●リプレイ本文
●着くなり暴走!
リュイン・カミーユ(
ga3871)がいの一番に駆けつけた時には、研究室は既に大変な状態に。捕縛され、檻に入れられているキメラ『トウテツ』はすっかり目覚め、今にも檻を破壊しそうなほどの勢いで大暴れしている最中だった。
申 永一(gz0058)を除く研究員達は隅っこに固まり、寄り添いながらガクガク震えている。
「永一‥‥これ、捕縛した後は別の檻に移すんだよな? そっちも壊されんよう、前の檻より頑丈なモノに入れておけよ。では、虎ハントと行くか。あ、 虎ではなく『トウテツ』だったか? まぁいい、虎の方が言いやすいから『虎』でいこう」
トウテツを弱らせてから捕縛することを目的にし、ダメージを与え過ぎないよう厳重留意したため装備も威力が弱めの物に変えているリュイン。
その数分後、鷹代 朋(
ga1602)と田中 アヤ(
gb3437)、木場・純平(
ga3277)の3人が研究室前に辿り着いたが、中の様子が尋常でないことに気づきドアを少し開けて様子を窺っていた。
「捕獲、ね‥‥なまじ倒すより面倒だな‥‥。捕獲って任務な以上、倒してしまうよりも難しい。ポジションからいっても、そっちをフォローする余裕は無い‥‥。アヤ、自分のみは自分で守れ」
研究室に踏み込む前に恋人のアヤに声をかけるが、眼鏡を外して本気モードに入っているので、言葉遣いが少々冷たくなっている。
「わかってるって、朋。ふむ、虎キメラ捕獲‥‥と。それにしても、連れて来る時に護送する軍人さんっていなかったのかな?」
研究室の入り部屋の入口を塞ぐ格好で立ち、キメラが部屋の外へ脱出するのを阻止している純平は「いたんじゃないか?」と答える。
「研究用キメラの逃亡くらい予想できるだろう。でなければ、大変なことになる。護送したUPC軍が帰った後の出来事だから、俺達で何とかしなければならない」
貴重な研究材料ゆえ、誤って絶命させてしまわないよう気をつけなければならないのはトウテツ捕獲協力に応じた能力者より、キメラ研究員達である。彼らが寄贈された研究キメラを搬送後に死亡させたとなると面目丸潰れのうえ、UPC軍の信用を完全に失ってしまうことになる。
純平が推測話をし終えた頃、すっかり遅れてしまったと駆けつけたエリザ(
gb3560)、魔宗・琢磨(
ga8475)、AL−011「ミカエル」を装着しているサンディ(
gb4343)、吾妻・コウ(
gb4331)が合流。
「セクハラキメラの件といい、食堂にある食材を食い散らかしたキメラの件といい、良くキメラに逃げられる研究室ですわね。今回は逃亡寸前のようですが。単位がもらえるのならありがたいですけれどね」
戦闘に関しては初心者に近いエリザは、他の能力者が頼りになりそうだと思ったが自分も精一杯努力するつもりでいる。
「危険なキメラの研究かぁ‥‥。相手を知るってのは解らんでもないが、何か割り切れんなぁ。何とか捕獲できるよう頑張るか! って、学校に来ると、いつもトラブルが起きやがるのがムカツクな!」
銃を構え、トウテツ捕縛に燃える琢磨。
得意ではない自動小銃による支援をベースに、捕縛用ネット待機が必要であればそちらを担当するため永一と行動を共にすることにしたコウは、足でまといにならないよう心がけた。
「先輩能力者の方の迷惑にならないよう、最善を尽くさせていただきます」
「それじゃ、トウテツ捕縛といくか」
純平がドアを開けると、残りの能力者達は一斉に研究室に駆け込んだ。
彼らがキメラ研究室に一斉入室した時、既にトウテツは檻を破壊して研究所内で大暴れ!
●捕獲準備をせよ!
