●リプレイ本文
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カンパネラ学園の衣装披露会でヒエダ夫人の世話になったダブルのダークスーツ姿のアルヴァイム(
ga5051)は、ピンク系デザインのチュニックトップにライトブルーのショートオール系パンツ姿の百地・悠季(
ga8270)と夫婦揃って仲良く結婚式に出席。
この2人、2年前のヒエダ夫人変身計画が縁で招待されたのだった。
「ヒエダ夫人、綺麗だったわね」
「そうだな。お腹は大丈夫か?」
身重な悠季が人波に揉まれないか心配だったが、衝突も転倒もなかったので一安心。
「ラスト・ホープは北極海回廊を通じてたからかしら、沖縄の暖かさ加減は良いものね。今月で6ヶ月目に差し掛かる頃合いでそろそろ遠出がきつくなって来たかなと感じるから、本島から出るのはこれで暫くはおしまいかな? 今回の沖縄旅行はある意味思い出作りの一環だし、2人での機会として楽しみましょうね」
今度来る時はこの子も一緒かしら、とお腹をいとおしげにさすり微笑む。
飛行機護衛を終えた立花 零次(
gc6227)は依頼が終わったら帰るつもりでだったが、初めて訪れた沖縄でのんびりしていくことに決めた。
折角だからと、友人の最上 憐(
gb0002)を誘い一緒に美味しいものを食べに行くことに。
(最上さんは食べる量が半端ではないですからね。一緒に食べる私が、果たしてのんびり出来るのか‥‥)
憐の食欲についていけるかどうか不安だったが、それもひとつの思い出と気楽に考えることに。
その日の夕方、ソウジ・グンベ(gz0017)は施設の予約、交通手段の下調べ、かかる費用の計算を。
「やーっとで終わったー! 明日は楽しむぞー!」
飛行機護衛と結婚式出席、観光プラン考案でどっと疲れたのか、ベッドに入るとすぐ寝てしまった。
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急な出来事ということもあり、服は現地で調達した南国らしいサマーワンピース、日射し避けの薄手のカーディガン姿のリュイン・カミーユ(
ga3871)。
こういうヒラヒラした服は少々恥ずかしい、ともじもじしているところにソウジが「んじゃ、行こうか」と声をかける。
「順番はソウジに任せる。まずはどこに行くのだ?」
「そうだな‥‥じゃ、むら咲むらに行くか。ん? どうした?」
何気なく手を差し出そうとするリュインに気づいたのか、そっと手を取り、ぎこちなく繋ぐ。
(わかってくれて嬉しいぞ、ソウジ‥‥)
2人がむら咲むら前に着くと、そこで憐と零次に会った。
「立花もここに着ていたのだな。汝らは何をするのだ?」
「ジンベイザメと一緒に泳げる体験があるというので、憐さんと一緒に」
「‥‥ん。ジンベイザメ。見る」
今後の予定を交えた雑談をしたあと、それぞれのコースに向かう。
ここでは体験できることがたくさんある。目移りするなとリュインが選んだのは、シーサー作りと琉球舞踊体験だった。
「我は細かい作業は結構得意だ。ソウジはどうだ?」
「苦手だけど、リュインがやりたいんだったら付き合う。漆喰シーサー作り体験があるからそこに行くか」
体験で作る沖縄の守り神的存在のオリジナルシーサーの素材は、赤瓦屋根の上のシーサーと同じ漆喰を使う。土台にキバ2つ、ベロ、タテガミ、鼻、目、眉、しっぽといったパーツを付けたらメスも同じように作り、出来上がったら30分間乾燥させる。
乾いたらシーサーのベースになる色を塗る。
「沖縄といったら、やっぱ海の青だな」
「では、我は太陽の赤で」
下になるベース部分を塗り終えるとドライヤーで乾かし、目やタテガミといったパーツを重ね塗り。
「あちゃ〜」
タテガミの色塗りに失敗したソウジに「ドライヤーで乾かせば修正できますから大丈夫ですよ」と職人が教えてくれた。
「できたぞ」
リュインが得意気に見せたシーサーは、職人が感心するほどの出来栄えだった。
完成したものは箱に入れてお持ち帰り。
