●リプレイ本文
●捕縛の地、出雲へ
山陰UPC軍の要請でキメラ『牛頭天王(ごずてんのう)』を捕縛すべく、申 永一(gz0058)と8名の能力者達は神話の地、出雲に降り立った。
「牛頭天王の捕獲‥‥ですか。キメラで日本の神道における定かではない神の一柱と同じ名前とはいえ、神様を捕まえるなんて恐れ多い気がしてきます」
神社の一人娘である石動 小夜子(
ga0121)は、バチが当たらないかどうか心配な様子。
「牛頭天王ってどんな神様なのか知ってるの? 小夜ちゃん」
恋人である新条 拓那(
ga1294)が、小夜子に訊ねる。
神道では『牛頭天王』だが、仏教では牛頭として馬頭(めず)と地獄で亡者達を責める獄卒としてセットで語られることが多く、中世では疫病の神といわれている。
「へぇ‥‥そうなんだ? そういうのを疫病神にするってのも、相変わらず皮肉がきいてるな。キメラにするってのも」
自分以外にも博識な者がいるな、と永一は感心していた。
「捕獲関係の依頼は初めてなんだが‥‥上手くやれるかどうか、だな? 俺1人だけで動くわけじゃないから大丈夫だろう」
捕縛用の網を手にし、サルファ(
ga9419)はやれるだけやってみるかと決めたのは良いが、手渡された網を見て「どうやって使うんだ?」と困惑。
「これか? ただ投げつけるだけで良い。後は自然に絡まるから問題ない」
そんな説明でいいのか‥‥? とやや不安だったが、永一がそう言うなら大丈夫だろうとやってみることにしたサルファだった。
(「エネルギーガン‥‥高速移動艇に置いてきたんだよな‥‥。重量オーバーだったから‥‥」)
攻撃に関しては、仲間を信じて欲しい。
「今回はキメラの捕獲ですか。私は非力ですから、いつも通りに戦っても問題無いようですね」
水鏡・シメイ(
ga0523)はニコニコ笑いながら言うが、頑張ってほしいものである。
日本で生まれ育ったものの、純血な北欧の民であるアンジェリナ(
ga6940)は、北欧神話の知識はあるが、日本神話はそれ程詳しくない。
「捕獲‥‥か、難儀な注文だ。依頼を受けた以上、全力を尽くすが」
「まぁ、体長2メートルで暴れ回ってる牛頭の男ということですから、遠目でもわかりそうですね」
蓮角(
ga9810)が言うように、目立つ特徴があれば発見は早いと思われる。
出雲蕎麦が食べたくなったという動機で参加したマクシミリアン(
ga2943)も、蓮角同様の考えのだった。
「出雲市街を破壊しまくってるそうだから、すぐ見つかるだろうよ。とっとと縛り上げて、美味い蕎麦食って帰ろうぜ」
そんな中、能力者である以上戦わねばならない、戦歴は一切問わないと聞き、この依頼を受けることにした深墨(
gb4129)は、拓那から貰った長弓「雨竜」の柄を握り締めながら若干緊張していた。
「深墨といいます。戦闘経験はありませんが、精一杯頑張ります。皆さん、よろしくお願い致します。拓那さん、あなたからいただいたこの弓、きっと上手く使いこなしてみせますね」
「こちらこそよろしく、深墨。俺が使っていた弓、役立つといいな」
深墨の挨拶が済んだところで、永一を中心に出雲市街の地図を見ながらどこを探索するか話し合った。
●探索開始
市街地探索担当は小夜子、拓那、シメイ、マクシミリアンの4名。
事前に敵を追い込む公園を選んだ拓那はインデースに仲間を乗せ、赤い布を車にくくりつけ、はためかせながら巡回している。
「拓那さん、車に赤い布をつけたのは何故ですか?」
小夜子にそう聞かれ、牛は赤い布を見ると興奮するからとあっけらかんに答える拓那だった。
「赤い布に反応するんかいな? そりゃ、スペインの闘牛だけじゃないか? これでひかかればありがたいんだけどねぇ」
「そうなれば、少しは楽になりますね」