トウテツが逃走を目的とするなら、向かう先は出入口の可能性が高く阻止する者を全滅させてから悠々と脱走、という手段ありと推測したリュインは、他の能力者達に出入口の扉を防衛すべきだと提案した。
「扉を背に防衛を兼ねてキメラに対峙した者を仮に『正面』と仮定しよう。その間、我は虎の背後と遊撃を担当する」
「正面の役目は、俺が引き受けた」
リュインと同じようなことを考えていた純平は、研究室に入るなり出入り口前に立ち塞がるような格好で立ち、トウテツ逃走阻止を買って出た。
「これがトウテツ‥‥まるで虎の開きのようだな。いきなり分離はしないよな?」
率直な意見を述べた後、サンディはクロックギアソードの柄頭に取り付けた十字架に軽くキスをし、覚醒をした。
「主よ、この手に剣を取り、この手を歪に染めんことを許したまえ‥‥」
トウテツ捕縛前に、仲間の無事と依頼の成功をサンディは神に祈る。
「虎キメラ‥‥? って、あれって虎じゃないじゃない‥‥。虎の開きみたい。鏡合わせっぽい姿って、あんまりカッコ良くないなあ‥‥」
実物トウテツを見てドン引きするアヤだったが、ともかく、やることはきちっとやらなきゃ! と意気込んだ。
「頑張ろうね、朋!」
「ああ」
回避と二刀小太刀「花鳥風月」での受け流しという基本戦法の構えに入る朋のサポートは、サンディが務めることになっている。
コウは、スコーピオンにペイント弾を込めるとトウテツの頭部を狙い、いつでも目潰しができるようにスタンバイ。
「皆、準備ができたようだな。他の研究員はトウテツに狙われないよう避難するんだ! いつでも捕縛できるよう、捕縛網は準備してある。いくぞ!」
永一の言葉が合図となり、トウテツ捕獲作戦が開始された。
●トウテツ捕縛始動!
先手攻撃を仕掛けたのは、ペイント弾でトウテツの目潰しを狙うコウ。
「騎士を目指すものとしてはこのような卑怯な手段は好まないのですが‥‥トウテツ捕縛のためであれば止むを得ません!」
慎重に狙いを定め、アウコーピオンに装填したペイント弾を発砲したところ、見事にトウテツの両目にヒット!
装備を【OR】仕込み杖『無明』持ち替え、居合い抜きの要領で、隙を狙い『円閃』を叩き込んだ。
「この一撃に、あなたは耐えられますか? 僕は、この程度で根をあげたりはしませんよ!」
良くやった! とコウの目潰し作戦を喜ぶのはリュインと朋の2人だった。
「脚6本を攻撃されれば、さすがにその巨体をを支えるのは辛かろう?」
他の能力者達も脚、しかも外側を狙おうとしているのでリュインはあえてトウテツの背後を狙う利点を活かし、後脚の内側2本に狙いを定めている。
トウテツは咆哮すると尻尾でリュインに攻撃を仕掛けたが、寸でのところで菖蒲での受け払いに成功し尻尾1本を切断!
その後、即座に刹那の爪で素早いローキックを仕掛けた。
「朋っ! 右側は任せたぞ!」
「わかってる、リュインさん。トウテツ、おまえを殺しはしないが‥‥脚の1本や2本はもらうぞっ!」
朋は素早くトウテツの右側に回り込み、リュイン同様、脚を集中攻撃してスピードの低下を狙っている。隙を見て『疾風脚』『急所突き』『瞬即撃』を組み合わせた二刀小太刀「花鳥風月」で一瞬で6つの斬撃を脚に叩き込んだ!