次は琉球舞踊1時間コース。ここでは歴史ある琉球舞踊を気軽に楽しく体験できる。
祝いの場で踊られるアップテンポなカチャーシー(両手を頭上に掲げて左右に振り、足も踏み鳴らす踊り)を体験することに。
「まず腕を伸ばし、両手を真上にあげて手のひらを開いて前に向けてください。男の人は手を握ってください。女の人は広げたままで結構です。それから扉を開けるように、両手のひらを右に向けて腕を右に振り、扉を閉めるように、両手のひらを左に向け、腕を左に振ります。腕を左右に振るのを繰り返します。この時、麦踏みの要領で足踏みをします」
インストラクターのレクチャーどおり、体験者達は沖縄民謡に合わせて実際に踊る。
「なんというか‥‥愉快だな」
琉球舞踊というより、阿波踊りに近いソウジの琉球舞踊を見てクスリと笑うリュインだった。
憐と零次はジンベエザメ体験ダイビングを。
インストラクターによる器材の使い方等のレクチャーを受けた後、ライフジャケットに着替えて船に乗り込む。
「憐さん、この辺りではジンベイザメは『みずさば』って呼ばれるそうですよ」
「‥‥ん。そうなんだ。会うの。楽しみだね」
遊泳すること10分、一行はジンベエザメがいる生簀へ。
「ああ‥‥気持ち良いですね‥‥」
しばらく泳いでいると、ジンベエザメは小さなエビを大きな口で飲み込んだ。迫力満点な食事シーンに感動する。
「口も見た目も大きいなぁ。良く見ると何だかカワイイですねぇ」
「‥‥ん。ジンベイザメ。大きいね。‥‥凄く。食べ応えがありそう。ジンベイザメキメラとか。出ないかな? サメ肌。ザラザラだね」
食事中のジンベイザメに触れながら世界最大の魚の大きさを堪能しつつ、どの部分が美味しそうかなと考える憐だった。
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(まだ本調子とは言えませんが丁度良いかも知れませんね。鹿島様のお誘いですし‥‥少し羽を伸ばすのも良いでしょう)
重体明けだが、灯華(
gc1067)は、激戦続きだった鹿島 綾(
gb4549)に誘われククル読谷サーキットへ。
学生時代に乗ったことがあるのを思い出し、懐かしくなったので真っ先に灯華をここに誘ったのだった。
「灯華はカートに乗ったことあるかしら?」
「カート? いえ、ありません‥‥ね」
「じゃぁ、折角だからカートで勝負してみない?」
サーキットコース前に手を引いて連れてきたのはこういうことか、と納得。
「えぇ、別に構いませんが‥‥」
勝ち負けは良くわかっていない表情で綾とカート勝負することに。
「決まり! じゃ、行こう。その前に練習ね」
その頃、カート置き場では冴城 アスカ(
gb4188)と天原大地(
gb5927)がカートレースに勝った時の話を。
「ねぇ大地、このレースに負けたほうは勝ったほうの言うことを何でも聞くっていうのはどう?」
「面白そうだな、いいぜ」
アスカが勝ったら大地は琉球舞踊の衣装に着替え、大地が勝ったらアスカはスカートルック、髪を解いたロングの女性らしい姿になることが決まった。
車体の低いカートに慣れるため2、3周のウォームアップした後、勝負に負けない! と意気込んで参戦。2人を含む8人のレース出場者の中には綾と灯華もいた。
「さぁ、いざ尋常に! 勝負!」
スタートと同時にアクセル全開なアスカがトップに。その後に接戦する大地と綾が続く。灯華は不慣れながらも最後まで走ろうと頑張っている。
「ハハッ、やるじゃねぇかアスカ! これからが本番だ。アクセル全開! 手加減無しでいくぜ!」
アクセルを思いっきり踏むが、カーブに差し掛かってきたので思うようにスピードが出せず。それに対し、アスカはカーブでもアクセル全開でドリフトしている。
このままアスカがトップかと思われたが、カート経験者の綾が勢い良く追い抜いた。
レースの結果は1着は綾、2着はアスカ、3着は大地。カート未経験ながらも健闘した灯華は6着だった。
「ふふ、私の勝ちね‥‥って、ん? 灯華、どうしたの?」
