タイトル:ラブレター書き方講座?マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/26 02:07

●オープニング本文


 ソウジ・グンベ、28歳。彼女いない歴=現(外見)年齢。

「傭兵に女は無用! 足手まといになるからな」

 そう豪語していた彼だが、それを覆す出来事が起きた。
 彼は、恋をした。しかも一目惚れ。
 お相手は、戦死した先輩の家族に関わる依頼でソウジに携帯を手渡した受付嬢。
 名前が瀧川朱美(たきかわ・あけみ)であることはネームプレートを見てわかったが、それ以外の情報は、未だに入手できずな状態。

「ああ‥‥あの時の柔らかい手の感触が今でも忘れられん‥‥」
 携帯を受け取ったあの瞬間から、ソウジは朱美に心を奪われた。
「‥‥君、ソウジ君!」
「は、はいっ!!」
 背後からいきなり上官に声をかけられたことで、ソウジはようやく現実に戻った。
「どうしたんだね、ぼーっとして。態度は不真面目とはいえ、職務熱心なきみらしくないぞ」
「すんません‥‥」
 気をつけるように、と上官が去ると、ソウジの頭は、また朱美のことでいっぱいに。

 いてもたってもいられなくなったソウジは、彼女に自分の思いを告げることにした‥‥のは良いのだが、恋愛経験がロクにない彼にとって、それは至難の業同然の行為である。
 せめてラブレターだけでも‥‥と考えたが、ソウジは書類作成が大の苦手だ。その割りに、書いた始末書の数は人一倍であるが。
「あ〜! どうすりゃ良いんだぁ〜!!」
 長時間苦悩した末、ソウジは甥っ子・コウタの迷子捜し同様、能力者達の力を借りることにした。

「頼むっ! 迷子になった俺の甥っ子ん時みたいに、キミ達の力を借してくれっ!!」
 またしても両手を合わせ、頭をペコペコ下げてモニター越しに依頼を要請するソウジ。
 一般人ならまだしも、UPC関係者が個人的事情で依頼を申し込むとは何事か。

 ああ、情けない‥‥。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
嶋田 啓吾(ga4282
37歳・♂・ST
花火師ミック(ga4551
30歳・♂・ST
伊達青雷(ga5019
16歳・♂・PN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN

●リプレイ本文

●対照的調査
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、恋愛経験は少ないが、本気で好きになりかけている女性がいるので、一人の男としてソウジが恋愛を成就させる力となってやりたいと思い参加した。
 そんな彼の目的は、朱美の「好みの男性のタイプ」を調べて、ソウジのラブレター執筆に役立てることである。
 ソウジの後輩の情報によると、朱美は誰とでもすぐに打ち解けられ、人と接する機会も多い女性なので交友関係は広い。
 気立て良しで器量良しなのでマイナス面が無いため、男女共に人気があるだろう。
 新たな情報源は、同僚の受付嬢。
 注意すべき点は、彼女に不信感を抱かせずに、どのようにして朱美の情報を聞き出すかだ。
 調査対象である朱美に気取られぬように、好みのタイプを調べるのがホアキンの役目だ。
「朱美さんの好みのタイプ? 陽気で、気さくな人が好きだって言ってましたよ」
 受付嬢の証言を、メモ帳を取り出しメモるホアキンのもとにタイミング良く朱美がやって来たので、彼は、自分が頼んだ映画雑誌がUPC本部に届いていないかを確認させた。
「映画雑誌の最新号を頼んだのですが、俺宛てに届いていませんか? ホアキン・デ・ラ・ロサといいますが」
「少々お待ちください」
 朱美は、コンピューターで確認したが、残念ながらホアキンが頼んだ雑誌は無かったと告げた。
「そうですか。突然の質問で申し訳ないのですが、あなたは、映画俳優だとどなたがお好みですか?」
 ホアキンは、さり気なく好みの異性を聞いた。
「そうですね。アドルフ・ジェネルガーのような肉体派俳優が好きです‥‥」
 顔を赤らめ、恥ずかしそうに言う朱美。
 そんなのが好みじゃ、グンベの奴、到底勝てそうも無いなと思うホアキンは、このことを黙っておくことに。

