●リプレイ本文
●入学式数日前
カンパネラ学園食堂で手芸部部長、糸井・創璃(gz0186)が大量の『カンパネラ学園校章飴』の袋詰めを作業を部員達としている。
「大量にあっても配るのは一苦労ですし、余ったらどうしましょう‥‥」
創璃が溜息をついた時、1人の男性が彼女に声をかけた。
「お嬢さん、お困りかい?」
「あ、は、はい‥‥」
誰かしら? という顔をしている創璃に「俺? 天枷 操(
ga6515)だ」と男性は名乗った。
「今ならちょっと手を貸せるぜ。実は‥‥ちょっとしたトラブルで財布が大ピンチなんだ」
もらえる物は何でも欲しい、というのが本音だがそれは彼だけの秘密。
「あら〜きみも手伝ってくれるの〜? 助かるわ〜♪」
食堂のおばちゃん、稗田・盟子(gz0150)が様子を見に来たらちょうど良い具合で操がいたので、人手が増えたと大喜び。
「皆〜、校章飴だけど余ったら食べてもいいわよ〜」
本当ですか? と喜ぶ手芸部員達に「ええ〜♪」と答える盟子。
それに俄然やる気を出したのは、これもらえるんだ! と喜んだ操だった。
彼の協力もあり、袋詰め作業は思ったより早く終わった。袋に入りきらなかった飴は皆の口の中に。
『おいし〜い♪』
口の中にひろがるほんのりとした甘さに、感激する手芸部員達と操。
●配布当日
入学式数時間前。
配布協力者としてやって来たのは、操を含めた4名。
手芸部企画の衣装披露会の常連の百地・悠季(
ga8270)。
11月の職業衣装披露会に参加していた門屋・嬢(
ga8298)。
元・企業戦士のカンパネラ学園生徒の山吹・ナニガシ(
gb4186)。
「やあ、どうも、どうも。私は教師ではなく、一応カンパネラ学園の生徒の側なのですがね。ハハ‥‥」
苦笑するナニガシは、バグア襲来時に亡くなった娘が生きていれば、新入生達と同じくらいの年齢になっていたな‥‥としみじみ思っていた。娘だけでなく、妻と職を失った彼だが、今日は辛い思い出を忘れ、入学式を心から祝い、校章飴配布を喜んで手伝うことにした。
「さて、配るといたしましょうか。皆さんに喜んでもらえるといいですね」
数個の校章飴が入っている小さい編み籠を、創璃は配布協力者全員に配った。
「食堂のおば様が、丁寧に心を込めてこの校章飴を作ったのよね? 手伝うのが手芸部員だけというのもなんだから、あたしも手伝うわよ」
皆にはお世話になっているから、その恩返しね? とウィンクする悠季。
「やっとでカンパネラ学園の入学式が始まるんだね。こんなおめでたい日に校章をあしらった飴を配るなんて、食堂のおばちゃんも粋なことするじゃないか。手芸部の皆と食堂のおばちゃんには、こないだの衣装披露会で世話になったからね。そのお礼として、あたしも手伝うよ」
任せなさーい! と胸をポン、と叩く嬢。
「張り切って配るぞ!」
操の一声で、各自、それぞれの配布場所にスタンバイ。
●来賓者へ
操は、来賓者専用の入り口で校章飴を配っている。できれば受付の近くが渡し忘れも少なくなるだろうと思ったが、印象良く見せるためには、笑顔は忘れずに来賓者に手渡したいものだ。
「ご来賓、ありがとうございます。入学式の記念に『カンパネラ学園校章飴』をどうぞ。当校の食堂のおばさんが心を込めて作成したものです」
普段は偉そうな口調だが、お偉いさん相手だから畏まった口調で話さないとならんな、と思う操。
校章飴を受け取った来賓者のひとりは「これは見事な出来だ」と喜び、中には「舐めるのが勿体無くて溶かしてしまいそうだよ」という来賓者も。
それだけ、作成者の盟子の心が伝わっている証拠である。
「そう言っていただけると俺も嬉しいですし、作った食堂のおばさんも喜びます」
土産としてもう少しもらえないか? と頼む来賓者には「申し訳ございませんが、数に限りがありますのでおひとり様ひとつとなっております。おばさん1人では、作成する数に限りがあることをご理解願います」