「鹿島様‥‥もう一戦やりましょう」
少しむすっとした表情で勝負を挑む。
「いいわよ。受けて立ちましょう!」
「私の勝ちね。約束どおりコレに着替えてちょうだい」
「‥‥わかった」
約束通り着替えようとした大地だったが、アスカが指定したのは赤い襟、紫の帯、黄色地に大胆に彩色された牡丹、枝垂桜、ツバメ、菖蒲、藤、雲取り麻の葉などが浮かび上がるように鮮明に描かれた衣装と朱色の花笠だった。
「これって、女ものじゃないのか?」
そう口にしたものの、約束だからと渋々着替えるのだった。
「大地ー、ニッコリ笑ってー」
記念になるからとアスカが撮影したのは言うまでもない。
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読谷村の美しい西海岸沿いに建つGala青い海。
ここの施設では東シナ海を見ながらの塩づくり体験や陶芸、ガラスなどの手作りが体感できるほか、本格的アメリカンピザや沖縄の食材にこだわった琉球創作料理、自家製アイスクリーム、焼きたて塩せんべいなど美味の体感も。
アルヴァイムは喫茶店店主としてパスタ、特にペペロンチーノに合う塩の調合を実施すべく、悠季は料理人として腕を揮う身として塩つくり体験に参加する。
「沖縄の方言では、塩を『マース』といい、昔から魔除けとして持ち歩く習慣があります。作った塩を使うのがもったいないという方は、これからお配りする壷に入れてお守りとして持ち歩くのもいいでしょう」
火のついている窯場に着くと、スタッフは参加者達に塩を入れる壷と和紙と紙、海水を入れる石鍋、スプーン、皮手袋、はさみ、かき混ぜ棒等を手渡す。
全員に道具が行き渡ったところで、100パーセントの読谷の海水を使っての塩作りが始まった。
海水中に塩分は3.5パーセントしかないので海水から水分を減らし、塩分を濃くした塩水を使い「かん水」「濃縮海水」と呼ばれる濃いものを作ることに。
「ペペロンチーノは素材で誤魔化せるものではないからな、入念に味を見て調合だ」
「調合、意外と難しいわね」
苦戦しながらも、スタッフの指示通りに調合しながら固まらないように海水をかき混ぜる。
水分が無くなって塩がコロコロしてきたので、後は石鍋の余熱で残りの水分を飛ばす。湯気が出なくなった頃にはサラサラの塩が完成。
「うん、なかなかの味だ。これなら美味しいペペロンチーノができそうだ。作ったら味見してくれないか?」
「いいわよ。これで美味しいものができたら良いわね」
自分達の塩を壷に入れながら、これを料理に使うことを考えると今から楽しみだったりする。
最後は和紙と紐をする作業だったが、これが一番難しかったがこれも良い思い出である。
憐と零次は施設内のパーラーで塩アイスクリームを堪能中。
「あ、これ本当に塩だ。でも美味しい‥‥」
塩に加え、さっぱりした爽やかな甘さが零次の口の中に広がる。
「‥‥ん。塩アイスに。塩せんべい。癖になる味だね」
売店で買った焼きたてのせんべいを油で揚げ、海水塩『炭火焚き』をまぶした塩せんべいと塩アイスを交互に食べる憐の表情が自然と緩む。
「‥‥ん。食べ物の気配察知」
素早く覚醒すると、地元の食材にこだわった琉球創作料理の店に零次を引き摺って移動。
「ソウジさん、飛行機護衛お疲れ様でした。お2人もここでアイスを?」
入れ違いでパーラーに入ってきたソウジ達に気づいた零次が挨拶を。
「ああ。ここのアイスを食べてみたくてな。キミも護衛ご苦労さん。っと、邪魔しちゃ悪いな。リュイン、行こう」
アイスを食べながら、施設で塩について学んだことの感想やこの後何をするか話し合う。
「この塩アイス、甘すぎなくて美味いが‥‥辛ければもっと美味いと思う」
激辛嗜好なリュインにはちょっと物足りない味かも。
「俺はこれで十分美味いと思うけどな。食べ終わったら、吹きガラス体験をしよう」「我もグラスアート体験はしてみたいと思っていた。行こう」
意気揚々と向かった2人だったが、グラスのパターンが100種類以上と知るとビックリ!