笑いながら、拓那の作戦が成功することを願うマクシミリアンとシメイ。
「隠れていないとはいえ、探すのは大変そうですね。破壊跡を見つけて、それを辿って行けば良いでしょうか?」
破壊の痕跡を辿れば、いずれキメラが見つかるかもという推測の小夜子の意見に賛成した拓那は、運転に気をつけながら仲間と痕跡を探索し始めた。
「小夜ちゃん、その考えあながち間違ってないかもしれないよ」
「そ、そうでしょうか‥‥」
住宅街はアンジェリナ、サルファ、蓮角、深墨が担当。
「牛頭なキメラを発見したら、無線機で連絡だな」
周りに被害を与えない、自分達が戦いやすくするためにもグラウンドのような広い場所に誘導することを忘れないよう、サルファは探索中。
「体が大きいキメラだから、隠れることができそうな場所に重点的に絞って探索してみるか」
姿は見つからずとも、痕跡があるはずと探索しているアンジェリナ。
「暴れ回っている大きな牛頭って、遠目でもわかりそうですねぇ」
「2メートルの巨体では、よほど広い場所でないと隠れようがありません。暴れれば、嫌でも見つかると思います」
蓮角、深墨の2人は暴れ回っていると思われる、騒がしい方角に向かえばおのずと遭遇すると考えている。
●牛頭天王、発見!
「蓮角さん、あれ」
深墨が指差した方角を見ると‥‥。
ドスドスという音と共に土煙が立ち上っており、衝撃波で周辺が破壊された。
闘牛の如く鼻息を荒くしたキメラ、牛頭天王が都合良く出現!
「お、いたいた。牛頭なキメラが。こちら蓮角、キメラが住宅街に出現! 至急、集まってください! 場所は‥‥」
近くにあった電柱に書かれている番地を無線機で伝え、蓮角が仲間の誘導をしている間に深墨は目を瞑り、長く息を吐き即座に覚醒。
冷徹な瞳で突進する牛頭を睨みつつ、射程ギリギリの距離を保ち、動きを封じるため『鋭覚狙撃』でいつでも両足を狙えるように長弓「雨竜」を番えた。
「皆が来るまで、絶対に逃がさないよ‥‥」
仲間が全員揃うまでは攻撃しないはずだったが、予想以上のスピードで突進してきたので、深墨はやむを得ず矢を放ち足止め。矢で深く貫かれたため、牛頭天王は転倒し痛みにのたうちまくり状態。
市街地班探索班は、住宅街で見つかったという報告を受けるなり急いで駆けつけた。
「しかし、住宅街で見つかるとは‥‥」
赤い布作戦失敗したな‥‥と思いつつ、牛頭天王発見次第「見た目は人でも、脳みそは牛並みだね」と呟いた拓那はインデースで即座に背後に回り込み、小夜子、マクシミリアン、シメイにすぐ降りるよう指示。
必要とあらば周辺の住人を避難させないと、と考えていた小夜子だったが、幸い、誰もいなかった。
「無人なのが、不幸中の幸いですね。これで心置きなく、キメラ捕縛に専念できます」
蝉時雨と小銃「S−01」を構えつつ、網を持っている捕縛担当者のサルファが駆けつけるまで、住宅街の被害拡大を阻止すべく下調べした近くのグラウンドに誘導すべく動く小夜子。
「皆さん、キメラをグラウンドに誘導しますので協力お願いします!」
「わかりました。では、私はサルファさんにそこに向かうよう連絡しますね」
シメイは、無線機でサルファに「至急、グラウンドに向かってください。そこで捕縛します」と連絡し、マクシミリアンはスパークマシンαを使わず、牛頭天王威嚇、挑発に利用することに。
「こっちだ、牛! 俺たちは牛追い人だ。おまえさんの研究はお偉い人がする‥‥てなもんだ」
蓮角、深墨も市街地探索班メンバーと合流してグラウンドに向かい、連絡を受けたアンジェリナも合流するなり素早い動きと牽制攻撃を仕掛けつつ、牛頭天王の注意を引きながらグラウンドへと誘導開始。
「本格的な戦闘は、グラウンドに着いてからだな‥‥」
●捕縛作戦開始!