「これで脚部と本体の体力を削れて、動きを鈍らせることに成功したはず‥‥! サンディ!」
「わかっている。タカシロ トモ、フォローする」
共にトウテツの右側を狙うサンディの戦闘も足狙いで、能力者になる前に嗜んでいたフェンシングの応用を利用した『円閃』で舞うように斬りつけるが、フェンシングは突きに長けているので斬撃向きではない。
「くっ‥‥! 斬るというのはどうも慣れないな」
それでも挫けることなく、フェンシングの構えでトウテツに自身の側面を向け、剣を突きつけるように構える。積極的に攻めずに距離を保ちつつ隙を見ては斬りつける戦法に変えた、当たっても外れても真っ直ぐに後退し、ヒットアンドアウェイを心掛けている。
「キメラにレスリング技が通用するかどうかわからんが、やってみるか」
純平は戦闘に入り次第『疾風脚』で命中・回避を上げ、トウテツの爪攻撃は可能な限り回避している。
効果があるかどうかわからないが試す価値はあると思い、牙を剥いた突進してきたトウテツに対し、純平は『限界突破』『急所突き』を同時に使い眉間、鼻、横顎、下顎の順でカウンター攻撃!
成功したかのように思われたが、不覚にも最後のカウンター攻撃を仕掛けようとした瞬間、トウテツに噛み付かれた。
「牙に噛まれた場合は、耳の穴に拳を突き入れて攻撃を加えるか。内耳を攻撃できればトウテツの脳を揺らすことができるかもしれないからな」
それを実行したところ、トウテツの頭部に異変が。脳を揺らすことに成功したのだろう。
「ペイント弾の効果が薄れてきたようだな。俺も1発ぶっ放すとするか!」
トウテツの両目めがけてペイント弾を発射した後、脱出を阻止するために純平と共に出入り口前に立ち塞がった。
真デヴァステイターで脚を重点的に攻撃し、弾がなくなれば銃を持ち替え、追撃を仕掛けている。
「ちっ。両方弾切れか‥‥リロードするしかないな」
「その間の攻撃は、あたしたちが引き受けます!」
トウテツ左側を担当している覚醒したてのアヤが琢磨に声をかけた。
エリザはハルバードでトウテツの脚を薙ぎ払うと、ハルバードが光の粒子を帯び、振るうと光の軌跡を描いた。彼女にとって、これがカンパネラ学園に来てから戦闘技術を学んだため、現状の技量は水準以下、戦闘は力任せに突撃するパワーファイター系であるが、自分がなすべきことは彼女なりに行っている。
アヤは二刀小太刀「花鳥風月」で脚狙い攻撃をしかけ、トウテツのスピードダウンを図っている。
「私の得物にはリーチがあるので状況次第では胴体も攻撃しますが、急所になりやすい頭部や腹部はなるべく避けますわ」
「あたしも朋に倣い、トウテツの外側の脚、左サイドの2本をメインターゲットにするね!」
自分自身の攻撃力を知っているアヤは、あくまでも牽制程度という捉え方で攻撃に転じている。危険と感じられるときは距離を取り、左右どちらかの装備を瑠璃瓶に持ち替え、エリザのサポートに。
エリザが斧使いで、パワーがあることを踏まえているので、それを生かせるように彼女の攻撃前に瑠璃瓶での牽制を繰り返している。
●トウテツ捕獲佳境!