その中から自分の好きなタイプを選び、サンプルを元に受付でオリジナルグラスを考える。
両手に軍手をはめ、右腕に手甲を巻き終えるとガラス職人が赤く溶けたガラスを持ってきた。
「心の準備はいいかい? リラックスするとガラスに余計な力を加えることなくうまくいくさー。やってみな」
初めは優しく、徐々に力を加えて指先で時計回りに吹き、吹き竿についたガラスの根元を占め、底になる部分を平らにする。この作業はガラス職人に手伝ってもらいようやくできた。それが終わると切り離すための作業を。
「ガラスというのは意外と軟らかいのだな。貴重な実感だ」
「こ、これは難しいぜ‥‥」
切り離したガラスの口を器用に開いていきながらガラスの柔らかさを感じるリュインに対し、ソウジは失敗しないようガチガチに作業をしているのでそれどころではない。
翌日まで除冷するため、受け取りは明日以降に。
「明日、もっかいここに来るか。今度は塩せんべいを食べよう」
「それも良いな」
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琉球創作料理の店に着くと、憐はメニューにある料理全部を大盛りで注文した。
「‥‥ん。とりあえず。メニューにある料理。全部。食べる。お金は。たくさん。持って来たので。大丈夫」
そんなに食べて大丈夫ですか!? と言いたげなスタッフ。
「‥‥ん。大丈夫。残さず。食べられので。安心して。作ってね」
とりあえずお願いします、と零次も頼む。
「‥‥ん。もしも。残したら。零次を。置いて行くので。こき使って。良いよ。馬車馬の如く」
数分後。塩そば、ゴーヤちゃんぷるー定食、海ぶどう丼等の沖縄料理が続々と運ばれてきた。
「‥‥ん。沖縄料理。個性的で。美味しい。つい。移住したくなるね」
1品ずつじっくり味わい、食べ終わると次を注文。
「‥‥ん。おかわり。大盛りで。じゃんじゃん。持って来てね。遅いと。厨房に。乱入するよ?」
それは困る! と料理を運び終えたスタッフは急いで厨房に注文を伝えに。
「‥‥ん。零次。もっと。ちゃんと。たくさん。いっぱい食べないと。勿体ないよ。折角の。沖縄料理」
「え、えーと、食べたいのはやまやまなんですが‥‥多分もう胃袋が限界を超えてるんじゃないかな、なんて‥‥」
最初は憐のペースに合わせて食べていたが、普通の胃袋な彼はすぐに限界に達した。
(しかし、付き合うと言ってしまった手前、たとえ何があっても最後まで‥‥)
「‥‥ん。大丈夫。動けなくなっても。私が。覚醒して。引き摺って行くから。安心して。倒れて」
この店のメニューすべてを食べ終えた憐達は次の店へ。
「‥‥ん。どんどん行こう。まだまだ。食べるよ」
読谷村にある店をあたかた周り、すべてのメニューを食べつくして満腹になった憐だが、時間が経つとお腹がすいたきたのでホテルの部屋に戻るとコンビニで買ったレトルトご飯に温めた土産屋で買ったレトルトのゴーヤカレーをかけて食べることに。
「‥‥ん。良い。機会なので。零次も。カレーを。飲む練習してみる? 丁度。ゴーヤカレーあるし」
「いえ、遠慮します‥‥」
こうして、それぞれの観光初日(ヒエダ夫妻滞在2日目)が終わった。
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残波ビーチに到着すると、アスカは黒のちょっと際どいビキニ、大地は黒地に赤ハイビスカスのハーフパンツに着替えた。
「泳ぐ前にはコレね。大地ー、サンオイル塗ってー」
「ちょっと待って、こっちが終わってからな」
砂浜にレンタルしたビーチパラソルを立て、レジャーシートを敷くとそこにアスカを
寝かせてサンオイルを塗る大地だったが、その際、耳元で「‥‥どこまで塗って欲しい?」と囁きからかう。
「真面目に塗らないと怒るからね?」
それで大人しく塗るかと思いきや、実際には水着の中まで塗るドS振り。