 数分後。UNKNOWN(ga4276)は、朱美を直接見て、ソウジに朱美のため「透き通る様に澄んだ夜空に輝く。幾千幾万幾億もの星の輝きも、霞む詩」を綴らせることに決めた。
「普通の恋愛‥‥いい話だ。結末を是非見てみたいものだ‥‥」
 そう言うものの、手には大きな赤い薔薇の花束とイタリアンレストランの予約チケットを持つUNKNOWNは、堂々と真正面から朱美のもとへ。
 花束を抱えていて目立っているが、それでもまっすぐに受付に向かうと、帽子の鍔から覗く鋭い瞳で朱美を発見し
「‥‥きみが好きだ」
 と告白。
「という男から、きみへのプレゼントだ」
 軽く微笑み、薔薇の花束を手渡したとき、手袋越しにだが、朱美の指の温もりが伝わってきた。
「その白魚のような指が、巌の如き男の冷えた心に温もりを刻んでしまったよ。きみは優しい瞳だ‥‥優しい人なのだな。冬の夜空に輝くオリオンの星の瞬きを見失っても、君の黒曜石の様な瞳は、荒れ野彷徨う男の優しき道標となるほどの素敵な瞳だ‥‥」
 仕事が終わったら、近くにのイタリアンレストランできみのことを教えてくれないか? というUNKNOWNの誘いに戸惑う朱美だったが、花束を貰ったお礼として付き合うことに。
「きみのこと‥‥もっと知りたくなったよ‥‥」
 甘く囁くような声で、朱美の口から好みの男性像をゆっくり食事をしながら聞きだそうとするUNKNOWNは、ストレートなホアキンとは対照的な調査を行った。
 イタリアンレストランでの聞き込みの結果はというと‥‥ホアキンが聞いたものと同じだったが、UNKNOWNは一言一句、正確にメモ。

●スパルタ講座
 同時刻、ソウジ宅のリビング。
 背後で仁王立ちしているのは、ニコニコしながら巨大ハリセンを持っている奉丈・遮那(ga0352)。
「奉丈・遮那といいます。巨大ハリセンを準備しているのは、ソウジさんのヘタレな言動やその他のツッコミに使用するためです」
 にっこり笑う遮那を見て、こいつ鬼か? と思うソウジ。
「はじめまして、小川 有栖(ga0512)です。僭越ではありますが、女性の立場から、色々お話できれば良いと思っております。宜しくお願いします」
「あはは、随分とテンパっているようですねぇ〜ソウジ君。ああでもない、こうでもないと悩むのも恋の醍醐味ですよ〜? 具体的なラブレター指南は他の方々にお任せし、私はソウジ君が自分らしく行動出来るようにするね〜。ちょっと力入れ過ぎたかな〜? と思いますので〜、リラックス出来るよう動きますね〜。申し遅れました〜。私はラルス・フェルセン(ga5133)といいます〜」
 のほほんと自己紹介するラルス。

「今までに書いてみたものを拝見させてください。出す前に、試行錯誤して書いたものがあるでしょう」
 嫌々差し出したソウジの手紙を丁寧に読む遮那だったが、途端に険しい表情に。
「ソウジさんらしい文ではありますが、誤字や言い回し等、根本的に間違えている所が多いです」
 スパーン! 
 ソウジの頭に、ハリセンがヒット!
「誤字発見! 恋が「変」になっています!」
 そう言われたので確認すると、たしかに「変」に。
 俺の「変人」になってください、とは言えんな、と反省するソウジ。

「意中の女性は日本人なんだろ? だから、ラブレターは日本語で書く! ソウジさんの自己申告により、日本語の読み書きの勉強からスタートするぜ! 英和辞典、日本語学校で使用されるテキスト、漢和辞典に国語辞典、ことわざ辞典と色々用意したから。漢字の書き取りドリル、文章作成本と言った教材もあるから、たっぷり勉強しようぜ」
 伊達青雷(ga5019)が持ってきた参考書を見て、こんなにか! と驚くソウジ。
「これらを使い、ソウジさんには基礎学習してもらう。文章作成を俺が講義するから、文章を書き、それを俺が添削、校正をしてラブレター作るから。その際、自分の名前と連絡先や礼儀正しい丁寧な挨拶から書き出すこと、思いを伝える文を書く前に思いを抱いた過程や理由を書くことを教える」
 青雷の指導の元、書き終えたソウジの文章をチェックする遮那。
「これなら、大丈夫ですね」
 遮那のハリセンツッコミ炸裂かと思いきや、今回は無かった。