やんわりと説明しながら断ると「それもそうだな」と納得した来賓者。
(「納得してくれて良かったぜ‥‥」)
内心、ホっとする操は、丁寧に来賓に挨拶しながら好印象な笑顔で校章飴を配り続けた
●新入生と保護者へ
「この人数だと、たくさんの場所に回れないし入り口付近で配るのがベストかしらね」
「あたしもそう思う」
悠季は、ひとつひとつ配りながら、盟子が手作りしたのに感慨を馳せてみながら入学式会場に向かう新入生と保護者に校章飴を手渡した。
(「おば様は、皆へ気持ちを託す為にこんなに作ったのだしそれに応えるようになれば良いわよね」)
自分がここにいて、校章飴配布の手伝いをするようになるなんて随分丸くなったものよねと思いつつ、悠季は飴を配り続けた。
「ご入学、おめでとうございます。皆さんの今後が良いものでありますように。この校章飴は、当学園の食堂のおば様が心を込めて作ったものです。是非、召し上がってください」
それを聞いた保護者のひとりは「まぁ、これ手作りなの? すごいわね」と感心。
受け取った生徒達は、心のこもった入学祝いをもらって嬉しそうだった。
制服を身に纏った嬢は、先輩らしく振舞いながら笑顔で新入生達に配布中。
最初は操と共に来賓者に配っていたのだが、無くなってしまったので手芸部員に補充してもらい、悠季と共に配ることに。
「入学おめでとう、良い学園生活をすごせるといいね。先輩のあたしがいうんだから、きっと楽しいものになるよ♪ この飴はね、そんな思いがぎっしり詰まった飴なんだ。嘘だと思うなら、入学式が終わったら舐めてみて?」
笑顔で男子新入生に手渡したのだが「胡散くさ」と言われ、カチンとなった嬢。
(「あのガキ‥‥ぶん殴ってやりたい‥‥!」)
心の中では怒りMAXモードだったが、配布中は終始笑顔の嬢だった。
●教師達へ
ナニガシは、昔の営業マン時代の仕事を思い出しながら、教師達に校章飴を配布していた
(「昔の営業マン時代は、こうして良く歩いたものです。こんなことは何年振りでしょうかね‥‥」)
過去の思い出に浸りつつ、ナニガシは好印象を与える営業スマイル、名刺を手渡す要領で丁寧に校章飴を手渡した。
「食堂の稗田・盟子さんからのお届けものです。どうぞご賞味ください。盟子さんが、今日が良き日になるよう、心をこめてひとつずつ作った校章飴です」
「あ、ありがとう‥‥」
教師の1人であるソウジ・グンベ(gz0017)は、丁寧なナニガシの手渡し方にどう対応して良いのか困ったので、頭をペコリと下げて礼を言った。
「名刺を渡す要領で飴を配りつつ、営業スマイルと30度敬礼でどんどん配布しましょう!」
ナニガシは、かつて営業マンとして活躍していた会社員時代に戻ったかのように一所懸命教師陣に校章飴を配布しまくった。
●在校生達へ
校章飴を配布するのは、来賓、新入生と保護者、教師陣だけではない。
手芸部部長、糸井・創璃が「在校生の皆さんにも校章飴を配布したいのですがいかがでしょうか?」と全員に訊ねたところ「異議無し!」と賛成。
「なあ、全員が在校生に手渡しってのは厳しそうだからその分は担任の先生に協力してもらうってのは駄目か?」
操の提案に「それもいいですね」とOKした創璃。
在校生とはいえ、規模が大きな学園なので参加した4名と手芸部員6名だけでは厳しいものがあるので、操の意見は正しいといえる。
「それでは、私は在校生の先生方に協力をお願いしに行きます」
創璃が戻ってきた後、年齢別に応じて校章飴を配ることが決まった。
10〜12歳年代は悠季と手芸部員達、ティーンエイジャー年代は操と嬢、それ以上はナニガシが担当することに。
「皆、新入生達を温かく迎えてあげてね。これは、そのお約束の印よ♪」
ウィンクしながら「お姉さんと約束できるわよね?」と子供達に配る悠季。中にはおませな子供もいたので「任せてよ!」と胸を叩く子も。手芸部員達も笑顔を絶やさず、ひとつひとつ丁寧に配布していた。