「もう‥‥大地ったらどこまで塗る気?」
サンオイルが塗り終わると、重度なカナヅチで水に顔をつけることすら苦手なアスカのために水泳の特訓をすることに。
「えぇ‥‥せっかくの休暇なのに泳ぎの練習するの‥‥?」
「休暇だからこそできるんだろうが。さ、練習、練習。ちゃんと補助してやるから安心しろって」
そういうならと、早速泳ぎの練習を。
大地はアスカが沈まないようバタ足の補助をするが、ここで悪戯心が芽生えたのかちょっと手を離す。離されたことでパニックになるアスカは溺れてしまった。
「だ、大地‥‥っ! 足が、つかない‥‥っ!」
泣きながらもがくのでやり過ぎたかと反省して助けた。
「慌てんなって、ここ足付くんだぜ? 落ち着いて立ってみろ」
「本当に!?」
「本当だって。俺が支えててやるから、な?」
抱きしめられてそーっと立つと、大地が言うように立つことができた。
「もぅ‥‥死ぬかと思ったじゃない‥‥!」
悪かった、と頭を撫で、まだ文句を言い足りないアスカの口をキスして塞ぐ。
「‥‥んぅっ‥‥」
「機嫌、直った?」
「馬鹿‥‥」
特訓再開時はちゃんと補助をし、アスカが泳ぎやすいように指導する大地。
水に顔をつける、潜ることができたが泳げるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。
水泳特訓の後はのんびり日光浴。
「ぬぉっ! ア、アスカっ、どこに塗ってんだっ!」
「さっきのお返しー♪」
ビーチパラソルの下で、サンオイルをお互いに塗り合いながらイチャイチャする。
「あらあら〜お熱いわね〜。沖縄だからかしらね〜?」
「そうじゃないと思うけど‥‥」
少し離れたところにヒエダ夫人とケンジがいたのだが、ラブラブな2人に近づけない雰囲気を察したのか、そっと様子を窺うことに。
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沖縄、特に読谷村は焼き物が盛んな土地だ。
やちむんの里では赤瓦の作業所、共同の登り窯もあり多くの陶工が作品作りに勤しみ、少し人里から離れた自然の中では、ゆったりした時間が流れているような感じがする。
工房内以外は見学できるので、リュインとソウジは登り窯、やちむんの里共同直売店に並ぶ作品をゆっくりと鑑賞中。
「やちむん作りと陶工の働き振りが見られて良かった」
「それは良かった。売店で土産を買う前に何か食べるか。腹減ったし」
綾と灯華はやちむんの里近くにあるカフェで県産野菜、有機玄米等のオーガニック中心のヘルシーランチを食べていた。
「ん‥‥美味しいですね」
「ええ、なかなかの味ね。誘って良かったわ。そういえば‥‥灯華、あなたは普段はどんな食生活なの?」
「食生活‥‥ですか?」
そう聞かれたので首を傾げ、携行食が主食と答える。
「何なら今度、食べてみます?」
「ええ、喜んで。楽しみにさせてもらうわね」
綾が笑顔で頷いてくれたのが嬉しかった。
2人が会計を済ませて外に出ると、カフェに入るソウジ達とすれ違ったので挨拶を。
「ここでは、どんな沖縄料理が食べられるのだろうか」
沖縄といったらゴーヤチャンプルー、ということでそれを頼むことに。
「ふむ、ゴーヤのほろ苦さが我好みだ。なかなかの美味だ」
美味しそうに食べるリュインに対し、ソウジは苦いのを我慢して食べている。彼はセロリ等の苦い野菜が苦手なのだ。
「食後に何か揃いのやちむんを購入したいな」
長く使えるものにしたいと、帰りにお揃いのマグカップ、家族や友人への土産を買った。
その頃、灯華は工房で作られている焼き物、特に皿をじっと見ている。
「あら、どうしたの?」
「あぁ、はい‥‥。そういえば、お皿が足りなかったなと」
そう言うと、最近1人暮らしを始め、綾が立ち寄る様になったため皿がいることを話す。
「あ‥‥なるほど。お皿、少なかったものね」