「ラブレターですが、まずは相手のことを誉めることが良いのではないでしょうか? 誉められて嬉しくない方はいないはずから。一点か二点に絞り、具体的に誉めた方が良いと思います。「手が柔らかかった」とかいうのは、本当にそう思っていても書いちゃ駄目ですよ。「手が美しい」でしたら良いかもしれませんが」
 女性ならではの有栖の気遣いといえよう。
「文体は軽薄過ぎるもの、重すぎるものも良くないですから、素直な文体が一番です。ほんのちょっとだけでも、面白いところがあると一緒にいて楽しいかもと思っていただけるかもしれませんよ」
 熱心にメモするソウジ。
「赤い薔薇一輪を添えると、手紙の内容がすぐ解っていただけると思います。花束は、一輪がスマートだと思います。最後に、便箋一枚程度に納めた方が相手に負担をかけないのではないかと」
「流石女の子、そこまで考えるとは感心だね」
 有栖を褒めるホアキン。
「あとは、ソウジさんがきっちり正装して、身なりを整えて相手の人の休み時間に赤い薔薇の花束持って出撃するだけです」
 上手く行くかどうかは、ソウジ自身にかかっている。

●人生の先輩と花火師と知人の恋愛話
 嶋田 啓吾(ga4282)は、ソウジとじっくりと話をしてみたかったので彼の部屋に連れこんだ。
 ラブレターを書く手伝いを申し出たものの、不器用で実直な性格故、あえて協力しない。 ソウジに自らの過去を投影し、ほだされたからというのが理由だ。
 それ故、ソウジには、その分まで幸せになってもらいたいと思ったからだ。
 花火師ミック(ga4551)と、ソウジ宅に上がりこむなり「話がある」とやって来たUNKNOWNも、啓吾の話に耳を傾けた。
 啓吾は、研究者時代の二十代の頃の話を。
「僕が研究者時代、女性と接する機会の少なかったので久々の恋に舞い上がっていました。とにかく、自分のことを彼女に知ってほしい。自分という存在を彼女に認めてほしい。その一心で、彼女にアプローチする毎日でした。彼女も僕の話を喜んでくれていると思っていました。楽しかったですが、楽しかったのは自分だけだったんです。彼女にとって、僕は「自分の話ばかりで相手のことを気遣わない自分勝手な男」だったそうです。一度デートしたきり振られましたが。でも、それをきっかけに研究バカだった僕は、人に興味を持つようになりました。長所も短所もまとめ、人を知るようになりました。それは楽しいことですが、同時に、自分の長所も短所も相手に委ねることです」
 啓吾は、愛を告白する台詞を考えたこともないし、ラブレターを書いたこともないのでそれ以上は何も語らなかった。
「どうも、失恋話は嫌いでねえ」
 そう言うと強制終了。
 UNKNOWNは、ソウジに朱美の好みを纏めたメモを手渡すと、知り合いの恋愛談を語り始めた。
「俺の知り合いの話だが‥‥参考になるかもしれんので‥‥。悲しい結末を迎えた女の話をしよう。彼女は、いくつもの小説やドラマのような悲しい体験をしてきた。俺は思う‥‥今なお、友として‥‥彼女は元気だろうかと‥‥」
 その次は、ミックが張り切って自らの体験談、というより、恋愛宣言を始めた。
 宣言その1。
「自分でわかってるだろうが、はっきり言う! おまえはどうしようもないヘタレだ! 軍人精神のかけらも感じない! しかし、今はヘタレでかまわない、ラブレターを渡す瞬間だけ覚悟を決めろ! 腹を括れ!」
 宣言その2。
「絶対ウソつくな! 自分を飾ってもなんにもならないし、ボロが出る!」
 宣言その3。
「恋は戦争と同じだ! 失敗を恐れてはならない! もし失敗した時は、きっぱり諦めろ! 戦争の死地に行く気でいけ!」
 宣言その4。
「それでも俺はおまえの味方だ! そのうち、一緒に飲みにいこう。最後は「もちろんラブレターは手渡し」だよな?」
 宣言し放題のミックは、言い終えるとソウジの部屋を去った。
 啓吾は、改めて彼らの話を聞いてそう思った。
「面倒見が良く、仲間に慕われているのなら、彼女はきっと人間的にいいところを見つけてくれるはずです。彼の美点、彼の長所を見つけて、自信を持つ。それが恋愛の第一歩です。話の持ち掛け方としては‥‥そうですねえ。自分の恋愛失敗談をしてみましょうか」