その頃、サルファと永一はいち早くグラウンドに着いていた。
「捕縛作戦はきみにかかっているとはいえ、緊張することはない。仲間を信じろ」
「あ、ああ‥‥」
網を持ちながら緊張しているサルファの肩をポンと叩き、永一は気楽にいこうと励ましたところ、丁度良いタイミングで残る7名も到着。ついでに牛頭も。
俺、待ってるだけだったな‥‥と心中で呟くサルファ。
「お待たせっ! そこの牛、いーかげんお縄につけっ! 暴れたって逃がさないよ! 巻き添えになって、俺まで一緒に研究されるのはごめんだからな!」
「拓那様、さすがにそれはないかと‥‥」
小夜子のフォローに「そ、そう?」と一瞬冷静に。
「とりあえず、腹や柄の部分を使って打撃を加えるか!」
まずは顎下、脇下、首筋等、人体の構造上避けられない弱点をツーハンドソードによる『瞬即撃』で無力化を図るが、効果が無かった場合を想定して両腕、両足を徹底に攻撃し、骨が砕けるよう狙い撃ちする拓那をフォローしつつ、小夜子は峰打ちで戦うことに。
「キメラを倒さないように戦わなければいけないのは厳しいですが、この依頼をお引き受けした以上、そう致します!」
巨体なので小回りが効かないと判断したので、一気に懐に飛び込んで太腿、脛を蝉時雨で足を集中的に狙い叩き付け!
「足さえ止めれば、逃げられる心配が減ります! 相手が弱っているかどうか気をつけながら攻撃してください!」
「もちろん、そのつもりです」
覚醒したシメイは、牛頭天王への対応が間に合っても間に合わなくても『即射』で迎撃し、体当たりによる角攻撃阻止のため、頭部めがけて『強弾撃』を使用した。
「けっこう硬い角ですね」
「んな、呑気なこと言ってる場合じゃないだろ! 来いよ、単細胞の筋肉牛頭野郎♪」
牛頭天王を挑発させ、突進を仕掛けることに成功したことに気を良くした蓮角はエンジェルシールドでガードしつつ『豪力発現』を発動後、押え込みにかかった。
「捕まえたからには、絶対に逃がさねぇよ!」
歯を食いしばりながらも牛頭天王の突進を押え込んでいたが、それが厳しくなってきたのでガードを中止し、側面に回りつつ風火輪による足狙いの攻撃に転じた。
「氷雨、夏落は軽い小太刀だが‥‥だからと言って‥‥打ち身だけで済むとは思うな」
殺さずのキメラ戦のためアンジェリナは若干物足りなさそうな表情で戦闘に挑むが、攻撃は小太刀メインの峰打ちに徹した。
「模擬戦で模擬刀で相手に切り傷を負わせた経験があるが‥‥峰なら大丈夫、なはず」
峰打ちであろうと、かなり痛いと思うのだが‥‥。
「どの国の神話であっても、あくまでも空想上のことだから面白いのに‥‥。そんな世界の生き物が、こうして実際に出てこられても困るだけです」
鬱陶しい‥‥と言いたげな深墨の一矢は、牛頭天王のアキレス腱に放たれた。
「サルファさん‥‥今のうちに捕縛を‥‥」
「わかった! その前に‥‥」
足を散々痛めつけられたにも関わらず牛頭天王が突進してきたので、サルファは『スマッシュ』で真っ向勝負を挑んだ。
「牛頭キメラ! 俺とおまえ、どちらの一撃がより強く、より重いか勝負といこうじゃねえか!!」
紅蓮の気を全身に漂わせたキメラと、黒き闘気を身に纏った能力者の一戦は、残り体力の差もありサルファに軍配が上がった。
「今のうちっ!」
牛頭天王がひるんだ隙に、永一から渡された捕縛用の網を放るサルファ。
他の能力者と永一は、網に捕らえられた牛頭天王が逃げないよう押さえつけるのに必死!