「あの‥‥どれか、好みのものがありますか? いつものお礼として買わせてください。好みの器とかありますか?」
「そうねぇ‥‥じゃあ、これを」
いろいろ見て、若草色の皿を選ぶ。
「ん‥‥ありがとう、灯華。大切に使うわ」
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沖縄の世界遺産である座喜味城の城壁は独特の曲線を描いて積まれた「あいかた積み」と呼ばれる技法で作られ、石門は沖縄で最も古いものと言われている。
城門近くの松林の枝葉は空を覆うほどで照りつける日差しを心地良い木漏れ日に和らげてくれている。そのため、アルヴァイムと悠季はさほど暑いと思わなかった。
「この辺は名所巡りかしらね」
「そうだな。足元に気をつけてな」
じっくり城内の石門を堪能し、円形の芝生広場の向こうに広がる東シナ海を見ていたところで公園を寄り添いながら仲むつまじく歩いているアスカと大地を見かけた。
(‥‥あれ、あの二人いつの間に。まあ、良い感じなんだし。ここは邪魔すると悪いから、後で聞きだしておくかな。幸せになると良いわね)
過去の噂は聞いていたので、こうした結果に行き着いたのならオッケーねと安心する悠季だった。
「アーチ型の石門は精巧な石積みで奥行きがあり、とても重厚感があるな」
石門を見ながら、アルヴァイムは激戦地を飛び回っていて聞けなかった子供の性別を問うてみた。
「あー‥‥そうそう、これは言わないと拙いわね。んーとね、女の子よ」
「‥‥そうか。10月となると‥‥名前はかんな、時雨か‥‥。もう少し考えてからにするか」
照れもあって歓喜の感情を抑えているが、微笑までは消せないアルヴァイムは悠季とお腹の中の子供のため、今の戦乱を少しでも鎮めないと決意する。
(ただ倒すでは、それもままならんだろう。軟着陸の準備を少しずつでも始めねばならんか。相対戦力が難しい話なのは確かではあるし、まだまだ鍛えんとな。頭も体も、そしてあらゆる手段においても)
何を考えているの? と悠季が顔を覗き込んで聞くので「今後のことを‥‥ちょっと」とはぐらかす。観光に来たのに戦いのことを考えていたと知れたら、今を楽しみなさいと言われるだろうから。
一の郭の城壁に登ったリュインは、見晴らしの良い景色を眺めている。
「ソウジ、あれは何だ?」
城壁の向こうに見える檻のような建物を指さし訊ねる。
「あれは通称「象の檻」、米軍の楚辺通信所だ」
そう説明しつつ、米軍はバグアに占拠されている避けられない現実に気が重くなる。
「そう言えば、次に結婚するのはブーケを受け取ったソウジだな。だったら、我は期待しても良いのかな?」
「それは女が受け取った場合だろ? 男でもそうなのか?」
「そうではないのか?」
リュインにそう言われると、男の自分にもそういうジンクスがあるのかと納得してしまう。
「付き合い始めて2年、いや、3年? になるから、そろそろ結婚を考えても良いかも。でもさ、俺と結婚しても普通の夫婦みたいにのんびりできないぞ。それでもいいんだったら‥‥その‥‥結婚するか?」
「え‥‥? 今、何と言った?」
何でもない! とおもいっきり照れ隠しするソウジだったが、リュインには彼の気持ちと思いがわかっているだろう。
「あ、ソウジくんだわ〜」
ソウジを見つけたので手を振って近づこうとしたヒエダ夫人だったが、いいムードを壊してはいけないとケンジに止められた。
「あの2人結婚するかもしれないね、令子さん」
「そうね〜。口惜しいけど、私達以上にお似合いだわ〜‥‥」
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景色が良いためか、残波岬は沖縄の観光スポットになっている。
東シナ海を見渡せる灯台に上ったアスカと大地は水平線を眺めるが、アスカはこれまでの出来事を振り返り感傷に浸る。
