに‥‥!」
「能力者のお兄さんとお姉さんに連れてきてもらったの。お母さんのお誕生日を一緒にお祝いしようって」
仕事が忙しく、娘とのコミュニケーションがなかったのに自分のことを思ってくれるのかと思うと、アプサラスは感激した。
「お嬢ちゃん、腹減っただろ。俺が作ったチャパティ食うか?」
「ありがとうございます。これ、お母さんも好きなんです。ね?」
この子ったら‥‥とアムリタの頭を撫でるアプサラスは、母親の表情になっていた。
料理の盛り付け、ケーキの切り分け、ドリンクサービスと翔流はあれこれ動き回り、武流は美味しそうに料理を食べている。リュインは紅茶を淹れ、アプサラスとアムリタにティーカップを手渡すと、カメラを取り出し母娘の団欒を撮影。
「教官、普通のお母さんっぽい顔してるな」
「ほうはな(そうだな)」
「って、おっさん、食いながら喋るなよ。行儀悪ぃぞ」
パーティーが一通り終わると、武流が花火セットを手にし「花火大会しようぜ!」と言い出した。
「その前に後片付けだろ、那智」
「んなモン、後でいいんだよ」
「志羽さんの言うとおりですよ、那智さん。立つ鳥、跡を濁さずです」
「ちっ‥‥しゃあねぇなぁ。んじゃ、さっさと片付けようぜ。皆でやりゃ早いだろ。アプサラスさんは娘さんとゆっくりしててくれ。リュイン、二人のお相手頼んだぜ」
会場後片付けはソウジ、駆含めた男性陣が協力して行うことに。
「よーし、終わった! 二次会、三次会は全部出席だ! とことん楽しもう!」
「調子のいい奴‥‥。んじゃ、花火大会開催だ!」
おーっ! と盛り上がる一同。
母親と楽しく過ごせたアムリタは、学園に到着した時よりも子供らしい表情に。
「連れてきて良かったな。キミもそう思うだろう?」
「そうだな。サプライズが成功して、我も嬉しく思う」
寄り添いながら花火を楽しむソウジとリュイン。
(「アムリタ、教官とお泊りするのかな?」)
線香花火をしながら、刃はあれこれと勘ぐり。
花火の後始末をした後、パーティーはお開きに。
アムリタはアプサラスの部屋に泊まり、翌日、父親の元に帰ることに。
「ソウジさん、学園って泊まるとこあんの? なかったらソウジさんの部屋に泊めてくんない? 酔っ払ったまんまで帰れないだろ? な、そうだろ?」
花火大会の最中に酒を飲んだため、千鳥足になっている翔流。このまま帰宅させると無事に帰れないということもあり、ソウジは彼を部屋に泊めることに。ついでに! と武流も泊まることになったが。
●母親と娘の別れと約束
翌日。リュインと刃はアムリタを送り届けた。
「リュインさん、刃さん、ありがとうございました。お母さんと一緒にいられて楽しかったです」
「我もだ、アムリタ」
写真ができたら送るからな、とアムリタに握手を求めた。
「楽しかったね、アムリタ。今度はサプライズじゃないマーヤー教官との出会いだといいね」
ありがとうございました、と深々とお辞儀する父親とアムリタ。
「これ、お母さんに渡してくれませんか?」
刃が受け取ったのは、アプサラス宛の手紙だった。
「わかった、ちゃんと渡すね」
「また来るのだぞ、アムリタ」
二人は学園に戻ると、アプサラスにアムリタからの手紙を手渡した。
そこには、インド語でこう書かれていた。
『お母さんへ
昨日も言ったけど、お誕生日おめでとう。
元気なので安心しました。
生徒さんと仲良しなので、お母さんはいい先生なんだなと思いました。
学園でもお仕事が忙しいようだけど、無理はしないでね。
お仕事ばかりしていたから、お父さんと離婚したんだよね。
私、知っているんだよ?
お母さんと一緒に食べたチャパティ、すごく美味しかったよ。
花火も楽しかったよ。
今度のお誕生日には、お父さんと一緒にお祝いしたいな。
元気でね。
アムリタより』
アプサラスが手紙を読んで涙を流していた頃、ソウジの部屋では翔流が二日酔い、武流は食べすぎによる胃痛でダウンしていた。
「キミたち、暴飲暴食しすぎだ」
呆れているソウジの横では、面白いものが撮れたと駆がデジカメ撮影中。
数日後。アプサラスとアムリタにリュイン撮影の写真と駆撮影のデジカメ動画が送られた。
「今度は、私があの子に会いに行く番ですね」
娘と一緒に写った写真をフォトフレームに入れ、職員室の机に置いたアプサラスは休暇を取るべく今後のスケジュールを考えていた。
サプライズパーティー:大成功!