「仮に怪力であろうとも‥‥止まって見えれば、我らの敵では無い!」
アンジェリナは氷雨、夏落で交互に『流し斬り』『急所突き』を繰り出した後、とどめ! といわんばかりに脳天に『スマッシュ』を容赦なく叩き込んだ。
「よーしよしよし。動物大好きなどこぞのおじーさんみたいな気分さねー。皆ーこのでかい牛くんを死なせちゃ駄目だぞー」
気絶した牛頭天王の頭をぎゅ〜と抱き締めているマクシミリアンは、動物好きをアピールした後に負傷した仲間の手当てを始めた。負傷、というものの、救急セットでの応急処置程度で済んだのが不幸中の幸いといえよう。
キメラ・牛頭天王捕縛(生け捕り):成功!
●捕縛終えての出雲蕎麦のお味は?
山陰UPC軍に報告をし終えた永一は、ナイトフォーゲルR−01改で牛頭天王を運ぶ準備をし始めた。
「永一さん‥‥何故、このキメラは神話上の生き物に似せているんでしょうか?」
覚醒解除した深墨が、永一に訊ねてみるが「俺にもわからん」ときっぱり言われた。
「いたた‥‥。怪力タイプキメラは、攻撃はシンプルだけど、それだけにパワーが強いですねぇ」
へたり込みながら、しみじみ言う蓮角。
「獲ったどー! って感じで成功したな、永一。油断せず連れて行けよ?」
「わかっている」
捕縛後は、迎えの高速移動艇が来るまでは自由行動だと聞いた能力者達。
「それじゃあ、後はお願いしますね」
蓮角をはじめとする能力者達は、カンパネラ学園に向かう永一のR−01を見送った。
「せっかく出雲まで来たんだ。美味い蕎麦食って、酒飲んで帰るべ」
『賛成!』
マクシミリアンの提案に、せっかく出雲まで来たんだから本場の出雲蕎麦を食べて帰る『出張捕縛成功祝いを兼ねた出雲蕎麦を食べに行こう会』を賛成した残りの能力者達だった。
「ん〜、出雲蕎麦美味いねぇ。最高さねー」
出雲蕎麦を食べたがっていたマクシミリアンは、誰よりも大満足なご様子。
「小夜ちゃん、蕎麦食べ終わったら出雲大社に行かない?」
思い切って誘ったところ「いいですよ」と返事してもらえたので大喜びの拓那。
「お揃いのお守り、買いに行きましょう」
更なる小夜子の言葉に、拓那は顔が少し赤くなった‥‥ように見えた。
「なかなか美味だな‥‥出雲の蕎麦は」
少しずつ冷ましながら食べるアンジェリナに対し、熱くても美味しそうに食べている蓮角と深墨。
「美味しいですが‥‥困ります‥‥」
曇る眼鏡が鬱陶しいと思う深墨だったが、それだけはどうにもならないので我慢してほしい。
「うん、美味しいな!」
シメイは、長い髪が蕎麦の中に入らないよう食べるのに苦戦している模様。
蕎麦を食べ終えた後は、迎えが来るまで自由行動。
小夜子と拓那は出雲大社に向かったが、他の能力者は何をしているのだろうか?
その頃、永一は慎重にカンパネラ学園に向かっていたが腹が減ってきた。
「‥‥俺も出雲蕎麦が食べたくなってきた。学園に着いたら、キメラを研究室に届け終えた後すぐに食堂に向かうか」
大盛り三色蕎麦にしようか? ‥‥等、呑気に考える少し気楽な永一だった。