「あんたらは新入生の手本になるんだ、それを忘れるなよ? 先輩としての自覚もな」
そう言いつつ、ティーンエイジャーの生徒達に校章飴を配る操に、そんな態度じゃ駄目だってと釘を刺す嬢。
「皆、新しい仲間のお手本になってあげてね」
にっこり微笑んでそう言う嬢に「ブス」という生意気な男子生徒がいたので、思わず殴る! という態度に出た嬢に、あんたも駄目じゃん、と呆れる操。
耐えない気苦労を我慢しつつ、校章飴を配る操と嬢だった。
「新入生の皆さんを、温かく迎えてあげてくださいね。あ、これは食堂の稗田・盟子さんが今日の日のために作った校章飴です。是非、お召し上がりくださいね」
営業スマイルを忘れず、低い姿勢でペコペコしながら社会人ともいえる在校生達に校章飴を丁寧に配布するナニガシ。
(「在校生の皆さんが卒業されたら、営業マン時代の私のように苦労されるんでしょうねぇ‥‥」)
生徒ひとりひとりの成長を思いつつ、在校生の今後はどうなるのだろうかと考えずにはいられないナニガシだった。
皆が笑顔で、感謝の気持ちを込めて配布した校章飴は入学式が始まる数分前にすべて配り終えた。
●食堂で休憩を
「ふぅ‥‥疲れた〜!」
食堂の椅子にドカッと座り込む操。
「たしかに疲れたけど、皆、喜んでくれたじゃない。それで良しとしましょう♪」
全部配布できたことを喜ぶ悠季。
「在校生には生意気なのがいたけど、新入生はいい子が多かったね。楽しい学園生活を送れるといいんだけど‥‥」
カンパネラ学園は、普通の学校ではなく士官学校なので辛いこともある。それを心配した嬢は、辛くても頑張ってほしいと願った。
「大丈夫ですよ、嬢さん。ここに入学された新入生の皆さんは、士官学校とわかって入学したんですから。自らの意思でご入学を決意された方々だと思いますよ」
戦争は大人だけでやるべきが信条なナニガシにとって、若い能力者達が戦闘依頼をこなす姿を見るともの悲しさに苛まれてしまうが、まだ戦うすべを知らない新入生達には来るべき日が来るまで、学園生活を楽しんでほしいと思った。亡き娘の分まで‥‥。
「皆〜お疲れ様〜♪ お茶にしな〜い? 実はね〜、校章飴の他にもうひとつ試しに作ったものがあるの〜。試食してくれないかしら〜?」
盟子が持ってきたものは、大皿に盛られたクッキーだった。
「おっ、美味そう! ん? これ、校章飴と同じ形か?」
「そういえばそうね?」
「ホントだ、形がおんなじ」
「これ、校章クッキーですか?」
4人の意見に「その通りよ〜」と喜ぶ盟子が紅茶を淹れ、皆に差し出した。
「うん、美味い! おばさん、何でコレ出さなかったんだ? 勿体ねぇなぁ」
操の意見に、これ、今朝早く作ったからから〜と少し焦る盟子。
「おば様、美味しいわよ。これ、食堂の新メニューに加えたらどうかしらね?」
「そうね〜。食堂のおばちゃん達と話しあってみるわ〜」
良い案ありがとう〜、と盟子は悠季に感謝した。
「サクサク感と、ほんのりとした甘さがいいね。あたしも新メニューに加えたらいいと思うな」
「ありがと〜う、嬢ちゃん〜」
ナニガシは、何個か持って帰っても良いですか? と盟子に尋ねた。
「良いわよ〜。たくさん作りすぎちゃったから〜。おやつにどうぞ〜」
「ありがとうございます」
盟子は、ナニガシがおやつとして持って帰るのだろうと思っていたが、その真意は家族写真の前に供えるというものだった。妻と娘にも、心がこもった甘いクッキーを食べさせてあげたいという彼らしい思いやりだった。
手芸部員達も、校章クッキーを「美味しい♪」と味わいながら食べていた。
「皆に喜んでもらえてよかったわ〜♪ 校章飴も〜喜んでもらえたかしら〜?」
何気なく言った盟子の一言に「伝わっているって!」と安心させる手芸部員と協力者達だった。
入学式が、新入生達にとって、思い出に残る良き日となりますように。