リュインは、脚への攻撃が集中すれば、トウテツは脚を意識し、攻撃された部分を庇いながら移動し続けるだろう。幾度も脚を集中攻撃をされたにも関わらず、トウテツのパワー、スピードは少し衰えている程度だった。
隙をついて『疾風脚』で壁を蹴り、トウテツのがら空きの頭上から脊髄を狙い、踵落しを喰らわせた後にそのまま跳び、もう1体にも攻撃した後、トウテツ背後に着地。
「背がお留守だぞ。そろそろ倒れた方が楽なんじゃないか?」
衰えているが、トウテツはリュインを襲おうと狭い研究所を追い掛け回しているものの『瞬天速』で回避しているので、そう簡単には捕まらない。
「充填完了! 何だかんだ言っても、真デヴァは初撃ちなんだ。だから、ミンチになっても俺を怨むなよ!」
攻撃されていない脚を狙おうと琢磨は狙いを定めて真デヴァステイターを発砲しようとするが、トウテツに前に回りこまれ、爪で胸を抉られるように引っ掻かれてしまった。
「ぐあぁ!!」
傷は思った以上に深く、出血は酷いので『活性化』で自己回復を行う琢磨は、一時期戦線離脱する羽目に。
「ち、畜生‥‥」
エリザは、トウテツを捕縛するにはAU−KVを身に纏うしかないと判断したためAL−011「ミカエル」を装着し『竜の鱗』を発動させた。
スキルはキメラが元気なら竜の爪使用ですわ、竜の鱗もきちんと使用して防御を固めておきますわ。
「ミカエルの防御力も考えれば、おそらくこれで十分でしょう。皆さん、そろそろ捕縛開始と行きましょう! トウテツも徐々に弱ってきています!」
トウテツの背後にいたリュイン、出入り口に立ち塞がっている純平、右側攻撃を一旦中止した朋とサンディ、前方にいるコウ、エリザと共に左側を攻撃していたアヤも手を止め、エリザの言葉を聞いた。
バックラーでトウテツの攻撃を受け止めているサンディは、攻撃が避けきれないとわかってもいても目を閉じず、トウテツをキッと睨み続けながらエリザの話を聞いた。
「たしかにトウテツは弱ってきている。捕縛ネットで押さえ込むなら今のうちだな、私も手伝おう。トウテツ、お前の負けだ、潔く大人しくしろ!」
●トウテツ捕縛成功!
「トウテツは弱りつつある、捕縛するなら今しかない! 悪いが、何人か捕縛ネットを投げつけるのを手伝ってくれ!」
永一の協力に応じたのはコウだった。
「トウテツ押さえ込みは、俺に任せてくれ!」
純平は、トウテツが弱ってきたのを確認してから首に腕を絡みつかせ、フロントチョークで首を締め上げた。有効なダメージを与えられなくても、頭を一つ押さえ込むことはできたのがこれ幸い。その間に、永一とコウが捕縛ネットを放り投げた。
自分まで巻き込まれるのは御免だ、と純平は即座にその場を離れた。
捕獲ネット使用時は、押さえ込みを手伝う。
「今だ! トウテツにネットを被せろ!」
リュインの合図で、他の能力者も一斉にネットを押さえつけた。
「簀巻き虎とは‥‥微妙にシュールだな」
「同感。何かカッコ悪い。こらっ! 暴れるなっ! って、キメラに言っても無理か」
最後までトウテツが見栄えのよいキメラと思えないアヤは感想を言いながら、必死に捕縛用ネットを押さえつけ、トウテツが大人しくなるまで待った。
キメラが弱ってきたらネットで押さえ込むのを手伝う。
「お前の負けだ、潔く大人しくしろ!」
トウテツを逃走させまいと、ネット内であがいているトウテツを殺さない様に脚部を狙い続け、攻撃しつるけるサンディ。
琢磨は押さえつける前に、入り口付近の警護役を買って出た。ネットに押さえつけられているとはいえ、いつ破られるかわからない状況なので油断は禁物だ。
数分後‥‥。
大暴れしていたトウテツは疲れたのか、すっかり大人しくなってしまった。
「キメラは脚を負傷している! 研究員達は、至急キメラの手当てをしてくれ。気絶している今なら、安心して手当てできる!」
永一は、避難してい研究員達を呼び寄せ、トウテツの手当て、新しい檻に入れ替えるよう頼んだ。
「皆、ありがとう。きみ達の協力がなかったら、我々研究員達は学園どころか、寄贈してくれたUPC東アジア軍の信用を失うところだった。礼を言う」
協力してくれた能力者達に深々と頭を下げ、礼を述べる永一。
「頭を上げろ、申。我らは、汝が困っているからこそ来たのだぞ? しかし、申も気苦労が耐えんようだな。同情するぞ」
同情するといえば、研究員達もだろう。
研究室がメチャクチャになったので、全てが終わった後の大掃除が大変だった。能力者達が手伝ってくれた甲斐あり、短時間で済んだ。
研究室が破壊されなかったのが、不幸中の幸いだった。
トウテツ捕縛:成功!