アスカが黄昏ているので、大地は極北での大規模作戦のことをまだ悩んでいるのかと聞いた。
「戦友が能力者としての力を失い、大切な友人の死を目の当たりにして戦うことに対して疑問が生まれる。私には‥‥このまま戦い続けて何が残るのかな?」
なぁ、アスカ‥‥と大地は自分の素直な気持ちを告げる。
「俺はさ、あの人の意思を継ぐとか、そんな大それたこた出来ねえけど‥‥でも、大切な誰かをあの人と同じにしないために戦おうって決めた。それが、せめてあの人の命に応えることだって、俺は、あの時からずっとそう思ってる。アスカ‥‥お前はどうしたい?」
そう問われるが、アスカは何も答えることができなかった。
「今は何も言わなくてもいい、そのうち、答えが出るだろうし。日が暮れてきたから帰ろうか」
その数十分後、綾と灯華が灯台に上り、夕暮れの景色を楽しむ。
夕日を見ながら、綾の視線を後ろに感じつつぽつりと呟く。
「逃げてるんですかね、私は‥‥」
本来銃を得意とし無茶な戦い方が多いているため綾を含め先達者に諌められ、生きることに執着するため銃を手放し、問い返す相手には首を振ってきた。
「鹿島様、ひとつ問うて宜しいですか? 命を、賭けないのならば‥‥」
振り返り、真剣な眼差しで綾を見つめる。
「貴女様は、その槍に‥‥何を賭けますか?」
どこか縋るように心情を吐露する灯華に、綾は真剣に応じる。
「あなたは今まで気づかなかった道を見つけ、そこを歩いてみているだけ。私は、それを逃げとは思わないわ。質問だけど、私がいつも振るう槍に賭けるものは自分の未来よよ。戦いに身を投じ、打ち克った先にある色んな可能性。私は、何時だってそのために戦っている」
頷いてから間をおき、安心させるためにそっと手を握る。
「あなたも生き続ければ何かを見つけることができる。だから、今は迷っても‥‥先に進むことを選びなさい。私が言えることはそれだけよ」
その答えにすぐに吹っ切れないだろうが、灯華はまっすぐ前を向き、先に進むことを選んだ。
「ありがとうございます‥‥鹿島様‥‥」
その日の夜。
アスカはベッドの上で大地に「私のそばにいてくれて‥‥ありがとう」と感謝した。
「沖縄観光、楽しかったな。落ち着いたらまた来ような」
「うん‥‥」
沖縄観光2日目(ヒエダ夫妻滞在3日目)も、それぞれの楽しい思い出ができたようだ。
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観光を楽しんだ一行は、飛行機で帰路に着くヒエダ夫妻を見送りに空港に来た。
「皆〜沖縄観光楽しんでいただけたかしら〜?」
1人1人にお土産を手渡しながらヒエダ夫人が訊ねる。
「ああ、楽しかった。とても良い思い出になった」
感謝するぞ、と心の中で付け加えるリュイン。
「十分楽しませてもらった、ありがとう」
「ヒエダ夫人も楽しんだ?」
アルヴァイムに寄り添う悠季を見て、ひょっとしてとヒエダ夫人が「赤ちゃんがいるのかしら〜?」と聞く。
「ええ、そうよ。今6ヶ月目なの」
「おめでと〜う。元気な子が生まれるといいわね〜」
アスカと大地、綾と灯華は面識のない自分達に観光の手配をしてくれてありがとうと感謝する。
「‥‥ん。美味しかった。もとい。楽しかった。ありがとう。結婚。おめでとう」
「改めておめでとうございます、ヒエダ夫人。ケンジさんとお幸せに」
憐と零次が2人を祝う。
「ヒエダ夫人、そろそろ搭乗手続きの時間じゃないのか?」
ソウジにそう言われ「あら、そうね〜」と搭乗ゲートに向かう夫妻。
飛び立つ飛行機を展望台で見た能力者達は、沖縄観光を振り返りながらヒエダ夫妻を見送ったが、ソウジはKVで帰りの飛行機の護衛をしているためその場にはいない。
(勢いであんなこと言っちまったけど‥‥どうしよう‥‥? 責任取らないといけないのか、俺)
コックピットで座喜味城での言動に悶々となるソウジだった。