●ラブレター完成!
 遮那と青雷のスパルタ指導、啓吾、UNKNOWN
、ミックの体験談にもとづいたソウジ作のラブレターは無事完成した。
「や、やっとで渡せる‥‥」
「ヘロヘロになった〜、文章を考えたり〜、たくさん頭使ってお疲れですよねぇ。少し休憩して肩の力を抜きましょうね〜。有栖君に手伝って貰って、お茶を淹れました。どうぞ。皆さんのお好みがあるでしょうから、緑茶、紅茶等、色々準備しましたので。ほっと落ち着けるフレーバーティーはオススメですよ〜。あ、煎茶は有栖さんが選んだものです〜」
 ラルスと有栖がお茶を用意したので、ソウジは一服することに。
「ソウジ君、整った文章も良いですが〜、私はソウジ君らしい言葉が一番だと思いますよ〜。『すきです』の4文字でも〜、気持ちは伝わりますよ〜。人に教わるのは簡単ですけど〜、それは本物のソウジ君の言葉ではないでしょう〜」
 そう言われれば、そうである。

「ソウジさん、これに着替えてください」
 有栖が用意したのは、胸に赤い薔薇が一輪刺してある白のタキシードだった。
「こんなの着るのかよ!?」
「グンベ自身が渡すんだろう? それくらい当然だ」
 薔薇の花束とラブレター渡し、玉砕覚悟で行ってこい! とソウジの背中を押すホアキン。

●ラブレターを渡せるか?
「ソウジさん、大丈夫でしょうか」
「俺達が、みっちり漢字を教えたから大丈夫っしょ」
 心配になる遮那を励ます青雷。

「ソウジ頑張れ‥‥失敗したら、知人の恋愛談を聞かせてやる‥‥」
「自分の話も聞かせます」
「迷惑だからやめておけ」
 UNKNONとミックを止める啓吾だったが、最後にソウジにアドバイス。
「自分をアピールするなら、自分が誇りに思う所を一つだけ胸に刻んでおくことです」
「わ、わかった」
 
 ホアキンは、映画ファンの朱美から得た情報ソウジに伝えた。
「彼女、肉体派アクション俳優のアドルフ・ジェネルガーの大ファンなんだ。彼主演の『ガドリング・アタッカーマシーン』を観に行かないかと誘うのもひとつの手だぜ?」
 朱美の好みをこっそり教えたホアキンは、映画チケットを花束に入れた。
「俺には真似できないが、グンベなら大丈夫! 彼女がグンベのタイプであろうとなかろうと、最後はグンベの心次第だ」
「頑張って、ソウジさん!」
「ソウジ君なら、きっと告白できます〜!」
 仲間の応援を受け、ソウジは両手両足を同時に動かすというぎこちない歩き方で朱美の元に向かった。
「瀧川朱美さん、これ、読んでください! 俺が書いたラブレターです!」
 キリっとした表情で、ソウジは朱美に花束と一緒に能力者達に指導してもらったラブレターを緊張しながら渡した。
 ソウジ・グンベ中尉の恋は実るのか?
 
 結果はというと‥‥。

「ごめんなさい‥‥。私、既にお付き合いしている方がいるんです‥‥」
 申し訳無さそうに頭を下げ、謝る朱美。
「そ、そうか‥‥。仕方ないな‥‥。彼とうまくやれよ」
 ソウジは、涙を見られないようにダッシュでその場を走って去った。
 初めての恋が、初めての失恋になるとは‥‥運の悪い男である。

●大人を巻き込んでの残念会
「俺に付き合え! 料金は、俺がキミ達に支払ったなけなしの報酬だっ!」
 猛反対する能力者達だったが、ヤケになっているソウジに付き合わないと後で何をされるかわからないので、嫌々付き合うことに。
 バーで残念会を催すことになったので、未成年の青雷と有栖は除外。
 ソウジはタクシーを拾うと、二人を家まで送り届けるよう運転手に頼んだ。

「おら〜! もっと飲め〜!」
「ソウジ君〜飲みすぎですよ〜」
 ラルスが宥めるが、ソウジはまだ機嫌が悪かった。
「自分も飲むであります!」
 ミックは、チャイナブルーを一気飲みした。
「失恋でここまでヤケになるとは‥‥」
 啓吾は、煙草をふかしながら呆れていた。
 UNKNOWNは、聞き出した内容が無駄になったしまった、次回の告白にそれを活かしてほしいと願いながらウイスキーのグラスを傾けた。
「恋愛はもういい! 傭兵に女は無用だ! もう恋なんて二度としねぇー!!」
 泣きながら、声を大にしてそう主張するソウジであった。

 ソウジ・グンベ中尉、いつか君にもお相手ができるさ! いつの日か必ず!
 それまで頑張れ! 負けるな! 諦めるな!
 きみの魅力をわかる女性が近いうちに現れる‥‥はずだから‥‥。